F1 第18戦 シンガポール

Formula 1 Singapole Airlines Singapole Grand Prix
Marina Bay Street Circuit 4.927km×62Laps(-0.137km)=305.337km
winner:George Russell(Mercedes-AMG Petronas F1 Team/Mercedes F1 W16)


 F1 第18戦 シンガポール。言わずと知たF1初の夜間レース開催地であり、興行的に成功してその後の市街地レース増加を呼び込むことになったと言えるでしょう。マリーナ ベイ サンズの屋上プールから見下ろしてる映像はこのレースのみならずバラエティー番組なんかでも時々紹介されると思いますが、高所恐怖症の私は絶対そんな場所から下を見たくないです(笑)
 近年の市街地コースはやたら高速で危なっかしいですが、ここは昔からの市街地らしい短い直線と直角コーナーの連続で低速。2023年には現地の工事を理由にターン16~19の4つの直角コーナーが丸ごと削り取られて少し高速になり、一時的かと思ったら今年もそのまま使われています。情報サイトによっては来年、再来年あたりに元に戻るという表記も見られましたがはたして真相やいかに。
 また、コースそのものには変更が加えられていませんが計測方法の見直しか昨年より1周の長さが13mだけ短い表記になっています。でも短くなったのにF1公式サイトではレース距離が306.28kmとなっていて、なぜか昨年より伸びています。計算するとコントロール ラインとスタート ラインの位置に800mぐらいの差がある計算になってしまって明らかにおかしく、昨年までの数字では137mのはずなのでレース距離は勝手に305.337kmと書きました。Wikipediaもそうなっています。

・レース前の話題

 今のモータースポーツ界はどこを問わず実戦走行の機会はレースが行われる週末以外になかなかないため、シミュレーターを活用するのはごく当たり前。そんな中でメルセデスのアンドレア キミ アントネッリがシミュレーターに足を掬われていた、というちょっとした珍事があったようです。アントネッリは1年目ということもあってシミュレーター積極使用派のようで、オランダGPでももちろんシミュレーターで数多く練習して現場へ。ところが実際のザントフォールトで走行したらいきなり飛び出しました。
あれ、シムでは曲がれたのにな・・・

 実はチームがオランダGPに向けて用意したシミュレーターの設定が間違っており、誤ってグリップ力を高い設定にしてしまったとのこと。アントネッリは結果としてやけにグリップする車で仮想練習して、リアルの世界で全然グリップしないので飛び出した、という話になります。なんぼF1では1年生でもそれぐらい長年レースしてたらどうにかせんかいな、と言われたら反論しようもない一方で、選手にとって大事な準備で間違っていたチームも責任重大です。イタリアGPも同様で、前戦のアゼルバイジャンからちゃんとした設定に戻ったとのこと。
 しかし単純にグリップだけ高かったらラップタイムがあり得ない数字になるので気づきそうなもんですから、高いと言っても一般人からすると僅かな差だったりするんでしょうかね。まさか「おお、キミはええ!」とか言って誰も気づいてなかったんならとんだ笑いものです。最新技術の粋を結集しているF1ですが、たまーに『風洞実験場が壊れていた』とか『データの入力を間違えた』とか、わりとしょぼい理由で開発に大失敗するような話も耳にしますね。

・熱中症警戒!

 今年から暑さ指数のような指標に基づいて『ヒート ハザード』という熱中症警戒情報みたいなものが設定されたF1。高温多湿なこのシンガポールで初めて気象予報の結果が基準に該当すると判断されて、ヒートハザードが宣言されました。これにより、全ての車両にはドライバーを冷却するための装置の設置が義務付けられ、これに伴って最低重量がシステム搭載のために引き上げられます。使うのはいわゆるクール スーツですね。
 ドライバーによってクールスーツがお好みで無い人もいるため、今年は経過措置として着用そのものは任意になっていますが、着用しなくても装置の搭載義務付け自体は回避できず、またスーツを使用しない場合でも重量相当分・約500gのバラストを代わりに搭載することになっており、着ないから軽くなる、という利益は得られないようになっています。ちなみに今年からピットにはエアコンが導入されたので作業する人は従来よりずっと快適だそうです。うちの会社もやっと作業場にエアコンが付いたので、昨年まで局所的に40℃を軽く超えていたような部屋が33℃ぐらいになって楽になりました(え)

・練習走行

 あんまり参考にならないFP1ではフェルナンド アロンソが最速。本番の時間帯に近いため重要度が高いとされる夜のFP2ではオスカー ピアストリが最速、2位はなんとアイザック ハジャーで3位にマックス フェルスタッペン。アロンソがここでも4位に入っており、ランド ノリスは5位でした。ジョージ ラッセルはぶつけてしまって6周しかできず。
 また、リアム ローソンのクラッシュによって発生したレッド フラッグが解除された残り約15分、みんな急いでコースに出ようとする中でノリスに対してシャルル ルクレールが接触。けっこう勢いよくぶつかられたノリスはピット ウォールにぶつかってウイングが壊れてしまい、もちろんコースに出るはずもなくガレージへ連れ戻されました。フェラーリには危険な発進だったとして10000ユーロというちょっと高めの罰金が科せられました。
痛い!

 最後の練習機会・FP3はまたローソンが事故ってしまいましたが、最速はフェルスタッペン、0.017秒差で2位ピアストリ。3位は0.049秒差でラッセル。4位アントネッリ、5位ノリスは同タイムでいずれもフェルスタッペンから0.089秒差と異様な僅差で終えました。アロンソは前日とは違って15位と静かでした。
 
・予選

 暑さと壁と渋滞との戦い、Q2までの流れでも未だに誰かが圧倒的に速いという雰囲気ではなくポールシッター候補多数でQ3に突入しました。ところがそのQ3でラッセルが最初に記録した1分29秒165はコース レコードで強烈な特大先頭打者ホームラン。後続の選手は軒並み手が届かず、2位のフェルスタッペンですら0.175秒差です。
 どのドライバーもかなり最高に近い走りができていたようで、2回目のアタックでは僅かな記録更新程度にとどまって順位変動無し。ラッセル自身はさっきの記録をさらに0.007秒削りましたが、これがあってもなくてもピレリ ポール ポジションでした。カナダ以来今季2度目・通算7度目です。

 フェルスタッペン、ピアストリ、アントネッリ、ノリスのトップ5。ハミルトン、ルクレール、ハジャー、オリバー ベアマン、アロンソと続きました。角田はQ2落ちして15位、自信を持って手足のように扱えていない車でここを攻めろと言われても無理な話で、前戦までの課題を解決しきれなかった、というかそういう車で無かった時点でたぶんムリゲーでした。乗りやすいレーシング ブルズの車の方がよっぽど上に行けたのではないかと。
 なお、ウイリアムズはアレクサンダー アルボンが12位、カルロス サインツが13位でしたが予選後の車検でDRSの開口部が基準に違反していたため失格になりました。自主検査では問題なかったけど現場の車検では基準を満たしていなかった、ってなんか前にも似たような話ありませんでしたっけ?

・決勝

 本番前に雨が降ったようで、レコノサンスが始まると各者インターミディエイト装備で少し水煙が上がる状態。これはひょっとして面倒くさいやつ!?と思ったら期待通り(?)にはいかずスタート時点では綺麗に乾いていました。タイヤ選択はミディアムでのスタートが中心ですが2位のフェルスタッペンはソフト。このコースは偶数列が不利なので、順位を下げる危険性を少しでも下げつつ、あわよくば前に出てやれという感じでしょうか。
 そのスタート、フェルスタッペンはとりあえず2位をうまく確保してターン1へ。続いてピアストリが慎重な様子で続いていきますが、その懐に5位スタートのノリスが潜り込みました。ターン2を並走してターン3で完全に内側を取ったど~、と思ったら目の前にフェルスタッペン。距離を詰めすぎて追突しそうになり、というかちょっとかすってウイング左端の翼端板を壊しつつ急ブレーキ。そもそもちょっと突っ込みすぎていて姿勢を乱し、滑って右に動いた拍子に右隣にいたピアストリと当たりました。

 幸いタイヤで横同士が当たったようなので走行性能への影響は軽微の様子、ノリスはピアストリを抜くことに成功したわけですが、ピアストリはこれに憤慨。チームメイトとしてやるべき行動ちゃうやろ、フェアーにやらなあかんやろ、と無線で不満を撒き散らします。イタリアではピット作業の失敗で入れ替わった順位を返してやったんだから、フェアでないやり方でぶつけて抜いたなら返せよ、と言いたげ。競技ルールとしてはレーシング インシデントの範囲内で追加調査の必要なしでも、パパイヤ ルールとして取り締まってくれよ、ということですね。不満は撒き散らしても、オイルは撒き散らさないよ☆

 パパイヤルールは身内で勝手に処理してもらうとして、スタートで2位になったフェルスタッペンはソフトでなんとか長く走らないといけないので当然速くは走れず、ラッセルが単独で逃げて行ってノリスはフェルスタッペンの壁に阻まれます。そもそも抜けないコースなのに翼端板を壊してるから抜くなんてまあ無理でしょう。マクラーレンは無線を使ってピット陽動作戦でレッド ブルを釣りに行くぐらいしか手段がなく、結局19周を終えてフェルスタッペンが先にピットに入りました。この時既にラッセルから9.5秒も離されていました。
 前が開けたノリスはペースを上げますが、さすがに新品ハードのフェルスタッペンより速く走れるわけではないのでオーバーカットは不可能。フェルスタッペンが誰かに引っかかってくれたらチャンスが訪れるんですが、まるで海が割れるようにフェルスタッペンの前の人も順にピットに入ってしまうので誰も引っかかりません。ノリスもペースを上げたことでラッセルの差は1秒詰まって8.6秒ほどになったのでたぶん速いんだろうと思いますが、どうせ自分もタイヤを換えたらまたフェルスタッペンの後ろに回るのであまり意味を持たない数字になってしまいます。

 25周目にラッセルがピットに入り、翌周にノリス、そして27周にピアストリがピットへ。今回はピアストリのピット作業が上手く行かず、マクラーレンは平等主義を徹底している模様、1周目の接触に関してはチームとして今特に何かをするということもなく、ピアストリとするとひたすら面白くないレースになっています。対戦相手もいなくて一人ぼっちですしね。
(っ ◠‿:;...,

 ラッセルとフェルスタッペンはタイヤ交換に6周の差があったので一時的に3秒程度の差に縮まり、周回遅れが出てくるとこれが3秒を切るようにはなりますが、だからといって追いついて争えるわけではなく事実上勝敗は決した状態。ノリスはフェルスタッペンより7周も後のタイヤ交換なので見た目上は5秒差に開いており、追い上げて行って2秒差を切ったのは37周目あたり。ここから後方乱気流の影響を受けやすくなり、41周目にはターン16で大失敗して1秒ほど失って戻し作業が必要になります。サポートADさんが代わりにやってくれたりはしません。

 周回遅れが大量に表れた46周目以降はDRS圏内に入ってなんとか失敗を誘おうとしますが、あんまり変な動きをして接触したら元も子もないのでノリスができる手にも限りがあります。45周目にはニコ ヒュルケンベルグがスピンしてコースを飛び出し「おわ!とうとう波乱来たか!」と思わせましたがどこにもぶつけず自力復帰したので問題なし。結局1時間40分間ほとんど上位は何も起きないままレースは決着しました。
 ほとんどテレビに映らない活躍でジョージ ウイリアム ラッセルが今季2勝目・通算5勝目を挙げました。シンガポールはこれでパンデミックによる2年間の休止期間を含め、6大会連続で優勝者が異なるというなかなか珍しいレースです。ラッセルはシンガポール初表彰台、2年前のシンガポールでは最終周のターン10でうっかり右側を壁にぶつけてリタイアして表彰台を逃しており、忘れ物を早めに回収しました。また今季8度目の表彰台で自己最多となっています。
よく冷えてるんでしょうか?

 2位フェルスタッペン、3位ノリス、4位ピアストリと表彰台争いは1周目のまま終了。マクラーレンはこのレース結果で今年のコンストラクターズ選手権チャンピオンが決定しましたが、なんとも消化不良感のある内容でした。ドライバー選手権ではピアストリとノリスの差が3点だけ縮まって22点差、フェルスタッペンは6点縮めて63点差です。5位にシムレーサー・アントネッリ、6位ルクレール、7位はアロンソ。ピット作業で失敗があって「毎周話しかけてくるなら無線ブチ切るぞ。」とアロンソ節を見せていましたがなんやかんや上手いことまとめました。

 8位のハミルトンは波乱万丈、7位走行中の46周目に後続と差があるフリー ストップ状態だったのでソフトに交換、これで追い上げていき、ルクレールには道を譲ってもらい、そしてアントネッリに追いついて残り3周で相手はもう目の前にいました、がなんとブレーキが炎上。むっちゃ危ないので61周目はなんと他の選手より30秒も時間をかけて1周し、最終周も10秒以上遅いペースでギリッギリでアロンソの前・7位でチェッカーを受けました。ところがブレーキが壊れたために何か所もコース外を走行し、これに対してスチュワードが5秒加算のペナルティーを発行。苦労した7位が8位に変わってしまいました。

 ベアマンが9位、そして予選失格・18位スタートからなんとサインツが10位を獲得。サインツはダメ元のヘイルメアリーでSCが出るまで粘るべく51周をミディアムで走行、結局何も起きなかったものの、ここから残りをソフトで飛ばしてコース上でハジャーを抜いて10位をもぎ取りました。古いタイヤでもそれなりのペースで走れていたことが大きく、ウイリアムズのしぶとさと意外な時にハマるサインツの腕が上手く合わさりました。


 いやあ、ただ長かった(笑)2023年までは毎年SCが出動するレースだったのが、これで2年連続でSCに出番なし。そして今年はシンガポール史上初めてリタイアもおらず全員完走のレースでした。それでも1時間40分かかるんだからおっそいレースです。旧レイアウトの直角コーナー4つが無いと高速になって迫力は出る一方で、自爆する人が減るのでこういう展開は増えますね。個人的には旧レイアウトにして、レース距離は250km以下に短縮するような変化球でも良いんじゃないかと思ってるんですけど、どうでしょう。
 マクラーレン2人によるスタート直後の争いは、ターン2までの流れはノリスが完璧で、ターン3手前までの彼の動きは100点だったと思うんですが、ちょっと対ピアストリを意識しすぎて前の確認がおろそかになった印象はありました。フェルスタッペンに追突して翼端板を踏まれてたということはウイングを落っことす一歩手前ですからね。
 追突しそうになって慌てて避けてお隣さんに当たった、という流れで仮にピアストリが明らかにレースを失うような結果であればペナルティーやむなしだと思いますが、そうでなければ罰則無しは妥当な判断でしょうし、ピアストリとしてもあそこまで入られてしまった時点で基本的に勝負に負けているので、怒るのは分かりますがそこまで文句は言えないんじゃないかと思います。ただマクラーレンが色々と理由を付けて対等な扱いをしようとすればするほど、その過去の行動が別の場面で問題として噴き出すリスクにつながっているというのは改めてよく分かりましたね。アンドレア ステラ、果たして最後まで捌き切れるんでしょうか。
 ピアストリに関して言えば、オランダでノリスがリタイアして点数に大きな差が開いたことから以降のレースは非常に慎重に、絶対に間違いを犯さないようにする意識が強くなっているように見えます。ただそのタイトルに対する意識で僅かながらドライビング全体のリズムに乱れが生じて前戦での自滅などにも繋がり、ちょっと切れ味が弱くなっている気がするので、重圧がさらに大きくなってくる残り6戦でどうバランスを取るのかに注目していきたいですね。
 その点、もうほとんどチャンピオンなんて諦めてるしとにかく勝てるだけ勝てばよいという雰囲気のレッドブル/フェルスタッペンは脅威になります。おそらくみんな来年の開発に集中してハード面での車の進歩が限られる中、時々速いメルセデス、フェラーリを含めてマクラーレンの2人に割って入る争いをする人がちょろちょろ出てきますので、チャンピオン争いは段々と彼ら2位だけでなく他のドライバーとの兼ね合いも大きくなってきて面白くなってますね。

 次戦は大陸を渡ってアメリカ、そしてメキシコへと繋がる2連戦です。

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