車とエンジンを理解したらレースを見てみないことには始まりません。今回はレースについての基本的な話、キーワード的なものをたまに脱線しながら見ていきます。モータースポーツ好きの人なら見慣れているであろうF1、SUPER GTなどのレースと比較しつつ話を進めるため、こうしたレースを便宜上『日欧のレース』と呼びます。
スポッターは無線でドライバーに対して「外にいるぞ」など周囲のドライバーとの位置関係を細かく伝えて手助けするほか、他のドライバーの動きを見て『このライン取りが速そうだぞ』など走り方の助言も行います。スーパースピードウェイでは特に位置取りが重要なので、スポッターの力量はレースの成績とも大きく関係します。
・基本的なレースフォーマット
カップシリーズは最大出走台数が40台で、これを超えると予選落ちが発生します。と言っても40台以上集まることは今の景気ではほとんど無く、開幕戦にして最大のイベントであるデイトナ500だけは多くの台数が集まるので、決勝進出を賭けた予選レースの戦いが白熱します。
そのデイトナ500だけは予選制度が特別で、練習走行→予選→予選レース→決勝、という組み立てになっていますが、他のレースは普通の 練習走行→予選→決勝 の方式です。2020年の途中からは感染症対策としてできるだけ大会を小さく、滞在時間の短い運用とするために練習走行も予選も行わずにいきなり決勝だけ走る、という方式が定着しましたが、2022年から練習走行も予選も復活しました。
年間を通して同じ規則で運用するのが日欧のレースの常識ですが、NASCARはレーストラックによっていくつかのパターンに分類されていて話が複雑です。オーバルでは基本的には1台ずつが1周の計測を行う規則、いわゆるスーパーラップ方式が採用されます。ただし1周が短いトラックだと計測は2周となってその合計タイムとなります。
一方ロードコースでは指標に基づいて2つのグループに分けた上で、それぞれ全員同時に出走して20分間の計測を行って最も良かった記録が採用される時間制の予選方式になっています。スーパーラップにしろ時間制にしろ、2024年まではラウンド1の上位10人がラウンド2に進む2段階方式でしたが、簡素化のために1ラウンド方式となりました。こういうのは後から走った方が有利になりがちなので、指標の成績が良い人は後から出走する側になります。後述しますが指標というのは単にドライバー選手権のポイント順ではありません。
一方でデイトナ、タラデガ、アトランタの3つの開催地では2ラウンド方式になっており、各車が1周の計測を行った上で上位10人が第2ラウンドに進み、再び1周ずつの計測を行います。この3つのトラックは基本的に1周丸々アクセル踏みっぱなしの疑似直線になっているので、開幕戦のデイトナ500を除いて練習走行が行われずぶっつけ本番の予選となります。
◎独自制度・指数予選
日欧のレースなら予選が雨などで開催できなかったら、無理してでも決勝当日の朝に開催するか、それすら無理なら練習走行の記録で順位付けするか、というのが常識だと思います。NASCARも以前はそうでしたが、パンデミックの最中に『metrics qualify(指数予選)』というものを編み出し、現在は予選が中止の場合にこれが使用され、練習走行/予選のグループ分けにも使用されます。具体的には
・前戦でのファステスト ラップ順位×0.15
・前戦でのドライバーの決勝の順位×0.25
・前戦でのオーナーの決勝の順位×0.25
・前戦終了時点でのオーナー選手権順位×0.35
の4つの数字を合計したものになります。ドライバーとオーナーのレース結果はフル参戦している限り同じなので、実質は前戦のレース結果が指数の半分を締めています。たとえば前戦でレース結果は13位、決勝のファステストは3番手タイム、選手権順位では9位だったとすると指数予選結果は
3×0.15+13×0.25+13×0.25+9×0.35=10.1
となります。この数字を計算して最も低い人が予選1位となるわけですね。規定ではドライバーに関係する指数はよその車へ持ち込みができないことになっており、もし前戦と違うドライバーが乗った車両がいる場合にはファステストとドライバー順位の計算数値は『41』にすることが定められています。
決勝レースは毎戦レース時間が3時間になるような長距離レース。1人のドライバーで走りますから体力がかなり必要です。たとえば、日曜日にレースを終えると月曜日には拠点へ。火曜、水曜あたりは休んでも、金曜日には次の開催地へ移動してもう次のレースが控えています。人気者ほどこの間の平日にはスポンサー関係の仕事や病院などの施設訪問もあったりして、これを休みなく2月から11月まで続けていくことになり非常に多忙です。
・車検
レースには車検がつきものです。NASCARの車検では、かつては『テンプレート』という定規のようなものが使われ、定規を当てて隙間や出っ張りがないかを調べていました。
かつてのテンプレート車検の様子 |
これが近代化されてレーザーによる車検制度になったんですが、一部は正確に測定できないために手作業の計測も併用されています。とりわけこのレーザー計測には多少の測定誤差があり、誤差があるということは運営側は一定の許容範囲をもっていると考えられます。
許容範囲があるということは、言い換えるとその範囲でならちょっと飛び出して作っても誤差として許してもらえるかもしれないので、チーム側は少しでも利益を得ようと攻められる箇所を探します。運営側は「誤差がプラスマイナスいくらです」と自分から言うと誤差分の違反をチームに認めてしまうことになるので言えませんから、チーム側も「ちゃんと作ってます」という建前で車検の穴を探りに行きます。結果、予選やレース前の車検で違反するケースが異様に多いです。
1回の違反で修正された場合は許されますが、2回以上ひっかかると最後尾スタートや罰金のペナルティーを受けてしまいます。また、エンジンやトランスミッションの交換も最後尾スタートのペナルティー。他カテゴリーと比べて予選順位通りスタートしないことはかなり多いです。
・スタート
決勝レースのスタートに至る手順は日欧のレースと似ていたり違ったりします。ピットから発進した車両は日欧のフォーメーション ラップに該当するパレード ラップに入ります。フォーメーションは普通1周ですが、NASCARのパレードはレース毎に周回数がバラバラです。
日欧のレースでは路面に水が残っている際などに『セーフティーカー スタート』という手順が採用され、隊列走行のままレースがスタートして路面状況の好転を待ちつつ周回数を重ねることがあります。NASCARでも稀にこういう状況がありますが、基本的にはレースができるようになるまで延々とパレード周回を続けます。パレードの周回数が具体的に定まっていないためにできる荒業で、周回数は一切進みません。
先導するペース カーをゲストの人が運転したり、引退するドライバーの地元レースだと一時的に隊列の先頭に出てもらってお客さんに見せたりと、日欧ならやらないであろう演出が行われることもあります。また、予選後の違反やエンジン交換などで降格ペナルティーを受けた人がいた場合、まずパレードの段階では予選順位の位置から並んでおき、スタートが近づいたら本来の順位へと降格します。あくまで予選順位をまずは尊重する考え方で、そのため中継映像のスターティング グリッド紹介でも予選での順位を紹介した上で、降格する人には『to the rear』という注釈が付けられます。
スタートは2列の隊列で行われ、予選で1位の人が内側か外側か選び、2位以降は順番に並んでいきます。1位の人が内を選んだら2位は1列目の外、3位は2列目の内、となります。ただペナルティーを受けた人がいた場合には、それが1位の場合以外は空いた場所をそのまま前に詰めます。それゆえ同じ列の人がやたら降格処分を受けると、予選順位と全然違う位置からスタートしていることが稀にあります。
スタート/フィニッシュ ラインの上にいるマーシャルがグリーン フラッグを振ったらレース開始。2位の人はスタート/フィニッシュを通過するまでは追い越しは認められません。基本的には以降の人もスタート/フィニッシュ通過まで追い越しは禁止、ラインの変更も禁止ですが、滑った、出遅れた、前に詰まった、ということは40台もいれば起きるので横の人を抜いてしまうぐらいは問題ありません。ラインは変えれないので前の人は抜けません。
・基本的なレースの流れ
レースは基本的にはどんなレースでも同じですのでそれ自体に特殊なものはありません。スタートしたらタイヤ摩耗や無用な争い、事故に気を付けつつ走行して順位を争います。燃費的にどうやっても最低2回、実際にはもっと多くの回数の給油が必要ですし、燃料が足りてもタイヤがもたないこともあるのでピットストップの回数が非常に多いです。耐久レースと考えれば当然ですが、F1やGTからするととんでもなく多く感じます。タイヤの供給セット数はレース毎に規定されており普通に走ったらじゅうぶん足りるんですが、頻繁に交換しすぎて『もう新品タイヤの在庫が無い』なんてことも稀にあります。
途中『ステージ順位』も気にしてポイントを稼ぎながら最終的な順位を争います。当然最大の目標は優勝ですが、勝てなくてもポイントを稼ぐ、順位を上げられなくても周回遅れにならないように踏ん張る、などそれぞれにある程度目標があります。中堅チームなら15位あたり、下位チームならがんばって20位あたり、など各々の目標があるでしょう。
NASCARには周回遅れになっても取り戻せる仕組みがいくつかあるので、序盤で故障や貰い事故に遭って周回遅れになっても諦めるのは早く、数周遅れからの優勝ということも起こりえます。と、よくわからない単語が色々と出てきたところで、細かく見て行きます。
・ステージ制レース
NASCARの決勝レースの特徴がステージ制レースです。2017年から導入されたこの制度、決勝レースをさらにその中で『ステージ』と呼ばれる区切りに分けてしまうもので、レースの中だるみを無くして視聴者数を確保するための取り組みです。例えば267周の決勝レースを
ステージ1=80周
ステージ2=85周
ファイナル ステージ=102周
といった感じに分けます。レース途中でこの周回に到達するとステージ終了となり、強制的にコーションが出てレースは一時中断、ここでステージの上位10人にはポイントが与えられます。ステージ終了の際には緑と白の格子柄の旗『グリーン ホワイト チェッカー』が振られます。グリーンホワイトチェッカーを受けた人はその時点で順位凍結、10位の人までが通過した段階で、トラック全域がコーション扱いとなります。
最終的なレースの結果はもちろんファイナルステージを終えてチェッカード フラッグを受けた結果ですが、レース途中でもポイントが獲得できるのでレースの設定内容によっては『最終順位を狙いに行くか、ステージでのポイントも狙った勝負をするか』といった駆け引きが生まれます。レースの中だるみを無くして視聴者を引き付ける経営戦略です。
また、これによってま~~~~~~ったく何も起きないレースであっても必ず休憩時間がありますから、テレビ放送ではここをコマーシャルの時間にすることができ、お客さんは軽くトイレ休憩、買い物、体操ができます。
逆にこれがあるせいでレースがぶつ切りになってしまったり、中断されることが予め分かっているせいでみんなそれを見越した作戦に動いてしまって、全然コース上の争いが盛り上がらないという弊害もあるため、当ブログではたびたび遠く離れた日本から改善を勝手に叫んでいます(笑)
・コーション
日欧で言うセーフティー カーに相当するもので、コーションが宣言されるとコース上は全車追い越し禁止となります。インディーカーでもおなじみ、アメリカのレースに欠かせない要素です。
日欧だとそれまでの差がリセットされてしまうのであまり出ないことを望まれたり不公平感を抱かれがちですが、NASCARはこれありきのレースと言って良いでしょう。事故や故障、落下物、降雨などが確認されるとかなりの早さでコーションが出されます。なにせオーバルのレースは短いと1周僅か15秒という場合もあるので、事案発生後すぐにコーションを出さないと次々と事故現場に車両が来てしまうので、安全のためには判断を迷っていられません。
オーバルのレースは高速ですのでちょっとした破片が危険な事故を招く恐れがありますし、ぐるっと周囲を壁に囲まれていますので車に蹴飛ばされてコース外に出て行ってもくれません。コース全域を大量の車が走っているので勇気あるマーシャルが隙を見て回収することもできません。日欧のレースから見れば「たったこれだけで?」と思う破片でもコーションを出すしかないのです。
ですが一方で、「これでレースを一旦リセットだ」という演出的な意味合いも含まれています。かつては、目をこらしても本当に何もあるように見えない、確かに何か落ちてるけどどう考えてもレースに影響するとは思えないものでコーションとなる、運営側の恣意的運用と思われるもの、いわゆる『見えないデブリー(破片)』のコーションというのもありましたが、近年は非常にプロフェッショナルでそういった様子は見えません。
例外なのは最後の1周で、最後ということは次の周に事故現場に高速でやってくる車両が理論上は存在しないため、多少の事故があってもコーションは出さずにそのまま放置することもあります。
・コーション中のピット
コーションが出るとその瞬間にピットの入り口は『クローズ』となります。コーションが出た瞬間のピットは利益を得やすいため、クローズ中に作業を行うとペナルティーを受けて次のリスタートは隊列の最後尾になります。万一、ピットに入る0.1秒前に偶然コーションが出てクローズになっても、不可抗力は認められずペナルティーとなります。ただ、作業をしなければ違反にはならないので、こういう場合は作業せずに通過するのが得策です。
この先の運用はNASCAR独特のもの。ペースカーが1位の車の前に入って隊列走行になるのは日欧のレースでも同じですが、ここからリード ラップ(1位と同一周回)車両は内側、ラップ ダウン(1周以上の周回遅れ)車両は外側に並びます。
事故処理がある程度終わるとピットが『オープン』となりますが、まずピットに入って良いのはリードラップ車のみ。翌周に全ての車のピット作業が許可されます。もちろんピットに入るかどうかは任意なので入らないのも戦略です。使って良いタイヤの本数にも上限がありますし追い抜きのしやすさは場所によりけりなので、残り周回数やタイヤの劣化度合い、追い抜きのしやすさなどから判断を下します。
なお、破片を回収する程度の軽微な作業だけしか必要でなく、なおかつ展開的にそれほど多くの車がピットになだれ込まないであろうと判断された場合には『クイック イエロー』と宣言され、1周目から全車にピットが許可される場合もあります。
ピット作業本体については別の項で書きます。
・フリー パス
これがなかなか見ていてすぐに覚えられない制度の1つですが、覚えてしまうと面白く見れます。コーションが出た際、『周回遅れの中で最上位』の1人は無条件で1周だけ周回を取り戻すことができます。これをフリーパスと呼びます。ついでに言うと、周回を取り戻すことは『ラップ バック』と呼びます。
元々NASCARではコーションが出た際、即座に全順位が凍結されるのではなくコーションが出た周の満了まではレースが続行されていました。すると何が起きるかというと、順位が凍結されるまでになんとか順位を上げたり、周回遅れを免れようとみんな必死に走ります。つまり、危ないからコーションを出したのに余計に危ないわけです。そこで2003年に規則が変更されて『コーション宣告=即時順位凍結』に変更されました。その際に登場したのがこのフリーパス規則です。
フリーパスが適用された車はラップダウンと同じタイミングでピットがオープンとなり、コーション中に一度だけピット作業を行うことが可能。その上でペースカーを追い越して周回を取り戻し、隊列の後方からリスタートすることができます。普通に走っていたらなかなかできないラップバックを一瞬でできるので極めてオトク。つまり、ラップダウンになった人もその中で先頭にいれば競争に戻れる大チャンスなので、ラップダウン同士の争いも激化します。
ただ、自分でスピンしたり他の人を突き飛ばしてコーションを出すと不公正なので、発生したコーションの当事者がフリーパス対象者だった場合には『該当者無し』と判定されることになっています。
完全に余談ですが、フリーパスのことを『ラッキー ドッグ』と呼ぶことがあります。これは元々2003年に、犬をマスコットにする企業がスポンサーとなっている車がフリーパスを得た際に解説者が『これはラッキードッグだね』と思い付きで言ったのが始まりとされ、なぜか妙に広まりました。
他にも犬をマスコットにした企業がいくつかあったことも手伝って表現として定着し、後年テレビ中継で『ラッキードッグ賞』みたいなものもできた時期までありました。しかし一方で、時折ラッキードッグから派生したブラック ジョークで犬を笑いのネタにしていると捉えられることもあったそうで不評を買うケースもあり、現在ではどの放送でも『フリーパス』が表現として定着しています。ラッキードッグと呼ぶ人はちょっと世代の古いファンかもしれません。
・ウエイブ アラウンド
もう1つ、コーションでラップバックできる制度がウエイブアラウンドです。これは言葉の定義としては『ペースカーと1位車両の間に挟まったラップダウン車両がラップバックする』という仕組みです。例えばコーション時にこんな並びになっていたとします。丸数字は順位、下の列が内側=リードラップ、上がラップダウンです。
先ほど書いたようにコーションではまずリードラップ車両だけがピットに入ります。たとえばここで全てのリードラップ車両がピットに入ったら、ペースカーの後ろには外側に並んだラップダウンの人がついて、その後ろにリードラップの人が並びます。見た目上『ペースカーと1位の車の間にラップダウンが挟まる』ことになります。
ここで、ラップダウンの車がピットに入らずにコースとどまった場合、リスタートの1周前にペースカーを追い抜いてぐるっと1周し、隊列の最後尾につくことが許可されます。これを『ウエイブアラウンド』と呼びます。F1にも似た仕組みがありますね。
だったらフリーパスと何が違うんだ?という話になりますが、フリーパスの人はピットに入った上でラップバックできます。一方で、ウエイブアラウンドを適用されるためにはピットに入ることができません。ピットに入ったらまたリードラップ車の後ろに戻りますから、『ペースカーとリードラップ車両の車の間に挟まる』状態ではなくなるからです。
また、この図で言えば4位の人が他と違うことをしてコースにとどまった場合、挟まるのは20位までの人になるので21位以降はどう足掻いてもウエイブアラウンドは受けられません。もちろん、1位の人がピットに入らなければペースカーと1位の間に挟まるラップダウンが存在できないのでウエイブアラウンドは一切発生しません。図で言えば17位の人だけがフリーパスの対象なのでどんな条件でもラップバックできます。ウエイブアラウンドはリードラップ車の動きに運命が左右されてしまうわけです。
ウエイブアラウンドには『ピットに入れない』という犠牲が伴うので、あまりにタイヤが古かったり、もう燃料が残り少なくてすぐにピットが必要ならリスクが極めて高くなります。逆に、ついさっきピットに入ったばかりだ、とか、あと5周したらどうせステージ終了でまたコーションになる、とか言う時は低リスクに受けることができます。
「どうせこのままラップダウンで走っててもアカンから、イチかバチかやったるわい!」と実行して、リスタート後の早い段階でコーションが出てくれることを願う賭けもあります。いずれにしても、ウエイブアラウンド組は早めに次のコーションが出てくれることを常に望んでいます。
NASCARではリスタート時にリードラップとラップダウンが混戦になることを避けるため、原則的にリスタート時には
リードラップ → ラップダウン → フリーパス適用車 → ウエイブアラウンドを受けた車 → ペナルティーを受けた車
の順に整理することになっているため、ウエイブアラウンドの対象にならなかったラップダウン車は、ピットに入らなくてもリードラップ車より後ろに下がるよう命じられます。ピットに入らなければラップダウン同士の争いでは先頭に立てますが、後ろにタイヤを換えた人がいたら確実にすぐ抜かれるので、おとなしくピットに入るのがセオリーです。
・チューズ ルール
事故処理、ピット、ウエイブアラウンドなどの隊列整理が終わるといよいよリスタートとなります。リスタートは2列の隊列で行われますが、リスタート1周前(一部例外あり)に各ドライバーが内側か外側、どちらからリスタートするか各々選択することができます。これを『チューズ ルール』と言います。2020年途中から採用された規則で、以前は1位の人にしか選択権はありませんでした。
トラックの特性や勢力図の関係で内側と外側のどちらが有利なのかは異なるため、リスタート位置そのものがレースの一部として組み込まれています。オーバルであればスタート/フィニッシュ地点付近の路面に三角形の印が描かれており、ここを通過する際にいずれか好きな方を選びます。もしどっちに行くか迷った末に印を踏んだらペナルティー、チューズの際にピットに入っていて参加しなかった場合もペナルティーで、いずれも隊列最後尾リスタートとなります。
普通に内、外、内、外、と選んで行くこともあれば、外側が有利な場合には1位から3人連続で外を選び、4位の人が空いた内側の先頭に入るというようなこともあります。この場合4位の人はリスタートの瞬間に見た目上2位に浮上しているわけです。前の人の動きで自分がどうするかは変わるのでピット側との緊密な連携が必要です。
コーション中に無線インタビューに答えていたら 危うくラインを踏みそうになった パーカー クリガーマン |
・リスタート
ペースカーのライトが消えてピットへ退出するとリスタート。リスタート ゾーンと呼ばれる範囲があり、この中のどこかで1位の人がアクセルを踏みます。タイミングをズラすのは構いませんが、踏んでまた戻すような不規則な動きは反則とみなされます。コースの内側と外壁に部分にリスタートゾーンを示すペイントがあり、コース外側のフェンスにもオレンジ色の印がしてあります。中継映像ではここにバーチャルでさらに視覚化されていることもあります。
なお2024年までは保険会社のガイコが長年にわたってリスタートゾーンのスポンサーでしたが、契約を終了したためとりあえず通年の冠スポンサーというのはいなくなったようで大会ごとにスポンサーを募っている様子です。アメリカの場合は大会の名称をはじめ、スポンサーの名前が付いたものは原則として毎回ちゃんと企業名込みで呼ぶのが報道側の約束事です。日本で例えれば『今月の大樹生命月間MVPが発表されました』ときちんと言うようなものですね。
リスタートの際には2位の人は1位の人より先に加速してはいけませんが、レースが再開される基準点はスタート/フィニッシュ ラインの通過ではなく、加速を確認したオフィシャルがグリーン フラッグを振った瞬間とされており、ここさえクリアしていればスタート/フィニッシュまでに1位を追い抜いてしまっても構いません。オリジナルのスタートとリスタートでは微妙に規則が異なっているので注意が必要です。
ただし、スタート/フィニッシュを通過するまでは各車はラインを変更することは許されません。そのため、横に並んだ車を抜くことは可能ですが、前にいる車を抜くことはできません。
・コンペティション コーション
コーションの一種で、事前に発動する周回数が予告されているものを『コンペティション コーション』、略して『コンプコーション』と呼んだりします。NASCARでは決勝前の練習走行は行わないのでセッティングは予選までに済ませておかないといけません。しかし、予選後に雨が降ってしまったり、夜間にするはずだったレースが雨天順延で翌日の昼になったりすると想定と路面状況が大きく変わってしまうので、タイヤの摩耗データが不十分だったり、セッティングが外れてしまうことがあります。
そうした場合に、ピットに入ってタイヤ摩耗や調整の機会を与える目的で予めスタートからしばらくしたところにコーションが設定されることがあります。これがコンペティションコーションです。もちろんピットに入るかどうかは任意ですが、コンプコーション設定時は基本的に『コンプコーション以前には給油してはいけない』という決まりがあるため、少なくとも給油はした方が賢明です。
設定した周回数付近でコーションが発生したらそこへ統合されたり、逆にあまりにスタートからコーションが多すぎてほとんどレース出来ていないと、走ってもいないのにデータ収集はできないため実施周回数が延期されたりと、柔軟な運営も行われます。ただ、パンデミック以降に練習走行すらせずぶっつけ本番でレースしてもちゃんと競技として成り立ったせいか、近年はコンペティションコーションを使用していません。
・レッド フラッグ
道幅いっぱいに事故車が止まってしまった、破片や車両の回収が広範におよんで時間がかかる、雨が降って来た、といった場合にはレッドフラッグが宣言されることがあります。日欧のレースと同様これが出たらレースは完全に停止して中断です。この間は一切の作業は禁止、ちょっと車に触れてもペナルティーを科せられる可能性があります。
ただ、日欧のレースでは宣言されると全車がピットまで戻って待機、再開手順も色々とありますが、NASCARの場合は破片が多すぎて現場を通過できないならトラックの途中でそのまま停止するなど運用が柔軟です。夏場の暑いレースでコース上待機が長時間に及びそうであればNASCARから水が差し入れされたります。オーバルの場合大半のトラックは直線ですら路面が左に傾いているので、真っ直ぐ停車すると体が傾いてしまうため少し車を内側に向けて停車するのが一般的です。
癖なのかロードコースでも内側に向けて止める人たち |
・ホワイト フラッグ
残り1周になると振られる旗で、1位の人がこれを受けるとこの後にコーションが出てもリスタートは行われずにそのままレースは終了となります。1位の人がホワイトフラッグを受ける直前にどこかで事故が起きてコーションが出ると、『コーションとホワイトフラッグのどちらが早かったか』が映像検証されて、運命の分かれ道になることがあります。そんなミラクル滅多に起きないだろう、と思ったらそこそこの頻度で起こります。
・NASCARオーバータイム
レースの最終盤でコーションとなってそのままレースが尻すぼみに終わってしまうことを防ぐために設けられている制度で、名前の通り延長戦です。オーバータイムが宣言されると予め設定されたレース周回数は関係無くなり、とにかく『リスタートから残り2周』になります。
ぐるっと1周回ってホワイトフラッグまで行けばその後は何があろうがレースは成立しますが、その前にまたコーションが出てしまったらまたオーバータイムになり無制限にリスタートを繰り返します。オーバータイムが繰り返されると、本来なら燃料が足りた人が足りなくなる、1回目のオーバータイムで事故に巻き込まれて修復作業してた人が気付いたら優勝争いしている、こんな非常識なことも起こります。
・スポッター
インディーカーでも同様ですが、NASCARには『スポッター』と呼ばれるクルーがいます。オーバルのレースでは高速走行しつつ前後左右に車両が密集していることが非常に多いのでドライバーだけでは対処が簡単ではありません。そこで、トラック全体が見渡せる高い場所から双眼鏡で車両の位置関係などを無線で教えてくれるありがたい存在がスポッターです、高所恐怖症の人は絶対無理です(笑)
スポッターは無線でドライバーに対して「外にいるぞ」など周囲のドライバーとの位置関係を細かく伝えて手助けするほか、他のドライバーの動きを見て『このライン取りが速そうだぞ』など走り方の助言も行います。スーパースピードウェイでは特に位置取りが重要なので、スポッターの力量はレースの成績とも大きく関係します。
スポッターも人によって情報の伝え方は様々で、もう四六時中ひたすら細かい情報を伝え続ける人もいれば、最小限の話だけで比較的静かな人もいます。当然ドライバーも性格によって欲しい情報の量は違いますので相性があります。
・雨天時の対応
オーバルのレースでは雨が降ると即座にレースは中断され、軽い通り雨程度ならコーションで天候回復を待ちつつ周回を継続、そうでなければ赤旗にしてしまいます。なぜかといえば、雨用のタイヤが無いからです。
なぜ無いのかというと、オーバルというのは基本的に高速で狭い範囲をぐるぐると走行するので、仮に雨用のタイヤを作っても水煙で何も見えなくなってしまい全く意味が無いからです。ただし、ロードコースではこの限りではないので雨用のタイヤとワイパーが用意されており、2023年からは一部の低速オーバルでも同様の装備が用意されることになりました。これにより多少の雨であればレースは開催が可能となっています。
ただ、現時点ではオーバルのウエット タイヤは『完全に路面が乾くまで待たずにレースを開始するための手段』という位置づけで、ウエットからスリックへの交換はNASCARの指示があるまでできず、レース途中で雨が降ってきた場合もひとまずはコーションを出して中断させた上でNASCARによってウエットタイヤ使用の判断が行われます。
・レースの成立条件
時々規則が変わってしまいますが2025年時点での規則では、レースは設定された周回数の半分か、ステージ2の終了のうちいずれか早い方に到達した時点で成立とみなされます。そのためここを超えてから天候不良でレースが中断され、天候回復の見込みがない場合にはそこでレースは短縮して終了の判断が下されます。
一方で、事故でレース終盤にレッドフラッグになっても『あと5周だからもうここで打ち切ろう』というような判断はされず、再開して最後まで行うのが大原則です。最大レース時間というのもありません。ただ、照明設備の無いトラックで日没になってしまったら続行できないので、やむを得ずそこで終了にするか、翌日に持ち越すかを運営が判断することになります。
日欧のレースだと規定の周回数に満たない場合は獲得ポイントが半分になる等のことが規定されていますが、NASCARの場合どうなっているのか調べた範囲では見当たらず、またレース成立条件を満たせなかったレースというのも見つけられませんでした。日付を跨ごうが翌日に持ち越そうが決着させるのが前提なので、成立しないということが起きないと思われます。
・ダメージ ビークル ポリシー(通称DVP)
レース中に事故で車が壊れることは多々ありますが、修理にもルールがあります。2017年からダメージビークルポリシーという制度が導入され、予め用意しておいた新たな外装部品と交換したり、上から新たな部品を被せることは禁止されました。修復に使える道具はテープぐらいのもので、あとは金槌、金属バット、ノコギリ、人力のキック、パンチ、踏みつけなどで形状をどうにかするぐらいです。
DVP導入時の背景には、資金力のあるチームだけが壊れた車をあっさり新品のように直してしまう格差の是正に加え、ぶつかりまくってボロボロになった車両がテープだらけでゾンビのようにレースを走った結果、破片をまき散らしたりまた事故ったりして無駄なコーションを呼び、レースの質を低下させることを避ける意図がありました。そのため『修理作業はピット ロード上のみ、制限時間あり』という規則も作って、時間内に直せないような車は強制リタイアさせる制度としました。自力でピットに戻れない車両も修理作業に入れませんので同じく強制リタイアでした。
しかし、車両がGen7になった2022年以降は車体が頑丈なのでボロボロになる車が少ない一方で、18インチタイヤのせいでパンクを原因に自走できない車両が増加。動けない車両を修理不能とみなしてレッカー移動するかは運営の裁量だったため公平性に対する疑問の声が増え、2025年からDVPは大幅に緩い制度へと変更されました。
ピットロード上での修理作業には7分という制限時間がありますが、時間内に修理できないならピット裏のガレージへと移動すれば時間無制限で修理してレースへの復帰が可能となりました。4輪全部パンクして動けないような車両でも強制リタイアにはならず何かしらの方法でピットまで運んでもらえるようになっています。
この変更により、よっぽど「あ~、7分40秒あったらピット上で修理できるのにちょっとだけ時間が足りない!たった40秒のためにガレージまで移動する時間がもったいない!」みたいな特殊な状況でもない限り、DVPによる時間制限制度はほとんど無効化されました。
・最低周回タイム
NASCARではレース毎に予め『最低周回タイム』が設けられており、原則としてこれより遅いタイムでしか走れない車は失格の裁定が下ります。ボロボロになった車両を修復しても、このタイムより速く走れなかった場合には失格となってしまいます。DVPの修理時間7分はこの基準タイムをクリアして走行するとリセットされる仕組みですが、今の制度だとあまり気にする必要は無くなりましたね。
また、近年はさすがに無いですが『決勝に出てはみたけど絶望的に遅い』という状況で基準タイムより遅かった場合も容赦なく失格となります。
修復内容:むしり取る |
こんな感じで、日欧のレースと共通部分もあれば、考えられないようなこともありながら毎戦のレースは進行していきます。2021年のF1では最後の最後になって、周回遅れをどうするかとか、セーフティーカーのままでは終わりたくないとか、運営の意図が規則とぶつかって変なことになりましたが、NASCARは最初からそのあたりが全部決められているのでたぶん心配ありません。
NASCARの初歩的(?)なお話シリーズ
コメント
シーズン編以降も拝見しましたがF1やアメリカン球技等よりも数倍複雑なイメージがあります(個人の感想ですw)
本来は1対1のチーム競技であることが前提のプレイオフ制度を無理やり持ってくるとこういうややこしいことになりますねw
NASCARのプレイオフ制度を参考にして作ったゴルフのPGAツアーのプレイオフも、どうやったら上手く納得いくチャンピオンを不確定要素を持ちつつ生み出せるか、でそうとう迷走してますしね・・・