サンパウロGP、悪天候SCにまつわる色々

※11/7 新しい情報があったので内容に加筆修正を加えました

 こちら、F1 第21戦 ブラジル の記事からの派生記事です。2024年のF1第21戦・サンパウロはおそらくフェルスタッペンとノリスのチャンピオン争いにおける最大の山場であり、悪天候に見舞われて様々なことが起きながらもこのレースを制したフェルスタッペンはチャンピオンに王手をかけるレースとなりました。たぶん後から振り返ったら最後の分水嶺だったことになるんでしょう。1か月後に違ってたら笑ってくださいw

 で、その中でレースの1つの分岐点だったのは30周目に出されたSCでした。誰かがクラッシュしたわけではなく雨の増加、悪天候を理由としたSCでしたが、この後SC中にコラピントがクラッシュしてレッドフラッグとなったこともあり、大雨の中でもタイヤを換えずにインターミディエイトで耐え続けていたオコン、フェルスタッペン、ガスリーの3人が大きな利益を得た一方で、その数周前まで上位を走っていたラッセル、ノリス、角田はタイヤを換えた後にレースが中断してしまったので損しました。特に角田、ローソン、ペレスはインターミディエイトではなくウエットを選択したことで大雨の状況では圧倒的に有利になっており、彼らノリスや角田やペレスを応援している人からすると納得いかないSCだったと思います。
 私もちょろっと見た感じでいくつかの批判的な意見を目にしましたが、あんまり誰かに肩入れしていないただのレース好きの中年としてはどう思ったのか、というあたりを、本編の記事にいれたらただでさえ長い文章が長すぎて終わらないので独立させました。こういう感じの意見が出ているんじゃないかなあ、という想像の下、それに答えるような形で構成したいと思います。

☆そもそも今の車は水煙が多い

 まず基本的な点を1つ。2022年から導入されたグラウンド エフェクトと呼ばれる思想の競技車両というのは、ものすごく大雑把に言うと床下の狭い通路を通った空気を後部でグワっと引き抜いて地面に車を吸い付ける仕組みになっています。ここで路面上に水がある場合、この空気の流れに合わせて水も一緒に遠く高く、なってしまうため、従来型の車両よりも水しぶきがより大きくなってしまうと考えられています。
 FIAもこうした問題は既に認識しており、タイヤや車体のちょっとした部品で水煙を軽減できないものかといくつか走行試験も行われました。でも効果的なものがなく特に大きな進歩は見られていません。ちなみに2023年に公開されたと思われるレッドブルの公式サイトの記事 F1:天候がチームとドライバーに与える影響 では

『雨天では単独走行中でもドライバーの視界が悪化し、追走中のドライバーも前走するF1マシンの水しぶきで視界が悪化する。新規採用されているグラウンドエフェクトタイプのF1マシンは水しぶきを軽減するが、雨天でのオーバーテイクはビッグチャレンジであることに変わりはない。』

 とグラウンドエフェクト車両は水しぶきが少ないかのような表現になっていますが(原文記事でも The new ground-effect cars are designed to reduce spray と書いてある)、これが『絶対的に少ない』という意図で書かれたものなのか、『マシになるようには一応考えて作ってはある』という意味なのかちょっとよく分かりません。
 ともあれ、現行車両は構造的に水煙が上がりやすいため視界不良によるレースの中断は発生しやすくなっている可能性があることはまず1つ知っていただけると良いかなと思います。もっと論理的に説明できる方を募集しております(・∀・)ではサンパウロGPの話題に戻ります。

・大雨でSCっておかしくない?

 まず気になったのはこの部分でしょう。誰かが事故ってしまって危ないからSCが出たりレッドフラッグになるならまだわかる、でもまだ何も起きていないのに勝手にレースディレクターが止めてしまうのはおかしくないか?という見方です。これが一歩進むと「フェルスタッペンを勝たせるためだ」「アジア人の角田に勝たせたくないから差別だ」とかいう陰謀論にも繋がるのではないかと、割と真面目に危惧してる部分です。
 あの時に雨量が増加していたのは明らかで、例えばリーダーのラッセルはそれまでの1分23秒台のペースから24秒、25秒、26秒と落ちていったところでヒュルケンベルグが飛び出してVSCとなり、その後ピットへ入りました。その後はピットに入った人の記録が参考にならないんですが、入らなかった3人はVSC解除後の加速でやや計測ライン~ターン1までが遅いことを除くと29周目をほぼまるまるクリアーな状態で走りました。その時の記録がオコンは1分40秒、フェルスタッペンは1分45秒、ガスリーは1分42秒とベラボーに遅くなっていました。そして30周目の途中でSCが導入されました。
 motorsports.comの記事でも検証がされているんですが、タイヤを換えたノリスたちの29周目のセクター2から、30周目のセクター1のタイムを合算しても概ね似た数字となっています。同記事によるとその際の角田は各セクターで秒単位でインター勢よりも速く、そのまま行ったら下手すると1周で10秒ぐらい速い計算になったそうなんですが、それでもセクタータイムを合算すると1分38秒ぐらいになります。仮にSCが出ず30周目を1周していたらもっとセクター2以降は遅くなっていて1分40秒に近かったかもしれません。
 今年はほぼドライで走っていませんが、FP1や予選の傾向から30周目あたりの燃料搭載量で1分16秒かそこらのペースでドライのレースが行われていたと仮定すると、1分40秒なら130%を超えている状態で一般的な尺度としてはレースを続けるのはだいぶギリギリの厳しい状態だというのは客観的な数字から読み取れます。
 私も第1印象としては『もうちょっと走らせてても良かったんじゃないの?』と思いましたが、雨量が見るからに一気に増えて視界も悪化していますし、テレビ中継で見ている我々のパッと見以外にもレースを動かす側には多面的な判断材料や情報があったと考えられます。こりゃあ酷い雨だ、まだ降るしもうすぐあっちこっちでコース外にすっ飛ぶのは目に見えてるぞ、となったら止めてしまう判断をするのはやむを得ず、そうした背景を考えずに頭ごなしに即座に良いの悪いのと言うのはちょっと違うと思いました。実際、ラップタイムを整理して眺めると「あー、そりゃあ止めてもしゃあないか。」と思える内容でした。
 素人なんでおかしいと思うのは別に構わないし疑問を持つのは良いことだと思いますが、調べないうちから大声で世界に向かって文句を垂れ流すのはあまり行動として適切ではないと私は思いますので、みなさんもそのあたりは気を付けていただければ、と個人的に思います。

※今回のSC導入は視界不良よりも路面状況の悪化が主因と考えられることが分かりました、追記部分参照。

・インター履いてた人の自己責任じゃない?

 インターミディエイトがSC直前にはもうドライの140%ほどのタイムになっていて、もうまともにコース上にとどまるのも難しかったのは確かなこと、後にSC中にコラピントが事故った状況からも分かります。そんな中で次に浮かぶ疑問として『ウエットの角田はちゃんと走れてたんだから、インターで走って困ってるのは自己責任じゃないか』というのがあると思います。
 基本的にはその通りで、インターでダメならもう1回ピットに入ってウエットに換えたら済むだけの話で、最初からウエットを選んだ人は少なくともその段階では大正解でした。たださっきも書いたようにあの時はインターを履いていて2周で15秒近くいきなりペースが落ちるぐらいの雨量で、ウエットでもおそらくまともに走れない状況は間近だったと思います。いわゆるバケツをひっくり返すぐらいの雨というやつでしょう。それに何より、タイヤ云々以前に水煙と雨の両方でかなり視界が悪くなっていました。
 そのままウエットで走っていたら角田がぶっちぎって最低でも表彰台、あわよくば優勝してたかもしれないのに、とついつい思ってしまいますが、ちょっと視点を変えるとウエットで快走していた角田の目の前にいきなり水煙の中からスピンしたノリスの車が現れて突っ込んでいた、という可能性もあの状況なら起こり得る話です。悪天候でレースを止められたせいで7位しか獲れなかった、という現実世界の結果に対して、レースを続行した世界線では角田は優勝どころか今頃もうこの世にはいなかった、という可能性だって最悪の場面として考えられます。
 それも含めてレースだと考えるなら仕方ないですが、少なくともあの瞬間に関してインター自己責任論で続行するのが良いことかと言われたら、そこまで行くと私には人殺しを面白がってエンタメにしているレベルになってしまうと思うので違うと思います。やはり止めるべきものは止めないといけないでしょう。
(ちなみにローマ時代のコロッセオでの闘技も、近年の調査では殺し合いではなく鍛えられたエンタメ集団によるショー、今でいうプロレスのようなもので死ぬまでやっていた事例は少ないのではないか、とする説があるようですね。)

・何もしなかった人が有利ってズルくない?

 最終的に悪天候SCの際にもひたすらコース上にとどまっていた3人がそのまま表彰台に上がることになったわけですが、あれこれ苦労していたドライバーのファンからするとなんかズルく見えてしまったかもしれません。ルクレールなんて真っ先にタイヤを換えに行きましたから、動かずじっとしていたオコンの方が前に行ってしまっては腹の1つぐらい立っても不思議ではないでしょう。

 でも、ステイアウトした人たちというのは『こういう条件なら運営はレースを一旦止めてしまうはずだからそこまで我慢することに賭ける作戦』を採ったわけで、先んじてタイヤを換えた人やVSC中にタイヤを換えた人、周囲の動きに惑わされずウエットを選んだ人だけが作戦を実行したわけではないと思います。溝が減ってきたタイヤですっ飛ぶ危険性もある中で走り続けるのも勝負なわけで、狙い通りSCが出たけど数周でレースが再開された、案外レースディレクターが呑気でSCが出ない、といった理由で大失敗した可能性もありました。そこはまたレースの一部分、作戦として見なければいけない部分だと思います。
 実際オコンとかよく耐えたと思いますし、フェルスタッペンなんてリタイアしたらヤバいのにレッドブルはよくそんな危ない橋を渡ったなと思いますよ^^;

・赤旗中にタイヤ交換できるのが悪いんじゃない?

 モナコGPでもかなり言われたと思いますが、F1はレッドフラッグで中断するとタイヤ交換もできる規則で、これが基本的にピットに入らず残っていた人をたちどころに有利にしてしまう要因になっています。NASCARでもSUPER GTでもそんなことはできないので疑問を感じる部分ですし、今回のサンパウロの場合も『悪天候SCは出たけど、コラピントが事故ってレッドフラッグになる事案が無かった世界線』があったとするなら、古いタイヤでのリスタートを余儀なくされた上位勢は大失敗したかもしれません。
 実際、コラピントが事故らなかった場合にレースディレクターがSC先導走行のままコース状況の改善を待ったのか、やっぱり一旦止めようとなってどっちみちレッドフラッグになったのかはけっこう微妙なところだと思うので、実際にレース結果にとどめを刺したのはコラピントの自滅とタイヤ交換ルールとも言えます。

 じゃあ何でタイヤ交換ができるんだ、というと、レッドフラッグが出るほどの事案が起きている=コース上に破片が散乱するような大事故である可能性が高いので、現場を通過してパンクしている人がいると非常に危なく、タイヤの損傷に気づかない、あるいは怪しいと思いつつも順位を下げたくないのでそのまま行った結果事故になる、といった可能性が考えらることが主な理由と思われます。
 じゃあそういう人だけ交換して良い規則にしたらどうだ、と言っても線引きが難しいですし、破損が見つかったらOKなんてルールにしたらみんな喜んで破片を踏みに行くか、自分からガードレールに軽くぶつけてわざとパンクさせて帰ってくるような人が出てきてしまうでしょう、全部いちいち検証していられません。
 事故現場近くを通過して不可抗力でタイヤを傷めた人とそうでない人の間に大きな不公平が生じるのは良くない、偶然さっきタイヤ交換した人が異様に有利になる、いちいちタイヤ交換の可否を細かい規則では縛れない、しかもレッドフラッグからの再開は基本的にグリッドスタートだ、となったら、じゃあもう全員交換できるようにするのが一番平等でしょう、とこういう結論と思われます。
 これに関しては、上記の通り他のカテゴリーではレッドフラッグ=一切車に触れない、という運用が多く、貰い事故のパンクもまたレースの一部だと考えればレッドフラッグ解除後の隊列走行中にタイヤを換えたい人だけ任意で交換し、その後にレースを再開するNASCAR的手法であっても構わないので、本当に運営や見ている人の好みや何を重視するかの問題になると思います。
 F1の場合は傷が入ったタイヤで走った結果バーストが起きたりするとすぐにタイヤ屋さんが批判されるので、タイヤ屋さん側の要望として傷んでいるかもしれないタイヤでのレースはやってほしくない、というのもあるだろうし、破片を踏んだかもしれない人が意地を張った結果大事故が起きると、さっきの自己責任論と同じで自分が事故って死ぬ分にはまだしも、他人を死傷させたらたまったもんじゃありません。そういう状況を防ぐための安全策だと考えると一定の割り切りも必要です。それに、そもそもどのルールでも大儲けする時もあれば大損する時もあってだいたい長い人生ではトントンになるものです。
 NASCAR式の運用にしてしまって、再開後にピット レーン オープンで交換したい人だけ交換して隊列最後尾からリスタートというのもあると思いますが、パンクして200km/h超で壁に突っ込むのが日常でそういう前提で安全対策がしてあるストックカーと、それとは比較にならないほどコーナーで大きな力がタイヤに加わるF1を同列には語れませんから、最も確実性があるやり方として現行の仕組みはそれなりに合理性があると私は思います。
 あ、レッドフラッグ中のタイヤ交換でも2種類のドライタイヤを使用する義務を満たしたと判定してもらえる仕組みが妥当かどうかについては、また別の論点が必要になるので今回は除外します。

11月7日追記

 motorsports.comに新たな記事
 が投稿されており、『FIAのある人物』という人の証言だとする話が掲載されています。この内容をザックリまとめると、

・SC導入理由は視界不良よりも路面状況の急激な悪化
・5分間ほど強雨の予想だったので、ここだけSCで繋いで再開する予定だった

 ということでした。この『ある人物』の話が本当かどうか知りませんが、事実と仮定すると私が上に書いた

『こりゃあ酷い雨だ、まだ降るしもうすぐあっちこっちでコース外にすっ飛ぶのは目に見えてるぞ、となったら止めてしまう判断をするのはやむを得ず』
『コラピントが事故らなかった場合にレースディレクターがSC先導走行のままコース状況の改善を待ったのか、やっぱり一旦止めようとなってどっちみちレッドフラッグになったのかはけっこう微妙なところだと思う』

というのはそれなりに的を射た内容だったようです。コラピントが事故らなければフェルスタッペンはどこかで新しいインターミディエイトを必要とし、もう少し下の順位でレースを終えていた可能性もありますね。

・じゃあウエットタイヤ最初から不要じゃない?

 もう1つ思い浮かびそうなのは『どうせすぐレースが止まるならウエットっていらないんじゃないの?』という疑問ではないかと思います。確かにウエットは出番が極めて少ないです、何せ先ほども書いた通りウエットを使わないといけないぐらい酷い雨になっているとレース続行不能な場合が多く、レースできるような状態では路面水量が少なすぎてすぐに壊れてしまいます。しかも今の車は視界不良を起こしやすいときたもんですから使える範囲があまりに狭いんです。
 よくフジテレビNEXTの解説で言われますが、一般的にドライとウエットのタイヤ、ウエットでも少雨用と強雨用のタイヤというのは、どちらを履いてもだいたい似たようなタイムになるクロスオーバー、境界線と言える水準が大まかに存在するはずが、F1のピレリではそれがうまく繋がらない傾向があります。
 タイヤの排水性能や剛性といったいくつかの性能面から、とりわけウエットはインターミディエイトに対して優位性を発揮できる条件が限られていてすぐにインターに負けてしまい、かといって雨量が増えるとレース自体が続行できないか、排水性能不足でウエットですら滑りまくるか、というのが大雑把な立ち位置です。となると、そんなほとんど役に立たないタイヤをわざわざ製造して運んでいる意味もないし、変に選択肢があるせいで有利不利も起きるのでいっそインターだけで良いじゃないか、とも思えてきます。

 しかし、路面の水は多いけどもう雨自体は降っていないような環境、比較的水煙が上がりにくい低速のコース、みんなある程度離れて走る予選ではウエットで走れる要素はあり、特に予選ではウエットの選択肢がないとセッションが開始できないような状況も考えられます。ウエットで走ってくれて効率的に水を吹っ飛ばしてくれるから、たとえそれはたった10分程度でもう役に立たなくなる代物でもイベント進行として役に立つわけですね、ある種の捨て駒かもしれませんけど。
 また雨での走行性能には車両側の性能も関わってくるので、ダウンフォースがしっかり出ていてサスペンションもしっかり動いているチームならインターで走れるものが、それができていない下位チームだとインターは滑りすぎて走れない、という状況も場合によっては起こり得ます。こうした要因から選択肢を残す必要性があると考えられますが、言い換えるとそういう条件ではもうスパッと走行するのやめましょう、と決めてしまえばわざわざ用意する必要が無いとも言えます。
 見る側の観点で言えば、例えば『ウエットがあれば走れたのに』という状況で予選ができない、決勝が始まらない、という出来事が稀に起きた際に、高いお金を払って見にいった立場として『そりゃあしゃあないな』と思えるかどうかでしょうかね。「ウエットいらねえ」と主張しておきながら、いざ自分が見に行って「何で走らねえんだ」と怒るようだとだいぶ身勝手な話になってしまいます。

 話をまとめますと、私見としては今回のサンパウロでは

・強雨によるSC導入はやむを得ない
・ステイアウト組が得したのはコラピントの事故による結果論の面があるので、一概にSC導入だけがレース結果の分岐点とは言い切れない
・赤旗中のタイヤ交換は仕方ない
・ウエットタイヤはいくつかの不利益を呑んでしまえるなら不要かもしれない

 という感じです。もちろん私も見落としている点が色々あると思うので、指摘された結果違う結論になることもあると思いますけどね。

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