SUPER GT 第6戦 SUGO

2025 AUTOBACS SUPER GT Round6 SUGO GT 300km RACE
スポーツランドSUGO 3.586km×84Laps=301.224km
※最大延長時間規定により70周に短縮
GT500 class winner:リアライズコーポレーション ADVAN Z 松田 次生/名取 鉄平
(NISSAN Z NISMO GT500/KONDO RACING)
GT300 class winner:Syntium LMcorsa LC500 GT 吉本 大樹/河野 駿佑
(LEXUS LC500 GT/LM corsa)


 オートバックス スーパーGT第6戦はスポーツランドSUGO。9月に入ってようやく酷暑からは解放されましたが、サクセスウエイトの重さからは解放されません。第6戦ということで全戦に出場していればこのレースが基本的に年間で最もウエイトが重くなる1戦です。(ここまでほとんど得点がない車両がこのレースで多くの点数を得ると、係数が半分になっても次戦の方が重くなることはある。)
 SUGOは今年が開業50周年だそうで、それを記念したわけではないでしょうがオフに舗装の全面再舗装が行われました。8月に開催されたスーパーフォーミュラでは路面の凹凸が減ったので車高を下げて攻め込んだところフロアが壊れた、と推認される事象が発生。タイヤ開発競争のあるGTの場合はデータが無い中でどんなタイヤを持ってきてどう走らせるのかがかなり重要と考えられます。

・現行GT500は来年が最終開発年次?

 今回のレースに併せて行われた定例記者会見でGT500クラスの来年以降の大まかな道筋が公表され、2026年に向けては空力開発が解禁されるものの、そこからは4年間は開発凍結とすることが明らかになりました。ただし自動車メーカーがベース車両の変更を行いたいと考えた場合には、他の企業の許可が得られれば空力開発が認められる例外は設けられました。
 これは2030年から現行のclass1規定の後継となる新しい車両規則を発行することが念頭に置かれており、現行規則では2020年から、基本的な部分では2014年から今の枠組みで競争してきたのでザックリ言えば『開発はもうええでしょう』という感じです。同時に、エンジン使用基数も現在の年間2基から年間1基に削減されます。年間2基制ではシーズン後半に『スペック2』を導入するのが常で、気温が低くなる終盤戦に向けて合わせこんだエンジンを用意する傾向がありましたが、そうした手は封じられます。エンジンもかなり開発しつくして伸びしろが減ってますので、こっからは長寿命化してください、ということでしょう。
 GT500の空力開発は、特にはっきりと明示されているわけではありませんが費用高騰対策として概ね2年に1回の縛りがあります。2020年のclass1規定発行の際には3年間の凍結となっていましたが、日産がGT-RからZに変更したため1年前倒しで2022年に1回目の凍結解除となりここから2年間凍結。
 2024年は2年経過したので開発解禁年次となり、ホンダがNSX Type SからCIVIC TYPE Rに変更、どうせ解禁されるので日産もZをZ NISMOにしました。2026年は現行規則で3度目の解禁年次で、ホンダがシビックからプレリュードに変えるんじゃないの?という話がありましたが、結果としてこのレースの約1週間後にプレリュード-GTが発表されました。GT500は日産の経営状況に配慮してとにかく離脱者を出さない、という観点もあると思われ、競争と持続性のバランス感覚が問われます。

・予選

 GT500クラスはARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT #16(18kg)・佐藤 蓮が2戦連続でのポール ポジション獲得。Q1で大津 弘樹が出した記録を0.7秒近く更新し、1分9秒122はコース レコードでした。GTでの連続ポールは『予選で速いのにレースで結果が出てないから車が重くなっていない』という側面が付いて回るため、ARTAとしては今度こそ勝って重くなって『重くてQ1を通れないと思ってました』てな感じのことを言いたいんじゃないかなとは思います^^;

 2位はDENSO KOBELCO SARD GR Supra(41kg/-1)・関口 雄飛/サッシャ フェネストラズ。関口はQ1で最速の1分9秒365を出してこの段階ではレコードだったんですが、Q2で佐藤に抜かれたので一瞬のレコード ホルダーになりました。3位はNiterra MOTUL Z(34kg)・佐々木 大樹/三宅 淳詞。予選上位3車を3メーカーで分け合ったのは今季初ですね。でも4位にau TOM'S GR Supra(50kg/-3)・坪井 翔/山下 健太がいます、トムスが半重力装置を開発したか時計が壊れていたか、どっちかでしょう()

 一方GT300は前戦の勝者・CARGUY FERRARI 296 GT3(50kg/給油速度制限)・小林 利徠斗が初のポールを獲得。彼は山形県出身のため宮城で開催されるこのレースが最も地元に近いイベントです。Q1を走ったザック オサリバンもA組の最速で完璧な予選となりました、サクセスウエイト積んでるんですけど半重力装置が利徠斗君を通じてカーガイ MKS レーシングにも流通してるんですかねえ、SFライツでトムスに乗ってるし()

 2位は前戦で規定重量に800g足りず失格、2位を失ったSyntium LMcorsa LC500 GT(8kg)・吉本 大樹/河野 駿佑、吉本選手は0.019秒届きませんでした。こちらはQ1・B組の最速だったので、各組の最速が順当に予選1位・2位を獲ったことになります。組違いなので単純比較はできませんがQ1では河野選手がオサリバン選手より0.2秒ほど速いQ1最速記録でしたから、たぶんほんの些細な差ですね。

・決勝
〇GT500

 予選より5℃ほど暖かくなって気温24℃/路面温度32℃で始まった決勝。GT500は序盤3周ほどまーーーったく順位が変わらない展開でしたが、6周目のターン1でデンソー・関口がARTA#16・大津を抜いてリード チェンジ。どうやら大津選手は最終コーナーで脱毛GT-Rに引っかかってしまったみたいですね、いや脱毛だから引っかかる毛は無いか(。∀゜)
 一方でスタートからえらく好調だったのは予選5位のリアライズコーポレーションADVAN Z(1kg)・松田 次生、前戦鈴鹿では序盤に芝生を踏んで130Rですっ飛ぶ大失敗を犯しましたが、今回は目を見張る速さで順位を上げて14周目には大津を抜き早くも2位まで浮上。路面温度が高くなる決勝を見据えたタイヤなので自信あり、とレース前に言っていましたが有言実行です。
 この時点で先頭の関口とは2秒ほどの差がありましたが引き続き次生さん絶好調モード、なんと24周目のターン1で外から豪快に関口をかわしてリードを奪いました。これもやはり関口が最終コーナーでGT300に引っかかったことが原因です。ところが関口はこれで引く男ではありませんでした、2周後に今度は松田次生が最終コーナーでおそらくカーガイ296に引っかかったようで関口急接近。猛烈に詰めてくる関口とそれを抑えようとする松田はターン1を両方とも曲がり切れずはみ出しました(笑)
 それでも争いはそのまま続き、関口は汚れたタイヤで大暴れしながらもターン4で追突しそうなほどに距離を詰めると立ち上がりで内側に潜り込み、抵抗を許さずにリードを奪い返しました。これは近年なかなか見ない豪快な争いで、ダウンフォースなんて大して関係なかった時代を思い出しましたね。英語実況のコメンタリーも「レース オブ ジ イヤーだ」と絶賛。

 多くのチームは28周目からの最小限の周回数でピットに入ってドライバー交替を終えてしまいますが、4位以下とは大きな差が出来ていたため上位勢はさらに様子見。2位のコンドーレーシングは39周目まで引っ張って松田から名取 鉄平へと交替しました。ただ、けっこう引っ張ったことと目覚めのやや悪いヨコハマタイヤの特性からか、ピット後に2台のシビックに抜かれてしまって実質4位へと一歩後退。
 サードはさらに引っ張って42周目にようやくピットに入り関口からフェネストラズへ、実質1位は変わらず後続に8秒ほどの差を付けており、対リアライズZで言えば12秒ほどの差ができていました。これはかなり優勝に近づいた、と思ったのですが49周目に戦慄の事故が発生。

 最終コーナー出口付近で、結局事後情報としては5台が関係する事故が発生して、とりわけこの時点で4位を走っていたModulo CIVIC TYPE R-GT(17kg)はピット入り口の分離壁にほぼ真正面から突っ込む異例の大事故となりました。他にシェイドレーシング GR86 GTとD'station Vantage GT3(50kg/給油速度制限)が現場で全損級の大破、接触初期にapr LC500h GT(8kg)が関わっており、グッドスマイル 初音ミク AMG(50kg/給油速度制限)は大破して惰性でコースを横切るGR86に行く手を阻まれて立往生のような形になりました。事故に関する細かい検証は後にまとめて、ひとまず時間を進めます。

 この大事故で1時間近く中断、現地16時に走行が再開されましたが今回のレースは最長で16時30分までと予め規定されていたので、残り30分の時間制レースとなりました。と言ってもここからSC先導走行が入るため、実際にリスタートされたのは残り約22分・55周目からでした。1位はデンソーサード・フェネストラズ、2位は28周目にピット作業を終えてサイクル前の4位から2位に浮上していたAstemo CIVIC TYPE R-GT(24kg)・塚越 広大。そして3位にリアライズZ・名取でした

 リスタートからフェネストラズは快調に飛ばしている模様、一方3位の名取はタイヤが冷えたからかリスタート直後に完全に出遅れた様子でしたが、そこから2位の塚越を捉えます。塚越はタイヤが古いので前を追いかけるより後ろの対応という感じ、しかもまたFCYが入って56周目から約4分間は時間だけが経過した状態。一旦大量リードがリセットされたとはいえデンソーの勝利は揺るがないかと思われました。
 60周目/残り13分、名取が次生先輩をマネするようにターン1で外から塚越を抜き2位になりますがフェネストラズとの差は2秒。名取が速そうなのは確かなのでどのぐらい追い上げて行けるのか、と思ったらなんとあっという間に追いついてしまい、残り約10周ほどの接近戦になりました。

 ウエイト1kgと無いに等しいリアライズZに対してデンソーサードGRスープラは41kgの実ウエイトだけでもけっこう重いのに、最大燃料流量も1段階絞られているので長い直線の後半になるとすーっと追いつかれてしまいます。ここに、リスタートからたかだか10周ほどなので全然ばらけていないGT300の集団が現れて大混戦。どうもフェネストラズは車がズルズル滑っており、GT300を使いつつなんとかしのいでいるけどかなり苦しそう。フェネストラズが速くないので塚越も追いついてしまい、名取とすると後ろにも敵がいるので面倒な状況です。
 そのままとうとう残り時間50秒ほどで70周目に入ったのでこれが間違いなく最終周。狭いSUGOの道幅を全部使って名取を牽制し抑え込むフェネストラズでしたが、レインボーコーナーの立ち上がりで名取が上手く合わせました。馬の背で外から並んで並走に持ち込むとさすがにフェネストラズも対抗手段なし。
 切り返しのSPコーナーで内側を取った名取が前に出て、最終周の大逆転でリアライズコーポレーションADVAN Zが優勝、コンドーレーシングが2016年の第7戦(表記上は熊本地震の影響で開催できなかった第3戦オートポリスの代替だったので第3戦)以来9年ぶりの優勝となりました。次生さん、GT500通算25勝目で最多勝記録更新。たぶん前戦ですぐ引退しろとか散々罵詈雑言叩かれたと思いますが、ちょっと見返してやった感じでしょうかね。


 車載映像を見るとフェネストラズがめっちゃ悔しそうにしていたデンソーサードが2位、どうやら左側のミラーがちょっと壊れていて名取との位置関係が分かりにくかったそうですが、争いとしては最後までフェアーでした。3位アステモシビック、ポールシッターのARTA無限16号車は4位でした。auトムスは珍しくタイヤを外したようで前半に大きく順位を下げ、さすがに今回こそは無理かと思ったらしぶとく10位でチェッカー。さらに他者のペナルティーによる繰り上げで正式結果は2戦連続となる9位でした。連続入賞記録はまだ続く。

〇GT300

 一方GT300は大事故も含めてかなり色々と起こりました。ポールシッターのカーガイ296・オサリバンがまずは快走する、と思ったらあまりペースが上がらず7周目にLMコルサ・吉本に抜かれました。オサリバンは無理せず譲るように吉本に抜かれているので目先の順位よりもタイヤが、という雰囲気を漂わせており、実際この後も順位を少しずつ落として7位あたりまで下がりました。

 じゃあ吉本選手が楽に逃げたかというとそうもいかず、予選4位の初音ミクAMG・片岡 龍也と、予選は7位だったリアライズ日産メカニックチャレンジGT-R(50kg/給油速度制限)・平手 晃平がやがて背後に。GT-Rと言えば、量産車の販売がとうとう終了したので日産がいつまでGT3車両の支援活動を継続するのかは注目点ですね。国内ユーザーとすると予備の部品が手に入りやすくて、まだそこそこ競争力がある車なのでありがたい存在ではあると思うんですが。
 ベテランが集うこの1位争い、吉本選手はサクセスウエイトが軽いことも手伝って追われながらも絶対に片岡選手に決定打を与えず、前に何も起きないと平手選手は打つ手がなく膠着。結局順位が変わらないまま28周目にLMコルサは先手を打って吉本選手は先にピットへ。後ろの2人はいずれも給油時間が長くなるはずなので、オーバーカットされる心配はそんなにありません。

 その後34周目にコンドーレーシングが平手からジョアン パオロ デ オリベイラへ、36周目にグッドスマイルレーシングが片岡から谷口 信輝へ交替。実質の1位はLMコルサ・河野でオリベイラもすぐに実質2位の位置に付けますが、グッドスマイルはピットに入る前の大事な時間帯でGT500と300が入り乱れる大集団にハマってしまい、給油時間も長いので実質6位という状態であの大事故により中断となりました。

 再開後、GT500の争いが激しいしあと20分しかないからなかなかGT300は注目してもらえませんでしたが、河野選手に対してJPさんが猛攻撃。追うJPに対して河野も57周目にファステスト ラップを記録して対抗。僅差でコンドーのリアライズ号が最終周に入る、というGT500と同じような展開だったのでピットでは近藤 真彦も「JP行け!」と何度も枯れた声で叫んでいましたが(歌手的にそれで大丈夫なのか)、800gの重みを知る男・河野が逃げ切って今季&LC500初勝利。2021年最終戦富士以来4年ぶりの優勝でした。


 ちなみに公式サイトのリザルトなんですが、

Fastest Lap CarNo.60 Hiroki Yoshimoto 1’18.945 57/67 163.549km/h

 と書いてあります。57周目はドライバー交替後だし、チームのリポートでも河野選手がファステストを出して逃げたと書いてあるので記載の間違いですよね?
 コンドーレーシングの両クラス制覇はならなかったもののリアライズGT-Rは2位に入り、平手は20点を手にしてドライバー選手権2位に急浮上。3位はseven × seven PORSCHE GT3R(45kg)・近藤 翼/ハリー キングが入ってチーム初表彰台。グッドスマイル初音ミクAMGは4位でしたが片岡/谷口組もドライバー選手権3位です。


 両クラスとも今回はかなりタイヤで苦労したようです。事後情報ではグレイニングが多かったとのこと。グレイニングはタイヤの表面がささくれたようになって性能が低下する現象で、タイヤが綺麗に溶けていないことが主な原因となります。普段ならタイヤの作動温度領域を下回る状態で使う、想定より路面温度が低い時に起こりやすいんですが、今回はそこまで外れているようにも、温度が低くて困っているようにも見えないので別要因のような雰囲気。
 冒頭に書いた通り路面が再舗装されていますので、いくつかの話題をまとめて想像すると、そもそも路面の摩擦係数が上がったことでタイヤへの攻撃性がやや高く、また後ろのグリップ力が高くて『前を押す』ような動きも起こりやすくなります。最終コーナーは加速して後ろから押しながらもかなりステアリングを切って曲がっていく特殊なコーナーですから、想定よりも後ろが食いつきすぎて左前輪に負担がかかり、タイヤにきちんと熱が入らないうちに燃料たっぷりの車で強い負荷をかけて表面を傷めたことがグレイニングの要因か?とも推察できます。こういう場合はタイヤが柔らかい方がグレイニングが起こりやすいと思いますね。

 GT500でコンドーレーシングが優勝しましたが彼らのタイヤはヨコハマ。ヨコハマは既にスーパーフォーミュラでこのコースを経験していますので、時期的に間に合ってるか微妙ですがひょっとしたらSFで得たタイヤに対する路面の性格データが今回のタイヤ選択にも反映されたんじゃないか、と想像しました。それにヨコハマってどっちかというとガシっとしたタイヤなので、対グレイニング性がそもそもちょっと強いのかもしれません。タイヤも車も見事にハマり、そういう大事な機会でドライバーがきちんと結果を出す。GTらしい完璧な勝利です。赤旗で1時間待って路面温度が下がり、ひょっとしたらこれでタイヤの作動温度領域を外れてガタガタになるんじゃないか、とも思っていたので、思った以上に幅の広いタイヤだったことにも驚きました。
 ドライバー選手権では9位で2点獲った坪井/山下組に対し、ENEOS X PRIME GR Supra(47kg/-3)・大嶋 和也/福住 仁嶺は7位で4点獲って僅かに差を縮め、両組の差は8点となりました。この2陣営だけは獲得ポイントが51点を超えているので、ポイント×1kgウエイトの次戦も燃料流量が絞られます。auトムスは61kgなので44kg/-1、エネオスルーキーは53kgなので36kg/-1となります。

 GT300もタイヤは大きな要素で、どうもヨコハマ装着車でも選んだタイヤの種類によってグレイニングの出方はかなり異なった様子。カーガイは多かったようで結局レース結果は8位でした。できるだけグレイニングを気にせず走れることがまず優勝争いには必要だったとみられます。優勝したLMコルサはダンロップですが、ダンロップはどちらかというとオーバーヒートで苦戦する傾向が多い印象で、吉本選手もレース後のチーム発効レポートで『同じタイヤを後半のスティントでも履くため心配でしたが、気温が下がったことや周回数が短くなったことも後押しとなりました』と書いてあり、どちらかというとグレイニングより温度が上がりすぎることや摩耗そのものを気にしていた様子が伺えます。

 そして選手権上位勢に問題が相次いだのがさらなる驚きで、Dステーションは大事故で0点、レース序盤には選手権1位のLEON PYRAMID AMG(50kg/給油速度制限)・菅波 冬悟が16周目に珍しくちょっとミスってターン3で他者と接触してしまい自分がスピン。これが響いてこのレース11位で5点しか獲れませんでした。

 さらにこの事故の後ろで玉突きが起きて、HYPER WATER INGING GR86 GT(50kg/給油速度制限)・平良 響は車両の前部をぶつけてラジエーターを破損。そのまま車を停めてしまってこれまた無得点。上位勢が崩れた中でコンドーとグッドスマイルは大量点を稼いで一気に戦線に参加した形です。なおオリベイラ選手は2戦を欠場しているのでチームメイトの平手選手より15点も少なく、事実上チャンピオンを争う権利はありません。
 あと今季のGT300はややこしいことに8戦中7戦の有効ポイント制度なので、今とりあえず見ている点数や順位と、いざ最終戦で集計に入る時の状況が微妙に異なってしまうので、そこを頭に入れておかないといけません。何を隠そう私はすっかり忘れていました(笑)

・重大事故、結局何が起きていたのか

 さて、ここからは48周目の事故についてまとめておきましょう。オートスポーツウェブもモータースポーツドットコムも、レース後の速報体制で当事者の発言やその時点での情報を掲載していたものの、事後にきちんと整理してまとめた記事が見当たりませんでした。テレビ東京の番組が放送されるのを待ってみましたが詳細は無く、何ならモデューロシビックとシェイドGR86の接触が軸であるとも受け取れるようなナレーション原稿。オートスポーツ最新号もレース開催が発売1週間前だったので締め切りに間に合っておらずこのレースの話題は皆無でした。
 というわけで2つの情報サイトの話を繋ぎ合わせ、そこに現地最終コーナーで定点で撮影していたと思われる方がYouTubeにアップロードした動画を実際のものであろうと仮定して参考にし、おおまかな状況を把握することとしました。
なんでもあーりーたいむず モースポ /motorsport 様の映像をお借りします。



0 2人の証言

 とりあえず当事者となった選手の発言を2つのサイトが別々取材していました。ASウェブはDステーションヴァンテージ・藤井 誠暢に取材、

「外側から抜こうとした際にペースが落ちたのですが、そこに31号車が来て、横っ腹に当たってはじき飛ばされ、そのまま左を向いてクラッシュしてしまいました。」

としていました。

 これに対してモータースポーツコムはapr LC500h・オリバー ラスムッセンに取材、

「前にアストンがいて、彼(藤井)は外側に飛び出したから、イン側にいた僕はそのまま追い抜こうとしたんだけど、気付いたら僕のリヤとぶつかっていた。」

としており、双方の主張は真逆でした。ただ、レース後に藤井に対して危険な運転行為とするドライブスルーのペナルティー(もちろん未消化)が課せられており、おそらくはこの件についてのものとみられます。もし別件がたまたま出ていたのならまた話は変わりますが、藤井選手の復帰方法がaprの車両破損を招いて損害を与えた、と判断されたとおそらくは考えられます。

1 藤井が飛び出す

 ここから両記事の内容と動画を頼りに時系列をたどっていきます。最初にあったのは、藤井選手が前を走るアールキューズ AMG GT3・加納 政樹を外から抜こうとした際のはみ出しだったと思われます。加納選手はピットに入っておらず古いタイヤでリード ラップ選手でしたが、最終コーナーは内側のラインを走って藤井選手にほとんど譲るようなライン取りだったと思われます。しかし藤井選手は汚れた路面に乗ったせいかタイヤ半分ほど芝生の方にはみ出しました。

2 藤井とラスムッセンが接触

 幸いコース外にすっ飛ばずコース内に戻れた藤井選手でしたが、コースに戻って左端を走るのではなく道路の真ん中に向かって斜向していたようで、そこに後ろから追っていたラスムッセン選手がいました。失速した藤井選手より車速が伸びているラスムッセン選手、そのまま真っ直ぐ走れば勝手に抜ける状況で、左端から中央へ斜向していたヴァンテージがLC500hの左後部に接触しました。これでLC500hは左後輪のホイールが割れてパンク、一方ヴァンテージは当たった弾みでまた左側にすっ飛び、どうやらほぼ真正面から壁に衝突したようです。
 客観映像とペナルティーの発行状況からしてもラスムッセン選手の話に合理性があった可能性が極めて高いと考えられます。もっとも、ドライバーというのは必死に走ってると客観的に自分のことが分からないので、レース後すぐ話を聞きにいって事実と全然違うことを言ってるのは良いか悪いかは別にしてよくある話です。インタビューとその後の結果だけを見てただちに「藤井が自己保身のために大ウソをついた。」のような言い方をするべきではないと思います。
 また、斜向そのものはこの動画の通りだったとしても、それが後ろを見ずアールキューズのスリップを使おうとした単純な危険行為なのか、はみ出して右にステアリングを思いっきり切って抜け出したからヨーが残って直進状態に持っていけなかったのかは判別できません。このあたりも断定的な判断は避けるべきだと思います。実際、aprに当たった拍子にあんだけ急に左に巻き込んですっ飛ぶということは、その直前の車両姿勢もかなり不安定だった可能性が考えられます。

3 大破した破片で二次被害が発生

 話を戻すと、前から固い壁に突っ込んだヴァンテージは右前輪が丸ごと車体から千切れて走路上に飛んで行きました。後続の選手は左側で何か大事故が起きているのは視認できていたとみられて右へ回避していましたが、運悪くシェイドGR86・平中 克幸の車両に車輪が命中。平中選手は急な衝撃でふらついて制御を失いました。そのさらに後方にモデューロシビック・大草 りきがいて、全然逃げ場が無かったようです。
 大草選手は「20号車がもう、タコ踊りしながら右に飛んできていて」と話しており、上記動画でも平中選手は突然の衝撃で車両が右を向き、急いでカウンターを当てたら急に左を向き、もう一度カウンターを当てて右を向いたらもう制御できる範囲の状態ではなくなっていた、まさにタコ踊り状態と推認できる動きが確認できます。
 一番最後に初音ミクAMG・谷口 信輝が行き場を失って芝生の上に止まりましたが、既にかなり減速していたのと、破片やら事故車やらでどう避けるか事実上判断不可能で運悪く行く手を阻まれただけだったため、接触はあったものの走行性能に影響を与えるほど大きなものではなくレースを続けることができました。

4 さらに最悪の事態も考えられた・・・

 事実確認は以上ですが個人的にもう1つ。幸いGT500車両はかなり安全性が高い設計なので、壊れるべきところが壊れて大草選手は擦り傷程度で済んだ様子、他の選手も無事でした。そんな状態ですが結果として、ひょっとするとGR86とシビックの大破だけで済んでまだマシだったんじゃないか、と事後に思えることがありました。
 仮にGR86の後ろに誰もいなかったり、あるいはシビックと接触した場所がもう少しピット入り口より手前であったなら、ひょっとすると高速で走行している車両が制御不能でピット内に飛び込んでいた可能性があったのではないか、と映像から考えられます。仮にピット内に飛び込むと、その先は100mもしないうちに様々な運営用の車両が配置され、少なくとも2名の関係者が立っており、その先はもうピットの建造物です。
 タコ踊りしたGR86が最後に右を向いた時、その挙動の先はちょうどピット入り口の壁に当たるか、当たらずに回避してそのまま制御不能でピットに飛び込むのか、というかなりギリギリの軌跡を描いているように見えます。GR86と当たったシビックの行く先も、もしもう少し手前で衝突していたなら同様に右前方へと進んでピットへ一直線でもおかしくない挙動です。
 もしピット内で右側のガードレールに当たって弾かれれば、進行方向左側のピット ウォール方向に流れて行って、運が良ければ何も巻き込まず済んだかもしれませんが、破片が飛び散って直接ピットウォールに座っている人に当たったかもしれません。ガードレール沿いに進んだり変な弾かれ方で動いていたら、停車車両との衝突による火災、固い建造物や人との衝突による選手・運営者の人身被害など、死傷者が出て今頃SUPER GTはシリーズが打ち切られていたかもしれません。

 結果論ですが、大草選手はたまたまその場にいたことで、軽傷と4位と車両1台という犠牲を払って人命とシリーズを奇跡的に救ったのではないか、とも思えます。大草選手が事故後にXの自身のアカウントに

体は無事です。レース止めてしまってごめんなさい。 しっかりと受け止めて次戦に向けて準備します。 応援ありがとうございました。

 と投稿しているんですが、そもそも謝る必要が無い上に下手したらシリーズの救世主です。あんまり謝りすぎずに頑張って!


☆もうちょっと情報発信すべきじゃない?

 私が情報のつまみ食いでまとめられたのはこんな感じです。しかし、これだけの大きな事故で、まずSUPER GTの記事を多く手掛ける2つのサイトが改めてきちんとまとめた記事も無い、というのはちょっと情報媒体として物足りない気がします。下手したら片方のサイトの記事だけを読んで「当て逃げとかラスムッセンおかしい。」というように誤解した人もいるかもしれないし、どうもアールキューズの加納選手が藤井選手をコース外に押し出して事故の起点になったというような曲解をしている人もいるのではないかという様子。
 そもそもそれ以前に運営が公式にきちんと情報発信すべき問題で、これは長年の課題ですがGTアソシエイションは定例記者会見以外の発信機会が少なすぎますし、オートスポーツがまるで広報のような状態になって公式サイトでも情報量が少なすぎます。公式サイトでこの事故の件に関して上がっていたのは大草選手と、Dステーションレーシングのスタッフさんによる伝聞の藤井選手の話でした。(製作班が聞きに行った時は既に藤井選手もチーム監督も帰っていたらしい)

 死亡事故で映像を出すことさえはばかられる、というのならまだ事情は分かりますが、せめて運営として、今回の事故は手元の固定カメラやマーシャルの情報から、こうこうこういうことがあって、こういう流れでこういう結果となり、我々はこう考えたのでこの選手にペナルティーを出しました、という一連の経緯を、場合によっては映像を添えて早い段階で説明はすべきではないかと思います。
 説明しないことは結局間違ったままの情報の流布や誹謗中傷にもつながりかねません。かく言う私も慎重に行動したつもりですが、実は私が根拠とした動画もAIが巧妙に作った偽動画で騙されており、これを読んだ3名ぐらいの方にも嘘情報を広げてしまっている可能性もありますし、重大な事実の見落としがあるかもしれません。ずっと公式サイトで求人情報が載ったままですから人手も少ないんだろうとは思いますが、最低限それぐらいできる体制にはなっていないと、そもそもこの規模のレースを運営する組織として適していないのではないかという疑念にも繋がります、わりとマジな話で。

 それと、これは個々の判断なのでとやかく言う話ではないかもしれませんが、Dステーション レーシングがレース翌日に出したレースリポートではこの事故に関して『22号車に詰まって31号車に追いつかれて接触した』旨の記載しかありません、しかもちょっと『当てられた感』すら感じる文章の書き方です。さっき書いたようにレース直後の選手は仕方ない部分がある一方で、チームとして翌日にすぐ出した情報としては正直情けないかな、と私は思いました。
 ひょっとしたら関係者ですら根拠となる映像の1つさえ運営から提示されずにペナルティーだけが通達されている、というような状態(実際にそんなことがあるのかどうか知りませんが)なのかもしれませんが、それなら拙速に書かずに説明を求めるなり正直にそう書くなりした方が賢明で、今の内容では『このチームはみんなaprにぶつけられた被害者だと思ってるの?』と見られても仕方ない内容に思えます。
 あとは実際にチームに取材でもしていただかないと分かりませんけど、それを公式もメディアもやらないので、やらないから有耶無耶にしようとして、厳しい言い方をすると甘えたやり方が通ってしまうんじゃないかと思います。これは急にどっかに行ってしまうチームとかスポンサーとかも同じ話ですね。個人の趣味の走行会ならいいですけど、それなりの大きな企業が関わってる大きなプロの興行なんですから、もうちょっと大人の組織になれないものでしょうか。


☆すぐレッドじゃない?

 そしてもう1つ気になったのは、事故後すぐにレッドフラッグにはならなかったことです。事故発生後にすぐ現場はイエロー フラッグ2本掲示、SC導入も宣言されましたが、レッドフラッグ宣言までにどの車両も1回は現場をSC状態で通過していたと思いますし、なおも直線で隊列を整えるためにもう1回破片だらけで色んな作業をしている横を通過していたと思います。ゆっくり走ってるんだからいいじゃん?と思ってしまいそうですが、2年前にここで大事故に見舞われた山本 尚貴がこの件についてASウェブの取材に対し

「今回のクラッシュからの赤旗中断のところで、いろいろと思うところがありました。自分のクラッシュの時、やっぱりクラッシュ直後は後続車両が来ることに加えてコクピットの中で体が動かなくてすごく不安だったし、オフィシャルさんを待っている時間がすごく長く感じました」
「オフィシャルさんが来てくれた時でも、マシンが走行していて救助の際レスキューの方の声が聞こえなくて会話がしづらかったのを思い出しました。今回もドライバーの立場としては、すぐに赤旗を出して止めてほしいという気持ちがありました。すぐに赤旗を出すと再開後の運営が難しくなることも理解できますし、管制の中での判断は最大限リスペクトしますが、今回はコース上に散らばるデブリも多かったですし、人命にかかわるような大きな事故が起きた時にはそちらを最優先にできるような運用を改めて競技団のみなさんには考えてほしいなと思います」

と話しました。救助の際の話は体験しないと分からない重い言葉だなと思います。今の規則だと破片を踏んでタイヤをパンクさせてもタイヤは交換できないので、あんだけ破片を踏みつぶしてると低速でもパンクしていて再開後に二次被害が起きる可能性もありますし、山本選手の言葉は真剣に捉える必要があると思います。極端な例ですけど、規則が全く異なるNASCARなんてレッドフラッグといえばバックストレッチでもなんでもてきとーな空き場所で数十分レッドフラッグで事故処理を待つことはザラにあり、レッド=とにかくその場で止まる、の意味で使用されています。
 ホームストレートで事故が起きて作業してるのに、わざわざそこに全員集めて整列して中断、という仕組み自体が柔軟性に欠けているのは確かです。特にSUGOは勾配の関係で先が見にくいので、例えば極端な話オフィシャルさんが何か運ぼうとして転んだ、とかいうのをドライバーがすぐ視認できず撥ねてしまう、急減速して後続が追突する、といった二次被害の可能性も考えられます。
 とりあえずバックストレートに今の順位のまま車を停車させる『インスタント レッド』のようなものを作り、一旦そこで車を留め置いてある程度自体が収束したらインスタントレッド解除→SC→2周経過→正式なレッドフラッグ、のような普段と異なる枠組みも検討すべきではないかと思いました。車の再始動とか熱害とか課題は多いんでしょうけど、今のまま続けるとまた同じような問題が起きると思います。

☆やっぱりSUGOは限界?

 そしてここにたどり着きますが、シーズンで最も狭いのに平均速度が富士スピードウェイと大差ない、そんなSUGOで2クラス混走・40台のレースはさすがに限界ではないかという話です。事故の度に散々言われてる気がします。もちろんレースをやってる限り事故は起きるので究極の安全はあり得ず、富士なら安全、岡山なら安全、という話ではないですが、相対的に危険度が高いのは否めない事実だと思います。
 でもサーキットとすれば開催してもらわないと経営に響くし、もちろんこのコースでの開催を楽しみにしている方もたくさんいらっしゃるので、安易に「もう二度とやらん!」というのも現実的ではないでしょう。
 そこであくまで私見ですが、今年は富士で開催したクラス別レース、GT500/GT300分離開催をSUGOで行うのも一案ではないかと思います。富士で開催した考えの1つとして、年間2回開催だからそのうち片方が特殊でも良いだろう、というのがあるのは想像に難く無いですし、同じ理由から1回しかないSUGOで混走しないのはダメだろう、というのがまず理屈として立つと思います。ドラマチックSUGO、スゴウマモノさん、これらに混走という要素が関わっているのは明らかで、クラス別だと淡泊かもしれません。
 ただ、そう言っていて本当に何か起きたらどうするのか、というリスクと現状維持を天秤にかけた時に、選択肢の1つとして机の上に置くべき議題ではないかと私は思います。そして、当面そうして分離開催によりリスク低減を図りつつ、2030年からの次期GT500規定導入のタイミングでは両クラスとも抜本的に考え方を見つめ直して大幅に車両を遅くし、再びSUGOでも2クラスで開催を復活させる。これぐらいの大きな転換は真剣に検討されるべきかなと思います。

 次戦は10月18・19日、オートポリスで今年最後の3時間レース。トムスが蘇るのか、選手権で彼らを止める存在が現れるのか。去年は雨で予選が当日朝になるむちゃくちゃな日程になってしまったので、とりあえず天候は普通に行って欲しいですね。

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