フォーミュラE 第3戦 ジェッダ

ABB FIA Formula E World Championship
2025 Jeddah E-Prix
Jeddah Corniche Circuit 3.001km×31Laps=93.031km
Race Energy:38.5kWh+3.85kWh Pit Boost
Reference Lap Time for FCY/SC=3:10
Pit Boost Window:60%~40%
Minimum Stop Time:34 seconds
winner:Maximilian Günther(DS Penske/DS E-TENSE FE25)

 ABBフォーミュラE、第3戦・4戦はディリーヤから引っ越してきて初開催となるサウジアラビアのジェッダです。ディリーヤは数年前から土地開発がどんどん行われて砂ぼこりが酷くなっており、レースを行うにはちょっと条件が悪すぎました。本来は去年の段階で既に引っ越しておく必要があったものを延長して使っていたのだとか。
 というわけでやってきたジェッダ、使用するコースはF1と同じジェッダ コーニッシュ サーキットですが、1周6km以上もある長いあのレイアウトをそのままではもちろん使えないので、フォーミュラEお馴染みの短縮レイアウトで開催。スタートして最初のシケイン状のターン1~2を通過すると、その先ですぐクルリンと左折してF1で言うところのターン22あたりまでワープ。F1のコースの半分以上をごっそり削り取った1周ほぼ3kmとなっています。
 それでもフォーミュラE的にはまあまあ長くて、しかもほとんど全部ただの直線になってしまうのでホームストレート側に2か所、バックストレート側にも1か所のシケイン状のコーナーが設置されています。バックストレート側のシケイン・ターン8~11はグランツーリスモを遊んでいる人が見るとどこなく『ドラゴントレイルシーサイド』の通称殺人シケインに似ていると感じるでしょう。アタックモードのアクティベーションはF1で言う最終コーナーとなるターン13の外側です。

 そして今回のレース、第3戦でとうとう急速充電ピット作業・ピットブーストが導入されます。2連戦はいずれも31周/38.5kWhの設定で同じとなっており、第3戦はここに3.85kWhの充電が加わるので理屈の上ではより多くのエナジーを使用して速いペースで走ることが可能となっています。ピットブーストはエナジー残量が40~60%の範囲で行う必要があり、充電を開始してからピットの走行レーンに戻るまでの『停止時間』が34秒と指定されました。

・新人テスト

 今回は通常の練習走行前にフォーミュラE出場経験の無い選手を対象として新人テストが開催されました。各チームとも必ずシーズン中に新人テストを使って誰かしらに走行機会を与えないといけない制度、元々シーズン9開幕の段階では通常の練習走行を新人に割り当てる義務があるF1と同じ制度とするはずでしたが、クレームが多かったので占有セッションを用意する形に落ち着いています。
 このセッションで最速だったのはマヒンドラから参戦したインド人ドライバー・クッシュ マイニ、350kWモードで1分17秒184を記録しました。2023年のFIA F2チャンピオン・テオ プルシェールはマセラティーから出走して4位、DSペンスキーは元F1ドライバー・ダニール クビアトを起用して5位でした。


・グループ予選

 グループ予選はどうやらピットに入らずに走り続けるのが主流の様子。A組は開始直後からテイラー バーナードが好調な様子で、結局1分17秒429を記録して1位通過。マキシミリアン グンター、ニック デ フリース、ミッチ エバンスがデュエルスに進出しました。1位から4位までたった0.078秒差です。ニック キャシディーはブレーキングにやや不満があるようで5位、アントニオ フェリックス ダ コスタが7位でいずれもデュエルスに進めませんでした。

 B組も流れは似たようなものですが暫定1位タイムが顔ぶれを変えつつ少しずつ切り上がったので誰が速いのかが見えてこない、という見ている側からすると飽きないパターン。しかし最後に持って行ったのはオリバー ローランドでした。なんと1分17秒182と他を圧倒する速さ。ジェイク ヒューズ、パスカル ベアライン、ダン ティクタムの4人がデュエルスに進出、型落ちポルシェが頑張りました。オーバーステアが酷いというジェイク デニスは8位で脱落、ポルシェカスタマーが型落ちポルシェに敗れた形です。

 思うにこのコースは旋回時間の短い小さなコーナーしかなくてタイヤへの負担はリアに偏っているため、フロントは熱が入りにくいし内圧も上がりにくいから走行して上げて行かないといけない、でもリアはすぐにオーバーヒートするから抑えておかないといけない、というバランスの悪さがピットに入らない意図ではないかと思いました。

・デュエルス

 A組はグンターが準決勝でバーナードを下して決勝へ。B組では3戦連続ポールを狙うベアラインが準決勝でローランドと対戦。1分14秒999と唯一の14秒台を記録してローランドを僅差で下し、今回も決勝まで勝ち上がりました。
 デュエルス決勝、先攻のグンターはターン8への飛び込みで少しロックさせたので失敗かと思いましたが、ギリギリを攻めきったようで叩き出した記録はなんと1分14秒911後攻のベアラインもほぼ同タイムで走っていましたが最後のシケイン2つで差をつけられてしまい、グンターが自身3度目のジュリアス ベア ポール ポジションを獲得しました。

 スタート順位はグンター、ベアライン、ローランド、バーナード、エバンス、デフリース、ヒューズ、ティクタムのトップ8となりました。


・決勝

 このレースでABBが冠スポンサーとなってから100戦目、節目でありピットブーストという新たな歴史のスタートです、充電器を持ち込むのもABBですから2戦目ではなく1戦目にしたのって宣伝目的ではないかとちょっと勘ぐったり。グンターは良い蹴り出しでリードを守りますが、3位スタートのローランドが攻めた走りでターン2〜3の争いを制して2位に浮上しました。
 ここまでなら普通でしたが、このあとベアラインはターン5の入口でエバンスから追突を食らってしまいます。エバンスはさらにターン8でもデフリースに追突してウイングの一部が壊れタイヤと干渉。ベアラインはパンクしてピットに入り、エバンスも当初は壊れたウイングで走り続けたものの結局5周を終えてピットに入りました。
 エバンスが暴れたことが影響して玉突きが起きたのかはわかりませんが、後方ではニコ ミュラーがダコスタにまともに追突、ミュラーは方輪走行になるし、ダコスタもウイングが壊れるしでかなり荒れた1周目になりました。でも、これだけ色々あってもSCが出ることなく普通にレースが続きました、これ普通に考えて大事故なはずなんだが(笑)

 荒れ気味の人たちを気にすることなくグンターはスタートから2秒近い差を築きましたが、ここから一旦ペースを抑えたようでやがてローランド、バーナード、デフリース、ヒューズの5人がひとかたまりに。ここからの戦い方が重要、と思ったら7周目の終盤になって唐突に破片回収のためSC導入。ダコスタのリア ウイングまでコース上に落下したのでもう運営的に我慢の限界だったようです。

 回収作業はすぐ終わったので9周目にリスタート、実質1周だけのSCでした、おかげで事故等で後方に落ちた人は隊列に追いつけないまま再開。グンターはここでスタート直後の1分20秒台のペースを22秒近辺まで落とす戦略で頭を抑え込み、連なった後続がまたシケインで追突しそうな雰囲気となります。10周目にはモルターラがバーナードをかわして3位となりますが、直後のシケインでモルターラは追突されました。幸い大きな破損は無かったものの、姿勢を乱して失速したので後続が玉突きになってガッシャガッシャなっています。今のフォーミュラEにタイトすぎるシケインは危ないですね。

 11周目、ここでグンターはローランドに道を譲って自分は後ろを付いていくことにした模様。ローランドはどちらかというと前に出て戦いたいタイプなので変に譲り合いするのではなく自分のレースを展開し、14周目には上位勢で最初にアタックへ。その瞬間は3位に落ちますが半周ですぐ1位まで戻します。
 この14周目は多くのドライバーが残量60%を下回るタイミングとなっており、ついに史上初の急速充電ピットが始まりました。まず中団のチームから動いていきますが、上位勢はまだ様子見です。国際映像では充電可能な残量になると白い稲妻マークが付き、ピットに入って充電が開始されると電池マークになり、ゲージがいっぱいになると充電完了、ピットブーストを終えると稲妻マークが緑色に変わる、という流れで義務の消化具合を現していますが、まだ初めてなのでどこを見たら良いのか視線がウロウロします^^;

 16周目、2位のグンターと3位のデフリースがピットへ。ピット最低時間は決まっているのでお互いに予定通りであれば順番は変わらないはず、なんですがモルターラが先にピットを出て逆転が起きました。しかしそのモルターラもピットを出た直後、前の周にピットを終えていたバーナードにちょっと強引に内側を衝かれてアンダーカットされるような結果となります。グンターはバーナードにアンダーカット、さらにボロボロのダコスタにもコース上で抜かれてしまい、このサイクルでえらく損をしました。ピットの作業時間そのものは最低時間が決まっていますが、何かの失敗で超過したり、あるいはピット前後でペースの上げ下げをすることでけっこう順位変動が起こりますね。
フォーミュラEでもこういう戦いが
見られるようになったんだんなあ、しみじみ

 一方ローランドは14周目に使ったアタックが残っていたので、全部使い終わった17周目にピットへ。ペースが上がった状態で単独走行していましたから、こちらは実質1位のままピットを出ることに成功しています。全員がピットブーストを終え、概ね1回目のアタックも使い終えた21周目の段階で順位はローランド、デフリース、ヒューズ、バーナード、グンターのトップ5。
 ローランドは25周目には3.5秒差以上まで2位との差を広げて安全圏、後ろの動きを見てから翌周にアタックに入れば問題のない状況です。一方、ピット前の2位から5位まで落っことされたグンターでしたが、アタックを周囲のドライバーより少し遅れて使ったので22周目には3位まで挽回。2位のデフリースにもすぐ追いつくと、両者は25周目に同時に2回目のアタックに入りました。

 残量でもパワートレイン効率でも優位に立つグンター、続く26周目にリフト位置の違いによってデフリースをあっさりとかわしなんとか2位まで復帰。後ろがアタックに入ったのでローランドも当然この周にアタックに入り、この段階でまだ2.5秒ほどの差があるのでまああとはうまくコントロールしてローランドの勝ちだな、と思いました。
 ところがここからグンターがものすごい勢いで接近、27周目だけで1.5秒も差を詰めて1秒差になり、残量ではグンターが1%ほど上回っています。ローランドはアタックの持続時間が1分10秒ほど長いものの、残量がじゅうぶんではないのでアタックを活かして飛ばすということができない状態です。あら、有利だと思ってたのにどこかで手順を間違えたか・・・

 残りが2周となるとローランドは抜きどころで片っ端から内側を抑えてブロックしまくるほど追い込まれ、さっきまで1分19秒台で走っていたものが21秒まで急降下。そのまま防戦状態で最後の1周に入りました。あまりに遅いので3位バーナード、4位デフリースも追いついてきて一歩間違えたら無茶苦茶な結末になりそう。

 ターン13を立ち上がり表側の1つ目のシケインまでたどり着いたローランド、残るのはあとシケイン1つでしたが、入り口に到達する前にエナジー残量がほとんど無くなってしまいました。スロットルを戻すしかなく、外からグンターがかわしてゴールまであと数百メートルでまさかの大逆転です。グンターが昨年の第5戦・東京以来となる通算6勝目を挙げました。あの時もローランド相手にエナジー残量勝負で勝っていましたね。
もう電池が無い!!

 エナジー切れでさらに抜かれる危機にあったローランドですが、追いかけてる側もそこまで残量に差が無かったのでシケインから先の短い区間で逆転することはできませんでした。2位ローランド、3位バーナード、4位デフリース。いや、マヒンドラが予選の順位からそのまま上位で帰ってきたことも相当驚きなんですけど。
 5位からヒューズ、ジャン エリック ベルニュ、エドアルド モルターラ、サム バード、ダコスタ、ストフェル バンドーンのトップ10でした。モルターラは予選を車両の不具合で走ることができずに最後尾スタートでしたが、前方でバカスカ接触があったので1周を終えた時点で既に13位、ここから早めのピットブーストも組み合わせてスルスルと前に出ていました。今回マヒンドラはすごいですね。バードも11位スタートから1周目のターン1で当てられてスピンしていたので、そこからの入賞はこれまた驚き。ピットブーストとアタックモードで正直上位数名以外の状況は全く追いかける余裕がありませんでした^^;


 待望のピットブースト初戦、入念な準備のおかげでこれに起因した問題がレースを壊すようなことはなく、フォーミュラEがやりたかったことがとうとう実現したのはシリーズ創設時からのファンからすると感慨深いものがあります。ただ、45分間のレースに30秒以上かかるピット作業とアタックモード2回という設定はなんとなくグランツーリスモのレースを見ているような感じで、初見ではちょっと詰め込みすぎてどこを見たら良いのか分からんという状況でした。
 逆から言えば、伝える側の努力と見る側の慣れによって興行として成立できる一定の形にはなっていたと思うので、ここをスタート地点として運営の力が試されることになります。The Raceによると実はローランドはピットに入った際、最初にアンドレッティーのピット ボックスを通過して他チームのクルーを驚かせてしまったようですが、国際映像では捉え切れていなかったので状況は不明、ペナルティーも出ませんでした。

 そんなわけでレースの結果を左右した戦略の分かれ道などもさっぱり分からんのが正直なところですが、ローランドは今年から担当エンジニアが変わって、ペース配分に関しての指示が適切でなかったことは敗因と考えられます。ローランドは1回目のアタックを使ってからピットブーストに入り、この間はF1で言うと『タイヤを使い切ってファステストを出してピットに入る』というのと同じ状況でした。ピット後にうっかりアンダーカットされないための戦略ですが、ここでまずちょっと飛ばしすぎた可能性を感じます。そして残りの周回とペース配分を考えた時にちょっと設定が早すぎたと思われます。
 逆にグンターは、これまた映像が無いので理由がはっきりしませんでしたがピット内で順位を下げ、そこで時間を食ったせいでコース上でさらに抜かれる非常に悪い展開から驚くべき挽回でした。使えるエナジー総量が決まっているレースで無駄な争い、本来必要の無かったはずの追い抜きに力を割いたら自由に走っている1位に対して不利になるはずが、エナジーの浪費を最小限にとどめたのは見事だったしステランティスのパワートレインもかなり効率が良くなっている可能性を感じました。もし11周目のあのタイミングでローランドに譲っていなければ、ひっくり返すためのエナジーはちょっと足りなかったでしょうからあそこは意外と最後に効いたかもしれません。

 負けたとはいえローランドとバーナードの2人が表彰台に乗って日産のパワートレインも開幕から好調、一方でジャガーはこのレースで1点も獲ることができず、かなり不安の残る内容だったと思いました。予選もなかなかうまくまとめられず、決勝でも昨年までのようなエナジー管理の鬼、という姿が無くて、Gen3の2世代目となるパワートレインでライバルに追いつかれてしまい普通のパワートレインになってしまったかのようです。

 次戦はジェッダの2戦目、ピットブーストが無い従来通りのレースですが、レイアウト的にペロトン スタイルになる可能性が高そうです。

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