カイルブッシュが病気により急逝


 このような記事を書くことになるとは夢にも思いませんでした。NASCAR カップ シリーズで2度のシリーズ チャンピオンを獲得、リチャード チルドレス レーシングのカイル ブッシュが現地5月21日に亡くなりました。41歳でした。5月15日にはクラフツマン トラック シリーズで通算69勝目を挙げ、5月17日のオールスター レースにもいつも通り出場。5月18日は息子・ブレクストンの11歳の誕生日を祝う投稿をSNSに行っていたばかりで、本当に突然の出来事でした。
 この情報の数時間前、5月21日の午前中にはカイルが重篤な病状により緊急入院し今週末のシャーロットのレースには出場しないことが発表されていましたが、僅か数時間後に彼が他界したことが発表されました。NASCAR、RCR、ブッシュ家は共同で声明を発表、

「ブッシュ家、リチャードチルドレスレーシング、そしてNASCAR関係者一同を代表して、カイル ブッシュの突然の訃報についてお伝えいたします。」

「NASCARファミリー一同、カイル ブッシュの他界による深い悲しみに包まれています。将来殿堂入りが確実視されていたカイルはまさに一世代に一人しか現れない稀有な才能の持ち主でした。彼は闘志にあふれ、情熱的で、卓越した技術を持ち、NASCARというスポーツとファンを心から愛していました。20年以上にわたるキャリアの中でカイルは全国シリーズでの勝利記録を樹立し、NASCAR最高峰の舞台でチャンピオンシップを獲得し、また、トラックシリーズのオーナーとして次世代のドライバー育成にも尽力しました。彼の鋭い機知と闘争心はあらゆる年代のレースファンと深い絆を築き、誇り高く忠実な『ラウディー ネイション』を生み出しました。サマンサ、ブレクストン、レニックス、カイルとサマンサのご両親、カートとカイルのご家族、リチャードとジュディ チルドレス、リチャードチルドレスレーシングの皆様、チームメイト、友人、そしてファンの皆様に心よりお悔やみ申し上げます。NASCARは本日、このスポーツの巨星をあまりにも早く失いました。」

「この大変辛い時期に、皆様にはご家族のプライバシーを尊重していただき、引き続きご家族のために祈りを捧げてくださるようお願い申し上げます。今後の情報は、適切な時期にお知らせいたします。」

としました。現時点で死因を含む詳細は発表されていませんが、AP通信が匿名の関係者の話として報じたところによると、カイルは5月20日にシボレーのシミュレーター施設でシミュレーターによる走行を行っていましたが、何らかの理由で意識不明の状態となり病院に緊急搬送されたものの亡くなったと伝えています。またUSAトゥデイは当時の緊急通報音声を入手したとし、救急隊が到着した当時にカイルは浴室で吐血していたと報じました。

 カイルの実績は言うまでもありません。2004年、19歳でオライリー オート パーツ シリーズにフル参戦して5勝し、マーティン トゥルーエックス ジュニアに次ぐシリーズ2位で新人王も獲得。翌年にヘンドリック モータースポーツからカップシリーズにフル参戦し、第25戦フォンタナで初優勝して当時の史上最年少優勝記録を樹立、ヘンドリック所属の3シーズンで4勝しました。

 ただ、どうもプッツンしやすい性格が災いしたようで2007年を最後にヘンドリックを離れ、2008年はジョー ギブス レーシングへ。ちょうどこの年から車両をトヨタに変更したJGRへの移籍はカイルにとって飛躍の起点となり、この年に8勝を記録するなど勝利を重ねました。ただ爆発的な速さを持つ一方で短気な性格は時折問題を引き起こし、またシーズンの終盤にかけて成績が落ちてしまうためチャンピオン争いにとって重要なプレイオフ期間にさっぱり勝てない、という脆さも抱えていました。
 2度目の大きな転機は2015年、開幕戦デイトナ500前日に併催のオライリーシリーズのレースでクラッシュして骨折、これで開幕からの11戦を欠場したものの、復帰後5戦目のソノマで優勝するなどレギュラー シーズン15戦で4勝し2位も2回記録。『1勝してポイントで30位以内』というプレイオフ進出条件を怒涛の勢いで駆け抜けてクリアすると、その勢いでプレイオフも勝ち進んで最終戦ホームステッドで優勝。11戦を欠場しながらのチャンピオンという、現在の制度では達成不可能な後にも先にも彼だけの記録を打ち立てました。

 ちょうどこの2015年は長男のブレクストンが生まれた年でもあり、大怪我から復活してのチャンピオン獲得への戦いぶりなど、あの悪童ぶりが際立っていた姿は見えなくなり非常に成熟したドライバーへと進歩。カイルブッシュ第2形態は2019年にもトゥルーエックスとの争いを制して2度目のチャンピオンを獲得しました。鋭い速さと冷静さを併せ持ったこの頃のカイルは最強だったと思います。滑るか滑らないかのギリギリの領域の判断が卓越しており、それがリスタート直後のタイヤがまだ十分に機能してない時間帯の攻防や、うっかり姿勢を乱した時の瞬時の立て直しは最高水準の選手だったと思います。
 日本のNASCARファンにとってもM&M'sのカムリとカイルブッシュという名前はそんなに詳しくない人にとっても馴染みやすく、グランツーリスモの収録車両だった影響もあって相対的に他の選手よりは広く知られた存在だったのではないかと思います。

 2022年、長年の主要スポンサーでM&M'sチョコレートなどの商品でお馴染みだったマースがスポンサー契約を終了することになり、これがきっかけで高額年俸を賄えないJGRはカイルとの契約を断念。2023年からはRCRへと移籍すると、第2戦フォンタナでいきなり優勝するなど3勝を挙げました。ただ結果としてはこの年の第15戦ゲートウェイでの勝利、通算63勝目が最後のカップシリーズ優勝となり、翌年以降は低迷するチーム成績に抗えず低迷、連続シーズン優勝記録も19で途絶えました。今シーズンも苦戦していましたが、ちょうどクルー チーフがアンディー ストリートに交替して成績が上向き始めたばかりでした。

 またカイルは週末に併催される全国シリーズに出場しまくることでも知られ、オライリーシリーズは通算367戦出場で102勝、クラフツマントラックシリーズも184戦で69勝を記録。NASCAR全国シリーズ3つ合わせて234勝という途方もない数字を記録しています。優勝した際には観客席に向かってお辞儀をしますが、これは彼によると出身地ラスベガスに着想を得たもので、劇場の出演者などが最後にお辞儀するのに倣った独自性のあるパフォーマンスだったとのこと。
 冒頭にも書いた通り、先週末もカップシリーズオールスターとトラックシリーズに両方出場、今週末もトラックとカップに両方出る予定でした。毎週末当たり前のように走りまくっていたカイルがそこにいない、まだ信じられません。私の正直な心境としては、私はカイルが亡くなったことに対してまだ「なぜ」という部分で立ち止まってしまい、悲しむという段階に感情が進んですらいない状況です。

 NASCAR界にとって現役選手が無くなるのは2001年のデイル アーンハート以来。シニアの場合はレース中の事故でしたから全く状況は異なりますが、何の因果かまたしてもRCRの現役選手でした。ただそれでもNASCARが止まることは無く、チームはカイルの代役として今週末のカップシリーズにはオースティン ヒルを起用すると発表しました。
 また、チームはカイルのカーナンバー8を欠番として今後は33番を使用すると発表。8番については『ブレクストン ブッシュがNASCARに参戦する準備が整ったときに備えて確保されます』とし、ブレクストン君が将来RCRのドライバーとして参戦するまでは封印するとしました。既に輝かしいキャリアを始めており、カイルも親子で走ることを楽しみにしている様子でしたが、実力不足で引退してそれが叶わないならまだしもこのような形で潰えるなど誰が想像できたでしょうか。ちょっと家族のことを思うと他人でも耐えられないですね。

 
 カイルの病状や死因については現時点で何も明らかにはされていません。しかしながら毎週しっかり見ている方、当ブログで記事をご覧になっていた方は、2週間前のワトキンズグレンのレース中にカイルが無線で医師を呼ぶよう訴え、レース後に注射が必要だと言っていたことが頭に浮かぶのではないかと思います。実況のマイク ジョイはカイルについて「ここ1週間ほど副鼻腔炎に悩まされているようだ。」と話しており、後の取材で咳がひどかったことを本人は明かしていたようですが、詳しい内容は特に発表がないままでした。
 安易な憶測は避けるべきで、この件がカイルが亡くなったことと関係があるのかは不明ではありますが、関係のあるなしにかかわらずこれを読んでいる方への啓発として知っていただきたいことがあります。副鼻腔炎というのは蓄膿症とも呼ばれたりしますが、簡単に言うと鼻の奥の方で細菌やウイルスが繁殖して炎症を起こすもの。鼻が詰まって黄色い鼻水が出たり、場合によっては頭痛などの症状も起こります。
 きっかけは言うなれば風邪が多く、これまたザックリ言えば風邪を引いて鼻が詰まり、換気が悪くなった鼻の奥の空間で雑菌が繁殖してしまい副鼻腔炎になる、というような状態です。風邪が副次的に引き起こす二次被害みたいなものと言えそうです。私もSARS-CoV-2に罹患した後しばらくして急性副鼻腔炎になり、寝ようとしたら鼻からのどに鼻水が落ちて咳が出るから一睡もできない、という症状に見舞われて数日間まともに寝られず病院へ行ったことがあります。
 急逝副鼻腔炎は1ヶ月ほどで自然治癒することも多い一方で、急性の症状を初期に上手く抑えられず長引いてしまい慢性化すると慢性副鼻腔炎となり、場合によっては手術が必要になってさらに面倒なことになる場合もあります。2023年に当時の内閣総理大臣だった岸田 文雄が慢性副鼻腔炎の手術を受けたことをご存じの方も多いでしょう。

 ただの鼻詰まりがなんだ、と思われるかもしれませんが、鼻の奥というのは目や脳とも距離が近い部位です。そして副鼻腔炎は細菌などがそこで増えて悪さをしている状態なので、稀に炎症が拡大して細菌が目や脳にまで至ってしまい、視力の低下や髄膜炎、敗血症といった症状を引き起こすことがあります。敗血症は場合によっては短期間で人を死に至らしめる恐ろしい症状です。虫歯が原因で細菌があごの骨に入り込んだり、血液に紛れ込んで敗血症になって亡くなる例がある、みたいな話を耳にすることがあると思いますが、それと同じ話と思って良いでしょう。
 カイルの話とは直接関係なくとも、自分に置き換えて身近な人が昨日まで元気だったのに突然いなくなる、というのは耐えられないですし、ご覧いただいている皆さんにもそんな思いは可能な限りして欲しくないし当事者にもなってほしくないので、この機会に啓発させていただきました。
 たぶん急死とか注射とか言う単語を切り取って「COVID-19ワクチンで死んだ」だの「暗殺された」だのと承認欲求でデタラメ書いて注目を集めて満足しようとするクズ人間が多少湧いてくると思いますが、まともな知性のある人ならさすがに信用はしないと思いますがこういう輩は絶対に相手にしないようにしましょう、これも念のため啓発です。最後までお読みいただきありがとうございました。

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