T.ヒル、iRacingを巡ってNASCARと一悶着

 NASCAR Cup Seriesは今週末にブリストルでのダート戦を控えていますが、それに先行して3月24日・eNASCAR iRacing Pro Invitationalの第1戦がiRacing上のブリストルで行われました。このレースはウイリアム バイロンが制しました。
 eNASCARは、トップ級のプレイヤーが集まってチャンピオンを目指すCoca-Cola iRacing Seriesと、実際のカップ選手がゲーム上で競う、エキシビション的存在のプロ インビテーショナルの2つのシリーズがあります。
 エキシビションと言っても、NASCARとしてはマーケティング上重要であると昨年のパンデミック下で気付いたので、基本的にカップシリーズのドライバーはみんな参加するシリーズですが、今回エントリー リストから漏れたのがMBMモータースポーツのティミー ヒル。そして、単なるエキシビションでは済まない問題がこのチームに襲い掛かったようです。
 まさに今どきの時代だからこそ起こった問題だなあと思い、ちょっと記事化してみました。なお、できるだけ意味をくみ取って翻訳したつもりですが、誤訳等ありましたらご指摘いただければ幸いです。

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 ヒルは元々iRacing選手として一流レベルだそうで、昨年開催された同シリーズのテキサスでは優勝もしました。普段は下位チームでほとんど映らない選手が、カップシリーズのトップ選手と激しく争い、それを下す様子というのはファンにとってもなかなか痛快だったようで、ヒルの認知度上昇に寄与しました。

優勝し、ドーナツを決めながらインタビューに答えるヒル
iRacing通算では674勝目だそう


 ところが、そんなヒルのMBMモータースポーツ No.66のカムリは、発表された出場リストに載っておらず、このレースに招待されていないため出場することができないこととなり、ちょっとした騒動になりました。
 iRacingのレースはテレビで中継され、実際のレースと同様にスポンサーが就いて広告も担い、チームにはスポンサーからお金が入ります。彼らのような小規模チームにとってこれは重要であり、しかも普段なら後方でほとんど映像に映らないヒルが大きく取り上げられる可能性もあるわけですから、スポンサーにとっても有益です。
 ところが、その機会がそもそも失われてしまったため、チームは貴重な収入源を失ってしまったのです。webサイト・frontstretchにヒルはこう語りました。

「私たちは実際のレース人生をプロインビテーショナルとパッケージ化することを試みました。本当に全てパッケージ化しようとしているので、スポンサーは実際に活用しました。」

「実生活で磨きをかけているものですから、それは私にとってものすごく士気を高めるものでした。私は人々が気づきもしないような数多くの難題に直面しています。そして、ようやくもう少し高いレベルの競争の場で戦う機会を得て、私は輝き、才能を発揮することができました。」

「普段の週末ならあまりお目にかかれず、周回遅れだったりなかなかうまく行かない選手が、ギャレット スミスリーのように、(iRacingで)常に前を走ることで、人々に理解してもらえました。実際、優秀なドライバーの中には、明確な理由によってスピードを上げることができない車を運転している人がいます。そして、ファンはそうしたことを垣間見たと思います。」

「本当に、スポンサーに興味を持った人がたくさんいました。我々はこの取引の輪の外側に置かれたと伝えたので、それらを保留にしなければならず、NASCARから何の反応もありません。」

「理由は、彼らがシリーズで我々を望んでいないか、我々がいないことに気づいていないかだと思います。コミュニケーションは本当にありませんでした。我々が取り残されているというのは共通のテーマです。」

「最初にプロインビテーショナルが発表された時、彼らは『全てのフル参戦ドライバーとチームが招待され、参加する必要がある』と言いました。我々は昨年のプロインビテーショナルで成功し、実際にそのイベントを中心に計画を立てました。カップシリーズについては、参加するために必要な基準を満たすことができるように全レースに参戦しました。」

「その日が近づいてきたので、我々は担当する人々に連絡を取るように努めましたが、何の反応もありませんでした。現実によくあることです。」

「NASCARが今年賞金を削減したにもかかわらず我々がカップシリーズに参戦しているのは、プロインビテーショナルに参加するためです。しかし今、これらの難題が積み重なり、NASCARにプロインビテーショナルに招待されず、賞金は削減されているんですから、カップレースに走る動機はありません。おそらく、カップのスケジュールを削減することになるでしょう。」

 プロインビテーショナルに関しては、36あるカップシリーズのチャーター保有チームのうち35が参加。参加しない意思を示したのはNo.2 ブラッド ケゼロウスキーとNo.4ケビン ハービックの2名。このうちケゼロウスキーの参加枠には、チームメイトのオースティン シンドリックが代理という形でそのままNo.2で参加。
 そしてハービックの分のチャーター枠は、ここまでフル参戦しているけどチャーターを保有していないNo.37ライアン プリースが参加枠を譲渡される形で参加しています。レースは全38台となっており、残った2枠はテレビ局の解説者から、元ドライバーのクリント ボイヤーとデイル アーンハート ジュニアが参加しています。

 昨年活躍したヒルが参戦できず、茶化すだけのボイヤーが出ていることに納得できないファンは多かったようで、Twitter上ではヒルが出場できないことが明らかになると、#LetTimmyRace というタグのついた投稿が拡散されて、一時トレンド入りしたとのこと。思ったより大事になってしまいました^^;

 その後、レース当日である24日に、MBMのオーナー・カール ロングはチームのフェイスブック上に声明を発表しました。

「ブリストルのiRaceから除外されたMBM /ティミーヒルへのすべてのサポートに感謝します。今日のアメリカでのトレンドツイートのトップ6に入った私たちには、非常に多くのサポートがありました...これは、NASCARのフォロワーがたくさんいて、この競技が評価よりも強いことを改めて証明しています。」

「私は今朝、NASCARの幹部数名に説明を求めるメールを送りました。今日、私はWebexミーティングで、スティーブ フェルプス、スティーブ オドネル、およびティム クラークに参加するように招待されました。」※全部NASCARのすごく偉い人です

「私は自分の電話にアプリをダウンロードして参加しなければならず、会話のしばらく後、私は信号を失って会話から落ちてしまいました。運が良かったので、NASCARの社長に電話をしました。ティムは私に折り返してくれ、これがどのように発生したかについて話し合いました。」

「長い話を要約すると、映画のホーム・アローンのように、彼らは子供たちの1人を忘れました!私たちが情報パイプラインにいることを確認するための措置が講じられました。NASCARのトップリーダーが私たち(成長しようとしている小さなチーム)を気にかけていることを知り、良い気分です。私はガレージの資金が少ないチームの将来についても会談の内容に含まれることを望んでいます。」

「この露出が、NASCARレースをサポートしている情熱的なレースファンがたくさんいることを誰もが理解するのに役立つことを願っています。これらのファンは消費者でありスポンサーでもあります。」

「現在、MBMにはいくつかのスポンサーがいますが、次の3つのカップレースにはスポンサーがいません。私たちは、LiftKits4Less.com、AP4Less.com、Smithbilt Homes、CrashClaimsR.US、Whataburger、Jani-King、およびSupreme Transportationを、3戦のXfinityと1.5戦のカップレースの一部のイベントのプライマリスポンサーとして迎えることを誇りに思っています。すべてのレースのスポンサーになる必要があります。このタイプのポジティブな露出は、私たちの役に立つ可能性があります。」

 ヒルがやや過剰反応してしまったのか、NASCAR側にあまりに配慮が足りなかったのか、真相は分かりませんし、おそらく『たかだかゲームで速いだけで、才能を発揮したとか調子乗り過ぎ』『炎上商法』と思う方もいるでしょうが、オーナーのロングがうまいことまーるくおさめた感じがします。
 ロング自身は、出れないからカップシリーズの計画を止める、等の発信はしていないようなので、極力前向きな声明でヒルのかなり否定的な意見が並んだインタビューを打ち消す格好となりました。

 次戦以降彼らが招待されるのか、が次の注目点になるでしょうが、とはいえ、iRacingのイベントがチームの活動そのものにも影響する、というような状況は2019年には想像もしなかった世界です。
 資金力で劣るチームは少々才能があってもレースでは勝負にならないという現実があり、それもまたモータースポーツの常識ではあるわけですが、バーチャルという舞台が普段埋もれた名前を発掘し、ファンがより多くの選手に興味を持つきっかけとなり、結果スポンサーがついて、お金が入って、チームが強化されれば、これは新たなチームの育成方法と捉えることもできます。
 運営側にとっても利益になる話ですし、次戦以降うまく話をまとめてもらいたいなと思いますね。

 ところでヒルなんですが、実はまだ話には続きがあり、ペンスキーはケゼロウスキーの代わりにシンドリックを参加させる、そのシンドリックが欠場して代役としてなんとNo.2でヒルはこのイベントに参加しました。
 ヒルはペンスキーの車で8位でフィニッシュ。ヒルが例題として挙げていたスミスリーは3位、ジェームス デイビソンが4位で、確かに普段なら動くシケイン状態のリック ウェアー レーシングのドライバーが活躍しています。

 プロインビテーショナルの第2戦は4月21日のタラデガ。そして、6月2日にはシカゴ市街地サーキットでのレースというのが企画されています。もちろん実際には存在しないイベントですが、どうやら来年以降に実際に開催することに含みを持たせているようですので、予習として見てみるのも良いかもしれません。

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