NASCARは4月6日、今年のNASCAR All-Star Raceの詳細なレース内容を公表しました。今年のオール-スター戦は5月21日にノース ウィルクスボロ スピードウェイで開催されますが、初開催のトラックということで内容的には比較的分かりやすいものになりました。
グリーンハウスというのは車両のうち窓の下端から上にあたる部分、日本だとキャビンと呼ぶことが多いかなと思います。ここだけ取り外すと温室みたいに見えるのでグリーンハウスと呼ばれています。NASCARはいつも通り具体的に何がどう違反したのか公表していませんが、発行された文書に記された違反項目は
の3点。14.1 Dには許可なく勝手に共通部品を改造してはいけないこと、14.1.2.Bでは全ての部品と組み立てはNASCAR エンジニアリング 変更記録に準拠しなければいけないことが書かれているようです。
・2022年、2023年のカップ シリーズでのレース勝者
・今季にフル参戦している過去のオールスター勝者
・今期にフル参戦している過去のカップシリーズ チャンピオン
ここまでは自動的に決定され、ここにオールスターの前に行われるオールスター オープンの上位2名、そしてここまでに出場権を得られなかった人の中でファン投票の最多得票者が出場できます。ノースウィルクスボロは1949年から1996年まで、通算で93回のカップシリーズ戦が開催されていた0.625マイルのトラックです。96年の最後のレースで勝ったのはジェフ ゴードンでした。
金曜日は練習走行を行い、翌日の予選レースに向けた予選としてピット クルー チャレンジが行われます。各車がピット ボックスに入ってクルーが4輪交換を行って出ていく、この時間を計測して早い順に翌日のヒート レース、ないしはオールスターオープンのスタート順位が決まります。
・5月20日 予選レース&トラック シリーズ
土曜日、オールスターへの出場権を持っているドライバーは、ピットクルーチャレンジの結果に基づいて決められたスタート順位から60周のヒート レースと呼ばれる予選レースを行います。ヒートレースは2組に分かれ、ピットクルーチャレンジで最速だった人がヒートレース 1の1位、2番目がヒートレース 2の1位・・・という並びになります。ヒート1のドライバーはその順位で決勝では内側から、ヒート2の人が外側からのスタートとなります。
また、このレースの前にはクラフツマン トラック シリーズの第10戦・Tyson 250が開催されます。
・5月21日 オールスターオープン&決勝
日曜日はまだオールスター出場権を持たない人が出場権を競うオールスターオープンから。ピットストップチャレンジの順がスタート順位となって100周のレースを行い、40周目を終えたところで『コンペティション ブレイク』と名付けられたコーションが出ます。
全車が新品タイヤでスタートしますが、オープンで使用できるのは他にもう1セットの新品のみ。オーバータイム規則も通常通り適用され、このレースでの1位と2位が自動的にオールスター本戦へ。この後ファン投票の結果が発表され、出場権をまだ持っていないドライバーの中で最多得票の人が最後の1枠を手にします。
ここ最近は『ステージ1、ステージ2の勝者は本戦へ』という規定で、ステージを終えたら一足お先にレースを去っていましたが、今年はちゃんと最後まで走らないといけませんね。
そして夜にいよいよオールスターの本戦。こちらは200周で100周を終えたところコンペティションブレイクとになります。公表されている文言を見ると『コンペティション ブレイクが100周あたり』で出ると書いてありますので、オープンもそうですがステージ制のように周回数に到達したら競争が終わりではなく、コンペティション コーション方式で全車がこの周回を終えるあたりがコーション発生の目安になると思われます。
決勝も全車新品タイヤでのスタート、他にあと3セットの新品が用意されていますが『コンペティションブレイク以降には1セットの新品しか使用できない』と書かれています。あんまり早くタイヤを注ぎ込むと終盤のコーションで痛い目を見る可能性があり、基本は前半に2セット、コーションでタイヤを替えて給油し、あとは展開を見て最後の1セット、という感じでしょう。100周=62.5マイルなので燃料的には全く問題無く走り切れるんですけどね。
近年多かったよく分からん制度もやたら細かいセグメント分けも無く、200周を比較的シンプルに走って、もちろんシンプルにこのレースに優勝した人が賞金100万ドルを手にします。やったね!
さて、それではこの他の話題をいくつかお送りします。
・ハムリン、主張を退けられる
第4戦フェニックスの最終盤、レースの流れでひっそりとロス チャステインに日頃積もり積もった恨みの仕返しを行い、それをポッドキャストで堂々と明かしたために見事ペナルティーを受けたデニー ハムリン。判断に不服があり上訴しましたが、ナショナル モータースポーツ 上訴委員会の3人の審査人は元々のペナルティーを支持しました。ハムリンに対するドライバー ポイント25点減点と5万ドルの罰金はそのまま維持されました。
・ヘイリーの上訴は2審へ
同じくフェニックスでボンネットのルーバーに認められていない改造を行ったとしてペナルティーを受けたジャスティン ヘイリー。こちらもコウリッグ レーシングが上訴したために審理が行われましたが、ほぼNASCAR側の当初の裁定が支持された結果となりました。クルー チーフは4戦の出場停止と罰金10万ドル、プレイオフ ポイント10点減点に変更はなく、ドライバー/オーナー ポイントの減点が100から75に少し緩和されるにとどまりました。
この決定に対し、コウリッグレーシングは2審となる最終上訴を決定したため、このペナルティーは依然として暫定的なものとなっています。同様のペナルティーでヘンドリック モータースポーツはポイントの減点処分が全て撤回されたので、審理委員会の3人の顔ぶれが異なるとはいえちょっと差を感じる決定にも思えますが、ヘンドリックは練習走行前の非公式な点検だったのに対し、ヘイリーは予選前の正式な車検だったという点が影響しているかもしれません。
・ヘンドリック、またペナルティーを受ける
ところが、ヘンドリックにはまたペナルティー問題が降りかかりました。リッチモンドのレース後車検でウイリアム バイロンとアレックス ボウマンの2台の車両について、グリーンハウスの形状が規定と一致していなかったとして最も軽い部類のL1ペナルティーと判断。クルーチーフには75000ドルの罰金と2戦の出場停止。ドライバー/オーナー ポイントの60点と、プレイオフポイント5点の減点となりました。
グリーンハウスというのは車両のうち窓の下端から上にあたる部分、日本だとキャビンと呼ぶことが多いかなと思います。ここだけ取り外すと温室みたいに見えるのでグリーンハウスと呼ばれています。NASCARはいつも通り具体的に何がどう違反したのか公表していませんが、発行された文書に記された違反項目は
14.1 D 車両の組み立てに関する全体的な規則
14.1.2.B エンジニアリング変更記録
14.5.6.B グリーンハウス
そして14.5.6.Bでは、グリーンハウスには必要であればワイパーを取り付けるために既定の範囲で加工を行うことが認められるとされているようで、ひょっとしたら加工する際に故意か過失かは別にして規定を逸脱したか、加工は規則通りしたのにそれを規則に従って報告していなかったか、というあたりかもしれません。
ヘンドリックは現在上訴するか検討中ですが、処分を受けたクルーチーフはそもそもフェニックスのペナルティーによって起用された代役なので、上訴して処分を差し止めない場合は『代役の代役』を置く必要に迫られます。
ごめんなさい、ペナルティーが発行されるのは『ブリストルの後から』と書かれているのでちょうど処分明けの本来のクルーと交代可能でした。
・NASCAR、上訴の手続きを変更
こうしたペナルティーの話題が盛りだくさんな中、NASCARは上訴に関する手続きの内容を一部変更しました。今回の変更では、ナショナルモータースポーツ上訴委員会はポイントや罰金など複数種類のペナルティーが審理対象となっている際に、一部の処分だけを完全に撤回することはできず、必ず当該ペナルティーの下限~上限の範囲内から選択することが義務付けられました。
フェニックスが好例で、ヘンドリックへの審理結果では罰金は元の内容が支持された一方でポイント減点は完全に撤回されましたが、こうした裁定は今後は行うことができません。この例で言えば、4台が受けたのはL2ペナルティーでポイントの減点幅は75点~120点、プレイオフポイントは10点~25点と規定されています。今後は、有罪である限りは最低でも75点の選手権ポイントと10点のプレイオフポイント減点処分を必ず課さないといけなくなります。
今回、ほぼ同じような内容でヘンドリックとコウリッグで処分内容が異なったことが今回の制度変更の一因とみられています。また、審査委員会はその決定内容について説明することも求めました。既に行われている審理はこの変更前から行われている申し立てに基づいているので対象外となります。
・オーナーがミーティングをボイコット
そしてこちらも少し気になる情報、NASCARとチーム オーナーは四半期ごとに会談を行っているそうなんですが、先日開催予定だったこの会議をオーナー側がボイコットして開催されませんでした。これを受けてNASCARは
「NASCARは全ての業界関係者と定期的にオープンで生産的な対話を行うことを約束しています。私たちは協力の精神と、すべての利害関係者の利益のためにスポーツを成長させるという共通の目標を持って、引き続き議論を続けることを約束します。」
と声明を出す事態に。オーナー側はかねてから現在のNASCARの収益モデルがチーム側に負担をかけており、チームが総収入の60~80%をスポンサーからの資金に頼るような状況は『壊れたビジネス モデル』だとして改善を求めているとされています。現在のチャーター制度は2024年までの期間となっており、2025年以降の収益モデルを巡ってNASCARに対応を求めているものの、NASCAR側の反応が芳しくないことからボイコットしたとみられます。
報道によればNASCARは現在の放映権契約で得られる収入のうち、65%が開催されているレース トラックに、25%がチームに、10%がNASCARに入るように分配されている模様。なんだ、運営は10%で良心的じゃないか、というとそうでもなく、シリーズを開催しているトラックの中にはデイトナを筆頭にNASCAR所有のトラックも多いので、その場合はざっくり言えば放映権収入の75%がNASCARに入っているような状態です。
RFKレーシングの共同オーナーであるフェンウェイ スポーツ グループはMLBのボストン レッドソックス、NHLのピッツバーグ ペンギンズ、イングランド プレミア リーグのリバプール フットボール クラブを所有しているので他のスポーツでの収入に当然ながら詳しく、RFKの社長・スティーブ ニューマークによれば総収入に占めるスポンサー収入の割合はMLBなら8~12%、NHLで17~18%、プレミアでも26~27%だとしています。60%を超えるNASCARは異例だ、ということですね。
チャーター制度には価格高騰で新規参入が困難になっている、という指摘もありますし、この『労使交渉』の行方は少し気になるところではあります。
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