車両とレースについて分かった(?)ところで、次は1年を戦うシーズン全体について解説してみます。NASCARは世界のどのシリーズよりもワケのわからん制度を導入していると自信を持って言えるので、好き嫌いがここで猛烈に分かれる可能性があります。なぜこんな仕組みに至ったかという歴史も知っておいた方が理解が深まるのでそのあたりも併せて書いて行きます。
〇シーズン日程
シーズンは2月中旬、デイトナ インターナショナル スピードウェイでのデイトナ500で開幕します。最初にして最大のイベントであり『ザ グレイト アメリカン レース(アメリカの偉大なレース)』という愛称もあります。
デイトナ500を終えると全米を転戦。稀に休みを挟みつつほぼ毎週レースを開催して全36戦を戦い、11月中旬の最終戦で閉幕します。オーバルだけでもアクセルを踏みっぱなしのスーパー スピードウェイ、最高速が300km/hに迫りながらも旋回技術が要求されるインターミディエイト トラック、ブレーキを多用するショート トラックがあり、他に日欧で馴染みのあるロード コースがあります。
〇ポイント制度
モータースポーツというのはレース結果に応じてポイントを獲得し、その合計で年間の総合優勝を競うもの。NASCARも基本は同じです。昔からワケが分からんのがNASCARのNASCARたる所以と言える気がしますが、最初期は賞金額に応じてポイント計算表の規模が変わり、その後レース距離に応じて3パターンのポイント計算表が用いられる制度になりました。
1975年に一貫したポイントになりましたが、1位:175点、2位:170点・・・と1つ順位が下がると5点ずつ減少、下位になるとこれが4点、3点といった差に設定され、54位が1点という計算方式でした。10戦も走ったらもうすんごい数字になってきて計算が大変でなぜこんなに分かりにくいのか意味不明ですが、これがなんと微調整されながらも2010年まで採用されていました。
2011年から見やすい数字に段階的に整理され、現在は1位から40、35、34、33・・・と1点ずつ減って、36位以下は1点という規則になりました。ご覧の通り、日欧のレースでは当たり前の『入賞圏』という概念が無く全員がポイントを貰えます。ですから、20位よりは18位、18位よりは15位、と順位を上げただけ成果が出ますから、周回遅れから戻って来れるレース制度と相まって上位以外も1つ1つの争いが重要です。
また、優勝した人が大量に点数を貰って有利になるのが日欧の常識ですが、NASCARの場合は総ポイントに占める優勝者の獲得ポイントの割合がかなり低く設定されているのも特徴と言えます。ここに2025年から『エクスフィニティー ファステスト ラップ』というのも導入され、レース中でファステストラップを獲ったドライバーには1点が与えられます、F1では廃止されたやつが入れ替わるように導入されました(笑)
そして2017年からステージ制レースが導入されると、レース途中のステージ順位で上位10人にもポイントが与えられることになりました。『ステージ ポイント』と呼びます。ステージ1位で10点、2位:9点、3位:8点・・・で10位が1点です。つまり、3ステージ制のレースであれば優勝の40点とステージ1・2でそれぞれ10点、さらにファステストの1点で最大61点の獲得が可能です。
ステージポイントの影響はなかなかに大きく、ステージ1、2と連勝すればその後に事故って最終結果が40位だったとしても21点は獲得できます。優勝した人より2位以下の人の方がレース全体の獲得ポイントで上回ることも多々あります。レースに中だるみを起こさないための制度なので、ぶら下げられたニンジンが大きいのです。
〇プレイオフ制度-導入の経緯
現在NASCARのナショナルシリーズ全てで導入されているのがプレイオフ制度です。元々アメリカでは野球でもバスケットボールでも、レギュラー シーズンを戦った後に上位チームでプレイオフを開催してチャンピオンを決める、というのが人気で定着しているのは多くの方がご存知かと思います。
最大の人気を誇るアメリカンフットボール・NFLは9月に開幕しますので、春に始まって秋に終わる競技というのは秋になるとお客さんを取られてしまいます。これを避けるためにはチャンピオン争いが盛り上がっていることが必須ですので、誰かが独走して消化試合になっているのは好ましくない、という要因も絡みます。
NASCARでも2004年からプレイオフ制度が導入されました。直接のきっかけはその前年、2003年の結末にありました。最多勝は36戦で11回のポール ポジションを獲得し8勝を挙げたライアン ニューマンでした。すごい勝率です。ところが7回のリタイアも喫してしまい、年間ではなんと6位でした。
爆発的速さから『ロケット ニューマン』と呼ばれた |
一方でチャンピオンはマット ケンゼス。優勝は僅かに1回だった一方で25回のトップ10フィニッシュという安定感でシーズン平均順位10.3を記録。第4戦以降は選手権で一度も1位を譲らずに最終戦を待たずしてチャンピオンを確定させました。これが議論の的になってしまいます。見るからにむっちゃ速いニューマンと、1勝しかしていない地味~~~なケンゼスではあまりに好対照、はっきり言えばアメリカ人好みの勝ち方では無かったからです(笑)
ケンゼスには日テレG+の中継で 「気が付けばこの男」という愛称が付けられた |
先に示した通り、NASCARのポイント制度は優勝者に手厚い配分になっていません。たとえば現在のF1で4勝分のポイント=100点を5位ばかりで得ようとしたら10戦もかかってしまいます。NASCARの当時の制度だと、5勝=875点を得るには 5位×5回 と20位×1回 でもピッタリ。15位でも8戦したらお釣りが来ます。コツコツ稼げば良い仕組みなのは明らかです。
そういう仕組みでやっておいて議論になるのもどうかと外から見ていると思いますがNASCARの動きは早く、翌年からプレイオフ制度が導入されました。シーズンの36戦を26戦のレギュラーシーズンと10戦のプレイオフによる2段構えに変更、『ケンゼス ルール』というあだ名も付きました。
概念としては、レギュラーシーズンで成績上位だったドライバーがプレイオフに進出。ポイントをプレイオフ専用ポイントにリセットして仕切り直し、あらためてここからのポイントの積み重ねでチャンピオンを決めます。ポイント上で進出者が明確に区別されるだけで、レース自体はそれまでと同様に全員で行うのがNASCARのプレイオフの特徴です。
なお、プレイオフ進出者のことを『コンテンダー』、進出していなくてチャンピオンを争う権利の無い人を『ノン コンテンダー』と呼びます。みんなそれぞれにレースをしていますので当然ノンコンテンダーがプレイオフで勝つこともあれば、コンテンダーと接近戦を演じることもあります。それでもノンコンテンダーはコンテンダーが無用な危険に晒されないよう配慮するのが基本的なマナーとされています。
レギュラーシーズンでの成績をあまりにないがしろにするわけにもいかず、さりとてコツコツの人がチャンピオンになっても面白くないので3~4年ごとに制度は手直しが繰り返されて行きます。NASCARにとって想定外の誤算だったのは、ジミー ジョンソンというドライバーが急激に頭角を現し、なんと2006年からシーズンを5連覇してしまったことです。
制度など無関係に、結局は速くて強い人がチャンピオンになっているのである意味正常なんですが『同じ人が勝つと面白くない』とついつい考えてしまい、制度が何度も手直しされる一因となりました。いったん制度に手を付けたがためにモラルが崩壊した気がしなくもありませんが、それでもジョンソンは2013年、2016年と制して史上最多タイ・7度目のチャンピオンを獲得するところにまで至ります。
7度目のチャンピオンを獲得し クルーから祝福されるジョンソン |
〇プレイオフ制度-現在の仕組み
ジョンソン無双を阻止すべく2014年に大幅にプレイオフの枠組みが変わって現在の制度の原形ができました。ここに2017年から始まったステージ制レースも絡んで完成したのが現在のプレイオフ制度です。これ以降ジョンソンは8度目のチャンピオンにとうとう手が届きませんでしたが、高い安定感とロング ランでの上手さが持ち味のジョンソンにとって、優勝とショート ランを重視する制度の相性が悪かったというのは無関係ではないと思われます。
・レギュラーシーズン
プレイオフの進出枠は全部で16あります。レギュラーシーズンは26戦で、優勝すると自動的にプレイオフ進出が決まります。後述しますが、進出が決まったら後は消化試合、ではなくたくさん勝ったりポイントを稼ぐとプレイオフを有利に戦うことができます。レギュラーシーズンだけでのポイント争いもあり、ここで最多得点だと『レギュラーシーズン チャンピオン』の称号と特典が与えられます。
優勝者が16人に満たなければ残る枠はポイント順、逆に16人以上優勝した場合には1勝した人の中でポイントの多い順に枠が埋まります。また、16枠のうち1つは形式上『レギュラーシーズンチャンピオン枠』となっており、もし未勝利の人がチャンピオンなら16人以上が優勝している状態でもここに滑り込むことができます。
スポット参戦の人が優勝をさらっていってプレイオフに出るとレースの質が下がる可能性があるので、前提条件として『シリーズにフル参戦』であることが求められます。怪我など不可抗力が原因で欠場した場合には免除制度を申請し、NASCARが認めれば出場権は維持されます。以前はポイント30位以内であることも条件でしたがこの制度は撤廃されています。
・プレイオフ
プレイオフの10戦はさらに4つのラウンドに区切られています。ラウンド毎に成績下位の4人が振り落とされ、最終戦には4人だけが残る仕組みとなっています。
プレイオフ最初のラウンドはRound of 16と呼ばれます。コンテンダーはポイントが『2000+プレイオフポイント』に一律にリセットされます。ノンコンテンダーはどうやっても2000点は獲れないので、これによって自動的にチャンピオンを獲得できない仕組みになっているというわけです。勝てば次ラウンドに自動的に進出、残りはポイント順で次ラウンド進出者が決まり、下位4人がここでプレイオフから脱落します。
勝ち残った12人は次のラウンド・Round of 12へ、そのまんまですね。初期の頃はコンテンダー ラウンド、エリミネーター ラウンド、とか名前を付けてたんですが、気づいたら呼び方が消滅していました。そりゃそうだ、テレビ局ですら誰もそう呼んで無かったもん(笑)
コンテンダーは『3000+プレイオフポイント』にリセットされます。勝てば自動進出、残りはポイント順で、下位4人が脱落します。
勝ち残った8人は次のラウンド・Round of 8へ。コンテンダーは『4000+プレイオフポイント』にリセットされます。勝てば自動進出、残りはポイント順で下位4人が脱落し、これで最終戦に進む4人が決定します。
そしていよいよ最終戦。コンテンダーの4人は一律に『5000点』にリセット、プレイオフポイントは無効です。ステージポイント、ファステストラップのボーナスも最終戦は付与されず、このレースで最上位だった人が必ずポイントで最上位、すなわちシリーズ チャンピオンに輝きます。どれだけここまでの35戦で圧倒的に活躍していても、このレースでトラブルが出たらチャンピオンにはなれない、という日欧の感覚で言えばあり得ない制度です。
でも理論で知っているのと実際に起きるのは別物らしく、2024年のチャンピオン・ジョーイ ロガーノが単純な成績で言えば10位以下と言えるレベルだったのにチャンピオンを獲得したことから、現行制度にまたしても批判の声が投げかけられてしまいました。2026年以降はまた制度に手直しが行われる可能性があります。
・脱落しても戦いは続く
じゃあプレイオフには出たけど途中で脱落した人たちはどうなるのかというと、いずれも『2000+プレイオフ内で獲得した選手権ポイント+脱落時点までのプレイオフポイント』で最終戦までを戦います。すなわち、12人が5位~16位を争うことになります。2014年にこの脱落方式が採用された際、ケビン ハービックが提唱してこの5~16位争いの仕組みになったため別名『ハービック ルール』と呼ばれているそうです。
ですから、Round of 8まで行ったから選手権8位以内が確定、というわけにはいきません。一方で、プレイオフにそもそも入れなかった人は、残りのレースで奇跡的に10連勝しても絶対に17位以下にしかなれません。プレイオフに進出さえしておけば、残りの10戦全部エンジンが壊れても16位にはなれます。
NASCARには収益分配制度があり、プレイオフに進出した16位以上のチームには分配金が多く配分される仕組みになっているので、どうせ勝つならレギュラーシーズン中に勝った方が金銭的には絶対にお得です。本来20位そこそこの実力のチームともなると、奇跡的に1勝したら16位確定なのですごいボーナスです。そのためドライバーとするとレギュラーシーズンで1勝することの重要性は非常に高いと言えます。
〇プレイオフポイント
先ほどから何度も出て来た『プレイオフポイント』という単語。2017年にステージ制レースが導入された際に登場した制度でチャンピオンを争う上でとても大事な存在です。プレイオフポイントは通常のドライバーポイントとは別枠で付与されます。付与条件は3つで
・ステージ勝利→1点
・レースでの勝利→5点
・レギュラーシーズンの上位10人→順位ごとに15~1点
となっています。例えば、ステージ1、2と優勝を全部かっさらうと、ドライバーポイント60とプレイオフポイント7が手に入ります。
プレイオフポイントはプレイオフに進出すると初めて有効になります。2021年のチャンピオン・カイル ラーソンを例にとると、レギュラーシーズン中に5勝し、ポイントでも1位でレギュラーシーズンチャンピオン。ここに12回のステージ勝利が加わったので、
5×5+15+12=52点が累計のプレイオフポイントとなります。最初のラウンドは2000点が基礎点なのでラーソンは2052点でスタート。この時2位のドライバーは2024点、下位は2005点ぐらいだったので、400m走で既に100m地点からスタートしているぐらいの差ができていました。レギュラーシーズンで頑張った功績で、勝たなくても次のラウンドに進みやすくなります。
プレイオフポイントは以降のラウンドも持ち越され、しかもプレイオフに入ってからもさらに加算が可能で次ラウンドから有効になります。ラーソンを例にとると、プレイオフに入ってもさらに荒稼ぎしたために、2ラウンド目は3057点から、3ラウンド目は4065点からスタートしました。でも最終戦だけはプレイオフポイント無効で必ず5000点となります。
NASCARが試行錯誤を重ねた結果、最終戦強制同点決勝、無慈悲な脱落制度というおそろしい仕組みと並行して、がんばったらがんばっただけ有利になれる制度が出来上がりました。そもそものプレイオフに対する是非はさておき、プレイオフをやる中ではけっこうよくできた仕組みだと思います。
レギュラーシーズン、プレイオフの双方で5勝、 レギュラーシーズンチャンピオン、 プレイオフの4ラウンド全てで勝利。 ほぼ2021年を完全制圧したラーソン |
〇オーナーポイント
NASCARはドライバーの争いを見るものですが、ドライバーポイントと並行してオーナー ポイントというものが車両のオーナーに付与され、カー ナンバー単位でポイントが計算されます。他のレースで言うコンストラクターズやチームのポイントと同じだと考えて良いでしょう。
付与されるポイントはドライバーポイントと同じ制度なので、同じ人が1年間乗った場合にはドライバーポイントと同じ点数になります。複数のドライバーを起用した場合にはドライバーとオーナーのポイントに違いが発生して意味が出てきます。厳密にはプレイオフもドライバーとオーナーは異なる選手権として争われているので、怪我でレギュラーの選手が数戦を欠場した場合などに『ドライバー選手権ではプレイオフに出ていないが、オーナー選手権でその車両はプレイオフ争いをしている』ということも起こります。
また、NASCARではナショナルシリーズの3カテゴリーについて、特にカップシリーズの有力選手が下部カテゴリーにも出まくってポイントを荒稼ぎされると困るので、参戦するシリーズを1つに絞って登録するように規定しています。出場登録していないシリーズのレースにも一定の条件下で出場可能ですが、ドライバーポイントは獲得できません。逆に下部カテゴリーで参戦登録している人がカップシリーズに出場した場合でも、下剋上だから許される、なんてことはもちろんなくてドライバーポイントは1点も手に入りません。こういった場合でもオーナーポイントは車両に対するポイントなので付与されます。
〇チャーター制度
オーナーポイントと絡んでくるのがチャーター制度です。詳しくは死ぬほどややこしいので過去記事を貼りますが、シード権や大相撲の親方株みたいなもので、カーナンバー単位で管理されます。オーナーポイントも、見方を変えるとそれぞれのカーナンバーに紐づけられたチャーター権へのポイントと考えることができます。
NASCARの収益分配金はオーナーポイントの順位に応じて金額が決まり、ずっと成績が下位にいるとチャーター権をはく奪される可能性があります。そのため見ている側にとってはそこまで気にならない存在でも、運営しているチーム側からすると大事な要素です。F1でコンストラクターズ選手権のポイントが分配金に響くから下位争いも注目されるのと同じですね。
この項で取り扱ったような、シーズンに関わる規則はその時々でわりとすぐに手を付けられるものなので、変更が無いか毎年確認しないといけないのがなかなか大変です^^;
NASCARの初歩的(?)なお話シリーズ
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