NASCAR 第23戦 リッチモンド

NASCAR Cup Series
Cook Out 400
Richmond Raceway 0.75miles×400Laps(70/160/170)=300miles
winner:Austin Dillon(Richard Childress Racing/Bass Pro Shops Chevrolet Camaro ZL1)


 2週間のお休みを終えてNASCARが戻ってきました、カップ シリーズのレギュラー シーズンは残りが4戦。まずはレギュラーシーズン最後のショート トラックであるリッチモンド、今年2度目の登場です。1周0.75マイルと小さいながらも最大14°のバンク角を持ち、延々とタイヤが傷めつけられて摩耗が激しいことで有名なリッチモンド。今回新たな試みとしてタイヤの2スペック制度が導入されます。標準のタイヤが黄色いグッドイヤーロゴの貼られたプライム、グリップ力には優れるけどより摩耗しやすくて寿命が短いのが赤いロゴを貼ってあるオプションです。
 各ドライバーにはプライム8セット/オプション3セットが配布され、このうち各1セットは練習走行専用。予選で使用するのはプライムが指定されており、予選で使用したタイヤで決勝をスタートすることも規則で義務付けられているので、決勝では中古プライム1/新品プライム6/新品オプション2、を使用することができます。オプションの使用義務はないので使っても使わなくても構いません。ただでさえ摩耗が激しいトラックでオプションがどの程度役に立つのか短い練習走行でデータを集め、そこからエンジニア陣が頭をひねって戦う必要があります。
 なお、オプションとして使用されるのはオールスター戦でオプションとして使用されたのと全く同じタイヤ、一方プライムは左側が春のリッチモンドと同じD-5208というタイヤですが、実は右側はその時と異なるD-5220というタイヤです(前回のリッチモンドはD-5210)。D-5220はアイオワなどここ最近のショートトラックで使用されていたタイヤではありますが、春のタイヤのデータがプライムもそのまま使えない、というのは地味ですが大事な点です。

 その春のリッチモンドは雨で開始が遅れ、史上初めてウエット ウエザー タイヤが投入されました。その後のレースはマーティン トゥルーエックス ジュニアが速さを持っていましたが、チェッカー目前にコーションが出てオーバータイムへ。ピット作業で逆転したデニー ハムリンがオーバータイムを制しましたが、リスタートの加速開始が規則に反しているものでいわば『フライング』だったことで、レース後にトゥルーエックスがキレてチームメイトのハムリンにぶつけに行くちょっとした騒ぎになり、さらに運営もこの『反則リスタート』に対する処置の説明を求められてだいぶゴタゴタとしたレースでした。

・レース前の話題

 コリー ラジョーイが事実上スパイアー モータースポーツをクビになった話は別記事でお伝えしましたが、2週間の間にその他にも話題がありました。
 アメリカTRDの社長、つまりトヨタのNASCAR活動における最も偉い人であったデイビッド ウィルソンが2024年末をもって退任することが発表されました。ウィルソンは2014年からTRDの社長を務めていました。後任には競技、技術、広告などTRDの広範にわたる業務を管理しているタイラー ギブスが就任します。
 NASCARをちょっとでも見ている人なら「え、ギブス!?ジョー ギブスの家族がとうとうTRDまで支配下に置くの!?」と思ってしまいますが、実はこのギブスさん、ジョーギブスとは全く関係の無い他人でたまたま苗字が一致しているだけです。そもそも現役選手でジョーの孫であるタイ ギブスも本名はタイラーなので、これほどの家系で安易に名前が重複するようなことはしないでしょうからね、あーびっくりした。

 先ほどウエットタイヤについて書きましたが、このレースからオーバルでのウエットタイヤの運用について少し変更が加えられました。これまでウエットタイヤの交換はコーション中にNASCARが指定したタイミングで全員一斉の交換しかできず、クルーの安全性を考慮して非競争ピット方式で行われていました。
 これが今回からはコーション中であれば各自が任意に交換の有無を選択可能で、交換せずステイ アウトすることも可能となります。ただし交換できるのはウエットからウエットのみで、スリックへの交換は引き続きNASCARが許可を出すまで行うことができません。ピット組の作業が競争方式になるのか、引き続き非競争なのかはちょっと出ている情報だけでは判断ができませんでした。

 最後に、これはNASCARを見ていない人でも聞いた話題かもしれませんが、来年の8月2日にブリストル モーター スピードウェイでメジャー リーグ ベースボールが開催されます。アトランタ ブレーブス 対 シンシナティー レッズの試合となり、テネシー州にはMLBの本拠地チームが存在しないため同州として初のMLB公式戦開催となります。残念ながら今季の時点で両チームに日本人選手は所属していないのであまり取り上げられないかもしれませんが、あのサンダー バレーの闘技場のような客席に囲まれての野球、というのはなかなか興味がありますね。


・Craftsman Truck Series Clean Harbors 250

 クラフツマン トラック シリーズはレギュラーシーズン最終戦、ポイント リーダーのクリスチャン エッケスがポール ポジションからステージ1で勝利し、この段階でレギュラーシーズンのチャンピオンを獲得しました。
 しかしレースで速かったのは2番手スタートのタイ マジェスキー、レースの序盤をリードしながらステージ1終了後のピット作業で違反があって一旦は後方に沈みましたが、徐々に挽回していくと231周目のリスタートでリードを奪還。その後残り8周のリスタートでも意地の張り合いを制してそのままチェッカーを受け、前戦に次ぐ2連勝でレギュラーシーズンを締めくくりました。プレイオフに進出する10人と開始時点のポイントはこうなりました。

 最多の5勝を挙げているコリー ハイムがプレイオフ ポイント41を保有、3勝+レギュラーシーズン王者・エッケスが続きます。マジェスキー、ニック サンチェス、ラジャ カルースの5人が優勝経験者で以降はポイントでの進出。ポイント10位はこのレース前の時点ではタナー グレイで、ダニエル ダイがこれを5点差で追っていましたが、ダイはこのレースで8位+ステージ ポイント13点と稼ぎ、12位でステージポイント無しだったグレイを逆転しました。
 プレイオフのラウンド オブ 10はミルウォーキー、ブリストル、カンザスの3戦で行われて下位2名だけが脱落します。


・カップ シリーズ
 予選
 
 カップシリーズの予選では22秒850を記録したハムリンがブッシュ ライト ポールを獲得。2位は0.066秒差で全体3番手タイムのトゥルーエックスでした。2列目はジョッシュ ベリーとチェイス エリオット。チェイスは記録自体は全体で2番目、ハムリンから0.011秒差でした。3列目がクリストファー ベルとオースティン ディロン、4列目はクリス ブッシャーとバッバ ウォーレス、プレイオフをポイントで争う2人が並びました。


 絶不調のカイル ブッシュは予選12位とまずまずの順位でしたが、車を降りてきた彼の右手首には包帯が巻かれていました。前戦でクラッシュした際にステアリングの反力に巻き込まれて捻挫してしまい、交代要員は不要だとする一方で「2週間の休みがなければ出場はできなかっただろう。」とも話しました。骨折ではないので、今はもう回復しているとしています。

・ステージ1

 ハムリン、トゥルーエックスのワンツーに、18周目にはベルが3位に浮上してJGRの1-2-3体制。でもトゥルーエックスは僅か6周目から「ブレーキ シェイクがある」と言っているようで謎。まあだいたいこういう1-2-3で走るような時のJGRってみんな消えていくパターンな気がするので期待しないようにしましょうw
 毎度毎度レースで速いベル、35周目にMTJを抜くと46周目にハムリンもかわしてリーダーとなり、そのまま70周のステージ1を制しました。ハムリン、トゥルーエックス、ジョーイ ロガーノ、ウォーレスが続きました。
 ステージ終盤はフリー パスを巡るラジョーイとマイケル マクダウルによる29位争いがやたらと白熱して中継映像はそっちに集中していましたが、タイヤが苦しい中で大外ラインを使ってなんとか粘るラジョーイを最後はマクダウルがかわしてフリーパスを得ました。スパイアーを去る人と入ってくる人でここも綺麗に明暗が分かれましたw

・ステージ2

 ステージ間コーションで全車ピットへ、ベルはエリック ジョーンズと接触して相手を回してしまいましたが、あんまり減速しなかったので先頭でピットを出ることはできました。ただスプリッターが曲がっていたら空力的に大損害です。ベルはクルー チーフのアダム スティーブンスがお休みで、暫くの間はカー チーフのクリス シャーウッドが代役を務めます。シャーウッドはクルーチーフが初めてなので、ひょっとしたら周囲の確認等で少し不手際があったのかもしれません。ちなみにスティーブンスは休暇中に家族と出かけていて両膝を怪我して手術を受けたそうです、何があったんだ^^;

 スティーブンスの膝も気になりますがレースの方は81周目にリスタート、4周半にわたってベルとハムリンが並走し続けましたが、ここはハムリンが制しました。中団ではダニエル スアレスがオプションを履いており、リスタート直後からラインを変えて前の車を抜きまくっています。気づいたら91周目には2位、そして93周目にハムリンも簡単に抜いてリーダーになりました。2セットあるオプションのうち1つはレースの最後に使いたいでしょうからもう1つをどこで使うか、というのが最初の戦略の分かれ目ですが、先にカードを切ったスアレスがレースを動かしています。

 1周で0.3秒速いスアレスがしばしの独走、100周目にベルがハムリンをかわして2位となりますが両者の差は最大で3.3秒差まで広がりました。ただ105周目あたりからベルが毎周0.1秒ほど差を詰め始めており、スアレスがマネージメントに軸足を移したのもあるでしょうがオプションの効き目はとりあえず25周ぐらいという目安ができました。2ストップならまあなんとか120周目ぐらいまで走ったら残りをプライム2セットで行けるのでスアレスももう少しの我慢ですね。

 読み通り120周目あたりからピット サイクルとなり、まず121周目にスアレスと1秒差まで差を詰めていたベルが先に動きました、ここでもプライムを選択。これを見て翌周にスアレスもピットへ、さすがにここで最後のオプションは使えないので当然プライム、ベルがアンダーカットに成功して事実上のリーダーとなります。スアレスはどうせくたびれたオプションなんだから先に動いてトラック ポジションを重視した方がよかった気がするんですけどねえ。
 ここからは数名が1ストップに挑戦している以外に特に波乱もなくベルがリードする静かなレースとなりますが、先ほどのタイヤ交換で中には周回遅れを免れるためのやや消極的発想からオプションを選択した人もいました。彼らは早めに2回目のタイヤ交換に動くためピットのタイミングがけっこうバラバラになってしまい、ベルからすると遅い周回遅れを捌きながら速い周回遅れに抜かれるけっこう面倒な時間となります。そのためスアレスを思ったほど引き離すことができませんでした。
 
 そのまま170周目あたりから2回目のピットサイクル、なぜか中継がちゃんと捉えていませんでしたが、ここはさっきとは逆にスアレスが172周目に先に仕掛けてベルをアンダーカットし返しました。ベルはスアレスが先に動いた時点でアンダーカットへの防御を切り捨てたとみられ4周待ってからのタイヤ交換。タイヤが新しいのでここからは確実にスアレスとの差を詰めて行きましたが、道中で周回遅れの集団に思いっきり捕まって時間とタイヤを使わされたようでスアレスに届かないままステージ2が終わりました。
 ステージ2を制したのはスアレスで、ベル、ハムリン、ロガーノ、ディロンの順。10位を争っていたチェイスとトゥルーエックスはステージ最終周にガシガシとやり合い、結果チェイスが10位で1点を獲得すると、トゥルーエックスはステージ終了後すぐさまチェイスを後ろから軽く押して抗議行動、春のリッチモンドに続いてMTJ不機嫌モードです。
 また、1回目のピット作業で大失敗したカイルは2回目のピットでオプションを投入してなんとか周回遅れを回避しようと試みましたが、残念ながらステージ終盤にスアレスに抜かれてしまい、フリー パスを得ることもできませんでした。ステージ2終了時点でリード ラップ車両は16台まで減っていました。

 ちなみにスアレスのスポンサー・Choice Privilegesはチョイス ホテルズ インターナショナルというけっこう規模の大きいホテル運営企業の会員サービスの名称っぽいですね、アパホテル会員、みたいなことだと思います。


・ファイナル ステージ

 オプションを2セット残している人は、まず1つをここで投入してリスタートから前に出ることを考えるのがセオリーと考えられます。ベルはオプションを履いた上で、素早いピット作業でスアレスを抜いて先頭に出ることにも成功。逆にスアレスはオプションを最後に残すならもうプライムしか選択肢が無いので、ここは周囲がオプションを使ってくる中でプライムを使って耐える時間です。
 カイルは左手に付けている包帯がきつすぎるらしく、ピット作業中にクルーからハサミを受け取るとコーション周回をこなしつつじょきじょきと切っています、こええよ、ていうかそのハサミは次のピットまでどこに置いとくんだ。ちなみに現地ではこの様子がSNSでけっこう取り上げられたみたいで、中には「RCRはよく切れるハサミすら用意できない」的なちょっと小ばかにしたやつもあったそうで^^;

 最終ステージは241周目/残り160周でリスタート。リードラップ車両はほぼ全員オプションを使っているのでスアレスはひたすら抜かれまくります。ここからテレビを見た人は何事かと思うでしょうw
 リスタートから8周ほどするとトゥルーエックスがエンジンの不具合により失速、できることもなくそのままガレージへ向かいました。スタート直後も6周でブレーキシェイクを訴えてましたけど、なんか車の仕立てにおかしなところでもあったんでしょうかねえ。

 レースの方はベルがリードしてしばらくは凪の状態でしたが、オプションでリスタートしたためにピットサイクルが早く278周目あたりから早くも多くのドライバーがピットに入りました。リスタートから40周弱ですからこのあたりが崖が来る前の限界点というところでしょうか。当然ここでの選択はプライムです。
 とか書いてたら、なんとベルがこのピットでまさかの速度違反。後続ドライバーのアンダーカットも阻止して盤石だったはずが、落とし穴がピット上にありました。クルーチーフが違うから・・・なんてことはこれは関係ないでしょう、なにせベルがリッチモンドで速度違反をやらかすのはこれが3戦連続。春のレースでも298周目にやらかしていました。
 ベルの自滅によりリーダーはハムリンへ、これにロガーノとなぜか今日はやたらと調子が良いディロンが続きます。空撮映像を見るとディロンは非常に上手くタイヤを縦方向に使えている印象に見え、325周目にロガーノから2位を奪います。

 トップ5フィニッシュが50戦にわたって無く、最後に5位以内に入ったのは昨年のブリストル ダート。じゃあ舗装路ではいつなんだという話になりますね、調べてみたら2022年の第34戦ホームステッドが最後でしたよ。いかに低迷しているかが分かります^^;

 ディロンがハムリンを追いかけている間に最後のピットに向けた焦点のおさらい。多くの陣営は最後にオプションを使いたいと考えています。コーションが出ないのなら次のピットが最後のタイヤ交換ですが、それ以降にコーションが出た場合最後ではなくなります。ここで手元にオプションを残していると残り20周など短距離戦でオプションを使うことができますが、在庫が無い人は太刀打ちできません。
 終盤のコーションでひっくり返されてしまうことを警戒するなら、次のピットは無難にプライムで繋いでオプションは切り札に。逆に『そんなもんコーションが出るかどうかなんてわかるかい、とにかく今ある状況ではよ走るだけと違うんか、もうちょっとマシなこと考えんかバカたれが』(川藤 幸三風に)と思うなら、残り45周ぐらいでオプションを使うとプライム勢をバカスカ抜くことができます。コーションなくレースが終わったら、オプションを残した人は単に代打の切り札を使い損ねて終わるだけになってしまうわけで、さあ、どちらに賭けましょうか。

 331周目、ディロンに抜かれて3位に落ちていたロガーノがピットへ、オプションを残してプライムで残り約70周を走る戦略です。すると2周後にハムリン、その翌周にディロンも相次いで反応。相手がプライムで行くなら自分たちも同じ戦略で、という相手にとにかく合わせる安全性の高い戦略です。右に倣えでおそらくほとんどが手元にオプションを残しました。
 ディロンはロガーノにアンダーカットされて一旦は実質3位に下がったものの、343周目にわりとあっさり抜き返し350周を過ぎるとハムリンとの争いが再始動。自分よりもタイヤが新しい周回遅れに道を譲ることが多いハムリンはちょっとした選択ミスで相手に隙を与えてしまうので一瞬も気が抜けません。映像を見ているとハムリンの方が明らかにブレーキが真っ赤なので苦しいのはハムリンに見えます。

 残り29周、とうとうディロンがハムリンを内側からかわしてリード、もし優勝したらプレイオフ争いにとんでもない影響です。ちょっと気になるのは、残り40周まで引っ張ってオプションに乗り換える浪速の春団治作戦(?)を実行したスアレスが毎周0.8秒近く早い猛烈な勢いで順位を挽回していることでしょうか。残り20周で16秒差なので計算上はゴール地点でピッタリ追いつくんですが、まあそこまでタイヤはもたないか。

 やはり5周ほど経過するとディロンとスアレスのペース差は0.6秒ほどに縮小、さすがに1位までは来れなさそうです。と言ってもまだスアレスはトップ5ぐらい行けそう。ディロンは2位ハムリンまで2.4秒ほどと大きな差を築いておりもはや敵はコーションだけです。春のリッチモンドもあと僅かでコーションが出てオーバータイムになりましたから、これで終わりだとは誰も思っていないでしょう。
 と言いながらもレースはとうとう残り2周、リチャード チルドレスと、スポンサーであるバス プロ ショップスのCEO・ジョニー モリスが(画面から見切れてるけど)ディロンの2年ぶりの勝利を今か今かと待ち受けて

 ・・・・・・・は?
 あり得ないことにディロンの目の前でリッキー ステンハウス ジュニアとライアン プリースが接触。ステンハウスが単に突っ込みすぎたのか、踏んだらブレーキがあんまり利かなかったのか、思いっきりプリースに突撃して吹っ飛ばしました。「残り2周やぞ、バカか!」というプリースの無線に共感したのはRCRの面々とスアレスでしょう。まさかのコーション&オーバータイムへ。
 しかしこんな時のためにオプションを残していたみなさんはピットへ駆け込み、ディロン陣営はここの作業もきっちりまとめて先頭で彼をトラックへ送り出しました。スアレスはプライムしか在庫が無いからヤケクソでステイアウトするかと思ったんですが、さすがに40周弱使い込んで限界なので新品プライムへ交換。確かに、彼は既に24秒8とかでしか走れてなかったですが新品プライムなら24秒0とかで走れますね。でも新品オプションは23秒台前半で走れます。

 さあオーバータイム、ディロンは内側を選択しロガーノが外へ。オプションのグリップ力やここまでの展開を考慮すると外側でもかなり速そうですが、ロガーノに突っ込まれることをやはり警戒した印象を受けます。2列目はハムリンとレディック、3列目にウォーレスと唯一プライムを履くしかなかったスアレス。
 しかしリスタートではロガーノが後ろから上手く押してもらった一方でディロンは支援が無く出遅れてしまい、リスタート直後から外側のロガーノが優勢、バックストレッチの段階でもう並走ですらなくなりました。そのまま最終周、2車身ほど離れていて、新品オプションの高いグリップ力を考えるとロガーノに対して付け込む隙無し、でも勝ちたい、じゃあどうする

 ハイ、ロガーノを撃墜。ただその間に内側からハムリンが来ました。まあ無理に突っ込んでぶつけても普通に走ってる人に抜かれるからそうそう勝てるわk

 あ、こっちまで撃墜(っ ◠‿:;..., 画面の前で「やるのか?やるのか?あーーーーー!やったーーー!あーーー!!!ハムリンあーーーー!!!!!」って桃田さんモードになってしまいましたw
 壮絶な結末でディロンが2022年夏のデイトナ以来約2年ぶりの通算5勝目を挙げました。しかしまあ、さすがに接触事故歓迎のNASCARファンで、なおかつ相手が現役ヒール役ドライバートップ2のロガーノとハムリンではあっても、2台蹴散らしての優勝はちょっと反応がバラバラで歓声と少しのブーイングと戸惑いが混ざっているようなお客さんの反応に聞こえました。


 最後に無茶苦茶になりましたが2位は無事に戻ってきたレディック、右後輪が明後日の方向を向いたハムリンがなんとか3位。ウォーレス、ロス チャステイン、ベルと続き、今日はステージ2で1ストップ作戦を行った以外あんまり目立たなかったカイル ラーソンが7位。カーソン ホースバー、チェイス、スアレスのトップ10でした。カイルはいつハサミを返したのか分かりませんが最終的にスタートと同じ12位、ロガーノはリードラップ最後のフィニッシュとなり19位でした。

「残り2周で僕たちが一番速いと感じた。もちろん、真っ直ぐに突っ込まなければならなかった、相手をぶっ潰した。そんなことはしたくないけど、時にはそうしなくちゃいけないこともある。神様に感謝しないとね。この2年間は大変だった。RCR、ファン、妻のことを大事に思っている。これは娘にとって初めての勝利、とても意味のあることさ。嫌だけど、やらなくちゃいけなかったんだ。」
「チャンスが与えられたら、それを掴まないとね。」

とディロン。これに対してロガーノは

「クソ野郎だね、間違いない。彼は4車身後ろにいて、全然近いところじゃない。そして、11番を破壊した。それから彼はあそこ(優勝)に行って、神に感謝し、赤ちゃんとともにすべてを讃えるつもりだろうけど、それはでたらめだ、全然近いところじゃない。ぶつかって逃げるというのは分かるが、こっちはコーナーで全く速度を落としておらず、彼はそこに突っ込んできてそのまま私を突き抜けた。馬鹿げてるよ。」
「あんなレースのやり方信じられないよね。当て逃げするならこっちも予測はできる、でも彼は4車身も後ろから、コーナーに向かわずに破壊してきて、さらに他の車まで破壊した。酷いね。」


 ロガーノもたいがい他人を吹っ飛ばして勝ったレースがあるのでいわゆる「おま言う案件」というやつかもしれませんが、ロガーノ的にはディロンの動きは無しだそうです。ちなみに4車身はちょっと誇張されています。

 そしてハムリン、マーティー スナイダーから「あれはフェアーか、ファールか。」と聞かれると

「まあ、明らかに反則だ。NASCARではフェアだ。私たちは違うリーグだからね。荒っぽい運転とか、そういうものに対するペナルティはない。オースティンがやりたいことを何でもできるチャンスが開かれる。私にとっての問題は、また右後部を引っかけられたことだ。私はただ自分の仕事に集中していただけなのに、彼は左に曲がって右後部にひっかかった。私の肩をぶっ壊した。
そうだな、、、レコード ブックは何が起こったかなんて気にしないだろう。彼が勝利の功績を認められることだろう。でも明らかに彼は勝ちあがれないさ、なぜならそういうことで代償を払わなければならないからだ。でも、ポイントで20位も上がるんだから、それだけの価値はある。だから私はそのすべてを理解してる。そこに悪意はない。理解している。
ただ自分がその一部だったことが嫌なんだ。最後のコーナーで脱落した2人のうちの1人じゃなかったら面白かっただろうな。でも、理解はできる。だからといってそれに同意する必要はない。明日話そう。」


 明らかに勝利を奪われたロガーノよりいくぶん抑えめではありました。最後も慌てずにもっと内側で立ち上がっていればディロンを避けられたし相手は失速しているからそれでもじゅうぶん前に出られたんですが、前の事故を見てついチャンスだと思って踏んでしまって通常通り外へ膨らんだので、ディロンの進行方向にちょうど自分から入って行ってしまったようにも見えます。
 たまたま連続したから両方故意にぶつけたように見えるけど、事案としては少し異なっていてこちらは偶発的な接触事故とも捉えられ、ハムリンとしても避けようはあったか無かったかでいうとあったと思うので、ちょっと勿体ない動きではありましたね。でもこのおじさん、根に持つタイプなので忘れた頃に報復とかあるかもしれませんw


 チェッカー間際の接触はNASCARの見どころとして認識されていますので、ハムリンの言う通りペナルティーはないですし、逆から言えばペナルティーなんて一切なくてもレースの99%はみんな自制して正々堂々と相手に敬意を持って戦っているからこそ、残った1%が光るというのもあります。こう言うとなんですが、F1なんて接触・悪質運転関連のペナルティー全部無くしたらレースにならない可能性けっこうあると思います。ペナルティー無しでこれだけの規模の競技が成立するって実はすごいことだと思います。
 しかしそんなNASCARにおいても、さすがにミサイル&2台相次いで撃墜というのはあまり前例が無く、お客さんの反応を見てもやりすぎた感じの雰囲気がありました。NASCARの競技部門を担当するエルトン ソイヤーも、ひとまずレース後はディロンを正式な勝者であると宣言したものの、その後

「我々のスポーツは長い間接触スポーツでした。」
「いつも『一線はどこだ?誰かが一線を越えたのか?』という声が聞こえてきます。最終周はその一線に非常に近かったと思います。音声から映像まで利用可能なすべての情報を確認し、スポッターの話を聞き、クルーチーフやドライバーの話を聞き、ペナルティを課す必要があると感じるレベルに達したものがあれば、火曜日にそれを実行します。」

 と、いくらか慎重な物言いをしました。

・ディロン、ペナルティーを課せられる

 そしてレースから3日後、ディロンに対してペナルティーが課せられることが発表されました。NASCAR規則の 12.3.2.1.b『レースのフィニッシュは、NASCARルール違反や、NASCARの独自の裁量で決定されたストックカー オート レースまたはNASCARに有害となるその他の行動によって妨げられてはならない』に違反したとみなされました。わりと運営側に自由な裁量が与えられて広範に罰則を課せられる文言ですね^^;
 これにより、ディロンは『このレースの優勝』そのものについては有効となって正式な優勝者として記録される一方で『プレイオフ進出条件としての優勝』は認められないことになりました。さらにドライバー/オーナーの両ポイント25点剥奪処分も受けました。RCRは控訴の手続きを採る以降なので、最終的な決定は後日に持ち越しとなりそうです。ディロンが恨むべきなのは運営か、ステンハウスか、はたまたリスタートを決められなかった責任を破壊行為でごまかそうとした自分自身の弱さか、認めたくないものだな。

 また、スポッターのブランドン ベネッシュに対しては3戦の出場停止処分が課せられました。彼はディロンがロガーノぶつけた後に無線で「そのまま行けよ下下下下下下下下下!やっちまえ!潰せ!よっしゃ!よっしゃ!来いや!よっしゃ!どうや!」とあからさまにハムリン撃墜を無線で指示していたため、行動規定違反とみなされました。

 ソイヤーはディロンにペナルティーを課したことについて

「一線を越えたという結論に達しました。我々のスポーツは長年にわたって、将来に渡っても、素晴らしい、激しいレースを基本としてきました。接触は許容されてきました。今回の場合、一線を越えたと感じました。」

 と説明。近年は危険な故意の接触や、レース前後のピット内等での車を使った危険な報復行為にのみ厳しい姿勢を取るようになってきたNASCARですが、ここでとうとうレース中の接触事故における『一線』を引いたと現地メディアも伝えています。『2台を立て続けにクラッシュさせての優勝をNASCARは認めないことにした』という具合です。
 と言っても、ディロンはロガーノに対して故意にぶつけたこと自体はあからさまに認めていますので、考え方によってはあくまで『故意性が高く相当程度の危険性が認められる行為』を処罰し、それがレースの終了直前における問題だったので処分としてはこういう結論になった、とも捉えられますから、もちろん運営側にかなりの裁量権があるのは間違いないですが1例で安易に一線が決まったとするのはちょっと早計かなと個人的には思いました。
 ハムリンとの接触に関しては、ベネッシュはあからさまにぶつけるよう言っていますがディロン自身は故意性を否定、実際さっきも書きましたけどぶつけに行ったのか、単にラインが交錯して引っかかったのか微妙なところではありました。これは『一線』は引けないか、引いても超えているかどうかは判断が付かない事案に見えます。


 控訴がどういった判断になるかが分からないと完全に落ち着きませんが、ひとまずディロンのプレイオフ出場は3日間だけの幻となり、当落線上のドライバーはまさかの伏兵登場による危機から救われました。ディロンはレース前までドライバー選手権32位で、以前の『ポイント30位以内』という縛りが残っていたなら優勝してもなおプレイオフ出場権が危ういぐらいの成績でしたから、そんな下位の選手に1枠持って行かれたらポイント16位近辺の人はたまらない状況でした。
 とはいえ現在ポイント14位~17位・ギブス、ウォーレス、クリス ブッシャー、チャステインはなんと18点しか差が無く、ブッシャーとチャステインはちょうど同点になっています。ギブス君はシーズン序盤に好調でしたが、第16戦ソノマ以降の8戦中6戦で22位以下と急失速し、そこそこ余裕があった点差が消えてしまいました。逆にウォーレスはこの期間にトップ10フィニッシュ4度と持ち直しています。

 ディロンの大暴れで全てすっ飛んでしまいましたが、初のオプションタイヤ投入レースはなかなか面白かったです。「そんな難しいことやらんのがNASCARちゃうんかい」と思う方も多くいらっしゃるとは思いますが、タイヤの摩耗度合いと使える数もなかなか絶妙で正直『よく一発目でこんな絶妙な設定作ったな』とえらく感心してしまいましたw
 『最後にオプションを使う』の『最後』をどう考えるかというのが1つのポイントでしたが、思った以上にみんなコーション前提の右に倣えだったのはちょっと意外でしたね。ステージ2で大きく順位を上げるために1セットを使い、最終ステージでも積極的に春団治作戦に出たスアレス陣営の動きは個人的に非常に良かったと思っています。
 トップ10圏内でプレイオフを争っているドライバーもスアレスと同じように春団治作戦で1位を獲りに行く人がいてもよかったのになあと思いましたが、その対象になるのがウォーレスやチャステインなどポイントで取りこぼしもしたくない人たちだったので、オーバータイム一人負けを避けるためにはやむなしだったのかなあというところです。ジョッシュ ベリーなんかポイントでは無理だから勝負できる立場に見えたんですけど、既にどっかでオプション使い切ってたんでしょうかね?残したのならちょっともったいない気がしました、だってみんな同じ考えならオーバータイムでオプション使ったって順位上がらないわけですから、同じことやってたら絶対勝てないわけですよ。
 2スペック制をまた取り入れる予定があるのか分かりませんが、NASCARが1つ大きな経験を手にしたことは間違いないと思います。

 さて、次戦は2マイルの大きなトラック・ミシガンです。レース前のブリーフィングから色々と議論が沸騰しそうな雰囲気ですね。

コメント

日日不穏日記 さんの投稿…
ステージ2でスアレスが、オプションタイヤを使って、一気にポジションを上げたのには驚きました。ここまで効果があるのかと。逆に1ストップをチョイスしたラーソンが失速しまくったのにも、逆の意味で驚きましたが。正直、オーバータイムは余計でした。そうでなければ、ディロンは文句なしにプレーオフに行けたのに。
ロガーノが本気で怒ってたのは、インタヴューの様子でも一目瞭然でした。2015年のケンゼスによる撃墜事件の時でさえ、吐き捨てるような言い方をしつつも、一応は笑みを見せてましたから。あそこまで感情剥き出しで、捲し立てるロガーノは始めて観ました。ハムリンには故意ではないと思ってます。余談ですが、NBCの中継では、ドライバーが装着しているタイヤを色分けしていました。無料で観ていて勝手なこと言いますが、そうしてくれると有り難いなぁ、とは思いました。
SCfromLA さんの投稿…
>日日不穏日記さん

 コメンタリーの話から「NBCではタイヤの色分けしてくれてるんやろうなあ」と想像していましたが、映っている人たちはあからさまに速さが違うから色分け不要でしたねw
 仰る通りオーバータイムがなければそもそもこんな大騒動になっていなかったわけですが、そうなってしまうのがNASCARがNASCARたる所以なんでしょうね~。しかもよりによって相手がロガーノとハムリン、脚本家がいてもこんな結末書かないですよw
あゆむ★★☆ さんのコメント…
ステンハウスファンとしてディロンには申し訳ないアクシデントでした
どちらかというと後ろのディロンを気にしてブレーキしたらミスした感が。プリースは既にラップダウンだったのでバトルする理由もないですし。

ディロンにはジンクス通りミシガンで勝ってプレイオフに行ってもらいたいなと
アールグレイ さんの投稿…
お休み期間中はスアレスがネルソンピケの娘との結婚の発表があったり、ブラジルシリーズに参戦して勝利を挙げて3つの国のシリーズで今年勝利した事や、来年ブリストルでMLB公式戦の開催決定のニュースにも驚きましたが、まさかディロンがカイルより先に勝ってしまうとは。

勝つしかないとはいえ、ロガーノやハムリンと言った面倒臭い相手によくバンプしたなーと思ったと同時に、ペナルティの有無やプレーオフ進出の可否関係なくしばらく報復には気をつけた方が良いでしょうね。

ディロンは勝っても、残り3戦でポイント30位以内を守れるのか?と最初は怪しく感じましたが、このルールは去年から無くなっていたのは初めて知りました。
ただ正直勝てばいいが今回のケースの様により強くなるとはいえ、ある程度プレーオフで戦える為の最低限の線引きはあった方がいいなとは思いました。
ディロンも今シーズンの不調ぶりを見ると、プレーオフに行けたとしても早期敗退も充分ありえたでしょうし。

前から感じていましたがディロンは、プレーオフ導入前とはいえ0勝でエクスフィニティーのチャンピオンになったり(当時はカップドライバーの参戦数の制限が無かったので、カイルが年間12勝と荒らしまくっていましたがw)、どちらかと言うと安定感があるイメージでしたが、今はデイトナ500やコカコーラ600のようなビッグイベントで勝ったり、今回の様に一発がもの凄いドライバーになった変貌ぶりは信じられませんw
SCfromLA さんの投稿…
>あゆむ★★☆さん

 なるほど、後方を気にしてミスるというのも確かに考えられますね(その程度でミスらんでくれ、とディロンは言いたいでしょうがw)ミシガンのジンクスが再現されるのか私も楽しみにしています、がなんか天気予報が悪くて・・・(むしろ大逆転のチャンスあり?)
SCfromLA さんの投稿…
>アールグレイさん

 ロガーノもハムリンもとりあえずプレイオフポイントも必要なので無駄な報復に労力を使いはしない気がするので、むしろ権利が無くなってしまったり、全然関係ない場面の方が危ないかもしれないですね。ハムリンは対チャステインで前例がありますし^^;
 ディロンは現実問題としてRCRを除いたら今彼にオファーを出したいチームってあるのかなあという状況ですけど、そんな中でも稀に大花火を打ち上げるのがスター性とでも言いますか、数字では絶対に測れないけどシリーズに必要なキャラクターではありますよね。たぶんマクダウルにもホースバーにもこんな結末は巡って来ないw
カイル・プッシュ さんのコメント…
 動画の前半、えらくカイルを取り上げてくれてましたね。今回も結局あまり見せ場はなかったですが。
 その代わりチームメイトがド派手な見せ場?を作ってくれましたが、あれはどう見てもアウトでしょ。2016年のソノマの最終コーナーのハムリンとトニースチュワートを思い出したのですが、あれとは訳が違いますよね。今回のは、撃墜以外の何物でもありません。いくらNASCARがワイルドだと言っても、あれはダメですよ。
 それはそうと、オプションタイヤ、めちゃめちゃ速かったですよね。この先どうするのかわかりませんが、あれほど差があると戦略が大きな要因になり過ぎて、興味が削がれるような気がします。
SCfromLA さんの投稿…
>カイル・プッシュさん

 NASCARとしても、さすがに『意図的にターンに入ろうとすらせず相手に向かう接触行為は違反』という原則を示すしかない案件でしたね~、いつもなら盛り上がるはずのワイルドな結末でちょっと引いてるお客さんがいるような反応だったのが全てを物語っていた気がします。
 やはりオプションタイヤは反応が分かれますね、ちょっと速いわりに摩耗が早ければ誰も使わないし、ちょっと速くて摩耗もそこそこならそっちが主流になるし、性能差が大きいとほぼゲームを決める切り札になってガラガラポンになりかねないし、ここから先は運営のセンスが問われそうです。NASCARってうまくやってくれそうかと思ったらたまにとんでもなくしょうもないこともやりますからねえw