NASCAR 第8戦 ダーリントン

NASCAR Cup Series
Goodyear 400
Darlington Raceway 1.366miles×293Laps(90/95/108)=400.238miles
※NASCAR オーバータイムにより297周に延長
winner:Denny Hamlin(Joe Gibbs Racing/SportClips Haircuts Toyota Camry XSE)

 4月最初のNASCARはダーリントン、1950年に開業して今年が75周年となるトラックです。2005年~2019年は年1回の開催だったので先週のマーティンズビルには負けるもののこれがカップシリーズ通算128回目の開催。2015年以降はかつて使用されたペイント スキームを模した特別なデザインの車両で昔を懐かしむ『スロウバック ウイークエンド』と銘打たれて多くのチームがネタを仕込んでおり、年間2回開催が復活した2021年以降は春がスロウバック、9月は伝統ある500マイルのレースと特色づけされています。
 と言っても有名どころのドライバー/スポンサー関係のスキームはだんだんとネタが枯渇するので細かすぎて伝わらないスキーム選手権となり始めており、自身がレースを始めたころのもの、クルーチーフがドライバーだったころのもの、果ては自分が所有してる愛車まで色んな方向からネタが挟み込まれます。昨年はケゼロウスキーが『スポンサーのカストロールが全日本GT選手権で使用していたもの』という、むしろアメリカ人より日本人の方がピンと来るネタを用意してなんと優勝したのは印象深い出来事でした。NASCARを飛び出して『自動車界隈全体の過去に敬意を表する』みたいになってますね、いずれF1すらネタになるんじゃないだろうか(笑)
 これはちょっと目にしただけの話なので信ぴょう性は分かりませんが、アメリカの企業は掲載ロゴを本来の色ではなく白や黒などの単色にしたり、企画に合わせて文字の配置パターンを変更するような使い方に比較的寛容である一方で、日本の企業はけっこう厳しくて色の変更も許してもらえない、なんてことがあるとかないとか。確かにスロウバックって元ネタスポンサーのフォントっぽくした今のスポンサーのロゴをわざわざ作ったりしているので、企業さんの協力は不可欠ですね。

 シンドリックはデイル アーンハートが1979~1980年に使用した車両がモチーフ。アーンハート=3のイメージですが、RCRに所属する以前、まだフル参戦を始めたばかりの頃は2を使用していました。これは歴史的な発掘も含めてわりと正統派なスロウバック。


 ライアン ブレイニーは父・デイブ ブレイニーが2006年のエクスフィニティーシリーズで使用していたものをモチーフにしてるんですけど、なんか黄色がスポンサーのメナーズ寄りになっててちょっと色合いが違うかも・・・?

 色の話題はこんなもんにして、ダーリントンはシリーズでも珍しい左右非対称。ターン1・2よりターン3・4の旋回半径が小さくなっており、類型としては卵みたいな形状なのでエッグ シェイプとも呼ばれる特殊なトラックです。最大バンク角はターン1側が25度、ターン3側が23度とかなり高いですが、角度が付いているのは大外だけで内側は平たんに近くなる極端な形状。とにかく壁沿いを走るのが理論上は最速なので走り方としてはホームステッドを3倍ぐらい難しくした感じです。
 壁沿いを走るので擦ってしまうのは日常茶飯事、抜くために内側に飛び込んだらほとんどバンク角が無いので簡単には抜けません。とりあえず飛び込んで相手をかわし、外へ流れてバンクで助けてもらって追い抜きを完了する走り方はダートのレースで使われる技量と似ているため『スライド ジョブ』と呼ばれますが、スライドジョブは見切りを誤ると相手を壁に挟んで事故るので使い時を見極めないといけません。昨年もレディックがブッシャーをうっかり壁に挟んでしまって共倒れし、その脇をすり抜けてケゼロウスキーが優勝しました。
 ほとんどのドライバーが壁沿いかその1台内側を走ることになるため、特にリスタート直後に前方で接触が起きると後続車両は成すすべなくそこに突っ込んでいって多重事故も起きやすくなります。またタイヤへの負担も非常に大きいので丁寧に走らないとヘロヘロの車になってしまうため何から何まで非常に難しい要素が詰まっています。

・ちょっとしたデータ

 昨年のこのレースの勝者はさっきも書きましたがケゼロウスキー、レギュラー シーズン最終戦だった9月の500マイルを制したのはブリスコーでした。Gen7で開催された直近6戦では古い順にロガーノ、ジョーンズ、バイロン、ラーソンが優勝しており、2020年9月のレース以降9戦連続で異なる勝者となっています。現役最多勝はハムリンの4勝、平均順位8.2と突出数字を残していますが最後に勝ったのは2021年でした。ハムリンは20年も参戦していて55勝もしてますので、わりとどこのトラックに行っても『現役最多はハムリンですが最後に勝ったのは〇〇年です』になってしまいますが、先週はマーティンズビルで10年ぶりに勝ちましたからここも塗り替えてくるかもしれません。
 この期間の平均順位で言えば上からバイロン、ベル、ロガーノ、ケゼロウスキー、レディック、ウォーレスの順。6戦ぐらいの期間で区切ると平均順位1桁の人や全部トップ10入りした人がだいたいいるもんですが、バイロンですら平均順位10.3、トップ10回数も4回が最多。500マイルレースが存在しているせいもありますが、リスタート後の多重事故も多いですし毎回安定して結果を残すのが簡単ではないことを表す数字かなと思います。昨年のダーリントンを2戦ともトップ5で終えたのはブリスコーのみです。

・レース前の話題

 また訴訟です(笑)レガシー モーター クラブはリック ウェアー レーシングに対して訴訟を起こしました。レガシー側の主張によれば、双方は3月3日にRWRが保有するチャーター権1つをレガシーに売却する契約で合意しましたが、その直後になってRWRが売却を渋り始めているとしています。現地メディアが匿名の情報筋の話として伝えたところによれば、売却金額はチャーター売買として過去最高となる4000万ドルに達しているとされます。
 RWRはこの動きに対して「事実を歪曲し、当社の評判を傷つける試み」として反対する姿勢。匿名の情報筋によると訴訟の根幹は売却時期で、「RWRは2027年に売却するという認識で契約したものの、実際はレガシー側がRWRに無断で2026年の売却する内容にしていた」ことが対立を生んでいると伝えています。

 さらにもう1つエクスフィニティーシリーズから。JRモータースポーツは車体などに使用するカー ナンバー8について、今シーズンからデイル アーンハート ジュニアが現役時代に使っていた書体のものを使用しています。ジュニアが8番を使用していたのはデイル アーンハート インクの時代で、以降も書体の権利はDEIのオーナーであったテレサ アーンハートが有していたようですが、商標権を更新しなかったので昨年にJRMが取得したようです。栄光の8番復活というのはファンにとっては注目でした。
 一方でJRMが従来から使用していた『8』についても昨年4月商標登録を申請していたようですが、なんとこれに対してNFL・ボルティモア レイブンズの背番号8・ラマー ジャクソンが『自身が商標登録しているものと類似している』として異議申し立てを行いました。するとこれが明らかになった僅か2日後、JRMは昨年まで使用してきた8について申請を取り下げ、今後はジュニアが現役時代に使用していた仕様の8のみを使用すると発表、ジャクソンとの衝突を回避することになりました。番号1つをめぐってもこんなことがあるんですねえ(苦笑)


・Xfinity Series Sport Clips Haircuts VFW Help A Hero 200

 今週末はトラックシリーズがお休み。カップシリーズからチェイス、チャステイン、ベルも参戦したこのレース、オールガイアーが非常に速かったもののコーション出るたびにタイヤ戦略が分かれて14回のリード チェンジが発生。残り20周でリーダーとなったのはチャステイン、タイヤが新しくそのまま独走するはずでしたがクラッシュ発生でコーションとなって仕切り直し。
 このコーションでピット勢最上位となったのはジョー ギブス レーシングのブレンダン ジョーンズ、残り13周のリスタートでは前に2人のステイアウトがいましたが難なくかわし、2022年第8戦マーティンズビル以来3年ぶりの通算6勝目を挙げました。2023年にJGRからJRMに移籍するも結果が出ずに今年出戻りした28歳、「自信がついたのもいいことだけど、同時に、僕にはできないと言った人たちや嫌っている人たちが間違いだったと証明できた。」と語り、インタビューの最中に妻のアシュリーがやってきて抱擁しました。アシュリーさんは動物愛好家だそうです。

 なお高額賞金ボーナスが貰えるダッシュフォーキャッシュは、トラックシリーズのトリプルトラックチャレンジと同じ週末に開催したい方針からか今週は対象外、お休みとなっています。

・カップシリーズ
 予選

 ブッシュライトポールはバイロンが獲得、今シーズン2回目、通算15回目。2位はプリースでなんと3戦連続で予選1桁順位です。ハムリン、ブリスコー、ウォーレス、シンドリック、レディック、カイル ブッシュと続きました。エクスフィニティーでは惜しくも2位だったチェイスが予選15位、ベルは17位、ラーソン19位、チャステインは25位でした。練習走行で最速だったのはカーソン ホースバーですが、15周程度の平均タイムならベリー、30周近い長距離の平均ならブレイニー、プリース、カイル、ラーソン、レディックあたりが好成績でした。

・決勝前セレモニー

 ウッド ブラザーズ レーシングとダーリントンがともに75周年、WBRはダーリントンで通算8勝し、通算12回のポールは最多記録。今回はスタート前に掛け声をするグランド マーシャルもウッドブラザーズの皆さんが務めるということで、決勝前にFOX解説のクリント ボイヤーとケビン ハービックがWBRの旧車で2周のデモ走行を行いました。ボイヤーは1981年にニール ボネットが使用したフォード サンダーバード、ハービックは1971年にデイビッド ピアソンが使用したマーキュリー モンテゴです。

 ところがこのセレモニー、重大事故の一歩手前でした。彼らが周回している間フロントストレッチではレース前のイベントが終わって撤収作業が行われており、人がたくさんいました。まさかそんなに人がいるとは思っていなかったハービック、減速しようとしたらなんとブレーキが効かなくてびっくり。彼の乗るモンテゴはほとんどブレーキが機能していませんでした。放送上はちょっとはしゃいでるぐらいの語り口でしたが、非常に危険な状態だったようです。

・ステージ1

 気温29℃、路面温度は50℃近いようで今日もドライバーにとってクールスーツが有効という情報。エクスフィニティーのレースで黒くなったウォールは夜のうちに作業員さんが綺麗に塗り直して綺麗な色に戻してるとか言ってるのですげえなとか思っていたら、4周目のターン2でなんと19位あたりを走っていたラーソンが単独スピンして正面から内壁にクラッシュ。ターン2出口にある路面の凹凸は非常に厄介です。まだ4周しかしてませんがこのコーションでタイヤを換える人がちらほら。なおラーソンは2000年代のテリー ラボンテ風スキーム、ラボンテさん事故ってごめんなさい。


 9周目にリスタートしてタイヤの新旧差による争いが激しくなりましたが、壁接触でタイヤを傷めていたホースバーが24周目にスピンして2回目のコーション。ここはリード ラップ全員がピットに入り、ここまで全周リードのバイロンがピット競争でも先頭を守りました。30周目にリスタートしてここから先もバイロンはリードを守り続けます。
 ステージ残り61周と距離を残してリスタートしたので均等割りでもう1回タイヤを交換するのかと思って見ていたら、どうやらここはみんな我慢比べを選択した模様。タイヤも長持ちするバイロンは30周で2位プリースとの差を4.7秒まで広げて後続は歯が立たない状況です。3位にはプリースの僚友・ブッシャー、4位にはタイヤを労わりつつも順位を上げてきているブレイニーが続き、ウォーレス、レディックの23XI勢が続きます。

 ステージが残り20周を切ってくると何人かタイヤが終わってフラッフラになっている危なそうな人が出てきました、たぶん1ストップした方が良かったパターン。その中の1人、ブリスコーは65周目にはまだ15秒遅れの6位だったものが坂道を転がるように順位を下げて行って80周目には周回遅れになる寸前。ただブリスコーの周囲には複数の周回遅れもいたのでバイロンは取り囲まれる形になってなかなか抜けず、そして83周目にバイロンの周辺がごちゃついた末にホースバーがスピンして3回目のコーションとなりました。ブリスコーは周回遅れを免れて命拾い。
 ステイアウトしてどうにかなる状況では無いのでリードラップの人は全員ピットへ、バイロンはやっぱり先頭。周回遅れの人はどうせすぐステージ1終了なのでステイアウトしてウエイブ アラウンドを選択、実質タダで1周取り戻せるラッキーなパターンです。ステージ残り2周でリスタートしバイロンはステージ1全周リードを守って勝利、ウォーレス、プリース、ブッシャー、レディック、ケゼロウスキー、ブレイニー、シンドリック、ゼイン スミス、A.J.アルメンディンガーのトップ10でした。

・ステージ2

 大半はステイアウトして99周目にリスタート、バイロン無双継続。ただレディック、ウォーレスがこれに続いているのでピットでマイケル ジョーダンはなんか嬉しそうな顔、訴訟を忘れられるひと時でしょうか。そんな神様の期待に応えるべくレディックがバイロンをきっちりと追走、今日初めてバイロンの背後に車が付き続けています。その代わりというのか、ウォーレスは段々順位を下げてますが^^;

 この2人の争いにブレイニーが追いついた130周目、先陣を切ってブレイニーがアンダーカットを狙ってピットに飛び込みました。ここからピットサイクルとなり翌周にレディックも入りましたが、ここからだとまだステージが50周以上残っています。リーダーのバイロンはどうせアンダーカットを阻止できないので後ろの動きを無視、すると135周目にタイヤを交換したケゼロウスキーがスピン状態、ナットが飛んでいます。ケゼロウスキーは奇跡的に回らず立て直し脱輪もしなかったのでコーションは出ず、と思って油断したら3周後にデブリーを理由にコーションが出ました、金属部品が転がってるのは危ないですね。

 このコーションで引っ張っていたバイロンの作戦勝ち、当然まだタイヤを換えていなかった人はピットに入りました。アンダー グリーンで交換した人は大損となりウエイブアラウンドを受けて後方からちょっと使い古したタイヤでリスタートすることになります。144周目にリスタートしバイロンは未だに全周リード継続中。サイクル中のコーションで彼を追う顔ぶれがロガーノ、ハムリン、ベリー、ベル、ギブスとさっきまでと全然違う名前になりました。レディックとブレイニーは10位あたりから這い上がるしかありません。

 ところで、ふざけた会話をしていたかと思うと突然真面目なことを言い始めるFOX解説陣、ボイヤーは空がかなり曇った状況を見て「路面状況が変化する。」と指摘し、ハービックも「昼から夜になるサザン500でも罠があるがこれと似ている。」と路面状況の変化が各ドライバーに与える影響を注視しています。ただ1つ間違いなく言えるのは、今のところ晴れようが曇ろうがバイロンはずっと速いということ、ロガーノは付いていくことができません。
 バイロンは最後に周回遅れに引っかかって急激に追いつかれはしたもののステージ2も完全試合達成、ロガーノ、ハムリン、ブレイニー、ベリー、ベル、ギブス、タイ ディロン、レディック、ボウマンのトップ10でした。せっかくステージ1では良い感じに見えたのに、コーションで損したRFKの2人はブッシャーが13位、プリースは18位と沈んで戻ってこれない様子です。

 バイロンは2015年のジェフ ゴードンのスロウバック。そもそもバイロンは実質的にゴードンの番号とスポンサーを受け継いだようなものなので、スロウバックと言われても再現度が高い!と見るべきなのかいつもと変わらんやん、と見るべきなのかちょっと微妙だなといつも思います。

・ファイナル ステージ

 ピット作業もここまで完璧なバイロン陣営、未だ先頭を譲らず194周目にリスタート。しかし翌周にせっかく5位にいたベリーが軽くレディックと接触した流れからスピンして7回目のコーションとなります。このスキームは1965年のインディアナポリス500でジム クラークが使用して優勝した車両・ロータス 38のスロウバック。フォードのエンジンを搭載したクラークの陣営にはウッドブラザーズのクルーがピット作業に加わり、彼らもクラークの優勝に貢献したという歴史的1台です。カッコいいから応援してたのに(T T)

 続く201周目のリスタートではベルがバックストレッチまでバイロンと並走しましたが、バイロンは全く動じずに壁沿いを走ってリードを守りました。ここまで来ると記録を続けようとして作戦に変な心情が介入しそう^^;

 ベルでもバイロンには全然付いて行けず230周目には3.2秒ほどの差にまで拡大、そして残りの周回数が50周あたりになれば最後のピットサイクルがおとずれます。どうせ普通に戦ってもバイロンに届かないなら思い切った勝負をする人も出てくるだろうと思ったら、9秒差の5位にいたロガーノが238周目に上位勢で最初にピットへ。これを見て240周目に4位のレディック、242周目には2位のベルもピットへ。バイロンも244周目/残り49周でピットに入り、レース開始から2時間半ほど経過したこの段階でようやく本日初のリード チェンジが起きました。ハムリンがいつも通り均等割り作戦で引っ張って248周目にタイヤ交換。

 そしてピットを出たバイロンは実質4位になっていました。ピット前に3.5秒も差があったベルとはたった2周の差でしたがアンダーカットされており、レディック、ロガーノ、ベル、バイロンの順となっています、ピット作業時間に違いがあるとは言ってもアンダーカットはむちゃくちゃ効きますね。

 この後ロガーノが抜かれてレディック、ベル、バイロンの順となりますが、残り35周でレディックとベルの差はなんと6秒、タイヤは古いんですがクリーンエアーを得て得意のミニ四駆走りでさらに差を広げます。ここからレディックが周回遅れに引っかかっても差が5秒以下になることはなく、大きな変動がないままに残りが20周を切りました。
 しかしここで猛烈な追い上げを見せていたのがブレイニー。レディックと比べると7周も新しいタイヤを履いており、ピットから出た時点ではレディックと17秒差で14位あたりでしたが異次元の速さ。同じタイミングでタイヤを換えていて前にいたハムリンも抜いてしまい、残り16周の段階でバイロンもベルも簡単に抜いてとうとう2位となりました、レディックまで5秒差。

 これだけアンダー グリーン走行が続くとトラック全域に周回遅れが散らばっており、お互いにこれをさばきながらの争い。基本的にリーダーの方が周回遅れに抵抗されて損失が大きい上に、タイヤの新しいブレイニーの方が内側から抜いて行けるのでどんどん追いついていきます。残り10周で2.7秒差だったものが5周後にはもう真後ろに。レディックはちょっと攻めすぎて壁にも擦り気味です。もうタイヤが残っていないレディック、残り4周でとうとうブレイニーにかわされ、僅かに接触もあったかもしれませんがラインを外れてターン2で壁に接触して力なく失速。


 ブレイニー大逆転勝利! 


 ・・・は!?その後ろでテリーラボンテがスピン、クルーが1時間以上かけて直したフロントをまた同じ場所にぶつけて破壊しまさかのコーションです。ブレイニーからしたらあり得ない展開、放送ではまさかのスピンに気を取られて触れられていなかったと思いますが、ラーソンはレディックがラインを外れていったのでスロットルを戻して距離を取ったら、後ろからウォーレスに追突されて回っています。これでまさかのオーバータイム、リードラップ車両がピットに入りますが、なんとハムリン陣営が作業時間9.4秒の早業で3位から1位へジャンプ。レディック、バイロン、ブレイニーの順となります。

 というわけでオーバータイム、ハムリン/レディックの1列目でのリスタート。ターン1からバイロンとレディックが2位争いになったのでその間にハムリンは逃走、1周したらもう追いつかない距離まで離れていました。ハムリンがなんと2戦連続優勝で通算56勝目、先週ラスティー ウォーレスに並んで歴代11位タイになったばかりなのに、もうこれで単独11位となりました。2010年と2012年にも2連勝を経験しており、これで通算3度目の2連勝です。先週は 11 Against The World というデッカイ旗を持参してアピールしていたハムリンですが、今週はそういう仕込みはありませんでした。

 ハムリンは2000年にカール エドワーズが使用していたオフィス デポのスキームをイメージしたスロウバック、正直言われないと分かりませんけどエドワーズは今年NASCARの殿堂入りを果たし、このレースでグリーン フラッグを振る役目を仰せつかっていました。エドワーズは引退前年の2015年にサザン500でダーリントン初優勝、フロントストレッチの DARLINGTON RACEWAY の文字にクルーがテープを貼って『CARLINGTON』にしていたのは有名な場面だと思います、言われないとCにしたとはちょっと伝わりにくいけど(笑)


 時を戻そう。

「今、本当に愛しているのは二人いるんだ。ピットクルーとカイルラーソンさ。少しだけ助けてもらったよ、ありがとう。ピットクルーは本当に素晴らしい仕事をしてくれた。先週も優勝し、今週も優勝した。すべては彼らのおかげさ。」

 とハムリン。でも実際は追突したウォーレスの前方不注意も何割か入っており、そしてウォーレスは23XIのドライバー、自分のチームです。彼の角度から見てレディックが壁にぶつかっている様子は見えなくてラーソンの動きが予測不能だった、という不可抗力ではあるんですが、レディックが抜かれて負け確定の直後にレディックのチームメイトが事故に絡んで最終的にそのオーナーが勝ったので、もし最終戦だったら偶発的でも徹底して調査が入りそうなぐらいけっこうややこしい事案だなと思って見ていました。


 2位はバイロン、「ピットサイクルで彼らは積極的に行動し、そこで支配権を失った。そして失った支配を取り戻すことはできず非常に痛かった。」と完璧な展開から勝てずにややショックな様子。3位からベル、レディック、ブレイニー。勝てると思った数秒後に奈落の底に突き落とされたブレイニーは「レースで勝てると思ったので正直よく分からない。速い車を提供してくれた12番のチームを本当に誇りに思う。でもこんな運命だったとは思っていなかった、ここで勝ちたかったんだ。」

 6位はブッシャー、7位には25位スタートからけっこうレース中は攻める姿が見えていたチャステインが入り、チェイス、ギブス、カイルのトップ10でした。2位スタートのプリースはまさかの26位、ブリスコーは28位。せっかく直した車がまた中破したラーソンは2度目の復帰はさすがにできず175周遅れの37位でした。


 ベルの3連勝があったばかりなのに、今度はハムリンが13年ぶりの2連勝、今年のカップシリーズはどうなってるんでしょうか(笑)ハムリンの言葉が全てで彼の勝利はラーソンのスピンとピットクルーがほぼ全てという感じでしたが、コーション時点で3位にいたのは均等割りして少々トラック ポジションを失っても良い状態のタイヤで走るといういつもの作戦で仕事を果たした結果でもあったと思います。
 ここ数年のハムリンは勝ってはいるんだけどどことなくショート ランもロング ランも中途半端で勝負強さに欠ける印象を持っていたんですが、この2週間はまさにロングランでの上手さ・強さが結果に繋がっており、これは"アレ"のためにも必要な要素です。ステージ制導入以降のNASCARはどうしてもショート ラン重視のレース展開でそちらに車両を合わせたくなりますが、NASCARとグッドイヤーは摩耗の激しいタイヤを次々投入してこれに抗っており、とにかくアンダーカットしてクリーンエアー取ったもん勝ち、というパターンでは勝てない場面も増えてきた印象。ハムリン、ブレイニー、ベルあたりがそこに上手く対応していると感じます。
 一方、243周をリードしたバイロンはピットサイクルで後退、おそらく彼とルディー フューグルの考えとしては3.5秒差にいるベルの動きを注視、それより後ろの人はアンダーカットしてきてもどうせタイヤが潰れて落ちるから下手に反応する必要無し、という考え方だったと思います。それが、ベルに対して2周後にタイヤを換えたらアンダーカットされてしまい、これが大誤算でした。
 実際問題バイロンをアンダーカットした3人のうちロガーノが早々に順位を落とし、レディックもタイヤを53周もたせることができずに撃沈しましたので、雑な表現ですがベルの前にさえいれば支配権を手放さずに済んだ可能性はけっこう高かったと思います。ブレイニーのペースは速かったですが、バイロンはベルと争ってお互いに時間だけ使った周回があったので、もう1周タイヤ交換が早かったとしても摩耗で落ちるペースよりベルに関わらず済んだ利益が上回り、タイヤも酷使せず済んでブレイニーが追いつかなかった可能性はあると思います。
 ひょっとしたら、あまりに車が好調すぎて『今日の車は速いからとにかく手堅く行ったら何の問題もない』と 

アンダーカットのリスク < コーションのリスク

 で見積もって詰めに甘さが出てしまったかもしれないなと思いました。バイロンも悔しいですがフューグルもたぶんレース後は検証してタラレバでかなり後悔と反省しているのではないかと。でもあれだけの車を作り上げてピット作業も完璧に進めた戦いぶりは自信を深めるものでもあったでしょう、見ている側は独走のわりに面白かったです。仕組み的にほぼ不可能とは分かりつつも全周リードの優勝をちょっと期待して見てしまいました(笑)

 さあ、次戦はイッツ ブリストル ベイビー!

コメント

日日不穏日記 さんの投稿…
今回は、バイロンの全周回リードに期待していました。実況でも2000年のロードン(ニューハンプシャー)で300周ドミネイトして以来、と言う話もありましたし、他には70年代にケイル・ヤーボローが、ブリストルとナッシュビルで達成して、過去3回しかないのだとか。さすがにNASCARでは無理かな、と思いました。ただ、出来るかどうかのヒヤヒヤ感は楽しめました😅。F1では、PP獲得、ファステスト、全周回トップをグランドスラムと言うらしいですが、史上最多の8回獲得しているのが、今回のペイントスキームで話題になったクラークですね。ひときわ目立っていたので、ベリーには頑張って欲しかったのですが、残念です。NASCARとは無縁と思っていたクラークが、ピットクルーで繋がっていたとは、調べていて驚きました。あと、書いている間にインディ500の写真集のクラウドファンディングに協力して繋がっている、フォトグラファーの斉藤和記さんのフェイスブックで服部茂章さんの事故死を知りました。Yahoo!でも記事になっていたんですが、結果を万が一見てはいけないと思い、スルーしてたんですが、服部さんで検索して、記事を観ました。過去にボウマンやチャステインにチャンスを与え、このレースにスポットで参戦したオースティン・ヒルを育てた名伯楽です。最近はトラックでのフル参戦からは退いていたようですが、チーム、NASCAR、トヨタのリリースもあったようで、お悔やみ申し上げます。
SCfromLA さんの投稿…
>日日不穏日記さん

 さすがにオーバルでグランドスラムはアンダーグリーンのピット時にリードを守るのが不可能に近いからなあとは思いつつ、毎回絶妙にコーションが出る奇跡的パターンをちょっと期待してしまいましたね(笑)
 服部さんのことは私もレース後の事後情報を調べていて知りました。HREに関してはトラックでチャンピオンを獲った後にエクスフィニティーへのさらなる事業拡大を目指したことで逆にNASCARの厳しさに直面したような印象でしたが、まだ若いのに本当に驚きましたし残念でなりません。
アールグレイ さんの投稿…
近年明らかに色が違うのに、正直デザイン一緒ってだけでスローバックと言えるのか?というスキームも見られますが、アメリカの企業が寛容だからなのもあるのは初めて知りました。
それでも、チェイスの1994年のケン・シュレーダーの物を復刻したスローバックスキームは似てないとかSNSで言われていましたw
(チェイスは父親かチームOBのスローバックが多いイメージですが、何故今年のはああなってしまったのか)

ラーソンはスローバックスキームでよくトラブルに巻き込まれている感じがあります。
2年連続でテリーラボンテのケロッグスキームを壊してしまった事も残念です。
サウザン500やエクスフィニィティーのダーリントン戦では勝ったこともあるから決して苦手では無いはずなのに、どうして春のダーリントン戦だけはこんなに相性が悪いんだろうと気になります。

ハムリンは、カールとチームメイトだった事もありましたね。
カール本人にこのスキームでの勝利を見せられたことは勿論、番号とスポンサーが違うとはいえカールが現役復帰した様にも見えるのが良いです。
カールもJGRでは、2015年のコカコーラ600とサウザン500のクラウンジュエル2勝の活躍は凄かったですし、ラストイヤーもチャンピオンシップ4に残っていたのを考えると急な引退だったとはいえ、最後までトップクラスの走りをしていたドライバーだったと思います。
それなのにラウシュ時代のスキームなんだなとは思いましたが、カールの全盛期はこのスキームの頃だからかな?
これでJGRでのカップ戦勝利記録は56勝とカイルと並びましたし、得意なショートトラックの次のブリストル戦でもう更新してしまいましょう。

最後に、服部さんの事故は本当にショックで辛くなります。
長年アメリカで活動していた事は勿論、日本人オーナーとしての三大シリーズ制覇という滅多に出来ないことを成し遂げたことは忘れられません。
来年のスローバックで、想いを継いでくれるチームが見られることを願います。
そして、今年からトラックシリーズに参戦開始した尾形さんのチームも棄権するレースがあったり大変なところもありますが本当に頑張って欲しいところです。
SCfromLA さんの投稿…
>アールグレイさん

 スロウバックって別に連続で同じ人やデザインを使ったって構わないはずなのに、重複しないようにしてどんどん端っこの方に寄って行った結果似てないというなんか本末転倒なことになってますけど、もはやそこまで含めて楽しむもんだと思えばオモシロの宝庫にはなりますかね(笑)
 ハムリンはエドワーズで勝ったから来年もJGR時代のエドワーズのどれかしら、プログレッシブの青を使えそうなコムキャストスキームあたりを拾って走ってくれたらいいかなあとか勝手に想像しました。
 服部さんの件は本当に悲しいですね、尾形選手のXを見ると簡素なお悔みの投稿だけでしたが、1つの目標として見ていた存在ではないかと思うので外で見ている我々なんかより遥かにショックだったんじゃないかと思います。1レーススポット参戦するだけでどれだけ大変か、アキノリパフォーマンスを見ると感じますし、それをフル参戦してチャンピオンって改めて考えるとどうやって達成したのか分からんぐらいの偉業です。