フォーミュラEの楽しみ方と戦略

 ABB FIA フォーミュラ E 世界選手権、シーズン10となる2024年のシーズンは開幕から3戦が終了しました。当初第4戦に予定されていたハイデラバードが現地の政治情勢の影響を受けて中止になったため、第3戦と4戦の間には7週間の空白が生じてしまいますが、繰り上がった第4戦がサンパウロ、そしてその2週間後に第5戦として日本での初開催となる東京E-Prixが開催されます。
 と言っても、モータースポーツを知らない人はおろか、普段モータースポーツを見る人の多くにとってもフォーミュラEというのは正直『見る気すら起きない』『大型ラジコン』『遅い』『エセ環境活動』といった具合の否定的な印象を持ち、見ていない方も多いと思います。
 しかしせっかく東京で開催されるので、フォーミュラEをシーズン1の初戦から全レースフルサイズでテレビ観戦してきた私なりに、そんな見る気すら起きない遅いエセ環境活動大型ラジコンレースについて、どこを楽しんだら良いのか、何が面白いのか書いてみたいと思います。多少なりとも興味を持つきっかけになっていただければ幸いです。

・そもそもフォーミュラEとは


 いつも通りそもそもから入りましょう、フォーミュラEは2014年から始まった電動のシングル シーター車両で世界を転戦するFIA公認の選手権です。元々は他のレースの大半がお休みに入る秋口に開幕して春先に終わる年跨ぎの日程で始まり、2014-2015 といった表記をするとともに、面倒なので『シーズン〇』という形で表現されます。2020年のCOVID-19感染拡大の影響でシーズン7の途中から日程が大きく狂ってしまい、シーズン8以降は1月に開幕するので年跨ぎにはなっていませんが、いずれは元の形に近づける予定です。
 シーズン8からはFIA 世界選手権の格式を与えられ、シングルシーターのレースとしては現在だけでなく歴史上でも初めてとなるF1以外での世界選手権だそうです。現在の2024年はシーズン10、世界選手権としては3期目のシーズンとなっています。静かな自動車である、そしてむちゃくちゃ速いわけではないことを活かして、他のレースではできないような世界の主要な都市での市街地レースが行われるのが大きな魅力、ですがここ数年は常設サーキットでの開催もちょっと増えています。東京は臨海部だから都市のど真ん中ではないですけどまあ市街地ですね。

 ここでまずこの先の話に向けて、毎回見ているファンとして抑えておきたいポイントがあります。時折yahoo知恵袋なんかでも『F1とフォーミュラEは何が違いますか』とか『どっちが速いですか』とか『いずれフォーミュラEがF1に取って代わりますか』という類の質問があるんですが、少なくとも今の段階では両者は全く性質の異なるレースです。
 たとえばF1とNASCAR、SUPER GTとGR86/BRZ Cupを比べても全く別の性質の競技であるように、フォーミュラ ワン とフォーミュラ E も名前が似ているだけで別物です。11人制の普通のサッカーとフットサル、ビーチサッカーは似ているようでまた求められる要素が違い、どちらが上でどちらが下というものでもありません。もっと言えば、同じようにボールを手に持って相手のゴールにそれを入れて得点を競う競技でもバスケットボールとハンドボールでは全く異なります。そのぐらい、4つ車輪の付いた自動車を人間が操って順位を競っているところは同じでも中身が違うので、同じ評価軸で見ると入り口で躓く可能性があります。

・どんな車?

 自動車レースはまず車のことが分からないと始まりませんね。現在使用されているのはシリーズとして3世代目の車両なので"Gen3"と呼ばれています。電動モーターの最高出力は350kW(約476馬力)、車両重量はドライバー込みで840kg。フロントにもモーターが搭載されていますが、こちらはブレーキの際にモーターを使って発電する『回生ブレーキ』専用で動力としては使用していません。加速時は後ろしか使わないので最大350kWの出力ですが、減速時はリアの350kWに加えてフロントの250kWも使用し最大600kWで回生できます。なお将来は4輪駆動になる見込みです。

 車体はスパーク レーシング テクノロジーというところが製造元になっていて全車共通、組み込まれるバッテリーもウイリアムズ アドバンスト エンジニアリング製の共通部品を使用しています。F1のように空力開発することは一切ありません。タイヤもハンコックの単一供給、雨でも走れる溝付きの全天候型タイヤ1種類のみ。環境志向で1レース・1台あたりたった2セット(2連戦の場合は2戦で3セット)しか供給されません。極力輸送も廃棄物も少なくしています。


 開発できるのは主にモーター・インバーター・トランスミッションで構成される『パワートレイン』と呼ばれる動力部分で、トランスミッションと繋がっているのでリアのサスペンションにも一定の開発余地があります。ただしこれらも開発凍結期間があり、シーズン9の開幕時点で登録されたものはシーズン10終了まで変更ができない制度になっています。


・争うのは"効率"
 
 じゃあ開幕したら何をするんだというと、より効率的に電力を使用して限られたエナジーを最大限に有効活用して走るための制御ソフトウェアと、効率的な走りを導き出すためのシミュレーション作業が軸になります。もちろん自動車レースなのでサスペンションのセッティング、最適なタイヤ内圧設定など車を速く走らせるための作業も必要ですが、これも実走する機会が少ないのでやはりシミュレーション作業に入ってきますね。
 効率的ってなんじゃいそれは、という話ですが、電気自動車を実際に我々が購入するとしても課題になるのが航続距離です。もちろんフォーミュラEも同様で、搭載されているバッテリーの容量では全力で走ったらあっという間に『電池切れ』してしまいます。しかし、レースは概ね90kmぐらいのレース距離で開催されるので、なんとかそれを最後まで走り切らないといけません。
 そこで、F1でもやりますがコーナーの手前・ブレーキを踏む場所よりも早くからまずアクセルを戻して車を空走させる『リフト&コースト』を多用し、さらに上記の回生ブレーキで充電します。力行出力よりも回生出力の方が大きいので結構な量を充電することが可能で、公表されている概要ではレース中に使用する電力のうちの約40%は回生ブレーキで回収したものだということです。ざっくり言い換えると回生ブレーキのおかげで航続距離が1.5倍ぐらい伸びてるわけです。
 リフト&コーストはてきとーにやっても遅くなりますし、強力な回生はバッテリーに多大な負荷をかけて高熱の発生による性能低下や破損を招くので、どちらもどこでどう使うのかを綿密に検討しておかないといけません。そのための制御とシミュレートというわけです。

 F1ならパワーユニットの開発が進めば出力が上がり、おかげで今ホンダはめっちゃ速いわけですが、上記の通りフォーミュラEは最高出力に上限があり絶対に超えてはいけない決まりです。バッテリーも共通なのでみんな同じ、車もほぼ一緒、そして電池は容量が足りない。そうするとこの規格の中で最も武器になるのは効率で、効率とはすなわち『レース中にアクセルを踏める総時間』と言い換えられます。
 世界の自動車レースを見ると、F1のパワーユニットもSUPER GT・GT500クラスのエンジンも燃料流量の規定によって『燃焼効率』を競っており、詳しい説明は省きますが効率が良いことは出力の高さに直結する最重要課題です。F1もレース中に給油できないので飛ばしすぎたらガス欠するというのはフォーミュラEと同じではあります。しかしF1はちょっとした節約でガス欠にはならずに済みますし、他にも開発課題が色々あるこれらのカテゴリーと違ってフォーミュラEはもうここしか差を付けられる場所がありません。ここで負けてたらほぼ勝負にならないのです。
 将来画期的なバッテリーが開発されて航続距離が飛躍的に延びれば話は別ですが、現時点でフォーミュラEは完全に『効率を競う』ことに特化したレースと言え、これが他のレースと大きく異なる点です。『電池が足りないから全力で走れない遅いレース』と言われればそれまでですが、逆に運営側はそこを克服しに行く部分にこそ競争を求めているので、まず最初にこの点を念頭に置いておくことがレースを楽しむ上での一歩目になると思います。

 ではここから、私の独断と偏見でフォーミュラEを楽しむ要素を挙げていきます。

・見た目を楽しむ

 なんといってもこのGen3車両、見た目がカッコイイ。正直私もGen2時代に最初にこれがお披露目された時点ではまだピンと来なくてGen2の方が気に入っていましたが、いざ始まったらこの直線的で戦闘機のようなデザインをすぐ気に入りました。基本的にダウンフォースを生み出すことを必要としていないのでウイングは見た目重視の飾りに近く、それゆえに速さを求める他のレースではできない外観となっています。
 また開催レースの多くは市街地で開催されるので、中継映像でも各開催地ごとに見える都市の風景も見た目の楽しみと言えます。都市部での開催は地元政府との協議が必要なのでなかなか恒久的なイベントにならない部分もありますが、韓国・ソウルではオリンピック競技場の中を走行、パリやローマといったグランツーリスモでしか走らんだろうと思っていた歴史的な都市を走り、スイス・ベルンの美しい街並みの中でもたった1度だけですが開催されました。F1では走れない狭くて凹凸のある道路も使えるので、より『市街地っぽさ』が強いのも特徴です。
2019 パリ

2022 ソウル

 イギリス・ロンドンではエクセル ロンドンという国際展示場の内部もコースに使用してスタート地点がなんと屋内。モナコ・モンテカルロは巨大すぎる現代のF1よりもむしろ小柄なこの車両がちょうど良くも見え、ドイツ・ベルリンでは元々100年前に開業したドイツ最古級の空港・テンペルホーフ空港跡地を使用したレースが定着しています。

 ただ上記の通りなかなか同一地での開催継続は難しく、たとえばハイデラバードは地元州政府の政治情勢の影響を受けて急遽2024年が中止、2022年に開催予定だったバンクーバーは開催地域にある地権者全員と合意が必要な中で、その中の地主1人との交渉が頓挫したことで中止になったとされています。
 人気だったニューヨークは開催地に使用していた港湾施設が拡張工事に入って使えなくなったので継続できなくなり、今年のジャカルタはインドネシアで大統領選挙があるので最初から日程に入りませんでした。中止の理由もそれぞれである意味面白いわけですがw
 そんなわけで現実を見ると当初のお題目と比べて常設サーキットが増えているのが現状です。ただフォーミュラEはできれば1周を2.5km程度に収めたい方針なので、常設サーキットでも『他のレースではまず見られない短いレイアウト』を採用する点である意味珍しい景観が見られます。

・スピード感を楽しむ

 現在のGen3車両、速さはだいたいF3ぐらいだと言われています。実際は溝の付いた全天候タイヤにかなり速さを持っていかれてるので、F3相当のもっとグリップの高いスリック タイヤを使用すれば確実にもっと速くなるんですが、そうは言っても直線で軽く200km/hを超えるような強烈な加速を見せます。
 これは常設サーキットのだだっ広いところだと車両が比較的小さいこともあって迫力が落ちるんですが、市街地の狭い場所では実際の速度以上に速さを感じるので特に遅いようには見えません。しかも市街地だと観客との距離も比較的近くなることもあります。東京ビッグサイトの前を200km/h近い速度で車が走っている様子、日常では考えられないですよね。そういう点でスピード感/迫力はじゅうぶんあります。映像でも現地観戦でも、市街地なら迫力はじゅうぶんあって楽しめる要素だと思います。

・ドライバーを楽しむ

 フォーミュラEが始まったころはまだこのシリーズがどうなるのかもさっぱり分からず、ワンメイクでプライベーターのチームも多かったので、F1を引退して正直力が落ちているんじゃないかという選手がいたり、スポンサー資金の関係でシーズンに何人も選手を起用するチームがありました。
 しかし現在のフォーミュラEは世界選手権という称号がかかり、世界的に見て『大手自動車メーカーが直接参戦し、メーカー契約ドライバーとしての待遇を受けられる』という機会がある数少ないレースになっているため、初期からこのシリーズに参戦し続ける大ベテランや、耐久レースのトップカテゴリーで成績を残してきた選手、FIA F2で活躍し、たまたまF1の機会が巡って来ないだけで候補に挙がっているような若手まで参戦し、選手層が分厚く、そしてベテラン勢を中心に結構キャラクターも濃くなっています。日本のレースで活躍した選手も数人いるので応援しがいもありますね。


 参戦チームとドライバーの細かい話は以前にまとめた記事があるのでそっちに任せます。かなり車の乗り方もレースのやり方も特殊なので、いきなり他のレースから来た人が乗っても予選で秒単位で遅いとか、決勝で全く勝負にならないとかいうことはよくあります。

・音を楽しむ

 電気自動車で一番言われるのが『エンジン音が無い』。そりゃそうだ、付いてないんだもの。 みつを
 車で電気でレースというとラジコンが浮かぶので、結果として『実物大のラジコンが走っているようだ』『迫力が無い』『つまらない』という第1印象を持たれてしまいがちです。しかしちょっと待ってください!ラジコンのレースってモーターの音だからつまらない、見るに値しないものでしょうか。シミュレーターから出てくる音って、たとえ超リアルなiRacingでも所詮は収録したサンプリング音をプログラムによって電気信号に変換したものに過ぎないですが、電子音だからしょぼいでしょうか。そう、つまりこれは先入観なのです!()

 大げさに言いましたけどモーターの音にもそれぞれ個性があります。高速域はあんまり分からないんですけど起動~低速域には個性があるというのは鉄道と同じで、私は鉄道好き、とりわけインバーター音にはこだわりがあるのでよく分かります。産業用の大きなモーターでは聞くことができないあの高回転の音は独自のものがありますし、もちろん小型モーターのラジコンとも違います。
 F1で各PUメーカーの音を聞き分けられるほど耳が肥えたそこの貴方、各パワートレインのモーター音聞き分けもできたらきっとすごい世界が待っていますよ!と言ってる私も今のところ『違っている』ことは分かっても『どれがどれか』までは至っていないんですが、ユニットが発する電磁波の影響か、メーカーによっては車載の集音マイクに独特のノイズが入っているようなので、車載映像だとけっこう音が変わってしまう印象もありますね。


 音が静かぶんだけ高速だと風切り音がよく聞こえますし、タイヤが全然グリップしないせいでスキール音に関しては町中を暴走族が走ってんのかと思うぐらいにキャッキャキャッキャ聞こえてきます。そして接触があるとえげつない音がして、中継映像でも「ガシャッ」「ズドゴォ」「カシッ」と他のレースではまず聞こえてこない音が聞こえます。スタート直後に低速で玉突きになってる音とかちょっと笑えて来ますね。


・接近戦を楽しむ

 効率を競うフォーミュラE、全力で走れず電池残量を睨んだレースになるので誰かが逃げていくこともめったにないし、優勝者も固定されません。一旦誰かが先攻してもそれは最初にたくさん電力を使ったからで、どこかで節約していたらコツコツ走っていた人が追いついて30周目にはまるで2周目みたいに全員集合することもあります、うさぎとかめですね。
 各チーム・ドライバーとも最初のころと比べるとすごく利口になったのでレースの中盤でガチャガチャと無駄な争いをしなくなってしまいましたが、スタート直後と最後の数周は目の前の順位を巡ってハゲしい争いが起こりやすく、少々ウイングが壊れても関係ない車なので車間距離もかなり近くてなかなかにスリリングです。
 ダウンフォースが抜けて前に付いて行けないような車では無いし、何なら少しでも空気抵抗を減らして消費電力を減らしたいので結構みんなくっ付いて走ろうとするので、映像には常に多くの車が映り込んでいて見栄えが良いですしそれなりの迫力もあります。タイヤが滑り過ぎるのでトラクションがかからなくてコーナー出口で付いて行けない、というのは弱点なんですが…


・追い抜きを楽しむ

 普通モータースポーツで追い抜きと言ったら直線が速い!とかブレーキングがスゴイ!とかいう要素になりますが、フォーミュラEでは上記の通りコーナーの遥か手前でまずアクセルを離して加速をやめてしまいます。ということは、まだブレーキを踏む場所では無いので後ろの人はそのままアクセルを踏んだら抜けます。そう、フォーミュラEの追い抜きは多くが『相手より長く加速している』ことで起こります。
 でもそれをやると当然どこかで後から節約する必要が出てくるので、言うのは簡単でもやるのは大変。相手もブロックしてくるし、気配を感じたらリフト位置を同様に奥にしてくるかもしれません。そうすると最後はブレーキング勝負に持ち込まれたり、狭くて凹凸が多くて汚れた路面で走行ラインではないところからこじ開けに行こうとしてすごい争いや追い抜きにも発展します。
 今の追い抜きはちょっと電力を使ってでも踏んでいったのかな、前の人が譲ったのかな、本気でやり合ったのかな、とその背景も考えつつ観戦するとその後のレース展開も見えてきます。
電池残量1%未満での最後の攻防、
ブロックもかなり危なくなる

・アタックモードを楽しむ

 フォーミュラEには『アタック モード』という独自の仕組みがあります。経営者がマリオカートに着想を得たとされており、決勝レースでは通常300kWに制限されている最高出力がアタックモードを作動させると一定時間だけ350kWへと向上します。割合で言うと約16%、馬力で言えば約70馬力も上がります。スーパーフォーミュラにもOTSという一時的に出力を上げる仕組みがありますがこんなに急上昇はしません。アクセル全開同士なら通常モードでは全く歯が立たない差です。
 ただし作動させるにはステアリング上で操作をした上で『アクティベーション ゾーン』と呼ばれる検知点の上を通過しないといけません。このアクティベーションはコーナーを大外回りしたり、逆に小さく内側を回らないといけない場所にわざと設置されていて、作動させると車が速くなる代わりに一旦タイムが落ちてしまうという欠点を伴っています。そして、アタックモードは任意ではなく義務としてレース中に必ず使い切らないといけないというピット義務のような役割も併せ持っており、これが戦略に大きく関係してきます。
モンテカルロではカジノコーナーをこんなに遠回り

 検知点はアクティベーションの入り口、中間、出口と3か所に設置されていて全てを通過しないと作動しません。ドライバーとするとできるだけ損を少なくしたいので検知してくれるギリギリのところを通ろうとしますが、やりすぎて1か所でも通過し損ねると作動せずに『ただ遠回りしただけ』になってしまい大損です。
 また、ラインを外れたところを通るということはアクティベーションの先で通常のラインを走っている人と交錯しやすく、合流地点での激しい争いも起こりやすくなります。こうした要素からアタックモードはレースに大きな影響を与えるので、観戦時に注目すべき存在です。なお、アタックモードは決勝の3周目以降にならないと使用できず、SC(セーフティー カー)、ないしはFCY(フル コース イエロー)が出ている最中は起動することができません。(既に使用中の場合は関係なし)


・戦略を楽しむ

 ちょっとレースを見る目が肥えている人は戦略を楽しむのがおススメ。フォーミュラEは『200km/hで走りながらチェスをしているようだ』と表現されることがあるぐらいに戦略が重要で、見ている側もこの戦略ゲームを理解できるようになるとただの隊列走行に見えていたものが高度な心理戦にガラッと印象が変わります。というか結局ここを理解しないと観戦が長続きしないおそれがあります(´・ω・`)というわけでここからは具体的に文章量を割いて見ていきましょう。

〇ペース配分

 まず始まる前の段階で、チーム側はレース設定が『ものすごく節約しないといけないレース』なのか『そこまで極端な節約は必要ないレース』なのかを考えます。レースで使用できる電力量は標準的な値で38.5kWhとされていますがこれは年間を通じた不変の値ではなく運営のさじ加減でもっと減らされることもあり、ここにコース特性と周回数設定が相まって毎回状況が変わるのです。
 どちらの方向性であっても基本的には序盤の集団走行では少し節約気味に走っておき、レースの後半に向けて少し余力ができてきたら徐々にペースを上げて、最後は残量0.0%で終わらせるのが理想形。フォーミュラEにはレース途中に SC/FCY が出るとその長さにあわせてレース周回数を延長させる仕組みもあるので、最初から飛ばすと計算が崩れやすいしSCが出てしまったら築いた差が無くなって大損する危険性も増えるので得策ではありません。
 相手の後ろを走るとスリップストリームの効果で空気抵抗が減るため節約には最大限利用したいもの。相手よりもアクセルの量を減らした状態で同じ速度に到達できるから節約になる、のかと思いきや、Gen3では前述の通り 力行出力<回生出力 になっているので、むしろ相手と同じアクセル使用量で相手よりたとえ1km/hでも高い速度に持っていき、そこから回生することでより多く充電するのがコツだそうです。ただ車両の空力性能が高く無いのでスリップの効き目も実はそこまで大きくはありません。

 序盤はみんな節約気味ということはリフト&コーストも多く使っているので、単に追い抜きを考えるとやりやすい時間帯でもあります。とりわけ予選で失敗した有力ドライバーは我慢して一切抜かずにものすごく残量に余裕を作っておくか、さっさと今抜いてある程度順位を上げてしまうか、というところが後のレース展開を左右するので、埋まっている有力ドライバーがいたらその人の順位変動や電池残量は隠れた見所になります。
 レースが終わった時にまだ1%とか2%とか電池残量がかなり残った状態でチェッカーを受けた人がいれば、その人はとても省エネだったというわけではなく、集団になっていたので後半勝負を考えてとりあえず節約していたら、結局抜ける場所が無さすぎて力を使い損ねた、使いたくても使えなかった、という状況だった可能性が高いです。稀に車両やピット側の計算ミス/不具合により自覚なく余ってることもあります。


〇ほどほど節約レースの基本戦略

 あまり節約が必要ではないレースだと、大雑把ですが予選タイムから見て3秒落ちぐらいのペースからレースが始まります。ここから状況を見ながら少しずつペースを上げて行き、中盤以降は予選の1.5秒落ちあたりまで段階的にペースが上がっていきます。2秒落ちを切るぐらいまでペースが上がってくると、まだリフト&コーストも使ってはいるんですがだいぶ距離が短くなるので追い抜きが難しくなってきます。
 追い抜きが難しいペースに入ってしまったら手遅れになるので、レースの早い段階からアタックも活用して順位を上げることが多くなります。節約すべき量がある程度見えているのでレース中にペースを思い切って上げていき、どこかで帳尻を合わせるようなメリハリの利いた走り方でもどうにか電池切れせず走れます。無難に周囲のペースに合わせて淡々と行くのか、あえて違うことをしてリスクを取ってでも順位を上げに行くのかが重要になります。

〇猛烈節約レースの基本戦略

 シーズン9でたびたびあったのが猛烈な節約を必要とするレース。全周にわたって均等に節約走行する、というわけではなく、終盤はやはり予選の2秒落ちぐらいの『抜かれない速さ』で走りたいので、その代わりレース序盤は予選の8秒落ちとか異様な遅さからレースが進むことになります。
 そうなるともう抜きたいなら抜き放題になりますが、前に出たら風よけにされてしまうので誰も前に出たくありません。その結果、お互いに我先にリフト&コーストして、相手を抜きそうになったらさらに減速してお互いに1位を譲って押し付け合うという非常に奇妙な光景が繰り広げられます。
 そんな状況でノロノロ走っていて「これは何を競っているんだ」とか思うわけですが、じわじわとペースを上げて効率の悪い人からふるい落とされるようなレース展開になっていきます。そして、どこかの段階でチーム側が「よし、ここから先は抜かれないペースで最後まで走れるぞ」と思ったら、そこから先は急激にペースが上がります。
 この「ここから先は行けるぞ」と思うタイミングは積んでいるパワートレイン、ドライバーの腕前、エンジニアの能力といった要素でバラバラになり、判断が早すぎたら最後に電池切れ寸前になってまともに戦えなくなります。先頭の押し付け合いをしている最中も「いつから行けるのか」をみんな常に考えて探り合っており、「まだ前に出るのは早いかなあ」「あいつは効率が悪いから前に出したくないなあ」「そろそろ2位に付けておきたいなあ」といったことを考えて、もっと節約しろとか誰を抜けとかこいつを抑えろとか指示が飛び交います。

 例えばそんなにらみ合いの最中に他人より先に「俺たちはもうここから行けるぜ!」と思った人がいれば、追い抜くのはむちゃくちゃ簡単な状況なのでスルスル~と前に出て、そこから先はドライバーの腕や鬼ブロックも駆使してとにかく順位を死守、ライバルは「しまった!やられた!」と慌てて追いかけることになります。マラソンのような進み方ですね。
 この途中経過の駆け引きと、真っ先に前に出る決断をしてペースが上がる過程というのが猛烈節約レースの最大の見どころで、ある意味最もフォーミュラEが他のレースと異なっていることを表すものなんですが、いかんせんそこに至るまでに譲り合いが起きるので批判されがちです。そのせいかシーズン10の序盤3戦ではこういう設定になっておらず、ひょっとするともうやらないつもりなのかもしれません。もしまたこういう設定になったら『誰が何を考えているのか』を自分なりに想像し『スイッチが切り替わる瞬間』を見つけるのが注目点です。

〇アタックモードの基本戦略

 レースを組み立てる上で大事なのがアタックモードの使用義務で、基本的な設定では8分間を2回に分けて使うことが求められ、それも『2分+6分』『4分+4分』『6分+2分』の3パターンから、初回使用時に1つ選んで使うことになっています。持続時間と回数はレースごとに個別に設定されるので、基本は決まっていても運営のさじ加減で変わることがあります。
 アタックを取りに行った時に後ろにも車がいたらほぼ確実に抜かれてしまいます。そのため理想としては後続と差を広げ、遠回りで1.5秒遅くなるのなら1.6秒以上引き離して抜かれずに使ってしまうのが最高、少なくとも2つ以上順位を下げる状況では使いたくありません。無線でもドライバーはよく「Push to attack!(飛ばしてアタックへ行け!)」というような指示をエンジニアから受けます。しかしここまでに書いて来たとおり、ペースを上げれば必ずその分どこかで節約が必要なので、秒単位の差はそうそう築けるものではありません。
この時は「SCリスクを避けるために飛ばしてアタック」
と指示されている

 もっとも、自分がまずアタックを使って抜かれても、みんな同じ回数使用する義務がありますから次に相手が使ってきたらその間に自分が前に出て元通りです。さっき『アタックモードはピット義務の役割もある』と書きましたが、まさにこれって他のレースでのピット戦略と同じで、単にピットだと何十秒もロスがある出来事が数秒のロスの範囲で行われているだけなんですね。
 アタックモードはお題目としては『攻撃』で初期のフォーミュラEでは確かに追い抜きの大事な武器だったんですが、Gen3ではあまり攻撃には使われていません。350kWの出力を活かしてペースを上げたら当然電力も大量に消費するので、アタックを取っても実際にはそんなに速く走らない/走れないためです。タイヤのグリップが低いので単純にパワーが増えたら滑って案外速くない、というのも場合によっては関係します。
 出力が増大するとバッテリーに負荷もかかるので加熱して性能が低下するかもしれませんし、そうすると回生の効率にも悪影響を与えるので現実問題としてレースではそんなに速く走っていられないんです。そのため、アタックは本当に義務として『戦略ツール』『損しないために上手く使う』ことをみんな考えています。まさにピット義務そのものです。

 絶対に避けないといけないのは、アタックを取りに行ったのに検知点を通過できないことと、アタックを取った直後に他の車と合流地点で並走になったり、壁に挟まれそうになって急ブレーキを踏むなどして余計な力と時間を使わされてしまうことです。また、使用義務があるということはレース中にSCが出ると、既に義務を終えた人と終えていない人がいた場合は未消化組が基本的には不利な立場になってしまいます。ピット義務と同じで、SCリスクを考えると早めに使ってしまいたいという考えが働きやすくなります。
 もっとも、ピット義務のレースならこれは何十秒もの差に相当するのでほぼ勝負権無しになりますが、アタックの場合は数秒/数個の順位損失で済みますし、展開によっては「お、残り周回のわりにバッテリー残ってるからめっちゃ飛ばせるやん」となって350kWですっ飛ばして抜けることもあり得るので、自分だけ未消化の状況は重大リスクと隣り合わせ!と言い切れるレベルではないのがピット義務との違いと言えます。


〇アンダーカット

 というわけでアタックを絡めたレース戦略も基本はF1のピット戦略と同じです。ほどほど節約レースでよく使われるのはアンダーカット、前を行く相手よりも先にアタックに入り、350kWの速さを活かして300kWの相手より速く走り、相手が次の周以降にアタックを取りに行ったら自分が前に出ている、というものです。無線でも「アンダーカットに行くぞ」と言われているケースがあるので、チーム側もそういう認識でいると思われます。
 ただ上記の通り攻めたら電力を消費して後で苦しくなりますし、もし電力を使って飛ばして良い状態であれば、相手の方が1周遅くアタックに入った=自分が300kWで丸腰になる時間帯があるので直線であっさり抜き返される可能性もあります。アンダーカットを狙うにしてもただ速く走るだけではなくレース全体を考える必要がありますし、F1のように『先に入る=とりあえず前に出られる』というほどでもないので、揺さぶりやSCリスクを避けるための早めの義務消化という意図も強いです。
 また、実際にピットに入るF1のアンダーカットと違ってこっちは1.5秒後方とかで合流しますので、後続との差が無いと自分が集団に埋まって大損するのは確実。そのためアンダーカットは上位勢が少し抜け出した場面で使うことが多く、大集団になっている中団の争いでは隊列後方の人の方が仕掛けやすくなります。中団の人が変に先に動いたらペースの遅い集団にハマって自滅します。
 当然ながら相手がアンダーカットしてくることを想定して前の人が先に動いてしまうこともありますが、集団に埋まる、むしろ下記のオーバーカットを食らいやすい、といった弱点もあるのであんまり1位の人は自分から動かない方がよさそうです。


〇オーバーカット

 F1だと滅多に無いオーバーカット、フォーミュラEではわりと起こります。繰り返しになりますがシビアな電力管理が必要なレースなので、アタックモードを使っても電池残量を考えて全くペースを上げないで走るということは結構あります。レース全体のペースが予選の3秒落ちで走っているとすると、通常の300kWの人がペースを上げればこれを2秒や1.5秒落ちにすることはそこまで難しくありません。
 そうすると、前にいるドライバーがアタックに入って前が空いたところで通常モードの自分がペースを上げ、後からアタックを使うとオーバーカットで前に出れることがあります。通常モードだろうとアタックモードだろうと、順位を上げるために相手より速く走ったらそこで使ったぶんの電力をどっかで節約しないといけないのは同じなので、相手が自分の前にいるうちは節約、いなくなったら飛ばして、アタックの義務を終えて前に出たらまた節約、と走りを切り替える必要がありますが、集団に詰まったり相手とコース上で争って不用意に消耗することは避けられるので、マネージメントさえできていれば有効な作戦です。
 とりわけ中団グループで集団にハマって誰もアタックに入らない展開になった場合、節約しまくって他の人がアタックに入るまでひたすら待ち、前が開けたところで全力で走ると大幅に順位を上げることもあり、予選で失敗した有力どころはよくこれをやります。
 「じゃあみんなレース終了ギリギリまで使わなくなるのでは?」と思いますが、隊列最後方の人はどこかでアンダーカットを狙って先に動きやすいですし、そうすると前の人も空間がうまくできたらこれに続いてアタックに動くことになります。こうしてそれぞれが行動を選択していった結果、周りがごっそり抜けたらオーバーカットしやすいチャンス到来。しかし予想外に誰も動かないと、ただ全員同じ周にアタックに入って何も起きず終わることも当然ありますw

ついつい情報を入れすぎるとドライバーは怒ることも・・・

〇超消極的アタック

 これは節約度合いが強いレースほど使われることになる作戦。猛烈節約レースでは先頭を走りたくないので、1位の人はアタックを自分から真っ先に取りに行き、そのついでに後続の人に1位を譲って自分は隊列の中に入り節約します。当然ですが節約したいんですからアタックモードと言っても抜く気はゼロです。と言ってもみんなそんなのは同じなので、数周したらアタックによる1位の押し付け合いでだいたい元の順位に戻ります。後ろがみんな使って、自分だけ使わず先頭に放り出されるのが一番困るので、そうならないための作戦と言えるでしょう。
 さらに進んだ無茶苦茶なものとして、もうアタックの義務2回は消化しているのにふら~っとアクティベーションへと進み、アタックを取りに行ったフリをして順位を譲るという偽装アタックもあります。別にどこで譲っても同じなんだから直線でもアクティベーションのないコーナーでも良い気がするんですが、エンドレス譲り合いになったりタイヤが汚れたりするので、できるだけ流れでさりげなく押し付けるというかなりセコイ技ですw
 もはやただ順位を押し付け合っているだけなのでアタックモードも茶番でしかなくなってますが、元々1位の人はだいたいまた1位に戻される一方、大集団の中ではあちこちで隊列内の順位が変動しており、これがレース終盤に1位に届くか届かないかに影響してたりするので油断はできません。もうこういうレースは無いかもしれませんけどね。

〇実例

 最後に、直近のレースである第3戦・ディリーヤが分かりやすいので実例を紹介します。予選順位は1位・ローランド、2位・フラインス、3位・キャシディーとなっていました。ローランドはちょっとスタートで失敗して抜かれてしまい、フラインス、ローランド、キャシディーのトップ3となって、3台とも最初から比較的早いペースだったので4位以下とは早々に差ができます。
 設定的にあまり節約が必要ではないレースだったので、2位のローランドはアンダーカットを狙って早々に1回目のアタックに向かい2分を先に使用、4位以降とは差があるのでキャシディーに抜かれて3位になっただけで済みます。これを受けて翌周に1位のフラインスもアタック2分を取りにいき、ローランドより前で合流してアンダーカットを阻止しました。この間、何もしていないキャシディーが見た目上の1位となります。

 するとローランドは2分のアタックが終わったところですぐさま2回目のアタック6分を獲りに行きました。ただ、4位以下はまだ1回もアタックを使っていなかったのであまり差が無く、ローランドは合流地点で4位の車と並走、少し時間を食ってしまいます。これまた翌周にフラインスが2回目のアタックで応戦しアンダーカットを余裕で阻止、2回のアタック機会でこの2人の位置関係は変わりませんでした。おそらくローランド側もアンダーカットは無理と考えて、途中からはもう節約に頭を切り替えたと考えられます。
 そしてここで一歩遅れて動いたのが見た目上1位のキャシディー、フラインスと同じ周に1回目のアタックに入ると、こちらはまず先に6分を使いました。相手もアタックに入っているので1位で入って1位のまま戻れる最もロスの少ないパターンで、なおかつアタック1回分=1.5秒以上の差がまだついています。

 先に6分を使ったのはフラインスに合わせる意図があると考えられます。フラインス側は当然ながら「キャシディーが2回目のアタックに入ったところで自分たちが前に出たい」と考えて今ある1.5秒差を1秒程度に詰めようと考えるはずですが、お互いに同じ長さのアタックに入っているのでフラインスがペースを上げたらキャシディーはそれに対抗してペースを上げる余地があります。この差を死守する構えです。
 結局キャシディーは予選並のペースで走って2秒差以上にフラインスを突き放し6分のアタックが終了、すぐに2回目のアタックに入りました。当然ながらフラインスの前で合流することに成功、フラインスとするとローランドの抑え込みはできたのにもう1台まではカバーできなかった、キャシディーから見たら2台の攻防を利用してまとめてオーバーカットした形です。
 ただ、ここまでキャシディーはかなり攻めていたので節約が必要になり、ここからはさっきまでよりペースを落としての走行、フラインスも追いかけていたので事情は同じでした。じゃあローランドはその間何をしていたのかというと4秒以上離されており、これは遅いのではなくペースを上げ下げせず均等に電力を使って走っていました。
※想像です

 うさぎとかめ理論でここから先は節約している前2台よりコツコツ走るローランドの方がペースが速く、レースの終盤には完全に追いついて3台は三つ巴の争いへ。ただキャシディーは自分たちの中できちんと『抜かれない速さ』を把握して綺麗に走っているので、残量が変わらないフラインスは仕掛けようがなく、3位のローランドは前に2台いると変に仕掛けられないので抜けませんでした。キャシディーが求められる走りを完璧にこなしてレースを支配し、最後には余力があったようで自己ベストタイムを更新してチェッカーを受けました。
※想像です


 前に車がいるならペース配分はある程度相手任せにすることができますが、1位になると自分たちが主導する難しさがあります。キャシディーがちょっとでも節約をおろそかにして走ったり、攻めに行ったタイミングで滑ったりしていたら結果は全く異なったでしょう。フラインスがどこかで一度捨て身で攻めて行ったら、キャシディーもろとも余計な電力を使ってローランドがオイシイところを持って行った可能性もあり、電力の制約があるので見た目以上に結果は紙一重です。
 ちなみに4位以下の人は何やってたのかというと序盤を抑え気味に走っていたので終盤はやっぱり追いつきましたが、睨み合いをしていた時にペースが上がっていないためエナジーを余らせてゴールする人が複数いました。計算上はレース中にまだアクセルを踏む時間があったのに踏まなかった/踏めなかったわけですから理想的なレース時間よりも多少損をしたことになります。

 後から落ち着いて振り返ってるのでこうやって書けますが、実際はこれが車の走っている状態で、しかも1周70秒ぐらいのコースをぐるぐる回りながら展開するわけで、争ってるのが今回みたいに3台だとまだ分かりやすいですがさらに増えたらもう誰が有利なのか考えるのも簡単ではなくなります。
 その戦略部分をある程度想像したり、動いた状況を見て何が起きたかを理解できるようになってくると、他のレースにはないフォーミュラE観戦の面白さに繋がります。たぶん運営的にも今持っている道具で魅せたい部分の1つはここだと思うし、最初に書きましたがここをある程度把握していないと何を見るレースなのか分からず終わってしまうので、かなり文章量を割きました。

・急速充電を楽しむ

 シーズン10の途中からは、ピットに入っておよそ10%ぶんの急速充電を行い、その後にアタックモードの使用が可能になるという『アタック チャージ』という制度が一部のレースで導入されます。でもこれは東京では導入されないと思われ、まだやっていないものをどう見るべきかは分からないので割愛します。
 
・変なペナルティーを楽しむ

 ちょっとひねくれ。フォーミュラEはかなり色んなものが厳格に管理されており、そのせいでペナルティーが大量発生することがあります。多いのはオーバー パワー=出力の超過で、たいていは300kWを超えてしまったことで発生します。それってズルしてるの?というとそうではなく、大きな凹凸で車が跳ねた際などに衝撃で瞬間的に300kWを超える力が出てしまうことがあり、ある程度なら許容範囲として許されていると思われますが、繰り返すと違反になってしまいます。瞬間的に数値が跳ね上がるので俗に『スパイク』と呼ばれる現象です。故意ではないんですが、これを許すと「わー、また凹凸だー、ぐうぜんこえてしまったー」と言い訳してみんな恒常的にオーバーパワーで走るようになってしまうので仕方ありません。
 しかし稀に300kWを超えてもいないのにオーバーパワーだと言われることもあります。バッテリーはあまりに負荷をかけると最悪の場合出火して非常に危険なので、温度が規定範囲を超えると最大の性能が出ないように安全設計が行われています。温度が上がりすぎて危険だ、安全のため今は270kWしか出せない、そういう状況の時に何かの制御の不具合で290kW出たとすると、これが『定められた安全な取り扱い規定に反した』としてオーバーパワーのペナルティーとなってしまうのです。
 こういう感じの「何じゃそりゃ」という類の技術的違反というのが何個か転がっているようでして、決勝レースでは時折文字情報で
『Under Investigation:Technical Infringement=技術違反により審議中』
という謎の文言が出てきます。技術違反という話の範囲が広すぎて何が審議されているのか、何が原因でペナルティーの判断が下されたのか、調べないと良く分からないことがわりとあります、不親切ですねw
 そんなレースなのでレースが終わってから結果が変わっていることも他のレースと比べると割合としては多めで、次の日ぐらいにちゃんと正式結果を見に行かないと次のレースで「あれ?」となってしまいます。改造できる範囲がものすごく狭いわりに、その狭いところでもやっぱりレース屋さんはギリギリを衝こうとしてくる、むしろ狭いがゆえにそこにかなり力を入れてくるという側面もありますから、変なペナルティーもこのレースの一部だとして楽しめるぐらいになると、もう立派なフォーミュラEオタクです。

・将来を楽しむ

 最後は無理やり。今シーズンを終えるとパワートレインは次のホモロゲーション期間となり、ハード面に手を加えた新製パワートレインを製造・登録してこれがシーズン11・12の2シーズン使われます。このタイミングで車体側も一部を新しくしたGen3.5とでも言うべき後期型になる予定で、外観や勢力図は変わる可能性を持っています。
 そして2026-2027シーズンとなるシーズン13からは仮にGen4と呼ばれる新規車両に規格が変わり、計画では最高出力が600kWと現在のほぼ倍になります、800馬力超ですって奥さん。動力は4輪駆動になる予定で、供給事業者選定入札のために公開された資料から推定すると、全レースでこの出力にするわけではなく開催地によっては300kWの低出力で使用したり、あるいは600kWを使用するレースでも空力部品に低ダウンフォースと高ダウンフォースの2種類が用意される可能性がありそうです。常設サーキットで走ることも念頭に置いていそうです。
 そしてタイヤの供給企業としてシーズン13からの権利を手にしたのがブリヂストンで、久々にブリヂストンが国際的なレースの舞台に独占供給者として戻ってくることになります。
 いざやってみたらうまく行かなくて端折られる部分もまあ出てくるだろうなあとか思うわけですが、デビューしたてのアイドルを推してメジャーになってくれると嬉しいようなもので、まだまだ広がっていないレースだけに、これがまた進化していく過程を見るというのもまた1つの楽しみ方だと思います。実際シーズン1から考えると今の車とレースって考えられないぐらい進みましたし、数年で潰れてもおかしくないと思ったのがちゃんと続いてまだ先もあるわけですから、いわゆる推し活的な観戦も悪くないですよ☆

 というわけで、ノリの軽いものから踏み込んだものまで、ズラスポなりのフォーミュラEの楽しみ方でした~。

コメント

匿名 さんのコメント…
シーズン5以来、久しぶりに見てみたら全然見方が分からなかったので解説助かります!
アタックモードは罰ゲームみたいになってしまったのですね……
SCfromLA さんの投稿…
>匿名さん

 ありがとうございますm(_ _)m たしかに今のアタックモードはラリークロスのジョーカーラップに近い存在になってますね~、充電ピットで考え方に変化が出るのかが注目です。