フォーミュラE シーズン11 チーム/ドライバー情報

 Gen3 Evo車両が導入されて始まるABB FIA フォーミュラ E 世界選手権・シーズン11。開幕前に今シーズンの体制を確認したいと思います。半分以上のドライバーは残留しているので車両と選手名が全く一致しなくて困るようなことにはならないですが、出戻りした人なんかはついつい間違えてしまいそうです。
 シーズン10のチーム選手権順で並べ、大雑把な戦績等を併記してみました。特に注釈が無ければ全てシーズン10における成績です。

※11月27日、ちょっとだけ情報を追加しました

Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type 7(4勝)
  9 Mitch Evans(2勝/選手権2位)
37 Nick Cassidy(2勝/選手権3位)

 この奇抜なペイント スキームはテスト用だそうですが、ジャガーの体制は昨年と変わらず。チャンピオンに片手が届くとこまで来ていたのに逃してしまったニック キャシディーと、キャシディーと入れ替わってチャンピオンに手を触れかけたのに届かなかったミッチ エバンス、惜しくも勝てなかったニュージーランドコンビです。
 先代のI-タイプ 6はエナジー効率の面で優れ、戦略面でも非常に優秀な体制。なおかつ私的にも仲の良い2人が組んだことでチーム全体の体制とすれば最強と言える布陣でしたが、両雄並び立たずという世界の歴史がやはり再現されてシーズンの終盤に向けてはエバンスとキャシディーの利害が交錯する場面も見られました。
 キャシディーは非常にフォーミュラEに向いたレースの戦い方を心得て後方スタートのレースでも平然と追い上げてくる一方で、第13戦ポートランドで優勝目前の残り2周の最終コーナーでの自滅に象徴されるように、無茶しない方が良い時にやりすぎてウイングを壊したり、単独でミスったり、精神的にうまく安定した部分を保てない場面が散見されましたから改善点はたぶんそこだけ。エバンスは3年連続でチャンピオン争いしつつあと1つかみ合わず届いていないので、本当に今年こそお願いします、もうデビューからずっと推してるんですw
 いつも存在感のある顔でレースを見守るチーム代表・ジェイムス バークレイは諸刃の剣と言える最強コンビをどう手懐けて昨シーズンの反省を生かすのか、たぶん中継映像でも度々バークレイさんの顔は映し出されると思うので注目でしょう。

 なおジャガーはシーズン13から始まるGen4規則のシーズンにパワートレイン製造者として参戦することを既に発表しています。

TAG Heuer Porsche Formula E Team/Porsche 99X Electric(Gen3 Evo)(7勝)
  1 Pascal Wehrlein(3勝/シーズン10チャンピオン)
13 António Félix da Costa(4勝/選手権6位)

 イメージ一新、急に紫を基調とした鮮やかなスキームへ変えてきたポルシェ。チームによるとパープル スカイ メタリックとシェード グリーン メタリックだそうです。ポルシェは参入以来ずっとパワートレインが変わってもブランド重視で『99X Electric』という同一の名称を使用しているので、便宜上(Gen3 Evo)と表記します。色は変わりましたがドライバーは変更なく、昨シーズンのチャンピオン・パスカル ベアラインとアントニオ フェリックス ダ コスタの組み合わせ。
 ポルシェは参戦以来パワートレインの効率で他の強豪に負けていてなかなか勝てない時期が続きましたが、Gen3になって効率が飛躍的に向上したようでジャガーと並ぶ最強パワートレインになりました。ただやや熱に弱い傾向があるのと、コースの得意不得意がやや強いのが欠点でシーズン9はカスタマーであるアンドレッティーに敗れるけっこうな屈辱も味わいました。昨シーズンはそこをしっかりと立て直した印象で、ワークスとカスタマーの利害対立もありつつ困ったときにはセッティングの共有など助け合いもできているようです。
 参戦7年目・30歳のベアラインはドライバーとしてまさに一番良い時期じゃないかと思いますが、昨シーズンはキャシディーとの一進一退の争いを制して初のチャンピオンを獲得。ここ2シーズンで無得点だったレースがたった3回しかないというのが大きな強みだろうと思います。
 一方のダコスタは開幕からあまりにも絶不調、シーズン途中に他陣営のドライバーであるミュラーを呼んでテストが行われ、報道が出た後のミザノでせっかく優勝したらしょうもない理由で車両規定違反になり失格ともう完全にクビのパターンでした。ところが第10戦ベルリン以降の5戦で4勝する突然の覚醒を見せ、逆転で残留を決めました。でも残留方針が固まったであろう最終戦ではまたけっこう暴れたので、常に尻に火を付けておいた方が良いかもしれませんw

 なお。ポルシェはシーズン13から始まるGen4規則のシーズンにパワートレイン製造者として参戦することを既に発表しています。シーズン9が始まる前の段階ではF1参戦計画が並行して存在したため、このシーズン11以降の『Gen3時代の後半2年』に参戦するかどうかも未定とされていましたが、F1が無くなったことでフォーミュラEに予算が振り向けられているようです。

DS Penske/DS E-TENSE FE25(最高位 2位2回)
  7 Maximilian Günther(マセラティーから移籍 1勝/選手権8位)
25 Jean-Éric Vergne(選手権5位)


 DSから見ればテチーターからペンスキーに提携相手を変更して3年目。昨シーズンはチームとして表彰台4回ながらコツコツ稼いで気づけばチーム選手権では3位。ただDS参戦以来初めてのシーズン未勝利となり、部分的に速さが見えながらもどこかアク抜けしないレースが2シーズンに渡って続いている印象です。シーズン9開幕前のテストでは好調が伝えられていたのにいざ開幕したら絶不調、そこからおそらくはソフトウェアの開発でどうにか競争力を取り戻した、という中での新しいパワートレインにはドライバーも期待していることでしょう。
 ジャン エリック ベルニュはシーズン1の3戦目からフル出場してきたほぼ初期メンバー、DSとはシーズン2でのDS バージン レーシングを含めると今季で通算8年目の組み合わせ。Gen3のペロトンスタイルレースはどうも彼やエンジニアと相性が悪いのか、中途半端に前に出てきては気づいたら下がっていたり、追い上げるのが遅すぎて中団で捕まるか接触でウイングが壊れている印象です。シーズン9・第4戦のハイデラバード以来優勝しておらず、表彰台には乗れるけど勝てない、というのはまさにDSの悩みそのものという感じ。
 そして相棒はベルニュと比較して全く2年間結果が出なかったバンドーンと契約を延長せず、カスタマーであるマセラティーからマキシミリアン グンターが言うなれば"昇格"。そもそも安定感の無さが課題で、シーズン9が始まった当初はグンター失望論、1年でクビ説すら出ていたところから、浮き沈みがありつつも勝てるドライバーということで評価が反転。結局DSとしてもその突破力に期待した形と思われます。なおグンターの昨シーズンは開幕からの8戦で1勝を含む7回の入賞でしたが、残る8戦では5回リタイアして2度8位になっただけでした、ああ、安定感^^;

Nissan Formula E Team/Nissan e-4ORCE 05(2勝)
17 Norman Nato(アンドレッティーから移籍 最高位3位/選手権15位)
23 Oliver Rowland(2勝/選手権4位)

 シーズン6以来となる優勝、ルノーからチーム体制が変更されてからは初めての年間複数勝利を挙げ選手権4位となった日産、桜のカラーリングが格好良く見えます。開幕戦の段階ではそんな兆候は感じませんでしたが、第3戦のディリーヤでローランドが堅実に3位に入ったところから急にポルシェvsジャガーの争いに第3極として割って入るようになりました。残念だったのは日本でお馴染みのドライバー・サッシャ フェネストラズがさっぱり活躍できなかったことで、報道によれば2年+オプションの契約を結んでいたものの、熟考の末にチームは設定していた成績をクリアできなかったことを理由にオプションを破棄したようです。
 本来ならフェネストラズがエースに育ってくれることを期待したはずが、結局エースになったのは2年ぶりにマヒンドラから出戻りしたオリバー ローランド。ミザノではチーム側の確認ミスで1人だけ誤った設定周回数で走って電欠するという最悪のレースがありましたが、2勝を含む7回の表彰台は誰も予想していなかったものだったでしょう。どうもこの人はペロトンスタイルのレースが得意みたいですね。
 そしてフェネストラズと入れ替わって加入したのは、昨年ローランドに蹴り出される形で日産を去っていたノーマン ナトーでした。シーズン7にベンチュリーから初めてフル参戦したナトーですが、シーズン8での代走出場を含めてこれで

ベンチュリー→ジャガー(代走)→日産→アンドレッティー→日産

と5シーズン連続でチームを移籍し続けています。正直昨シーズンのナトーがアンドレッティーの期待=デニスのチームメイトとして安定して入賞する、に応えられたかというと微妙な数字ではあるんですが、日産でもやはり求められているのはエースのローランドにしっかりと付いて行って確実に入賞する安定感だと思われます。でも悲しいことに、日産はシーズン12に向けてはまた若い選手を起用すべく色々と可能性を探っているようで、よっぽどの成績を残さないとまた1年で蹴り出されてしまうかもしれません。ナトー、私は好きなんですけどねえ。

 なお、日産はジャガー、ポルシェに先んじて参戦メーカー中で最も早くシーズン13から始まるGen4規則のシーズンにパワートレイン製造者として参戦することを発表しています。


Andretti Formula E/Porsche 99X Electric(Gen3 Evo)(2勝)
27 Jake Dennis(1勝/選手権7位)
51 Nico Müller(アプトから移籍 最高位4位/選手権12位)


 BMWの撤退に伴ってシーズン9からポルシェのカスタマーとなり、これが奏功してジェイク デニスがチャンピオンを獲得したアンドレッティー。当然シーズン10も有力候補でしたが成績としては尻すぼみという感じでした。練習走行から全然ダメ、という場面が散見されて2連戦の2戦目はポルシェワークスからセッティング情報を教えてもらうなど、かなり苦労していたようです。どちらかというとパワートレインやエナジー管理ではなくタイヤの使い方、足回りのセッティングがシーズン9でハマっていたものが外れて立て直せなかったのかな、という印象を受けました。
 連覇を狙ったデニスは開幕からの7戦で1勝を含む表彰台4回、この時点ではドライバー選手権2位でしたから、まさかそこから一度も表彰台に乗れず7位に落ちるとは本人も見ている側も思わなかった結果です。苛立ちからドライビングが荒っぽくなっているのが明らかに感じられたので、新しいシーズンになって一旦ゼロに戻れるだけでも彼にとってはいくらか好材料でしょうか。パワートレインはポルシェさんの開発が上手く行っていることを祈るしかありませんw
 そしてチームメイトはニコ ミュラーが加入。競争力不足のアプトに所属しながら予選ではデュエルスに6度も進出し、チームの獲得ポイントの大半を稼ぎ出しました。目を見張る速さだったのでポルシェがダコスタの後任として白羽の矢を立てていましたが、結局ダコスタが覚醒して残留したのでカスタマーのアンドレッティーにその座が割り当てられた、という感じです。
 ミュラーはドラゴン/ペンスキー レーシングでの1.5シーズンとアプトでの2シーズン、競争力の無い車にしか乗ったことが無かったので初めて手にした戦える車でのシーズンとなるるだけに、チャンピオン経験者のデニスと組んでのシーズンというのはFEファンとすると大きな見どころだと思います。デニスはチームメイトに作戦遂行を邪魔されるとすごい無線でキレる印象があるので、何かチームとして動く方針が出ていたらちゃんと相手を見て一緒に動いた方が良いと思いますw
 なお、車体側面にグッゲンハイムと書いてありますが、グッゲンハイム パートナーズはアメリカの投資会社でアンドレッティーもF1参戦計画などの資金支援として出資を受けています。大谷 翔平のニュースが出てくるとあちこちでグッゲンハイムという名前を目にした記憶のある方もいらっしゃると思いますが、大雑把に言うとドジャースの現在のオーナーもグッゲンハイムです。

Envision Racing/Jaguar I-Type 7(最高位2位4回)
  4 Robin Frijns(最高位2位3回/選手権9位)
16 Sébastien Buemi(最高位2位/選手権11位)

 Gen3初年度のシーズン9ではキャシディーの活躍もあってチーム選手権でチャンピオンを獲得したエンビジョン。キャシディーが抜けても最強のジャガー製パワートレインがあれば、と思ったら想像以上に影響が大きくてまさかの未勝利、チーム選手権6位となりました。悪いレースはとにかく2人そろって悪い、ということがあり、そこにベルリンではドライバーが2人ともWECとの日程重複で欠場して不在、という点数を稼ぎようもない事態も発生しました。
 成績が低迷したことからドライバーの変更も検討はされたようですが、結局は経験豊富な2名がともに残留。ロビン フラインスはシーズン5~8までエンビジョンにいましたが、優勝したのはシーズン5での2勝だけであとは毎年2位を複数回、勝ってそうで実はなかなか勝てていません。昨シーズンの2位3回は自己最多記録ですがそのうち2回はポートランドでの連続2位でした。
 相棒の偉大なるフォーミュラE初期メン・セバスチャン ブエミは開幕戦での2位が最高位、最終のロンドン2連戦で3位・4位となって他のレースはほぼ苦戦していたので、どちらの結果を見てもちゃんと車が仕上がっていたら十分戦えるのに、という印象を受けます。とりわけブエミは予選で下位に沈んでそのまま終わってしまうことが多く、シーズンの半数以上でデュエルスに進んでいたシーズン9と比べてどうしちゃったの?という感じでした。カスタマーが持ち込みセットで苦戦して成績を落としたのはアンドレッティーと同じ悩みなので、解析データ量とシミュレートの差があるのかもしれません。
 なおエンビジョンには日本の繊維・化学メーカーである帝人がパートナーとして参加しています。ドライバーの来ているスーツには帝人の繊維が使用されているみたいですね。

NEOM Mclaren Formula E Team/Nissan e-4ORCE 05(1勝)
  5 Taylor Barnard(新人/FIA F2参戦中)
  8 Sam Bird(1勝/選手権13位) 

 撤退したメルセデスEQの体制を引き継ぎ、日産のカスタマーとしてシーズン9から参戦するマクラーレン。最初は日産ワークスを上回る結果を出していましたが、シーズン9後半からなんだか尻すぼみでシーズン10も思ったほど伸びず優勝と2位が1回ずつとなりました。日産ワークスが急に何かを掴んで伸びたのか、ローランドが異様に速かっただけで本来パワートレインとしてはこのぐらいなのかちょっと謎。
 そんな中でシーズン11に向けてドライバーにはテコ入れ、シーズン9のデビューから予選で恐ろしい速さを見せて華々しくデビューしたヒューズでしたがフェネストラズと同様に決勝での結果がなかなか出せず、ようやく初めて表彰台に乗ったのが第12戦の上海。マクラーレンのお眼鏡に叶わなかったか契約を延長されませんでした。
 入れ替わって加入したのは20歳のテイラー バーナード。昨シーズン代走として既に3戦に出場し、ベルリン2連戦ではいずれも入賞してフォーミュラEへの素早い適応力を見せたことが高く評価されたと思われます。バーナードは2023年のFIA F3にイェンツァーから参戦して1勝し選手権10位。数字だけ見たら平凡ですがイェンツァーはそんなに強豪チームではなく、このチームで優勝したのは2019年の角田 裕毅以来でした。今年はFIA F2にこれまた参戦経歴が少ないAIX レーシングから参戦し、第9戦モナコのスプリント レースで自身とチームに初優勝をもたらしています。
 そして残留したのはサム バード。あまりにやらかしすぎてジャガーをクビになってやってきた新天地マクラーレン。第4戦・熱害にみんな苦しんだサンパウロで最後の最後にリスクを背負った勝負手で攻め込んでエバンスを逆転し約2年半ぶりの優勝、日産e-4ORCE 04としての初優勝をもたらしたのはこの人でした。ただ不運にもモナコでの練習走行でクラッシュして怪我をしてしまい、バーナードが代理で出場することになりました。
 優勝はあったし怪我もありましたが、入賞が5回しかなかくてリタイアが多かったのも事実で、これはマクラーレンに来る前のジャガー時代終盤からずっと抱えていた課題です。風貌もそうなんですけど精神的にもちょっと晩年のフェラーリ時代のセバスチャン ベッテルと似ていて自分で自分を追い詰めすぎて失敗が連鎖してしまう感じがあるんですよね。
 バードが怪我してなかったらバーナードの代走デビューも無かったので今年のドライバーがどうなってたか分かりませんが、何せ『バード』と『バーナード』のコンビです。予測変換でどっちも出てきますw
 
 余談ですが、冠スポンサーになっているネオムはサウジアラビアの巨大な都市開発プロジェクトの名称です。事業総額5000億ドルとかいうえげつない金額の巨大企画なんですが、残念ながらあんまりうまく進んでいないようで経営陣が相次いで交代するなど先行きがやや不透明な様子です^^;

Maserati MSG Racing/Maserati Tipo Folgore(1勝)
  2 Stoffel Vandoorne(DSペンスキーから移籍 最高位3位/選手権10位)
55 Jake Hughes(マクラーレンから移籍 最高位2位/選手権14位)

 マセラティーはパワートレインとしてはGen3に引き続きDSのものを規定に従ってお金を払いマセラティーとして届け出ての参戦。車両名はポルシェと同様にブランド的にティーポ フォルゴレという同じ名称で通すみたいですが中身はDS E-TENSE FE25です。パワートレインメーカーで争うマニュファクチャラーズ選手権もDSとまとめて『ステランティス』として数えられるので、放送でも『ステランティス パワートレイン』という呼び方で括られていることがあります。
 名前は変わって無いですがドライバーは2人とも入れ替え、ストフェル バンドーンはグンターとの入れ替わりという結果でマセラティーへとやってきました。シーズン8・メルセデス最後のシーズンにチャンピオンを獲得し、それを手土産にDSペンスキーへとやってきたのに1年目は表彰台なし。そして2年目もモナコでの3位が一度だけでベルニュに大きく後れを取りました。予選ではデュエルスに出てるし入賞圏にもいるんだけど、昨シーズンは対ベルニュで予選/決勝とも平均順位が3近く低くて劣勢が明らかでした。メルセデス時代が出来すぎだったのか真価が問われ、ここでも結果が出ないとちょっと先が無さそうなのでダコスタよりも尻に火が付いてるとは思います^^;
 
 そして新人だったジェハン ダルバラがあっさりと1年で見切られてしまい、マクラーレンの椅子を失ったジェイク ヒューズが空いた席に滑り込み。ダルバラがチームとすると期待外れだったわけですから、ヒューズは2回しか入賞できなかったダルバラよりもマシな結果を持ち帰れば一定の評価を得られるかもしれないので、マクラーレンでだいぶ期待外れ感が出てしまったところから心機一転で戦うには良い立場かもしれません。対バンドーンで対等に渡り合えば大幅評価アップ、負けててもそれなりに入賞できれば「まあバンドーン相手じゃしゃあない」と思ってもらえますからね。ちなみにダルバラは今のところ来シーズンのお仕事が決まっていないようです。。。

 なお、マセラティーはシーズン開幕を間近にした11月27日にGen4へのパワートレイン製造者参加申請を行いました。現段階でDSブランドではなくマセラティーとしてのみ申請が出されており、シーズン13以降はマセラティーがステランティスのフォーミュラE活動を先導することになる可能性もあります。


Lola Yamaha Abt Formula E Team/Lola T001(最高位4位)
11 Lucas di Grassi(最高位9位/選手権23位)
22 Zane Maloney(新人/FIA F2参戦中)


 撤退していくメーカーばかりだったフォーミュラEに現れた久々の新規参戦者・ローラ。昨シーズンまで2年間はマヒンドラのカスタマーだったアプトにパワートレインを供給することで新規参戦を果たしました。アプトはシーズン1から7までずっとアウディーのパワートレインを使用するワークス組織でしたから、4シーズンぶりに自分たちのパワートレインを手にしたことになります。
 ローラは1960年代から様々な競技用車両を作成してきたイギリスの名門コンストラクター、でしたが1997年のF1参戦計画で財政に大打撃を受けて2012年に消滅した"元名門"です。2022年にティル ベクトルサイマーというお金持ちが自身の手でローラを再興させたいと考えて、別の会社の手に渡っていたローラの名称と資産を買収して復活させました。そして彼がローラを再び国際的なレースの世界に戻す舞台として選んだのがフォーミュラEでした。
 というのも彼はアローザ キャピタル マネージメントというエナジー関連産業を中心に投資を行う会社の創業者で、自身もNSX GT3などでレースに出場しているジェントルマンドライバー。再興するといったっていきなりF1やWECに出られるわけでもなければ、どこかのカテゴリーの車体として自分たちの車両を採用してもらうことすら、手元にまだ何もない彼らには無理ですからフォーミュラEは格好の舞台だったと思われます。
 そしてそんなベクトルサイマーに協力したのが日本のヤマハ発動機、パワートレインへの技術協力という形で名を連ねており、どの程度関与したのかは分かりませんがご覧の通りチーム名にははっきりとヤマハの文字が並んでいます。ローラは従来車体開発は行っても、それを販売して世界のお客さんに使ってもらう立ち位置の会社で自らレースは行わないので『アプトへ供給』と表明していましたが、結局はローラがアプトの保有していた参戦権を継承して『ローラの活動にアプトが実務部隊として協力する』組織の構図となったようです。

 ドライバーは偉大なる初期メン・ルーカス ディ グラッシが残留、フォーミュラE歴代最多・通算131戦に出場しています。他の初期メンが怪我や他レースとの重複で数戦の欠場がある中でディグラッシだけはほぼ皆勤賞なんですが、唯一シーズン9のケープタウンだけはマヒンドラパワートレインの全員がリア サスペンションの不具合でレース参加は危険と判断して撤収してしまったので欠場となって皆勤賞は途切れています。自己都合での欠場はまだゼロですねw
 とはいえ昨シーズンは性能に劣るマヒンドラパワートレインで大苦戦、入賞はたったの3回で10位が2度と9位が1度、初年度から9シーズン連続で最低1度は乗っていた表彰台に全く爪の先すらかかりませんでした。チームメイトのミュラーが52点も稼いだのにディグラッシは僅か4点です。ここ数年は引退の話も浮かんでいる様子ですが、思いがけず新しいパワートレインと共に戦うことになりおそらく本人も期待しているでしょうし、チームも彼の経験に期待していると思います。

 大ベテランのチームメイトはミュラーの後任としてバルバドス(正確にはバーベイドス)出身の21歳・ゼイン マロニーを起用。昨シーズンはアンドレッティーのリザーブとして新人テストにも参加しており、F1でもザウバーのリザーブでした。2022年のFIA F3で選手権2位、2023年はFIA F2で10位、そして今シーズンは2勝して3位に付けており本来ならF1を狙うような位置にいる選手です。
 ここまでの記事を見ても分かる通りGen3になってから入ってきた新人さんたちはわりとあっさり淘汰されて見切られてしまった人が既に出ており、独特の車両とレースのやり方に適応して偉大なドライバーになるのは非常に壁が高いわけですが、フォーミュラE出場経験ゼロの唯一な完全新人さんの走りは見どころでしょう。ちなみにローラヤマハのパワートレイン、他陣営と比べるとより高くて澄んだ音がするのが特徴かなと比較動画を見て思いました。

 また、ローラはまだ一度も走っていない段階ですが既にGen4へのパワートレイン製造者としての参戦も行っており、Gen3Evoの2年間はたとえ成績が今一つでもGen4へ向けた足掛かりという大きな意味がありそうです。

Mahindra Racing/Mahindra M11Electro(最高位4位2回)
21 Nyck de Vries(最高位4位/選手権18位)
48 Edoardo Mortara(最高位4位/選手権16位)

 グリッド後方に低迷する赤いヤツ、マヒンドラ レーシング。ZFが手掛けるパワートレインの競争力不足は明らかで、予選一発ならなんとか勝負できてもパワートレインの効率が悪くて決勝でライバルと同等の速さを出すのはかなり困難でした。アプトがローラへと変更したのでカスタマーがいなくなりマヒンドラはワークスのみ、集まるデータ量が半分になりましたが4基ぶん用意しなくて良いから集中できるのか、ますます遅れを取ることになるのか。
 ドライバーは2名とも残留、ニック デ フリースはシーズン7でチャンピオンを獲り、華々しくF1へ上り詰めたらあっという間にクビにされ、フォーミュラEに戻ったらあんまり空きがなくてマヒンドラに収まりました。さすがにメルセデスとは勝手が違いすぎて開幕から10戦連続無得点(ただし3戦欠場)でしたが、上海で7位、ロンドンで4位と2回入賞して面目を保ちました。でも平均順位は予選/決勝とも下から2番目の成績です。Gen3に慣れた2年目は力を見せたいですが、マヒンドラのパワートレイン次第なのが悲しいところ。ちなみにデフリースはF1へ行っていなければシーズン9でマセラティーと契約することが決まっていました。結果としてはこっちの方が良かったですね。。。

 そして同じく残留のエドアルド モルターラ、なんかこのチームにいるのが勿体ない存在ですが、昨シーズンはカスタマーのミュラーほどではないもののマヒンドラで奮闘。第9戦ベルリンではなんとポール ポジションを獲得して、まだその時点で入賞がなく無得点だったチームに予選でポイントをもたらし、レースも8位に入りました。東京でも最後に電欠して失格になってしまったものの上位で魅せてくれています。
 とにかく壁に近いところを走る場合この人は単純に速いですし、効率よく走る技術もあります。マヒンドラの特性上、エナジー管理を優先して走ると単に遅くて負けるだけなので『行けるだけ行って何も起きなかったら脱落する』という突撃型の作戦を採用することが多いですが、その場合の重要要素である速さも持っているので、マヒンドラとすると非常にありがたいドライバーですし、できれば彼のために良い車を作ってあげてほしいです。

 マヒンドラはGen4への参加申請を今のところ行っておらず、会社として今後もフォーミュラEに関与し続けるべきなのか調整が続いているとのことです。一部の情報では、マヒンドラと比較的近い位置に拠点があるメルセデス ハイ パフォーマンス パワートレインズがふたたびフォーミュラEへの間接的な関与を模索しており、マヒンドラに技術協力するのではないか、との噂もあるようです。

Kiro Race Co/Porsche 99X Electric WCG3(最高位4位)
  3 David Beckmann?(ポルシェ リザーブ選手)
33 Dan Tictum?(最高位4位/選手権19位)

 長年使用していたNIOという名前から変更し、シーズン10にERTという名称で参戦していた元チーム チャイナ レーシング。財務基盤が不安定であることは毎年の悩みですが、中国資本からアメリカの投資会社・ザ フォレスト ロード カンパニーへと売却されてアメリカ国籍のチームへと変更。チーム名は『多くの言語で"明るい光"を意味する』という『キロ』を掲げました。でもどこの言語なのか調べてもよく分かりませんw
 チームの拠点は従来通りイギリスに置かれ、チーム代表は引き続きアレックス ホイが務めますが、パワートレインはヘリックス製のパワートレインに見切りを付けて、ポルシェの型落ちパワートレインを供給されることになりました。旧型のパワートレインをGen3 Evoの規則に従って改修しただけのものとなるようで、まず現実的な目標としてはいつも下位を争っていたマヒンドラに対して型落ちがどの程度戦えるのか、というところになると思います。

 ドライバーはFIAへの提出期限が既に過ぎているので実際には決まっているはずなんですが、これを書いている時点でも正式発表がありません。ただ情報からするとダン ディクタムが残留し、もう1人はセルジオ セッテ カマラに代えてポルシェのリザーブドライバー・デイビッド ベックマンが起用される見込みです。
 このチームで4年目を迎えると思われるティクタム、シーズン9では7回入賞し予選でも時折びっくりする速さを見せて見ている側に驚きを与えましたが、シーズン10はその予選番長ぶりもセッテカマラに持って行かれた感じで入賞は第6戦ミザノで4位に入った一度だけでした。ただ下部カテゴリー時代にやや問題児キャラだったことを思えば、下位でもそこそこ堅実にできることをやっている印象を受けるので、ドライバーとして良い経験にはなってるのかなと全然違う視点で見ていました。

 チームメイトは開幕前テストでも乗っていたベックマンの可能性が高いと考えられます。シーズン9のジャカルタでアンドレ ロッテラーの代役として2戦だけ出場経験があり、シミュレーター等を数多くこなしているとは思いますがフル参戦なら新人さんとなります。他の新人さんはF3やF2での好成績がありますが、ベックマンは2020年のFIA F3で6位、翌年から2年間出たF2は15位と18位、際立った結果が出ているタイプの選手ではありません。
 存在としてはどちらかというと地味な24歳ですが、フォーミュラEは過去の実績では測れないレースですから、こういう選手が案外掘り出し物だったりするかもしれません。

・開幕前テスト

 Gen3ではシーズン9の開幕前テストはブレーキが利かずに事故る車両が複数発生、シーズン10は取り外して保管しておいたバッテリーから出火してテントが燃える事故がありましたが、今シーズンも問題が発生。本来スペインのバレンシアにあるリカルド トルモ サーキットで実施するはずが、ニュースでご存じの方も多いでしょうがスペインで記録的な洪水が発生。現地入りが難しくなり、急遽開催地をマドリードのハラマ サーキットへ変更しました。
 6回行われたセッション、全体で最速だったのはジャガーのエバンスでした。そして2位にはなんとキロレースのティクタム、4位にチームメイトのベックマンが入り型落ちポルシェが快走。ワークスポルシェのベアラインとダコスタも3位と6位でした。ローラはマロニーが13位タイムを記録、エンビジョン勢は下位に沈みましたが、一発の速さでは何も分からないカテゴリーなのであくまで参考値です。

 そして史上初の女性ドライバー限定テストも併催され、こちらの最速は日産に乗ったアルピーヌの育成ドライバー・アビー プリングでした。唯一日本人ドライバーとして参加しローラに乗った小山 美姫は31周して4位、おそらく100km以上走っているので規定上はフォーミュラE参戦のために必要なライセンス発給要件を満たしたことになると思われます。

 SUPER GTで大注目のリル ワドゥーはジャガーから参加するはずでしたが、シートが合わないという想定外の問題で出走することができませんでした。またフォーミュラE経験者のシモーネ デ シルベストロがキロレースから出走したものの、こちらも不具合で6周しかできず最下位でした。

 というわけで、シーズン11のザックリとしたチームとドライバーの紹介でした。

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