あまりに忙しくて12月25日あたりにとうとう体調を崩してしまいご無沙汰しております。仕事も終わってようやく回復してきました。さて、NASCARの来年のドライバー一覧とか休みのうちに書くか、と思ったところで大変悲しい報せが届いたため、普段はあんまりこういう単独記事は書かないんですがこれまでの記事内容とも関連してくるために取り扱うことにしました。
12月28日18時ごろ、デニー ハムリンの両親が住む住宅で火災が発生。この家に住むデニス ハムリンとメアリー ルー ハムリンはいずれも消防が現場に到着した時点で既に住宅の外へ脱出していたものの避難の過程で重傷を負い、このうちデニスさんが翌日に亡くなったことが発表されました。75歳でした。妻のメアリールーさんも重篤な状態で治療を受けていると伝えられています。火災の原因は現在調査中ですが、現地消防の伝えた画像や消防士の話では火の手は屋根裏まで伝わって激しく燃えており、最終的にほとんど家の跡形がないほどに焼け落ちている様子です。
NASCAR公式サイトなどによると、デニスさんはグレイト デイン トレイラーズというトレイラーの車体などを製造する企業のマネージャーとして働き、その経験を活かしてチェスターフィールド トレイラー アンド ヒッチというトラックの部品などを製造販売する企業を設立。7歳で初めてカートに乗った息子・デニーに才能を感じ、会社の仕事の相棒として行動をともにしながら会社の利益でレース活動を支援していました。ハムリンは2011年に受けた取材で
「高校生の頃は工場で週40時間は働いてましたね。」
「本来ならもっと勉強すべきだったのに全然集中できませんでしたよ。でも目標がありましたから。それに大学に行くお金もなかったですしね。もしレースで成功できなかったらトレイラー ショップで働くつもりでしたよ。」
と語っているようです。しかしレースの舞台が大きくなれば費用をこれだけで賄うのは難しくなり、デニスさんは家や自動車などを売却してなんとか家計をやり繰り。父の惜しみない支援を受けたデニーはレースで結果を出し、これがやがてジョー ギブス レーシングの目に留まったことでその後の彼の記録にも記憶にも残るレース人生へと繋がりました。デニーにとって父親は何よりも特別な存在です。
これは全くの偶然ですが、ハムリンと言えば長年にわたってフェデックスの紫/白のスキームが特徴でした。時代とともに参戦費用が高騰して大規模チームの有力選手ですら複数のスポンサーで回すのが当然の時代にあっても、フェデックスは1社支援体制を長く続けていたのでハムリンはほぼ1年間同じ色合いの車で走っていました。実はデニスさんが支援して1997年にハムリンが最初に使ったミニ ストックと呼ばれる車両も実は紫/白でした。ハムリンは2018年のダーリントンで当時の車両を想起するスキームを採用しています。父子の物語は不思議な縁で繋がっていました。
ちなみにこの色に決めたのはハムリンによれば、車を壊すだろうからできるだけ簡単な色にしたくて、その中で塗装を担当してくれる父の友人の方が持ってきた紫を気に入ったから、というものでした。そこにおしゃれにオレンジの線を1本入れたそうです。このスロウバック、ロゴのフォントも含めて非常に出来映えが良くて完璧なレプリカだと当時のハムリンは絶賛していました。
2025年のシーズン中盤、ハムリンはプレイオフ第2戦・ゲートウェイでのレース後の優勝インタビューで「父が体調を崩しているんです。」と口にすると、チャンピオンを争う最終戦の予選後には「これが父にこの瞬間を見せられる本当に最後の機会だと思います。父がこの世を去って、この瞬間を2度と見られないなんてことには本当になりたくないんです。」とかなり差し迫った状況であることが語られ、そしてチャンピオンがほぼ確実になったレース終盤の不運以外の何ものでもないコーションが原因でチャンピオンを逃すと放心状態になっていました。
その後も23XI レーシングの裁判への証人としての出廷もあっておそらくなかなかご両親との時間を落ち着いて取る機会も限られていたんじゃないかと思いますが、それも和解で終結してようやく一区切りという矢先の出来事でした。当然ながら現時点でデニーを含めご家族からこの件についての何らかの声は届けられていません。聞けるわけがないです。謹んでお悔やみ申し上げるとともに、メアリールーさんの回復をお祈りいたします。
NASCAR界ではこの火災の僅か10日前、カップ シリーズ通算19勝のグレッグ ビッフルと家族を含む同乗者全員が飛行機の墜落事故により亡くなったという悲しい報せがあったばかりでした。ブラッド ケゼロウスキーがスキーで足を骨折した、という話が本来なら大きく取り上げられてもおかしくありませんが、今のNASCAR界においては『生きていてくれればそれで良い』という言葉より説得力のあるものは無いなと思いました。
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