GT7、デカールの作り方(4)~手描きする~

 ここまで3回はトレースの方法と、それにどう色を付けるかというところを見てきました。今回は、もう1つの作成手法である手描きを色々と見て行こうと思います。svgは点と点、それらを結ぶ線や面で成り立っていますので、これを自分で描いて行くわけです。口で言うのは簡単ですね。

・図形を描く

 画面左側にあるメニュー、上から3番目のところから□(矩形ツール)、〇(円/弧ツール)、☆(星形ツール)が並んでいます。これをクリックすると図形を描くことができます。いずれもアイコンをクリックした後、描画範囲内でクリック→ドラッグすると図形が勝手に描かれます。手を離したらそこで描画終了です。後から大きさ等は変更できます。その下の3Dボックスとらせんは使ったこと無いから分かりません^^;

 いずれも描いた後には調整が可能、選択ツールで図形をクリックすると、拡大・縮小ができ、もう一度クリックすると表示される矢印の向きが変わって変形や回転が行えます。何の説明も無くても直感で操作できますね。ミスったら Ctrl + Z で戻しましょう。また、右上の方に錠前のようなマークがあり、これをクリックして鍵をかけるとオブジェクトの縦横比が固定されます。縦横比を維持したまま拡大/縮小する時に必須です。
左は拡大/縮小、右は変形/回転ができる状態

 またそれぞれ専用の調節項目もあります。矩形ツールを押して先ほど描いた四角形を選択すると、□が2つと〇が1つ表示されます。□はサイズを変更するものですが、〇を動かすと角を丸めることができます。画面上部のメニューで幅と高さを数値入力もできるので、正方形を作りたい時はここに同じ数字を入力し、縦横比を固定してからサイズ変更すると簡単に作れます。右上の『角をシャープに』を押せば〇は角の位置に自動的に戻ります。
正方形にして角を丸めてみた図

 同様に、円/弧ツールでは大きさの手入力の他、円形以外にも扇型などの形状を描くことができます。星形は多角形にすることもでき、トゲトゲの図形を描いたりすることもできます。ちなみに角の上限は1024のようですが、ただの円になります^^;

・線を描く

 図形ではなく自由に線を描きます。ペンツールというのを使います。ペンツールでは曲線と直線を描けるんですが、曲線の書き方は結構クセがあって私には全然できないので、ここでは直線で大まかに線を引いた後に自分で曲線にしていくという原始的な手法を採用しますw
 ここでは、何も目標物が無いと面白くないので手描きの線で筑波サーキットのコース図をなぞってみようと思います。
 ペンツールをクリックしたら、まず任意の場所で一度左クリック。これで始点が決まります。以後、ポインターを移動してクリック、移動してクリック、と繰り返していきます。コースは曲線なので、曲がる箇所のたびに点を置いて行く感じでなぞることにします。この場合は1周して元の場所に戻りますので、最後は最初にクリックした点をもう一度左クリックすると描画終了です。任意の場所で終了したい場合には、右クリックするとそこで終了できます。
緑色の線がペンツールで描いている軌跡、
最終コーナー出口からスタートしました

 1周したら、とりあえず一度素材の画像をどけて、どんな感じか単体で見てみましょう。

・・・これは何でしょうねw これを、頑張ってコースに似せて行きます。またお手本を下に敷いて作業開始です。まず、このままだと線が細くてあまりよく分かりませんので、もう少し太くしたいと思います。実はここで描いた線というのは、第1回目で説明した『ストローク』です。ですので、ストロークの設定で太くすることができます。

 分かりやすくなりましたね。これでお手本の図にある白い部分が、自分で書いた黒い線と綺麗に一致してくれれば良いわけです。では編集に入ります。左側のメニューで上から2番目、ノードツールを選択します。


 菱形がいっぱい出てきました。この菱形が『ノード』です。話が前後するといけないと思ってここまで全く登場させませんでしたが、トレースしたロゴも全部、こうしてノードとそれを結ぶ線の集合によって成り立っていました。ノードが多いほど完成時のファイルの容量が大きくなってしまうので、規定のサイズに収めるためにはできるだけ少なくする必要があります。

 なお、用語としては、こうしてノードが存在して自由に形状を編集できるオブジェクトのことを『パス図形』と呼びます。通称=パス。対して、矩形や円形といったものは『オブジェクト図形』と呼ばれ、専用の項目で角を丸めたり、半円を作ったりといったことができますが、ノードを編集して自由自在に形状を動かすことができません。
 オブジェクト図形も パス > オブジェクトをパスへ を選択するとパス=ノードが設定されて自由に編集することができるようになります。

 ノードツールを選択するとポインターが矢じり型になります。ノードをクリックするとそのノードをドラッグで移動させることができるので、形状を変えたい場合には動かすことができます。
 そして、Shiftキーを押しながらノードをドラッグすると、ノード本体は動かずに、代わりに丸い玉が出てきてさっきまで直線だったものが曲線になりました。この丸いものをハンドルと呼びます。

 ハンドルを動かすと線をそちらの方向へ曲げることができます。今はガッタガタのひどい筑波サーキットですが、各ノードのハンドルを動かしていくことで、お手本のコース図に近い形状へと変えていくことができます。ハンドルは1つのノードにつき2つ出せるので、必要に応じで左右に出して曲率を調節します。
 なお、ハンドルが出ていなくて直線しか生えないものを『シャープノード』、ハンドルが出て曲線を生やすものを『スムーズノード』と呼びます。

 だいたいそれっぽくなりました。ノードの数はできるだけ減らしたいので、ヘアピンコーナーの途中にあるノードは削ってしまい、入り口と出口の2か所だけで曲線を成り立たせると容量の削減に繋がります。ただ、曲率によってはちょっとハンドルの調整が難しくなる場合もあります。
だいたい完成

 上記の通りこれはストロークなので、フィル/ストロークの設定でフィルに色設定してあげると内側に色を塗ることができますし、ストロークの色を無くしてしまって輪郭線を消すこともできます。
 グランツーリスモ上にアップロードされている企業ロゴの大半はトレースを使用して作られている一方、アニメなどのキャラクターのデカールは、大半がこうした手描きによって行われています。今回はコース図を作りましたが、これがキャラクターの顔でもやることは同じなんですね。なぜトレースしないのかというと

 ロゴと比べて使用する色の数が多い上に、影などの表現で近接した色も多いので、トレースでそれらの陰影をきちんと拾うことができないからです。たとえばこのトラッキーだと、ユニフォームの縦じまはかなりしきい値を上げないと全然拾わないけど、そうすると顔は真っ黒になるので別々にトレースしなければならず、さらに黄色と黒などを綺麗に塗り分けるようなトレースができません。これでは作成は困難です。カラーでトレースしたら平気で100KBを超えます、カラートレースが使えるのはせいぜい小さいロゴまでです。

 線を引く作業は『鉛筆ツール』を使ってフリーハンドで描くこともできるのですが、この場合おびただしい数のノードが生成されてしまいます。そのため、描いた後の収集がかなり大変ですが、人によってはこちらの方が作りやすいこともあるかもしれません。

 実際にキャラクターを描くのであれば、素材を持ってきて、その上にペンツールで絵を描いて、を繰り返します。絵を描いたらお手本が埋まってしまうので、その都度オブジェクトを最前面/最背面へ移動させて、自分の描いたものとお手本が似ているのかを確認しながら進めることになります。手描き時代のセル画で、前のコマと次のコマをページをめくったり戻したりしながらアニメを制作していたのと似た、かなりの根気が必要です。
 昭和のアニメのキャラクターだと、影や服のシワなんかの表現が少なかったり、色が分かりやすい塗り分けなので『ある程度トレースで大枠を作って細かい部分を手描き』というようなやり方でも作れるのは作れます。私もそれで機動戦士ガンダムの『白目になったアムロ』や『タムラ料理長』を作りました。

 そして、段々とやり方を覚える中で、初めて完全手作業で作成したのがこれでした。
ウォン・リー(機動戦士Zガンダムより)

 最初はトレースでどうにかならないかと思って、顔だけを切りとった画像を用意したりしてたんですが、結局描いた方が早そうだと思ってやり始めたところ、案外できました。細かくノードを表示するとこうなります。

 大まかな構成としては、髪の毛、顔、スーツの3つの大きな部分と、首、シャツ、ネクタイなどの中ぐらいの部分、そして細かい線や目、影などの部分で成り立っています。
ウォンさんバラバラ事件

 髪と顔、顔と首、などお互いにオブジェクトが重なる箇所は、丁寧に形状をすり合わせる必要などなく、要は上になる側の形状さえきちんとしていれば、後ろになる部分は見えないのでてきとーで構いません。容量の無駄なので私は直線で結んでしまっています。SVGOMGを通した後の最終的なウォンさんのサイズはたった9KBでしたw

 芸術センスゼロ、お絵かきソフトはGTをきっかけに初めて触り、何も分からないところからひたすら検索とトライ&エラーを繰り返しただけの私でもこのレベルまではなんとか来れましたので、熱意と時間と愛情さえあればキャラクターデカールは誰にでも作れる機会はあると思います。
 ただ、職人さんのデカールは下手すると何十時間という途方もない時間を費やして仕上げられているので、同じクオリティーを目指すなら同じような苦労をする必要があるということは覚悟しないといけないとは思います。

 今回は最後に、手描きなどでノードをいじったり、複数のパスを作成していく中で知っておくと便利なものを2つご紹介します。

・ノードやオブジェクトの位置を揃える

 図形を等間隔で配置したい、ノードを編集しているうちに正方形が微妙に歪んだので位置を合わせたい、などオブジェクトやノードの位置を綺麗に整列させたい場面が出て来ることがあります。そんな時に使える機能があります。オブジェクト > 整列と配置 と選択するとメニューが開きます。

 これは表示されているイラストと、マウスを合わせると表示される説明を見て自分でやってみるのが一番分かりやすいと思いますが、左端に揃える、下に揃える、などの整列。等間隔にする、などの配置など、綺麗にオブジェクトを整理したい場合に役に立つものがあります。
 ノードツールを使用している際にはこれのノード版が表示され、ノードを横一直線や縦一直線にそろえることができます。私がよく使うのは、次回で出てきますが文字のノードを削って行った際に、ちょっと位置がズレていて非対称になってしまったので、綺麗な形状に戻してあげる、という目的です。けっこう長い間この機能を知らなくて、目を皿のようにして画面を凝視し、マウスを慎重に動かして目分量で並行や垂直を作っていましたw


・オブジェクトをグループ化する

 キャラクターを描くときなんかに、目やら口やら顔のシワやら細かいものを作ってオブジェクトが増えていくことがあると思います。これらは位置関係がきっちりしていないといけません。ズレたらちょっとした福笑いです。そんな時に使うのが『オブジェクトのグループ化』です。グループ化では、結合と違ってパスそのものの色や配置が同一設定にされることはなく、単に今ある位置関係だけをまとめて維持してくれます。
 まとめたいオブジェクトを選択した上で オブジェクト > グループ化 と選択します。例えば、描いた目と鼻と口を複数選択してグループ化すると、次にいずれかを選択した際には3つがまとめて選択され、移動する際も位置関係を維持したままみんなで移動できます。
 グループ化している場合でもオブジェクトを複数回クリックしたり、ノードツールを使用して選択すると個別のオブジェクトを選択することが可能ですが、ややクセがあります。また、外部から別の画像などをインポートした際に、なぜか頼んでもいないのに変なものが勝手にグループ化されて一緒に移動するようになることもあります。グループを解除したい場合は オブジェクト > グループ解除 で団結を解いてくれます。

 なお、車両のストライプなどの模様を作成する際に、ゲーム内のリバリーエディター上で線を引くと結構狙った形状にするのが面倒だったりするので、私はたまにデカールとして実車の写真をお手本にInkscape上でデザインを模倣しておき、あとはゲーム内の車両形状に合わせて拡大/縮小するという使い方もしています。


コメント

匿名 さんのコメント…
手書きの場合はタブレットなどを使ってデカールを制作するのでしょうか?
SCfromLA さんの投稿…
>匿名さん
 
 ここで書いているように、トレースを使わずに直線と曲線を自分で作成してイラストに仕上げることを『手書き』と呼んでいます。
匿名 さんのコメント…
返信ありがとうございます。
二回目の質問になってしまいますが、Inkscapeで3つ以上のノードを1つにまとめることや、図形の角にあるノードと直線の端にあるノードを接続するということはできるのでしょうか。
もし可能なら、方法を教えて頂きたいです。
SCfromLA さんの投稿…
>匿名さん

 ノードは色々と工夫次第でくっつけたり切り離したりといった操作が可能ですね。Inkscapeでの具体的な使い方だと
https://inkscape.eksd.jp/knowledge_paths_editpath_joinandcutnodes.html
このサイトはノードの操作についての基礎を理解しやすいかなと思いました。あとはとりあえず自分で実験用の図形を書いてひたすら試す、というのが早いです。私もほとんど我流でトライ&エラーし続けてきてます^^;