フォーミュラ E 第11戦 上海

ABB FIA Formula E World Championship
2025 Hankook Shanghai E-Prix
上海国际赛车场 3.051km×28Laps(-0.19km)=85.238km
※規定により31周に延長
Race Energy:38.5kWh
Reference Lap Time for FCY/SC  3:30 
winner:Nick Cassidy(Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type 7)
       
 フォーミュラE・上海の2戦目。昨日のレースはエナジー管理と速さのバランスがなかなか良い感じでだんだんとピットブーストをどう観戦するか分かって来て面白かったなと思いますが、一夜明けたら上海は雨でした。これでモナコ、東京に続いて3イベント連続で2連戦の片方が雨です、レギュレーションで『2連戦のうち片方は雨にすること』って書いてるのかと思うような巡り合わせ。
 計算上はこのレースの方が前日よりも1周少ないけど、3.85kWhの充電が無いので1周あたりに使えるエナジー量は少なくて難しくなるはずでした。しかし雨だとそこまでエナジー管理が必要ではなくなり、どちらかというと単純に雨で速い人が実力なりに走って全体がバラけるレースになります。逆から言うと、なぜフォーミュラEって全力でレースさせないんですか?という質問の答えもそこに半分はあります。やったところで速さ順に差が開いていくだけの単調なレースになってしまうからです。

・アタックモード未使用は罰するべき?

 今回はThe Raceの記事から1つ。今シーズンは第2戦メキシコシティーと第5戦マイアミで、アタックモード使用義務違反によるペナルティーが発生。特にマイアミでは多くのドライバーがレース終盤に2回目を使おうと温存していたらレッド フラッグが出てしまい、大量のドライバーが残った周回数ではアタックを消化しきれずレース後にタイム加算、着順と正式順位が全く違うという問題が発生しました。こうした出来事を受けて、果たしてアタックモード未消化はペナルティーを与えるべきものなのか、という議論が持ち上がっているようです。

 そもそもフォーミュラEにアタックモードが存在するのは、シーズン1~4のGen1車両で行われていた『レース中のピットでの車両乗り換え』がGen2車両では必要なくなったため、ピットに入らない代わりに『ピット義務のような戦略性を与える』というような意味合いがありました。レース中に遠回りをすることで一時的に順位が下がる、その代わり電気自動車の特性を活かして最大出力の瞬時切り替えができるから速く走れるようにできるし、速く走ってさっき失った時間は取り戻せる、これで戦略が生まれる、そんな概要でした。ピット義務の意味合いがあるので使わないとペナルティーを課せられます。
 特にシーズン9からのGen3車両では350kWという最高出力をタイヤが受け止められないので無駄が多く、他方でレース設定としてはエナジー消費量をとにかく抑えて走る必要性があるためにアタックモードは本当にただの義務という印象が強くなり、追い抜きの武器にはほとんどなりませんでした。抜くならエナジー残量の差に由来するリフト&コースト位置の違いでいくらでも抜ける、という流れです。こうなると本当にアタックなんて義務が無ければ使いたくないので、未使用へのペナルティーは疑問にはなりませんでした。

 ところがGen3Evoになった今シーズン、350kWと同時に四輪駆動に切り替わった上にこの時だけトラクション コントロールも使えるので、一転してアタックモードは前を走る選手がほぼ防御不可能な強力な追い抜き制度になりました。アタックを上手く使えばとんでもない台数のゴボウ抜きも可能になり、『義務の消化』から『順位を上げるために最大限活用すべき武器』に180度存在が変わったのです。
 そうなるとアタックモードは使わずに走る方が基本的には損、じゃあ使ってないから損している人にさらに罰を加えて見ている人にも意味の分からん状態になるのって本当に意味があるの?となり、内部では色々と意見が出始めているようです。同様に、アタックモードに入った直後にSCなどが出てせっかくのアタックが無駄になってしまうようなケースも、不運として切り捨てるのか、もっと良い方法を考えるのか、あるいはピットブーストもできたんだからアタックモードはやめてしまうか、様々な考え方や方策が考えられると記事では解説しています。シーズン5から出力の増加幅や持続時間などは調整しているものの根本的な制度は変えずに来ていましたから、見直しが行われても不思議では無いですね。



・練習走行

 とりあえずFP3を始めてみたものの、雨が酷すぎてご覧のあり様。始まってものの6分でレッドフラッグとなって再開されませんでした。
 
・予選

 予定から遅れつつも予選が始まりましたが、予めデュエルスは中止でグループ予選のみの開催と発表。普段の5位以下の順位決定方式の応用でグループ予選の結果で1〜11列目が決定し、1位タイムが早かったグループが奇数順位、遅かったほうが偶数順位です。
 ドライの130%程度のタイムしか出ない悪条件、車が全くもってまっすぐ走らない状態で、結果としてはA組のセッション中盤が条件としては一番マシな状態。A組の終盤以降はまた雨が強くなってツルッツル。B組のドライバーはスピンしまくりました。
 B組は残り4分でセバスチャン ブエミがスピンして砂場にハマったことでレッドフラッグとなり、再開はしたもののあまりに雨量が多いので結局1周ほど走っただけで強制終了となりました。これでA組最速だったキャシディーがジュリアスベアポールを獲得、B組最速のダコスタが予選2位となりました。キャシディーの記録は1分31秒305、ダコスタは1分32秒952、1.6秒も差があるところに路面条件の差が表れています。ベアライン、ルーカス ディ グラッシ、ジェイク ヒューズ、ベルニュ、デフリース、ストフェル バンドーンのトップ8。2連戦があれば1つは勝つ法則のロウランド、今回17位スタートですが法則の維持なるか。
 なお、キャシディーはグループ予選開始時の前の車両との間隔を空けるためにピットの走行レーン内で停止、これが事前に定められた決まりごとに反していたため調査を受け違反であるとの認定がされましたが、幸い戒告処分で済みました。あ、キャシディーは今季限りでジャガーを離脱するとみられていますが、代表のジェイムス バークレイも8月1日付でチーム代表を離れる予定となっています。

・決勝


 予定時刻よりは遅れたもののなんとか決勝はSC先導でスタート、先導走行4周目のキャシディーのタイムは1分31秒116で、さっき必死で走った予選よりも速く走ることができました、いかに予選の路面水量が多かったのか分かります。今なら本気で走ったら先導しているポルシェ タイカンの方がぶっちぎりで速そう。

 ようやく8周目にローリングでリスタート、その直前には先導走行中ながらエナジー残量が公開され、ポルシェの2人は周囲より4%ほど少ない残量となっています、タイヤに熱を入れるために色々やっているのではないかと想像。リスタートすると多くのドライバーは早速アタックへ、何があるか分からないので早めに使っておきたいのと、路面状況が悪い方が4WDと2WDの相対的な差が大きくなるので有利だろうという考えと思われます。デメリットはSCが出てしまったらここで速く走ったものが無駄になる可能性がある点です。
 ポルシェは前を走るダコスタがアタック2分、ベアラインは4分と分かれたので9周目に入れ替えを指示。リーダーのキャシディーも最初のアタックは2分だったので、ベアラインは2分差を利用して捕まえたいところでしたが、キャシディーは単体で非常に速いので追いつきませんでした。その後キャシディーは明らかに1人だけ別格の速さで15周が経過するころにはベアラインと5秒以上の差になります。

 全然追いつかないのでベアラインは無線で「別のデフのセッティングを試したいんだけど。」と伝えますが、エンジニアからは「それをやるだけのエナジー残量が無いからそのまま走ってほしい。」と返されます。これだけ聞くとよく分からん会話ですが、現地放送では解説のアンドレ ロッテラーが「例えば回生ブレーキの量を減らすとバランスが取れてより曲がるようにすることができるが、効率的ではなくなる。」とこの会話の意味を解説。
 回生は前後のMGUで行われており、運動力学的には前輪の回生の方が効率が良いんですが一般論としてブレーキ バランスは前寄りだと曲がりにくくなります。おそらくフロントMGUの回生量を少し減らすことで、ブレーキバランスを後ろ寄りにして曲げたいというのがベアラインの意図ではないかと推察します。J SPORTSの放送席では実況のサッシャが誰の解説でもなく自分で同じことを可能性として推察しており、サッシャさんさすがだなと思いました。もはや別の人が実況をやって、サッシャさんは無線を聞きつつ解説者として出演してもいいんじゃないかと思うぐらいフォーミュラEに詳しいですし、関心を持って、何より楽しんで実況しているのが感じられます。

 20周目、グンターの車両に電気的な異常が発生したようでレース コントロールからオレンジ ディスクの掲示、表示灯が赤色なので『レッドカー』と表現されるものです。グンターは東京でもレッドカーになってコース上で止まってしまい、止まってしまうとマーシャルが安易に触れてはいけないので撤去できないためいきなりレッドフラッグになっていました。また今回もいきなり中断か!?と思いましたが動力が無い中でなんとか惰性でピット入口まで自走したので中断は避けられました。DSペンスキーの車、雨になると電気系に不具合でも起きるんでしょうかね、雨漏り?

 22周目、キャシディーが2回目のアタック。レースのこれ以上の延長リスクが無くなったので他の選手もこのあたりで一気に2回目のアタックに入りましたが、キャシディーと後続の差は開くばかり。レースはリスタート前までのSC先導時間によって3周の延長・合計31周のレースとなりますが表彰台争いは差が開きすぎて無風でした。結局キャシディーはエナジーを10%も余らせて余裕のチェッカー。昨年の第9戦ベルリン以来となる通算8勝目で長いトンネルを抜けました。

 キャシディーとは対照的に残量僅か0.6%、7.1秒も離されましたが2位にベアライン、27周目にはファステスト ラップを記録して1点は意地でも掴みました。3位にはダコスタが入ってポルシェとすれば異様に速いキャシディーを無視すれば好結果でした。ベアラインはこんだけエナジー使い込んだってことは結局回生の設定いじったのでは。


 4位は第4戦ジェッダで3位になって以来久々の入賞だったヒューズ、5位は「俺すんごい独りぼっちのレースだな。」とぼやいてエンジニアに笑われていたベルニュ。調べてみたら10周目の段階で既に前と1.8秒、後ろと2.9秒差で確かに独りぼっち。最終的には前と6.7秒、後ろとは12.9秒差で誰もいませんでした。6位からニコ ミュラー、バンドーン、フラインス、ディグラッシ、バーナードのトップ10、ロウランドは13位で無得点でした。


 ドライバー選手権では1位ロウランド、2位は68点差でベアライン。上海に来る前よりは2戦で9点だけ差が縮まりました。しかしチーム選手権では今回大量の34点を獲ったタグ ホイヤー ポルシェ フォーミュラ E チームが日産 フォーミュラ E チームを逆転、1点差ながら1位となっています。マニュファクチャラー選手権では引き続き日産が1位ですが、ポルシェは26点差に迫っています。ステランティスは上海で最も多く点数を稼ぎ、日産から72点差の3位です。


 とりあえず苦しんでいるキャシディーが勝ってよかったなというのが正直な感想です、エバンスとのキウイコンビがたった2年で解消されるとなるとちょっと残念ですが、苦戦の主な理由がパワートレインと車両設計、そしておそらくは今年のタイヤに対する適応にあることはなんとなく見えており、キャシディー自身はむちゃくちゃ上手いことが改めて分かりました。雨だとアタックモードの戦略もへったくれもなく速い人が勝つものですから単調になってしまいますが、お天気には勝てないので仕方ないですね。
 レース中にコース外にみんな飛び出しまくっていたので、常設サーキットでなければたぶんまともにレースが成り立たなかったんじゃないかと思いますが、それでもSCが出るような事案が起きることなくなんとか最後まで走り切ったのはさすがプロでした。たださすがにもう雨のレースはお腹いっぱいなので今シーズンはいらないです(笑)次戦は6月21日にジャカルタです。

コメント