F1 第23戦 カタール

Formula 1 Qatar Airways Qatar Grand Prix
Lusail International Circuit 5.419km×57Laps(-0.272km)=308.611km
Max Verstappen(Oracle Red Bull Racing/Red Bull Racing RB21-Honda RBPT)

 車検場での戦いが熱かったラスベガスから1週間、とんでもない距離を移動してF1第23戦はカタールです。ノリスは現在24点差でドライバー選手権1位、この週末にこれを26以上に拡大できれば最終戦を待たずしてチャンピオンを決めることができます。そして今年最後のスプリント制度でもありまさに天下分け目という感じ。ノリスからすればここで決められなくてもそれなりの差で最終戦に進めれば、というところでしょうか。あっさり決まったらお客さんも運営もがっかりでしょうしからほどほどの差が良いですね(笑)

・タイヤ特別ルール発動!

 そんな重要な役割を担うことになったルサイル インターナショナル サーキット、右に左に高速コーナーが連続して縁石ノリノリのレイアウトですが、特に左前輪に過大な負荷がかかります。まあそもそもここは2輪車向けにできたようなサーキットなのでこんな速い4輪車が走ることがあまり想定されておらず、そしてピレリのタイヤもそんな特殊な条件を担うのはちょっと難易度が高い模様。
 昨年のレース後のタイヤを分析した結果から『1ストップでレースさせるとタイヤがぶっ壊れそうでヤバい』という結論に至ったそうで、今週末は全てのタイヤについて最大走行周回数を25周まで、とする特別な制限が付きました。カタールは2年前にも『縁石の形状がタイヤに与える影響がヤバい』という理由から急きょ制限が設けられており『ああまたそのパターンですか』という感じです。決勝は57周あるのでレースが何らかの理由で50周以下で終了したり、7周以上の猛烈な周回遅れでない限りは必ず2回のタイヤ交換が必要となります。
 2年前は週末のイベントが進む途中でいきなり制限ができたので、選手によっては残っているタイヤの使用可能周回数がバラついてえらく不利な選手が出たりしましたが、今回は事前に通知されてますのでみなさんちゃんとタイヤを計算して使うことでしょう。
 
・レース前の話題

 ラスベガスで2台揃って失格になったマクラーレン、事後情報ではどうやら他チームが無線の内容に疑念を抱いてスキッドプランクを計測するように働きかけたことが影響したと報じられています。ウィル ジョセフが妙に執拗にリフト&コーストを、それも路面の凹凸が大きいターンの手前で要求していたことから「これマクラーレン何かやっとるな」と感じた他陣営のチクりによって上位10台全ての検査に繋がったとのこと。そうするとノリスが最後の3周で極端に遅くなったのもやはりプランクを守る意図だったと推察できますね。
 フォーメーション ラップの段階でピアストリに対して凹凸に気を付けるよう指示が出ていた、とも報じられており、マクラーレンが色々とレース後に釈明した内容も単なる言い訳だったのかなと感じられる報道です。だとしたらフェルスタッペンが猛烈に追い上げてくる中でマクラーレンはちょっと焦ったかもしれませんね、代償が高くつきました。

 そしてもう1つ、アストン マーティン アラムコ フォーミュラ ワン チームはエイドリアン ニューエイがチーム代表に就任したと発表しました。2024年にレッドブルを去り、アストンマーティンに『マネージング テクニカル パートナー』というよく分からん名称の役職で加入。2026年の新規則に向けて競争力のある車両開発を行うことが彼に求められる使命でしたが、どうもチーム代表・アンディー コーウェルと車両開発の方針について見解の相違があって仲たがいしたとみられ、コーウェルは代表を退いて『チーフ ストラテジー オフィサー』というこれまたよく分からん役職になりました。和訳したら最高戦略責任者でしょうか。
 コーウェルはコスワースを経て2004年にイルモアに移籍し、そのままメルセデスのF1エンジン開発の中核人物に。2014年、V6ハイブリッド時代を席巻することになるメルセデス PU106Aを開発した中心人物で、言うなれば5年以上に渡ってF1をつまらなくした犯人です(え)つまりニューエイはデザイン屋さん、コーウェルはエンジン屋さんですから元々揉めやすい下地の2人ではあったのかなあと思いますが、大丈夫でしょうかねえ。ニューエイおじさんもたぶん代表って初めてでしょうし。
エイドリアーーーン

・練習走行

 唯一の練習機会・FP1、フェルスタッペンがステアリングの不調を訴えたり、ノリスがなかなか調子を上げられなかったりもしましたが、最終的にピアストリが最速、0.058秒差の2位にノリス、フェルスタッペンは6位でした。ピアストリが練習走行で最速だったのはシンガポールのFP2以来だったような。たとえレース結果に関係ない練習走行でも、暫く一番上に名前が載らずに来た中での最速には多少の安堵感もあるかもしれません。

・スプリント予選

 SQ1からノリス、ピアストリ、フェルスタッペンが大接戦。ところか肝心のSQ3最初の計測でフェルスタッペンがはみ出してしまい失敗。「跳ねまくって乗れるか!」と激おこのフェルスタッペンは2回目も切れ味を欠いて6位止まりでした。どうやらSQ2の段階で縁石で底を打ってフロアを壊していたようですね。
 スプリントポールはピアストリが獲得し、ラッセルが0.032秒差の2位。ノリス、アロンソと続いて5位はなんと角田でした。フェルスタッペンがチームメイトに敗れて6位となり、アントネッリ、ルクレール、サインツ、アルボンが続きました。
お手振り

・スプリント

 アプリでは誤ってハードと表示されていたそうですが全員ミディアムでスタート。5位の角田が良い動き出しでアロンソを抜いてさらにノリスの内側に飛び込もうかという動きを見せるので「頼むから変な事故起こさんでくれ・・・・」とちょっと心配になってしまいました(笑)さすがにノリスを抜くのは無理でしたが、結果としてアロンソの動きを上手く封じてしまいフェルスタッペンもアロンソの前に出て5位。そして角田が上手ーくフェルスタッペンに道を譲って順位を入れ替えました。
 その後は序盤こそフェルスタッペンがノリスを追いかけましたが抜けるはずもなく、展開が落ち着いたらよそ見してても全然問題ないほど何も起きずに終了。スプリントをピアストリが制しラッセル、ノリス、フェルスタッペンの順。5位の角田はトラック リミット違反4回で5秒加算ペナルティー、6位に落ちるかと思ったら、追いかけていたアントネッリもやっぱり4回はみ出して5秒を食らったので順位が変わりませんでした(笑)
お手振り2回目

・予選

 Q3、1回目の計測ではノリスが1分19秒495、ピアストリが0.035秒差の2位でしたが、2回目の計測ではノリスがターン3で失敗して更新ならず。一方ピアストリは見事な走りで1分19秒387を記録して逆転。スプリントに続いてピレリポールを獲得しました。フェルスタッペンは0.264秒も離されてしまって3位。ただこのコースは偶数列スタートがすごく不利なので、1位になれないなら3位の方が、という気もします。
 ラッセル、アントネッリ、ハジャー、サインツ、アロンソ、ガスリー、ルクレールのトップ10でした。なおヒュルケンベルグはまた11位、角田とハミルトンはそれぞれ16位、18位でまた仲良くQ1落ちしました。ちなみに全くどうでも良いですが、公式サイトにChrome標準の自動翻訳をかけると大抵の選手は人名と認識して翻訳されますが、たまーにストロールは『散歩』と和訳されてしまいます(笑)
あ、お手振りじゃない!

・決勝

 もちろん多くのドライバーはミディアムを選択。スタートではやはり偶数列が不利でフェルスタッペンがノリスを抜いて2位へ、まあこれは想定内ですかね。その後は抜けないレースになるのも想定内ですが、想定外は7周目にやってきました。ターン1でヒュルケンベルグとガスリーが接触し、ヒュルケンベルグの車が動けなくなったのでSC導入。

 7周目ということは残り50周、タイヤは最大25周まで使えるので計算上はここでタイヤを交換してもギリギリ2ストップで走れるまさにウインドウの端っこギリギリです。マクラーレンの2人は無反応でしたが3位のフェルスタッペン以下がほぼ全員一斉にピットに入り、事実上のタイヤ交換義務を1回消化しました。

 入った人は次のタイヤ交換を必ず32周目に行う必要がある、という戦略の幅ゼロの状態で11周目にリスタート、ここから何も起きないと仮定するとピアストリとノリスは1回のピットぶん=約25秒を損した状態からどうにかする必要が生じました。こうなると2人とも25周目まで目一杯走って可能な限り差を広げるしか道がありません。
 24周目、ピアストリは2位のノリスに4秒、フェルスタッペンに対しては約8秒差という状態でピットへ。フェルスタッペンから約18.5秒差の5位で合流し2セット目のミディアムです。そして翌周にノリスがピットへ、最大限引っ張ってタイヤ交換も2.2秒と非常に早かったので、これまた集団に引っかかることなく5位で合流。チームとしては最大限の希望を叶えて後半戦を迎えますが、実質的にまだフェルスタッペンの後ろにいます。フェルスタッペンに続いているのはサインツですがマクラーレンほど速くはなくフェルスタッペンから離れているので、2人はとりあえず2位・3位は確定でフェルスタッペンとの関係がどうかというところでしょうか。

 32周目、当たり前ですがフェルスタッペンをはじめ7周目にタイヤ交換した人がみんなピットに殺到。フェルスタッペンから見ればサインツが17秒も離れているので誰ともピット内で重なりませんが、中団の競った状況の人は集団同時ピットで非常に危険です。多くの人がミディアム→ミディアム→ハードの流れ。

 ここからはミディアムで行けるだけぶっ飛ばすマクラーレンとハードでかっ飛ばすフェルスタッペンの見えない争い。ピアストリは快調に走っていますがフェルスタッペンも計算上じゅうぶんと思われるペース。そんな中で36周目のターン14でノリスがズラ踏んで1秒ほど失い3位フェルスタッペンとの差が2秒に縮まりました。
 ただフェルスタッペンとすると普通に行ってくれれば良いわけで、中途半端にノリスが落ちてきて自分を抑えたり、後方乱気流の影響でタイヤが傷んだらむしろ損です。ピアストリからすればノリスを捨て駒にしてフェルスタッペンを抑えて欲しいところですが、希望が叶ったか42周目にノリスとフェルスタッペンの差はとうとう1秒を切りました。
 するとこの状況を鑑みてかピアストリが作戦を切り替えて42周目にピットへ。ハードに交換してノリスが抑えてる間に猛烈に追いかけることになりました。じゃあノリスはマジで捨て駒になるのかと思ったらさすがにそういうわけにはいかず2周後の44周目にピットへ。ただここまでペースが上がらなかったためにサインツとアントネッリに抜かれてしまい5位での復帰です。このままだとフェルスタッペンと10点差か、ピアストリと7点差のどっちかの状態で最終戦になってしまいます。

 しかし抜けないコースな上にハードで走るアントネッリがなかなか速いので追いついても抜けないノリス、残り2周となってこれはもう完全に詰んだなあ、と思ったらターン10の立ち上がりでアントネッリがえらく鈍い加速になっており、何の争いも無く突然するっと前に出ました。あれ?譲った?と思いましたが、実際はたまたま中継映像では見えにくかっただけで、姿勢を乱してはみ出していたことが原因でした。
公式ハイライトを見れば
確かに滑ってはみ出ておる

 フェルスタッペンは結局ピアストリに約8秒差を付けて最初にチェッカーを受け今季7勝目、通算ではなんとこれが70勝目。カタールでは3年連続優勝で、1周目をリードしていない選手によるカタール優勝は初めてでした。また、カー ナンバー1を付けての優勝回数はこれが50勝目だそうです。ピアストリが2位、レース前にドライバー選手権で同点でしたので、スプリントで一旦ピアストリが先行しましたがこれがひっくり返ってフェルスタッペンは選手権2位、マクラーレンの2人のいずれかよりも上にいるのはシーズン序盤の4月以来です。まさかここまで追い上げるとはねえ。

 サインツはレース終盤に車の違和感を訴えてペースが上げられなくなり、ノリスにむっちゃ追い上げられましたがなんとか耐えて3位で今季2度目の表彰台、カルロスサンイツ、アーバンテサンバイン!ノリスは4位でなんとか最低限の結果という感じ。アントネッリ、ラッセル、アロンソ、ルクレール、ローソン、角田のトップ10。ハジャーが残り2周の段階まで6位にいましたが、その少し前からフロント ウイングの端っこがガタつき始めており、これがとうとう壊れて破片でタイヤがパンク。リタイアとなってレースを失いました。

 ドライバー選手権、ノリスはフェルスタッペンに対して12点差、ピアストリに対しては16点差で最終戦に向かうことになりました。ノリスは3位以内であればチャンピオン確定です。コンストラクターはマクラーレン、メルセデス、レッドブル、フェラーリの順でほぼ決まりですね。5位ウイリアムズもほぼ決まり、取りこぼししつつもレーシング ブルズは6位。7位アストンマーティンに12点差です。アルピーヌの最下位は確定しました。あ、今回はみなさん車検は大丈夫だったみたいです。

・マクラーレンに選択肢は無かったのか

 特別なタイヤ規則がまさかのドンピシャSC導入で何の戦略もないレースになりました、マクラーレンがピットに入ってたらレース途中で視聴者が減っていたかもしれません(笑)で、マクラーレンがなぜ動かなかったのかが議論の的になりますが、消去法で考えると難しかったのではないかと考えられます。各パターンを考えると

1 両方ピットに入れる

 これをやると必ずピット内でノリスが待たされるので後続の数人に抜かれます。戦略の幅が無いのでコース上で抜くしか無く、しかし抜けなくて困るわけですからピアストリだけ有利になる恐れがあります。渋滞しないように下手に策を打ってピットに入る前に減速しすぎたら、マクラーレンは目を付けられていますから()違反を取られて事態が悪化したかもしれません。

2 ピアストリだけピットに入れる

 作戦を分ける考えもありますが、フェルスタッペンは2位ですからピアストリが入るなら逆の動きができます。そしてピアストリがピットに入る場合、いずれのパターンでもレッドブルには手駒がフェルスタッペン以外に最大3人いるわけで、フェルスタッペンをそのまま行かせたうえで角田をはじめ誰かしら、ないしは全員にも同じ動きをさせてリスタート後にピアストリの蓋をさせるという危険性を排除できません。蓋されてる間にフェルスタッペンに逃げ道を作られたら終わりです。ノリスはフェルスタッペンと同じ動きで損失を最小限にできるかもしれませんがピアストリに当たり外れがある以上は動きにくいです。

3 ノリスだけピットに入れる

 3位にいるノリスだけならフェルスタッペンの後ろに付いていくことができます。後ろにいるから逆の行動を取られる危険性も無く、しかもフェルスタッペンがピットに入った環境では捨て駒作戦にもあんまり意味が無いので2人の関係で言えば対等な状態で勝負ができます。ただ、それだとやっぱりピアストリがチーム内で不利な立場になってしまいます。そもそも原則として平等に扱うことを年間通して続けてきたマクラーレンですから、よほどのことが無い限り作戦が大幅に分岐することを選びたくありません。最後は内輪の取り決めも影響して選べない選択肢だったように思います。

 というわけでマクラーレンには2人とも居座る以外の選択肢が無く、運が悪かったとしか言いようがありません。もしタイヤの摩耗が激しい、あるいはハードが遅すぎて役に立たないレースであれば7周目にタイヤ交換するのが得策とは言えませんでしたが、今回は固いタイヤと高荷重サーキットの組み合わせですから上手く使ってやればそこまで極端に遅くならない条件でした。
 ピアストリは絶好調でスプリントも予選も決勝も全部持って行って当然なぐらいの流れでしたから、それがチャンピオン候補3番手でレースを終えるのは相当ショックです。ノリスに関してはスタートで抜かれた時点で普通に行っても3位、4位になったのは自分がミスったことが主因でしたから冷静に考えると半分ぐらい自責ですね。

・アントネッリ、中傷される

 ところで56周目にアントネッリがノリスに抜かれた場面、上記の通り中継映像としては失敗してはみ出したことが非常に分かりにくかったので譲ったように見えてしまうものでした。それは現場も同じだったようで、フェルスタッペンのエンジニア・ジャンピエロ ランビアーズが「何があったんか分からんけど譲ったように見えるわ。」と無線で話していました。これはまあレース中の事案だし内輪の会話だから仕方ないですが、レース後にはレッドブルの偉い人・ヘルムート マルコが嘘情報とほぼ陰謀論でさらにアントネッリを批判。
 これが火付け役のようになってアントネッリに対しSNS上で中傷行為が多数行われたとのこと。明らかな誤情報が含まれていて言い訳のしようがないのでレッドブルは誤りを認めて発言を撤回しました。正直レース現場で戦っているジャンピエロはある程度しゃあないレベルでマルコが問題だと思いましたが、仮にアントネッリがわざと譲ったとしてそれを批判するのは自由ですが、殺害や危害を加えるようなことを書くのは問題外です。はっきり言います、今すぐその投稿した道具を全部捨ててインターネットなんて二度と使わないでください。貴方のような人間にいられると社会の害です。

 さあ、次戦はいよいよ最終戦アブダビです。この1レースのためだけにフジテレビNEXT1ヶ月分の視聴料を払ってるわけですからしょぼい幕切れだけは勘弁してくださいよ~。

コメント