さすがに言いたい、安倍元首相国葬(3)

前回の続きです。

 ここまで安倍政権の嘘を中心に書いてきましたが、安倍氏にはもう1つ、社会に政治的分断や差別を助長する行為を行ってきた道義的責任があるのではないかと感じます。明確な虚偽発言と違ってこれは検証が難しい、100%答えの出ない話ですが、個人的にこれも国葬すべきでないと考える理由です。
 そして先に言ってしまうと、この話は結局彼が殺害されることになるいわゆる統一教会の話とも繋がって来る話だと思います。また最後に改めて書きますが、もっとこのあたりにきちんと世の中が向き合っていれば、安倍さんが殺されることはなかったのではないか、とすら思っています。

 安倍首相で有名なものの中に、2017年の東京都議会議員選挙の応援演説中の発言があります。自身に批判的な人が殺到し、安倍辞めろなどの聴衆の声が大きくなると、「相手を誹謗中傷したって何も生まれないんです」「こんな人たちに皆さん、負けるわけにはいかない」と発言。

 元々キレやすいのは議会でも知られたところですし、演説を邪魔されたので苛立って口走ったんだろうなとは思いますが、その前に発言した「相手を誹謗中傷したって何も生まれない」は、後年自らが国会で「悪夢の民主党政権」などと連呼するようになっていますし、そもそも国会で他人の発言中にヤジを飛ばし、繰り返し注意を受けているのも自身ですから、聴衆のヤジを批判できる立場でもありません。

 アメリカの大統領・ジョー バイデンは勝利宣言の中で「私に投票しなかった皆さんのためにも、私に投票してくれた皆さんのためにするのと同じように、精いっぱい働く。」と語りましたが、国家公務員というのは特定の存在でも支持者でもなく、なったからには国民全体のために働くのが義務です。
 主義主張はそれぞれ異なりますが、少数意見にも耳を傾け、妥協案を話し合って、ただそれでは永遠に答えが出ないから最後は多数決で決める、というのが民主主義であり、それを実現する場が国会の論戦です。しかしその場で「意味のない質問だよ」などとヤジを飛ばす彼の様子には、そうした姿勢を感じられないというのが正直なところ。
 もし「このような人たち」以外にそういった言動や行為が自身にも周囲にも無いのであれば、これだけを持って延々と批判するのは適切ではないでしょう。しかし、1つや2つではそう言い切れなくても、党内の議員に

「マスコミをこらしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働き掛けてほしい」(2015年6月・大西 英男衆院議員)

などと意に沿わない報道内容に対して圧力をかけるようなことを平気で発言する議員が現れ、

「野党の人から来る話はわれわれ政府は何一つ聞かない。生活を本当に良くしようと思うなら、自民党、与党の政治家を議員にしなくてはいけない」(2022年参議院選遊説・山際 大志郎)

とまで堂々と発言する人たちの振る舞いがあり、要求されても国会を開きもしない、聞かれても説明しない、はぐらかす、こうした行為が繰り返されていれば、この政党が民主主義を尊重しているとはとても思えません。記者の質問を制限し、自分たちに都合の悪い質問をさせないような行為を行うのは、自分たちに賛成する者が善でそうでないものが悪、というような二元論を自ら広めているとしか思えません。

 私がさらにあきれたのは、総理大臣を退任した後の2021年6月に雑誌『月刊Hanada』で安倍氏とジャーナリストの櫻井 よしこが対談した内容。当時は1年延期された東京オリンピックを開催すべきかどうか、ということが盛んに言われていた時期です。来日した外国人が日本で新型コロナウイルスに感染して、帰国してからその国で感染が拡大する心配があるのではないか、という指摘について

櫻井「菅政権を引きずりおろすために五輪を政治利用している、と言わざるを得ません」

安倍「極めて政治的な意図を感じざるを得ませんね。彼らは、日本でオリンピックが成功することに不快感を持っているのではないか。共産党に代表されるように、歴史認識などにおいても一部から反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対しています。朝日新聞なども明確に反対を表明しました」

 なんと、オリンピックに反対しているのは『日本でオリンピックが成功することに不快感を持っている』人たちだと言うのです。『共産党に代表される反日的ではないかと批判されている人たち』が反対していると。目を疑いましたね。

 オリンピックに反対する理由はそれぞれあるでしょうが「まずは感染症対策をすべき」「準備すらロクにできていない状態ではアスリートも気の毒」「せっかく苦労して入場券手に入れたのに無観客なんて酷い」など様々なはず。『オリンピックが成功することに不快感を持っている人』ってなんでしょうか?海外メディアからも開催に懐疑的な見方が出ていましたが、彼らも『菅政権を引きずりおろすために五輪を政治利用している』んでしょうか?さすがに思考が危険すぎます。

 もはや『自分に反対する者は悪者だ』というような固定概念ができており、まともに物事を理解しようとする姿勢が感じられません。『反日』というような表現は、俗に『ネット右翼』や『オンライン排外主義者』などと呼ばれている、特に中国や韓国に極端に批判的・差別的論調を展開している層がよく使用する言葉で、与党批判を行う者を叩く際にも彼らが好んで使っていると思われます。総理大臣を辞めたとはいえ現職の国会議員である人間が、もはやこのレベルに落ちたとしか思えませんでした。いや、落ちたというか元々そうだったけど隠そうともしなくなった、と言った方が良いかもしれません。

 そもそも、このHanadaという雑誌、そして私のこの一連の記事で最初に紹介した『夫婦別姓は左翼的かつ共産主義のドグマ』という発言を掲載していたWiLLという雑誌は、見出しで中国・韓国に対する差別的内容を含む過激な見出しを繰り返し行っています。見出しの構成などが非常に似ていますが、Hanadaの編集長・花田紀凱(はなだ かずよし)は簡単に言えばWiLLで仕事をしていたけどWiLLの編集長と揉めて分裂したので、大本は同じと言えます。ざっと両雑誌の過去の表紙の見出しを並べてみると

中国人を見たら凶悪犯と思え
中国・韓国は歴史的痴呆症だ
ハングル文字を町から追い出せ
朝日は中・韓の工作員か
総力大特集 韓国・錯乱!-韓国にはもうウンザリです
一夜にして「魔法のように消えた」トランプ票
外国が加担したテロ(不正選挙)の疑い
もう沢山だ 国を貶め、良心を押し売りする朝日新聞
俺たちはやった、と歓声が!米・議事堂に乱入したのは反トランプの極左
米大統領選の闇 米、日主要メディアの異常な偏向報道
「五輪やめろ!」邪魔する反日リベラルの正体
安倍晋三は救国の保守政治家だ
安倍政権こそ弱者に寄り添った


 たいてい中国・韓国・朝日新聞・野党の批判と安倍・自民党賛美です。もちろん表現にも出版にも自由がありますから雑誌の内容を制限などできず、そんなことをやりだしたら図書館戦争の世の中になりますが、大統領選挙デマを堂々を見出しにし、毎度のように中韓を罵っているような雑誌に現職の総理大臣を含めた与野党の国会議員が寄稿する光景が日常化しているのは明らかに問題です。野党議員でもここに顔を出している人がいますが呆れます。

 「見出しではなく中身を読め」「記事の内容に差別や嘘は無い」と反論されるでしょうが、記事を寄せている面々はSNSなどで人種差別発言、差別デマ、野党批判デマ、全く筋の通らない安倍政権擁護、歴史修正発言を繰り返してきた人が多数含まれています。アメリカ大統領選挙で選挙に不正があったとするデマを垂れ流した人も多数います。「うちの雑誌上での出来事では無いので知りません」で済むでしょうか?しかもこうしたデマはこの面々でお互いにSNSで拡散し合っているケースも多いです。

 現職の総理大臣がここに何度も登場している、というのは、こうした行為にお墨付きを与えているような行為です。そして総理大臣の退任後に出てきたのが上記のオリンピック発言でした。Hanada編集部側はTwitterで

「安倍前総理の発言は五輪を政治利用する野党に向けられたものであり、「共産党に代表されるように、」が前置きです。悪質な印象操作!」と反論。つまり「反対する国民を反日認定してんじゃなくて、元々反日である野党や共産党を指しているだけだ」と言いたいんでしょうが、そもそも「共産党などの野党や朝日新聞=反日」という発想の時点で、自分たちの内輪だけで通じる脳内世界です。ましてや、彼らが「日本がオリンピックで成功することに不快感」をいったいどこで示したんでしょうか?朝日新聞はオリンピックのオフィシャルパートナーなんですけど。

 また、2017年の衆議院議員選挙では、安倍首相が絶賛して自民党に招いた杉田 水脈(すぎた みお)が当選。しかし彼女は、ご存知の方も多いでしょうがLGBT(性的少数者)に対して

「彼ら彼女らは子どもを作らない、つまり『生産性』がない。そこに税金を投入することが果たしていいのか」といった発言をしたほか、

・男女平等は、絶対に実現し得ない、反道徳の妄想と発言
・『子供を家庭から引き離し、保育所などの施設で洗脳教育をする。旧ソ連が共産主義体制の中で取り組み、失敗したモデルを21世紀の日本で実践しようとしている』と保育所拡充がコミンテルンの陰謀だと主張
・天皇制に反対する団体の本部だとしてSNS上に住所を晒すもその内容がデマ
・雑誌の寄稿で「ヨーロッパでホテルに泊るとテレビが韓国製なのは、日本の技術力が落ちたのではなく中国や韓国が組織だった活動で日本の評判を落としているせい」と現実離れした持論を掲載

など、デマ、陰謀論、妄想、差別的内容を繰り返し発信しています。民主主義、多様性、反差別という社会の基本原則を考えればこれらの行為はとても許されるものではないと思いますが、自民党はお咎めなしで未だに党所属の国会議員。それどころか、安倍氏死去後に現在の内閣総理大臣・岸田 文雄が行った役員人事では杉田議員に総務省政務官という役職が与えられました。
 分かりやすいので杉田議員だけを取り上げてしまって申し訳ないですが、同系統の発言は複数の議員が行っており、一向に対応しない、改善されない、それどころか役職が与えらえるということは、組織として平和で開かれた平等な社会など望んでいない、と言っているも同然ではないでしょうか?

 それを長年にわたって党のトップとしておさめて来たのが安倍氏であり、その道義的責任は免れないと思います。本来なら率先して『差別はダメ』『相手の意見も聞きなさい』といさめるべき立場の人間が助長するような行動を行い、これでいて選挙運動中に銃撃されて亡くなったことに自民党が「民主主義に対する挑戦だ!」と声高に叫ぶ人たちの言葉は私には空虚にしか聞こえませんでした。

いらすとやより
色眼鏡で見る人のイラスト(男性)



 そして、結果的に安倍氏の命を奪うことに繋がってしまうのが、世界平和統一家庭連合、いわゆる統一教会との繋がりです。面倒ですのでこの先も統一教会と書きます。安倍氏を銃撃したとして逮捕された山上 徹也は、警察の調べに対して「母親が統一教会に多額の寄付をして家庭が壊れた」ことを理由に挙げ、元々は統一教会の総裁・韓 鶴子(ハン ハクチャ)の来日時を狙って殺害を目論んだがイベント会場に入れず、その後はコロナ禍で来日自体が無くなり、統一教会と関係の深かった岸 信介の孫である安倍 晋三を標的にした、という趣旨の供述をしているとされています。
 来日やら韓やら岸やら安倍やらいっぱい出てきて繋がりが分からないので、少しだけ話をそもそものところへ持っていきます。


 世界平和統一家庭連合は元々『世界基督教統一神霊協会』という名称でした。宗教なので一般には『教会』だというイメージですが、名称としては『協会』となっています。韓国の文 鮮明(ムン ソンミョン)という人が1954年に設立したそうで、数年後には日本にも足を延ばしていました。韓国では1994年に現在の世界平和~という名称になり、日本では2015年に変更されました。今私がこれを書いている時点で問題になってるやつです^^;

 1950年、朝鮮戦争が勃発して世界が東西冷戦へと向かっていく時代。統一教会は『反共産主義』を掲げることで政界と接近したとされ、1961年に軍事クーデターで政権を手にした韓国の朴 正煕(パク チョンヒ)政権に接触してうまく取り入ることに成功したとされています。

 日本でも同様にいわゆる保守派の議員に接触して、『共産主義勢力に対抗するための組織を作りましょう』という感じで持ちかけたようです。そして、その際に文鮮明の考え方に共感した大物議員の1人が岸 信介でした。岸は1957年から60年まで内閣総理大臣、そして安倍晋三から見ると祖父にあたります。
 最初のきっかけはさすがに古すぎて分からないようですが、岸氏が一時私邸として使用していたお隣に統一教会の関連組織と思われる施設があり、これが接点となった模様。後年、岸氏がこの家を手放すと、ここはそのまま統一教会が手に入れて日本の本部となりました。(現在はもう存在しません)

 統一教会は1964年に日本で宗教法人の認可を取得、その4年後に『国際勝共連合(こくさいしょうきょうれんごう)』という政治団体が結成されました。これを後押ししたのが岸 信介と笹川 良一。笹川氏はモーターボート競走法成立にかかわり、現在の日本財団を作った人。現在衆議院議員を務めている笹川 博義の祖父にあたります。当時、笹川氏は保守派の重鎮でした。こうして文鮮明/統一教会/国際勝共連合と自民党にはかなりの繋がりが生まれました。これは歴史的な事実と言えます。

 山上は『岸信介が統一教会を日本に招いた』と供述しているそうですが、おそらく根拠はこのあたりから派生したものと思われます。岸が招いたする根拠は無いのでデマだと思います。一方で、日本でのその後の浸透に彼が貢献したというのは史実に基づく話です。
 これは余談ですが、もし統一教会と岸/安倍家に何のかかわりもありそうもなく、完全にネット上の荒唐無稽なデマ妄想であった場合、過去に私が何度か記事で啓発して来た『デマは人を殺す』がまさに現実になったことになります。今回は『当たらずも遠からず』というやつですが、いずれにしてもデマが恐ろしいことも抑えておきたい点です。


 こうして日本進出の足がかりを得た統一教会ですが、1980年代になるといわゆる『霊感商法』が社会問題化。簡単に言うと「あなたの先祖の霊は生前の行いが原因で苦しんでいる。それが原因であなたにも不幸が訪れるので先祖を解放してあげないといけない。そのためには・・・」と、寄付をさせたり、壺・印鑑などを買わせるものです。統一教会では先祖を何世代もものすごい遡って行って、そこに1人当たりいくらの掛け算というすごい計算で寄付額が決まるとも言われています。
 さらに1992年には教会が行う合同結婚式に芸能人の桜田 淳子が参加していたことが判明し、大きな関心を持たれました。合同結婚式は韓国に参加者が持参金を持っていくので、これも大規模な集金イベントと言えます。

 80年代後半から90年代といえばベルリンの壁崩壊に代表されるように東西冷戦が終結し、世界がグローバル化、束の間の平穏へと向かう時期で、教会からすると反共産主義路線の必要性が社会的に薄れる時期です。結局、文総裁は北朝鮮を突然訪問して最高指導者である金 日成(きむ いるそん)と会談。かなりの持参金を持って行き、その資金源は主に信者からの寄付だったとされています。もう反共産主義路線から話がどんどん変わってきました。
 そもそも、反共産主義はある種政治に取り入るための建前という面が大きいとみられています。彼の基本的な思想には簡単に言うと『日本は第2次世界大戦で朝鮮半島に酷いことをしたんだから、その償いのために日本はこちらに尽くすべきだ』というようなかなりの怨念めいた思想に基づいています。(実際はもっと卑猥な書き方がしてある)もちろん、日本向けにはこんなこと言ったら袋叩きに遭うのでわざわざ口にはしません。

 熱しやすく冷めやすいのがメディアのお得意で、やがて統一教会の話題は世の中から消える、というかオウム真理教という別のカルト宗教が日本を揺るがすことになったわけですが、政治との繋がりは1970年代ほどの熱意は無かったでしょうが延々と続いていたものとみられます。あ、若い方はもうオウム真理教の一連の事件も知らないことが多くなっているようですが、カルトと陰謀論が結びついて無差別犯罪集団へ至る過程は絶対に知っておくべきです。
 1992年、アメリカで有罪判決を受けているために規定で本来なら入国できない文総裁を、当時の自民党副総裁・金丸 信の働きかけで入国を可能にした、という出来事もありました。今回とは関係無いたまたまの話ですが、金丸は文総裁が来日する10日ほど前に選挙の応援演説終了後に銃撃され、弾丸が当たらなかったので助かった、ということがありました。右翼団体の構成員による犯行だったとされます。恐ろしい話です。
 

 そしてようやく安倍さんのところに話が戻ってきますが、彼が官房長官を務めていた2006年に、複数の国会議員が『天宙平和連合(UPF)』の合同結婚式を含むイベントに祝電を送っていました。UPFは文鮮明と、妻である韓鶴子が作った団体で、文鮮明は既に亡くなっているので現在は韓鶴子が代表を務めています。表向き別の団体となってはいるものの、統一教会と同一の団体とされています。そして、山上が安倍殺害を決める転機となったと思われるのも、2021年にUPFが開いた大会に安倍氏が動画メッセージを送ったためでした。

 ご時世もあってオンラインイベント、という感じだったこの大会には他にも多くの元国家元首などが動画を寄せ、その1人がトランプ氏でした。アメリカには『ワシントン タイムス』というタブロイド紙がありますが(※ニューヨーク タイムスとワシントン ポストを足して2で割った名前なので間違えないように!)、これを作ったのが文鮮明。トランプはこれを称賛。トランプ、というか共和党には日本の自民党と同様に反共産主義で一定の繋がりが維持されているものとみられています。
 なお、ワシントンタイムズは白人至上主義者を執筆者に起用するなどいわゆる保守系として知られており、バラク オバマについてのデマ・陰謀論を掲載したことがあるほか、2021年の連邦議会襲撃事件の際にデマを流したことで知られています。

 また、トランプ氏を支持する団体に世界平和統一聖殿(通称サンクチュアリ教会)というのがあり、これは文鮮明の7男が跡目争いの末に分裂させて作ったような組織。銃に忠誠を誓って、儀式では銃弾を模した冠をかぶる、という見るからにおっかなそうな方々です。韓鶴子とは対立関係にあるみたいですが、Qアノンの陰謀論を垂れ流し、連邦議会占拠事件にも参加していました。全くの偶然ですが、この教会は2022年6月に指導者が来日して日本での宣伝活動をしていきました。

 他にも元国連事務総長の潘 基文(パン ギムン)も同様にこの大会に登場しており『世界の著名な人が集まっているんだからおかしなものではない』と思う人がいるかもしれませんが、むしろ逆で『そのぐらい政界に統一教会が浸透している』と考えておいた方が無難です。
 というのも、潘基文は2020年に統一教会から『鮮鶴(そなく)平和賞』の『創設者特別賞』というのを受賞して50万ドルが送られています。この年は文鮮明生誕100周年記念だったそうです。『関連団体』ではなく、完全に『世界平和統一家庭連合』主催のイベントです。
 まさに広告塔、権威付け、社会的信頼を生むために著名人が寄与していると考えられます。潘氏は2017年ごろにも他の新興宗教との関係が取りざたされたこともあるようで(さすがに韓国語の媒体まで探すのは難しく深堀できず)、事務総長退任後は評判がよろしくない雰囲気がありますね^^;

 上に書いた、明らかに差別的な言動やデマを繰り返す人物が多数名を連ねる雑誌に登場するのと構図としては同じだと思います。問題視されているカルト宗教関係団体のイベントに有名人、ましてや元国家元首などが出演するというのは、大きな広告塔の機能を果たすということです。この問題については現在も報道が連日のように続く状態(ただしメディアによって随分と濃淡がある)ですが、擁護する側の理屈を見て行くと

・祝電やメッセージぐらい頼まれたら送る
・統一教会は悪い組織ではない  
・安倍と統一教会は天敵で摘発に貢献した
・統一教会と政界の問題は従来から右派が主張してきた
・関係あったから何だっていうんだ
・銃撃犯は別に存在する!  

など。明らかに事実関係と符号しなかったり、カルト宗教による被害という問題を自己責任に矮小化しようとしたり、完全に陰謀論に走ったり、正直擁護になっていない内容ばかりです。そして、これを主張している中には、先ほど挙げた雑誌に登場する安倍大応援団となっていた人々が多数含まれています。

 以前のアメリカ大統領選挙のデマを指摘する記事でも少し触れましたが、支持=何でも賛成、ではありません。おかしいものにはおかしいと言えてこそ本当の応援者だと思いますが、驚くほどにみなさん擁護に回っています。大統領選挙デマの際には、この界隈でも陰謀論者と否定派に分かれ、否定派が裏切り者扱いされてこの界隈から『干された』というような内輪もめ(?)もありましたが、そのぐらい『否定的なことを言う=裏切り者』というような発想が定着してしまっている怖さを感じます。
 「安倍さんが悪いことをするはずがない。おかしいのは批判する方だ」という結論が先にあるせいか、こういうとお金になるから嘘だと分かっていてわざとやっている(読者を釣っている)のか本心は分かりませんが、何でデタラメに理屈を切り貼りしています。もうここまで来ると、これ事態がカルト化だと思います。これも以前に少し書きましたね。
 ちょうど2022年8月12日にはUPFが韓国でイベントを開き、その中で安倍氏の追悼も行われました。追悼に際してトランプ氏からもまたコメントが寄せられていましたが、『安倍さんと統一教会は天敵だった』と主張していた方はこれでも対立関係だと考えているのでしょうか?

 この問題で一番最初に取り上げられたものに、参議院選挙の候補者だった井上 義行が選挙期間中に統一教会の集会に参加し

「正直に言っちゃっていいですか。同性婚、反対ということを。私は、普通の政治家と違うんです。オブラートに包んでしゃべることが苦手なんですね。私は信念で言っている。同性婚には反対ということを信念をもって言い続けます!」「私の政治活動は、しっかりとみなさんの考え方を堂々と言うように、判断を仰ぐ政策を前に進めるものなのです。」

 などと発言して聴衆から喝采を浴びている場面が頻繁に登場したと思います。この統一教会票をそもそも安倍氏が差配していた、という複数の証言も出てきており、持ちつ持たれつであったことは状況からかなりの確度で疑えます。
 実際のところ、自民党の考え方と統一教会の考え方が似ている、というよりは、自民党に取り入って存在感を示すために、統一教会が自分たちの主張を合わせている、という側面も大きいと思いますので、統一教会と言っていることが同じ=信者、とかそういう安易な決めつけはすべきでないと思います。統一教会がいようがいまいがそういう主張をする人はいるでしょう。
 ただ、双方が呼応し共鳴することによって影響力が大きくなり、本来明らかにおかしいはずの考え方がより広く浸透する土台を作ってしまっている点で問題があることには変わりありません。振り返れば『夫婦別姓は共産主義のドグマ』とか、『男女平等は反道徳』とか、こういった話は統一教会が掲げるものと一致しているので、どちらにしても教会とすると存在感向上に寄与しています。「ほら、あの安倍総理も以前に我々と同じ事言ってましたよ」と。
 なお、統一教会系の機関紙に『世界思想』というのがあり、安倍氏はその表紙として複数回登場しています。インタビューとか具体的に出演をしたわけではなさそうですが、安倍政治を賛美する内容と思われます。よく似た名前の『世界思想社教学社』というのが存在しますが全く関係無い会社なのでご注意ください。


 安倍政権では統一教会と関りのある人物を閣僚に起用するケースが増えた、と言われますが、正直『統一教会だから優遇された』のか『安倍首相と考えを共有する価値観の人は統一教会と関りがあることが多い』のか、定かではないというかほとんど卵が先か鶏が先かぐらいの話だと個人的には思います。というのも、こうした考え方にはもう1つ『日本会議』というのも関係してくるからです。もうさすがに長いのでここは割愛します。

 全国霊感商法対策弁護士連絡会によれば、2018年に安倍氏が統一教会に祝電を送ったため抗議文と質問状を送ったけど無反応、2021年も同様だったとのこと。これで「UPFがあのカルト宗教団体とは知りませんでした」とも言えないでしょう。

 被害者救済団体から抗議されても知らん顔をして社会的に問題のあるカルト宗教団体の広告塔になった人を国葬なんてしたら、その組織はどう考えるでしょうか?「国葬されるほど凄い人に私たちは支持されていたんだ」と宣伝するのではないでしょうか?(既に大々的な追悼が行われてそうなってしまった感じすらあります)さすがに批判されるのでそこまで大っぴらには言わずに黙ってるかもしれませんが、そういう宣伝効果を生むのは明白です。これも私が反対する理由です。


・統一教会が反社会的勢力だと言った世耕議員

 ところで、この事件が起きる3年も前に統一教会を巡ってとある裁判を起こした人がいました。自民党の参議院議員・世耕 弘成。安倍氏の側近の1人とされています。祖父の世耕 弘一は近畿大学の創設者で、弘成氏自身も理事長を務めてます。

 そんな世耕議員について、2018年に青山学院大学の教授・中野 昌宏という人が他者の投稿を引用する機能を使って「世耕弘成は原理研究会(統一教会)出身だそうですね。日本会議とシームレスにつながる」「世耕が原理なの、けっこうみんな知らないのな。」と投稿。引用元の投稿の内容は、要するに世耕議員がインタビューで「生活保護を受給する人は人権に一定の制限をかけるべき」と主張していることに反対する投稿でした。

 これに世耕議員は「原理研や統一教会に対して、反社会的な団体であるとの印象を抱く者が少なくない」とし、「書き込みは社会的評価を低下させるものだ」と名誉棄損で訴訟を起こしました。中野教授はこれを『批判的な言論に対する脅し(スラップ訴訟)だ」と反訴して現在も進行中です。
 権力を持つ者がいきなり裁判に出るやり方は言論を委縮させることから慎まれるべき行為だと思います。ただ、中野教授も特に具体的根拠を持っているわけでも無さそうで、私はこのツイートも問題だと思います。実際、反訴の内容を見ても世耕氏が原理研に所属していたかどうかではなく、主に自民党と統一教会が半世紀以上に渡って関係を持ち続けてきたことを挙げた上で、主張がそっくりで、自民党と統一教会がつるんでるのは周知の事実でしょ、という感じの論法のようです。それはそれ、これはこれではないでしょうかね。

 なお、『原理研』というのは統一教会関係の学生組織で、『教会の創始者である文鮮明の統一原理を研究する』という意味合いです。全国の大学に組織されているようで、CARPという名称で呼ばれることも多いようです、もちろん広島東洋カープとは一切関係ございません。これから大学に入る方はマジで基礎知識として入れておいた方が良いです。ここに限らず、カルトは様々な手法で巧みに誘ってくるようです。

 話を戻すと、『統一教会悪くない論』からすると、統一教会を『名誉が棄損される程度に反社会的な団体だという印象を持っている人がいる』と認識している世耕議員とは話が相いれないことになります。世耕議員は統一教会を勝手に悪者扱いした酷い人間だということになります。
 一方で世耕議員の言う通り「反社会的な団体であるとの印象を抱く者が少なくない」のであれば、統一教会と関係があるということを濃淡はあるにせよ説明し始めた議員については、反社と付き合っていたんだから問題大ありだと言っていることになります。たぶん自民党と統一教会の話がこれほど大きく取り扱われるとは思っていなかったからだと思いますが、世耕議員は妙な矛盾を自分で抱えてしまいました。訴訟で勝つと安倍氏を批判していることになってしまいます。

 なお、この話にはもう1つの矛盾点があります。2019年の桜を見る会に反社会的勢力の人物が招待されていたとされる問題に際し、当時の官房長官・菅 義偉が
「反社会的勢力の定義が定まっているわけではない。『出席していた』とは申し上げていない」

と答え、じゃあ反社会的勢力の定義を改めて提示してくださいよ、という質問主意書に対して、菅内閣は
「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難だ」

という内容の閣議決定をしました。(質問主意書には閣議決定で回答する、という規則があります)。世耕議員が「反社会的な団体と関係あると思われて名誉を貶められてる」と裁判を起こしたのに、政権がその数か月後に「反社会的勢力の定義は決められません」と言ってしまったんですね。どれかの意見をとったら必ずどれか崩れる状態です。
 ちなみにこの『反社会的勢力』という単語、最初に公的な場面で出てきたのは2007年の第1次安倍政権の時で、この際に反社会的勢力の意味するところは「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」であると注釈が書かれています。社会情勢が変わってもこれが変わるとは思えないんですが、何がどう『統一的な定義は困難』なんでしょうか?じゃあ2007年に提示した指針は何だったんでしょう?

 雑誌にしろカルト宗教にしろ、知名度や社会的信用度の高い人間が関与する、名前を出す、ということは、その存在にお墨付きを与える行為に他なりません。だいぶ前に私はオートスポーツ誌がやたらと『SEV』という商品を推していることに関して批判する記事を書いたことがありますが、これも同じ理由で批判しました。違法でないから問題無い、で済む話ではないと思います。

 次回に続きます。

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