GT7、デカールの作り方(1)~トレースと色付けの基本~

 前回で前置きを終えて今回から本題です。デカールを作るためにはSVGファイルを作成する必要があります。方法としては、

・ネット上のSVGファイルを拾ってきてそのまんま突っ込む
・ビットマップ画像を自動変換ツールでSVGにする
・自分で作る

の3つがあります。Wikipediaのページに貼られたロゴにはSVGで作成されたものもあるので、そのまんま行ける(ただし後述の手法は必要の可能性がある)こともあります。一方、自動変換は容量がかさんであまり大したことはできません。
 これから解説するのは3つ目の自分で作る方法ですが、これは大別するとさらに

・何らかの画像を拾ってきてそれをトレースする、
・手描きする

の2つに分かれます。(もちろん両者を組み合わせることもあります)。前者は企業ロゴなどを作る際に、後者はキャラクターなどを作成する際に使用することが多いです。ここではまずトレースを使用した初歩的な作成方法を記載します。

 まずは作成するための環境が必要です。無料で使用できるInkscapeというソフトを多くの方が使用しており、私もそれに倣います。ダウンロードは
から可能です。
 今回は、この記事を書く時点で最新の Inkscape 1.1.2 を使用します。正直、安定感としては旧バージョンの最終形である 0.92.5 の方が高い気がするのでそちらでも構いません。今後バージョン1系列がどんどん開発されることを見据えてちょっと冒険してしまいましたw
 今回私が解説する範囲では、画面のデザインが違うぐらいで新旧でできることや単語の言い回しなんかに大きな違いは無いので、基本的な内容は同じだと考えて大丈夫です。インストール設定は分からなければそのまま進めましょう。

 まず肝心のInkscapeの起動です。クイック設定とやらが出てきますが、とりあえずキャンバスは『明るい市松模様』、キーボードは『Inkscape default』、外観は『クラシックInkscape』にします。私がこれでやってるので、違うことをすると説明と食い違うところが出て来るかもしれません。あとは、初回は『絵を描く > 新規ドキュメント』で新しいドキュメントが開き作業開始です。

 で、いきなりですが、初期設定のこの『明るい市松模様』、私には明るすぎてちょっと使いにくく感じます。かといって、暗い市松模様は暗すぎるので、見やすい適度な明るさに調節します。
 上部のメニューから ファイル > ドキュメントのプロパティ と選ぶと、画面の右側にメニューが出てきます。そのまま下にスクロールすると背景という項目があるので、ここで背景の色を選択。自分で任意の色を設定できます。私はどうも旧バージョンと似た色でないと落ち着かないので、RGBを全部180にしました。

 格子柄の背景のチェックをオフにすると単色の背景になるんですが、単色にしてしまうと万一デカールに使用している色と背景色が同じだった場合に、見えなくなってしまって編集しにくくなります。また、単色だと『色を塗った』のか『穴が開いていて背景が見えている』のかの判別が分かりにくくなるので、とりあえず格子柄にしておくのが得策だと思います。ゲーム上のデカールも背景は市松模様になっていますが、同じ理由ですね。
 旧バージョンでも格子側の背景は必ず選択しましょう、白と透明の区別が付かないと後々困ります。

・トレースする

 いきなり環境の話から入ってしまいましたが、それでは作業開始です。まずネタ元の画像を取り込みます。どっかしらからコピー&ペーストで持ってくるか、ファイル > インポート と進んでPC内にある画像を取り込みます。インポートの場合設定画面が出てきますが、まあ気にせずそのままOKを押せば問題ないです。私もいじったことがありません。今回は

 JR貨物をお供にします。特に企業ロゴの場合、デカールの完成度は元画像の解像度でかなり変わってきます。解像度が低いと、トレースした段階で角が不鮮明や丸くなってしまったり、小さい文字が潰れたりするので、できるだけ大きなサイズのものを検索するのがポイントです。Googleであれば、画像検索でサイズを大にしたり、詳細設定でさらに大きな解像度をこっちから指定することで絞っていくと良いと思います。

 ちょっと横に話が逸れますが、小さい規模の企業だとデカール探しに非常に苦労します。解像度の低いものしかなかったり、企業の公式サイトにすらロゴが掲載されていなかったり、そもそも企業が見つからなかったり、ということはわりと起こります。
 そういう場合、検索ワードを変えて根気よく調べたり、たとえば選手がSNSに投稿した画像を探したり、と角度を変えて探していくと偶然見つかることがあります。ただ一点気を付けたいのが、全然見つからないようなロゴを探していると、悪意のあるサイトがどうも『いかにも探している内容があるかのように振る舞ったサイトの情報』みたいなのを検索結果に生成するようで、クリックしたらWindowsやセキュリティーソフトから警告を受けることがあります。URLや雰囲気などでなんとなく怪しいサイトは見分けが付くので、安易にクリックしないように注意しましょう。

 さて作業の続きです。パス > ビットマップのトレース と選択すると、また右側にメニューが出てきます。トレースするためのものです。これが出たらトレースしたい画像を選択します。色々と数字やメニューがありますが、これはおいおい理解していった方が賢明です。とりあえず、基本である単一スキャン・明るさの境界 という手法でトレースを行います。
 これは、簡単に言うと真上から光を当てて、その影を捉えてトレースする方法です。『更新』を押すと、どういう影ができてトレースされるのか、というプレビューが表示されます。とりあえず、何も設定をいじらずに『適用』を押してみましょう。なぜかJR貨物が黒くなりました。

 色が塗られたわけではなく、これがトレースの結果生み出されたオブジェクトです。選択してドラッグしてやると、

 幽体離脱~、ではないですが、トレースされたオブジェクトと、元のビットマップのオブジェクトが別個に存在していることが分かります。『青いロゴなのに黒くなった!おかしい!』と早とちりしてはいけません。先ほど書いたようにこれは影みたいなものなので、単一スキャンでは必ず最初は黒で出てきます。
 カラーでトレースする方法もあるんですが、カラーでのトレースは容量がすぐ膨れ上がってしまう上に、仕上がりも決して綺麗とは言えないものになりがちです。そのため、多くの場合自分で着色をすることになります。

 ここで、まず覚えておきたいのが『しきい値』です。初期値では0.450になっていますが、これは陰の例えで言えば当てる光の強さみたいなもので、値を下げるとトレースされるものは細く、薄くなっていき、上げると太く、濃くなっていきます。
 黒に近いものほど影ができやすいのでしきい値を低くしてもトレースでき、白に近い薄い色のものはある程度しきい値を上げないとトレースできません。0.000は完全に何も出ず、1.000だと全部真っ黒になります。このJR貨物は0.380まで下げると何も拾わなくなってしまいました。
 何も拾わなくなる近辺のしきい値では、きちんとトレースできているつもりでもよく見たら縁がガタガタになっていたり、細い部分が欠けてしまうことがあります。逆に数値を必要以上に上げると、小さい隙間が埋まってしまうことがあります。基本的には0.450を基準にしておくのが良いと思いますが、上記の通り色によって拾い方が違うので、うっすい色の素材だと0.450では細かったり、そもそも何も映らないこともあり得ます。
 Inkscapeの旧バージョンでは『ライブプレビュー』という機能があり、しきい値などの設定をいじってもその結果が常にプレビューに反映されたんですが、このバージョンでは自分で更新を押さないと内容が更新されなくなったので、数値を変える→更新 という操作を繰り返さないといけません。ちと不便。

しきい値の比較。0.400ではよく見るとJRロゴがガタガタ。
0.700だと『貨』の隙間が埋まりそう


・色を塗る

 とりあえず単色のデカールについて作業してみます。単色デカールはグランツーリスモ上でも色を塗り替えられるので極端な話真っ黒のままアップロードしても構わないですが、企業ロゴの『本来』の色で作成したいもの。
 そこで、オブジェクト > フィル/ストローク と選択します。また新しい画面が出てきました。このメニュー画面、×を押せば閉じることができますが、タブで切り替えられるのでよく使うものはそのまま置いておけば良いと思います。

 色を塗りたいオブジェクトを選択したら、フィルを選び、その下の『単一色』を選択します。RGBやHSVなどのカラーパターンから数値を選択することもできますが、メニュー下部にスポイトのマークがあります。このスポイトツールをクリックし、トレース元の画像から拾いたい色、今回なら青い色をクリックすると

 同じ色になりました。ちなみにRGBの下にある4本目のバーは不透明度で、数値を下げると透過していきます。グランツーリスモ上でも有効なので、透過デカールを作ることもできます。

・縁を作る

 色を塗るだけでも良いですが、車両に貼られるデカールにはよく白い縁があります。車体色とデカール色が似ている場合に、縁が無いとほとんど見えなくなるのでけっこうなデカールは縁ありです。
 先ほどは『フィル』でしたが、今度はそのお隣の『ストロークの塗り』を選択します。最初はストロークが設定されていないので『塗り無し』と出てきますが、単一色を選ぶと縁が出ます。初期状態では黒になっていますが、白い縁が欲しいので白に変更します。
 ビットマップのJRロゴは白い部分だらけなのでこれをスポイトで拾っても良いですし、手打ちで255を3回入力しても構いません。画面下部にもカラーパレットがあるので、スポイトをここへ持って行って色を拾うこともできます。この画面下部のパレットは『左クリック』だとフィル、『Shift + 左クリック』でストロークに色が反映されるので、ストロークを白くしたいならShiftキーを押し忘れないようにしましょう。


 縁が白くなりました。が、ちょっと分かりにくいですね。画面右下にパーセンテージとー +のマークがありますが、これが画面のズーム機能です。+を押してズームして近くで見てみましょう。その右隣は画面の傾き角度を変えるもの、これは旧バージョンには無かった気がします。でもあんま使わないw

 ストロークの量が物足りないと思ったら調節することができます。『ストロークのスタイル』を選択すると設定項目が現れ、一番上にある『幅』の数値を増やすとストロークの量が増えます。単位はmmやpx、%などがあるので必要に応じて選べばよいですが、私はいつもmmです。初期状態より少し増やすと

 割といい感じになりました。ただ、このストロークの幅設定、数値を増やすと段々とストロークがフィルを『侵食』するようになります。JRロゴは大きいので少々面積が減っても大丈夫ですが、貨物なんて文字はけっこうすぐに潰れてしまうので、あまり大きく設定することはできません。角や端の形状は実際に押して試してみるのが一番分かりやすいと思います。

・縁を大きく作る小技

 どうしても縁を大きくしたい時に有効な小技があります。縁を作りたいオブジェクトをコピー&ペーストしてもう1つ作ります。今回は分かりやすくするために、コピーで生み出したやつは白く塗っておきます。

 次に、それを重ねます。Inkscapeは初期状態では『スナップ』という機能が有効で、角なんかの位置を自動的に合わせ込みに行ってくれます。この機能により、コピーしたやつを重ねに行くと、近くへ行けば勝手にピッタリ重なります。この機能は画面右端のアイコンでオン/オフを切り替えられます。逆に作業の邪魔になる時はここで簡単にオフにできます。

 重ねましたが、これだと白が上になってしまいます。白を下に潜らせたいので、今度は画面上部のアイコンから『最背面に移動』を選びます。このアイコンでは、オブジェクトをどの順番に重ねるのかを制御できます。今は2枚しか無いので『背面に1段階移動』を押しても結果は同じです。これで、白が青の下に隠れました。

 で、背面に行った白い方のロゴでストロークを設定し、幅を増やしていきます。
 
 先ほどよりも大きい幅でストロークを設定しましたが、貨物の文字もしっかりしています。2枚使って背面のオブジェクトでストロークを設定すると、上面にあるオブジェクトは原形を留めたままになります。これにより、かなり大きなストロークでも設定が可能になります。ただし、オブジェクトが2つあるわけですから当然ファイルサイズは増加します。
 また、Inkscape上でのストローク量とグランツーリスモに読ませた時のストローク量には差があり、量を増やすほどその差が顕著になります。PC上で完璧だと思ったら、ゲーム上でストロークがデカすぎた、なんてこともあるので気を付けましょう。


・SVGを保存する

 完成したら保存へ向かいます。まず、トレース元のビットマップは邪魔なので削除します。次にドキュメントのプロパティから ▶ページサイズをコンテンツに合わせて変更 を選択し、ページサイズを描画全体(以下略)を選択します。すると

スクショを撮る順番の都合でいきなりグラデかかってすいません^^;

 作成したものが四角い枠に囲まれました。先ほどまでは枠がずっと大きかったですが、小型化されてロゴの大きさ通りになりました。SVGファイルを保存する際はこの四角い枠の中にあるもの全体が書き出されるので、最後に大きさを合わせないと巨大な敷地の中にちっさく描かれたデカールになったり、一部が切れたりします。保存前には忘れずにこの作業をやりましょう。
 もしページサイズ変更を押したのに枠が小さくならない、という場合、どこかに消し忘れたオブジェクトが何かしら残っていると思うので、探して削除しましょう。

 ここまで来たら、ファイル > 名前を付けて保存 と進み、任意のファイル名を入力。大事なのが名前の下の『ファイルの種類』で、必ず『最適化SVG』を選択します。クリックすると出力するにあたっての設定画面が出てきますが、正直あまりよく分かっておりませんw
 大事なのが『座標の有効桁数』。数値が低いほどサイズが小さくなるんですが、そのぶんいろいろと簡略化されて、場合によってはオブジェクトの位置がズレるなどの問題が発生します。また、この後の作業を行うと、実は数字を下げてもそこまで最終的なサイズに差がないので4が妥当だと思っています。何かグランツーリスモ上でおかしなことが起きたら、数字を増やしても良いかもしれません。

 たぶんこんな感じで大丈夫だとは思います。レンダリングバグ回避はチェックしなくても行けそうなので、何か問題があったら改めてチェックを入れた上で出力するぐらいでいいかなと思います。
 2ページ目の『改行とインデント~』は、svgファイルをメモ帳にドラッグするとファイルの中身の構文が見れるんですが、これを項目ごとに改行して見やすくするか、改行せずひたすら記述だけ並べるか、という選択。普通の人はいちいちファイルの中身を読まないのでチェックは不要です。

 なお、作業途中のデータを保存しておく場合には、ファイル形式は Inkscape SVGにしておきましょう。

・SVGOMGを通す

 そして最後の工程です。SVGデータから余計なものをできるだけ取り除いてファイル容量を圧縮します。また、グランツーリスモ上でSVGファイルを読むにあたり、ファイルにちょっとでもゲーム側から見て妙な文字列が含まれているとすぐにおかしなことが起こるようで、その回避策でもあります。
 xerochoさん という有名なデカール作成者の方が、SVGOMGというSVGを軽量化するプログラムに、グランツーリスモ用の調整を加えた『SVGOMG optimized for GTS』というものを公開されています。ここを通すことで、デカールは完成となります。いつもお世話になります。

 SVGOMGを開いたら、OPEN SVGを選択して任意のファイルを選択します。すると、作成した画像と何やら英語のメニューが表示されます。

 下に表示されているのがSVGOMGを使用した後の最終的なサイズとなり、これが15KB以下(マイナス表示)ならアップロード可能です。GTに合わせて調整されたものなので、15KBに対しての差が表示されています。ギリギリを攻めると「あー、あと0.12削らないと!」みたいなことが起こりますw
 設定はほとんどいじる必要ありませんが、Precisionと書かれたスライド式の部分が重要です。これがどのぐらい簡略化するかに関わっていて、0~8の9段階あり数字が小さいほど容量は小さくなります。
 基本的なイメージとしては

2→ほぼ作った通りそのまま
1→ちょっと簡素になった気がするけどまあそのまま
0→めっちゃ容量が減るけど色々崩れる

という具合で、3以上は2と大差ないので特に選ぶ意味はないかなと思います。どのみち貼ったデカールは走行時には負荷軽減のためにさらに画像が簡素化されますしね。0にするとかなり色んなものが崩れてしまうので、企業ロゴのように形状がしっかりしているべきものではあまりお勧めできません。

 左からプレシジョン0、2、1の順番です(並べ間違えて表彰台みたいな配置になりましたw)。たぶん1と2は見分けが付かないと思いますが、0は明らかに違いますね。ただその代わり、サイズを見ていただくと分かりますが全然違います。圧縮の必要性すらないこの程度のものなら0を使う必要性は皆無ですが、複雑なものを1枚でまとめるには必要な時があります。
 なお、場合によってはこの画面上で画像が一部分しか表示されていなかったり、どっかに行って消えてしまうことがありますが、見た目だけの問題できちんと保存されています。

 メニュー画面では、Precisionの2つ上に compared gzipped というのがあり、これを選択するとものすごく容量が削減されるような表示がされます。そのため「お、これでめっちゃ簡単に行けるやん」と思ってしまいますが、これは『svgzという圧縮方式で保存した場合はこういうサイズですよ』という比較情報をお知らせをしてくれているだけで、表示されたサイズに削減してくれるわけではありません。

 15KB以下に収まるのを確認したら矢印ボタンでダウンロード、これをグランツーリスモにアップロードすれば作業完了です。ネット上のSVGデータをそのまんま突っ込む場合もSVGOMGだけは通しておきましょう。
 ただ、PCブラウザ上ではうまく行っていても、ゲーム側で読み込むと問題が出ている、というケースがけっこうあります。原因が多岐に渡るのでなかなか1つの原因に絞り切れないことが多いため、その都度あれこれ調べることになります。
 もし単色のデカールをトレース→着色する作業しかしていないのに既にそうなっているのなら、保存から先の設定で何か間違えている可能性が高いです。

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