ABB FIA フォーミュラ E 世界選手権、シーズン11は第2戦までを終了しました。次戦は2月14日・15日にサウジアラビアのジェッダで2連戦が開催されますが、この2連戦のいずれかのレースで急速充電を行うピット作業・『ピット ブースト』が実践導入されることが決定的となったようです。規則上、ピットブーストをレースに採用する場合はチーム側に対してイベント開催の21日前までに通知することが定められており、1月24日ごろには正式決定される、か土壇場で見送られたかがはっきりすると思われます。
そして、全然気づいていなかったんですが開幕直前に競技規則が一部改訂されており、少しだけピットブーストに関する規則に変更がありました。2024年12月11日付でFIAの公式サイトでも公開されていました。開幕前に私が書いた記事と少し話が変わってしまったので、改めて関連する規則とともに確認しておこうと思います。
・まず名前が変わった
何よりもまず最初に変わったのが名前です。シーズン9から規則上は既に設定されており、導入するぞするぞと言われて導入されずにここまで来ていましたが、規則書では急速充電を伴うピット作業義務を『アタック チャージ』と書いていました。ところが、今回の規則変更に際して名称が『ピット ブースト』に変更されました。規則書はフランス語と英語が併記されていますが、アタックチャージをピットブーストと書き換えた箇所が両言語合計で30か所以上ありました。↓
というわけで当たり前ですが当ブログでもこれ以降アタックチャージはピットブーストと呼ぶことになります。
・アタック モードとの関連づけを廃止
じゃあなぜ急に名前を変えたのかというと、従来の規則では(実際にその規則では一度もレースを行っていないが)『アタックチャージ採用レースでは急速充電ピットを終えるまでアタックモードは使えない』という制度になっていました。チャージしてからアタックが使えるようになるからアタックチャージ、分かりやすい。
ところが今回の規則変更によって、ピットブースト採用レースであってもアタックモードは通常通りに3周目から使用が可能となります。開幕前のテストの結果、4WD化によって非常に強力な追い抜きの力を発揮するアタックモードが、充電義務とセットになってレースの後半まで使用禁止で温存されるというのは展開として好ましくないと考えられたようです。これによりアタックモードと急速充電は全く別の要素になり『アタックを使うための充電』という考え方ではなくなったので、名称がピットブーストに改められたと考えられます。
・改めてピットブーストの決まり事
今回の規則で変更になったのは上記の2点だけで、それ以外には変更がありませんでした。まあ開幕前に模擬戦で試した内容を実戦でやらないうちにごっそり変えたら絶対おかしなことになるので当たり前ですけどね。改めてその内容を箇条書きしてみます。
・ピットブーストを実施する場合は21日前までに通知する
・ピットブーストが実施される場合、ドライバーは必ずレース中にピットに入り急速充電作業を行わなければならない
・急速充電では完全にプラグを差し込み、必ず技術規則7.5で定められた最大容量(3.85kWh)を充電しなければならない
・充電中は必ず4輪全てが地面に接している必要があり、充電以外の作業のために車両に触れてはならない(充電中にタイヤ交換はできない)
・ピットブーストのために同一チームの2人がピットに並ぶ(ダブル スタック)ことはできない。
・ドライバーはレース前に発表される『最低停止時間(急速充電器が接続されてから、作業後に発進してピットの走行レーンに戻るまでの時間)』を守らなければならない
・ピットブーストはイベントごとに指定されるSoC(バッテリー残量)の範囲内で行う必要がある。最大値よりも残量が多い、最小値よりも残量が少ない状態ではピットブーストの義務を果たしたとは認められない。
・ピットブーストの義務を消化せずレースを終了した場合、レース結果に20秒+ストップ アンド ゴー ペナルティー相当時間(レース毎に設定)を加算する。
だいたいこんな感じです。充電にかかる時間はおよそ30秒と想定されています。出力600kWの充電器で3.85kW充電するので、抵抗や送電ロスを一切考えない単純計算で24秒ぐらいで到達しますから、まあ30秒なんでしょうね。SC/FCY中でもピットブーストを行うことはできますが、ダブルスタックが禁止されているので同じチームの2人が同時にピット入ることができません。
ピットブースト義務はたとえレースが何らかの理由で途中で打ち切りになった場合でも救済が無いので、良い例えでは無いですがピット サイクルの途中に大事故が起きてレースが中断して再開されないような事態になった場合、ピットに入り損ねた人は全員ペナルティーを食らってしまうことになります。
ペナルティーは20秒+ストップ&ゴー相当ですが、例えばメキシコシティーE-Prixだとストップ&ゴーは42秒と設定されているので、ピットブーストを無視したら62秒加算のペナルティーとなります。1周73秒ぐらいのコースなのでほぼ周回遅れになるような罰則がどのレースでも課せられると思われます。たぶん起こらない状況だとは思いますが、全員を周回遅れにできるのであればピットを無視して自分だけリード ラップで完走してしまえば、何秒加算されようが優勝です、いや、案外何十戦もやってるとそういう抜け穴があったりするので設定を作る側は細心の注意を払わないといけません。
チームが気を付けたいのはおそらくはピット最低滞在時間でしょう。車両乗り換えピットがあったGen2の時代も、乗り換えで急いだがために危険が発生すると困るので最低滞在時間が設定されていました。でもチームは当然規定ギリギリの時間でピットを出たいと考えるのでドライバーを厳格な時間管理で送り出しており、結果たまーに僅かに規定を下回ってペナルティーを受け、0.1秒を稼ぎに行って数十秒失うことがありました。逆に何か計り間違えてやたらピットに長居する珍事もありましたね^^;
ブエミ「えーっと、まだ?」 クルー「(いや、まだだ、5、4、3、・・・) |
あと市街地コースでピットともなるとかなり滑りやすかったりするので、いくら制限速度があるとはいえ少しでも攻めようとした結果の事故には要注意。バードは乗り換えのためにガレージに入るはずが止まり切れず機材に突っ込み、あろうことかガレージ外で車を飛び降りて乗り換えたのでペナルティーを受けるという珍事がありました。乗り換えのようにガレージへ入るわけではないのでそうそう失敗はしないと思いますが。
バード「えーい、もうここでええわ!」 |
今のところ運営側としてはピットブーストは2連戦のイベントで片方にだけ導入する、という考え方を示しているので単独イベントであるマイアミとジャカルタでは開催されない見込みです。東京も2連戦なので可能性がありますが、急速充電装置を運ぶのもけっこう大変なので遠方のイベントにまで持って行くかどうかはまだ分からないですね。それ以前に、実際にやってみて不具合だらけだったらまた引っ込んでしまうと思うので、まずは最初の実践を問題なくこなしてくれることを願うばかりです。
コメント
ついに来ましたね!!!!
なにげ楽しみです。補給分余裕出ちゃうからラップ数増やすのかな??
(ガソリン車に相当する給油をショーの為に擬似的にやるのイメージでOK?)
メキシコのようにバッテリーに余裕があるとオーバーテイクが意外に起きないのもびっくりしました。
2レースなら 電費レースをレース1、ガチンコのバトルをレース2ですべきじゃないかなぁ....フル4WDで!
そもそも同じフォーミュラなのにオーバーテイク量産型のインディカーって一体何者なんでしょうか.....
レース距離をどう考えるのかが一番気になるところですね。10%補充ならいつもの感じだと2~3周ぶんの電力を補充できると思うので、充電なしで4~5秒落ちから入るようなレースはだとスタートから3~4秒落ちのほぼ全開レースになるけど抜けなくなるし、かといって増えた分距離を伸ばしたら単に長いだけのレースになるし、運営のサジ加減が楽しみであり不安でもあります。
インディーカーは文字情報でしか見てないですが、プッシュトゥーパス制度以外に2スペックタイヤ制度とコーションとの兼ね合いでけっこう燃費レースが発生しやすいので、フィールド上に異なる目標タイムで走るドライバーがいる状況が生まれやすいことは一因ではないかと思いますね。