SUPER GT 第4戦(3戦目) 富士

2026 AUTOBACS SUPER GT Round4 FUJI GT 300km RACE
富士スピードウェイ 4.563km×66Laps=301.158km
GT500 class winner:STANLEY HRC PRELUDE-GT 山本 尚貴/牧野 任祐
(STANLEY TEAM KUNIMITSU/Honda HRC PRELUDE-GT)
GT300 class winner:Green Brave GR Supra GT 吉田 広樹/野中 誠太
(埼玉Green Brave/Toyota GR Supra)

 オートバックス スーパー GT、セパンでの第3戦が中止になったので異様に間が空いてしまって3か月ぶりの開催です。一応国内最高峰レースと銘打たれている選手権が3か月も開催されないって他の主要国ではたぶんあり得ないと思いますが、なんとかやりくりしているようです。当初は代替レースは開催しないと発表されていましたが、ホルムズ海峡全面封鎖で日本経済崩壊という最悪の事態がなんとか避けられそうだと考えたからか、最終戦のもてぎを2日連続開催にして全8戦の枠組みを維持することになりました。
 単に2日連続で予選・決勝をやるだけでもかなり大変ですが、ハンデ制レースなので影響は多方面に。本来ならサクセスウエイトの係数が半分になるはずだった第7戦オートポリスが通常の係数になって最大ウエイトのレースになり、もてぎの1戦目が半減レース、そして最終戦はウエイト無しなので土曜日と日曜日で車両状態が変わってしまいます。上位勢は前日よりいきなり数十kgも軽くなる可能性があり、同じコースだからと言って同じセッティングの車では戦えない可能性があるのでエンジニアさんも悩ましい条件です。

・レース前の話題

 2027年に向けての発表もあり、まず日程が発表されて来年は従来から少し変更が加えられました。4月に岡山、5月富士、6月セパン、まではそのままですが、8月頭に鈴鹿でレースをやったら次は9月にスポーツランドSUGOへ。10月オートポリス、そして11月に富士、もてぎとなります。富士の位置が動いた形ですね。8月の酷暑を避けたいとは思いつつ、しかし夏休みに開催はしておきたいしセパンの兼ね合いで制約も出るので、酷暑対策という点では効果があるのかないのかよく分からん設定になりました。
 また、9月にインターコンチネンタル GT チャレンジの第5戦として開催される鈴鹿1000kmにGT300クラスのチームが参戦可能となることも発表され、これによりGT300だけは『年間9戦』という形を採ることも発表されました。さすがに参戦台数の問題で全員が鈴鹿1000kmには出場できないと思われるのでシーズンは有効ポイント制となり、細かな制度設計は今後詰めて行くようです。

 そして2027年の注目、ワンメイクとなるタイヤの供給企業がとうとう発表され、GT500クラスはブリヂストン、GT300はダンロップとなりました。GT300は現在まで最大顧客数を誇り続けるヨコハマだと思い込んでたのでダンロップと聞いてちょっとビックリ。ワンメイク化でタイヤのスペックを運営側で管理できるため、ソフト/ミディアム/ハードという色分けがなされるみたいです。ただGTはコース特性からレース環境から年間で全然違うので、固定された3種類だけで年間を回すのではなく作動温度領域などで構造が異なる複数種類からそのレースに適したものが選ばれると思われます。

 GT300がIGTCのレースにそのまま出場できるようになるのもタイヤ競争がなくなったことが関係しています。IGTCはピレリが供給していてタイヤ性能が違ってしまうので、ここは運営側で調整方法を考えることになるみたいですね。

 最後に、GT300クラスのポノス レーシングがシーズン途中でドライバーの交替を行い、ケイ コッツォリーノに代わって川端 伸太朗が起用されることになりました。どうも時系列を見ると6月5日に川端選手がSNSでポノスレーシング入りを発表し、後追いでポノスが声明を出してコッツォリーノの離脱と川端の加入を発表したのでけっこう見えてないところで色々起こってたのかなとか邪推してしまいますが、これ以上何かわかることもたぶんないでしょう。

・GT500

 GT500の予選ではここまで無得点でサクセスウエイトがない#8 ARTA HRC MUGEN PRELUDE-GTがポール ポジションを獲得。Q1の大津 弘樹は0.16秒差の3位でしたが、Q2では太田 格之進が1分26秒776で唯一の26秒台に入れました。2位のSTANLEY HRC PRELUDE-GT(14kg)・牧野 任祐に0.302秒という大差でのポール獲得。この2人はちょっと因縁があり、太田と牧野はスーパーフォーミュラではドコモ チーム ダンディライアン レーシングのチームメイトですが先月富士で開催された第6戦・第7戦ではいずれも太田が優勝、牧野は3位で後塵を拝しています。

 しかも牧野は第6戦で勝てる流れのレースを作戦で落とし、牧野からするとその時点ではチームが太田を優先して自分を蔑ろにしたように映ったのではないか、とも。結果としては無線の仕様に起因した連携不足が原因で、無線は混乱を避けるために片方がしゃべるともう片方の声は聞こえない仕様なので、牧野がピットに入るように訴えていてもエンジニアの方からも逐一情報を伝えていたために会話が通じてなかった、ということだったようですがサクセスウエイトの差があるとはいえ舞台を移してもまた太田に負けたのはおそらく選手として気にはなると思います。

 なおオートスポーツ誌が取材に基づいて出した推計値によれば、富士でのウエイト感度は10kgあたり0.14秒、14kgの差ならおおよそ0.2秒の影響になるので、それを差し引いても実質的に牧野は太田に負けたことになってしまいます。これが0.08秒差で2位とかなら「実質はこっちが速かった」と言えるわけです。まあ偉そうに書いてますが全部オートスポーツの情報で、私はSF全然見てませんからね(笑)
 メーカー同士の戦いだけではなくこうして同一陣営内でのライバルとの争いも選手個人としては気になるわけですが、3位にはAstemo HRC PRELUDE-GT(6kg)・塚越 広大/野村 優斗が入ってプレリュードがトップ3独占。Q1も同様にトップ3独占で、練習走行でも上位5台中4台がプレリュードだったのでウエイトの相対的軽さはありますが3ヶ月間で車の落ち着かせどころを多少は見つけたのかなという印象です。

 開幕2連勝のau TOM'S GR Supra(50kg/出力-1/給油-1)・坪井 翔/山下 健太はさすがにQ1落ちして11位。ただQ1最速のアステモプレリュード・野村とは0.935秒差、さっきのオートスポーツ的ウエイト換算に従うと、重量50kg・燃料流量1段階縮小が与える影響は1周あたり0.97秒となります。つまりウエイトがなかったと仮定するとほぼ1位(全車の換算をやってないので正確な換算順位は不明ですが)の速さ、言い換えると車から出せる性能はほとんど全部出してますね。さすがはトムス、外さない。


 そして決勝、スタート前にすごい雨が急に降ってきて一時はみんなウエット タイヤに交換したものの、その後に晴れたらあっという間に路面が乾いていくのでまた全員スリックに交換、SC先導スタートで5周目にリスタート。あらら7位の64号車が離れてる、たぶんダンロップはタイヤがまだ発動してなくて付いていけないんだなあ、既に後ろが追いついててちょっと危なそうだなあ、スタート違反とか無いといいけど。
・・・んん!?
嘘でしょ!?

 危なそうだと思って画面の後方を見ていたら変な影が見えたので絶句。Modulo HRC PRELUDE-GT・イゴール オオムラ フラガが大事故、車が宙に浮いて横転しました。原因はやはりリスタートに向けて前よりも出遅れてしまったことから始まっており、8位のMOTUL Niterra Z(28kg)・高星 明誠がスタート ラインまでに抜いてしまいそうな距離に接近。抜いたら違反なのでスロットルを少し戻しましたが、その時に高星の左後方にいた9位TRS IMPUL with SDG Z(30kg)・ベルトラン バゲットが左から右に大きく進路を変え、結果としてスロットルを戻した高星の左後部に思いっきりぶつけました。
 ぶつけられた高星は左後ろに衝撃が来たので車が左旋回し、左前部が今度はフラガの車の右後部に当たり、フラガの車は右旋回。高速で進行方向に対して横や後ろを向くことになったので揚力が発生して離陸したとみられます。もちろん即座にレッドフラッグ、フラガは幸いレース後の精密検査でも異常は見られず大事には至りませんでしたが、なんか最近のGTって毎年こういう車がバラバラに粉砕するような大事故が起きてる気が・・・

 この事案でバゲットには90秒停止という大きなペナルティーが課せられ、さらにスタート前に追い抜いたことにもなるので別件でドライブスルーのペナルティーも発行されました。単なる接触ではなくSC中の接触行為という扱いになるので、安全に走行すべき時間帯に事故を起こした責任を重く取られました。ちなみに間違いがちですが再開時に追い越しが許可されるのは『コントロール ライン』ではなく『スタート ライン』で、富士や鈴鹿は両者の間にまあまあの距離があるのでうっかり誤解して抜きにかかると違反になりがちです。
 しかしまあ、通常の2列スタートと違ってリスタートは安全への配慮もあって1位の車に先導権がある1列リスタートになるわけですが、それがむしろ事故の種を撒くような状態を今回はたまたま生み出してしまったんだから皮肉と言えば皮肉です。

 幸いにして設備の破損は舗装がガリガリに傷ついたぐらい、人的被害もなかったので35分ほどでレッドフラッグは解除。たぶんこの時点ではドライバーさんは事故になった大まかな流れぐらいは聞いてたけどフラガ選手の状態や詳細までは分かってないと思いますが、10周目にリスタートされました。
 多少なりともリスタートが慎重になりそうなところ、ARTAの大津に対してスタンレーの山本がタイミングを完璧に合わせて背後につき、スタートラインを過ぎたあたりでスリップストリームから出る完璧な動き。もう1回やれと言われても無理なぐらい見事にターン1でリードを奪いました。結果としてはこれがレースの最大の鍵となります。

 山本と大津の差は概ね2秒ほどで大きな動きがないままピットサイクルとなり、先に24周目にARTAがピットに入って大津から太田へ、翌周にスタンレーチーム国光がすぐピットに入って山本から牧野に交代しました。実質的にレースしてたのが15周ぐらいなので給油時間は短くて、どちらの作業時間も26秒ほどで大差なし。ピットを出た牧野は実質的な1位を守ります。
 これで後半も引き続き牧野と太田の争いになる、かと思ったらここに割って入ってのはDeloitte TOM'S GR Supra。いつも通り笹原 右京が長い距離を担当し、非常に良いペースで走っていたので29周目まで待ってジュリアーノ アレジへ交替。これでオーバーカットに成功し、アレジは太田を抑え込んで実質2位になります。アレジは前を走る牧野に対して4周のタイヤ履歴差があるのでさらに追い上げる、かと思ったらそうでもなく、牧野とすれば太田を抑えてくれてちょっと助かる状態。

 上位3人の争いは走ってる方は必至ですが見ている方からするとそんなに大きな動きも無く進み、気づいたら残り8周。ここでちょっと苦しんでいるように見えるアレジを太田はダンロップコーナーで外から抜くというなかなか豪快な動きを見せてようやく2位に戻します。この段階ではまだ牧野と6秒ほど差があったのでさすがに届かないだろう、と思ったら牧野のペースが鈍ってきて明確に太田が追いつき、そして中継映像の後ろの方で聞こえるピエール北川の場内実況が騒がしいと思ったらなんと約1秒差で最終周に入りました、牧野がGT300に引っかかってたみたい。
 もしここでGT300がさらに山盛りで出てきたら牧野の心理状態やいかばかりか、というところでしたがありがたいことにこの周にいたGT300は1台だけでした。さすがにこれでは仕掛けようもない太田、最終コーナーで内側に張り付いたラインを通って一応揺さぶってはみましたが牧野には全く影響がなく、そのまま逃げ切ってチーム国光がプレリュード-GTに初勝利をもたらしました。


 レース後の牧野選手はインタビューで突然号泣、オートスポーツで事前に太田選手とのあれやこれやを知っていたおかげで理由がよく分かりました。「タダモノではないタダスケ!」とか変なあだ名を付けられてデビューした頃から、気づいてみれば今年で29歳の中堅どころ。GTは比較的長いこと活動できますけどフォーミュラは特にホンダだと下の世代からどんどん上がって来て中堅は仕事をすぐ失いがちなので、悔しさも危機感も焦りも色々あったんだろうというのは想像に難くありません。このコンビ、個人的にレースのやり方とかドライバーの個性とかすごく好きなので嬉しかったです。
 2位ARTA・太田/大津、デロイトトムス・笹原/アレジが3位でした。そしてauトムスはスタートで3台が脱落したこともありますが、コース上で相手を抜くほどの速さを持ち4位に入っています、坪井選手が少なくとも2回は他車と絡んでいてけっこう危ない場面がありましたけどね。これで獲得ポイントが48まで伸びたので次戦は給油速度制限も2段階入る96kgになります。
 ちなみにサクセスウエイトの上限は100kgとなっていますが、今季は昨年までのように制限が1段階増えた時にバラストが一旦50kgから34kgぐらいまで減ってまた増える設定ではなく、51kg以上はずっと50kgで固定されます。そのため、85kgを超えて給油2段階制限が入ったらそれ以上は全部『50kg/出力-1/給油-2』の設定で全く同じ。つまり85kgが事実上の最大ハンデになっていて100kgという数字には象徴的な意味しかありませんね。GT300も同様に85kg以上は表現だけの問題で内容は同じになっています。


・GT300

 GT300はドライバーを替えたばかりのPONOS FERRARI 296 EVOがいきなりの活躍、公式練習がまず最速で、Q1・A組でも篠原 拓朗が1分37秒100で同組2位に0.682秒差のぶっちぎり、B組を含めた全体でも最速を記録。そしてQ2でも加入したての川端が1分36秒209を記録し、これまた2位に対して0.591秒の大差。チームも本人もちょっとビックリの驚速ポールとなりました。

 2位はSyntium LMcorsa LC500 GT(12kg)・吉本 大樹/河野 駿佑、3位がUNI-ROBO BLUEGRASS FERRARI(14kg)・片山 義章・ニクラス クルッテン、4位にCARGUY Ferarri 296 GT3 EVO(16kg)・ザック オサリバン/梅垣 清。296 GT3 EVOが上位に集結していますが、3位のVELOREXはこのレースからEVO車両に切り替わっており参戦3車が全部最新型になりました。
 やっぱこの車は速いわけですが、そのぶんだけ今年はブースト圧が引き下げられて最高速がむちゃくちゃ遅くなっています。ただ第2戦でさすがに遅すぎると判断されたかのか、今回はブーストがやや引き上げられ、また最少ウイング角度も5°から3°に下げられて最高速を伸ばす余地が生まれています。
 オートスポーツ計測だと、第2戦では昨年との比較で大半の車両が10km/h以上最高速が向上していたのに、296だけは4km/hしか向上してなくてBoPにより相対的に遅くなったと考えられます。全員速くなってるのは燃料が合成燃料から普通の燃料に戻ったことと当日の追い風の影響です。たぶんこのレースで計測したら296の相対的な最高速はやや改善していることでしょう。


 GT500で大事故があった決勝、ポノス296・篠原がスタートから快調でLMコルサLC500・河野を徐々に引き離す良い感じの展開。そしてスタートから良い動きを見せたのは6位スタートのGreen Brave GR Supra GT(30kg)・野中 誠太と、7位スタートのENEOS XPRIME AMG GT3(20kg)・鈴木 斗輝哉の2人。野中はリスタートした10周目にいきなり2人を抜くと、16周目には片山も抜いて3位に浮上、鈴木も『振り返れば』な感じで順位を上げてきて21周目に野中を抜くと、23周目に河野も抜いて2位。部分的に小雨も降る中でAMGを振り回しています。LMコルサはやや尻すぼみですね。

 この状態でピットサイクルとなって、上位ではやや離されていたカーガイが26周目に最初にピットに入って梅垣からオサリバンへ。ポノスは31周目に篠原から川端へ、32周目にLMコルサが河野から吉本へ、33周目にエネオス ルーキーが鈴木から石浦 宏明へ交替しました。このサイクルでオサリバンは一時ピット組の先頭に出ますが、川端がすぐに抜いて実質1位を堅持します。ところが上位勢最後の1台・グリーンブレイブだけはひたすら走り続けてピットに入ったのがなんと41周目、タイヤは前輪しか交換しない変則作戦でした。
 後ろだけ古いタイヤでコースに戻った吉田、ピット時間でおおよそ10秒ほど稼いだのが効いて、タイヤがある程度発動した時点で川端を2秒ほど後方に従えておくことに成功しました。しかし半分タイヤが古い吉田が追われるのは必然で、ここから川端が何度も吉田を狙っていきます。さすがにこれは無理かなあと思って見ていたら、やっぱり296は最高速が遅いのでGRスープラを長い直線で仕留めるのが簡単ではありません。非常にフェアーに抜きつ抜かれつ争って吉田がなんとか耐えます。

 これが1対1の勝負ならいずれは力尽きますが、吉田が一生懸命耐えてる間にオサリバンが追いついてきて上手いこと296GT3同士の対決に話が変わってくれました。ペースが上がらず追われてるのを抑えてるうちに後続が集まって来て、後ろで争い始めたから逃げれてラッキー♪なんてのは一時的には起こっても最後まではそう上手く事が運ばないというのが大抵のレースですが、今回は跳ね馬バトルが勝敗の決め手に。同じ車で決め手を欠くせいかオサリバンは川端にラインを残さない走りがあり、押し出して抜いたので順位返還を命じられて元に戻り、そこからまた攻撃を開始して、となるので前を走る吉田からするとマンガ肉が届いたぐらいのデッカイ贈り物でした。
 かつてGT2規定とJAF-GT規定の430が富士でバッチバチにやりあってたのを思い出しました、2009年の第7戦ですね。最後はドア トゥー ドアで争っていたので、たしか解説の福山さんが「いや~、私の好きなNASCARみたいですね~」って楽しんではりました(笑)2009年なら今でも公式動画あるんちゃうんかな、ん?公式YouTubeチャンネルに2009年の第7戦だけ動画が抜け落ちてるな・・・

 430バトルを思い出して懐かしい気持ちになっていたら、ピット後はちょっと下がっていたエネオスAMG・石浦が追いついて来て、1位争いをするはずだった人たちは気づけば誰かが表彰台に乗れない2~4位争いへ。そんなわけでグリーンブレイブはテレビにあまり映らなくなり、終わってみれば7.881秒差でレースを制しました。いっつも上位にいる気がしますが、GT300規定に加わるあれやこれやの規定変更で最近は苦戦していたので優勝は2023年第7戦以来約3年ぶり。去年のセパンでタイヤ交換時にナットが遥か彼方に転がって行ってなければ勝ててはいたんですが・・・

 
 
 野中選手はチーム加入後初優勝、また吉田選手は熊本県出身で、このレースの4日前に発生した令和8年熊本地震によってかなりの思いというものがあったと思います。結果、インタビューで2人とも途中から泣いてしまって今日のレースは優勝インタビューで山本選手以外全員泣いてしまうというなかなか珍しい結末になりました。吉田選手は公式動画用のインタビューでも対戦相手の川端選手のマナーの良さに言及して感謝しており素晴らしいなと思いました、また泣くのをこらえてましたね。

 2位はエネオスAMG、石浦は残り2周でサイドドラフトを上手く使ってオサリバンを抜くと、最終周のターン1では重圧に負けたのか川端がターン1の減速でちょっと失敗。その間に内側を抜けて行って2周で2人抜きしました。3位カーガイ296、4位ポノス296、川端選手はビックリポールから決勝でもあと少しで勝てそうでしたが、グリーンブレイブを素早く抜けたかどうかが運命の分かれ道になって表彰台に乗ることができませんでした。
 開幕戦勝者のD'station Vantage GT3(50kg/給油-2)・藤井 誠暢/チャーリー ファグはタイヤからセッティングから全然合わなかったみたいで23位、ドライバー選手権1位からは陥落して5点差の5位へ。グリーンブレイブが代わって1位となっており、同点でHYPER WATER INGING GR86 GT(50kg/給油-1)・堤 優威・卜部 和久が続いています。このレースではほとんどテレビに映ってないけど7位でした。まあまだまだ3レースぐらいじゃ分かりませんが、いずれもGTA-GT300×ブリヂストンですね。


・双方にあったタイヤの問題

 GT500は結果としてはターン1での争いがそのまま勝敗に繋がり、大津選手もレース後のインタビューで敗因に挙げてました。しかし我々観戦者には見えズラいタイヤの課題が双方にあり、レース展開に影響していました。とりあえず、本来なら多くの陣営が路面温度40℃超の条件を想定してタイヤを選んでいたであろうことは想像できますが、決勝前の雨で実際の路面温度が下がってしまいました。ウエット宣言があったので必ずしも予選で使用した"本命"タイヤをそのまま使ったかは分かりませんが、外れていたチームは多かったと思います。
 SUPER GT+KYOJOを見ると、やはりチーム国光はハードと呼称するタイヤでスタートして路面温度が低いためピックアップ(≒グレイニング)の症状が出ました。後半もハードだとピックアップ出るんじゃねえの?とは思いつつ後半も同じタイヤを選択。途中まではなんとかなっていましたが、時々空が暗くなって小雨がぱらついたり、そもそも中断のせいでレース時間が後ろにズレてるために終盤にかけて路面温度がさらに下がってしまい、牧野選手はピックアップで大苦戦したそうです。
 一方のARTAはハードから後半はソフトと思われるタイヤに交換、同一メーカー内では大まかなタイヤの情報だけは共有されるらしいのでSUPER GT+でも車を降りた山本選手が既にそれを知った上で喋ってるのが分かりますが、ARTAがソフトを選んだ理由というのが路面温度の低下でもピックアップ対策でもなく、予選Q2で使用して決勝でも使うはずだった本命タイヤに傷が入っていて使えなかった、という消去法でした。
 ゆえに太田選手は走り始めた時間帯にはオーバーヒートしないように対応する必要があり、レースの終盤にかけて相手がピックアップで苦しんだころにようやく自分たちのターンが来た!という感じ。結果論としてソフトは悪いタイヤではなかったと思うので私は狙ってそうしたんだろうと思って見ていたので、それを知ってなかなかの驚きでした。
 走りはじめの段階でタイヤを酷使して潰さなかった太田選手の走りなくしてこの結果は出ませんので、最後の争いは見た目のタイム差だけでなく後から振り返ったこうした背景を見ても極めて高いレベルだったなと思わされました。

 来年のワンメイクのタイヤがどういう設定と設計になるのか分かりませんが、開発競争が激しい今のGT500のタイヤではハード=遅くて長寿命、ソフト=速くて短命、という単純な図式ではなく作動温度領域の方が重要です。ハードでも温度領域を外せばすぐにグレイニングの嵐で最悪の場合まともに走れず緊急ピットの憂き目に遭います。ソフトでも最適な温度ならそもそもそれで180kmぐらいを安定して走るために作ったタイヤなので、ソフトだから途中から遅くなるというようなことはあまり起こりません。今回はまさにその典型例ではないかと思います。

・トムスさん、給油早くないですか?

 そして4位に入ったauトムスですが、サクセス給油リストリクターは細かい説明が難しいので『おおよそ給油時間が10秒長くなる』と説明されています。しかし実際に彼らがレース中に行った給油は概ね2~3秒長いだけでした。なぜ?というところをちょっとだけ素人考察。

 とりあえず一応正確な規則上の数字を基にザックリ計算しますと、通常の給油ホースは最小内径が直径25mm、給油制限1段階は21mmです。ここから超絶シロウト小学生計算ですが、燃料の流量はホースの断面積に比例すると考えて円の面積を求めることにし、

A 通常ホース 12.5×12.5×3.14=490.625
B 1段階下げ  10.5×10.5×3.14=346.185
B÷A=0.7056

 ということで1段階下げられると給油ホースから流れ込む燃料が通常の約3割減になるのではないかという仮定が立ちます。GT500クラスは燃費が概ね2km/Lぐらいで300kmレースだと必要なのは150L、満タンで100L入るはずなのでレース中に必要なのは最大50Lです。SUPER GTは給油速度がザックリ2L/秒ぐらいしか入らないという話を耳にしますので、通常ホースだと25秒かかります。そうすると

25÷0.7056=35.43

 35秒ということになるので、あら、公式が目安にする10秒とぴったり合いました(笑)ちなみに2段階縮小の直径19mmで計算したら43秒=18秒増しになりますが、公式さんが何秒と呼ぶことにしてるのかは調べてもよくわかりませんでした、次戦待ちです。まあたまたま合致した、程度の参考値ですけどそんなに大外れはしてない気はします、自画自賛、とんでもない間違いをしてたらごめんなさい。
 それを踏まえて今回のレースに戻りますが、トムスの給油時間がそれほど長くなかった要因は主に2つ。1つはSC周回数で、レースの最初の9周は1回目のリスタートからレッドフラッグまでの僅かな時間を除けば全て低速走行でした。SC中は通常の競技中と比べれば遥かに少ない燃料しか使いませんので、たとえば25周目あたりでピットに入ったとして実際に使用した燃料は17周~18周ぶんぐらいだと思われます。そもそも50Lを想定した給油量が36Lぐらいで済んでしまいます。
 2つ目は燃費で、そもそもサクセス給油リストリクターがかかる車には燃料流量リストリクターがかかっており、通常は最大で90.2L/hの燃料流量が88.0L/hになるので2.5%ほど減ります。この最大値は高回転域での話なので全域では無いし、当たり前ですが1周ずっと全開ではないのでそのまま燃料使用量が2.5%減るわけでもないですが確実に燃費は改善します。そこに加えて山下選手は当然ながら燃料を節約しながら走り、おそらく無理な争いを避けて自分のペースで効率的な走りを目指したと思います。抜きに行ったってどうせ抜けないのでスリップに入って燃費を稼いだ方がお得ですね。

 という要素でおそらくauトムスは誰よりも少ない燃料で最初の100kmを走ることができたため影響を最小限にしました。『給油時間+10秒』の意味するところなどいくつかの要素が分かってないと、下手すればトムスが何か規則を破ってるとか言う陰謀論にすら繋がりそうですが、ちゃんとした理由があります。
 それと、トムスはとにかく足回りのセッティングの解析と実践で飛びぬけた経験値と精度の高さがあるとみられ、タイヤ選択に関しては他陣営よりも少し柔らかいタイヤを選んで、それをちゃんともたせてる傾向があるそうです。柔らかいと予選が速いしピックアップ対策には効きます。たぶんチームメイトのデロイトトムスは同じことをやってもドライバーの癖とか力量とかで上手く結果に繋げるのが難しくて差が出てるんじゃないかなと思います。技術陣の理想を運転手さんが叶えてる感じです。ついでにこの関連の話でいくつか書いておくと

 燃料流量リストリクターで直線が遅い→
 そうとも限らない

 意外と大事ですが、燃料流量リストリクターがあってもそんなに影響しないことがあります。GT500の航続距離は最大で約200kmですが、これをやろうと思うとそれなりに燃費を意識しないといけません。リフト&コースト、ブースト圧や燃料濃度の調整が必要です。GT500の定番である『ミニマム戦略』をやると、約200kmを走る必要があるレース後半は流量制限が無くても出せる出力には限度があります。ということは、流量が制限されていても相手もまた言うなれば燃料消費は自主規制されてしまうので、相対的には勝手に差が小さくなるのです。もちろんいざという時に燃やせるかどうかの差がありますが、トムスはその辺も熟知して上手く戦略を組み立てていることが多いです。

 スタート時の燃料搭載量を減らす(増やす)→
 普通はやらない

 燃料流量が減らされるぶん燃費が良いからスタート時の搭載量を減らせるんじゃないかとか、給油が遅くなるぶんスタートを満タンにするんじゃないかとかいう話がたまにありますが、スタート時は満タンにしておくのがセオリーでそういう差はまず無いです。サクセスウエイト換算を参考にすれば、燃料を10L減らしても富士でその恩恵は1周あたり0.1秒ほど、30周で3秒ですが、10L余分に給油すると5秒かかりますから取り分がありません。途中でSCが出て差が無くなれば単純に給油の遅さだけが自主ハンデになりますし作戦の幅も減るので、スタート時の搭載量を変えるという考えはまず無いと思った方が良いでしょう。

 ピットを引っ張って給油時間を短くする→
 原則変わりません

 これも解説で言いがちですが、給油量というのは原則的に『レース全体で必要になる燃料ー最大搭載燃料量』でしかなく、いつ給油しても変動しません。ザックリ言えば100L積んでスタートして22周目に給油して使った分だけ補充しても、タンクが空っぽになる44周目に残りの必要量だけ補充しても入れる量は同じ50Lです。
 もちろん終わりが見えるほど計算の精度は高くなりますし、他者が全てピットサイクルを終えた後にSC/FCYによる消費量変動があるとまだ給油していない人だけがその影響を補正して給油量が減るので場合によってはそうなることもありますが、基本は変わりません。むしろミニマム作戦はタンクが溢れるから使った量以上に給油が出来ないので絶対に給油量が少ないのに対し、均等割りに近づけるとタンクの空きはあるからあえてたくさん給油してガンガン燃やして飛ばすこともできるので、引っ張った陣営がむしろ給油時間が長いことだって考えられます。

 300kmレースにしろ3時間レースにしろ、こういう要素を抑えた上で観戦すると何が起きているのか、この後に何が起きそうなのかをより理解して楽しむことができるのでお勧めです。本来なら3時間レースだけでも、NASCARで言えばFOXのラリー マクレイノルズみたいに放送席とは別の場所でデータを収集・分析して『この人は次にピットに入るのが〇周目~〇周目の間ですね』というのを的確に解説・助言できる人材が欲しいところです。

 あと、今回プレリュードが競争力を上げてきましたが、これがこの先も継続できるものなのかはまだ様子を見ないと分からない面もあります。夏場はどちらかというと足を動かして車高を上げる方向のセッティングになるので、車高下げまくり、底擦りまくりの低温環境と比べると車の動きはやや落ち着いた方向になり、空力追及で跳ねまくるホンダ病が解決しつつあるのかがちょっと分かりにくいからです。


・グリーンブレイブ、ぶっつけ2輪交換

 GT300はグリーンブレイブ、特に吉田選手が素晴らしかったです。振り返ると予選が6位でしたがこれがやや不運で、計測周回が他陣営よりも1周早かったために最終コーナー付近でこれから計測を始める複数台の集団に引っかかっていました。予選の2位~6位は0.072秒しか差が無い大接戦だったので、おそらく本来なら彼らは2位からスタートできる車だったと考えられます。
 ある程度はコース上で挽回はできましたがどうしてもその差がレースにも影響している、という中での2輪交換は事後情報だとその場での判断があったそうで、当初予定は4輪交換、それが雨の影響を見極める意味もあってピットを引っ張り、ブリヂストン側からは無交換でも行けるという話を貰ったものの、走ってる野中選手が『フロントがキツイ』と言っていたので前だけ交換に至ったという話。
 序盤はレースしてないので予定よりもレースの周回数は実質的に減っており、思ったより路面温度が下がっていたのでタイヤへの負担が小さくなっていた、という条件から勝つための答えを探し、計算だけでは実現できないコース上の争いで吉田選手がそれを現実に変えました。相手の川端選手を称えて「自分が逆の立場だったらイライラするようなやり方」の争いだったということですが、見ていて2人とも最高の走りでした。川端選手はここでタイヤを使わされたのが後から効いたんじゃないでしょうかね。

 もちろんここには魔法のブリヂストンタイヤの恩恵もあり、こういうのは来年になるとなかなか使いにくい作戦になってくると思うので、表現として適切か分かりませんがグリーンブレイブとするとブリヂストンがいる今年のうちに結果を出しとかないと、というのはたぶん正直な気持ちとしてあるんじゃないかなと思います。それはしれっと点数稼いでるインギングも同じですけどね。

 ファン期待のSUBAR BRZ R&D SPORT(2kg)は第2戦で直線が速すぎたからかさすがにブースト圧が前戦より下げられるBoP調整が入って爆発力が薄くなり、タイヤもセッティングも苦戦。そこに決勝は雨が降った時に取り付けたウエットタイヤをおそらく全車で唯一そのまま付けてスタートして大失敗、最後はまたもや左前輪のパンクで28位でした。生みの苦しみがまだまだ続いてる感じですね。

 次戦は8月22日・23日に鈴鹿での300kmレース、とりあえずもう大事故は勘弁してください☆

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