NASCAR カップ シリーズはレギュラー シーズンが残り2戦、次戦はデイトナです。このデイトナだけは開催が土曜日夜となっていて日本時間の日曜日お昼ごろには結果が出ている可能性がありますので、YouTubeアーカイブ勢はネタバレにご注意ください。で、そんなデイトナを前にいくつか話題があったのでレース記事から独立させてダダっとお送りします。
・ディロン陣営の控訴、概ね退けられる
第23戦ミシガンでオースティン ディロンが優勝したものの、ターン3で明らかに故意にジョーイ ロガーノに向かって突撃し、さらに横をすり抜けようとしたデニー ハムリンにも接触して"2台撃破"したことが問題視されてペナルティーを受けた問題。『記録としての優勝は残るが、プレイオフ進出要件としては数えない』とする『事実上の優勝取り消し』判定に対してリチャード チルドレス レーシングが控訴を行いましたが、8月21日に全米モータースポーツ控訴委員会が審議を行い結論を出しました。その結果、控訴内容の一部は認められました。
と言っても、認められたのはスポッターのブランドン ベネッシュに対する3戦の出場停止処分が重すぎるのでこれを1戦に軽減する、というもの。"本丸"であるディロンの優勝取り扱いに関して同委員会は
NASCARは一流のモータースポーツを代表するものであり、そのシリーズのチャンピオンシップが認められるためには、ドライバーが模範的な行動を示すことが求められます。このケースでは、その"一線"を超えました。
と、NASCAR側の処分の判断を支持する意見を付けてRCRの控訴を退けました。ディロンとすると控訴したら裁判所でさらにバッサリ切られた形です。この判決内容が不服である場合、最終の審判として全米モータースポーツ最終控訴責任者に対しさらなる控訴を行うことが可能で、RCRは控訴を行う見込みです。
・ハムリン、エンジン規定違反でペナルティー
ハムリンがディロンに当てられたのは故意ではなく偶発的だったのではないかと私は思っているわけですが、そんな被害者・ハムリンも今週に別件でペナルティーを受けドライバー/オーナー ポイント75点減点と、さらにプレイオフ ポイントも10点減点というけっこうデカい処分を受けました。一応『当該レースでの優勝はプレイオフ進出要件や、非選手権の出場要件としての優勝には数えない』という罰則も書いてありますが、ハムリンは複数回優勝しているので実質無効化されています。
違反内容はエンジンの封印に関する規定。NASCARでは費用削減のために同一のエンジンを複数のレースで使用するための様々な規定が設けられています。基本的にNASCARは規則が非公表で、エンジン規則に関する大々的な発表は2020年以降行われていないと思われるので現在の具体的規則が分からないんですが、当時の規則が基本的に変わっていないならチームが使用するエンジンには
・使用後にエンジンのほぼ全体を封印する『ロング ブロック』
・エンジンの下半分だけ封印し、ある程度の整備・調整が可能な『ショート ブロック』
・スーパースピードウェイ専用
の3種類が存在している、はずです。ロングとショートはそれぞれ基本的に複数回の使用が想定された1エンジン2レースに近い考えで、SSW用だけはエンジンの負荷が大きいこともあって1戦で1基の想定です。2020年の段階では ロング8/ショート8/SSW4 の年間20基が使用可能とされていましたが、その後アトランタがSSWのパッケージで開催されるようになったので、ここも1基ずつ新品で年間20基を変えていないとしたら今は ロング8/ショート6/SSW6 の組み合わせかもしれません。
で、ロングブロックエンジンは許可なく勝手に開封して分解したりすると当たり前ですが違反となり、開封するとバレるように仕込まれています。プレステの背面の『このシールを剥がすとサポートを受けられません』的なやつだと思ってくださいw
我らの頼れるアニキ・FOXのボブ ポクラスが開示してくれた2024年の規則によるとロングブロックエンジンで少なくとも年間18戦に出場する必要があり、その運用計画も開幕前に事前提出している必要があるとのこと。2023年から最大で5基は持ち越しても良いそうですが、一方で『最終戦にチャンピオンの権利を持って出場する4人は必ず2024年に使用したロングブロックを使う』ことも定められていて、切り札に新品を残しておくのもどうやらダメみたいです。
特に優勝した車両のエンジンに関してはインチキしていないかを調べるため、必ずNASCAR側がエンジンをロングブロック封印して詳細な検査を受けてから返却となることが義務付けられているようです。ただ、NASCARの検査は『チームがそのエンジンの寿命が来たと判断したら』とされていて、まだその後のレースで使う予定が立っている場合には自分たちでロングブロック封印した上で次に計画されているレースで使用し、使い終わってからの検査となります。おそらく、仮にショートブロックエンジンで優勝しても、そいつは必ずロングでの封印になってしまいますね。
今回ハムリン陣営は第5戦ブリストルで優勝したエンジンについて、NASCARの検査を受ける前に自分たちで分解・再構築を行ってしまったため、検査を義務付けた規定に違反したのでペナルティーを受けました。ハムリンによるとこのエンジンは昨年に一度使用している持ち越しエンジンで、ブリストルの後に第13戦ダーリントンでも使用したとのこと。ダーリントンでお役御免になってNASCARに提出しないといけなかったのに誤って引き揚げてしまったわけです。
この問題、トヨタ陣営のTRD製エンジンの管理は全てチームではなくTRDが行っており、TRDは声明で自分たちに全面的な責任があると謝罪。JGRはこうしたことが起こっていたとは知らず、NASCARに問題を発見・報告したのもTRD自身だったようです。たぶん「よし、検査に持ち込むぞ・・・ってあれ?これ分解してね?おい誰だ!」ぐらいの凡ミスだったのではないかと^^;
ハムリンはこれでレギュラーシーズンのポイントでもプレイオフポイントでも痛手を被り、プレイオフを勝ち上がるにあたって思わぬ後退を強いられたことになります。
・来年のクラッシュはボウマングレイで
2022年からの3年間はロサンゼルス メモリアル コロシアムで開催されてきたザ クラッシュ、来年は2月2日にボウマン グレイ スタジアムで開催されることが発表されました。1周0.25マイルのボウマングレイは1937年に創設、元々はフットボールの競技場でしたがやがて自動車レースが開催されるようになり、1958年から1971年まではNASCAR最高峰シリーズが開催されていました。
2000年代にもK&N プロ シリーズ イーストなど地方シリーズが開催された他、アドバンス オート パーツ ウイークリー シリーズというNASCAR傘下で最も下に位置する地方シリーズのレースも開催されています。ボウマングレイは伝説的なトラックとして今でも高い人気を誇っているようです。Gen7車両が登場する前の2021年、LAコロシアムでのお披露目に向けた試験走行の場として使用されたことでも知られています。
個人的に気になるのは、過去にクラッシュを開催していたデイトナやロサンゼルスと比べると、ボウマングレイのあるノースカロライナ州ウインストンセーラムってかなり寒いようで、調べたら2月の平均気温が12℃とか書いてあるので見る方もやる方も大丈夫かなと思いますね。
・新たな離陸対策部品導入
ミシガンでコリー ラジョーイの車がわりと簡単に離陸して横転する事故が発生したためNASCARは早速対応。今週のレースから、従来は左側にだけ装着されていたリアー ウインドウ ディフレクターと呼ばれる部品について右側にも装着を義務付けることになりました。風洞実験を行ったところ、浮き上がりを初期に抑制する効果が見られたとのことです。『ラジョーイ フィン』と呼ばれているとかいないとか・・・
最後に、トラックハウス レーシングはゼイン スミスとの契約を今季限りで終了すると発表しました。2023年末にスミスと契約したトラックハウス、今年はスパイアー モータースポーツに貸し出してNo.71のドライバーとしてフル参戦させ、2025年にはトラックハウスからのフル参戦を行う、という2年分の計画をまとめて発表する異例の契約内容と発表でしたが、なんと2年目が来ないうちに終了してしまいました。
以前にラジョーイがスパイアーを離脱した際の記事でもスミスの扱いがどうなるのかについてはいくつか書きましたが、まずスミスのトラックハウス合流という可能性が無くなりましたので、シェイン バン ギスバーゲンのフル参戦に道が開けたように見えます。
※追記 現地8月24日にギスバーゲンのフル参戦が発表されました。
スミスは声明で
「当然ながら、厳しい状況に置かれたことに失望しています。質の高い運転の機会を熱心に模索しており、来年の計画をすぐにまとめたいと思っています。一方で、私たちのNo.71のチームには称賛を送ります。この夏、私たちは先週末のトップ10フィニッシュとナッシュビルでの準優勝を含め、過去10戦で6回のトップ20フィニッシュを達成しました。これまで以上に強い決意を持って、自分が最も得意とすることを続けます。それは、一生懸命努力し、全力を尽くしてレースに臨み、自分の実力を証明することです。これまでも、そしてこれからも私を支えてくれるすべての人に感謝します。」
と、来季に向けて気持ちを切り替えることを宣言しました。このままスパイアーに残留か、あるいはスパイアーからも見放されてたチーム、ないしは下部カテゴリーへ一旦の後退を余儀なくされるのか。2022年のクラフツマン トラック シリーズ王者の行方が気になるところです。
コメント
もう3勝してプレーオフまでは余裕かと思いましたが、ポイントの大量減点は早くも「アレ」に黄色信号が灯る形になってしまったのが残念です。
チームではなくTRDの問題なのもまさかと言う感じですし。
トラックハウスはこれでアメリカ、メキシコ、ニュージーランドと3カ国のドライバーが揃うチームになるのも初めてじゃないでしょうか。
オーナーのマークスも含めてドライバー全員が3大シリーズではロードコースでの勝利経験があるチームも珍しいですし、(他はHMSぐらいかな?)後は今シーズンの残りのエクスフィニティーのレースでギスバーゲンがオーバルでの初勝利を見たいです。
スミスはもう少し早く今ぐらいの成績だったらなーと思ってしまいます。
他にも2026年のザクラッシュをブラジルで開催する噂もあるそうですが、カップ戦のカナダやメキシコでの開催の噂に次いで、国外開催の話が今年何度も出て来ること自体が色んな面でNASCARがやってきた事の証なんだなと感じました。
結果としてハムリンはあそこで優勝してボーナスを稼げなかったことが痛手になってますので、ますますディロン憎しになってたりするんじゃないかと思ったり。万一途中で脱落したらその次のレースはホント要注意ですね^^;
トラックハウスといえば(私は全然見てないので詳しいことは分からないですが)MotoGPの方では日本人の小椋選手と契約しましたし、国際色豊かであることもチーム理念にあるんだろうなと感じます。NASCARの国際化方針とも通じる部分ですしお互いに相乗効果もありそうですね。