F1 第22戦 ラスベガス

Formula 1 Heineken Las Vegas Grand Prix 2025
Las Vegas Strip Circuit 6.201km×50Laps(-0.092km)=309.958km
winner:Max Verstappen(Oracle Red Bull Racing/Red Bull Racing RB21-Honda RBPT)

 2025年のF1世界選手権は締めくくりの3連戦、ラスベガス、カタール、アブダビがやってきました。紅白歌合戦で言ったら石川 さゆり、福山 雅治、MISIAです(?)。ラスベガスは2023年から始まったとてつもなく金がかかってそうな市街地レース、NASCARで使用されるラスベガス モーター スピードウェイがラスベガスとは名ばかりの市街地の端っこ、周囲は砂漠なのに対して、こっちはマジでベガスの中心地です。ちなみに1周の長さの関係でレース距離が約310kmとシーズン最長でもあります。
 ドライバー選手権は前戦サンパウロを終えてランド ノリスがオスカー ピアストリに対して24点差とほぼ1レース分の大きな差を築いて王手をかけた状況。マックス フェルスタッペンは49点差でさすがにもう5連覇は厳しそうです。ピアストリもこのレースでノリスの後ろになったらちょっと絶望という感じですが、F1GPニュースによると数戦前からマクラーレンがチーム内でのデータ共有をやめており、これが経験で勝るノリスを優位にしているのではないかとのこと。コンストラクター選手権でチャンピオンを確定した段階で共有をやめた、という未確認情報もありますね。
 ピアストリは自分で車を仕上げないといけない上に、アメリカ、メキシコ、ブラジルといった開催地はF2で走らないコースなので影響が大きい可能性があります。チームとして競うのはもう任務を完遂したからあとは個人戦で存分に戦え、という理屈が分かると考える一方で、その判断はどう考えても若い方の選手に不利なのでノリスを有利にするための判断でえこひいきだと批判される可能性もある話です。

・練習走行

 寒くなってくるこの時期に夜間走行するラスベガス、クソ長い直線もあるのでタイヤの熱入れが難しく、FP1からターン1やターン12で止まり切れず飛び出す選手が続出。FP2ではマンホールの蓋が完全に固定されていない疑いがあったことからセッションが中断して各選手とも16周前後しかできませんでした。さらに金曜日のFP3では終盤に雨も降り始めてなんだか地に足が付いていないような流れで予選へと向かうことになりました。
止まらーーーん

・予選

 予選の開始時点は完全なウエット コンディション、最初は多くがインターミディエイトで走り始めたものの、1周2分以上かかってあっちこっちでアクアプレイニングが起こってしまうのですぐにウエットに乗り換えて行きました。それでもなおそこらじゅうでコース外に飛びだしてイエロー フラッグ祭り、誰もぶつけないのは適切な退避路設定とヤバいと思ったら真っ直ぐ逃げる判断力の賜物です、モナコだったらみんなそんなには無理して走らないでしょう。
 Q1ではルイス ハミルトンが20位、角田 祐毅が19位で脱落。ハミルトンはブレーキにグレイジングが起こっていたと予選後に説明。グレイジングはブレーキの温度がまだ上がっていない時に弱いブレーキを繰り返したり引きずったりしたときに起こりやすい現象で、摩擦材の表面が鏡のようにツルツルになってしまうため本来の制動力が出なくなってしまいます。雨が酷くてタイヤの温度も低いので探り探り走ってたらグレイジングが起きて、止まらないからタイヤの温度が上がらない、温度が上がらないから止まれない、止まれないからブレーキを強く踏めない、ブレーキを強く踏めないから、の無限ループに入ったんじゃないでしょうか。また角田はタイヤの内圧設定を間違えていたとチーム代表・ローラン メキースが謝罪、ホンマかいな。
何せこの路面状態である

 Q1の終盤には雨が止んでいたのでQ2になると少しずつ路面状態が回復する状態、途中でランス ストロールがインターミディエイトに交換してみましたがこれは判断がちょっと早すぎて12位敗退、ウエットで走り続けるのが正解でした。常にノリスが上位を戦う一方で、ピアストリはギリギリの10位通過。11位までタイム差はあるとは言えこのままではマズい状態です。
 そしてQ3になってようやく本格的にインターミディエイトの出番到来、最初からかっ飛ばす派と最後の1周をにらんでじわじわ上げる派がいるので頻繁に順位が入れ替わりますが、最後に持って行ったのはやっぱりノリスでした。1分47秒934で2位のフェルスタッペンを0.323秒上回りピレリ ポール ポジションを獲得。3位にはちょっとびっくりのカルロス サインツが飛び込みました。

 4位にジョージ ラッセル、ステアリングに不具合が起きており本来ならポールを狙えたはず、と車の不具合に泣いたようです。ピアストリはQ3序盤から攻めた走りで一時的に1位にいましたが、最後は運悪くシャルル ルクレールがはみ出したことで発生したイエローフラッグが影響して更新できず5位でした。リアム ローソン、フェルナンド アロンソ、アイザック ハジャー、ルクレール、ピエール ガスリーのトップ10。ニコ ヒュルケンベルグがお約束な11位。

・決勝

 ほぼ雨の心配はなくなった決勝、多くはミディアムを選択してハードに繋ぐ1ストップ想定。ノリスはスタートからほどなく急に内側に動いてフェルスタッペンを文字通り抑え込んでからターン1に飛び込みますが、ちょっと無理がありすぎて全く止まれず。ガラ空きの内側をフェルスタッペンが通過し、ターン2〜3の攻防でラッセルも前に出ました。
 これだけでもなかなかの出来事ですが後ろもターン1は大騒ぎ、ストロールが止まれずにピアストリに思いっきりぶつけると、18位スタートのガブリエル ボルトレートはさらにひどいミサイルで複数人を巻き込む事故につながりました。幸いピアストリは当たったのが見事に車輪の側面だったので走行可能、直接この事故が要因でリタイアしたのは事故を起こした2人だけの自滅案件でしたが、ボルトレートに回された人はえらい迷惑でした。ボルトレートは次戦5グリッド降格ペナルティーで反省会行きです。

 ボルトレートが暴れたせいでターン1付近は破片だらけとなりイエローフラッグが2本振られていますがVSCなどは出ず、そうこうしているうちにフェルスタッペンが戻ってきて2周目へ。するとなんとマーシャルが破片の回収作業をして大急ぎで走って離れていきました、安全面から本来なら起こってはいけない状況です。2戦前のメキシコでも隊列から1人だけ離れていたローソンがマーシャルの側を通過する事案が発生して問題視されたばかりで、どこに問題があるのかきちんと検証する必要がありますね。
 なお、一応確認するとイエローフラッグ2本は規則上はコース上に重大な危険があり必要であれば直ちに停止できる速度への減速を求める意味ですから、本質的にはスロー ゾーンのような役割を果たしているはずなのでマーシャルにそこまでの危険は起きないはずです。でも実際にそんなに減速するやつがいないから有名無実化しており、そのためにスローゾーンやFCYやVSCという減速を強制する制度ができました。
 でも制度があると『それ以外の時は過度に減速しなくて良い』という免罪符のようになってしまってる弊害があるというのは当ブログで過去に何度も書いた話。だからドライバーが悪い、運営が悪い、勝手に出たマーシャルが悪い、という犯人捜しをすれば良いという話ではなく、最優先にすべきマーシャルの安全をどうやって担保するのかを全体を見て考える必要があります。こういうことは忘れてはいけないので折に触れて指摘しておきます。

 この事案のあとさらに半周ほど走行してようやくVSCになって他の場所にも落っこちていた破片回収、再開後のフェルスタッペンに対してラッセルがDRS圏内で機会を伺ったものの、惜しいところにすらたどり着けずやがて離されました。ここからラッセルとノリスの2位争いに主題が移ります。少しずつ追い上げて行くノリスに対しラッセルはまたもやステアリングの不具合を訴えつつ走り、ノリスが1秒近い差にまで追いついてきた17周目に早くもピットに入りました。ミディアムからハードへ。
 前が空いたノリスはここから飛ばしてタイヤの履歴差を作りつつあわよくばラッセルのオーバーカット狙い。ついでにフェルスタッペンにも少しずつ追いついて3.5秒あった差が20周目には2.7秒になりましたが、21周目にペースが落ちた様子で3.5秒差に追い返されると、そのまま4秒以上の差になったのでここらが換え時、22周目にピットに入りました。
 戻った場所はラッセルの2.7秒ほど後方で最初はラッセルが引き離していましたが、おそらくこれはノリスが丁寧にタイヤに熱を入れたため。29周目から1段階ペースを引き上げたノリスはあっさりとラッセルを捉えて34周目にかわしました。ラッセルも表彰台優先で、無理してレースを壊してまで2位を守るつもりは無いという考えを無線で伝えていました。チャンピオン争いしてる相手に余計なことしたくないですしね。ラッセルはいいヤツなので好きです(笑)

 ノリスは一応エンジニアのウィル ジョセフからフェルスタッペンを捕まえに行くぞ!と激励はされていましたが、ノリスよりも3周後にタイヤを交換している絶好調モードのフェルスタッペンを捉えられるはずもなくじわじわと離されていきました。レッド ブルは後ろが動いてもすぐにはピットに入らず、タイム差とペースを冷静に見極めて盤石の作戦を遂行し、全く危なげの無いレース運びです。
 ノリスは残り5周あたりでさすがにペースを1周1秒も落として安全策に移行、と思ったら48周目には3秒落ちのペースになって何か様子が変。これでレース結果としてはフェルスタッペンが2位ノリスに20.741秒の大差を付けて今季6勝目を挙げました。ひょっとしてまたエンジンでもぶっ壊れるのかと思ったノリスですが無事に2位で走り切り、3位にラッセルが入りました。

 ノリスに絶対に負けられないのにお坊っちゃんに出鼻をくじかれたピアストリはというと、ぶつけられて7位に落ちたところからローソンが接触によるウイング破損、ハジャーは自力で抜いて5位に戻すことまではできたものの、そこから前に追いつけず。直線走行中の車載映像が僅かしか無かったですけど、ちょっとアライメントが狂って車が直進してないようにも見えましたね。そしてタイヤ交換後の後半は目の前にアンドレア キミ アントネッリが立ちはだかりました。アントネッリは17位からソフトを履いてスタートするとたった2周でこれを捨ててハードに交換していました。
 ピアストリは21周目にハードに交換したので19周も履歴差があり、しかもアントネッリにはスタート時の違反で5秒加算ペナルティーがあったので無理して抜く必要性が無いんですが、とはいえ1年で成長したアントネッリはハードを非常に上手く使ってペースも順位も落とさずに4位を維持、履歴差があっても全然抜けません。ピアストリは4位にはなれるけど3位はもう絶対狙いに行けず、後ろからルクレールが来ているので油断すると逆に抜かれる危険性もある状況でした。
 結局アントネッリは最後まで4位を守ってチェッカーを受けてから5秒加算、ピアストリはこれでなんとか4位を手にしましたがノリスとの点差がさらに6点広がってしまってもう絶望的です。一方アントネッリは最後にむっちゃ頑張ったおかげで5秒加算してもルクレールに対し0.19秒差が残るという神セーブ。ルクレールからしたらむっちゃ悔しい結果となりました。

・ステージ車検場


 さあやってきました、世界最大の娯楽の町で最もエキサイティングでデンジャラスな施設、それが車検場(謎)レース後に10台のスキッド ブロックに検査が行われ、その中に含まれていた2台のマクラーレンMCL39。なんと2台とも厚みが規定以下にまで摩耗しており、チーム側が色々と酌量を求めて説明しましたがもちろん認められるはずもなくて容赦なく失格になりました。これでノリスもピアストリも無得点、フェルスタッペンは一気にノリスとの差を25点縮めたことになり、ノリスとは24点差、ピアストリとはついに同点になりました。
 正式結果は2位ラッセル、3位アントネッリとメルセデスが並ぶことになり、ラッセルはこの時点で今シーズンのドライバー選手権4位が確定し、メルセデスもコンストラクター選手権2位をほぼ確定させました。4位からルクレール、サインツ、ハジャー、ヒュルケンベルグ、ハミルトン、エステバン オコン、オリバー ベアマンのトップ10です。いったい1時間半のレースは何やったんや^^;
 
 まさかのシーズン最後の最後、もうチャンピオンはノリスで決まりだなと思った数時間後の失格劇。事後情報によれば規定限界のスキッドブロックは厚さ9mmまでですが、ノリス車は最も摩耗した部分が8.88mm、ピアストリ車では8.74mmだったそうです。なお測定に使用されているのは日本のミツトヨ製マイクロメータ測定器で0.001mmの精度で計測が可能だそうです。
 スキッドの厚み計測ってけっこう手間がかかるらしいので毎回毎回全部の車両では行っていません。フジテレビNEXTの放送ではよく川井ちゃんが「3連戦の初戦は忙しいからジョー バウアーはあんまりスキッドの検査しないんでバレないと思ってんじゃない?」みたいな冗談を言ったりしてますが、今回はばっちり見られてました。
 チームは故意ではなく偶発的な事象であり、今年も何度かあった同様の違反よりも摩耗度が軽微であることなどから処分の軽減を求めましたが、スキッドブロック厚み違反に重いも軽いもなく失格以外の裁定が規程されていないため聞き入れられませんでした、そらそうよ。レース終盤にノリスが極端にペースを落とした理由については詳細が不明なんですが、チームがデータ上から問題に気づいて慌てて速度を落とさせたのでは?と後から考えると気になる出来事です。

 失格になったとはいえ残り2戦で24点差のノリスが圧倒的有利であることに何ら変わりはないんですが、個人的にマクラーレンにとって厄介になったなと思わせる点が2つあります。1つはまさに車高設定そのものの話で、次戦カタールはスプリント方式なので練習走行が1時間しかなく、しかもコースは車高を下げまくって最大限のダウンフォースを出したい高速レイアウトです。
 もともと各チームはなんとかスキッド摩耗を避けて車高を下げるためにあの手この手のインチキを編みだしてギリギリを攻めて来たと考えられていますが、おそらくマクラーレンは今回見積もりを間違ったかやりすぎた可能性が高く考え方に手直しが必要ですし、またやらかすわけにはいかないので多少安全を見積もる必要があります。ところが練習走行時間が短いわけですから、セッティングの最適化が難しくなります。
 こういう特は2人のうち1人が燃料を積んだ決勝想定の車両で走って車高を決める仕事をしたいところですが、双方ともチャンピオンを争ってセッティング共有もしない、としてるわけですから役割分担するわけにもいかず、決勝想定に時間を割いたらスプリント予選での一発の速さは妥協を迫られる可能性もあり、時間の使い方と舵取りに失敗できない緊張感が出てきます。

 また、仮に決勝でフェルスタッペン1位、ノリス2位、の状態なら特に問題は無いですが、1位フェルスタッペン、2位ピアストリ、3位ノリス、みたいな状態になるとフェルスタッペンとノリスの差が10点縮まって最終戦になります。確実にチーム内の誰かにチャンピオンを獲ってもらいたいなら入れ替えておくのが得策ですが、チーム内で争ってる上にこれまでの『パパイヤ ルール』を考えると、いきなりここまで来てノリス優先の指示を出すわけにもいかないし、出したってピアストリは聞かないでしょう。マクラーレンが足の引っ張り合いをする恐れがあります。
 失うものが無い状態で突っ走ってきたフェルスタッペンに対し、マクラーレンはここまで来てドライバー選手権が獲れないなんてことは絶対起こしたくないですから心理的にも守りに入りやすく、そこにこの2つの課題が場合によっては立ちはだかるのでむちゃくちゃやりにくいと思います。そして、ノリスは昨年から今年中盤戦までの流れとして、絶対に落とせない緊張感の中でのここぞの場面でけっこうミスります。まさにノリスにとって最後にして最大の試練です。そこでノリスとフェルスタッペンが(物理的に)ぶつかった時にはピアストリにも道が開けるかもしれません、あんまり良い話じゃないけど(。∀゜)
↑超えるべき壁↑

 私はまあそうは言ってもノリスが勝つだろうとまだ今の段階でも思ってはいるんですが、NASCARでハムリンが勝てずにあんなことになった衝撃も未だに心に突き刺さっており、いや、でもひょっとして、みたいな状態です(笑)見てる側はああでもないこうでもない言いながら次のレースを待つわけですが、チームは休む間もなくものすごい距離を移動してカタールへと向かいます。こういう疲労がまたエンジニアやメカニックの失敗を誘うので最後まで安全第一ですね。

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