ABB FIAFormula E World Championship
2025 Marvel Fantastic Four London E-Prix
ExCel London 2.077km×37Laps(-0.11km)=76.739km
Race Enery:27kWh+3.85kWh PitBoost
Reference Lap Time for FCY/SC 3:15
winner:Nick Cassidy(Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type 7)
ABB フォーミュラ E 最終ロンドン2連戦。前戦でオリバー ロウランドが早々にドライバー選手権でのチャンピオンを決めてしまったので選手権としてはマニュファクチャラーとチームの争い、いずれもポルシェと日産の争いで現状はポルシェが優勢です。消化試合なのでついつい見たのに油断して更新をサボってました(笑)
開催地はおなじみのエクセル ロンドン、昨年とコースのレイアウトは変わっていませんが、ターンの18道幅が少しだけ昨年と違うらしく、そのために昨年より1周の長さが3mだけ短くなっています、実質はほぼ変わりませんし国際映像で紹介される数字は2.08kmで昨年と同じになっています。また昨年から再舗装された区間もあるのでこっちは走っている側にはけっこう大きな問題です。
レース設定は土曜日が37周、日曜日が34周となっており昨年と同じ設定。エナジー総量が27kWhとシーズンで最も少ないのも昨年と同じですが、ここに土曜日の第15戦はピットブーストがあるため、1周あたりエナジー量としては日曜日のほうが厳しい設定です。ピットブーストの3.85kWh充電に変化は無いので充電量としては14%ほどとなります。前戦の記事で書いた通り、ピットブーストが許可される基準の60%はレースで使用可能なエナジー残量ではなくSoC=ステイト オブ チャージ=充電状態が基準と規則に書かれており、バッテリーそのものの残量から算出されるので国際映像で表示される残量%とは一致しません。
・レース前の話題
国際自動車連盟とフォーミュラEは、現在2038年まで締結されている開催契約について10年間の契約延長で合意したと発表されました。また、ザ レースの報道ではこの契約にはさらに5年間のオプション契約が付随していると伝えています。そもそも2038年までの契約(2014年のシリーズ開幕時に25年間の契約を結んでいたらしい)があったことすら知りませんでしたが、まだ13年も契約が残ってるのに10年延長って、聞いてもさっぱり理解できません(笑)
フォーミュラEは今後も20年以上にわたってFIAが公認する唯一の電動シングル シーター車両による世界選手権である、という立場が保証されたことになります。時々yahoo知恵袋なんかで『フォーミュラEはF1より速くなりますか?』みたいな質問がありますが、両社ともFIAが大枠を管理しているので、FIAがF1を超えるものは作らん!と思っている限りは絶対にF1より速くならないし、FIAが「もうこれからは電動車が世界一速い時代だ!」と思ったら逆転することも無きにしもあらず、そういう仕組みです。
そして、既に決定事項として報道されていたのですっかり忘れていましたが、ニック キャシディーがジャガーを離れることが正式に発表されました。またジャガーのチーム代表・ジェイムス バークレイも今季限りで退任することが既に発表されているので最後のレースとなります。
・特別スキーム
日産は今回、主力電気自動車・リーフの新型車両発売を記念して本来の赤色ではなく青色の特別なスキームで登場。チャンピオン獲ったぞ!的な意味もあるでしょうか。またマクラーレンもこれまたオレンジではなく青系統の特別スキーム、こちらはオクサゴンというロゴが入っていますが新しいスポンサー、ではなく冠スポンサーであるネオム=サウジアラビアに開発されている巨大都市構想の中で工業地区に付けられた名称だそうです。そしてマクラーレンはこれでフォーミュラEを去り、新しい買い手が見つからないのでチーム丸ごと消滅です・・・
また、今回レースの方の冠スポンサーにマーベルの最新映画・ファンタスティック フォー ファースト ステップスが付いており、アタックモードの命名権まで取得。今回は正式には『ファンタスティックフォーアタックモード』となっています。ファンタスティックフォーも青系統のロゴなので、由良さんは何が何か分からなくなっていました(笑)
・練習走行
FP1の最速はパスカル ベアラインの1分8秒026、これがFP2になると多少は路面も綺麗になるのかさらに速くなり、最速はニック デ フリースの1分7秒521でした。ミッチ エバンス、ダニエル ディクタム、ベアライン、ジェイク ヒューズのトップ5。300kWの記録に限定すると最速はティクタムで、ニック キャシディー、ベアライン、ジェイク デニス、エドアルド モルターラが続きました。ベアラインはどこを切り取っても速いですね。
・グループ予選
A組はキャシディーが1分8秒785を記録して最速、マキシミリアングンター、デフリース、ティクタムの4人がデュエルスへ進み、日産の選手権争いを考えるとデュエルスに進みたかったロウランドは5位で脱落。弟子のテイラー バーナードも6位、ノーマン ナトーは9位で日産パワートレインは誰もデュエルスに進めませんでした。
B組の1位は下馬評通りベアラインで1分8秒690、2位はミッチ エバンスですが0.224秒とけっこうな差がつきました。ヒューズ、ストフェル バンドーンが続き、おそらく来年は名前が変わるのでマセラティーとして最後かもしれないMSGレーシングが2人ともデュエルスに進みました。ポルシェはアントニオ フェリックス ダ コスタが9位で脱落、ポイント争いで貢献できない位置。
・デュエルス
A組はティクタムが1回戦でキャシディーを破りましたが、準決勝ではアウト ラップ中にミスってシケインを曲がり損ね、これがタイヤの準備に多少は影響したのかデフリースに0.009秒差で敗れて準決勝敗退となりました。まとまらずになお僅差ってことは決勝行ってたら・・・
一方B組は準決勝でエバンスが1分7秒301とここまでのデュエルスで圧倒的な最速を記録、対するベアラインもむっちゃ速かったけど0.034秒届きませんでした。相手が悪くて準決勝敗退とはいえベアラインはこれで予選3位が確定、そしてデュエルス決勝はデフリース対エバンスとなりました。
デュエルス決勝、セクター1・2ともデフリースが僅かに速くてこの段階で0.033秒(!)だけ先攻していましたが、エバンスはさっきの準決勝でまとめきれなかったここから先の区間を詰めてきてなんと1分7秒205を記録。デフリースも1分7秒379とじゅうぶん速かったんですが、1周をほぼ完ぺきにまとめたエバンスに敗れました。
エバンスがジュリアス ベア ポール ポジションを獲得、ジャガーは昨年も一昨年もロンドンの2連戦はすべてポールを取っておりこれでロンドン5連続ポールです。予選順位はエバンス、デフリース、ベアライン、ティクタム、キャシディー、グンター、バンドーン、ヒューズの順となりました。ロウランドは12位、ナトーが16位、ダコスタが17位です。
・決勝
だいたい荒れる、という荒れない方がおかしいロンドン。6位スタートのグンターがターン2でバンドーン、ターン4でモルターラと相次いで接触。グンターはモルターラと壁に挟まれた形になってサスペンションが折れてしまい、ターン5と6の間で止まってしまいました。グンターはコースの狭い場所で止まったので後続が行き場を失って大渋滞、これでいきなりSC導入。またこれとは別件でバンドーンはターン2でグンターと接触した後に後ろが暴れて見事にヒューズも撃墜しており、ステランティスはなんか仲間同士で潰しあってしまいました。まあロンドンはこんなもんです(笑)
4周目にリスタート、とにかく抜けないコースなのでエバンスは1分13秒台とグループ予選から5秒落ちの遅いペース、追いかけるベアライン陣営は「想定より2秒遅いペースで走っている。」と情報伝達します。こんだけ遅いと普通はごちゃつくものですが今回はそれすら起きう、たぶんみんな抜くことを全く期待しておらず、変にラインを変えたりするのもやめてひたすら前に合わせて節約している雰囲気です。
こうなるとどう考えてもアタックモードは人がいない時に使ってペースを上げ、人知れず時間を稼ぎたいので誰も動きがなく、そのまま走り続けて15周目〜16周目に大半のドライバーはピットブースト可能になりました。当然ながら作戦はアタックをピットブーストの前と後のどっちにするかで別れますが、リーダーのエバンスは先に使う戦略。ただその中でも周囲より2周ほど遅らせてからアタックに入る戦略を選び、これが大失敗。アタック中だけどそんなに速くないデイビッド ベックマンの後ろに回ってしまい、全く抜けずに時間を浪費。無線で
「何考えとんじゃ!危険性分かってたやろ!このクソつまらん危険性をな!馬鹿か馬鹿か馬鹿か!何の情報も上がってこない、ふざけんな。」
この後プットブーストを行いますが、既にピットに入ってその後にアタックを使ったドライバーにアンダーカットされまくりました。一方でチームメイトのキャシディーは徹底的に節約して4位を走行し、16周目に先にピットへ。ピット後にすぐアタックを使うのかと思ったら使わないまま通常モードで走って、それでいてアタックを使う後続を絶妙に抑え込むという嫌がらせみたいな走りを披露。これでピット サイクルが一巡するとなんと2位に浮上していました。国際映像もどうやって分かりやすく伝えるか試行錯誤してますね。
リーダーはスタートからずっと2位を走り、エバンスと違ってピット前のアタックでうまく先行してから充電したデフリース。デフリースはピット後に前が空いているので2回目のアタックも使って勝ち逃げを狙いましたが、まだこの時点でアタックを使っていないキャシディーにとっては好都合でした。
27周目、ようやくアタック1回目を使ったキャシディーが既にアタック切れのデフリースに襲いかかりました。デフリースも一生懸命抵抗しましたが、28周目のホームストレートで抜いて本日初リード、こうなると彼以上に好条件の選手が他におらず圧倒的に有利です。一方エバンスの方はアタックの戦略ミスが響いて7位に後退していましたが、さらに30周目のターン19でティクタムに後ろから引っ掛けられてスピンし15位まで後退。これはもうレース後に話しかけたくないやつ^^;
ティクタムはなんかペナルティー案件な気がしましたが、32周目のターン7で前の車を抜こうとして全然止まれず壁に突っ込み自爆、これでSCを呼んでしまいました。このとき半数ほどの選手が2回目のアタックモード中でしたが無駄打ちになります、まあ使い残すよりはマシか。なおティクタム、どうやらエバンスを引っかけたことについて走りながらも後悔していたようで、クラッシュ後に無線で「これだけは言っときたいのは、本当に本当にミッチに申し訳ない。デニスが外側にいてロックさせたんだ、本当にすまない。」
本人は失敗を認めてるぐらいですからティクタムには次戦5グリッド降格のペナルティーが出ました。レースの方は35周目にリスタート、残りは3周と追加の1周で合計4周です。レース周回数が増えない終盤のSCによってエナジー節約要素が薄まり、以降はキャシディーがぶっちぎりました。この4周で2位のデフリースを1.5秒引き離し、キャシディーが今シーズン3勝目・通算10勝目を挙げました。シーズン3勝目ですけど直近5戦で3勝です。
デフリースは今季2度目の2位、ベアラインが3位とファステスト ラップでチームに16点をもたらしました。4位からバンドーン、ジャン エリック ベルニュ、モルターラ、ロビン フラインス、デニス、ナトー、エバンスのトップ10でした。ロウランドは11位、特にそんなつもりもなかったのにエバンスを苦しめたベックマンが12位でした。
チーム選手権ではタグ ホイヤー ポルシェ フォーミュラ E チームが16点、日産 フォーミュラ E チームは2点しか獲れず、両者の差は37点となって逆転は絶望的。それどころかジャガー TCS レーシングが猛追してきて16点差の3位となりました。マニュファクチャラー選手権でも2位の日産は1位のポルシェに対して23点差、一方3位のジャガーとも28点差、微妙な位置関係になってきました。
今回はまさにジャガーの2人に明暗というレースでした。エバンスのアタックは明らかに後手に回り、彼が無線でブチ切れるのも分かります。どうやらエバンス陣営は自分たちがアタックで速く走るよりも、先にアタックを使ったデフリース、ベアラインを通常モードで抑え込んで相手を無力化することに焦点を置いた作戦だったようなんですが、何のためにピットブースト前にアタックに入るのか、というそもそもを考えれば絶対に誰かに引っかかってはいけないわけで、エンジニアも色々考えすぎて変な選択をしてしまった印象でした。
一方キャシディーですが、無線で「今日、戦略についてゴタゴタ言ったことについて全て撤回する、なぜなら俺は完全に間違っていたからだ。そちら側が完全に正解だった。」と謝罪。基本はエンジニアの方がレースを俯瞰して見れているわけで、失敗はあったとしてもやはり基本はエンジニアを信用しないといけませんね。たぶん早めにピットに入って、しかもアタックを使わず防戦を徹底した段階では「これじゃカモだぞ!」とか言ってたんでしょう。キャシディーが通常モードでアタック勢を抑え込んだ要因の1つは前半の徹底的なせ油宅によるエナジーの余力であり、先頭を走るエバンスはこれが無いから抑えることができず、抵抗して抜かれて時間もエナジーも余分に注ぎ込んでいました。
キャシディーは最近の調子と、デュエルスでは負けたけど車は速い自身があったせいなのかレース序盤のSC中もご機嫌だった様子。ストレート上で念のため無線状態の確認をエンジニアのジェフ レンファントから求められて
キャシディー「了解。フォー、ジュリア、アンブレラ、キロ。」
ジェフ「綺麗に行けてるよ、ありがとう。」
キャシディー「は?」
ジェフ「綺麗に聞こえた、綺麗に聞こえた、無線問題なし。」
キャシディー「え何?何?」
ジェフ「あー・・・」
キャシディー「ハハッ(笑)」
まずちゃんと車とドライバーが完璧に自信を持って走っていたというのが大きな勝因でしょう(笑)
・まだ分かりにくいぞピットブースト
見ている側が慣れるしかないピットブースト、国際映像の実況では私が書いたのと同じように『60%~40%というのはエナジー残量ではなくSoCだから異なる』というような話が出ていましたが、これがまだJ SPORTSの放送席には情報として共有されていないために正確な話が届けられていません。
さらに個人的に今回疑問点が増えたのが、最初に書いた通り今回のレースは27kWhの使用量上限に対してピットブーストが3.85kWhなので14%ほどの充電になるはず。しかし、今回たまたま残量表示状態でピットブーストを行ったドライバーがおり、その際に表示上で増えた残量は10%でした。じゃあ実は2.7kWhしか充電してないの?というと今回のレースの設定としてちゃんと3.85kWhだと書いてありましたから、そうすると考えられるのは『10%充電という説明に合わせるために、残量表示は27kWhを38.5kWh相当に1.42倍引き延ばして表示している』ということになってしまいます。もうこうなると何を信用したら良いのかよく分かりません(笑)
100%で始まって0%で終わり、という話自体には変わりがないのでスケールが拡大していようが関係ないっちゃあないんですけど、以前のファンブースト制度でも実際の規則に基づいた内容と国際映像が紹介している内容に差異がある状態で伝えられており、このあたりはもうちょっとちゃんとした方が良いんじゃないかと思いました。
ピットブーストの謎を来シーズンに繰り越しつつ、フォーミュラE シーズン11はいよいよ最終戦へと向かうのでした。
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