Formula1 Singapore Airlines Singapore Grand Prix 2024
Marina Bay Street Circuit 4.94km×62Laps=306.143km
winner:Lando Norris(McLaren Formula 1 Team/McLaren MCL38-Mercedes-AMG)
市街地2連戦のF1、先週の340km/h超の世界から一転して第18戦は低速のシンガポールです。昨年は現地の建設工事との関係で『1年限定』でコース終盤のレイアウトに変更が加えられ、こちゃこちゃとした小さいターンが続く区間がごっそり削り取られました。しかし工事の進捗の関係か今年も同じレイアウトを継続、さらにこの変更部分に今年は新たなDRS区間が設置され、僅かながら追い越しの機会が増やされることになりました。NS スクエアというのを建設してるらしいんですけど完成が2027年とか書いてあって、たぶんどこかしらまで進捗すれば元に戻せるんだろうと思うんですが、もうこっちの方が良くて戻さんかもなw
・レース前の話題
先週はマクラーレンのピアストリがルクレールの追撃を数十周に渡って振り切り優勝しました。直線の長いバクー市街地でDRSを使った相手を抑えるのは簡単ではないですが、その一因としてMCL38のリア ウイングが高速域でたわんでいることが注目されたようです。空気の壁というのは非常に大きな力なので速度域が上がると部品がたわむのは大なり小なり発生し得る事象ですが、バクーではMCL38のウイングの隅っこの方がピロっとめくれ上がるように変形し、まるでDRSを作動したかのように上下の羽の隙間が僅かに広がっていると指摘されました。ちょっと揶揄する意味もあるのか『ミニDRS』というあだ名が付きました。
前後のウイングは静止状態でかなり大きな荷重をかけ、変形しないか確認する試験を通らないといけない規則なので、みんなそう簡単には変形しないものだけを使用しているはずですが、実際はその試験を通過しながらも実際に使うとたわんで可変ウイングのように機能するものをどのチームも探っています。その中でも今回は特に影響力が大きそうなので競争相手の皆さんは噛みついた様子。
とはいえこのウイングが合法だから使用されている、というのはFIAも確認済みなのでライバルとすると「どうやったらあれが試験を通って合法的に使用できるのか?」というのが気になるところ。できれば「秘密を理解して自分たちも同じものを作りたい」わけですが、すぐにはできそうもないので行動としては「異議を唱えて使用できなくする」ことになります。
技術指令ではたわみそのものは認められているものの、その動作が自然な範囲を超えて明らかに意図的なものであれば違反とする文言があるため、FIAはマクラーレンに対して修正を指示。今のところ「違法だ」と明確に違反とする文言が示されたわけではないですが、マクラーレンは修正に応じるようです。ただ、すぐにお分かりかと思いますがこんな変なウイングを使うのはバクーのような高速コース仕様で、今回のシンガポールのようなコースではそもそも使用しないか、そういう機構があっても速度域が低くて機能しません。そして今後使用する可能性があるレースも限られていました。
どうやらこのウイングは既にベルギーとイタリアでも使用されていたものだったそうで、もしベルギーのフリー走行の段階で誰かが目ざとく気づいてすぐに文句を言っていたらすぐに止められてこれらのレースの結果も変わっていたのではないか、とmotorsports.comの記事では指摘していますが、ちょっとした『ピロっとめくれる』ウイングは短命ながらそれなりの結果を生み出したかもしれません。
思い返せば、レッドブルは『DRSを使った時に異様に速度の伸びしろがあって効率が高い!何か秘密があるはずだ!』とみんな言っていたのに、その次はマクラーレンが『DRSを使ってないのにDRSみたいな効果がある』ウイングでレッドブルを困らせるんですから面白いものですw
・予選 本日も予選中にどんどん路面状況が改善し、セッションの終盤が明らかに速い状況。Q2ではアルボンが惜しくも11位、このわずか0.007秒差にコラピントが続き、ペレスがその後ろの13位としょんぼり。せっかく先週は頑張った(けど最後の事故った)のに、続けないとなかなか評価も上がらないですね。
そしてポールを決めるQ3、まずピアストリが記録を出し、続いてフェルスタッペンがこれを上回るタイムで通過するはずでした。ところがこの2人の間にいてこれからアタックに行くはずだったサインツが最終コーナーですっ飛んでまさかのクラッシュ、フェルスタッペンが現場を通過する際には黄旗が振られており記録は無効となってしまいます。それにしてもこれからアタックに行く人が回るって珍しいですね。
サインツの失敗でピアストリとヒュルケンベルグ以外は全員が保険となる持ちタイム無しのほぼ一発勝負となりましたが、ピレリポールは練習走行から図抜けた速さを見せていたノリス。Q1が1分30秒002、Q2は1分30秒007と安全を見ながらまとめていましたが、Q3は1分29秒525と一気に上げました。2位にはフェルスタッペンが来ましたが0.203秒の差。
今回はペトロナスの特別スキームということで緑色の成分が多いメルセデスのハミルトンが3位、ラッセルが4位、アストンマーティンと見間違えやすいのでもうちょっと考えてほしいですw
一方練習走行ではそこそこ良さそうだったルクレールはターン2ではみ出してしまい記録抹消、つまりフェラーリは2人ともQ3の記録なしで9位・10位となりました。記録無しが2人いたおかげで、久々にQ3に進んだ角田裕毅が8位を獲得しました。なおサインツは事故った後に許可なくコースを横断したので罰金、フェラーリのチームとしても練習走行でタイヤの規則に関する違反行為があったのでこれとは別に罰金となっており、なんか結果が出なくてお金ばっかり出ていく日になりました。
なお、今回のレースを最後にビザルビーをクビになってしまうかも、と言われている(でもアゼルバイジャンの前もそう言われてたけどまだ乗ってる)ダニエル リカードは頑張りたいところでしたがQ1落ちして予選16位。予選後は絶好のタイミングでSCでも出てくれないとなあ、という話の流れで「ネルソン ピケ ジュニアを連れ戻そう。」と笑えない冗談が飛び出しました。えーっと、その事件の主犯格の人が近くの現場にいるかもしれませんよ・・・w
・決勝
決勝のタイヤは多くがミディアムですが、3位のハミルトンがソフトを選択する意外な動き。当然前に出たいための選択なのでスタートからの動きに要注意ですが、出られなかったら作戦の幅がかなり狭くなってしまって苦労します。ターン1までの距離が短いコースなんですけど上手くいくんでしょうか。
ところがいざスタートすると注目のハミルトンは出足が今一つ、見た感じタイヤが食いすぎて回転が落ちてしまったような動きで、同じく汚れた路面なのであまり良い動き出しではなかったフェルスタッペンと並んだものの抜くことはできませんでした。結局1周目を上位7人は予選順位通りに通過して、ノリスはポールからスタートしたレースで初めて1周目を1位で帰ってきました。
一方で中団のスタートはけっこうな混戦で、コラピントがターン1に一番内側から突っ込みんでうまく順位を上げました。外側にいる人たちはちょっとラインを外れたらやたら路面が汚れていて数名がコース外へ、コラピントが突っ込んできた影響もあって左を気にして避けようと考えたらグリップせずはみ出した、みたいな状況も見えました。アルボンは大外にいたので連鎖的な流れでコース外まで回避することになって順位を下げ「フランコがミサイルしてきたぞ!」と苦言。コラピント自身はミサイルかと思ったらけっこう上手く車を止めていたんですが、毎回これやってると絶対どっかで事故りそう・・・
さて最初に前に出られなかったハミルトン、ソフトでペースを上げたら一瞬でタイヤが潰れるのですぐにタイヤ管理モードに頭を切り替えた様子、フェルスタッペンから離れて後ろにラッセルが接近します。組織とすると2人を入れ替えてミディアムのラッセルを前に出したいところだな、と思ったらラッセルも無線で「ハミルトンはよ走れ。」とせっついています、そりゃそうだ。ここには当然「はよ走れ(もしくはできないなら俺に譲れ)」という意味が込められているか、放送されてないところでそう言ってるかもしれません。
ノリスは少しずつフェルスタッペンと差を広げて9周目には3秒差。ウィル ジョセフから「今どのぐらいのペース?」と聞かれて「6ぐらい。」と返答。自分の中で10段階でどのぐらい一生懸命走ってるか、という主観の話だと思いますが、6ならかなり余力があります。そのためジョセフからは「可能ならペースを上げて15周目あたりで5秒差にしてくれるか?」と頼まれました。
するとノリスは11周目のうちにはもう5秒差にして前倒しで目標を達成しました、これは通期での上方修正に期待がかかります(謎)フェルスタッペンは前のノリスと5秒差、そして後ろのハミルトンとも5秒差になって当面は一人ぼっちです。
ミディアムでスタートした人はハードに繋ぐ1ストップで行くわけですが、後方からハードでスタートしたマグヌッセンが「死ぬほど滑る。」と言っていてハードもあまりよくないらしく、これを聞くとライバル勢はできるだけ丁寧にミディアムを使って引っ張りたいところでしょうか。まあマグヌッセンが下手なだけかもしれないですけど()
16周目、アルボンが何かしらの不具合で低速走行となりますが、コース上で止まることなくピットにたどり着いたのでレースには影響なし。同じ頃、10位のペレスは前を行くコラピントに対して「ええやんか、コラピント、抜くの難しいわ。」と謎のお褒めコメント。昔SUPER GTで脇坂 寿一が前を行くライバルを「速なったなあ。追いかけます(汗)」って無線で言ってたのは有名ですが、チェコはとうとう寿一の領域に入ったんでしょうかw
18周目、3位のハミルトンがピットへ、ここからハードでの長旅スタート。前を行くフェルスタッペンとは8秒も差があったので前の人はすぐには反応しません。まあきっと数周したらタイヤや作戦に関しての文句が聞かれることでしょうw
すると23周目、ハミルトンからの無線は「俺達一番最初にピットに入ったのか?後で苦労することになるぞ、ちょっと(第1スティントが)短すぎる。」「既にタイヤで苦しんでるんだ。」ああ、やっぱり・・・
一方その頃リーダーのノリスは25周目にフェルスタッペンとの差を18秒以上に広げました。ジョセフからは「最初にピットに入りたくはないからできるだけ引っ張る」旨が伝えられ、とりあえず行けるところまでほったらかしです。2位のフェルスタッペンと現在の3位・ラッセルの差も12秒と大差で、もうフェルスタッペンはレース中に誰とも出会わないんじゃないだろうかw
この中で28周目にラッセルがまずピットへ、ずっとラッセルに詰まっていたピアストリはようやく蓋が外れたのでここから飛ばしに行きます。ラッセルがいなくなったら急に0.8秒ほど速くなってフェルスタッペンより速く走れているので確かに速い模様。
そのフェルスタッペンは29周目にピットに入り、後ろとは大きな空間があるので、と思ったら鼻差でまだピットに入っていないルクレールの後ろになりました。まさか誰かに会うとは思っていなかったフェルスタッペン、混乱して「あんな遠くにいたのにアンダーカットされるとかバカか!?」と激怒、いやあその人まだタイヤ換えてないんっすよ。結局ルクレールに半周ほど詰まりました。レッドブルとしても他の車に引っかかる場所でわざわざピットに呼ぶって結構珍しいなと思ったんですが、あと1~2周引っ張れなかったんでしょうかね?あ、フェルスタッペンはさっきまで独りぼっちでしたけど、ルクレールのエンジニアはブライアン ボッツィーですね。
相手が動いたので翌周にノリスがピットへ、この少し前に無線で「フロント ウイングに損傷があるかもしれない。」と言っていたので気になりましたが交換するわけでもなくそのまま。ジョセフによると多少問題はあるけど心配はないとのこと。その後にようやく該当場面のリプレイが放送されますが、ターン14のブレーキで完全に失敗して事故る一歩手前でした、そんなに攻めんでもええやんか・・・
前後の人たちはみんなピットに入りましたが、しばしほったらかしで単独2位だったピアストリ。ピット前にずっと蓋になっていたラッセルをオーバーカットできるぐらい速かったら最高なんですけど、さすがにタイヤを換えた人よりは少し遅いのでピット後はまた後ろに回ってコース上で抜かないといけません。加えてハミルトンがなんとかピアストリより前に出ようと飛ばしていたので、38周目にピアストリがようやくピットに入ると合流したのはハミルトンの1.5秒ほど後方の5位でした。
改めて記録を見ると、28周目にタイヤを換えたラッセルが1分38秒中盤で走っているのに、18周目に交換したハミルトンが37秒後半で走っているのでかなり無理している印象ですが、せっかく頑張って前に出たハミルトンをピアストリは翌周にあっさりと抜いてしまいました。ハミルトンは自分のペースでタイヤをもたせた方がよかった気がするんですけど・・・
ピアストリはラッセルに対しても一周1.5秒ほど速いので44周目にはもうDRS圏内。しかし追いつかれたラッセル陣営はというとピアストリのことをあまり気にしていないらしく、今はまだ2つ後ろの6位にいるルクレールについて「最後には追いついてくるかもしれない。」という話をしています。まあそんな状態なのでピアストリは45周目にラッセルも抜いて3位、でも前のフェルスタッペンは19秒前方だからあと18周では遠いですね。というかメルセデス、ラッセルがピアストリを無視して対ルクレールを意識するのに、何でハミルトンは必死になってピアストリの前に置こうとしたんだ、やっぱチグハグな気がするぞ。
その後は大きな山場も無くレースは進行、リーダーのノリスは大量リードなんですがそれでも万が一に備えて、とファステストの1点を獲るために手を緩めておらず、そのせいで昨年ラッセルがぶつかった魔の『ターン10手前の出っ張り』に軽く右後輪が触れてしまう場面もありました。1点獲りに行ってリタイアしたらどうするんや。
残りが10周ほどとなると、ハミルトンを既に抜いてラッセルを追いかけていたルクレールに対してボッツィーから無線で情報が届きます。
ボッツィー「ラッセルが1位、ペースは1分36秒6。」
ルクレール「ラッセルが1位ってどういうことやねん!」
ボッツィー「(被り気味に)ごめん間違うた、ノリスが1位。」
ルクレール「ラッセルが1位ってどういうことやねん!」
ボッツィー「(被り気味に)ごめん間違うた、ノリスが1位。」
ルクレール「ノリスの情報いらんねん!」
エンジニアが交代しても安心のフェラーリクオリティー、言い間違えたのを訂正したはいいけどその情報がそもそもいらんという2段階で笑いを取るあたりが他の追随を許しませんw
そんな小劇場はありましたがレースには特に影響なく幸いにしてピケジュニアも登場しませんでした。ラッセルが2位のペレスに対して20秒もの大差を付けて優勝しました。あ、失礼、ノリスが2位のフェルスタッペンに20秒もの大差を付けて優勝しました。3位にフェルスタッペンから20秒遅れでピアストリ。ラッセルは4位を守り切り、5位にルクレール。ハミルトンは6位でしたが5位から23秒差。50周目に抜かれたルクレールから残りの13周でこれだけ離されたので、非常にしんどいレースだったことが分かります。
ちなみにメルセデスの2人はいずれもレース後に熱中症の症状で体調不良だったため、取材を一時お断りする事態となりました。イタリアでシートが熱い問題に見舞われていたことを考えると、相変わらず他所のチームよりも居住環境が悪いのかもしれませんね。。。
そして最後の最後に1つドラマが、ピケジュニア召喚には失敗したリカードでしたがチームの命により最後にタイヤをソフトに交換。これでノリスが48周目に危険を冒して出した記録を0.4秒以上更新してファステスト強奪。10位以内でないとボーナスの1点は貰えませんが、フォーミュラEと違ってF1では『上位10人の中で最速に1点』という規則ではなく『該当者なし』になるので、これでノリスから1点を奪ったのです。
結果、ドライバー選手権で1位フェルスタッペンと2位ノリスの差は7点だけ縮まって52点差。で、前回の記事で『ノリスにギリギリで自力チャンピオンの可能性がある』と書きましたが、今回のレースで前提となった『優勝+ファステスト』に1点届かなかったので数字上自力チャンピオンの可能性が消えました。フェルスタッペンは残るレースとスプリントを全て2位で終えて合計129点を獲得すれば、ノリスの結果に関係なくチャンピオンを獲ることができます。これを私は『マジック129』と呼んでいます。
たぶん優勝マジックってプロ野球以外で使うことがほぼないのでいきなり書かれても意味不明ですが、意味としては『あと何点獲ったら他の選手の結果に関係なくチャンピオンを決められるか』を表す数字です。フェルスタッペンはこのマジックナンバーから自分で獲った分の点数が減って行きます。そして、野球ならマジック対象チームが負けるともう1つ減るのと同様に、マジックの対象相手が『そのレースで獲得できる最多得点より少ない獲得点数だった』場合にはその不足分も減って行きます。
たとえばフェルスタッペンが優勝+ファステスト、ノリスが4位だった場合にはフェルスタッペンが獲った26と、ノリスが12点しか獲れていないので最大から見て減った14の合計40がマジックナンバーから減ります。フェルスタッペンが2位でノリスが優勝+ファステストなら18だけが減ります。つまりマジックは1レースで最大52減ります(スプリントのイベントだと最大で68減る)ので、最短でフェルスタッペンのチャンピオンは第21戦ブラジルということになります。誰かの自力優勝が復活したら当然ながらマジックは消えます。
毎回計算するのが面倒なので、間違ってたらごめんなさい、な自己流の表を作成して計算しています。C-D(全部優勝+ファステストで獲れる点数と、全部2位で獲れる点数の差)の数字がG-H(フェルスタッペンとノリスの実際の点差)を上回っている場合には、ノリスが全部勝ったら逆転できることになるのでマジックは消えます。マジックの計算で+1しているのは、同点では優勝回数の差でノリスがチャンピオンになるためです。2位で最大獲れるのが129、マジックも129なので現状では『残り10試合でマジック10』ぐらいあまり参考にならない数字ですね^^;
レースとしてはノリスが独走して特にこれという感想も無いレースになりましたが、苦戦すると思われたフェルスタッペンが2位となったことでレッドブルは影響を最小限、というかチャンピオンに向けて前進することができました。ここから次戦のアメリカまで約1か月の時間があり、この先は本来なら高速コーナーでの空力性能に優れるレッドブルが戦えるコースも多いはずなので、不調の原因にある程度対策を施して確実に2位を拾っていける体制を作りたいところです。
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