NASCAR 第5戦 ブリストル

NASCARCup Series
Food City 500
Bristol Motor Speedway 0.533miles×500Laps(125/125/250)=266.5miles
winner:Denny Hamlin(Joe Gibbs Racing/Express Oil Change Toyota Camry)

 さあ来たぞ、車が走っているのを見るだけでそれをツマミに食パン1斤は行けるブリストル(※個人の感想です、あとおいしいパンであることが条件です)。2021年からの3年間は春のレースがダート路面での開催でしたが、今年はまた普通の舗装路に戻りました。ダートはこの時期がまだ寒くて天気も悪くて集客力がよろしくないので導入され、見た目に派手だし盛り上がるんですが、天気が悪いと酷い路面でズルズル、天気が良いとそれはそれで埃が酷くて観客席から見えない、と欠点も多く3年でひとまず役目を終えた形です。
 1周たった0.5マイルの小さな場所に最大28度のバンク角、事故ると速いし狭いし跳ね返ってくるしで一発リタイアの危険性も高く、コンクリート舗装なのでちょっと乗り方が特殊らしく得意不得意が分かれやすいトラックでもあります。現役ではカイル ブッシュが通算8勝を挙げて断トツの数字、デニー ハムリンとブラッド ケゼロウスキーも各3勝しています。
 ごちゃごちゃになるから予選なんて関係ないかと思いきや、統計上はポールからの勝率が20%を超えており、5位以内からスタートした選手の勝率は約57%。抜きにくい、前にいる方が事故に遭いにくい、そして予選で前に出られる速さを持てるぐらいここの走り方を分かってる人でないとレースも速くない、ということですかね。なお数字上は現役でブリストルの平均スタート順位が最も良いのはなぜかチェイス エリオットです、でも彼はブリストル未勝利。

・レース前の話題

 ブリストル最多勝ドライバーのカイルですが、開幕からピット作業の失敗が相次いでクルーの顔ぶれが立て続けに変更されています。デイトナで失敗したジャッキ担当さんがすぐに翌週に変更になり、その後もたびたび変更されて今週がなんと3度目のクルー変更。ジャッキさんは開幕時点の人がまた戻ってきているのでだいぶ迷ってますね^^;
 一方、日本のファンにとって楽しみかもしれないのが小林 可夢偉。23XI レーシングは次戦のオースティンに可夢偉が出場すると発表しました。昨年のインディアナポリスに次ぐ2度目の登場で、スポンサーのモービル1が50周年ということで、本来ならザ マネー チーム レーシングが使用している50番を拝借して使用することが発表されています。チームはSNSへの投稿で『50周年を祝うのに50番を使って3人のドライバーを3戦で起用すること以上に良い方法は無い』と投稿しており、あと2回誰かを起用して登場するようです。
 そしてそのオースティンのレースにはずいぶんと久しぶりにMBM モータースポーツも登場。iRacingのイベントに絡んだあれやこれやの騒動もあり、Gen7時代となった2022年以降はほとんどカップでは活動していませんでしたが、ティミー ヒルを擁して参戦するとしています。自分の記事を掘り起こして気づきましたけどあれってダートレースが初開催される直前の話だったんですね。

・Craftsman Truck Series Weather Guard Truck Race

 今週はエクスフィニティーがお休みでクラフツマン トラックのみ併催。レースはポールシッターのクリスチャン エッケスと4位スタートのカイルが合わせて250周のうち249周をリードするほぼ一騎打ち。ステージ1・2を制したのはいずれもカイルでしたが、158周目にエッケスがカイルをかわすと、最後は大外ラインで猛烈に迫るカイルを0.141秒差で退けました。今季初勝利、通算6勝目です。


 なお、219周目にスチュワート フリーズンがニック サンチェスを壁に挟んでしまう接触事故があり、これについてレース後に両者が口論、その後乱闘になりかけてすぐに周囲の人に制止されました。

・カップ シリーズ
 予選

 ブッシュ ライト ポールはライアン ブレイニーが獲得。路面状況がラウンド1から2にかけて大きく変化し、ものすごくグリップ力が落ちて難しい予選だったそうです。2位にはオールド ルーキー・ジョッシュ ベリー、3位にハムリン。ジョーイ ロガーノ、エリオット、チェイス ブリスコーと続きました。

・ステージ1

 ブギティ、ブギティ、ブギティ、レッツ ゴー レーシング ボーイズ、と控えめにダレル ウォルトリップの真似をしてスタート。まずベリーがスタートからの争いを制してリードを奪います。

 気分よくリードしていたベリーでしたが、ハムリンが猛烈な勢いで迫って来て21周目にリード チェンジ。これとほぼ同時に中団でウイリアム バイロンが軽い接触をきっかけに右後部から壁にぶつけてしまい、これで破片により1回目のコーションが出ました。トー リンクを壊したバイロンはこのレース8周遅れの35位でした。
 タイラー レディックだけステイ アウト、ベリーなど数名が2輪交換、他は4輪交換と考え方が分かれて31周目にリスタート。ところが慎重にターン3に入ったレディックをベリーがアホみたいに押すのでたまらずスピン。先頭の車が回ったので後方では玉突きで別のスピンも発生、ゼイン スミスは内側に避けたらそこにレディックがいて真っ直ぐ突っ込んでしまい、コリー ラジョーイとカーソン ホースバーは中団の玉突きにいたのでスパイアー モータースポーツはなんと全員がこの事故の2次被害者になりましたw

 40周目のリスタートから数周はベリーが猛烈に速かったものの、その時間は一瞬で終わってズルズル後退。54周目には4輪交換のハムリンがリードを奪い返しますが、ここからエリオット、ブレイニー、カイルとスーパー スピードウェイ並みにリード チェンジが多発。今日はタイヤカスの発生量がやたらと酷いらしく、踏んでペースが落ちる人が多発しているのかなという印象です。
 70周目、そんな展開にZ.スミスのバーストが水を注して早くも3回目のコーション。今日のタイヤ配布数はスタート時のものを含めて10セットですが、ここでもまたみんなピットへ。タイトで苦労しているというロガーノの右前輪はたかだか40周しただけで内側のゴムが無くなってコードが顔を出しており、これはこじったら絶対タイヤがもたない状況です。

 ハムリンは今日もまたピットでリードを奪い返し80周目にリスタート、ここからもタイヤ摩耗地獄が待ち受けていました。ブレイニーが一旦前に出るもハムリンが再度リードを奪い、これにカイルが続いてしばらくは2台の争い。ところがカイルはステージ残り10周を切ったところで右リアのタイヤが摩耗しきってまともに走れなくなり後退。
 前を走っていたハムリンはちゃんとマネージメントして、と思ったらこっちも突然タイヤが終わり、ずっと3位で眺めていたブレイニーがリード奪還。なるほど、無理せずマイペースが良いのね、とか思った次の瞬間にはブレイニーもタイヤが終わってタイ ギブスが異常なペース差でリードを奪い、信じられないサバイバルになりました。そしてステージ残り3周

 カイルのタイヤ終了。スピンしてコーションとなり、大波乱のステージ1をギブスが制しました。ラーソン、クリス ブッシャー、ブラッド ケゼロウスキー、ジョン ハンター ネメチェックが続きました。カイルがスピンする直前にはハムリンも壁とお友達になっており、とりあえずタイヤをどうにかもたせないとお話にならない展開です。どうもちょっと今日のレースは変だぞ、とこのあたりから異変を感じ始めました。

・ステージ2

 舞台裏ではタイヤ関係のお仕事の人が大忙し。ピットで逆転したラーソンを先頭にステージ2が始まりました。各車のボロボロになったタイヤが取り上げられる中、ラーソンのタイヤは比較的綺麗だったので先ほどはうまくタイヤを使ったことが分かりますが、先頭になってもこれを維持できるか。
 ラーソンはリスタートの瞬間から『抜くならご自由にどうぞ』という雰囲気ですが、誰もがペースとライン取りをどうすれば良いのかまだまだ探り探りという感じ。普通ブリストルって速い人がまず逃げて、すぐに周回遅れに追いついてしまってそこからが本番、みたいなところがありますが、今日はペースを上げられないので全く周回遅れが出てきません。
 たぶんみんなが「コーション出ろ」と思っているであろう中、176周目にリッキー ステンハウス ジュニアなど3人が絡む軽い接触事故でコーション。この時点のリーダーはギブスで、ラーソンは一旦前に出た後に少し下がった時間帯でした。本当のところ誰が速くて上手いのかが40周程度では全然分からないまま。

 全車ピットに入りますが、ギブスは作業ミスでペナルティー確定。これを受けて新品タイヤの使用を取りやめ、もう一度入って中古タイヤへ交換、新品を温存することにしました。とはいえもったいない失敗です。
 190周目、2輪交換で前に出たブッシャーを先頭にリスタート。ここであまりのタイヤ消耗状況を見たNASCARがタイヤを1セット追加で配布すると発表しました。そんな中、何か見つけたのか偶然かトヨタ勢は比較的積極的なレース運び。225周目にマーティン トゥルーエックス ジュニアがクリストファー ベルからリードを奪い、3位にはタイヤ消耗を気にする人たちをゴボウ抜きしたギブスがもう背後まで来ていました。
 ギブスのこの積極作戦は大成功、この直後の228周目にカイルが単独でスピンしてコーション。クルーを替えまくるカイルですが今日はドライバーに問題があるので、こうなったら来週はドライバーを変更するしかありませんね(。∀゜)
 大半のドライバーはピットへ、ベルが2輪交換で最初にピットを出ますが、10周もすればステージ2は終わるので新品タイヤを温存したい各陣営は頭をひねり、中古を投入する人もいれば、トゥルーエックスはなんと左が新品、右は中古のハイブリッド作戦。なんか一覧表でタイヤの在庫と今のタイヤを表示して欲しいレベルですw
 ラジョーイとホースバーだけステイアウトしてステージ残り11周でリスタート、当然すぐベルに抜かれ、ホースバーが遅すぎて危険物体と化しますがなんとか事故は回避されました。ここでベルと同じく2輪交換のロガーノがゴツゴツ押しまくってリードを奪いますが、4輪を交換して6列目からリスタートしたギブスがここでも異様な速さを披露。ステージ残り2周であっという間にロガーノを捉え、ステージ2もギブスが制しました。このシリウスXMスキーム気に入りましたよ。


・ファイナル ステージ

 誰かステイアウトするのかと思ったら全員ピットへ、ギブスは2輪交換を選択したので余裕で先頭でした。ピット ボックスを出ようとするケゼロウスキーの前方でネメチェックが邪魔になり、仕方なくブレーキを踏んだら右後方からオースティン シンドリックがすごい勢いで突っ込んでくるという無茶苦茶な混乱も発生していました。幸いのケゼロウスキーの車は問題なく走れました。

 裏側では追加の1セットをもらいに行くスタッフさんで相変わらず忙しそうですが、トラック上ではリスタートからギブスがリード。トゥルーエックスがこれに付いていくと、285周目にギブスが譲るようにしてリードチェンジ。この後ギブスはベルにも道を譲ります。
 4位以降からはハムリン、ケゼロウスキーのベテラン勢が徐々に上位との間を詰めていきますが、310周目にベリーが単独スピンしたため8回目のコーション、なんか気持ちとしてはもうこれが15回目ぐらいに感じます^^;
 全車ピットに入り、またもやハムリンが先頭でピットを出ました。これがこのレース40回目のリードチェンジで、1991年のブリストルで記録されたショート トラックでの史上最多記録に既に並びました。323周目にリスタート、2列目リスタートのギブスがハムリンを外からかわしてこれで41回目のリードチェンジ、新記録です。101回目のリードチェンジ、とかいうドラマどうでしょうかね。
 「次は370周目ぐらいに何か起きるだろう」という放送席の予想通り361周目にダニエル ヘムリックが壁に当たったもののコーション無し、2周後にはノア グレッグソンも同様でした。この頃、ようやく周回遅れが現れてギブスがお約束で行く手を阻まれてしまい、365周目にハムリンがギブスをかわします。ところが3周後、なおも続く周回遅れの中でステンハウスとシンドリックがハムリンの目の前で接触。ギブスは危うく事故に突っ込むところでした。急ブレーキ踏んだら最後は軽くベルから右後部へ追突を受けましたがこのぐらいは全く問題なし。

 当然このコーションも4輪交換、ピットでの変動があったものの380周目にリスタート後はまたハムリン、ギブス、ベルのオーダーで進みます。そしてこの時間帯に入ってもジャスティン ヘイリーがトップ10圏内を走行中。カズ グラーラも15位前後を走っておりリック ウェアー レーシングが想定外の快走です。ケゼロウスキーとブッシャーも速いので、RFKとカスタマーが好調と言えそうです。

 399周目にハムリンは後輩2人に抜かれてギブスがリーダーに返り咲き、4位にトゥルーエックスがいるのでJGRでトップ4独占です。そのまましばらくは平穏でしたが、リスタートから40周が経過すると明らかにくたびれた動きの車があちこちに出現。ギブスもこの周回遅れに引っかかってしまい、425周目にハムリンとトゥルーエックスにまとめて抜かれてしまいました。ベルもちょっと怪しい動きになっています。
 かといってブリストルでピットに入ると2周遅れになるので自分から入りたくもなく、全員が「耐えている間に俺以外の誰か事故れ」というような状態。一方で事故ったら元も子もないし、どうせ入ることになるなら先に入ったら猛烈なアンダーカットになるのでタイヤ交換を決断する人も現れ始めました。ギブスもさっき抜かれた時に無理をしたせいかダメになったようで、もう唯一ハムリンとトゥルーエックスだけが知らん顔してリードを争っている状況です。タイヤを換えた人はラップ バックしようと先を急ぎまくっているため、リードラップ車両の隙間に周回遅れが強引に飛び込んで抜いて行くようなこれはこれで危ない時間帯となりました。
 
 結局ベルもギブスもタイヤが壊れてからピットへ、もうほぼみんなタイヤが潰れてピットに入ったのでこれ以上粘る理由がなく、ハムリンも残り52周でピットへ。これを見て2位のトゥルーエックス、3位のケゼロウスキーもピットに入り、残り約50周の勝負となります。他の人たちは残りをこのタイヤで走り切ることができるかかなり怪しいですね。
 もう『まともに走れる数台とそれ以外』という状況で残りが30周となる頃にはリードラップ車両は10台。見た目としては周回遅れに優勝争いが引っかかるいつものブリストルの光景ですが、中身がいつもと全然違います。
 残り18周、周回遅れの集団の中でハムリンが少し滑ってしまい、その間にトゥルーエックスが先攻。しかしその先も周回遅れが多すぎて、ハムリンは4周後に奪い返します。トゥルーエックスは・・・あ、スイカを喉に詰めてますねw

 今日はいつタイヤが潰れるのか分からないので、自分は大丈夫でもまたベリーあたりがスピンしたらオーバータイムになっても不思議ではありませんでしたが、ここは何も起こらずにそのままハムリンが逃げ切りました。ハムリンが今季初・通算での52勝目を挙げて、また『アレ未経験者としての史上最多勝利記録』を更新しました。



 トゥルーエックスが2位だったのでJGRはワンツー。ケゼロウスキーが3位、最後のタイヤ交換を行うのが最も遅かった=タイヤをきちんと残す走りができていたアレックス ボウマンが4位。逆に残り66周で真っ先にタイヤを捨て、そこから壊さずに走り切ったラーソンが5位でした。ラーソンは最後のコーションの際にクルーが外して転がしたタイヤがお隣さんのクルーに当たってしまい、作業妨害で後方リスタート。ピット前は20位で、しかも早々にタイヤがダメになったにもかかわらず、決断とマネージメントで取り戻しました。
 リードラップでチェッカーを受けられたのはこの5人だけ、リードラップ車5人以下のレースは2004年の第13戦ドーバーで同じく5人を記録して以来の珍事でした。この時の優勝はマーク マーティン。トニー スチュワート、デイル アーンハート ジュニア、ジェフ バートン、スコット リッグスの5人が栄誉ある(?)生き残りでした。
 話を今日に戻すと、周回遅れだった6位以下はネメチェック、ブッシャー、エリオット、ギブス、ベルの順。1周遅れすら12位までしかおらず、せっかく頑張っていたヘイリーもタイヤの問題に直面して17位、グラーラは19位でした。タイヤがボロボロになってスピンもあったけど、みんなペースが遅すぎるせいもあって大きな破損に繋がらなかったので、バイロンはせっかく修理して走っても全く順位が上がらなかったわけですね。

・なぜタイヤの異常摩耗は起きた?

 歴史的とも言える内容となったレース、なぜタイヤの異常な摩耗は発生したんでしょうか。詳細はNASCARもグッドイヤーもこれから調べていく段階なので現時点では彼ら自身が困惑している状況ですが、考えられる内容というのはある程度出揃っています。

〇タイヤは変わっていない

 まず、「グッドイヤーがまた新しいタイヤ作って失敗したんじゃないの?」と思った方もいらっしゃるでしょうが、今回のタイヤは昨年秋のレースと同じ、左がD-5170、右がD-5206という型式コードのタイヤです。NASCARの推奨最低内圧もその時と同じで、もちろん昨年のレースではこんな事態は発生していませんでした。個体差や品質不良にしては全員に万遍なく起こりすぎているので可能性はほぼゼロでしょう、もし不良品ならもうグッドイヤーは会社として終わってますw

☆化合物の種類は変わった

 一方でトラック側には変化がありました。ブリストルではバンク角の高い外側が有利になりがちなので、内側のラインのグリップ力を人為的に向上させてレースを面白くしようと、PJ1 トラック バイトという化合物を路面に塗っています。PJ1はドラッグ レースのスタート地点でも使用され、とにかく路面をベッタベタにするような性質があります。レースが始まる前から内側だけやたら路面が黒いのは主にPJ1のせいです。
 ところが今回、ブリストルではPJ1ではなくVP CTR サークル トラック レジン、という別の会社の別の性質の製品を使用しました。『ザ レジン』と略されているこの物質、PJ1と同様に化合物の樹脂なんですが、PJ1がベタベタにくっ付ける粘着物質のような性質で直接的にタイヤをへばりつけさせてグリップ力を上げるのに対し、ザ・レジンはどういう仕組みか知りませんが『路面に素早くタイヤのラバーを乗せる手助けをする』ことを謳っています。例えて言うとどういう仕組みなのか、というのが簡単に調べた程度では分からなかったんですが、舗装の表面を柔らかい樹脂成分でコーティングするような感じなんでしょうかね?

 なぜ変更したのかというと、NASCARはオフのテストを経てブリストルにレイン タイヤを試験的に持ち込んでいました。既にショートトラックではレインが投入されていますが高速のブリストルは対象外。NASCARとしては、あくまでもレインタイヤでレースをするつもりではなく、雨が降って止んで乾いていく過程でとりあえず全員にレインを履いてトラックに出てもらい、コーション周回を重ねることでレースの再開を早めようと目論んだためです。
 しかし、PJ1は舗装工事したての路面のようになるので雨が降ると表面に水と油が浮いたようになってめちゃくちゃ滑ります。内側でも24°ものバンク角が付いているのに、滑りやすい路面に1500kgの車体を置いてゆっくり走ると、路面を乾かす以前に雨でのダートのように車がズルズルとバンクをずり落ちてしまうかもしれません。そのために、接着成分とは違う働きをするザ・レジンを使用することに決めたようです。
 色々と現地報道を調べると、ザ・レジンはこのレース週末の開始前とカップシリーズの予選後に使用され、位置としてはトラックの内側の半分に使用した、という話みたいです。なお、ザ・レジンそのものは他所のトラックで使用実績があるようなので、いきなり何の考えも無く使ったわけではどうやらなさそうです。

 ところが、いざカップシリーズのレースを行うと想定外のことが起こりました。タイヤの表面が、アメリカ的表現で言うところのチーズ グレーター、日本で言えばおろし金のようにゴリゴリと削られ、巨大なカスが球状に大量にトラックの外側に転がりました。そして驚くべきことに、全く路面にラバーが乗りませんでした。これはNASCAR公式動画で解説されていた、昨年秋と今回のレースで残り25周になった時の路面の色の比較です。

 コンクリート舗装の特徴として、ラバーが乗ってもコーション中に冷えたタイヤの車両がゆっくり走っていると路面のラバーを拾い上げて剥がれてしまい、レース中にラバーの量が増えたり減ったりすることが知られています。それでも全体としては時間とともにラバーが乗って路面が黒くなるはずなんですが、今年は「え、さっき大雨でも降ったんですか?」というほど真っ白で、代わりに大外に巨大なタイヤカスが転がっています。
 最初の予選の話題で『路面状況が変化してものすごくグリップが落ちた』と書きましたが、この内容自体は決勝前に予め書いておいた内容なので事の重大さには私も全く思い至りませんでした。ただ実際はこの時点でブレイニーが『レジンが剥がれた』という趣旨の話をし、トラックシリーズで走ったマット クラフトンもこの路面状況について既に苦言を呈していたようです。もっとも、この段階で大きく取り上げているメディアはおそらくそこまで多くなかったとは思いますし、チームもドライバーもNASCARもグッドイヤーもこれほどの状況を想定はできなかったでしょう。


●考えられる要因

 こうした状況から、おそらくザ・レジンの投入が何かしら悪影響を及ぼした可能性が高い、というのが現時点での見立てとなっています。と言っても製品が悪いわけではなく、おそらくは複合要因が集まった結果だろうと思います。
 まず真っ先に考えられるのは、ザ・レジンが使用された路面の表面部分とタイヤとの間で何か問題があって表面が削れてしまった、という可能性。タイヤは本来ある程度加熱して表面が溶けて路面にへばりつくことで性能を発揮しますから、その前に削れてしまっては話になりませんし、その状態ではラバーももちろん乗りません。
 ザ・レジンに使用実績があるといってもおそらくそれらはアスファルト舗装のトラックであり、コンクリート舗装での実績はあまり無かったと考えられます。ましてや強烈な垂直荷重がかかるかなり異質で特殊な使用環境なので、その点では検証が不十分だった可能性も考えられます。路面の素材や使用環境との相性で問題があった、というのも考えられる要因です。

 ラバーが乗らないから他のラインも摩耗が激しい状態が延々と続いてしまい、ラバーが乗る前提で車を作ってきた各陣営の車両は猛烈な摩耗に見舞われた、というのもおそらくは要因の1つです。今回RFKが速かったですが、どちらかというと彼らはタイヤへの攻撃性が低い安定性重視の車を作る傾向にありますし、同じく速かったリックウェアーのようなチームでは上位チームほどキャンバー角、内圧、車高などを攻めない傾向があるので、これもタイヤへの攻撃性を弱める方向に働きます。これはレース中にケビン ハービックも言っていた気がしますね。
 さらに、今回は昨年の秋のレースより5℃程度気温が低くて16℃ぐらいしかありませんでした。よりタイヤに熱が入りにくくなり、熱が入り切っていない状態のタイヤに強い負荷をかけると、溶けるより前に表面が削れてしまいます。卵が先か鶏が先かという話ですが、タイヤがうまく溶ける状況ではない時にザ・レジン相手に強い荷重をかけてしまうことが問題の起点、という、ここに書いてきた順序の逆が出発点だった可能性もあるでしょう。
 こうした複数の要因が全部集まってきてお互いがお互いに悪影響を与えていった結果、まともにタイヤがもたないという結末に繋がったんだろうと思うので、現時点でどれかだけが原因と決めつけることはできないだろうと思います。NASCARとグッドイヤーは今回得られた大量のデータを分析して原因を探していくことになると思いますが、さすがに秋のブリストルではPJ1投入とレインタイヤ棚上げになるだろうなと思います。

 とりあえずタイヤのことは一旦忘れて、次戦は今季最初のロード コース・サーキット オブ ジ アメリカズ。現在の天気予報では日曜日は雨の確率は低いものの大気の状態が不安定なのか風が強いみたいです。いやあ楽しみですねえ、久々のMBMモータースポーツ()

コメント

アールグレイ さんの投稿…
ハムリンはもうフェデックス以外のスキームで勝つことも珍しくなくなりつつありますね。
フェデックスのスキーム自体、スポンサー活動が縮小されて去年は13レースしか見られなかったし(今年も同じぐらいだそう)、最近のハムリンやJGRの好調を考えると寂しい感じがあります。
それでもスポンサーをまだ続けてくれているだけ有り難いと考えるしかありませんね。

ロードコース関係では、去年インディロードに出場していたコステッキがスーパーカーシリーズの所属チームであるエレバスモータースポーツと揉めている様で、昨シーズン王者にも関わらずスーパーカーシリーズを開幕戦から詳細不明の欠場をしています。
今週末のF1オーストラリアGPのサポートレースとして行われる第二戦も欠場の見込みですし、一時はエレバスがRCRと提携してロードコースイベントの参戦を増やす話までになっていたのに、急に方向性が変わってしまいました。
なんか円満にアメリカへ送り出してもらったギスバーゲンと逆な感じですね。

日日不穏日記 さんの投稿…
結果を知らないで観戦記を書くって、大変ですね、僕は、カーナンバー10がグラクソン、31は?、77は?、51はヘイリーだと、このレースの活躍でようやく覚えました。可夢偉の参戦は、このコメントを書く直前にGAORAが急遽、中継するとXにポストしました。公式にも出ています。僕は可夢偉の参戦を今日のフェイスブックで初めて知ったんですが、もっと早く情報は出てたんでしょうね。ハムリンは<アレ>の第一歩、おめでとうございます。リー・ペティの54勝、ラスティ・ウォレスの55勝に迫るわけで、今年こそ、是非、達成して欲しいものです。
さて、3月17日の「St. Patrick's Day、セイントパトリックス・デー」の中でブリストルで優勝したドライバーが3人紹介されていましたが、デヴィッド・ピアソン、ケイル・ヤーボロー、ケイシー・ケインでした。ヤーボローは、去年の12月31日に84歳で亡くなっていたそうで、ビックリしました。3度のチャンピオン、デイトナ500のファイナルラップで、殴り合いをしたことで有名ですね。ハムリンは4人目のドライバーになりましたが、当事者の一人、ボビー・アリソンは45歳でチャンピオンになってます。ハムリン、頑張ればきっと・・・。
スタートコマンドは、キング・ペティ、カイル・ペティ、チルドレス、ギブスの4人でした。レジェンドが亡くなるのは悲しいですが、元気なレジェンドを応援しつつ、亡くなったレジェンドを偲びたいと思います。
首跡 さんの投稿…
面白いレースでした。ハムリンの巧みなタイヤマネジメントが活きましたね。
レース後に現在の選手権順位を調べたところ、ロガーノが26位であることに驚きました。予選の速さが決勝に結びつかない印象ですが、彼の朗らかなくどい笑顔が消えてしまうのではないかと少し心配になります。
SCfromLA さんの投稿…
>アールグレイさん

 コステッキの話は全然知らなかったので軽く調べてみましたけど、理由が謎のままもう2か月近く経過しているみたいですね。コステッキが不在になってコカコーラなどの一部スポンサーが離れたみたいでチーム運営としてもかなり混乱状態に見えるんですが、スーパーカーのファンとしてはギスバーゲンが抜けた上によく分からん理由でコステッキもいないってどう思ってるんだろうか、とお客さんが気の毒に感じてしまいます。
SCfromLA さんの投稿…
>日日不穏日記さん

 自分でオフに移籍情報書いてても、未だに31を見てうっかり「ヘイリー」と思ってしまう時があるので大変です。で、ネタバレしないようにインターネットを使っていると『可夢偉参戦』みたいな情報も当然見るのが遅いから、NASCARファンだけどファン故に情報を知るのが遅い、という変なジレンマが発生しますw
 ヤーボローは報道によれば稀な遺伝性疾患とのことで、有効な治療法がなくホスピスに入っていたようですね。ご高齢とはいえ遺伝性で手だての無い病気だったため、昨年に明らかになった際に娘さんは非常に悔しい思いをされていた様子です。
SCfromLA さんの投稿…
>首跡さん

 ロガーノは気づいたら毎回何かしら事故になって結果が出てないですね。違法手袋問題で批判された影響が心理的に全くゼロだとは思わないですが、明らかに変なミスしてるとか遅いとか言う感じには今のところ見えないので、得意なトラックで何食わぬ顔で勝って大ブーイング浴びるんじゃないかと思いますね。それがロガーノというものです(笑)