フォーミュラ E 第7戦 ベルリン

ABB FIA Formula E World Championship
2026 Hankook Berlin E-Prix
Tempelhof Airport Street Circuit 2.374km×39Laps=92.586km
Race Energy:38.5kWh+3.85kWh Pit Boost
Reference Time for SC/VSC 2:45
Attack Mode:360 seconds/1 time
winner:Nico Müller(Porsche Formula E Team/Porsche 99X Electric)

 ABB FIA フォーミュラE、4月は全然レースがなくて久しぶりとなるレースはベルリンでの2連戦、お馴染みのテンペルホーフ空港跡地です。ベルリンはシーズン1から毎年開催され続けているイベントで、シーズン2だけはベルリン市街地でしたがそれ以外はすべてテンペルホーフ、2連戦だけでなくシーズン6ではパンデミックで多数のレースが中止になったシーズンを何とか成立させるために6連戦が開催され、おかげでテンペルホーフはこれまでに21回もレースが開催されています。壁を動かせばレイアウトが変わり、逆走でも使えて何と便利な開催地であることか。
 ただ、来シーズンに関してはDTMでお馴染みノリスリンクが開催地になるのではないか、という情報があります。Gen4車両での華々しい最初のシーズンに熱狂的なファンがいるノリスリンクは格好の舞台になり得ることと、テンペルホーフの箱庭サーキットはGen4で走るにはちょっと狭いからでしょうね。まだ正式には決まっていない噂段階のようですが、ノリスリンクも予選で全開走行したら直線は結構クレイジーな気がしますね。いや、というかノリスリンクって過去に速い車で死亡事故があったからちょっと怖いのでは・・・

 なお今週末はポルシェがいわゆる『ピンク ピッグ』と呼ばれる特別なスキームで走行。今年がポルシェ誕生から75周年の記念と言うことで地元ドイツでのレースで趣向を凝らしてきました。またこの狭いコースで歴代ポルシェ競技車両によるデモ走行まで行われます。ただ、国際映像のグリッド紹介で使用されるCGは普段のスキームをそのまま使っています。変更するとお金をとられるんですよね(笑)
 
・レース前の話題

 そのフォーミュラEファン待望であろう新車両・Gen4。とうとう公式の場で披露され、フランスのポール リカール サーキットで走行しました。私も早速動画を見て、車載映像もあったので2022年にF1が開催された時のシャルル ルクレールの車載映像と並べて最終コーナーからターン1までの加速力をセルフ比較。さすがにF1には及ばないものの同等レベルの恐ろしい加速力を誇っており、確かにこれはF2を超える速さだと言う比喩表現もあながち嘘ではなさそうです。

 続いてはドライバーの話題、ジャガー TCS レーシングのミッチ エバンスが今シーズン限りでチームを離れることが発表されました。既にThe Raceではエバンスのオペル加入が報じられており、正式発表はありませんがステランティス入り・オペル移籍と思われます。シーズン3で新規参入したジャガーから一緒にデビューしてジャガーに乗り続けること10シーズン、その間チャンピオンに届きそうで届かないことが何度もあり、ときにはチームメイトとの優先順位を巡って揉めることも。ちょうど前戦マドリードでもアントニオ フェリックス ダ コスタとの順位争いで若干揉めており、ここらで新しい場へと転じる頃合いだったようです。

 なおエバンスの後任は昨年リザーブとして加入したストフェル バンドーンがそのまま昇格するようで、ザ レースによればリザーブ契約の段階から既に正ドライバー昇格は条件に入っていたそうで、チーム代表・イアン ジェイムスによるとエバンスの残留交渉は「私がチームに加入した直後(=2025年9月)」から行っていたということですから、既に離脱はある程度織り込まれていたと考えられます。

 そしてこちらは引退のニュース、ルーカス ディ グラッシが今シーズン限りで引退することを発表しました。フォーミュラEを去るのではなくドライバーとしての引退としています。フォーミュラEのシリーズ創設から走り続ける最古参で通算13勝、シーズン3のチャンピオンでわりと歯に衣着せぬ物言いでも知られます。

 そして引退後のディグラッシですが、電気自動車とかもう興味無えんじゃね?とか思ったらそうではなさそうです。まだ正式には何も明らかになっていないものの「今は別のことに興味がある。今はただ車を運転するだけではなく、もっと幅広い役割に興味がある。」といった含みを持たせる言い回しをしており、そのままローラ ヤマハのチーム側の人に転身するのではないか?という話もあります。
 実はディグラッシ、昨年11月には『モナコでF1より速い』という謳い文句の電動レース車両・DGR ローラというのをローラと共同で発表しており、けっこう興味があるみたいです。ローラのGen4車両開発にも関わっており、こうした動きからドライバーではなくチーム運営者として第2のレース人生を迎えるのでは?という見方には信ぴょう性がありそうです。レース審査委員会の裁定に激高してピットを激走する姿を期待しています(笑)

・練習走行

 金曜日のFP1、まずはテイラー バーナードが57秒470で最速でした。そして土曜日のFP2ではダコスタが57秒357で最速、ジャン エリック ベルニュ、フェリペ ドルゴビッチ、バーナード、マキシミリアン グンターが続きました。300kWに限るとバーナード、ゼイン マローニー、ダコスタ、ダニエル ティクタム、セバスチャン ブエミの順で6位にオリバー ロウランド。マローニーとロウランドはこのセッションで350kWの走行を行わず300kWモードでの走行に注力したようです。
 セッション終盤にはコース上で低速走行していた車両に通常速度の車両が突っ込んで大事故になりかねない場面があり、ぶつかりかけたニック キャシディーとゆっくり走ってたダコスタが言葉を交わす場面もありました。
※乱闘ではありませんので安心してください

・グループ予選

 既に路面温度が30℃とまあまあ高いグループ予選、ベルリンはタイヤへの攻撃性が結構強いので温め方・使い方が大事なんですが、結果として最終周のアタックが不発に終わった選手が何人かいました。最速はパスカル ベアラインで58秒369、2位のドルゴビッチに対して0.278秒というけっこうな差が付きました。ロウランド、キャシディーが続いてデュエルス進出。バーナードはデュエルスに0.01秒届かず5位、エバンスは7位にとどまりました。

 続くB組、何周もかけてタイヤを準備していよいよこの辺りからまず1回目の本気アタックに入りそうだぞ、という残り4分ほどでディグラッシが壁にぶつけてしまいコース外へ退避。退避のおかげでセッションは止まらずに済みましたが、引退発表後最初の予選でひっそりと脱落はちょっと寂しい結果です。
 この組の最速はティクタムで58秒337、エドアルド モルターラが2位、そしてディグラッシ先輩の代わりというわけではないでしょうがマローニーが3位、4位はニコ ミュラーでした。ダコスタが0.024秒差の5位です。

・デュエルス

 A組最速のベアラインに事件発生、準々決勝を勝ち上がったもののターン4で内側の壁に軽く当ててしまい、車が僅かに斜行する状態に。直しようがないのでそのまま準決勝に臨みますが、なんとその状態でロウランドを破ったどころかさっきより0.4秒近く速くなりました(笑)一方B組はモルターラがティクタムを破ってデュエルス決勝に進出。見てるとアウトラップの1周でタイヤの準備が上手くいくかどうかの本当にちょっとした匙加減が勝敗に直結しているようで、準決勝のティクタムはまさにそんな感じでした。ターン出口で車がちょっとずつ外へ外へ逃げてしまってるように見えます。

 さてデュエルス決勝、相変わらず車がまっすぐ走ってないベアラインはターン1への進入で明らかにその影響と見られる慌ただしいステアリング操作、不安定な減速になってセクター1だけで0.24秒もモルターラに先行されました。この短いコースでひっくり返すのは至難の業、モルターラが今季3度目・通算6度目のジュリアス ベア ポール ポジションを獲得しました。

 スタート順位はモルターラ、ベアライン、ロウランド、ティクタム、キャシディー、ミュラー、マローニー、ドルゴビッチの順となりました。クソどうでも良いけどモルターラはかなりイケメンでカッコいいと個人的に思っている(笑)

・決勝

 路面温度が35℃まで上昇し、おかげでスタート前にほぼ誰もバーンナウトしていません。これはみんなタイヤの消耗をかなり気にしていると思われます。大きな波乱のないスタートから最初の2周をモルターラがリードすると、以降はロウランドと時折入れ替わりながらの展開。ペースは1分5秒あたりから始まるまあまあ速いレースで、上位勢はあんまり今の順位を失いたくはないんだけど、だからと言ってずっと風よけにはなりたくない微妙な駆け引きが必要になります。
 そんな中でマローニーがなぜか積極的な動きを見せて6周目に先頭に自ら立ったかと思うと、10周目に今度はチームメイトのディグラッシが先頭へ。しかもディグラッシは単にテレビに映りにきたわけではなくエナジー残量もしっかりしています。この辺りから全体のペースは1分1秒台と結構な速さになってきて簡単には抜けない状況になっており、これはひょっとしてローラヤマハに何かしらチャンス到来?と期待したくなる展開。
 ディグラッシは15周目までリードを続けたところで一旦後退、マローニーはちょっとエナジー残量が少ないんですがディグラッシはまだ周囲と大差のない範囲で、2人ともなお上位集団に入っていました。そして17周目、マローニーが最初にピットブースト可能の表示となっていよいよピットサイクルが見えてきました。なんとなくモルターラは先頭を走ってエナジーをやや使ったわりにペースが上がり始めた時に順位を下げていたので勝ち筋から外れて後手を踏んだようにも見えます。

 19周目からピットサイクル、上位勢では見た目上2位にいたキャシディーが20周目に、その後ろにいたモルターラが21周目にピットへ。モルターラはピット後にオーバーカットした形で一旦キャシディーを逆転したものの、25周目に抜き返されてここがピット組の最上位争い。モルターラはやや残量が少ないのでずっと前を走り続けるわけにもいかなかった様子です。
 一方ピット前に隊列を率いていたロウランドは25周目まで引っ張ってピットへ、このコースはちょうどピットブーストを終えた人が1周遅れで似たような場所に合流してしまうため、ロウランドは1位とは言っても周回遅れがわんさかいたので前が開けた状況ではなかったんですが、ピットを終えても見事に1位のままピットを出ました。前から後ろまでだいたいみんな1分1秒台の同じペースなので、周回遅れに引っかかったという感じではなかったようです。というか画面上で周回遅れがごちゃ混ぜになってこのあたりで脳ミソが付いて行かなくなりました(笑)

 あとはアタックモードを上手く使えば任務完了なわけですが、そのタイミングが難しい。上位陣で最初に動いたのは28周目、4位につけていたミュラー。そもそもいつからミュラーが4位にいたんだかピット前の走行位置からして記憶にない状態で頭の処理が追いつきませんが、とりあえず彼だけが単独で使ったので次の周にはもうリーダーになり、そのままかっ飛ばして2位のロウランドに2秒ほどの差をつけました。

 30周目にはロウランド以下多くの選手も一斉にアタックモードを使い、普通に考えたらこれでミュラーはアタック切れしたら追い上げられて順位は元通り、と想像するわけですが驚くことにそうなりませんでした。ミュラーは前半戦に徹底的な節約を行っていたためエナジー残量が多くタイヤも元気な様子、他の人がアタックを使って59秒台後半で走っても、ミュラーはアタック無しで1分1秒台前半を安定して継続し、築いた貯金を守り切るのにじゅうぶんな速さを備えていました。
 さらにロウランドの視点で言うと、自身の1周前にアタックを使ったキャシディーにアンダーカットされており、2周の履歴差を活かしてミュラーを追い詰めたいんだけどその前に1周しかアタック履歴差がないキャシディーが前にいて邪魔、という状態。ロウランドはミュラーを捕まえるどころかキャシディーを抜く前にアタックが終了して1位から5秒差、もう誰もミュラーを捕まえるのは無理な状態でした。あれ、気づいたらローラヤマハが定位置に落ちてる・・・
 
 どこから来たのかわからないミュラーがそのまま2位に5秒近い大差をつけて走り切り、フォーミュラE通算70戦目、通算6シーズン目でついに初勝利を挙げました。ピンクピッグのポルシェが見事な優勝、きっとこのミニカーは売れるぞ。ミュラーとベルリンと言えば、シーズン9・第8戦の雨になった予選でなぜかアプト クープラがやたら速くて予選2位だったのを思い出しますね。さすが母国で、とか一瞬思ったらミュラーはスイス人。

 2位からキャシディー、ロウランド、モルターラ、デニス、エバンス。7位には15位スタートからしれっと上がってきたペペ マルティーが入り、バーナード、ニック デ フリース、ダコスタのトップ10でした。マルティーのチームメイト、ティクタムはせっかく予選上位でしたがレース中に車両に謎のエラーが頻発してリタイア。また、ドライバー選手権1位でこのレースを迎えていたベアラインでしたが中団を走行していた19周目にデニスとの軽い接触でパンク、19位に終わって選手権1位の座をモルターラに奪われました。

 ミュラーがどっから来たのか分からず映像を見直すと、6位スタートから少し下がってだいたい9~10位あたりを走行、ピットサイクル前も9位あたりにいました。20周目にピットに入り、ピット前は目の前にいたバーナードをオーバーカット、記録を見るとピット レーン内の総滞在時間が0.2~0.3秒程度ですが平均的な数字よりも短かったようで、攻めた発進もこの僅差のレースでは効いたと思われます。
 そして10位あたりで隠れていたことでエナジーを上手く残しており、真っ先にアタックを使ったところで逃げ切れるだけの差を上手く構築しました。4位から動いて集団にハマって全然逃げられない、という危険性がある中での積極的な攻めが成功した形で、序盤の温存を含めて見事な作戦勝ちと言えそうです。ベアラインも同じ作戦でほぼ同じ位置にいたんですが接触でパンクして撃沈してますから、言うのは簡単ですけどこの作戦で無事に帰ってくるのは簡単ではありません。
 公開された無線の動画を見ても、複数の陣営は『節約はしたいけど上位5位以内からは外れたくない』という感じで戦略を考えており、10位まで下がって節約するポルシェの考え方はどちらかというとリスクが高くてみんな避けたがる作戦だったと思われます。その点、ミュラーはこれまでずっと競争力のないチームで集団走行するしか無かったので経験は役に立ったかもしれませんね。大なり小なりぶつかったり詰まったりするので、いちいち過剰反応せず冷静にいられる精神力が必要です。自分で書いててなんだけど10位で耐える力が大事なレースって(笑)

 一方ローラの2人はピットブーストが終わったら圏外でした。とりわけディグラッシはエナジーが足りなくなった、というほどでもなかったですが、記録を見返すとピット前の数周で他の人がピットに入りはじめ、オーバーカットのために飛ばしておきたい場面で周囲の選手よりペースを上げるのがワンテンポ遅れた感じで、19周目にはロウランドと0.9秒差だったのに3周後には2.7秒差になっていました。このレースで1.5秒も遅れると順位はとてつもなく変わってしまうわけで、エナジーよりもひょっとしたらタイヤの方がちょっと辛くてペースを上げたくても上がらなかったのかな、という想像もできました。
 紙一重のレースだったとは思うんですが、結果としてマローニーが15位、ディグラッシは17位と定位置で終わってしまいましたから、パワートレインの性能だけでなくチーム力全体としてまだまだ改善点が多くありそうです。いつも書きますけどエナジー管理が上手い、だけがレースじゃなくて単純に自動車が機能として速い、という自動車の競争に当たり前の部分がちゃんと備わってないと結果は出ないんですよね。ディグラッシも一生懸命協力したであろうGen4車両がどんな競争力なのか、期待半分怖さ半分です。
 そしてこういう上げ下げのある人がスルッと出てきて他の人の作戦に絡んできたときに、それを相手にするのか、利用するのか、無視するのか、というとっさの判断がまたレース結果に響いてくることも多いので、本当にこのレースは走る頭脳ゲームだと思います。

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