NASCAR 最終戦 フェニックス(事前情報)

NASCAR Cup Series
NASCAR Cup Series Championship Race
Phoenix Raceway 1mile×312Laps(60/125/127)=312miles


 約8か月半・35戦に渡る戦いを経てNASCAR カップ シリーズはついに2025年の最終戦です。舞台はフェニックス レースウェイ、1周1マイル、バンク角こそそこまで高くはないものの、旋回半径が大きくて比較的高速なトラック。312マイルのレース距離なのでわりとあっという間に終わってしまいます。NASCARが多額の費用をかけて改修し2020年から最終戦の開催地になっていましたが、来年は最終戦がホームステッドに移動するのでひとまずその役割を明け渡すことになります。たぶんローテーション制だろうし、11月にレースできる温暖で天候が安定した地域は限られてるので数年おきに順番は回ってきそうな気はします。
 スタート/フィニッシュ ラインを超えたらいきなり広大なドッグ レッグが広がり、下手したら大外から壁スレスレの内側まで10台ぐらい並べるんじゃないかという争いがリスタートの度に起きるので、特に終盤のリスタートは目が離せません。古いタイヤで前からリスタートしても新しいタイヤの人がバンク角のない平坦な内側から平然とゴボウ抜きする、という他所では起こりえないことが度々起きる特殊なトラックです。即座に内側に飛び込めるがゆえに、焦りすぎてスタートライン通過前に隊列からラインを動かしてしまって反則を取られやすいのは注意点です。
広がり放題♪

 ウイリアム バイロン、カイル ラーソン、デニー ハムリン、チェイス ブリスコー、プレイオフを勝ち抜いたこの4人がポイント5000点にリセットされ、このレースではプレイオフ ポイントは無効でステージ ポイントも無し。エクスフィニティー ファステスト ラップのボーナス1点もたぶんないはずです。つまり、一応ポイントで順位表記はされるけど単純に『このレースで4人のうち最上位だったヤツの勝ち』です。分かりやすい。もちろんこの週末はクラフツマン トラック シリーズ、エクスフィニティー シリーズのいずれも最終戦となっており、全米3シリーズ全てで今シーズンのチャンピオンが決まります。

・ちょっとしたデータ

 プレイオフ選手4人は全員がフェニックスでの優勝経験者。このうちGen7車両のレースでは2022年春にブリスコー、2023年春にバイロンが勝っています。特にバイロンは7戦中5戦で6位以内、平均順位8.0でライアン ブレイニーに次ぐ高成績。ラーソンも4位と3位を2回ずつ記録しており『速いんだけど優勝した人よりはちょびっとレース ペースで劣ってる』という展開が多い印象です。
 一方ハムリンは今年の春のレースで2位ですがGen7の7戦は平均順位10.8で飛びぬけた数字ではありません。ただ彼は今回はキャリア41回目のフェニックスで、これまでの40戦で2勝を含め平均順位10.6、これは通算成績で見れば現役選手最良です。なんと通算で7勝しているポコノーよりもフェニックスの方が平均順位が高い。勝ってない理由の5%ぐらいはケビン ハービックがフェニックスで勝ちまくってましたからでしょう・・・(笑)
 ブリスコーは今年JGRに移籍してきたばかり、4人の中で唯一チャンピオンシップ4は初出場で立ち位置とすれば一番下馬評が低そう、なんですが、今シーズン35戦全体の平均順位で比較するとブリスコーの決勝平均順位は12.5。これはクリストファー ベルに次ぐ全体2番目でプレイオフ選手最良です。もっとも無名だからと安易に彼を優勝予想から外してはいけませんね。

 その春のレースではNASCARがタイヤ2スペック制を採用していました。今回は通常通りのレースですが春とは違うタイヤを使うことになるので、ここでのデータ量がやや少ないのは各陣営の技術者さんを悩ませるところです。左 D-5254/右 D-5256 の組み合わせはリッチモンドやニューハンプシャーなどで既に使用されており、柔らかくて摩耗が進みやすいのはおそらく皆さん織り込み済み。アンダーカット戦略は当然のこと、リスタート直後の争いではタイヤが新しいほどラインの自由度が大きいので、クルー チーフは最後の最後までタイヤ戦略に神経を注ぎ続けることになりそうです。

・レース前の話題

 NASCARと23XI レーシング/フロント ロウ モータースポーツとの裁判。12月にもこの訴訟の核心部分の判決が出るのではないかとされる中、夏場以降はNASCAR有利の判断が複数出されて優勢かと思われました。ところが、一連の訴訟の中でNASCAR側が両チームに対してザックリ言うと『むしろ本来ならチームごとに個別に交渉すべきもんをお前らが結託してかかってくるからこっちが損害被った被害者じゃ』と反訴した事案について、裁判所が『いやいや、お前らが主張してるような証拠ないよ。損なんかしてへんよ、はっきり言うて。(ザックリ)』とこの反訴を棄却しました。
 NASCAR側が日本で言う独占禁止法に違反しているか、という核心部分の判決では無いですが、ジ アスレティックは匿名の情報筋の話として、NASCAR側が両チームとの和解協議を進め、この騒動を終わらせるために働きかけていると伝えています。ただ当事者でもある23XI共同オーナー・ハムリンは和解による解決を否定しています。

 また、この係争の副産物として裁判所は関連資料の一部を開示、その結果なんと謎に包まれている部分も多かったレース結果における賞金配分やチャーター保有チームにオーナー ポイントに従って配分される賞金の計算方式の詳細が判明してしまいました。例えば今週のフェニックスではレースの賞金総額は1239万4135ドルと発表されており、これ自体は毎週末ちゃんと公表されてるんですが、配分は分かりませんでした。
 しかし今回の資料によれば、優勝するとこのうち5.16%が配分されて今回のレースに当てはめると63万9537ドル、40位でも10万9812ドルとなります。優勝なら日本円にして9800万円あまり、最下位でも1500万円あまりとなります。レース毎に総額は異なり、最終戦はちょっと高額になってるので他のレースだともうちょっと賞金は少な目です。また、チャーター保有チームが1戦毎に14万1000ドルの配分を受けていることも分かりました。
 チャーター保有チームのオーナーポイント順位に応じてシーズン後に配分されるボーナス的賞金の額もあり、直近2シーズンのオーナー順位(前年順位は 1/2 として扱い、2年分の平均値)に基づいて計算されて今年の場合総額337万ドルの賞金総額から1位の車両には8.423%=約284万ドルが与えられます。2位は配分比率が1.3ポイントほど下がった7.138%=約240万ドルとなりますが、これ以下は25位まで概ね1順位あたり0.3ポイントずつ減少する傾斜配分、ざっくり1つ順位が下がると10万ドル減少する計算。26位以下はしょっぱい数字です。
 25位だと9万6000ドルですが、これがプレイオフ最下位に相当する16位だと101万1100ドルになります。元々10位やそこらで戦うチームにとっては1つの順位変動が与える影響はそこまで大きく無いですが、普通にやったら25位以下のチームが1勝してプレイオフに進むと16位以内が確定するので、これがもたらす賞金の差はかなりのもの。また、一応インフレ対応で総額は毎年数%ずつ増えるんですが、現状は物価上昇率の方が高いのでおそらく実質マイナス状態です。
 

 カネの話ばっかりじゃなく明るいやつも行きましょう(笑)来年からトラックシリーズにラムとともに参戦するコウリッグ レーシング、新たにダニエル ダイとジャスティン ヘイリーが加わることを発表しました。ダイは今シーズンコウリッグからエクスフィニティーにフル参戦しており、ヘイリーは2019年から5年間コウリッグでお世話になっていました。また、コウリッグはトラックシリーズ参戦に伴ってエクスフィニティーの活動を休止するとも発表しました。さすがにそんなには無理ですわな。
 そしてNASCARはカップシリーズの選手が他の全国シリーズに出場できるレース数の上限規定を緩和、カップシリーズに3年以上フル参戦経験がある選手がエクスフィニティー改めオライリー オート パーツ シリーズに出場できるのは年間5戦の上限が10戦に引き上げられ、クラフツマントラックシリーズも5戦→8戦に緩和されます。レギュラー シーズン最終戦とプレイオフに出場できない規定は維持されます。

・Craftsman Truck Series NASCAR Craftsman Truck Series Championship Race

 プレイオフ選手最上位・予選5位のケイデン ハニーカット、いきなりスタートでラインを変えるのが早すぎてペナルティーを食らう大失敗。失った順位を戻すのにまるまる2ステージ費やすも、最終ステージで戦線に戻ります。結果、コリー ハイム、タイ マジェスキーとの3つ巴のチャンピオン争いとなりますが、規定違反により最後尾からスタートしていたレイン リッグスが猛追、コーション時に異なるタイヤ戦略を採用して残り24周でリードを奪います。
 リッグスはチャンピオンシップ4では無いので放っておいても問題なく、ハイムは2位を固めてチャンピオンに王手をかけていましたが、残り3周でクラッシュが発生して6回目のコーションとなりまさかのオーバータイム。ハイムはピットに入って4輪を交換しますが、マジェスキーもハニーカットも2輪交換。ハイムは5列目リスタートになりました。
 オーバータイム、ハイムは即座に内側に下りて、なんなら照明もあんまり当たってない壁スレスレの内側で8台抜きしてターン2で2位に浮上。後続の多重事故でオーバータイムは2回目に進みますが、こうなればハイムの方が圧倒的優位。リスタートでマジェスキーを仕留めてチェッカーを受け、前人未到のシーズン12勝目で初のトラックシリーズ王者を獲得しました。

 なお、このレースをもってフル参戦から引退する3度のトラックシリーズ王者・マット クラフトンは13位でした。これが通算592戦目、通算15勝はハイムが1年に12勝もしたら霞んでしまいますが、トラックシリーズを支えた鉄人に大きな拍手を!

・Xfinity Series NASCAR Xfinity Series Championship Race

 エクスフィニティーの名を冠した最後のレース、コナー ジリッチ、ジャスティン オールガイアー、ジェシー ラブのチャンピオン候補者が時間とともに順位を入れ替えつつも接戦を続けました。ステージ2まではオールガイアーのロング ランでのペースが冴え、逆にジリッチはロングランでやや課題が見えました。ところが最終ステージ、アジャストに失敗したのかオールガイアーはズルズルのルースになりラブが接近。いよいよ逆転か、という残り49周でクラッシュが発生してコーションとなります。
 ここでオールガイアーのクルーは右後輪の交換に手間取って順位を下げてしまいラブ、ジリッチのワンツーに。さらに残り42周でリスタートすると、この3人の争いにオーナー選手権でのチャンピオンが懸かっているエリック アルミローラが割り込みました。ジリッチの後ろで3人がやり合ってくれたのでジリッチが有利な雰囲気になります。
 ところがジリッチのロングラン遅い問題は解決できず差を広げられませんでした。ようやくアルミローラを抜いたラブが残り25周でジリッチを逆転。オーバータイムのような波乱もなくラブがチェッカーを受けて2025年のエクスフィニティーシリーズチャンピオンとなりました。勝ったのは開幕戦・デイトナと最終戦・フェニックス、なんというかアタック25的なチャンピオンです(謎)

 リチャード チルドレス レーシングの2番はオーナー選手権でのプレイオフから脱落しているのでこちらではチャンピオンの可能性があったジリッチでしたが、これも残り9周でアルミローラに抜かれて達成ならず。アルミローラが乗るジョー ギブス レーシングの19番がオーナー選手権でチャンピオンを獲得しました。ジリッチは年間10勝を挙げながらチャンピオンを手に出来ず、レース後は車の横に座り込んで手で顔を覆いました。オールガイアーは5位、候補者の中でちょっと存在感が薄かったカーソン クワポーは13位でした。
 なおカーソン君は以前の発表の中で来年は車両をジリッチと共有することが発表されていたため「え、今年出てきたばっかりなのにフル参戦させてもらえないの?」とけっこうな人が感じたと思われますが、チームは彼が来年も全戦に出場すると発表しました。おそらく1番にジリッチが乗る時は何かしら他の車から出場するように予定が組まれることになります。

・カップシリーズ 予選

 いつも通り前置きが長いですがカップの予選です。ブッシュ ライト ポール賞はハムリンが獲得しました。今季5度目・通算48度目。最近の優勝インタビューからお父さんの体調が良くないことと、話しぶりからかなり深刻であることが感じられましたが、この週末のAP通信の取材でハムリンはお父さんに残された時間があまり無いことを口にし「これが父にこの瞬間を見せられる本当に最後の機会だと思います。父がこの世を去って、この瞬間を2度と見られないなんてことには本当になりたくないんです。」と話しました。彼の父・デニスは資材を投げ売って息子のレース活動を支えてくれた最愛の家族です。
 2位バイロン、3位ラーソンと候補者が綺麗にトップ3。4位からオースティン シンドリック、ライアン ブレイニー、カーソン ホースバー、ジョッシュ ベリー、アレックス ボウマン、クリス ブッシャー、ジョーイ ロガーノのトップ10。チャンピオンシップ4に誰も送り込めなかったペンスキー勢が名を連ねましたね。ブリスコーは12位ですが、2020年には予選後車検に引っかかって最後尾からスタートしたチェイス エリオットが優勝してチャンピオンを獲ってるぐらいなのでまだまだ分かりません(統計数字上は予選1位から優勝と表記される)

・・・続きは決勝視聴後に・・・

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