SUPER GT 開幕戦 岡山

2026 AUTOBACS SUPER GT Round1 OKAYAMA GT 300km RACE
岡山国際サーキット 3.702km×82Laps=303.564km
GT500 class winner:au TOM'S GR Supra 坪井 翔/山下 健太
(TGR TEAM au TOM'S/Toyota GR Supra GT500)
GT300 class winner:D'station Vantage GT3 藤井 誠暢/Charlie Fagg
(D'station Racing/Aston Martin Vantage GT3 EVO)

 2026年のオートバックス SUPER GT選手権が始まりました。今季も全8戦の予定でしたが、第3戦で予定していたマレーシア・セパンのレースが延期という名の中止に。アメリカとイスラエルによるイランへの軍事攻撃に伴う石油資源不足が引き金となって輸送から何から問題が山積し、そもそも燃料が足りなくなるかもしれない状況で燃料を無駄遣いするイベントを行うのは『自主規制した方が良い』という現地側興行主の意向により双方の協議で予定通りには開催しないことが決まりました。
 ちなみに中東の石油資源への依存度が相対的に高いとされるアジア諸国ですが、マレーシアは東南アジアで唯一OPECプラスに加盟する産油国でとりわけ天然ガスは自給率が高く、エネルギー自給率という数字だけで見るとアジアの中では比較的資源を持っている輸出国でもあります。その代表的な企業がペトロナスですね。ただ原油高で利益は上がる一方で、生産・輸出するのは軽質油が中心でペトロナスは国内よりも輸出を優先。国内は中質・重質油を中東から輸入して国内で精製するので、結局マレーシア国内は原油高が物価上昇に繋がります。そのため政府は補助金で価格を引き下げつつも、それだけでは財政が厳しくなるので省資源を呼びかける状況です。

 マレーシアに行かないなら日程としたらガッツリ空いている期間ではあるんですが、マレーシアが中止になった要因がこういう状況で日本でも今後どうなるか分からないのに、代替レースを増やすと『日本のモータースポーツ業界が何を考えているのかと捉えられても困る』ということで代替開催はしないことになりました。
 現実問題として急激な原油高、円安、物資の高騰で各チームの運営費用も想定予算からするとかなり高いものになっている可能性がありますから、1戦減らすことでチームの財政負担を軽減するという意図は大いにあるでしょう。でも5月のレースを終えると丸3か月もレースが開催されないので、興行としてどうなのかという思いはあります。それにしてもセパンのレースって

2002年にシリーズ戦として初開催→翌年SARS-CoV感染拡大で中止(2004年~2013年開催)
2020年から3年契約での開催を発表→2020年SARS-CoV-2感染拡大により中止
2025年に改めて復活開催→翌年イラン情勢により延期

 やるたびに何か起きるんですよね・・・

・2026年の変更点

 今年の変更点ですが、まずシリーズ全体としては燃料が変わりました。GT500クラスで2023年から、GT300も翌年から導入されたハルターマン カーレスの合成燃料・ETS レーシング フュールを使用せず、GT500はエネオス製国内映像のエタノール10%配合燃料・E10を使用。多様なエンジンが使用されるGT300はいきなり使うと有利不利が出てしまったら困るので、とりあえず従来のサーキット内給油所で調達するハイオク燃料に逆戻りした上で来年以降の導入に向けて検討を続けることになりました。なおエネオスは合成燃料も取り組んでいますがまだ実証試験段階です。

 そしてGT500クラス、空力開発解禁年次ということでホンダがシビック TYPE R-GTからプレリュード-GTに車両を変更した、というのは分かりやすい変更点ですがエンジン規則の変更もあり、エンジンの年間使用基数が従来の2基から1基に減らされました。当然ながら長寿命化が求められるわけですが、最大燃料流量の基本値も従来の95kg/hから90.2kg/hへと引き下げられて負担逓減がなされています。昨年までで言ういわゆる燃リス2段階縮小に相当するものです。

 で、既に2段階下げた状態から始まるのでシーズン中のサクセスウエイトとして課すことができる下げ余地が88.0kg/hへの1段階しか残っていません。これ以上下げると直線でGT300との差が無くなりすぎてマジで抜けない可能性が出てくるからです。かといって安全面の問題もあってバラストを大量に積むこともできないため、昨年GT300クラスで急に登場した給油速度に制限を課すけっこう強引なハンディキャップ『サクセス給油リストリクター』がGT500でも導入されることになりました。

 これらの変更点から、実は今シーズンはけっこうエンジンが重要であることが分かります。従来からエンジン性能として『燃リスが入った時にいかに出力を落とさないか』というのは開発課題にありました。それが今年はもう最初から従来の希薄燃焼領域が基準になるわけですから希薄燃焼での燃焼効率が問われます。95kg/h状態での開発競争はさすがに頭打ちになってきてもいたので、メーカーとすると新しい課題を与えてもらった、とも言えます。
 ところが年間1基しかエンジンは使えませんから、従来のようにシーズン後半に『スペック2』を入れることは基本的にできません。流量制限で負担は軽減され、しかも年間7戦で高温のセパンが消えましたから当初予定より運用として楽になったとはいえいつも常に全力全開では走れないので、レースの中で無理にエンジンを回しすぎない、あるいは極端な話『今日のレースはエンジンを温存してもう諦めよう』ということも無いとは言えません。いずれにせよ自分たちのエンジンがどのぐらいの耐久性を持っているのか的確に把握していないと性能を使い切れませんから、ここもエンジン屋さんの技量が問われます。
 さらに燃料も変わっているわけで、昨年までの合成燃料は大雑把に言えば揮発しにくくてガソリンよりも高温で運用する必要があるとされていました。言い換えれば冷却性能が従来ほど必要なくなったわけです。E10だと従来のガソリンに近いので再び運用温度は低下しますから、これに合わせたエンジンの最適化や冷却系統の取り回しなどに影響が出ます。空力開発の一環としてこのあたりもいじられていると思います。
 とりわけホンダに関しては車両が変わっていますが、シビックでは大きなエンジン室容積と高温運用するエンジンを活かして、従来の概念を覆す特殊な冷却系の配置を行っていました。プレリュードでも思想はそのままと思われますが、ややエンジン室の体積は小さくなり冷却要件は厳しくなってますから、とりわけ夏場のレースでどう力を発揮するのかはちょっと注目かなと思います。まあ見たってわかんないですけど(笑)あ、ちなみにプレリュードは富士のテストでフロントのHマークあたりが高速走行中に凹む現象が確認されており、軽く作りすぎて変形したのか、意図的に曲げて可変空力装置にしようとしてるのか、ちょっと注目されてるらしいです。

 そしてサクセス給油リストリクターも悩みの種。従来はサクセスウエイトを積むと流量制限が厳しくなっていってコース上で遅くなる一方、燃料を使いたくても使えないから燃費は強制的に改善しており、集団の中にいればピット作業後に意外と順位を上げたり、多くの陣営がいわゆる『ミニマム作戦』で燃費走行するとレース後半は出力が落ちた弱点が薄められてそこそこ戦えることがありました。それが一転して『コース上の速さは大して変わらんけど給油が間違いなく遅い』になりますので、いくら燃費走行しても給油速度制限のない陣営より短時間でピットを出るのはほぼ不可能。じゃあもっと徹底的にケチるのか、もういっそかっ飛ばして抜きにかかるのか、という戦略の転換も求められます。
 
 もちろん今年はタイヤ競争がある最後のシーズンでもあるわけですが、今年の変化は単にプレリュードが出てくるだけじゃないぞ、というのを頭の片隅に入れておくと3%増しぐらいで面白く見られるかなと思います。

・GT500

 というわけで始まった開幕戦でしたが、GT500は最初から最後まで2強対決でした。予選 Q1ではau TOM'S GR Supra・山下 健太が最速を記録して『ああやっぱり今年もauトムスね』と思わされますが、Q2ではKeePer CERUMO GR Supra・大湯 都史樹が1分17秒352を記録。auトムス・坪井 翔はこれに0.065秒届かずキーパーセルモがポール ポジションを手にしました。
 大湯のチームメイトは大型新人・我らがtokari71、もとい小林 利徠斗ですが、予選後の表情はなんというか『いやあ、僕は大湯さんの作った車で走らせていただいて、山下さんより0.4秒も遅かったですし、何もしてないですよ』みたいな表情。まあ優勝しても同じ表情なので『顔に出ない柏田さん』みたいな選手ですけど(笑)

 決勝は路面温度が39℃と表示されていてこの季節としてはかなりの高温、タイヤが想定温度範囲に収まっていない陣営がいても不思議ではありません。そんな中でも決勝の前半はキーパーセルモ・大湯とauトムス・山下のほぼ2強という状況で盤石。純粋な速さだとちょっとだけ大湯のほうが速そうな気もするけど、でもヤマケンが最初から後半勝負を考えて燃料をケチってるだけかもしれないし、ここは多分現場でも腹の探り合いでしょう。

 大湯とヤマケンの差は1秒〜3秒を行ったり来たりという感じで決着がつきそうになくピット サイクルへ。29周目あたりからドライバー交代する陣営も出てくる中で、トムスはある程度引っ張って32周目にピットに入り坪井に交代しました。ここで中継映像もRACING LABO SUPER GT+KYOJOもさらっと流してましたが、トムスは後輪交換と給油を終えた段階でまだ22秒しか経過していませんでした。これ、むちゃくちゃ早い時間だったんですけど左前輪の交換に手間取って4〜5秒失ってしまい、J SPORTS計測で作業時間31.4秒。ちょうど中継だとそのミスった瞬間に別のカメラに切り替わってたというのもありまが、けっこう大きな損失です。
 トムスが動いたのでセルモはセオリー通り翌周にピットに入り大湯からルーキー小林に交代。こちらは引いた映像しかないので正確ではないですが後輪+給油で26秒ほどかかり、前輪も交換し終えたJスポ計測で静止時間32.3秒。表面上は1秒ほどトムスが早いだけですが本来なら5〜6秒の差ができているはずでセルモ的には命拾いに近かったと推測します。逆から言えばミスってなおライバルより早かったトムスのピット作業&ヤマケンの燃費おそるべし。

 いつもの寒々とした岡山だったらもっと恐怖の時間になってたかもしれないアウト ラップですが今日は暖かいので小林は無事に乗り切って実質1位を維持、ただ面倒なことにこの間にDeloitte TOM'S GR Supra・笹原 右京に抜かれてしまいました。デロイトトムスは予選後のエンジン交換により5秒停止のペナルティーを受けていたため完全に勝負圏外でしたが、それがためにピットを終えた車両と位置関係がピッタリ。リードラップ車両なので譲る義務もなく、タイヤに熱が入った小林からするとあんまり大きい声では言いたくないけどどいてほしい案件です。

 ただでさえGT300を抜きながら走るのは新人さんにとって大変なのに、気を使う先輩がおっそいペースで前を走っていて、しかも後ろから追いかけてくるのはそのチームメイトで3連覇中のチャンピオンなんだからその難易度はもやは魔界村やドラゴンズレア級。37周目のアトウッド立ち上がりで坪井に完全に合わせられると、さらにヘアピンに向けて目の前に並走したGT300が2台いるという訳のわからん状況。嫌がらせみたいな状況で坪井が小林をかわし、一旦前に出たチャンピオンをもう小林は追いかけることができませんでした。

 そのまま坪井が終わってみれば19.6秒の大差でauトムスGRスープラが優勝、これで坪井/山下は岡山で3年連続優勝です。トムスは2023年もタイヤ交換で脱輪してなければ勝ってましたから実質岡山で4年間も無双してます。キーパーセルモが2位、そして3位にはスタートで順位を上げて序盤にはヤマケンを追い立てる場面も見られたTRS IMPUL with SDG Z・平峰 一貴/ベルトラン バゲットが入りました。

 トムスは後半になって新人さんが相手になればそこで抜ける機会があるだろうから大湯相手には必要以上にムキにならない、という考えをある程度想定していたように見えました。3秒差程度でピットサイクルまで辿り着いたらひっくり返すだろうな、とは私も見ていて考えていたので本当にその通りになって見事としか言いようがないですね。
 一方敗れたセルモ、レース後の小林はというと予選後と同様の『いやあ、大湯さんが速かったからその貯金で2位になっただけで、僕は足を引っ張って優勝できなかっただけです。セカンドが僕じゃなかったら勝ってますよ。』みたいな感じの表情。でも個人的には、あの坪井に抜かれた場面にこそ彼の視野の広さや心意気があるのではないかと感じました。というのも、抜かれた場面ではまず左に坪井がいて、左前方にはGT300が2台いました。しかも1台はGT300で実質1位のヴァンテージ。
ああ!幅の広そうなGT3が2台も!
あと笹原さん邪魔!

 そして小林は右に動いて抜かれるわけですが、もし自分だけ1台分動いて坪井がヴァンテージに引っかかるように仕向けるか、極端な話動かずに直進して2人とも揃って300に詰まるかしていれば抜かれずに済んでいた可能性が結構ありました。ひょっとしたらあまりのややこしい状態でパニクったのかもしれませんが、そういう動きは相手を壁に追いやっているのと似たものがあるので、利徠斗君はそういうやり方を本能的に好まず選択肢に入れなかったのではないか、とも感じました。相手が坪井なら心配ないでしょうが、場面や状況次第ではそういう動きは大事故を生む危険性もあり、意図はどうあれ彼は最も安全な走りを実行しました。
 その先で坪井3冠に抜かれるわけですが、小林はサッとスロットルを戻して先に引いています。これ、デビュー戦でGT500優勝がかかった20歳そこそこの若い選手にはなかなかできないんじゃないかと思います。あそこで無理に張り合ったり中途半端に進路を変えたりしていたらトヨタの同士討ちや無関係のGT300を巻き添えにした多重事故の危険性もありましたが、彼はこれも自らの判断で安全に処理したと私には見えました。
 いずれも人によっては「勝負に甘い」「そんなぬるい考え方で勝てる世界ではない」というような見方をされるかもしれません。まあ確かにF1を目指してガツガツやるのならそういう態度を取れるぐらいのヤツでないと務まらないのかもしれませんが、長くこの世界で戦って評価され信頼される選手であろうと思うときに、目先の争いだけではなく相手への敬意、他クラスへの目配り、大袈裟に言えばシリーズ全体を見られる視野の広さって重要だと思います。トヨタの選手としてWECを考えるならなおさらそういう視野の広さは必要になる能力です。
 実際はとっ散らかってただけで全然そんな意図はただの1ミリメートルも存在しなかったかもしれませんが、少なくとも私は長いことGTを見てきて若手、特に新人選手が初めて上位を争ってこういう動きをして印象に残った、ということは記憶にないので非常に抜かれたことで印象に残りました。大きな失敗もなくきちんと帰ってきたんだから初レースとしては満点と言っても良い気がします。彼とすれば自分が原因で負けたという以外の何ものでもないかもしれませんが、そもそもトムスがタイヤ交換で失敗してなかったら彼が乗ろうがフェルスタッペンが乗ろうが高森博士が乗ろうがアウトラップに簡単に抜かれてたと思いますし。
 それとまあ、GT500は基本どこも1チーム1台の中で2台体制なのは現状トムスとARTA無限だけで、そのうちのトムスが優勝争いする中で、どう考えても勝負権が無いペナルティーを受けた車両が前にいて優勝争いに絡んで、もちろん直後にさっと譲って僚友を前に出した、というのは規則的には問題なくてもお客さんを楽しませるレースとしてさすがにどうなの?というのはありました。同じサイクルの中で1位3位の関係なら全然問題ないですし、これが参戦して一度も勝ってないチームの必死の抵抗ならまだ分かりますが彼らはチャンピオンチーム。予定よりちょっと早いけどピットに呼んで車をどける、ぐらいの懐の広さは見せて欲しかったなあと思って、批判というより単にファンとしてちょっと残念に思ってしまいました。

 
 トヨタの話はそのぐらいにして、GT500赤字メーカークラス()で優勝したのはインパルでした。7位スタートからバゲットがたった7周で3位になってそのまま走り抜いたのは驚きました。タイヤの発動が明らかに周囲よりも早かったのでどっかで温度が上がりすぎて蓋になるんだろうと思っていたらそんなこともなく、後半のタイヤ選択まできちんと全部ハマっての結果ですから正直チームとしての仕事は90点以上、レースだけに関して言えば120点ぐらいだったと思います。唯一の問題はトムスとセルモが速すぎたことです。

 ちょっと興味深いのは、MOTUL Nittera Z・千代 勝正/高星 明誠は8位で、レース後の情報でタイヤ選択を見誤ったと話しています。ところがインパルの平峰はタイヤ選択について日産陣営全体に大差なかったとした上で、セッティングや乗り方・使い方の違いじゃないか、と説明。ニスモの監督になった松田 次生は低温を読んだタイヤ選択でダメだったとしているのでこの状況ならさもありなん、という内容ですが、インパルも同じように低温用の柔らかいタイヤだったけど足を動かして上手く管理したのか、実は全然違うタイヤだったのか、知る由は無いですがちょっと興味深い話です。

 そしてプレリュードGTですが、結果としては#16 ARTA MUGEN HRC PRELUDE-GT・野尻 智紀/佐藤 蓮の6位が最上位でした。予選3位だったAstemo HRC PRELUDE-GT・塚越 広大/野村 勇斗は決勝で10位まで転落、特に塚越が担当した後半にタイヤのピックアップがあった、ということで車両が変わってもGT500のホンダ病とでも言うべき扱いにくさが顔を出した印象です。開幕前のテストの段階で『マイク ナイト コーナー〜最終コーナーで車がよく跳ねる』とGT+でも言われてたんですが、予選では#8 ARTA MUGEN HRC PRELUDE-GT・大津 弘樹がまさにマイクナイトで跳ねて制御不能になりクラッシュしていました。
こうなったら打つ手なし(っ ◠‿:;...,

 2000年代のNSXもやたらと跳ねてましたが、長い直線の後半で跳ねてたのに関してはポーポイジングだったというのを最近知りましたが、それは置いといてホンダあるある今から言うよ。ホンダの開発は基本姿勢として理論上で最大の性能になるところから取り掛かろうとするせいか、ハマったら速いけどハマらせるのが難しくて全然速く走れないこともある、という車になりがち。
 モノコックもサスペンションも何もかも共通の今の車でそんなに挙動に変化が出ることがむしろ驚きですが、エンジンの積極的な低重心化とか回頭性を重視した空力設計思想とかが車の前方での最終的な振動の出方に何かしら作用してるんだろうと想像。シビックの形状じゃなくなったから問題即解決!と言う簡単な話でないことはよーーーく分かりました。車載映像を見るとマイクナイトの内側の縁石に向かってちょっと路面が掘り下がってる部分でサスペンションが伸びて縮んだら、そこからグランツーリスモで変なセッティングした車みたいにどんどん増幅して跳ねたような動きでしたね。
 ホンダは従来どちらかというとHRCが「これ作ったで!あとよろしく!」と車を各チームに渡すトップダウン的な組織図だったものを、この車から開発体制として各チームからの意見を吸い上げながら開発し、完成後も横断的に情報共有するボトムアップ的な体制に再構築したとされています。これ、トヨタでは2014年のRC Fであんまり上手くいかなかった反省から2017年のLC500開発に際して行った組織再編と同じ方向性で、その思想がLC500のいきなりの活躍、そしてGRスープラ導入以降の圧倒的強さにも繋がったのではないかと考えられています。今さら感はありますがHRCはまさにこの体制を活かして底上げを早期に期待したいところですね。何せ車もエンジンももういじれないからできるのは緻密なセッティングだけです。

 それと冒頭に燃料流量の話を書きましたが、昨年までのレースでもトヨタ RI4BGが元々流量が減らされた状態での『落ち幅』が少ない印象がありますので、たぶん今年もエンジンだけでトヨタには結構な優位性があるんじゃないかと思います。今年も結局GRスープラ無双になったとしても、正直そんなに驚かないですかね。予想を裏切ってくれることを願いますが。


・GT300

 GT300も今季は分かりにくい部分ですが変更があります。まずグループ GT3車両についてBoPに新たに『最低ウイング角度』というのが設定されて、リア ウイングを指定値よりも低く寝かせることができなくなりました。車両の最高速に影響する部分は吸気リストリクターやターボ過給圧で調整するのが従来の概念でしたが、GT300 BoP値の基準となるSRO管轄のレースでこの調整法が行われるようになったらしく、ウイングも対象にしてさらに均衡化を狙っている模様。SUPER GTもSROに倣います。
 また最低地上高はGT3の全車両が50mmで統一されました。調べてみると2022年以降に型式認証されたグループGT3車両は最低地上高が50mmになるように予め規定されているようで、これを受けてSROでは既に全車種の最低地上高50mmルールが設けられていたのでこれまたSUPER GTも従った格好です。(と言ってもマスタングGT3は車体形状があんまり空力性能の良いものでないせいか、特例で40mmまで認めて調整されているらしい。)

 ただ、見てる側にはぶっちゃけ車高のルールはそもそも情報不足。SUPER GT公式サイトでBoPの表記上では最低地上高は フロント/リア の表記で、たとえば296 GT3 Evoだと 80mm/83mm とか書いてあります。『あれ?50mmじゃない?』とか思うんですが、おそらく実際は フロント/リア/グラウンド クリアランス という3つの基準で規定され、3つ目のGCの部分が全車50mmになっていて省略されてると思われます。前後の数値は各車両ごとに設定された計測箇所での数値ですかね。公表された内容では『FIA 国際モータースポーツ競技規則 付則J項 257A条 1200.1』が参照されており、この規定では

1200.1) 最低地上高 - 2022年1月1日以降に公認された車両およびEVO

 競技中常に、車両の最低地上高が50mm以上でなければならない。この測定は、ドライバーを乗車させた状態で、またはドライバーの体重に相当するバラストを積載した状態で実施される。タイヤ空気圧が1.5bar未満の場合は、テクニカルデリゲートは最低地上高チェックの前にタイヤを1.5barまで膨らませるよう指示することができる。
(JAF公式サイト掲載の日本語訳版から引用)

 とされています。この条文、2025年までは『最低地上高はタイヤ空気圧が1.5bar以上の際に50mm以上でなければならない』としか書かれていませんでした。F1の記事で書いた内燃機関の圧縮比と同じ話で走行中の地上高を実際に計測するにはよっぽどお金をかけるしかなく、GT3はスキッド ブロックを取り付けての車高管理ではないですから実際に『競技中常に』を守ったかは監視できないので走行中は沈み放題。そこで文言を修正し測定法にも少し条件を付け足してやりすぎに歯止めをかけたっぽいです。
 GT3のBoPについてSUPER GTは公式サイトでの公表値で地上高設定について昨年はたぶん非公表(省略?)となっていて、2024年以前もずっと前後の数字だけなので車両ごとの個別のグラウンドクリアランス値については非公表だったと思います。
 2022年以降の車両はそもそも車両公認の段階で規定の枷があるから影響は小さいんじゃないかと思いますが、旧式車両であるRC F GT3もGT-R NISMO GT3も前後車高の数字自体は以前から変わっておらず前後の値はけっこう高いものの、仮に元々荷重がかかった時に沈む前提のセットにしていたなら影響があるかもしれません。
 ちなみにRC Fのリア車高は280mmと書いてあって、ヴァンテージGT3 EVOの53mmやAMG GT3 EVOの87mm、GT-Rの165mmと比べても突出しています。フロントは90mmで911 GT3 EVOよりも低いぐらいなので妙な前傾の数字。RC Fのリア車高は計測地点がそもそも高いところに設けられているのか、巨大ディフューザーが車高を下げすぎるとすごいダウンフォースを生んでチート性能になるため規制されてるのか、この辺のGT3事情もぶっちゃけよく分かりません(笑)

 また、チート防止と言えば今季からカナードやウイングなどの空力付加物に対して全面ラッピングすることは禁止されました。カラーリングや宣伝だと言い張って、ラッピングの厚みや凹凸で空力的に僅かでも利益を得ようとすることが疑われる事象があることからSROで既に規制されていたようで、これまた海外事例に倣いました。空力部品で無い箇所でも疑わしいと判断されたら個別に規制も可能だそうです。
 こうしてGT3車両に色々と細かい注文が付いて大なり小なり性能にも影響が出てきますので、これに合わせる形でGTA-GT300車両のBoP値もまた微調整されたものとなります。GTA規定は昨年に前輪が小径化されて旋回力やタイヤ摩耗の面、もっと言えばそれに応じた車体設計から何からけっこう再構築という感じのシーズンでしたから、今季は昨年からどの程度開発で取り戻してきたのか、というのも重要でしょうか。


 そんな中のGT300開幕戦、結果としてはD'station Vantage GT3が数字以上の完勝という感じでした。予選ではQ1でチャーリー ファグの1分25秒431が全体最速、Q2の藤井 誠暢も1分25秒561でポールポジションを獲得。2位のHYPER WATER INGING GR86 GT・堤 優威を0.262秒も突き放しました。ただ私は決勝開始時点での高温を見るとヴァンテージはそのうち落ちてくるんじゃないかとだいぶ割り引いて考えていました。ダンロップは予想以上に暑そうだな、というレースで過去にもわりとタイヤの温度が上がりすぎたと見られる性能低下に直面して大渋滞を作る場面が多かったからです。


 決勝、Dステーションヴァンテージのスタートは藤井、インギングは初めてのフル参戦となる卜部 和久。苗字は『うらべ』で父親はセルモ/インギングのオーナーでトヨタカローラ山口の社長・卜部 治久。インギングはカローラ山口のディーラー系チームですね。和久君は14歳だった2019年にSUPER GTを観戦してセルモの優勝を見てモータースポーツを志したということで、ドライバーとしての活動は今時の若手選手と比べると少し遅い年齢です。
 順調にスタートしてリードを守る藤井、2番手の卜部が続きますが序盤から後ろにはapr LC500h GT・小山 美姫が張り付いて前よりもひたすら後ろとの争いになりました。予選を振り返ると予選Q1で小山はA組の2位、卜部はB組の5位でしたが単純なタイム比較で言えば0.1秒も差がないほぼ同じ数字。見た感じは単独で走ったら小山の方が少し速そうにも見えるんですが、卜部も藤井からそこまで離されることなくついて行っており十分に速い状態、小山は前に出たそうなんだけど決定打も卜部の取りこぼしもなくて延々とGR86を眺めることになりました。
・・・抜けない(´・ω・`)

 25周目、卜部は藤井から4秒ほど離されて後ろには未だにLC500hの巨体が控えます、するとaprはこの周に小山をピットに呼びました。事後情報だと『詰まったから早めに動いた』のではなく基本的には予定通りで、ただ卜部を抜いていたならペースは良かったはずだからもう少し引っ張るように変更できたかも、とのこと。後半を小高一斗に託します。小山はむちゃくちゃ悔しそうな顔をしていましたがお互い素晴らしくフェアなレースでしたし、卜部によるとブロックは最小限にしてとにかく損せず藤井を追いかける、抜かれたらしゃあない、ぐらいの思い切りで走ってたとのことで、なかなか肝の座った素晴らしい走りだったと思います。
 ただaprにとっては結果的に卜部を抜けなかったことが響きました。2周後にピットに入ったLEON PYRAMID AMG・蒲生 尚弥が2輪交換で前に出てきてしまい、小高は蒲生に引っかかって、これならたぶんピットに入らず卜部の後ろを走り続けた方がいくらか速く走れていました。LC500hは持っている本来の速さをなかなか見せられない展開が続きます。

 一方リーダーのDステーションは30周を終えたところでピットに入り藤井からファグへ。給油量が多いためかジャッキは上げずに先に25秒ほどの長い給油作業を行なってから4輪交換交換するGT300でわりとあるパターンの手順で作業し、41秒ほどかかりました。NASCARみたいな給油缶ではないですけどGTも基本は自然落下給油なのでちょっとでも高低差があった方が燃料が流れやすいとされています。またGT500ほど鍛え上げられたクルーで無いことも多いので、給油とタイヤ交換がうっかり重複してペナルティーを受けるような問題を避ける意図もあるかもしれません。
 そして実質2位のインギングは38周目まで引っ張って卜部から堤へ、こちらも給油してからタイヤ交換のパターンで静止時間37秒ほど。小高が延々と蒲生に引っかかっていたため実質2位のままコースに戻って蒲生さんありがとう状態です。小高はこの後44周目に蒲生を抜きますが堤とは10秒近い差になり、その堤も藤井とは10秒ほどの差になっていてここから先のレースはほぼ無風でした。Dステーションヴァンテージが昨年第4戦富士のスプリント戦で2レースとも勝って以来の優勝です。

 2位は7.325秒差でハイパーウォーターインギングGR86・堤/卜部、3位にapr LC500h・小高/小山でした。GT500との位置関係で3位以下が周回遅れ扱いですが、2位と3位は20秒ぐらいの差が開いていました。卜部は初表彰台、小山も初表彰台で女性ドライバーとしては2024年のリル ワドゥー以来史上3人目となります。結局GT300は予選と決勝で上位3台の顔ぶれが変わらなかったわけですがかなり珍しい事例と思われ、自力で記録を遡っていったところ2014年最終戦もてぎ以来約11年ぶりの記録ではないかと。他の事例をご存じの方がいらっしゃればぜひご一報を(笑)
 4位はグッドスマイル 初音ミク AMG・谷口 信輝/片岡 龍也、車両メンテナンスが長年のRSファインからキムインターナショナルという会社に変わったんですが初戦からきちんとまとめました。レオンAMG・蒲生 尚弥/菅波 冬悟は5位、6位はVenteny Lamborghini GT3・小暮 卓史/ダニール クビアトでした。まさかクビアトが日本で走ることになるとは思いませんでしたけど、とりあえず注目度が高いのでテレビには結構映りましたね。

 もったいなかったのはGreen Brave GR Supra GT・吉田 広樹/野中 誠太で、野中がスタート ラインを通過する前に車を抜いてしまったのでドライブスルーのペナルティー。作戦はお馴染みのタイヤ無交換で、仕方ないから53周目まで引っ張って吉田に繋ぎますが、合流した時点で1位から40秒ほど離れた6位。ここから古いタイヤで吉田がクビアトに抜かれたりしておおよそ55秒遅れでの8位でレースを終えました。ペナルティー1回分とその後の渋滞にはまって失う時間&タイヤ摩耗を考えると本来は3位~5位に入れそうでした。


 Dステーションレーシングは去年も岡山では速かったけど接触され、一昨年は持ってきたばっかりの車がそもそも予選で走れずビリスタート、この車では入賞すらしたことなかったわけですが今年は最高の滑り出し。藤井はレース後の優勝会見でタイヤについて

「決勝は試したことがなかったので、正直言うと不安の方が多かったんです。でも、終わってみたらものすごくポテンションルが高くて……。去年のタイヤだったら、このリザルトにはなっていないと思います。」

と話しており、乗ってる側としても不安はあったけどダンロップがものすごく良いタイヤを作ってくれたことに感謝感激という様子。同じダンロップでもファンの注目が高かったSUBARU BRZ R&D SPORT・井口 卓人/山内 英輝は予選からタイヤもセッティングもさっぱりでグリップ不足に苦しんで17位だったので、ダンロップ全体というよりも今回チームが選んだタイヤが条件と合致し、しかも絶対的な性能が昨年と比べて速さ・耐久性の両面ですごく良かったということになりそうです。というかBRZはGT3向けのタイヤと根本的に違うはずなのでこっちが特殊なんだと思いますけどね。
 たしかDステーションヴァンテージについて昨年の私は『サクセスウエイトが乗ってきた状態での戦いには慣れてないから後半戦に向けて影響が出るんじゃないか』的な予想をして、まああんまり良いことではなかったけど本当に第5戦以降は最終戦の4点しか獲れずに終わってしまいました。今年はその経験を1回経てますのでより強い走りを見せるんじゃないかと思いますが、まあまあ給油に時間を食うところに給油速度制限が乗っかって来るのでけっこう大変にはなりそうです。とりあえず富士でパンク祭りにならないことを祈りますが。
 全体的な車両やチームの競争力は特性の異なる富士も走ってみないとまだまだ分からないですが、インギングは今回の結果について昨年とはセッティングの考え方をガラッと変えたとレース後の堤選手が話していました。太いタイヤで前輪を使って曲げていた車を、小径化されて曲がりにくくなる中でもどうにか取り戻そうとしていたのが昨年。それを今年はテストで『後ろを使う』方向で解決策が見えてきて結果に繋がったとのこと。今年はインギングが強いんじゃないかとちょっとだけ思ったり。

 次戦はお馴染み大型連休の富士スピードウェイ・3時間レースですが、私は旅行に出かけているので視聴するのはだいぶ先になりそうです。

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