フォーミュラ E 第5戦 マイアミ

ABB FIA Formula E World Championship
2025 Miami E-Prix
Homestead-Miami Speedway 3.551km×26Laps(-0.02km)=92.306km
Race Enargy=38.5kWh
Reference Lap Time for FCY/SC=4:15
winner:Pascal Wehrlein(TAG Heuer Porsche Formula E Team/Porsche 99X Electric)


 前戦から約2か月経過したABB フォーミュラ E、公式には最初からレースが無かったことになっていますが、実際はタイ・チェンマイでの開催を見込んで確保していた日程が開催できず穴埋めできなかったための隙間がでした。仕方なく3月には著名人が現行車両に乗って走るという『エボ セッション』と銘打たれたイベントが開催されて、それはそれでけっこう宣伝にはなったそうですが、それを経てようやくの第5戦です。
 アメリカ国内のレースは運営にとって重要視されつつも各地を転々。ニューヨークは会場として使用していた港湾施設が拡張工事で使えなくなって、ここ2年は暫定的な位置づけでポートランドの常設サーキットで開催されていましたが、今年はマイアミに移動してきました。マイアミではかつてシーズン1で1回だけ市街地でのレースが行われたことがありましたが、今回使用するのはNASCARを見ていればお馴染みのホームステッド-マイアミ スピードウェイ。オーバルを使うわけではなく内側のロード コース部分を使用します。
 ホームステッド自体がペーパークリップのオーバルですから内側に作られたコースも当然細長く、やや長い直線と回り込むコーナー、あとは特設したシケインの組み合わせになります。市街地では無いのでミスったら即壁にぶつかることはないものの、コース外は芝生、その外側は場所によってはオーバル部分なので飛び出たが最後果てしなくコース外へ流される可能性もあってそれはそれで難しそうです。そしてターン10・11のシケインはわりと殺人シケイン感^^;
 オーバル部分と違ってインフィールドはあんまり再舗装されていない感じの色の白いアスファルトと、ターンでは外側のタイヤが通る部分だけコンクリートがパッチ舗装されている部分もあってなかなかに厄介です。日差しも強い場所ですしタイヤの温度管理が大変そうだなあというのがコースを見るだけでも想像できます。ちなみにアメリカでの開催地はフェニックス市街地での開催を早ければ来シーズンに実施し、アメリカでの年2回開催も視野に話が進んでいるとThe Raceは伝えています。

・レース前の話題

 マセラティ MSG レーシングは名目上はマセラティーのワークスですが、実際はDSのパワートレインを運営にお金を払って特例で"バッジ換え"しているチーム、基本的にはMSG=モナコ スポーツ グループが運営しておりマセラティーはスポンサーに近い立ち位置です。しかしこれだけでは予算が足りないのでチームは資金集めに奔走しているようで、The RaceによればジェッダE-Prixを前にブルックリン エアリックという人が率いる組織に買収されることで基本合意していたとのこと。エアリックはジェッダの現場を訪れていて国際映像でも『マセラティーMSGレーシング チェアマン&CEO』とテロップが出ていたようです。
 ところがその後にこの取引は破談になってしまい、財政的に厳しいため現時点でマセラティーMSGは暫定的にフォーミュラEの運営そのものが傘下に収める形になっているとのこと。マセラティーはGen4のパワートレイン製造者として届け出が出されていますが、これは『ステランティス』という枠組みをとりあえずマセラティーの名前で提出したという解釈をしておくのが良いようで、マセラティーのブランド名で参戦するのか、やっぱりDSなど別ブランドにするのかは分からない模様。
 そしてMSGレーシング自体はこのままだと財務規定を満たしていないことから運営は参戦権をはく奪する権利も持っているということで、引き続き外部の投資家を探して活動していくことになるようです。言い換えればマセラティーMSGに投資資金を持ってきてもらうためにも、とりあえずGen4の届け出をマセラティーの名前で出してみた、というステランティス側の戦略もあったのかなあと想像できますね。フォーミュラEって正直どのチームも車体のスポンサー広告が乏しいですもんねえ。

 そのGen4についてはジェッダで関係者に対して初期の車両イメージ画像が提示されたそうで、現在よりも車体が大型化されて現在とはまた異なる外観になりそうだとの情報です。また速さに関しては最高出力600kWの電動機を持つこともあってFIA F2に近いものになるというけっこう野心的な話で、初期のテスト車両は予定では今年の9月にメーカーによる非公開のテストが開始されるとThe Raceは伝えています。Gen3はCOVID-19の影響もあってチームが試作車を受け取ったのがかなりギリギリで開幕直前のテストでもバタバタしていたので、今度こそ余裕を持った日程で新たな車両へと繋いでいく予定が今のところは立てられています。

 なお今回のレース、アンドレッティーは母国アメリカということで普段とは異なる青色が基調となる特別スキーム、


 またクープラ キロもアメリカの投資会社が所有するアメリカチームなので、今回はマーベルの新作映画『サンダーボルツ』の宣伝を前面に押し出した特別スキームです。映画や楽曲の宣伝で顔写真などが貼ってあるのはNASCARだとわりと馴染みになってますけど日欧のレースではあんまりまだ馴染みがないかもしれませんね。


・グループ予選

 誰にとってもまだまだ未知の要素が多い中、A組は大本命と思われたオリバー ローランドが苦戦。最速はアントニオ フェリックス ダ コスタの1分24秒796で、ストフェル バンドーン、ジェイク デニス、デイビッド ベックマンのトップ4でした。ローランドは1回目のアタックが今一つ、タイヤを冷やして挑んだ2回目はシケインを曲がれず撃沈して8位。ダコスタにしてもタイヤの冷却を挟んだ2回目は記録を伸ばせず途中でアタック終了しており、温度と内圧がどこで最も良くなるのかまだまだ掴めていない雰囲気です。
 続くB組の最速はロビン フラインスが最後に記録した1分24秒756、A組とほぼ同水準。2位はルーカス ディ グラッシでローラ ヤマハ アプトは初のデュエルス進出です。ノーマン ナトー、ニック デ フリースが続き、1位から4位の差はたった0.076秒でした。4位に0.027秒届かずパスカル ベアラインが5位、ニック キャシディーも7位で脱落しました。キャシディーは1回目のアタックはシケインで失敗、2回目はトラック リミット違反、最後はもうタイヤが終わっている感じで計測に入る前からなんか無線で怒ってました^^;

・デュエルス

 A組側ではデニスが引き続き好調、準々決勝で1分23秒000のピタリ賞を記録すると、準決勝でもダコスタを0.021秒差で破りました。一方B組は準決勝でフラインスがちょっと攻めすぎた印象でナトーに敗れました。A組1位のデニスとB組3位のナトーによるデュエルス決勝、昨年のアンドレッティー僚友対決となりました。
 先攻のデニスはターン1出口でトラックリミットギリギリを通って土を蹴飛ばしながら攻めますが、準決勝でのフラインスと同様にちょっと行きすぎた印象。一方ナトーは可能な限り車を真っ直ぐ丁寧に進めている印象で、この走りが奏功したか1分23秒037を記録し0.129秒差でデニスを下し自身初のジュリアス ベア ポール ポジションを獲得しました。代表のトマソ ボルペも大喜び。ナトーはデュエルスの3走を全て1分23秒0で揃えており内容も見事です。

 日産はローランドが望外の活躍でここ2シーズン大きな進歩を果たしてきた一方で、サッシャ フェネストラズがやや期待外れで見切りを付けてナトーが再加入。しかし開幕からの4戦でナトーは無得点、チームとするとちょっとした『フェルスタッペン問題』になっています。日産はセルジオ セッテ カマラも開発陣営に加わっており、本人としても後任ドライバーまでの"繋ぎ"として扱われている現実も感じてはいるでしょうから、その中で1つ予選で見せられたことは好材料だったと思います。
 スタート順位はナトー、デニス、ダコスタ、フラインス、デフリース、バンドーン、ディグラッシ、ベックマンの順となりました。キャシディーは13位、ローランドは16位スタートです。

・決勝

 気温26度、路面温度はなんと50度。ホームステッドはフロントストレッチも4度のバンク角が付いているのでグリッド スタートでやや走りにくそうですから、今年から四輪駆動になったのはすごくありがたいなと勝手に想像しました。昔グランツーリスモのロビーお遊びシャッフルレースでデイトナを市販車で走ったことがあるんですが、ハイパワーな車でグリッドスタートしたらスタートの瞬間にみんな車が斜めによじれました(笑)

 暑いせいかみんなほぼバーンナウトもせず無煙で正規グリッドへ。スタートからまずはナトーを先頭に危険な序盤戦を乗り越えると率先して前に出たのはデフリース。マヒンドラ M11エレクトロはGen3時代と比べればいくらか効率が改善されてはいますが、そうは言っても先頭でレースを組み立てられるのかちょっと心配。
 1分36秒台というグループ予選の10秒落ちペースから入って、予選では細かい修正を入れながら綱渡りしていたコースをすごくゆっくり走行。一旦5位に下がっていたナトーが5周目になって前に戻りますが、今の段階では全く展開が読めません。6周を終えてエナジー残量が公開されますが、ずっと2位を走っているダコスタが上位勢で1%ほど多く持っている様子。すこーーーーしずつペースが上がっていきます。

 9周目からようやく1回目のアタック モードを使う人が出てきますが、過去4戦のように350kWになった途端ゴボウ抜きとはなりません。使った限りは単なる義務消化にしてしまうと結局は92kmを理論上最速で走れないことになりますし、かといってエナジーを使いすぎるのも避けたいところ、せめぎ合いになっています。ちなみにオートスポーツ誌を読んでなるほどと思いましたが、フロントMGUは共通部品なので自社開発のリアMGUほど効率が良くないため、アタックモードでどこまでフロントMGUを力行に使うかはエナジー管理の肝だそうです。フロントからの出力50kWは電費が悪いってことですね。

 13周目になっても半数ほどの人がまだ1回目のアタックを使わないという膠着したレースでしたが、折り返し点を超えた14周目になるとゴールまでの道筋が描けてきたのか示し合わせたように全体に争いが増え始めて2列で争う箇所が増えてきました。するとここまでひたすら他人の後ろで節約しまくっていたダコスタがアタックのサイクルを経てようやく先頭へ、2位にはチームメイトのベアラインが続きます。ところがほぼ全員が1回目のアタックを終えた17周目、デフリースの車が突然電源落ちに見舞われターン3の外側に車を止めました。これでSC導入となります。これから盛り上がるところに思わぬ横やり。

 車両は再起動したら動いたようで、特に作業も必要無いため19周目にリスタート、ダコスタは20周目にアタック2回目を使い、すぐにベアラインを抜いてリードを維持。ベアラインは2位にはいるものの9位スタートから追い上げてくる過程でけっこうエナジーを使っており、残量がダコスタよりかなり少ない状態です、残量もあるし先頭にいるし、今からアタックで後続を引き離せるし、ダコスタが完全に勝ちパターンに入りました。ところがその矢先でした。

 ターン10・11のシケインでとうとう恐れていた接触事故発生。ジェイク ヒューズがマキシミリアン グンターと接触してラインがズレてしまい、シケインを曲がれず固い壁に接触。道を塞いだヒューズにグンターとミッチ エバンスが突っ込んで止まってしまい即座にSC、そしてレッドフラッグとなりました、道がふさがって通れません(笑)グンター自身も内側にセバスチャン ブエミがいる3ワイドの真ん中状態だったので行き場がなく、ちょっとどうしようもない接触だったと思われます。

 20分ほど待ってレース再開、リスタート順位はダコスタ、ベアライン、エドアルド モルターラ、フラインス、ディグラッシ、ナトー、サム バード、キャシディー。リスタートは23周目からで残りは4周ですが、困ったことが1つ。この時点でアタックを使い切ったのは7人だけ、上位8人の中ではダコスタとモルターラのみです。さらにこの中でベアライン、ディグラッシ、キャシディーは4分残しですが、6分が残っている人も多数いました。4周弱で6分を使おうとすると1周のペースが1分30秒超、普通に走ったら使い切れずに残るし、使い切ろうとしたら遅すぎて順位を守れません、詰みました。
 
 23周目、スタンディングでリスタート。アタックが残った人がアクティベーションに殺到して渋滞するという笑うしか無い映像です。優勝争いはアタックを使ったベアラインがダコスタを難なくかわしてリード、アタックなしで丸腰のダコスタにできることはありませんでした。


 6分残しの人であっても万が一FCYが出れば順位を守って使い切れるかもしれませんし、受けるペナルティーがみんな同じなら前にいることで入賞できるかもしれないので全力走行、ダコスタからすると順位を争っていない相手にバカスカ抜かれて良い気はしない状態です。そしてベアラインと同様に4分残しだったディグラッシにも簡単に抜かれて実質3位になりました、ああ勝てるレースだったはずなのにどうして。
 そのまま最終周に入ると、アタックを使い切ったベアラインに対して使い切れないナトーが猛攻撃、チェッカー目前にベアラインを大逆転して一応最初にチェッカーを受けました。

一応は1位でゴール
※実際は6位

 がもちろん規定違反に該当するので審議に入ります。もちろん正確にはこの結果を待って正式なレース順位が確定するわけですが、まあ間違いなくペナルティーなので運営さんはフィニッシュ後の1位〜3位の停車場所にナトーを呼ばず、1位の場所にはベアラインが呼ばれました。もちろんその通り、優勝はパスカル ベアラインです。今シーズン初勝利、通算では8勝目。実はレースの序盤にベックマンがシケインで突っ込んできて危なく車が壊れるところでした。


 ちなみにぶつけたベックマンはパンクして緊急ピットしましたが、無線で「パンクした!あいつ俺のことコース外に押し出しやがった!」と、ちょっと誰のどの状況についてか分かりませんが怒っており、エンジニアは「どのコーナー?(=四隅のどれかという意味のコーナー→どのタイヤがパンクしたのか)」と聞いたところ「ターン10だよ!」と返答、意図が伝わらず会話が空回りしました。よくある

親「あんた、何でぶたれたのか分かってるの!?」(=なぜ叩いて怒られたのか)
子「・・・ネギ」(=どういう物体によって叩かれて怒られたのか)

みたいな状態ですね、聞き方って大事。

 アタックを消化できなかった人はみんな10秒加算のペナルティーを受けました。正式な2位はディグラッシでローラヤマハは初入賞が初表彰台、ディグラッシにとってもシーズン9の開幕戦以来2年ぶりの表彰台です。ダコスタは完璧なレースだったのにまさかの3位、たぶん彼の中で人生で最も嬉しくない表彰台のうちの1つでしょう、レース後に「アタックを使ってない人はみんな10秒ペナやから3位やで。」と無線で伝えられると「そんなん失格やろ。」と愚痴りました。

 26周のうち最初の13周は様子見で、みんなが終盤勝負を選んだらそれが落とし穴になって残り4周の段階でもうほぼレース結果が制度上決まってしまうという、もうこのレースは何を競っていたんだろうかというオチになってしまいました(笑)
 本来の実力としては常に2位を維持して節約しながら計画的にアタックを使ったダコスタのレースが完ぺきだったのは明らかでしたが、それ以外は誰のレースのやり方が上手かったのか、どういう作戦が出て来たのか、というこのレース最大の関心事が丸ごと全部吹き飛んだので答えが何も分からずじまいでしたね。状況を整理するために、自分調べですが見た目上の着順と正式な順位を並べてみました。


 上位4人でチェッカーを受けたナトー、フラインス、ローランドは10秒加算を受けても入賞圏に残りました。一方で5位のバードは同じく10秒加算を受けたら結果は18位、この画面に入りませんでした(笑)チェッカー時点で4位のローランドと5位のバードには3秒弱の差が開いており、これが10位と18位という大きな差を生んでしまいました。キャシディーはアタックは使い切れたものの、その前の段階で既にトラックリミット違反による5秒が決まっていたので、前の人たちがアタック未消化でペナルティーを受けると聞かされても「意味ないやろ、5秒あるやん。」とリスタート前から不機嫌でした。
 義務を消化した中では最後のアタックが無かった、赤旗前に既に使い切っていた人はひたすらに抜かれるだけの4周となり、結果論の"当たり作戦"はアタック4分残しを赤旗後に使用、でした。

・アタックモード義務に対する疑問・論点・解説

 で、ここで出てくるのは主に2つの論点だと思います。1つ目は『理不尽なアタック未消化でレース後にペナルティーっておかしくない?』で、2つ目は『義務を消化せず終えた人が消化した人より前にいてるっておかしくない?』です。

 1つ目については、アタックモードには一般的なレースのピット義務と同じような効果を持たせる意図があります。そうしたレースでも『ピットに入るのを引っ張っていたらSCが出て一人負け状態になった、事実上ここでレースが詰んだ』ということは起こり得るので、そう考えるとピット義務制度そのものの是非を別にすればよくある話で、アタックを使い損ねて詰んでしまうのもそこまで変なことでもありません。
 アタックモードは強力な武器ですがエナジー消費量が大きく、しかも使った後にSCが出ると『せっかくエナジーを使い込んで速く走ったのに無駄になる』というリスクがあります。また、レースの序盤はSC/FCY導入によるレース延長の可能性もあるので、それを見越した上でエナジー管理をすると『アタックがあってもあんまりエナジーを使えない』という制約があります。これがレースの終盤になるとさらなるレース延長リスクが消えるので『ここまでは使っても大丈夫』という計算が確定します。そのためチームは後半に6分を残したくなります。
 理論上で最も有効な作戦を採用する代わりに未消化という代償を払う危険性をはらんでいる、と考えるとこれも1つのリスク&リワードなので、未消化ペナリスクは作戦上織り込まれたものの1つだ、と解釈するとそんなに理不尽でもなくなってきます。ですから個人的にはSC導入のせいで消化しきれない問題自体は競技という側面ではそんなに大きな話だとは思っていません。
 『競技としては』という変な言い回しを付けたのは、これが興行という側面で見たとこに果たしてお客さんが納得してくれるのかというと全く別問題になるためです。みんながこういうのを作戦の1つ、フォーミュラE名物だとして楽しんでくれる領域になればしめたもんですが、まだそこまで世の中に浸透はしていないでしょうからね。ただアタック義務がある限りは違反行為とその罰則を定義づけしておかないと場合によっては無視したもん勝ちになりますし、アタックそのものを無くす場合はレース展開という点でまた好悪材料が出てきますね。何を取って何を捨てるかという話になってしまってそんなに単純ではなさそうです。

 そして2点目、未消化の代償が10秒加算で良いのかについて。理不尽な場合もあるからそこまで重大な違反とはしないという意味合いなんだとは思いますが、しかし『義務』と名付けられたものを履行せずに何十秒も残した状態でチェッカーを受けて10秒加算で済んでしまって良いのかは疑問が残ります。今回のケースはかなり極端ではありましたが、たとえばアタック使用者のナトーは弾切れのダコスタと比較して毎周1.5秒以上速く走れており、4周で5秒以上はアタックによって速く走っています。10秒は加算されてますけど、既に義務を終えた人との対比では実質のダメージは5秒分ぐらいしかありません。
 規則通りに義務を消化して終わろうとしたら入賞圏からはるか遠い位置まで下がらないことには間に合わなかったわけで、間に合わないから開き直ってかっ飛ばしたもん勝ち、というのが競技としてどうなんだと言われるとあんまり良いものには見えないですね。でもこれはさっきとは逆に、興行として見たら不可抗力で詰んだ人がノロノロ運転の区間タイムラリー状態になっているレースを見たいとは思わないでしょうから、折り合いという点では仕方ない部分もあります。
 また疑問点1の話になぞらえると『義務を消化しきれなくても必ずしも致命的損失にはならないかもしれないことまで前提にした作戦』というものが存在するんだというところまで全部呑み込んだら、これもリスク&リワードの範疇という考え方もできなくはないです。なお『アタックを1回も起動していない』『1回使ったけど2回目を起動していない』『2回目を起動したけど時間を使い切っていない』ではそれぞれペナルティーの扱いは変わってきます。
ところで紙吹雪が多すぎる件(笑)

 結局ツッコミどころ1も2も競技としての公平性・厳格性と、興行として考えた時の魅力・訴求力でかなり対極の考え方になってしまうのが難しいところで、逆から言えばその妥協点として今の規則はバランスを取った、悪い言い方をすればどちらにも振り切れないすごく中途半端な落としどころでどうにか成り立たせているのかなあと思います。この記事でそれがボンヤリでも伝わって『なるほど、そういう視点もあるのね』とモヤモヤ感が0.2%ぐらい薄れればなとか思いますね。
 個人的にはどちらかと言えばこういう土台部分の規則は原理原則をきっちりしておいてほしい派なので、アタック義務はあって良いし理不尽な未消化も作戦が抱えるリスクの範疇だし、違反した際の罰則が『義務違反』に見合ったドライブスルー相当の重たいタイム加算であるべきだと思っていますが、運営を考えるとそれが絶対正しい考え方だとは全く言うつもりは無いし言えないと思っています。
 結局今のところ、運営さんが正直に『フォーミュラEって謎のペナルティーが発生したり予期せぬ珍事が発生することもわりと多いけどそこも含めて楽しむ新しいモータースポーツですよ』とむしろそれごと全部楽しむような宣伝をして、起きていることにちゃんと何が起きているのか説明するのが一番良いんでしょうかねえ。

 そういえばこのレースの開始前、デニスが無線でこんなことを言っていたようです。

「もしいけるようやったら、誰か俺にバナナ持ってきてくれへんかな?このヘンテコなレースに投げ込んだろうと思うねん。いやでもホンマに欲しいな、腹へってんねん。」

 走りながらバナナとか亀の甲羅とか投げつけて川に落ちたり空に吹っ飛んだりするようなレースを考えたら、フォーミュラEで起きていることなんて些細で受け入れ可能なハプニングに思えますね(謎)次戦は5月3日・4日にモナコでの2連戦、この先のイベントは全て2連戦形式です、忙しい!

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