フォーミュラ E 第10戦 上海

ABB FIA Formula E World Championship
2025 Hankook Shanghai E-Prix
上海国际赛车场 3.051km×29Laps(-0.19km)=88.289km
Race Energy:38.5kWh+3.85kW Pitboost
Reference Lap Time for FCY/SC  3:30 
winner:Maximilian Günther(DS Penske/DS E-TENSE FE25)

 ABB フォーミュラ E、第10戦・11戦は上海での2連戦。昨年に続いて2年連続で上海国際サーキットでの開催です。漢字の『上』を模した形状のサーキットなのにターン8の先から裏道に入ってピット前に戻ってくるというなんとも消化不良な1周3.051kmのフォーミュラE用レイアウトです。このコース最大の特徴である長ーーーい直線に出番がありません。
 省略部分の裏道以外はF1を開催するためのコースなのでフォーミュラE的には幅が広くて全部が中高速コーナーという感じ、長く回り込むコーナーはズルズルズルズル滑るし回生はできないし、ということである意味特殊なコースです。
 最終のシケインは90度の小さなコーナーが3つ続いているので縁石の内側をガッツリ攻め込んで芝を蹴飛ばしながら攻めることになり、これも壁の近いコースが多いフォーミュラEとしては珍しい光景。でも縁石をまたげば跳ねて姿勢が乱れるし、やりすぎたらもちろんトラック リミット違反になります。今年はタイヤが柔らかくなりましたのでターン アングルの大きいコーナーでずーーーーっと負荷をかけていると左前輪だけヘタりそうなので、エナジー管理だけでなくタイヤの管理も大事かもしれません。

 今回も2連戦ですのでピットブーストが行われ、この第10戦が29周の決勝でピットブーストあり、第11戦は1周少ない28周でピットブースト無しです。昨年はどうだったかというとブーストが無くても土曜日が29周、日曜日が28周と今年と同じでした。距離の長い29周のレースに充電が入りましたので、全体としては昨年よりエナジー管理がやや楽になっています。
 
・レース前の話題

 ニック キャシディーが今季限りでジャガーを離れる見通しであると報じられました。シーズン9はドライバー選手権2位でエンビジョン レーシングのチーム選手権獲得に貢献、ジャガーに昇格した昨シーズンはチャンピオンに片手が届いておきながらポートランドでのまさかの自滅が主因でチャンピオンを逃し、そして車が変わった今シーズンはジャガーのパワートレインが明らかに低迷。こうした流れでチームを離れる決断をしたと伝えられています。
 移籍先としてはマセラティーが有力視されていますが決定ではない様子。キャシディーの離脱に伴ってジャガーも誰かを雇う必要がありますが、ダニエル ティクタムをはじめ何人かの候補の名前が挙がっています。ポルシェのアントニオ フェリックス ダ コスタも昨年来のやや不安定な立場に起因して、ポルシェを離れてジャガー入りするという憶測があるようですが、そんなに可能性が高くはなさそうですね。ジャーニーマン・ノーマン ナトーが日産で契約してもらえなかったら移籍する、なんてこともひょっとして・・・


・練習走行

 FP1、FP2ともダコスタが1位でした。300kWモードでの走行に限るとFP1はジェイク ヒューズ、FP2はテイラー バーナードが最速、バーナードはFP1も300kWで2位、FP2は350kWでもダコスタに僅差の2位ということで車に手ごたえはありそうです。

・グループ予選

 A組はグンターが2位以下を大きく引き離す1分9秒939で唯一の9秒台を記録。2位はジェイク デニス、3位にはキャシディーが入って今季初デュエルス、4位にドライバー選手権独走中のロウランドでした。練習走行で速かったのにダコスタは9位で脱落。
 B組ではテイラー バーナードが1分10秒045で最速、ニック デ フリース、パスカル ベアライン、デイビッド ベックマンのトップ4でした。ジャン エリック ベルニュはベックマンにあと0.008秒届かず5位で脱落。東京で大活躍だったティクタムは失敗して11位でした。と言っても4位のベックマンからたった0.188秒差、というかそもそもこの組は1位から最下位までピッタリ0.5秒差でした。えげつない。

・デュエルス

 珍しくロウランドが1回戦負け。A組はグンターが圧倒的な速さで勝ち上がり、B組もグループ予選1位のバーナードが順当に勝ち上がりました。準決勝での双方のタイム差、0.009秒。
 しかしデュエルス決勝では何箇所かズルっと行ったバーナードに対してグンターが1分8秒234とここまでの記録をさらに0.2秒ほど短縮して圧勝、ジュリアス ベア ポール ポジションを獲得しました。走るたびに記録を詰めて精度よく走るグンターはおそらく手に取るように車の動きを感じられたんじゃないかと思います。一方で滑りまくってもベストの0.1秒落ちで帰ってきたバーナードもけっこうバケモノだなと思いました。
 予選順位はグンター、バーナード、ベアライン、キャシディー、デフリース、ロウランド、デニス、ベックマンのトップ8となりました。

・決勝

 スタートで前に出たのは3位スタートのベアライン。スタートでも4WDモードはLEDバーが紫色になるので、どこまで全開で踏んでいてどこでスロットルを戻したのか、おおよその雰囲気が分かりやすいですね。ベアラインは前の2人よりも長く紫のままだったので戻さず前に行くつもりだったことがわかります。

 しかしレースはもちろんマネージメントの戦い、ここから先頭がコロコロと入れ替わりつつ混戦になり、2周目の最終コーナーではシケインなのに3ワイドの争いが発生、結果接触が起きてキャシディーは当てられてしまい360度スピン。これによりピットに入る必要が生じたキャシディーはこのレース21位でした。チームメイトのミッチ エバンスもMGU、インバーター、ギアボックスの一斉交換で大量のグリッド降格を抱えたため最後尾スタート+10秒停止ペナルティーを受けたので、全く競争の輪に入れず20位でレースを終えています。
 
 レースに参加している人たちはそこらじゅうで細かい接触がありつつレースが進み、少し落ち着いた10周目に先頭にいるのはアタック未使用のデフリース。同じ未使用組ではロウランドが2番手ですが、2人の間にはアタックを使っている人が続々と入ってくるのでサイクルが一巡しないとなかなか全体像が掴めず、しかもここに今からピットブースト要素が入ってきます。
 12周目、だいたい半数の選手は1回目のアタックを使ったかなというところで早い人はピットブーストも可能な状態になりました。1回目のアタックを使い終えている人は早めにピットに入るだろう、という判断か13周目にデフリースとロウランドが同時に1回目のアタック、そしてコース上でロウランドは先頭に出ました。一方で4位にいたグンターはまだ1回目を使わないまま13周目にピットブーストに入り、ピットを出たらすぐにアタックモードを使いました。
 ピット前にアタックを使って飛ばすロウランド&デフリースと、ピット後にすぐアタックに入ってアンダーカットを狙うグンターによる表と裏の争い、16周目にロウランドもデフリースもアタック終了につきピットに入りました。
 ピットを出たロウランド、ギリギリでグンターの前で合流しましたが、時間切れ寸前のアタックでグンターに抜かれて実質2位。さらに18周目にはこの2人の間にピットを出たベアラインが割り込んできました。ただベアラインはピット前にアタックモードを2回とも使い切ってしまう戦略だったので、これは実質的にロウランドの方が前にいると言えます。グンターはポールからスタートして、すぐに道を譲って人の後ろで節約しておき、そしてピットブーストとアタックモードの有効活用で上手く前に出ました。節約もしっかりできており、他の選手より2〜3%残量が多くなっています。

 この後もグンターとロウランドの間には2回目のアタックを使った人が何人か挟まっていてグンターがやや有利な状況。23周目にロウランドは先に2回目のアタックに入り、相手を見てからグンターが翌周に2回目のアタック。ロウランドは一時的にアンダーカットした形になり、チームメイトのノーマン ナトーも壁にしてグンターの足止めを試みましたが、さすがに抑え続けるのは無理で25周目にグンターが先頭に戻りました。残量もあるグンターはここから独走。最終的には2位に7秒もの大差を付けて第3戦ジェッダ以来の今季2勝目、通算7勝目を挙げました。ジェッダも今回もポール トゥー ウインです。

 一方で2位以下は大混戦、グンターを捕まえられなかったロウランドはバーナードに掴まり、当初はバーナード、ロウランド、ナトーが争っていました。しかし日産パワートレイン同士で容赦なく争っている間にティクタムが割り込んできて3位となりバーナードの背後へ。そのまま最終周に入りバーナードはひと足早くエナジーが厳しくなったように見えました。ターン9の先で明らかにもう踏めないバーナード、その横に並びかけるティクタム、とどこから来たのかベルニュ。バーナードの両側から抜いて行って大逆転でどっちかが2位でどっちかが3位だ!

 というところで国際映像がグンターのゴール場面に切り替わってしまい、そしてターン1側のカメラのまま待っていると最終コーナーを出てきたのはベルニュ、バーナード、ティクタムの順になっていました。何でそうなったのか分かりませんがDSペンスキーがワンツーとなりました。チーム史上初の出来事にガレージではみんな大騒ぎ。ステランティスはシーズン13以降にどういう形で参戦を継続するにせよ、ペンスキーとの提携関係は契約終了で更新されないのではないかと言われていますが、続けてみるのはどうかと思ったり。

 画面が切り替わった後の数秒で何があったのかというと、ターン9の先でバーナードを挟んで両側から前に出たティクタムとベルニュでしたが、ターン10のシケインにベルニュが勢いよく飛び込んだので外にいるティクタムは避けながら入るしかなく、そうしたらバーナードがベルニュの後ろに付いて行ってごっつぁんしていました。21位スタートであることを考えるとティクタムの4位は望外と言える成績でしたが、目の前にあった2位を失っての4位はかなり悔しいですね。
 5位からロウランド、ナトー、サム バード、デフリース、セバスチャン ブエミ、ロビン フラインスのトップ10でした。ポルシェは2人とも振るわず12位にベアライン、13位ダコスタでした。戦略を完全に失敗しましたかね。


 グンターのレースは非常に頭脳的で、ピットブーストのあるレースで1つの理想形という印象を受けました。節約のためにスタートですぐ1位を明け渡す、というのは定石ですが、人の後ろで上手く節約し、ピットブースト前にアタックを使って抜いてくる人に対して順位を下げないように、でも無駄にエナジーを使い込んで争わないように戦い、そして前が開けた条件を作ってピットで充電、出たら即座アタック、アンダーカットしたらあとは前にいる利点を活かして逃げ切る、素晴らしかったです。
 昨年までのレースだと、特にペロトン スタイルになると大雑把に『グループ予選の2秒落ちぐらいの相手が抜きたくても抜けないペースで残りの周回を全部走れる状態までひたすら節約して、誰よりも早くその条件に到達して前に出ることが出来たものが勝つ』という展開でしたが、アタックとピットという2要素の混合によって、節約を行いつつもレースの中盤で『理論上最も早く走れる方法を採る』という時間帯を設け、ここで誰かに引っかかったりせず走ることがけっこう大事になったのではないかと思います。
 問題はそういう要素がものの3周ぐらいの間、しかも1周70秒しかないサーキットで立て続けに起きるので見ていても把握しきれないことですが、運用方法や見せ方のちょっとした調整次第でかなり良いものになっているんじゃないかというワクワク感は今回ようやく感じました。細々とですがフォーミュラEのどの部分をどう見たら面白いのか、自分で探りつつ1mmぐらい皆さんにもお伝えできればと思います。

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