F1 第1戦〜第3戦 雑感とか圧縮比とか


 2026年のF1世界選手権が始まりました。今年はパワーユニットと車体規則、双方の規定が大きく変更されたことで大変革を迎えるため開幕前から大騒ぎ。また日本ではインターネット配信と有料テレビ放送の双方をフジテレビが独占したことで、フジは相当気合いの入った宣伝をしています。有料放送を宣伝するために一部のレースで地上波ダイジェストがありますが、これを情報サイトが「地上波放送が復活」みたいな書き方をするもんだから、地上波で全レースが放送されるかのような誤解をしてしまった方がいるようですけど。。。地上波はあくまで有料放送に加入してもらうためのいわば試食販売のようなものです。
 とりわけFODの実況であるサッシャが他社のラジオ番組などにも積極的に出演してF1を宣伝しまくっており、ただでさえいつ寝ているかわからないサッシャさんがもう1分たりとも寝ていないんじゃないかとちょっと心配になってきますが、「見始めるなら今!」と気合いが入りまくっています。この期間にサッシャさんにとっていかにF1が重要な存在であるのかがすごく良く分かりましたけど、マジで体気を付けてください。
 しかし大規模な規定変更初年度というのは初期には大規模チームが独走する結果を生むことが多く、宣伝を見て試しにFODと契約してみたら毎回大差のレースで拍子抜けしてしまった人も多いかもしれません。すいません、そういうものなんです。技術で先をいくチームは徐々に開発の伸び代が無くなり、追いかける側は模倣しながら追い上げていくので時間とともに追いついていき、規則の終盤になってくると大接戦になるというパターンは結構多いんですよ。ファンはそういう過程まで見て楽しんでることが多いです。

 今年の規定は電動モーターの出力を利用したかなり人為的な抜きつ抜かれつが発生するので『ヨーヨーゲーム』『マリオカート』とか批判もされてる様子。実際、抜きつ抜かれつがなぜ起きているか分かっている人間からすると『特に意味がない攻防だなあ』と冷めた目で見てしまう部分もあるんですが、新規の視聴者さんからすると(言い方は悪いけど)典型的レース映画にありがちな『ドライバーが歯を食いしばってアクセルを踏み込んだら加速して抜ける』を現実にやってるみたいに見えて興行としてすごく分かりやすく目立つ要素を演出しているとも言えます。
 ちょうどF1 R.A.Wにゲスト出演した堂本 光一が「映画F1やネットフリックスの特集番組から最近ファンになった人には抜きつ抜かれつが単純に面白いだろうけど、昔のファンからするとちょっと置き去りにされてる感じ」という趣旨の話を忌憚なくしていました。この番組を見てマジで堂本さんってF1好きなんだなとけっこう感心しましたけど、でもこういう争いが起きる一因はまだどのチームも最適解を見いだせていないという点にもあり、考え方が収れんするとどう転んでも何も起きない方向へと進んでいく可能性があるので、今だけしか見れない光景かもしれないし規則の真の面白さがまだ出ていないかもしれないので、私はまだ『自分も一緒になってこの規則の面白さ、難しさ、課題を勉強する』視点で観戦しようと思っています。

 ヨーヨーゲームの話だけでも記事1個分の容量を取りそうなのでとりあえずその話は横に置いといて、それ以外の部分で開幕から3戦の雑感です。

・当面はメルセデス無双?


 というわけで蓋を開けてみたら開幕前のテストから既にメルセデスが強いというのは明らかで、開幕戦オーストラリアでそれが覆されるわけもなくジョージ ラッセルが優勝。続く第2戦ではアンドレア キミ アントネッリが史上最年少でピレリ ポール ポジションを獲得して決勝もそのまま優勝。最年少優勝記録はさすがにマックス フェルスタッペンというチートが存在するので更新できないものの史上最年少ポール トゥー ウインとして名を刻み、そして表彰台で「キミ〜ライコネ〜ン」とおもくそ間違えられました(笑)

 山ほど観客が詰めかけた第3戦鈴鹿でもアントネッリはSC導入のタイミングが味方して連勝し、今度は史上最年少で選手権1位になるという新しい記録も樹立。先輩のラッセルからすると中国GPは予選で車にちょっとした不調、日本GPもちょっとした予選前のセッティング変更失敗とSC運の無さがあったのでしゃあない部分も多かったとはいえあまり良い気分ではないでしょう。ただ、長い目で見たらまだまだラッセルの方が上だと思うので、気づいたらそれなりの差になってるんじゃないかと思いますね。

 今のところなんとか対抗馬になりそうなのはフェラーリとマクラーレン。フェラーリは小型のタービンを使用しているという情報で、そのためスタートでの出足が非常に速く、また旋回性能に関してはメルセデスと同等かそれ以上に見えます。これも小型タービンに由来する扱いやすさや重心高の低さなんかが関係してるかもしれませんね。
 マクラーレンはメルセデスPU搭載であることと、ここ数年継続している技術陣の空力に対する深い知見が生かされて手堅い車にまとまっているんじゃないかと思うんですが、新規定になったことで久々に『ワークスではない』というデメリットが出ている印象です。規定の肝であるPUのエナジー管理についてメルセデスのワークスだけが一歩抜きん出たシミュレート能力を示しているようです。
 現行車両は昨年までのグラウンド エフェクト志向の車ではなくなりダウンフォースがだいぶ削られてしまっただけでも操縦安定性が大きく変わり、そこに急に立ち上がるMGU-Kからの電動アシストを受け止める必要があります。そんな中で、素人目ですがメルセデスの車は単にPU性能だけが優れているのではなく、車の動きを見ていても破綻が少なくて昨年の車の乗り味が可能な限り維持されているような印象を受けます。後ろがしっかりと踏ん張り、コーナーではベターっと張りつき、ドライバーが困らされるような様子が見られません。ひょっとしたら98%の力で走っても勝ててしまうからそもそも本当の限界まで攻めてないのかもしれませんけど。だとしたらライバルが追い上げてきてもまだ伸びしろを隠してることに・・・
 一方フェラーリは先ほども書いたようにコーナーでは強いし、特に低速コーナーは速そうなのでモナコとかシンガポールとかに連れて行ったら予選さえ良ければ勝てるかもしれませんが、SC開けのリスタートでスロットルを踏んだ瞬間に滑って離される、というような昨年までならまず起こらなかった挙動を示すことが結構多く、PU性能で負けている直線部分を取り返すために結構無理して走って、それでもなおメルセデスに追いつけない、という状況に見えます。マクラーレンは全体に少しずつメルセデスに劣ってる状態ですかね。
僚友しか対戦相手がいない感も・・・

 現状でメルセデスは開幕からの3戦、中国でのスプリントも含めた4回のスタートで全て失敗してる状態でここが唯一の弱点っぽく見えてますが、マクラーレンが普通にスタートできていてワークスがそうならない、というわけはないのでハードウェアの問題ではなくドライバー側の順応とかソフトウェア的な部分の課題にとどまるのではないかと思うので、そのうちこの弱点も消え失せてもはやレースは見る部分が壊滅しても不思議ではないでしょう(笑)

 フェラーリに関して朗報と言えそうなのはシャルル ルクレールに対してルイス ハミルトンがそれなりに同じレベルで走れている点。ハミルトンはガツンとブレーキを踏んでキュッと曲げるドライビング スタイルが、できるだけ車両姿勢を変えずに車速を維持して床下からのダウンフォースを最大化させて走らせるグラウンドエフェクト車両と合っていないのではないか?と言われていました。今年の車両は旧来の車両に近くなったのでハミルトンには朗報と事前に言われていましたが、現時点ではその予想が的を射たものであることを示唆しています。
 時々『現役ドライバーが全員同じ車に乗ったら誰が速いですか』的な質問があったりしますが、あれって理屈っぽくて夢のない話ですけど真面目に考察すると『それがどのような車で、どのようなタイヤを使用し、どんなコースをどういうレース条件で競うのか』で全然答えが変わってしまう、というのが現実だと私は思っています。去年のレッド ブル RB21に乗せたら多分フェルスタッペン以外全員が信じられないタイム差で負けると思いますし、NASCARクラフツマン トラック シリーズの車に乗せてシカゴ市街地を走らせたらセルヒオ ペレスなんかは案外活躍する一方で、フェルスタッペンがグダグダの可能性もあります。
 F1まで来る選手の実力差ってほんの僅か、数字にしたら0.1%とか0.3%とかいう程度しかなく、その差は車とドライバーの走らせ方による合う・合わないも多分に影響しています。これは言い訳とかそういう話ではなく、F1に来るまでに身につけた技術が車と合わなければ正直いきなり直すなんてのは、右手で食べてた箸を今日から左にしろと言われるレベルで困難です。下手したら左足で食べろ、ぐらいになる人すらいるでしょう。だから単純比較ってできないんですよね。これはぜひ知っておいていただきたい部分だと思います。

 それと、今季から化石資源由来ではなく何かしらの合成燃料を使用することが定められており、各PU製造者は契約する燃料企業と共同で作業を進めています。つまり、実際に舞台裏で行われてはいてもあまり耳にすることがなかった『燃料競争』がかなりの重要度で蘇っており、今のところあまりに色んな要素がありすぎるし『PU性能』の中に一括りにされてしまってもいるので陰には隠れてますが、燃料屋さんの開発力の差というのもそれなりに影響していると思われます。

・中団は今年も面白い

 中団ではメルセデスPUになってチーム名の名ばかり感が半端ないアルピーヌがピエール ガスリーの能力も相まって大健闘、ハースもチーム代表・小松 礼雄の的確な取り仕切りが引き続き機能しているようで、チームとして狙った位置を取る素晴らしい出足だと思います。それだけに第3戦でオリバー ベアマンが大クラッシュに見舞われたのは恐ろしかったですし残念でしたが、軽傷で済んでいるというのが救いです。あとなんとなくハース VF-26は見た目がカッコいい気がする(笑)

 アウディーは自社PUは初めてですが組織としてはザウバーからの継続ということでわりと堅実にまとめてきており、さすがに車がいきなり壊れる問題はありますが走れば入賞できる段階に既にいるのは素晴らしい成果だと思います。WECやらラリーレイドやらDTMやら、色んな種類の動力を作ってきた経験は役に立ってるでしょうかね。
 グラウンドエフェクト時代は最強だったレッドブルはRBPT フォードのPUになってもっと苦戦するかと思ってたら、ホンダ時代に得た技術をきっちりと活用することができているのか開幕からちゃんと走っていてこちらも半年前に私が勝手に想像していた姿より明らかに良くてビックリ。レーシング ブルズも含めてなかなか堅実です。たださすがにメルセデス、フェラーリの2強PUにはちょっとずつ不足しているのかなあという印象で、フェルスタッペンでも表彰台を争うところまでたどり着くのは簡単ではなさそう。
 また、去年はなんとか総合力で勝るマクラーレンに空力面で対抗するため、極端な話『このコースでこういう車両姿勢にして時速〇〇kmでこういう角度でこうやってコーナーに入った時だけマクラーレンより速く曲がれます!』みたいな車になってしまって、実際にそれを実現できる人間がフェルスタッペンしかいないのでむっちゃくちゃ使いにくい車になっていたと思いますが(よく『フェルスタッペン専用』と言われますが、『フェルスタッペンが好む車にした』のではなく『車両が要求する走り方を満たせる人間が世界でフェルスタッペン以外に存在しなかった』の方が近いと思います)、新規定で一旦チャラになったのでしばらくはチームメイトとの差は自然に埋まると思います。
 アイザック ハジャーにとっては有難い話で、逆にフェルスタッペンとすると性能の絶対値が下がった上にエナジー管理を求められるレース内容そのものがあまり楽しくないのでちょっとテンション下がり気味みたいですが、まあここから改善されたら自然とやる気が出てくるか、その前に移籍するでしょう。ジャンピエロ ランビアーズが先に移籍を決めちゃったみたいですけど^^;


・頑張れ下位勢

 一方で去年はすごく戦えていたウイリアムズが明らかに開発が遅れてしまってドベ争いになってアレクサンダー アルボンの才能が見殺しみたいになっており、アルボンの番狂わせをいつも楽しみにしていた私とすると残念な感じ。キャディラックが戦えないのはもうしゃあない状態です。
 しかし何より深刻なのはアストン マーティンで、PUから発生した振動が共振しているようで車両全体に伝播してバッテリーを筆頭にありとあらゆる部品を壊しまくり、挙げ句の果てに人間にも影響してステアリングを握る手がぶっ壊れるからレース距離を走れない、という聞いたことが無い状態に陥って当分はまともにレースできそうにありません。開幕戦では連続周回数に制限を設けていたものが、第3戦ではフェルナンド アロンソが完走できるところに来たので超速進歩とも言えそうですが、先はものすごく長そうです。

 この件に関してホンダがかなり責められていますが、そんなに簡単な話でもありません。PU単体の試験では何も起きなかったものが車両に乗せて実走したら振動が出た、ということで振動源そのものがPUであることはホンダも認めています。ただ、内燃機関が振動するのは当たり前の話で、それが車体と取り付けてから問題が生じている以上は『増幅させてる問題児』がどこかに潜んでいる可能性が極めて高く、ホンダだけで解決すべき話ではありません。
 実際にはおそらく内燃機関から発せられる内部からの振動と、路面からタイヤを通じて入力されてくる外部からの振動、双方がどこかで共振してたまたま異常な振動が出る周波数にハマってるんじゃないかと思いますが、かなり大掛かりな試験設備があればある程度車体搭載状態の振動を再現することも可能だそうです。ただしアストンマーティンのチーム側にはその設備が無いようで、ホンダは持ってるけど設備が日本にあるので試験をやろうと思ったら毎回時間とお金がかかります。
 これに加えて、アストンマーティンはAMR26の開発が既に進んでいる中でエイドリアン ニューエイを招聘して途中から開発陣に加わり、彼の考えを反映した車両を作り上げるためにかなり開発が後ずれしていたと思われます。既に開発が進んでいた車両向けに作りかけていたPU、変更された車体、それを丁寧に精査しようにも足りない時間。起こるべくして起こる問題だったとも言えますし、ホンダだけの責任とするのはちょっと無理があると思います。
 2015年のF1再参戦時のマクラーレンとホンダの関係、空力優先で作った車体におさまるようにPU作成を指示され、自信満々にやってみたは良いがかなり設計に無理があって壊れまくり、ホンダが責められまくった構図と似た状況です。たしかにあの頃に私はホンダがややF1について舐めている、相手、とりわけ他メーカーに対する経緯が足りていない発言があることを批判した一方で『マクラーレン側もホンダが仕事をしやすい環境になるよう努力していたのか疑問』と批判したと記憶していますが、下手をすればまた今回もお互いに『あっちが悪い』になりかねません。
 今回も、正直その場の短期的な発想で一貫性なくF1に出たり入ったりするホンダのやり方そのものは誉められたものではないですし、どこか『チャンピオンを獲れるぐらいの技術を手にしたからまあ1年ぐらい空白期間があったとしても、RBPTのメンテナンスはずっとやってたし大丈夫だろう』という油断もあったのではないかと感じる部分はあります。そしてお馴染みの『人を育てる』的なお題目は、自動車会社としては大事な部分かもしれないんですが目の前の競争だけで言えば最初からデメリットが多いです。一方で、やってみました、遅いです、結果出ません、という状況で即座に『失敗したこと』そのものを殊更に批判してやれ撤退しろだのなんだのと批判するのはちょっと違うと思います。
 これは本業の方での電気自動車事業でも同じ話なんですが、確かに結果としては大失敗です。でも会社として勝ち残るためには何か違うことをしていく必要があるわけで、攻めた結果として思った結果にならなかった、というのは何にでも起こることです。ロケット開発なんかも同じですが、1回の失敗で鬼の首を取ったように叩くことが常態化した社会では誰も挑戦したいと思わなくなり、そこには成功も技術革新も無いと思います。
 もちろん失敗した要因はなんだったのか、失敗しないための安全策はどうだったのか、もし失敗した場合どうするかのリスク管理は適切だったか、その方向に進むという決断に瑕疵はなかったか、そしてこれからどうするか、という検証と反省は必要ですし、場合によっては上に立つ人が責任を取ることも必要だと思いますが、それは『失敗すること自体が間違いである』ということとイコールではないはずです。

 これはアストンマーティン側も同じで、おそらくニューエイが後から入ってきたことと今回の問題にはある程度因果関係があると考えるのが妥当です。ただ、オーナーのローレンス ストロールはチャンピオンを獲る意気込みで金も設備も揃えて人材にも最高の存在を引っ張って来ることを選んだわけで、リスクを取ったと言えます。たしかサッシャさんが『4番バッターを並べた』みたいな表現をしてたと思いますが、みんなが大振りして打線がつながらず点にならない、というのもありがちな話です。
 ひょっとしたらニューエイを呼ばず従来の体制で作った車なら今年は確実に入賞できていたかもしれませんが、それがメルセデス、フェラーリを倒せるものになったかといえば、そうではなくいつも通り中団争いが限界かもしれません。

 ハースの小松さんは明らかにハースという組織の規模、狙える順位を明確にした上で、確実に7位あたりを取り、条件がはまればトップ3チームを喰い、幸運で年に1回ぐらいは何かあった時に表彰台もあるかも、じゃあ何かあった時そこにいられるような確実な体制にして、結果としてコンストラクターズで上位、それなりの分配金、という循環を作って従業員さんの仕事を確保し、チームとして持続的で安定したものを続けていこうと考えているのではないかと思います。だから極端なリスクを取りには行っていないはずです。
 ローレンスの場合、そもそも息子を乗せてあわよくば自分の息子が世界チャンピオンじゃ、というのが最初にあるのでその時点でちょっとダメなんですけど、それはさておきアストンマーティンもホンダもそれぞれリスクを承知で取り組んだはずで、その『結果』だけを単に批判するというのはまた違うんじゃないかと私は思います。チーム側は、じゃあニューエイの設計を信頼して突き進むのか、ああダメだもうこのジジイは時代遅れで現代の車は作れん、クビ、やっぱまずは確実に入賞できるチームになろう、と切り替えるのか、方向性は明確にしていく必要があるでしょうね。

 あと、今のところはどこが問題か分からなさすぎるので良いとも悪いとも言えないですが、燃料供給企業であるアラムコはFIA F3、F2、F1アカデミーで既に燃料を供給している実績があるとはいえ、F1という最高峰にして競争のある競技での開発実績には乏しいですから競争力に影響している可能性も考えられます。

・シグナルがおかしい?

 あと、開幕からの3戦で2度も明らかにスタート時の信号の動きが不自然でした。開幕戦では5つ目の赤が点灯した次の瞬間には消える不意打ちのような状態。YouTubeの毎秒50フレームの動画をコマ送りして1フレームぐらいの時間しかありませんでしたから5つ全て点灯していた時間は0.05秒も無かったと思います。さらに第3戦でも最初の2つの信号はコマ送りしてもどう考えても同時に点灯していました。
 鈴鹿の件はターン1側から見ている信号だけおかしくてドライバー側からはちゃんとしていたのかどうか、証拠となる映像が無いので事実関係を正確に確認はできなかったんですが(去年までのレースは観客席からの映像があったけど今年のが見当たらず)、少なくとも開幕戦の一瞬消灯はちょっとあり得ない早さでした。何か失敗したならちゃんと説明してほしいし、スタートで不確定要素を増やそうとしてるのなら新規則の最初のレースから明らかに余計な要素です。
 それでもみんな開幕戦でちゃんとスタートしてるんだから彼らの集中力、反射神経はとてつもないなと改めて感じましたが、だからといって自由にして良いものでもないでしょう。鈴鹿の件がドライバーからも同時点灯していたのなら、それも含めてなぜそうなったのかちゃんと説明していただきたいし、故意であれ不具合であれ今後は普通にしてほしいです。

・圧縮比問題をどう捉えるか

 さて開幕前から『メルセデスのPUはエンジンの最大圧縮比が規定上限の16:1を超える特殊な設計になっているのでは』という話が出てズルいのズルくないのと論争になりました。圧縮比の計測は常温状態で行うので加熱した走行状態では測りようが無く、だったら温度が上がっている実際の使用状況下では部品の膨張などで希望の形状を実現すれば、実際は規定以上の圧縮比をバレずに使えるだろう、という話です。

 どうもさらなる情報や推測によると、実際には熱膨張だけが要因ではなく燃焼室内に微細な穴をあけた『小部屋』のようなものが用意され、気筒内の容積としては空間が存在しているから数値上の圧縮比は16:1になっているものの、実際にエンジンを動かしたらそんな微細な空間には高速で運転されている状態で空気が出入りはできないので事実上閉鎖空間になって実効容積が小さくなり圧縮比が上がったのと同じ効果になっているのでは?とも囁かれています。
 とりあえず6月からは常温に加えて130℃でも計測することと、意図して圧縮比上限を破ろうとする設計を禁止する文言が追加されて抑止力にするようですが、これで話が丸く収まるのかどうかは不明です。そもそもこの測定方法の詳細がまだ不明のようですが、130℃というのはオイルの温度を指しており、またこの場合は圧縮比が16.7:1までの範囲が許容誤差として認められるようだとモータースポーツドットコムが伝えています。

 この圧縮比問題の件では違反をしてるメルセデスを追放しろというような意見のほか、ホンダが強かったからホンダ潰しのルールだ、ヨーロッパのレースだから日本は差別されている、運営とメルセデスが結託してホンダを追い出そうとしている、といった類の陰謀論レベルの言質すらみられます。
 正直この話は規則の文章をどう解釈するかというほとんど法律論レベルの話に見えるので合法性についての明確な白黒はつけにくい問題に思えるんですが、けっこう前提となる話に誤解も広がっている気がするので、考える前提条件として知っておいていただきたい部分というのをちょっと掘り下げてみようかと思います。

・発想はみんな知っているのでは

 とりあえず、金属部品が多く用いられている内燃機関を使用すれば熱膨張で寸法が意図しようがしまいが変化してしまい、運用中の実際の圧縮比は容易に測れないことぐらい技術者の方なら確実に理解していると思います。上記の情報通りであれば、130℃での測定条件で圧縮比が規則の16:1を超えたものが許容誤差として示されていることからも明らかだと思います。
 そして、F1公式動画の技術解説にもよく出てくるファンキーな見た目のビール好きジャーナリスト・サム コリンズがオートスポーツ誌に寄稿した記事によると、10年ほど前には既にメルセデスの技術者がこうした『圧縮比上限破り』の考えについて堂々と口にしていたそうで、熱膨張で規則以上の圧縮比を得る発想そのものは少なくとも関係者には周知の事実だったと思います。下手したら旧規定でも18:1以上の圧縮比をこっそり仕込んでたところがあったかもしれませんし、常温時に上限いっぱいで作っていたところは実際の使用中は意図せずそれを超えていたかもしれません。
コリンズさん

 規則の文言としては、技術規定 C5.4.3に

『エンジンのどのシリンダーも幾何学的圧縮比が16.0を超えることは許されない。この値を測定する手順は、各パワーユニットメーカーがガイダンス文書 FIA-F1-DOC-C042 に従って詳細に定め、周囲温度下で実施する。』

と書いてあります。周囲温度というのは常温のことですね。一方でもっと根本的な条文として技術規則 C1.5では

『フォーミュラ 1 車両は競技期間中、常にこれらの規則を完全に遵守しなければならない。』

と書いてあります。ここが文章を読む難しいところで、

・規則で示された検査方法において規定数値内であればそれは合法である

・検査手法はあくまで一要素に過ぎず、検査されていなくとも指定された数値は常時守られてこそ初めて合法である

 のどちらで読み取るかによって答えが真逆になります。ただ、業界のこれまでの慣例として考えるとみんな前者で捉えていることが多いと思います。分かりやすいのが車両重量で、みんなレース後に一生懸命タイヤカスを拾って帰ってくるのは万一にも規定以下の重量になっていたら困るから。チェッカード フラッグを受けたその瞬間には規定を下回っていても、拾ったゴミのおかげで車検場にたどり着くまでの間に車が重くなってくれたら車検する側はそれを証明することができないので違反にはなりません。圧縮比の話も基本的にこれと同じだと考えれば、解釈は前者になると思われます。
 というわけで一旦メルセデスの解釈の善悪は横に置くとして、こういう解釈による抜け穴というのはモータースポーツ界でまま存在することです。今回の騒動の発端はこの抜け穴を使おうとした組織から他所へ転職した技術者さんから漏れたのではないか、みたいな話と思われますが、『技術的にやろうとは思ってみたけどできなかった/まさかできるヤツがいるとは思わなかった/規則違反だと思って開発項目に入れていなかった』なら分かりますが、他陣営で『そんな手法があるなんて想像もしなかった』という人はたぶんいないと思います。RBPTフォードも同じことをやってるんじゃないかと言われていましたが、メルセデスほど望んだ結果が出なかったのかもしれませんね。

・規則が捻じ曲げられた?

 基本的にどのチームも自分たちが作ったものが規則に合致しているかはFIAに確認を取りながら進めています。特にPUなんてこっそり作って開幕戦でダメって言われたら下手すりゃ数か月間レースに出れませんからね。当然メルセデスもPUの合法性についてFIAに確認を取りながら進めていたとされています。ただここで厄介なのが先程の技術規定 C5.4.3で、実はここに書かれた『測定方法は常温』という文言は2025年10月16日発行の2026年技術規定 第14版になって初めて登場し、第13版までは無かったものでした。
 このことから『FIAとメルセデスは結託して規則を捻じ曲げ違法なものを合法化した』という読み取り方をする人もいると思いますが、私は違うんじゃないかと思います。そもそも旧PU規定で圧縮比が最大18と規定されたのは2017年からですが、旧規定を読んでも測定方法は圧縮比を規定した条文に書かれておらず、どこか別項に書いてるとも思えないので当時からずっと規則には測定方法が書かれていないと思われます。当時上限が設定されたのはメルセデスPUがあまりに独走状態になり、すでに彼らのシリンダー圧縮比は18かひょっとしたらそれ以上の高圧縮比になっているのではないか、とされていたのでこれ以上の独走に蓋をするためでした。
 おそらく当時メルセデス以外のメーカーはそこまでの数字にたどり着いてもいなかったのでなんとなく曖昧な規則でも誰も気に留めること無く進んでしまったんじゃないかと思いますが、上に書いたコリンズさんの話の通りなら当時からメルセデスは抜け穴を認識していたことになります。最終的にホンダは圧縮比18の領域にたどり着き、フェラーリも届いただろうけどルノーはそこまで行けなかったんじゃないかとも思いますね。わざわざ圧縮比上限を16に下げたのもお題目としては『新規参入を促すために技術的障壁を下げる』ということでしたから、開発したらすぐ誰でも届くような数字ではないと思われます。
 圧縮比が高いほどすんごい爆発力で異常燃焼も増加して、よほど緻密に制御・設計しないと壊れまくるので高圧縮はすごく難しい技術です。ホンダが『高速燃焼』と呼んだ技術、燃焼室内の燃料を可能な限り瞬時に、それも気筒内の隅々まで一気に燃えてくれる技術を探求した結果、単に点火プラグや副室プレ チャンバーを使うだけではなく、高圧縮で燃料自らが爆発してしまう、つまり異常燃焼を起こしてしまった状態を意のままに管理下に置くことで実現した、というイメージです。火種ではないところからも自発的に燃えるから一瞬で燃えつくすし無駄も無いんですが、ちゃんと制御しないとエンジンがたちまち壊れます。

 で、まあたぶんメルセデスは旧規定ではアイデアはあったけど実際にはやらなかった・出来なかったことを実際に取り組んだんだろうと思いますが、その過程でFIAに『検査方法書いてないけどこれはレース中も常に16を下回れって話じゃないよね?常温状態で置いてあるこいつの容積を計って圧縮比が16以下になってれば問題ないよね?』と念押しして、FIAもそれを追認した形でしょう。
 「いやいやお前、さっき『捻じ曲げたとは思わない』って言うたばっかりやろ、ダブスタ乙wwww」と思った方、もう少し待ってください。仮に規定をそのままで残していた場合でも、走行中の容積変化を検査する方法が存在しない以上はどっちみち取り締まる術がありません。確かに元の文言であればレース中のいかなる時も16:1を上回ってはならない、という意味で規則解釈が成立しますが、そのためにはレース中も16:1以下であることをFIAが責任をもって管理・取り締まる必要性に迫られます。
 でも実際はよっぽど高価なセンサーでも取り付けない限り走行中の測定は不可能でしょうから『レース中ずっと16:1を下回る』と解釈して運用した場合には、検査方法が無いのに規則だけある状態です。言い換えると、何かしら状況証拠だけで推察して罰する権限を持つことになるとも言え、規則を恣意的に運用して突然ある時だけお前は違反、あなたは特に証拠がないからセーフ、あ、お前アウト~、と権利の濫用すら起こりかねません。そういうわけにはいかないので意図的な走行中の規定超過は全部セーフにせざるを得ず、そうすると規則の文言が変わっていようがいまいが結局は『測定時だけ規定に合致してればセーフ』という現実は変わりません。

 冒頭でタイヤカスと重量の例を挙げましたが、レース中のある時点(この場合終盤の数周だけだが)では規定に反しているけどゴミを拾って重くしたから検査するときは大丈夫という状態で、これを『あー、引っ付けたタイヤカスを剥がして重量を図ったらたぶん軽いからあなた失格ね、正確には知らんけど』とはなりません。あくまで計測する時の数値が基準です。
 この考えに照らし合わせると、圧縮比も測れない走行中の条件での数値は測りようがないので諦めて計測条件を1つきちんと定めてしまう、というのは本意ではないかもしれないし規則の趣旨からすると明らかに逸脱したPUを残すことになるけど、恣意的運用ができない基準を定めるためにやむを得ない措置だった、と考える方が妥当ではないかと私は思います。
 上にも書きましたが、FIAの新たな計測基準ですら加熱時には一定の許容範囲として圧縮比の向上を認めた内容になっています。まさか本当に「いや!レース中は常に16:1であるべきだ!うちはそう思って膨張時に対応するため静止時には15.3:1の設計にしたんだ!」という陣営があったとしたら順法精神は素晴らしいですけど、たぶんみんなそうは解釈していないのでそのPUは最初から勝負に負けていますし、どこかで1回FIAに確認したらグレー ゾーンであることは分かるでしょうから、たぶん実際にそんな順法メーカーは無いはずです。
 仮に測定方法が無い規則文言のままメルセデスを『違法PUだ!』と提訴したとしても、自分たちのPUも走行中は故意では無くても規定を超えており、故意と不可抗力の区別ができない以上は全部アウトとするしかありません。文言が無かったらなかったで結局は困ったことになりますから、測定方法の文言をメルセデス優遇とするのは話がズレていると私は思いました。
 
 メルセデスの考えを合法とするか違法とするかは人それぞれで明確な答えは出しにくいと思いますし、FIAがあえて抜け道を残してこういう競争をさせたかったのか、マジで大失態だったのか真意も分かりませんが、とりあえずこうした前提条件は頭に入れた上で考えていただければと思います。個人的にはタイヤカスの問題と具体的な切り分けができない、という時点で少なくとも開発期間~開幕の時点でこのPUは合法としか言いようがないし、本当に利益を得るほど精密に設計・制御できてるんならそれはそれで大したもんだと思いますね。


 アメリカとイスラエルによるイランへの軍事侵略の影響で4月のレースが無くなり、各陣営は車体やソフトウェア面に関してはある程度落ち着いて開発できる時間が確保できました。一方で作ったものを試す場が無いので机上の計算がいかに現物と一致するか、という能力を問われることにもなり、この1ヶ月の期間は今シーズンのみならず来年の序盤戦に向けても影響のある期間ではないかと思います。PU側も遅いメーカーを救済する制度があるので、みんな注ぎ込むための弾は用意してるでしょうね、でも予算には限りがある・・・

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