F1 第23戦 カタール

Formula 1 Qatar Airways Qatar Grand Prix
5.419km×57Laps=308.611km
winner:winner:Max Verstappen(Oracle Red Bull Racing/Red Bull Racing RB20-Honda RBPT)

 F1はアメリカからカタールへ大急ぎで移動しての連続開催。時差ボケもかなりきつそうな第23戦カタールです。昨年から10年契約を結んで開催されているこのイベント、ほとんど低速コーナーがなくて右に左に縁石を使いながら高速コーナーを駆け抜ける、見るからに抜きどころがない『メタモン』みたいな形状のコースです。
 昨年はコース改修したら縁石がタイヤに悪さをすることが発覚し、急遽白線の位置が移動したり緊急の確認走行時間が設けられたり、決勝レースには急な3ストップ義務が発生したりと異例のバタバタぶりでした。今年はそういう出来事が起きない(であろう)ことが安心材料ですが、時差ボケした体に今年最後のスプリント制度がこたえます。
 ドライバー選手権はチャンピオンが決まりましたが、コンストラクターズ選手権では1位マクラーレンと2位フェラーリが24点差。6位争いもハース、アルピーヌ、VCARBが接戦で最後まで気が抜けません。スプリント制度は1つの週末で普段よりたくさん点が貰えるので6位争いのみなさんはたくさん稼ぎたい一方で、8位までしか点を取れないスプリントを重視して決勝が疎かになったら本末転倒なので、計画的にフリー走行からの予定を立ててセッティングする必要性もあります。

・レース前の話題

 前戦を前に突然レースディレクターのニールス ビティッヒが解任されてルイ マルケスが後任に就いた件を書きましたが、マルケスがF2/F3からF1のディレクターに昇格したことでこの週末からF2のレースディレクターに就くはずだったジャネット タンも解任されました。これによりマルケスはF1とF2のレースディレクターを兼務します、ただでさえスプリントだから忙しいのに…また、約15年間レース スチュワードを担当してきたティム メイヤーも解雇され、ここ数週間だけで異様に多くの上級職員がFIAを去りました。
 タンに関しては詳細は不明ですが、メイヤーはオースティンでのアメリカGPで観客がまだ全ての車両が完全に走行を終えていない段階からコースに入ってしまった事件が関係していると報じられています。こうした安全管理に関する不備は大会主催者が責任を負うことになり、FIAはアメリカGPの主催者に対して罰金を課しました。メイヤーはアメリカで開催されるレースの主催者側の立場でも仕事をしていたので、この罰金に関する是非や量刑を問うための審問会において『主催者側の』代理人を担当しました。
 メイヤーの説明によれば、ザックリ言うとFIA側から見て身内が罰金を値切りに来る敵になったので、FIA会長のスライエムは大変腹を立てて報復人事を行ったのだ、とこういう話のようです。解任はスライエム会長の代理人からメール1通で告げられたとのこと、話だけ聞いたらどこのドナルド トランプだよ、という話ですね。

 そしてもう1つ、2026年から参戦するアウディー。名目はまだ今のところザウバーでも実態としては既にザウバーの株式を100%取得して経営権を握っているわけですが、なんとその株式の一部をカタール投資庁に売却したことを明らかにしました。取得率は不明ですが30%程度の株式を売却したのではないかとされています。
 新規参戦に向けてより盤石な体制を築くため、というお題目ですが、足元ではフォルクスワーゲングループの業績が悪化しており、同社として初めてドイツ国内の工場閉鎖に向けた協議に入るなど本業で苦戦しています。その状況でF1に多額の予算を投入することが簡単ではないので方針転換に踏み切ったと見るのが自然で、今年の初めごろに起こったお家騒動に続いて参戦前から足もとが何だか不安定です。
 ちなみにVWの業績低迷の大きな要因は、経営資源を集中させた電気自動車がドイツをはじめ多くの国で購入補助金の縮小・廃止となり、そして中国企業の低廉な電気自動車の普及によって販売台数が低迷したことが挙げられます。そもそも彼らが電気自動車に集中したのは、二酸化炭素排出量が少ないと喧伝していたディーゼルエンジン車両の排気ガス測定検査で大規模な不正を行っていた、といういわゆる"ディーゼルゲート"が発端で、地に落ちたブランド力と信頼をひっくり返すための方策に、自動車産業が停滞すると困る政府も乗っかっていきなり電気自動車の販売促進へ舵を切ったため。
 それが政府予算の限界で補助が無くなったら途端に停滞し始めたわけで、結局状況を俯瞰すればディーゼル不正によって自分たちで歪めた市場をまた別の論理で歪め、覆い隠せなくなった歪みのツケを払っている状態ではないかと私は思いますね。そういえばサインツがアウディーではなくウイリアムズへ移籍したことは競争力を考えたら不思議に思えましたけど、そもそもアウディーの参戦計画自体が暗礁に乗り上げる危険性を察知しての決断だったとしたらすごいですねw

・スプリント予選

 本日もSQ1でペレス脱落。今回はアタックに入るところでなぜかルクレールと場所取り争いでバトルが勃発してまともに走れなかったことが原因でした。何でしょう、ルクレールから見てペレスは遅すぎて話にならないから間隔を空ける気にならなかったんでしょうか^^;
 SQ1、SQ2ともセッション途中の暫定順位ながら1位に同タイムが発生する珍事もあった僅差の争いでしたが、スプリントのポールを獲得したのはノリスでした。今回気温が高くなかったのでメルセデスにとっても『低温・平坦路面・高速コーナー』という特異条件が揃っておりラッセルが2位。ピアストリ、サインツ、フェルスタッペン、ルクレール、ハミルトンが続きました。フェルスタッペンはなんかチャンピオンも決まってるし100%を超える力で目いっぱい走らず決勝が大事だと考えて丁寧に走ってるようにも見えました。

・スプリント

 奇数グリッドの恩恵でピアストリが2位となるとマクラーレンがチーム戦。ダウンフォースを強めにしていて普通に走るとラッセルに抜かれる危険性があるため、ノリスがわざとピアストリを1秒以内に入れてあげてDRSトレインを作り、チームでワンツーを獲れるように結束します。
 なんかたまーにノリスが逃げて千切れてしまいピアストリが抜かれそうになる場面があるので『嫌がらせでもしてんのかな?』とか思いましたが、結局この体制を維持したままチェッカーへ。最後の最後、ノリスがここ最近のお礼なのかピアストリに順位を譲ってスプリントの勝者は最後の数百メートルだけリードしたピアストリとなり、ノリス、ラッセル、サインツ、ルクレール、ハミルトンのトップ6でした。スプリントでマクラーレンはフェラーリとの点差を6点広げることができたので両者の差は30となりました。フェルスタッペンはスタートで順位を落としてしまって8位止まり、ヒュルケンベルグが7位で貴重な2点を手にしました。

 予選が悪かったのでセッティング変更してピットレーンからスタートしたペレスでしたが、ものすごく出遅れて同じピットスタートのコラピントに抜かれる珍事が発生。ここ最近の結果が結果なので放送席からもボロカス言われますが、理由があるかもしれないからちゃんとレース後に話を聞いてから、と思ったらやはり理由があり「テストだと割り切ったのでじゅうぶんな距離を開けるため」だったそうです。終盤には別のウイングに交換して完全にスプリントは練習走行とデータ集めに集中して貢献しました。でもチャンピオンを獲得したドライバーのチームメイトが『セッションを捨ててテスト走行』しなきゃいけないって屈辱的ですね。。。

・予選

 Q3は今日も速いラッセルが1回目のアタックで1分20秒575とその時点で後続に0.3秒以上の大きな差を付けましたが、これに0.045秒差とフェルスタッペンが肉薄。続く2回目のアタックではラッセルが記録を伸ばせず、マクラーレンもフェラーリも及ばない中でフェルスタッペンがさっきよりちょうど0.1秒速い記録を出して逆転しピレリポールを獲得した、と思われました。ところが、フェルスタッペンは最初のアタック後の低速走行中にライン上でラッセルの走行を完全に邪魔していました。

 ラッセルは次の周にアタックすべく準備中だったので直接のアタック妨害ではなかったものの、すごい速度差だったので危険を無線で訴えました。レース審査委員会はこれを調査した結果、フェルスタッペンは指定された最低タイムを守らず低速走行し、そこに正当な理由も存在しなかったためペナルティーを課すのが相当と判断。ただしラッセルもアタック中ではなかったので、通常の3グリッド降格から減刑されて1グリッドだけの降格となりました。
 それにしても、なぜ短いQ3の中で『アタックを終えて低速走行』と『これからアタックに行くための準備』が交錯するのかが中継を見ているだけでは理解が追いつかなかったんですが、スプリント週末はタイヤが足りないし今回はタイヤの熱入れや摩耗度合いの都合もあって、Q3では同じタイヤで2回アタックする人が出て各車の動きがバラけたんですね。
フェルスタッペンはアウト→アタック→クール→クール→アタック→イン(終了)
ラッセルはアウト→プリップ→アタック→イン(タイヤ交換)→アウト→プリップ→アタック→イン(終了)
とやってることが全然違ったようで。確かにQ3でゆっくり走ってタイヤ冷やしてる車がゴロゴロいて奇妙やったもんなあ。
 というわけで正式な予選順位はラッセル、フェルスタッペン、ノリス、ピアストリ、ルクレール、ハミルトン、サインツ、アロンソのトップ8。ペレス、マグヌッセンと続いたのでまた中団勢で入賞に近いのはハースとなりました。

・決勝

 18位のヒュルケンベルグだけがハード、残りは全員ミディアムを選択し、スプリントの結果からまあ1ストップ作戦確定だろうという決勝。私は録画で見てますが生放送で見たら日本時間の深夜1時、抜けないコースなのでスタートを見たらもう寝ても良いかもしれませんw
 とりあえず目を明けておきたいスタートはフェルスタッペンが偶数列をものともしない好発進でターン1に入る時点でラッセルと並走少し外側へ牽制しつつターン1に入ったら、がら空きの内側にノリスが潜り込むという最近よく見るパターンになりました。これでノリスが前に出るかと思ったらフェルスタッペンが踏ん張ってコーナー3つで予選の罰則を取り戻し先頭に立ちます。

 後ろに誰かが事故ってる姿が見切れていますが、後方でヒュルケンベルグがターン1に突っ込み過ぎた様子。たぶんハードが冷え冷えで止まらなかったんだと思いますが、無理やり止めようとして姿勢が乱れ、近くにいたコラピントとオコンを巻き添えに接触。被害者2人がそのまま動けずコース外に止まったのでSC導入となります。ラスベガスの決勝ではイエロー フラッグすら出なかったので久々のイエローがSCとなりましたね。

 5周目にリスタートしフェルスタッペン、ノリス、ラッセルのトップ3。最初のスタートで4位に上がったルクレールでしたがここでピアストリに抜き返されてスタート時の順位に戻りました。サインツ、ペレス、ハミルトンがこれに続きますが、ハミルトンは最初のスタート時にうっかりフライングしたようで自分で「すまん。」と言っています。後ほど5秒ペナルティーを貰うことになりますが、どうもペースが上がらなくて前の人に付いて行けず、後ろはもっと遅い人しかいないのでどっちみち8位が約束されている状況です。めっちゃ退屈な300kmです^^;
 前日のスプリントではノリスがわざと遅く走っていたのでいくぶんペースが抑えられていましたが、フェルスタッペンは制約のない中で時折最速を更新しつつタイヤをもたせている様子。ノリスも1.8秒ほどの差で続きますがラッセルが少しずつ置いていかれます。スプリントでははっきりしませんでしたが、ラッセルはタイヤ摩耗の面でちょっと負けてたのかもしれません。
 
 というわけでラッセルは23周目を終えて上位勢で最初にタイヤ交換へ向かいましたが、右後輪の交換で失敗して7秒もかかってしまいます。メルセデスはハミルトンも遅すぎて「車壊れてるのか!?」と言ってるぐらいの絶不調。ラッセルは作業失敗が響いて10位のアロンソに引っかかると全然抜けず詰んでしまいます /(^o^)\オワタ
 ラッセルは急いでタイヤを換えてしまいましたが全体的にはまだ自己ベストを更新できるほどタイヤが生きている人が多く、レースは折り返し地点を超えて30周以上が経過。このあたりでちょうどホームストレート上にアルボンの右側のミラーが落下し当該区域でイエローが出されているようですが、フェルスタッペン陣営は「ノリスがスロットルを戻してない」と違反の疑いを示唆。まさかしょうもないミラーのせいでペナルティー!?でもイエローって言ってる割にDRSは使えてるしなんか奇妙ですね。

 数周後にこのウイングをボッタスが踏んづけてバラバラにぶっ壊してしまいますが、そこから少し経過した34周目にいきなりハミルトン、サインツが立て続けにタイヤをパンクさせます。タイヤのグリップ力自体は依然としてあるんですが高速コーナーで高い負荷がかかっていますので、先に構造が壊れてしまったのか、あるいはバラバラになったミラーのせいか、ピレリの調査待ちですね。

 この連続パンクでレースディレクターも破片の危険性を認識したんだと思いますが、35周目にSC導入。ちょうどこの時フェルスタッペンはピット入口近くにいたのでそのままピットに入り、他のドライバーも次々ピットに入ったので我慢したもの勝ちになりました。ラッセルだけは既に一度替えたタイヤをせっかくだからここでも交換して2ストップ作戦に。
 リスタート順位はフェルスタッペン、ノリス、ルクレール、ピアストリ、ペレスのトップ5。なんとガスリーが6位。ラッセルが7位で、サインツ、周 冠宇、アロンソという順位となっており、何人か「Youはなぜその順位に?」な状態です。そしてSC中は破片処理のために隊列はピット内を通過するよう指示が出ますが、周回遅れになっていたハミルトンはぼんやりしていたのかピット速度リミッターのボタンを押し忘れた模様。80km/hに減速した後にまた加速してしまい、急ブレーキを踏んだのでノリスは追突しそうになりました。もうレースが全体的にグダグダです。

 40周目・残り18周でリスタート、ハードで最後まで全力で走る今週末2度目のスプリント開幕。と思ったら再開直前にペレスの順位がどんどん下がっていき、トランスポンダーの故障かと思ったら確かに隊列内にいません、どうやら駆動系が壊れて止まってしまった模様。
 なぜか映像は全然そこには触れずにとりあえずリスタートされ、人を騙してリスタートするのが上手いフェルスタッペンが珍しく失敗。ノリスが外から仕掛けましたがお互いにちょっとふらついた感じで抜くことができませんでした。そしてペレスが止まってるしさらに追加でヒュルケンベルグも単独スピンしてスナーバックスに入店していたので再度SC導入となります。

 このSCでどうせ失うものが無い角田とローソンが新品ソフトに交換して14位、15位から博打。43周目にリスタートして今度はフェルスタッペンが上手くノリスを騙し、逆にノリスはタイミングを外されてルクレールに狙われますがなんとか耐えました。ところがノリスにはあのアルボンミラー減速義務違反に対して10秒停止という重い罰則が課せられました。たかがミラー、されどミラー、減速指示に従わないのは重大な違反行為ですからね。これでノリスはビリになりますが、後にハミルトンもピット速度違反でドライブスルーのペナルティーを受けたのでビリを返上しましたw
 ともあれ、ノリス2位、ピアストリ4位でコンストラクターズチャンピオンに王手をかけるはずだったマクラーレンは片方が後方に落ちてしまってガッカリ。その後のレースはフェルスタッペンが圧倒し今シーズン9勝目を挙げました。結局スタート直後に先行して全周リードでの優勝でした。

 2位にルクレール、3位ピアストリ。4位のラッセルはSC中に20車身近く前の車両と距離を開けてしまったためにレース後に5秒加算のペナルティーを受けたものの順位は変わらず罰金だけの効力で済みました。11位スタートのガスリーが5位に入り、これでアルピーヌはまたしても一度にポイント荒稼ぎで選手権6位を奪取。6位サインツ、7位アロンソ、そして8位に周 冠宇が入ってザウバーは23戦目にして今季初めて入賞しました。彼にとっても2022年カナダに並ぶ自己最高位、ザウバーは今頃アップデートが効果を発揮しているようで予選から比較的好調でした。これで全選手の中で1点も獲っていないのはボッタス(と既に仕事を失っているローガン サージェント)だけになりましたが、ザウバーを辞めた後はメルセデスのリザーブに加わり"里帰り"する可能性があるみたいですね。
 マグヌッセンが9位、そしてノリスは10位まで戻ってきてファステストも記録したのでなんとか2点を稼ぐことに成功。これでマクラーレンとフェラーリの差は21点とレース前から比べると僅かに近づいた状態で最終戦を迎えることになりました。アルピーヌとハースの6位争いは5点差です。ソフト投入で大逆転を狙ったVCARBの2人でしたがソフトはさすがに距離が長すぎたようで切り札にはなりませんでした。

 実際にそうだったのかどうかは分かりませんが、スプリント予選の段階で感じた「フェルスタッペンは最初から決勝のことを考えて走ってる気がする」というのが結果としては大当たりになったので、観戦者としてちょっと嬉しいレースでした。でもできれば最後までノリスとの争いが見たかったですねえ。

・SC導入の判断遅くない?

 今回、レース結果にも影響したのは最初のSC導入でした。その要因はアルボンの車からすっ飛んだミラー(を含んだその周辺の部品)をボッタスが跳ね飛ばして粉々になったことと、その直後にパンクした人が2人も連続したこと。しかし、そもそもゴッツイ部品がホームストレートの終盤に落下していたら、排除のためにSCが出てもおかしくなかったはずです。これについてFIAはレース後

「通常の慣行では、破片が少量でレース ラインから外れている場合はSCは出動しない。」
「車がミラーに衝突した後の広範囲にわたる破片と、その直後に発生したパンクによりSC導入の決定を余儀なくされた。」

と説明。逆から言えば、ボッタスが破壊していなければ、破壊してもパンクした人がいなければ、そのままレースは続いていたということになります。ここにいくつか個人的に突っ込みどころがあるんですが、まず第1に唯一の追い抜きどころであるホームストレートの、しかも後半部分の追い抜きや防御でラインを変更することが容易に想像できる場所に『レーシングライン』なんて概念はあるんでしょうか?
 確かに現場には黄旗が振られており、しかも掲示は『ダブル イエロー』でしたから、ドライバーは万が一の際に即座に停止できる程度への減速が求められている、というのが規則上の建前で、そのため追い抜きもブロックも存在しないことになります。進路を変更する必要性が無いですからラインを外れて走る理由もなく、だからラインを外れた位置にあるミラーを動かす必要も無い。原理原則・机上の空論ではそうかもしれません。

 ここで第2の突っ込みどころ、じゃあ残り27周ほどのレースを延々と実質追い越し禁止ルールで走らせるつもりだったんでしょうか?もやはそれは競技として成り立っていないように思います。ダブルイエローの意味は『コース上に非常に危険な状況が存在することを示し、 ドライバーは大幅に速度を落としてすぐに停止ができる準備をする必要がある』です。あのミラーは競技が続いている限り誰かが回収をしに行くことは不可能、じゃあ25周以上も延々と『非常に危険な状況』を残すんでしょうか?イエローの原則論から言えば、非常に危険な状況が解決されず放置で競技が続行されることを意味するのであり得ない対応ということになります。

 そして3つ目のツッコミどころ、レース後に公表されている公式のレース コントロール メッセージを見ると、19時48分ごろにミラーが落下したようなんですがその時間帯にはこんな記録があります。

19:48 DOUBLE YELLOW IN TRACK SECTOR 2
19:48 DRS DISABLED IN ZONE 1
19:48 TRACK SURFACE SLIPPERY IN TRACK SECTOR 2
19:48 DRS ENABLED IN ZONE 1

 トラック セクター2でダブルイエロー、ゾーン1のDRS使用停止、トラックセクター2が滑りやすい(=破片がある)、ゾーン1のDRS解禁。この同じ内容が19時48分に4サイクル立て続けに記録されていました。国際映像でもこの時間帯にセクター1のイエロー表示が出たり消えたりしていたと思いますが、DRSも禁止と許可が連続しており、X上でこの点を指摘している個人アカウントを発見したんですが、その人の投稿によると解禁したDRSが3秒後に禁止され、その1秒後に解禁され、みたいな非常に奇妙な指示が出ていたようです。普通に考えたらイエロー区間ではDRS禁止だと思うんですけど何が起きていたんでしょうか。
 そして謎の文言が4サイクルした後、またダブルイエロー、トラックが滑りやすい、とメッセージが出た後に19時50分、トラックセクター2がクリアーだというメッセージが表示され、しかし直後にまた滑りやすい(=破片がある)の表示。そして19時51分に再度トラック クリアーというメッセージが出ています。ボッタスが破片を踏んだのは19時53分のようでまだそこにはミラーがあったはずなんですが、どういうわけかクリアーとなっていたわけです。
 ボッタスがわざわざミラーの方へ行ったのはブルー フラッグが振られていたから道を譲るため。彼がミラーを認識していてうっかりして踏んだのか、イエローが消えてクリアーだと言われたから無いものだと思ったのか分かりませんが、このレースコントロールメッセージもかなりちぐはぐです。普通に考えると、ミラーがあるからと言ってイエローそのままでは上記の私のツッコミのように以後のレースが追い越し不可になる、かといってSCは出す条件になっていない、という話につじつまを合わせようとするとトラックがクリアーになったとしてダブルイエローを解除するしかない、ということになるんだと思いますが、じゃあ何で状況が1つも変わっていないのにさっきまではイエロー出してたんだ、という話になります。やっぱりどう受け取っても理屈が成り立たないと思います。

「FIAは継続的にその方法とプロセスを見直し、特定のシナリオをさらに分析し、チームと協議して、将来的に異なる行動を取る必要があるかどうかを検討する。」

 とも声明に書いてあるので問題意識はあるようですが、モータースポーツもF1世界選手権も今年の10月に世の中に初めて登場したわけじゃないんですから、言い方は悪いですけどこの程度の問題でなぜ今さらゴタゴタするようなことが起きるのか不思議でなりませんでした。

 当然ながらこうした一連の問題は、冒頭や前回の記事に書いたレースディレクターの急な交代が関係しているのではないか、と思わずにいられません。これはマルケスが適任であるとかないとか言う話以前に、組織としてレースディレクターがきちんと仕事をできる環境が構築されていないと思います。いくらF2/F3で経験があり、前任者の仕事もきちんと見て学んでいたとしても、F1という巨大な事業の重要な判断を下すという重圧はF2の比ではないはず。
 マルケスを支援するためのスタッフさんはたくさん用意してもらえているそうですが、最終決定権者である以上は結局は自分で判断を下す必要があり、そうした判断をする人がいきなりシーズンの最後の最後に出てきて、しかも慣れてない中でアメリカからカタールへ移動してF2まで掛け持ちしてスプリントで仕事だらけで、となったら判断が鈍っても不思議ではないでしょう。あのDRS禁止/解禁連発ムーブが何かの機械的な不具合によるものだったのか、現場で混乱していたのかはいくらか調べた範囲では分かりませんが、もし後者だったのならかなり致命的です。
 もちろんビティッヒが担当していて全く同じ混乱が起きた可能性だってありますが、前回も書きましたけどレースディレクターは信頼が商売道具の重要要素ですから、組織がガタガタのバラバラでは参加者や観客が見た時の印象、説明に対する信頼感が全く違ってきます。FIAは早期にこうした問題を解決しなければなりませんし、まずビティッヒの解任の理由から何からきちんと説明する責任があると思います。スライエムに関して詳しくないので軽はずみなことは言えませんが、会長が自分のお気に入りのイエスマンしか集める気がないのなら、国際的な組織の頂点に立つのは相応しく無いと思いますね。

 ちなみに、これはFIAの責任ではなく不慮の事故ではありますが、ミラーの件で出た2回目のSCが解除されてリスタートされる際に肝心のSCの屋根の上にあるライトが消灯しないという問題が起きていたようです。フェルスタッペンがリスタートに失敗したのは騙し損ねたのではなく、SC退出だと情報が来ているのに目の前の車両はライト点滅=退出しない表示なので混乱したことが原因でした。退出しないのに距離を開けたらペナルティーになりますからね。こういう変な出来事ってなぜか重なったりしますよねえ。

 さて、長かったシーズンはいよいよ次戦が最終戦のアブダビです。ボッタスは最後の最後に入賞することができるのかが最大の注目点だと思います!頑張れボッタス!

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