F1 第2戦 中国

Formula 1 Heineken Chinese Grand Prix 2025
上海上汽国际赛车场 5.451km×56Laps=305.066km
winner:Oscar Piastri(McLaren Formula 1 Team/McLaren MCL39-Mercedes)

 F1第2戦中国、昨年はコース脇の芝生が燃えるという怪奇現象が2回も発生した怖いイベントです(笑)シーズン2戦目ですが早くも今年最初のスプリント方式となっており、新人さんは開幕戦が雨でだいぶバタバタしたのに今週は練習走行の機会が少なくて大変そうですね。ちなみに私はスプリントであることを完全に見落としていたのでスプリント予選の録画を完全にすっぽかし、再放送を録画して慌てて追いかけました。
 上海国際サーキットは昨年に舗装の手直しが行われましたが、今年はちゃんと全面再舗装されています。凹凸が少なくなったので車高を下げて攻めることができる一方で、再舗装仕立てのコースは路面の状態が変化しやすいので状況を読みにくいという難しさがあります。速度域も上がるのでタイヤの攻撃性も高くなってもたない、と思ったらタイヤのラバーも乗りやすくて急激に摩耗が和らぐこともあり、昨年も再舗装が行われたベルギーやイタリアでは2回のタイヤ交換が必要だと思ったら意外にも1回で行けてしまって、机上の理屈だけではなくやっぱり走ってみないと分からないものだというのはどのチームも頭の片隅に入れていることでしょう。走ってみないと分からないのにスプリントだからデータ集めができないんですよねえ。

・レース前の話題

 3月20日、ジョーダン グランプリの創設者として知られるエディー ジョーダンが亡くなりました、76歳でした。ドライバーとしての活動の後、1979年に設立したチームでイギリスF3、国際F3000と活動の場を移し1991年についにF1に参戦。飲料ブランド・7upを主要スポンサーにおいた緑色の車体は印象的でおそらく今でも人気のある車両の1つに数えられると思います。
 なんといってもこの車両最大の出来事は第11戦ベルギー、傷害事件により出場できなくなったベルトラン ガショーの代役としてミハエル シューマッハーを起用すると、決勝は車が壊れて1周もできなかったものの、予選でいきなり7位に飛び込んだ衝撃的な走りで彼の才能を一瞬にして世に広め、政治的な駆け引きを生んで最終的にベネトンで引き抜かれることになり、その後の活躍はご存じの通り。
 敏腕交渉人としてチームを取り仕切ったエディーさん、年々高度化して必要な予算も技術も膨大になるF1においてプライベーターである彼らが競争力を持って輝いた期間は決して長くはなかったものの、1998年の第13戦ベルギーでデイモン ヒルがチームに初勝利をもたらし、2005年の撤退までに通算4勝を記録。2002年には佐藤 琢磨がジョーダンでF1デビュー、トヨタのエンジンを積んだ2005年の第9戦アメリカではミシュラン使用者が全車レースをボイコットするという異常なレースでフェラーリに次ぐ3位・4位に入ったことでも注目を集めました。実はこの年、私はティアゴ モンテイロ/ナレイン カーティケヤンという組み合わせをえらく気に入っていたので、ボイコットは最悪でしたが結果はちょっと嬉しかった思い出があります。
 2005年をもってジョーダンは完全にチームを売却し、その後もオーナーが転々としましたが消滅を免れた末にフォース インディアを経て現在はアストン マーティンへと繋がり、チームの拠点はついこの前までジョーダン時代からの施設が手直しされながら使用され続けてきました。ジョーダンが最低限レーシング チームとして戦えるだけの下地を整えていなければとっくに消えていたかもしれませんね。
 F1のオーナー業を引退した後はイギリスでF1中継の解説者を担当する一方で、エイドリアン ニューエイのマネージャーを担当していたそうで彼のアストンマーティン加入交渉にも関わっていたとのこと。またロックンロールが好きでドラムを演奏したり、様々な投資ビジネスも手掛けていたようで、中村 俊輔が長年所属していたことで日本でもおなじみのセルティック フットボール クラブにも出資していました。フジテレビNEXTの放送でもジョーダンさんについての思い出話が出たりしていましたが、色んな方面から愛された人なんだろうなあという印象を受けました。ご冥福をお祈りいたします。


・スプリント予選

 SQ2までは「そらポールはマクラーレンのどっちかやろ」という流れでしたがSQ3でまさかの展開。最初に出たピアストリが1分30秒929を記録しますが、後から出ていったハミルトンが一発勝負で0.08秒上回って暫定ポール。
 タイヤを冷やして2回目に挑んだピアストリは自己ベストにも0.011秒届かず、1回目のアタックで失敗していたノリスは2回目も失敗。最後にフェルスタッペンが抜群の速さを見せたもののこれまたハミルトンには0.018秒届かず、なんとハミルトンがスプリントながら早くもフェラーリ移籍後初のポールを獲得しました。

 スプリントのスタート順位はハミルトン、フェルスタッペン、ピアストリ、ルクレール、ラッセル、ノリス、アントネッリ、角田のトップ8となりました。先週ボロカスにけなされたっぽいローソンはSQ1・20位で敗退してビリでした。

・スプリント

 19周のスプリント、選ぶタイヤは当然ミディアム。蹴り出しはフェルスタッペンが少しだけ良さそうでしたがハミルトンが鬼ブロックしてターン1を制しました。一方6位スタートのノリスはターン6で飛び出してまさかの9位転落。どうも目の前にいるラッセルに追突しそうになって避けたっぽいですね。
 スタートからの争いが落ち着いたらみんなタイヤを気にして等間隔のマネージメント戦へ移行。高速コーナーで特に左前タイヤを傷めてしまい、直線が長いわりにはなかなか抜けない、という上海の特性は舗装が変わってもいつも通りでした。フェルスタッペンは徐々にハミルトンから離されてピアストリに少しずつ追い詰められ、15周目のターン14でとうとう順位が入れ替わりました。ただピアストリも2秒以上離れたハミルトンを追う力は既に無し。
 そのままハミルトンがスプリントを制し、フェラーリとしてもこのスプリント制度での初勝利。ピアストリ、フェルスタッペン、ラッセル、ルクレール、角田、アントネッリ、ノリスの順でした。フェラーリとハミルトンは中国で絶大な人気を誇るため、国際映像が赤い車を捉えるだけでスタンドのお客さんから大歓声が聞こえていましたね。

 アントネッリはほぼレース全域で角田のDRS圏にいましたが抜くことができず、ノリスは集団に埋まった状態では遅い上にタイヤの摩耗もかなり厳しいもので1人抜くのが精いっぱいでした。クリーン エアーが無いとタイヤはひどく痛むし、相当タイム差のある組み合わせでないと抜くのは難しそうですから午後の予選もとにかく1つでも前に出たいですね。

・予選

 ようやくマクラーレンが本領を発揮、1回目の計測では他を圧倒する記録でピアストリ、ノリスのワンツーとなります。2回目にピアストリはさらに詰めて今週末最速の1分30秒641を記録、一方のノリスはまたミスってしまって更新できずピット直行。最後にラッセルが0.082秒差を記録して2位に割り込みましたが、誰もピアストリには届きませんでした。
 ピアストリが自身初のピレリポールを獲得し、ラッセル、ノリス、フェルスタッペン、ハミルトン、ルクレールのトップ6。ハジャー、アントネッリ、角田、アルボンと続きました。ノリスはオーストラリアでもポールを獲ったとはいえ1回目のアタックは失敗、今回もスプリント予選、予選ともポロポロとミスが出て取りこぼしています。

 オーストラリアの2回目のアタックでは、はみ出して記録無効にはしたくないので道幅に多少ゆとりを持たせて走ってポールを獲ったように見えました。逆から言えばそれぐらい、極端な話『無理に攻めようと思わない』ぐらいが実際は彼にとってちょうど良い力の入り具合に見えるんですが、「ここで決めないと」と思ったら力んではみ出す傾向があり2年前にフェルスタッペンとある程度戦える競争力になった時からずっと続いているように見えます。
 上海は回り込む形状のコーナーが複数あって、今回の予選では風の影響で曲がって行くうちにコーナーの途中から追い風で後ろから押される、という箇所があって角田も最後はこれにやられていた様子。ノリスはターン14の立ち上がりではみ出しましたが、スプリントの状況も加味するとMCL39は綺麗に前から空気が当たっていない状態だと扱いにくい面がある車のようにも思えます。
 オーストラリアのあのアタックを見て私は「ひょっとしたら今回の流れで彼が『そうか、無理に気合入れなくて良いんだ』という勘所を掴むきっかけになったら無敵になるのではないか」と思ったんですが、少なくとも今週の段階では風の影響を織り込んでうまく調整余地を残すことができず失敗した雰囲気なので、完璧超人への覚醒は今すぐではなさそうですね。なおローソンはQ1敗退の20位でした。

・決勝

 タイヤがむっちゃキツいので基本はミディアム→ハード→ハードの2ストップ予想。でもFP1しか練習がないのにハードを試す時間は無いし、そもそもハードは2セットしか供給されないので仮に時間があっても試したら決勝で2セット使えません。ということで全く使っていないタイヤですからどのぐらいの速さでどのぐらいもつのかは机上の計算のみ、あとは臨機応変に考えないといけません。スタートで3人だけハードを選んでおり、彼らの状況はライバルにとっても大きな参考指標です。
 スタートで蹴り出しが良かったのはラッセルでしたがピアストリが鬼ブロック、進路を塞がれて失速したラッセルをノリスが抜いてマクラーレンのワンツーとなりました。フェルスタッペンは最近ではめズラしいスタート失敗で6位後退。スプリントと同様に最初の争いが落ち着いたらみんなタイヤを守って我慢するレースになりました。しかし5位のルクレールはスタート直後の争いでハミルトンにウイングの端っこを踏まれて壊れており、それでいてえらい近い距離で付いていきます。タイヤ大丈夫かいな。
 
 10周目から下位勢のピットサイクルとなって上位勢では13周目、4位ハミルトンと6位フェルスタッペンがまず同時にピットへ。14周目にはリーダーのピアストリ、3位ラッセルもタイヤ交換を行います。ピアストリの都合で1周待たされたノリスは15周目にタイヤを換えたためラッセルにアンダーカットされますが、延々と蓋される前に18周目のターン1で勢いよく抜き返しました。私にはヘルメットの奥にあるノリスの目から炎が上がっているようにみえました(笑)

 一方チームメイト争いに変な火が付いているのがフェラーリ、ウイングの壊れたルクレールはタイヤ交換の際もウイングはそのまま継続使用させ、それでいてなぜかハミルトンに引き続き食いついたまま。ルクレールの車はウイング左端の翼端板が無くなっており、高速域ではたわんで300km/hの速度域だと端っこが地面に擦れそうなぐらい曲がってるんですが、なぜか速いです。これにはさすがにチームも決断して入れ替えを指示、ちょっと実行されるまでに時間がかかったようですが、21周目にウイング壊れたマンが壊れてないマンの前に出ました。この後もなぜかコース上でも最速の部類でラッセルを追走しておりフジテレビNEXT放送席も謎の速さに興味津々です。これは私のようなNASCARファンからすると考えることは1つでしょう。

「ほんなら次のピットで調整するフリしてハミルトンの翼端板もへし折ったらええねん。」

 30周目、ハードを使い始めて上位勢は概ね15周が経過しましたがまだ自己ベストを更新していてタイヤは残っている模様。先程のタイヤ交換から残り距離を均等割りしたら次の交換目安は35周目あたりなんですけど、ノリスの無線では戦略がプランC、ペースはあまり上げていない、ピアストリがペースを上げてくれないとこっちはダーティー エアーを受けてしまう、ということなので話を総合したら1ストップでこのまま走りきってしまう可能性があります。なんか冒頭に書いた話が現実になってきましたね、ただ去年のベルギーはこのパターンでラッセルが重量規定違反で失格になってるので、『タイヤはもったけど使いすぎて軽くなった』みたいな落とし穴が無いといいんですけど。

 結局レーシングブルズとハミルトンだけが2ストップ、ほかは1ストップでながーーーーい距離をハードで走り切る方向で腹をくくった様子。ちょっとタイムだけを見たら2ストップで1ストップを逆転するのは難しそうなので他の人のタイヤが潰れるのを待つしか無い感じですが、その中で角田には追い打ち、47周目のストレート上でいきなりウイングの一部が壊れてコース上で最速のマシンに激変!するわけもなく緊急ピット、勝負権を失いました。振動で勝手に割れた?あと、放送席のモニターが小さいし色々見ながらしゃべらないといけないから仕方ない面もあるんだろうけど、フジテレビコメンタリー陣はウイング破損に気づくのがちょっと遅すぎでしたね・・・

 完全に持久戦になりましたので、あとはピアストリとノリスのどちらがタイヤをちゃんと最後まで使えるのかが注目どころでしたが、残り10周辺りからノリスはブレーキのペダルがだんだん長くなってきていると訴えて、どうもよろしくないので追いかけるどころではなさそう。後ろのラッセルとは差があるのできちんと完走することを大事にすべきなんですが、諦めきれないのかノリスはずっと3秒差を維持しています。壊れても知らんぞ~。
 結局ノリスは最後の2周になって一気に1周3秒もペースを落とす超安全運転に変更。ピアストリが通算3勝目を挙げました。

 間違えました、これは送り出しで高安を破って通算3度目の優勝を挙げた大の里でした。いやあ、ちょうど残り2周ぐらいのところで優勝決定戦が始まったのでごっちゃになりましたね。高安を応援してたんだけど、どうも優勝が視野に入ると力んでしまって星を取りこぼして最後に負けてしまうパターンから抜け出せませんね、あ、ノリスに似てます?

 2位にノリスが入ってマクラーレンは通算50回目の1-2フィニッシュ達成です。3位のラッセルはメルセデスの通算300回目の表彰台、なんかキリが良い話ばっかりですね。4位は残り4周でルクレールをかわしたフェルスタッペンが入りました。合法空力チューニングを使って1ストップで走り切ったルクレールと2ストップしたハミルトン、チェッカーを受けた時にその差は2.17秒でした。ハミルトンはタイヤを換えてもフェルスタッペンに順位を渡すだけで誰かの後ろに回って詰まることはなかったわけですが、それでなんとかトントンですから中団の争いで2ストップは挽回不可能でしたね。

・ステージ 車検場

 さあやってきました真のラスボス・車検場。優勝したピアストリの車には問題ありませんでしたが、なんとびっくり、5位のルクレール、6位ハミルトン、そして11位のピエール ガスリーの3人がレース後車検で失格になりました。ハミルトンはスキッド ブロックの厚み違反、ルクレールとガスリーは車両重量規定違反でした。ってこれタイヤ使いすぎたせいでは・・・
 これで5位以下の順位がえらく繰り上がり、エステバン オコン、アントネッリ、アルボン、ベアマン、ストロール、サインツのトップ10となりました。2ストップしたハジャーは11位、ローソンは12位でした。アルボンはこの日が誕生日で、ミディアムでスタートして誰よりも引っ張ったためにラップ リードも記録。誕生日のレースでラップリードを記録した選手は史上9人目だそうです。また、アントネッリとベアマンはいずれもまだ10代で、10代の選手2人が入賞するのは2017年のフェルスタッペン/ストロール以来史上2組目でした。
 

 やはり新しい舗装は一筋縄ではいかないなというレースでした。ピアストリはノリスと比べてタイヤのもたせ方が、というのが昨年までの評価だと思いますが少なくとも開幕からの2戦を見る限りはもはや弱点とは言えなくなった印象で、下手したらノリスはあっという間にエースの座を奪われかねないとすら思えてきました。車両そのものがタイヤをもたせやすい仕上がりになってるのかもしれませんが、仮にマクラーレン無双のシーズンでもこれだとチーム内争いで楽しめそうな感じです。
 レーシングブルズは2ストップしたら自分たちだけが人と違う道を行くことになって結果としては失敗でした。ただ、彼らの車と事前の作戦の考え方、指示していたペース配分との兼ね合いがあるので、全体として見て失敗でも『彼らにとっての正解』だった可能性もゼロでは無いので、そこは詳しい人がきちんと検証しないと分からない部分ではあります。あの車ではハードで45周もできない、やったら壊れる状況だったのなら問題は作戦ではなく車両や事前想定そのもの、レース前の段階で負けていたことになります。『タイヤ的には行けるけどそれやったら軽すぎて失格になるねん』というのが見えていたということだってあり得るでしょう。実際、フェラーリはルクレールの失格については1ストップによるタイヤ減りすぎが原因だったとしています。

 とまあ好意的に解釈&別の可能性を考慮せずに頭ごなしに思いついた内容ですぐに批判する方への警鐘を軽く鳴らした上で(フジテレビ放送席もちょっと上からバカにしたようにモノを言いすぎだと思います)、感情としては『何でもうちょっと周りの状況見ながら様子見をせんかってん』というのが正直なところでしょう。レース中に放送された無線では、タイヤを労わるように促すエンジニアに対して角田が「もっと使わせてくれ」と主張していた場面もあり、このあたりチームとドライバーがそれぞれ1ストップへの転換をどの程度考慮に入れていたのか、意思疎通ができていたのか分からない面も多くあります。
 フェラーリのもう1人の失格さん・ハミルトンについてはスキッド摩耗量の見積もり間違いと認めました。何せ再舗装されたコースでじゅうぶんに試せない、しかも今回ハードで使用したC2タイヤは昨年と異なっているので計算上の数字を頼るしかないというのがかなり影響したのは間違いないでしょう。
 もちろん全チーム全ドライバーが同じ条件ですし、分からない中でマージンをどこまで取るのか、どこまで攻め込むのかという判断もF1を戦うのに必要な技術、競うべき項目なんだとは思いますが、でも世界最高峰の自動車レースが『ちゃんと練習走行できていないためにレース後にたくさん失格が出ました』というオチで本当に良いのかというと私はちょっと疑問です。
 同じようなパターンだったアメリカGPでも書いたかもしれませんが、色々と基礎的な条件が変更になっているようなイベント、ましてやデータの少ない開幕直後にスプリントのイベントを開催すること自体が運営として間違っているように私は思いました。いや、ド忘れした八つ当たりじゃないですよ(笑)
 
 さて、次戦は1週間のお休みを挟んでなんともう日本です。F1が鈴鹿だし、NASCARもホームステッドなのでなんか始まって早々に最終戦にたどり着いた気分になりそうです。

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