NASCAR オールスター戦 ノースウィルクスボロ

NASCAR Cup Series
NASCAR All-Star Race
North Wilkesboro Speedway 0.625miles×200Laps=125miles
winner:Kyle Larson(Hendrick Motorsports/HendrickCars.com Chevrolet Camaro ZL1)


 NASCAR Cup Series、今週は選手権ではなく優勝賞金100万ドルのかかったエキシビション・オール-スター レース。今年は初めてノース ウィルクスボロで開催されます。ノースウィルクスボロは1949年から1996年まで、通算で93回のカップシリーズ戦が開催されていた0.625マイルのトラック。オールスターは独自ルールだらけですが、長いので詳しくは過去に書いたこちらの記事へ。
 NASCARの源流は、禁酒法の時代に警察から逃げ回っていたスピード狂が車を持ち寄って競争したことに始まるされ、そのうちの1つがデイトナ ビーチに集まっていたのでデイトナが起源となっていくわけですが、このノースウィルクスボロあたりはちょうどお酒を隠すのに使われる土地だったため、もう1つのNASCARの起源ともされているようです。
 オールスターの開催にあたって設備の改修工事が行われましたが、バキバキに割れた酷い舗装はあえて可能な限りそのまま維持しているこだわり、おかげでタイヤの摩耗が激しく車は常に不安定です。
 ちなみにここと来週のレースが開催されるシャーロット モーター スピードウェイは比較的近く、シャーロットからほぼ北に80マイルほど行くとノースウィルクスボロがあります。インターステイト77という高速道路が南北にまっすぐ走っていて、かつお互いに高速道路の入り口が比較的近いため車なら1時間半ほどで移動できる距離です。


・Craftsman Truck Series Tyson 250

 オールスターより長い250周のレース距離で争われたクラフツマン トラック シリーズ。今回は日本人ドライバー・尾形 明紀がエントリーしていましたが、運悪く練習走行中に車両が出火してかなり激しく炎上する事態となりました。元々参加台数が多く予選通過の壁は高い条件でしたが、これで尾形選手は予選に出場できずに無念の撤退。車両火災の映像はけっこう衝撃的だったのかNASCARの公式動画にもアップされました。


 今月は『アジア・太平洋諸島系アメリカ人の文化遺産継承月間』となっており、尾形選手はレースを通じて今一つ注目されないこの取り組みを広めたい意思をSNSでも投稿していましたが、残念な結果でした。
 そしてレースはというと期待通りというべきか荒れまくったレースになって12回のコーションが発生しオーバータイムへ。ただ結末としてはこのレース最多・138周をリードしたカイル ラーソンが制してある種順当な結末でした。本来このレースに出るのはアレックス ボウマンの予定だったんですが、怪我のため代役での出場でした。

 他のオールスター出場ドライバーでは、バッバ ウォーレスが5位、ロス チャステインが9位、ウイリアム バイロンが11位、クリストファー ベルが16位でした。このトラックでの貴重な経験を手に入れましたね。

・ピット クルー チャレンジ

 オールスターの方はまず予選にあたるピットクルーチャレンジから。最速はジョー ギブス レーシング・タイ ギブスのクルーでした。賞金10万ドルを獲得し、ギブスはオールスター本戦の出場権が無いのでオープンのポール ポジションを獲得しました。ボックス前後の計測地点の通過タイムで競うので予選タイムは13秒012でしたが、タイヤ交換自体は手元計測でちょうど9秒といったところです。

 2位はダニエル スアレスでヒート レース1のポール、3位のクリス ブッシャーがヒートレース2のポールになります。ボウマンの負傷欠場により代走のジョッシュ ベリーはクルーが頑張って全体5位。ボウマンにはオールスター出場資格がありましたが、権利は車両のオーナーではなくドライバー個人へのものなので残念ながら代走のベリーにその権利はありません。これでベリーはオープンの予選2位ということになります。

・ヒート レース

 土曜日のヒートレースは開始前に雨が降ってしまい、なんとウエット タイヤの出番が巡ってきました。カップシリーズのオーバルでウエットタイヤを使用したレースが行われるのは史上初めてです。
 ヒート1はスタートからの60周全てウエットで、スタートからチェイス エリオットが26周をリードしましたが、ポールシッターのスアレスがこれを抜き返しそのままヒートレース1を制しました。これでオールスター本戦のポールを獲得です。
 ヒート2は路面が乾いたのでスリックでスタート、ちょうどレースの中盤でまた雨が降って来たのでコーションが出てウエットへの交換がありましたが、ポールのブッシャーが一度もリードを奪われることなく走り切りオールスターの外側のポールを獲得しました。

・オールスター オープン

 雲一つない快晴、気温も25℃と観戦には最高の環境で既に大勢の観客が集まる中で2枠のオールスター出場を賭けた16人によるレースがスタート。ギブスとベリーがスタート順位通りに1位、2位で序盤戦が進みます。4速を使うギブスに対してベリーが5速でタイヤの摩耗を賢く抑えている、なんて解説がされてギブスがタイヤを潰しそうな話ぶりだったものの、ギブスは30周で3秒差と一方的に差を広げる快走。
 走行開始時より1.5秒もペースが落ちる猛烈なタイヤ消耗がありつつもギブスは安定した姿勢に見える一方、中団にはタイヤがパンクしたのかと誤解するぐらい酷いルースに見舞われるドライバーも現れて荒い舗装の威力を思い知らされつつ、40周を終えてオールスター ブレイクのコーションとなりました。
 これだけタイヤが減ると選択の余地はなく全車ピットへ、ギブスはピットで少し時間を食ってベリーが先頭となります。外側を選ぶと不利なのでベリー、ギブスが連続して内側を選び、48周目にベリーとジャスティン ヘイリーの1列目でリスタート。
 しかしリスタート早々の50周目、混雑した4位以降の争いでノア グレッグソンが見切りを誤って内側の壁にぶつける大失敗。跳ね返されたグレッグソンが外側にいた車を巻き添えにクラッシュしました。グレッグソンは一発リタイア級のクラッシュだと思ったら、ぶつけたのが全部フェンダーだったので走行可能でこの後もレースを続行しましたw

 57周目にリスタートしますが、ヘイリーがベリーを大外刈りしようと攻勢をかける一方、ギブスはマイケル マクダウルに抜かれて4位に後退。ちょっと焦ったか、ギブスはやや強引にマクダウルを押して内側に潜り込み、連鎖的な接触で外にいたヘイリーがスピン、マクダウルも車を壊すことになりました。3回目のコーション、ギブスがちょっと強引でしたね。

 64周目、今度はベリーとエリック アルミローラの1列目となってリスタート。あまりにギブスが後ろからゴツゴツ押してくるので、ベリーは危険を避けるために68周目に完全に譲ってギブスがリードを奪いました。2位になれば本戦に出れるのでベリーは無理に相手をする必要がありません。
 ところが10周後、ギブスに想定外の事態。既に周回遅れになっているマクダウルが明らかにさっきの報復で幅寄せを仕掛けてきて抑え込まれ、この間にベリーにかわされました。殺気立つギブスですが、ここまでにちょっとタイヤを使ってしまったのかベリーを再度追撃できずレースが残り10周を切ります。

 終盤はアルミローラがギブスの隙を伺っていましたが、さすがにベテランは強引な手段を使うことはなく、そのままレースはベリーが優勝、ギブスが2位となってオールスター本戦への出場権を手にしました。開幕戦の段階では、まさかベリーがカップ戦に出てオールスターに出場することになるとは当然誰も思わなかったことでしょう。
 そして、残った14人の中でファン投票で最多得票だったのはグレッグソンで、最後の1枠をボロボロの車で手にしました、これから急いで修理です。普段あまり荒いことはしないマクダウルが珍しく見るからに怒っていたのが印象に残るオープンでした。
ボロボロw

・オールスターレース

 FOXの放送席にダレル ウォルトリップが返ってきたオールスター本戦。スタートで「ブギティブギティブギティ!」をやらなかったので全世界80億人のNASCARファンがズッコケたと思いますが、スタートするとブッシャーはせっかく外側のポールだったのに内側が有利すぎて単なる貧乏くじになってしまい、早々に10位以下まで後退してこっちもズッコケました。リーダーはスアレス。

 最初のコーションは16周目、17位のリッキー ステンハウス ジュニアがラインを外れて外へ膨らみ、そこから内側へキュッと戻ってきたところでエリック ジョーンズと接触してスピン。ステンハウスがやや後方確認不十分で降りてきたように見えます。
 タイヤの使用数制限が厳しいのでここは後方の人だけタイヤ交換し21周目にリスタート。ここからはスアレスをデニー ハムリンが捕まえて追いかけますが、先が長いこともあるのか特に動きを見せずにじーーっと後ろで見ています。何せタイヤが減ってくると全くスロットルを全開にする場面がないほどリアのグリップが無くなるレースです。晴れててもグリップ感はほぼウエットw
 上位2台のにらみ合いは続いてレースは50周を経過、ここでさっきのコーションでタイヤを換えているラーソンが3位に浮上してくると、明らかにペースが違って54周目にハムリン、翌周にスアレスを難なくかわして本日2人目のリーダーとなります。ラーソンはピット速度違反でビリからリスタートしてたんですが、全部抜いてきました。

 タイヤのセット数は最大で4、ここから100周目のコーションで1セット、その後またコーションが出たら最後の1セットを使いたいので、もし今コーションが出てもラーソンは実質的に新品の在庫が無く、ステイ アウトかスタート時に使っていた中古を使うしかありません。コーションが出れば不利です。
 しかしこの後は結果的にコーション フリーになってしまい、タイヤを換えなかった人には気の遠くなる状況。100周走り切るのを諦めて途中でピットに入る人も少数いる展開となり、100周を終えてのオールスターブレイクはラーソンを先頭に迎えました。2位は同じくタイヤ交換組のウォーレスでしたが、スアレスを抜いて2位になったのは残り6周でラーソンとは12秒以上の大差でした。
 アンダー グリーンでピットに入ったバイロンはフリー パスを求めて攻め続け、タイヤが無くてふらっふらのマーティン トゥルーエックス ジュニアを視界に捉えましたが、あともう一歩というところでコーションになってしまい、残念ながら周回遅れで後半戦に臨むことになりました。MTJは辛くもフリーパスを得て命拾い。

・後半戦

 残り91周でリスタートされて後半戦スタート、まずは内側を選んだ上位3台、ラーソン、スアレス、レディックがそのままトップ3となり外側の先頭を選んだスアレスが4位で続きますが、何せラーソンが速すぎて完全にレースは何か起きるの待ちという雰囲気になります。
 しかし仮にコーションフリーならピットに入ったら負け、全員がこのタイヤで走り切ることを念頭にペース配分するので、当然ながら余計に何も起きずレースは残り40周を切って終盤へ向かっていきます。始まる前からそうなる気がしてましたが、不確定要素を生むためのタイヤ制限が各陣営の手足を縛って膠着させています。たぶんトラックシリーズの方が盛り上がってるw
 このパターンでも今季はだいたい残り15周ぐらいで誰かやらかすので、今日も誰かやらかすだろうと自分に対して必死に言い訳をしている間に残りの周回数はとうとう一桁に。「チャステイン、今だけはやらかしても許す!いやむしろ誰かにぶつけろ!」と身勝手な思いを込めた観客と視聴者もきっと少なくはなかったでしょうが、レースはそのまま最終周へ。
 初のノースウィルクスボロでのオールスターは、後半の90周がまさかのコーションフリーでラーソンが独走し圧勝。2位に3.5秒差ではみんなお手上げでした。ラーソンはこれでオールスターで3度目の優勝、しかもシャーロット、テキサス、ウィルクスボロと開催地が全て異なる優勝です。


 ウォーレス、レディック、チェイス ブリスコー、チェイス エリオットのトップ5。100周目のコーションでフリーパスに手が届かなかったバイロンは2周遅れの20位、フリーパスを貰ったトゥルーエックスでさえ1周遅れの14位、見るからに車の動きが酷かったカイル ブッシュは22位でした。
そして、今回特別にデビュー時のカー ナンバー・29を背負って出場したケビン ハービックでしたが、

 こちらも全くトラクションがない酷い車で2周遅れの18位でした。各チームともデータと言えば事前に行った限られたタイヤのテストぐらいで、セッティングの基礎的な部分が分からないまま乗り込んだ上に、練習をちょっとしたらヒートレースが雨でレースのデータも集まらず、ラバーもこれで流れたりして路面状況の変化もさっぱり分からず、限られた人しかまともに走れなかったといっても大げさではない感じでした。

 あえて古い舗装を残し、かつての建物なども残して手作業の順位ボードすら残したまま、というノースウィルクスボロ。雰囲気は素晴らしかったですしお客さんもレースの雰囲気全体を楽しんでいる様子でよかったですが、ちょっとレースの設計だけミスりましたね。
 4セット制限は、物理的な置き場所や予算の制約もあるのかもしれませんが、たとえば20周目にコーションが出てタイヤを替えると、60周目あたりにまた出た時には替えるタイヤが無い、さあどうする、みたいな戦略性と不確定要素をもたらすことが目的だったと思います。
 ただ、これをやると『基本は入らない』というタイヤ管理レースになってしまい今回のような展開が生まれます。数年前までよくやっていた意味の分からない順位決定方式は不要だと思いますが、前後半でせめて3セットは使える設定にした上で、たとえば『オールスターブレイク以降に少なくとも一度は4輪交換を行う』といったピット義務を用意して、何も起きなくてもアンダーカットを狙うためのピットが起きるような仕掛けだけは用意した方がよかったかなと思いました。
 来年以降については現状で全く未定ということですが、せっかく整備したんだしこのバキバキ舗装と超一流のドライバーがもがいて滑って無線で吠えまくるこの特性はエキシビションには向いてると思うので、運用面だけ少し手なおしして来年もまたここでやってほしいかなと思います。LAコロシアムよりはよっぽどレースになってますw

 さて、次戦はお馴染みメモリアル デー(戦没将兵追悼記念日)前日に開催されるシャーロットでの600マイルです。例年通りF1のモナコとNTTインディーカー シリーズのインディアナポリス 500も同日開催なので、生放送で全部見たい人は仕事を休んだ上に深夜にも一切寝ることができない過酷な日曜日が待ち受けています。何でモナコはここに被るんですかね?

コメント

日日不穏日記 さんの投稿…
終盤で、コーションが出ると思ってたんですが、そのままチェッカー。ラーソンの強さだけが際立ちました。今年は、例年ほど煩雑なルールではないので、結局観てしまったんだけど、ラップダウンの山に。誰もリタイアしないという、様子見のレースでしたが、もうちょっと運用を何とかして欲しいですね。オープンは多少荒れましたが、ヒートレースは淡々と進み、静かなレースだったという気がします。
選手紹介では、カイルとロガーノだけにサムズダウン。ブーイングが飛んでました。ブリスコーは息子を抱えていましたが、金髪で、フサフサ。将来の髪の毛が心配になりました。
首跡 さんの投稿…
第2戦の時点で「今季のカイル ブッシュは2021年のラーソンみたいに勝ちまくりそう」とコメントした私ですが、特に最近はラーソンの方にも勢いがあるように思えました。
どちらのカイルが先に3勝目を挙げるのか楽しみです。
SCfromLA さんの投稿…
>日日不穏日記さん

 ブリスコーの髪の話に息子さんまで巻き添えに(笑)初開催はビギナーズラックじゃないですけど少々内容が乏しくても許されるところがあるので、また次回(があれば)に期待ですね~。
SCfromLA さんの投稿…
>首跡さん

 ラーソンはなんか5章ぐらいしてても驚かないぐらいに力は見せてますよね。未知の開催地でセットを当てて独特なライン取りをモノにしたラーソンと、セットがグダグダだったカイル、というかRCRとの自力の差を見せつけられた感もあるので、RCRはここからもう一回技術陣を中心に立て直しですね。