フォーミュラ E 第13戦 上海

ABB FIA Formula E World Championship
2026 Shanghai E-PRIX
上海国际赛车场 3.051km×27Laps(-0.19km)=82.187km
Race Energy:38.5kWh
Reference Time for SC/FCY 3:15
Attack Mode:480 seconds/2 time
winner:Lucas di Grassi(Lola Yamaha ABT Formula E Team/Lola-Yamaha T001)

 ABBフォーミュラE・上海2連戦。雷雨を警戒した異例とも言える3時間の日程繰り上げ措置で前日は決勝レースの途中に大雨が来た以外はイベントとしては順調に進んでくれました。この日も引き続き3時間前倒しの早起きは三文の徳レースになっています。ところで前戦の三亜も今回も日産は車体側面に东风日产と大きく書かれています。

 日本の漢字で表記すると東風日産となりますが、中国の3大国営自動車メーカーの1つ・東風汽車と日産自動車の合弁企業です。後に日本経済新聞の記事になってましたが、日産は低迷する事業の立て直しに向けてフォーミュラEを積極活用しようと考え、中国での3戦で東風日産を大きく掲げるとともに、この上海の会場では車両の展示も行ったそうです。ちなみにオフィシャル車両としてFP3では


 こんなのも走っていました。これは東風日産のN7という電気自動車、開発は日本側ではなく中国側が主導することで現地の需要に合わせた設計がなされ、おかげで昨年4月末の発売以降なかなか好調な売り上げを記録して反転のきっかけとなっています。6月のフィリピン国際自動車ショーでは『プリメーラ EV』という名称の電気自動車が発表されましたが、名前が違うだけで車はそのまんま東風日産N7と思われます。
 さらに言えばN7は東風007という東風汽車の車をベースにしていると考えられており、例えるならアウディー Q7とポルシェ マカンとランボルギーニ ウルス、みたいなベースは同じであとはブランド別に味付けを変えた、グループ全体で見ると悪い言い方をすれば派生商品という感じの車です。
 この東風は『ドンフェン』という名称で日本にも最近やってきていて、とりあえず発売する予定なのがこの東風007を高性能化した『モンスタースポーツ007』という車。名前からまさかと思ったら、あのモンスター田嶋こと田嶋 伸博が助言役として関わっています( ゚Д゚)こちらドンフェンのマレーシア法人公式YouTubeチャンネルの宣伝動画ですが、セパンサーキットを使ってますね。わりと走行性能をウリにしていることが伺えます。

 BYDがF1参戦に興味を示している、なんて報道も出てますが現地も競争が激しくて何か他所と違うブランド力が必要になっているので、モータースポーツを活用してやろうという会社もいくつか出てきているのは確かだろうと思いますね。F1でもフォーミュラEでも、どういう楽しみ方をしてるのかは知りませんがヤラセじゃないお客さんが結構入ってるっぽいので少なくとも大都市の富裕層には一定のウケる層が以前よりはありそうです。まあ兎にも角にも宣伝したいなら活躍しないとね、というわけでフォーミュラEに戻りましょう。

・練習走行

 今日は朝から雨だぞFP3、雨の練習はあんまり走りたくないけど本番も雨なら走らないわけにもいかず、みなさん精力的に周回。最速はバーナードで1分16秒962。ベアライン、ドルゴビッチ、ミュラー、デニスが続きました。ってことは2位から5位まで全員ポルシェ 99Xですね。

・グループ予選

 雨は止んだようですが路面上はかなりの水量で昨日の決勝終盤と似たような雰囲気。A組は走れば走るほど路面が乾いて速くなっていくので時間ギリギリが有利なパターンですが、最速はまだ時間が残ってるうちにミュラーが記録した1分16秒615でした。ここに最後に滑り込んだバーナード、マルティーが続いてロウランドが4位。ジャガーの2人はいずれも苦労してエバンス7位、ダコスタ8位で後方スタート確定です。
 この路面を引き継いだB組は最後に走った方が有利ではあるものの、乾いたら乾いたで一度タイヤを冷やさないと滑りまくって勝負にならない様子。そんな状況でやっぱり速いのはベアライン、1分16秒030で今日もグループ最速。ナトー、ドルゴビッチ、モルターラが続きました。6位に終わったデニスは「ブエミに邪魔されまくった!」と憤慨。ティクタムもセッション序盤に欲しい場所を確保するため接触してまで前の車を抜いていましたが7位と不発でした。

・ティクタム、想定外のグリッド降格

 そのティクタム、予選での接触については罰則は無かったんですが別件で3グリッド降格のペナルティーを貰ってしまいました。理由は前日の決勝レース後、レース ディレクターのマレク ハナチェフスキーをかなり汚い言葉を使って侮辱する発言を行った、とメディアに報じられたことでした。
 昨日のレースでは途中で大雨が降ってきましたが、クープラ キロは雨雲レーダーを見て『大雨が降るタイミングでアタックモードを使えば他の陣営を出し抜いて一気に順位を上げられるはず』と考えてアタックモードを使いました。ところがターン7付近の豪雨にハナチェフスキーはSC導入を決定、2人のアタックは無駄打ちになってしまいました。この件に関してティクタムはレース後にフォーミュラE専門メディア・FE ノートブックに対して

「少し雨が降っただけでレースディレクターがパニックになってセーフティカーを出した理由が分からない。」

 という話を、かなり下品な言葉を添えて記者に対して不満をぶつけ、これをFENが記事にしたところレースディレクターの目に留まって罰則に繋がってしまいました。珍しいパターンな気もしますが・・・

・デュエルス

 こういう条件でのデュエルスは腕前がどうとかいう以前にタイヤの内圧設定で勝負の半分ぐらいが決着している感がありますが、A組は準決勝でロウランドを破ったバーナードが、B組は絶好調と思われたベアラインを破ってドルゴビッチがデュエルス決勝へ。アンドレッティー陣営はかなり喜んでおり、ドルゴビッチが勝てるとはあんまり思っていなかった様子(笑)
何か分からんけど勝った!

 ドルゴビッチはデュエルス決勝もそのままの勢いで快走、だいぶ乾いた路面と車の相性、ドルゴビッチの走りが見事に合致し、1分10秒609でバーナードに0.5秒近い差を付けて勝利。自身初めてのジュリアスベアポールポジションを獲得しました。
何らかの違反を警戒しているのか数名は真顔

 スタート順位はドルゴビッチ、バーナード、ベアライン、ロウランド、ミュラー、マルティー、モルターラ、マローニーのトップ8。ナトーはせっかくデュエルスに出たのに、許容される最大キャンバー角を守っていなかったとして予選後の検査で失格裁定が下されて、予選を走っていないことになるのでスチュワードに出走許可を得る形で最後尾スタート。ナトーどんだけ運が無いんや・・・

・決勝

 J SPORTSの映像が国際映像に切り替わったと思ったらいきなりディグラッシが「同じじゃねえだろ、分かってないのに同じとか言うなよ。」とスタッフの誰かしらに怒ってる映像から入り、マズいと思ったのか国際映像もここで映像が急に他の人にバサッと切り替わりました。ちょっとビビりますが、予選からまた雨で路面が濡れていてウエット コンディションに逆戻りです。そうだ、ディグラッシはフォーミュラE最初のレースを北京の市街地で優勝して始まって、これが中国での現役最後のレースになるわけですね。勝ったらドラマチックやけどまあ無いわな。
 関係ないですが日本だと本山 哲がわりとこういう些細なことで「情報はちゃんと言ってよ。」と細かいことをイチイチ指摘するタイプでしたね。曖昧な表現、不必要な情報、複数の意味に捉えられかねない言葉の使い方にむちゃくちゃ厳しくて、とにかく勝つためには言葉1つたりともおろそかにすべきではない、という考え方だろうなと思いました。ハラスメントとの境界が結構ギリギリでもあるので、組織の雰囲気次第ではこういうのは逆に委縮して組織に遠心力が働きそうだなあとも思いましたけど、ディグラッシって帝王タイプ?

 路面状況が変わってしまったので決勝はSC先導スタート、12位スタートのはずだったエバンスはDC-DCコンバーターが壊れたということで電源が入らず走行不能、走ることなく0点が決まってしまいます。また、なぜかベルニュもSCの隊列について行けず「2秒遅いようならリタイアするわ、恥ずかしすぎるし周回遅れになるから。」とか言ってるんですが、何か壊れたでしょうか。チームメイトのキャシディーもやっぱり隊列から離され気味で、10車身ルールを守ってるのかちょっと疑わしく見えます。雨だし不可抗力だとさすがに免責でしょうか。

 3周のお試し体験走行を終えて各者はグリッドにつきスタンディングでここから実質的なスタート、オリジナルのスタートではないので既にアタックモードは使用可能になっており、いきなりターン1で4人がアタックを使いました。数周でちょうど半数がアタックを使ってサイクルはひとまず一巡、リーダーはベアラインとなり、アタック6分を使ったミュラーが2位に浮上してポルシェワンツー。3位はドルゴビッチですが3秒も離れてしまいました。
 そのまま特に何も起きずに気づいたらもう18周目、残りが10周と何周かあるであろう延長戦です。相変わらずポルシェが2人で優勢に進めており、雨は降っていない様子で路面は少しずつ乾いてきました。この辺りで上位勢が2回目のアタックを使い始めますが、ふと気づいたらなんと伏兵が登場。なぜかポルシェの2人よりも4%ほどエナジー残量が多いエリクソンが気づいたら上位に迫っており、22周目にいとも簡単にベアラインを抜いてぶっちぎり始めます。15周目にはまだ14位にいたはずなんですがどこから来たのか。

 ところが23周目、ちょうどコントロール ライン付近でマローニーの車が止まってしまい、動かないので24周目にFCYが発動。圧倒的有利に見えたエリクソンですが、どう見てもFCYが出そうなこのタイミングで2回目のアタックをわざわざ取りに行ってしまい大半の時間が無駄打ちになってしまいました。他にも数名がアタック無駄打ちの仕打ちに遭っています。
 このFCY中にレースは1周だけ追加と発表されて合計28周。エリクソン、ベルニュ、ディグラッシというさっきまでと全然違うトップ3になっています、ポルシェどこ行ったよ。この中で3位のディグラッシはついさっき1回目のアタックを使って追いついてきたばかりで、上位10人の中では唯一アタックがもう1回残っています、しかもエナジー残量もむっちゃ多い。ん?これマジでディグラッシ優勝ある?急に緊張してきました^^;

 25周目の終盤にFCYは終了して残り約3周、ディグラッシはミスることなくアタックを起動させて攻撃開始。2位のベルニュもまた1位のエリクソンを狙っているので混戦になり、しかもさっきチームメイトのマローニーが止まった原因がどうも縁石でサスペンションを壊したせいだったので、エンジニアからは「縁石は避けてくれ。」と走り方に注文も付く面倒くさい状況。
 何かやらかさないかハラハラしていましたが残り2周、ディグラッシはターン6で争っている2人の内側に飛び込んで、ベルニュにはうまくラインを交差されてしまいましたがエリクソンはなんとか攻略。そして最終周に入るとアタックモードの力を使って直線でベルニュもかわしました。ベルニュも最後まで食い下がりましたがアタックなしではさすがに対抗できず、ルーカスディグラッシがなんとなんと19位スタートからの大逆転勝利。ベンチュリー時代のシーズン8・第14戦ロンドン以来4年ぶりとなる通算14勝目で、ローラヤマハは悲願の初優勝を達成しました。


 2位はもうちょっとで勝てそうだったのに惜しかったベルニュ、通算39回目の表彰台ですが今シーズンは初めてで昨年の第14戦ベルリン以来でした。3位のエリクソンは通算23戦目で初めての表彰台、むっちゃ珍しい3人が登壇することに。4位からベアライン、ドルゴビッチ、ミュラー、ロウランド、バーナード、グンターのトップ10でした。
激レア

・影響がおおきかったタイヤ内圧

 ベルニュが上位に来たあたりでようやく私は理解しましたが、スタート前のSC隊列にすらついて行けなかったのは完全にタイヤの内圧設定の問題。雨なら内圧を高くして設置面積を減らすことで面荷重を増やすのが得策ですが、乾いてしまったら設置面積の小ささは旋回力を受け止められず、小さい接地面に負担がかかってどんどん性能が落ちて行くだけです。でも乾いた路面を想定して内圧をいつも通り低くすると、濡れてる時にタイヤが全然働きません。
 ローラヤマハは難しい路面状況に対し、マローニーとディグラッシで戦略を分けてマローニーには濡れた路面用の、ディグラッシは乾いた路面用の設定にする賭けに出ていたとのこと。なおかつ戦略もマローニーは序盤のアタックで前に出る、ディグラッシはレース後半になってから勝負をかける、と完全に真逆の作戦でどっちか片方当たってくれという作戦を実行。するとレース展開がディグラッシに味方した上に、そのマローニーが止まってしまってFCYが出たことでディグラッシの勝利がより手繰り寄せられるという勝負の綾もありました。

 ベルニュはSC先導走行からスタンディングでのスタートが切られるまでの間、ずっとドライバーとエンジニアの間で雨用のタイヤに交換してしまうかどうかのやり取りが続いていたことが公開された無線から判明し、しかも最後はスタート直前に判断が変わってギリギリのところでコースにとどまって、低い内圧でスタートしていたようです。エリクソンも17位スタートから雨が降らないことに賭けて成功しましたが、道中でチームメイトのブエミとチームとして統率が取れずに無駄に争っている時間があり、この余計な争いと、これまた無駄になった2回目のアタックが無ければ勝ってたんじゃないかと思います。

 内圧の違いがとんでもない武器になることを実証したのはロウランドも同じで、全然速く走れない上にダコスタにぶつけられるなど散々な状態でFCY導入前には1位から20秒近く離された14位でした。そこでチームは思い切ってFCY中にピットに入ってタイヤを交換、FCY中のピットなのでロスは10秒ぐらいで済みました。すると何ということでしょう、FCY解除後はタイヤが機能しなくて苦しむ周囲の選手より1周5秒以上速い異次元の差が生じ、ピットを出た時点では17位でしたがゴボウ抜きして8位でレースを終えました。FCYが無ければ獲れなかったであろう点数を稼ぎました。

・ティクタム、今日も大暴れ

 さて、思わぬグリッド降格を食らったティクタムですが、見た目上は10位でレースを終えたもののレース後に『順位1つ降格』という珍しいペナルティーを受けて正式結果は11位でした。最終周の最終シケインでグンターと争っていたティクタム、接触を回避するため、ということでシケインを1か所オモクソ無視して突っ切ってみたものの、スチュワードの裁定は『コース外を走って利益を得た』となりました。タイム加算ではなくここで得た順位だけ返させるという裁定結果です。
 レースも実質的なスタートからほどなく、前のドライバーの減速が早くて追突しそうになってコース外に飛び出し無線でキレまくるなど悪癖が全く直っていないようでした。こうしたことからティクタムはクープラキロとの来年の契約がかなり怪しくなっているという情報もあり、本人もまたチームに不信感があるようで、そこに加えて記者との関係も今回の件で信じられなくなったと思うので孤立状態に近くなっています。現状かなり厳しい立場です。
追突回避ではみ出すティクタム

 元々素行が悪くてF1に乗れなかったといっても過言ではない人ですが、フォーミュラEでは下位チームでコツコツ走って『このチームでそんなタイム出す!?』みたいな速さで存在感を示してきました。ドライバーは単に速く走ったら良いのではなく、チーム競技として組織全体を巻き込んで働いている人をその気にさせて全体で前に進む推進力のようなものが必要で、車が遅かったNIO時代のティクタムにはそういう姿も見えましたが中途半端に競争力のある車になって、完全にその姿を忘れている気がします。『速い車を手にするとわがままになる』では他陣営も手を出せないでしょう。


 それにしてもレース前の「勝ったらドラマチックやけどまあないわな。」という一瞬の思い付きのおかげで個人的に最高に盛り上がるレースでした。ティクタムの話じゃないですけどディグラッシは無線でよく吠えまくってますが、元々アウディーでずっと走ってたし他カテゴリーでの経験も豊富なのでどういう組織が強いのかを良く知っていると思います。偶然の重なった勝利ではありますが、偶然の機会を手にするために見えてないところでおそらく本人もチームも努力して推進力になっていたんじゃないかと思うので、ずっとフォーミュラEを頑張ってきたご褒美じゃないかと思いますね。
 ディグラッシが引退後にチーム幹部になるのか全然違う仕事をするのか分かりませんが素晴らしいレースを見せてくれましたし、普通に行ったらこれが現役最後の優勝だろうなとは現実を理解しつつも、彼もチームも最後まで勝つ気ではいると思います。やる限りは勝つ意志を持つことと、勝てるかどうかを現実問題として客観視して考えるのって矛盾はしないと思うんですけど、そこらへんがティクタムは上手く行ってないんですよね、ってまたティクタムの話に戻った。最後にドライバー選手権を見ておくと

 堅実な雨用タイヤが大外れだったベアラインですが、走ることすらできなかったエバンスを抜いて第8戦以来となるドライバー選手権1位に再浮上。モルターラは中国での3戦で1点も獲れずかなり離されてしまい、ロウランドも三亜での自滅がむちゃくちゃ影響しています。残りは2ラウンド・4戦となって次戦はいよいよ東京です。予選は15時40分、決勝は20時5分開始予定!

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