NASCAR 第22戦 インディアナポリス

NASCAR Cup Series
Brickyard 400 Presented by PPG
Indianapolis Motor Speedway 2.5miles×160Laps(50/50/60)=400miles
winner:Kyle Larson(Hendrick Motorsports/HendrickCars.com Chevrolet Camaro ZL1)

 NASCARは夏休み前最後のレース・ブリックヤード 400です。今年のイベントの正式名称としては後ろに『presented by PPG』が付きます。NASCARが初めてインディアナポリスで開催されたのが1994年、当時人気絶頂にあったNASCARにとってアメリカのレース界における聖地であるインディアナポリスでのレースは1つの悲願でした。ストック カー選手にとっても聖地インディアナポリスで走り、そして勝つことにはかなりの栄誉があるレースでしたが残念ながら時間とともにブリックヤード400の人気は低迷。夏の暑い時期に開催される上にシーズン中盤の盛り上がりがやや陰る時期でもあり、しかもレースの方向性が似ているポコノーが前後に2戦開催されるため、端的に言って飽きられました。
 そこで2021年からはロード コースを使用した新しいレースへと生まれ変わり、これはこれで色んなグダグダと珍事、そして昨年はマイケル マクダウルの優勝というちょっとした奇跡も生み出しましたが、今年が初開催から30周年ということとGen7車両は高速オーバルのレースを面白くできそうな車両なのでオーバルに戻ってきました。
 最後に開催された2020年はパンデミックの下での開催で、この頃無敵の強さだったケビン ハービックが優勝、その前年もハービックが勝ちました。過去のデータは車も違うし久々であまり参考にならないですが、2015年以降の優勝者はカイル ブッシュ×2 、ケイシー ケイン、ケゼロウスキー、そしてハービック×2と、イニシャルのいずれかがKで始まる人が現在6連勝中です()
 また、かつて特別な賞金を懸けたイベントとしてデイトナ500、コカコーラ600、サザン500、ブリックヤード400、の4つのレースを『クラウン ジュエル』と称したことがあり今も表現として使われることがありますが、ハムリンは参加ドライバーの中で唯一『ブリックヤードで勝ったらクラウンジュエル制覇』の状態となっています。ブリックヤードが比較的新しいイベントということもあり、過去の達成者は4人しかいない記録です。

 と、期待は高いブリックヤードですが、2.5マイルでバンク角が低くて抜きにくい特性は先週のポコノーと同じです。タイヤの消耗度合いとステージ距離の設定が違うのでポコノーと事情は異なるものの似たパターンにはなりがち。また、ピットの道幅が非常に狭くて接触事故が多いのでお互いにとにかく気を付けて動く必要があります。

・レース前の話題

 先週のエクスフィニティーで今季初勝利を挙げたカスターですが、ちょうどこの週末にハース ファクトリー レーシングから来年のカップシリーズにフル参戦することが発表されました。SHRが消滅し、ジーン ハースが単独名義で一部を引き継ぐ形でカップに1台、エクスフィニティーに2台という縮小された規模で運営されることになる新生ハース。チームを取り仕切るジョー カスターの息子であるコールが起用されることは確定的でしたが、夏休み前でブリックヤード前で初優勝後、というなかなか良いタイミングでの発表となりました。
 一方、MotoGPにも事業を拡大するなど閉鎖とは今のところ無縁なトラックハウス レーシング、新たにアベニュー スポーツ ファンドが少数株主として出資者に加わることが発表されました。1995年に設立されたアベニュー キャピタル グループのスポーツ投資部門として2023年に立ち上げられたアベニュースポーツ。新しいのでまだ実績は見当たらないんですが、アベニューの創設者の1人は元ミルウォーキー バックスのオーナーでチームの再建に成功したそうで、そうした実績に基づいて投資を行っていると思われます。

・Craftsman Truck Series Tsport 200 (at Lucas Oil Indianapolis Raceway Park)

 今年もブリックヤードのご近所さん・1周0.686マイルのIRPで開催されたトラックシリーズ。6位スタートのクリスチャン エッケスがステージ1・2を連勝しましたが、今日速かったのは4位スタートのタイ マジェスキーでした。マジェスキーは50周目のリスタートで反則を取られて一旦後方に落ちたもののステージ2では3位まで戻し、145周目にエッケスを抜いて残るレースを独走し今季初勝利を挙げました。IRPでは去年も200周のうち179周をリードして圧勝しており2連勝です。

 トラックシリーズは次戦がレギュラーシーズン最終戦ですが、レギュラーシーズンのチャンピオンを争っていたエッケスとコリー ハイムはステージ2で一悶着。エッケスがハイムを壁に追いやって接触し、これでハイムはパンク。怒ったハイムはコーション中に威嚇の接近を行い、レース後も口論になりました。ハイムは限られた新品タイヤを予定より早く投入せざるをえなくなり、ステージ2は2位で終えたものの最終ステージでボロボロになって17位。ドライバー選手権ではエッケスがハイムに対して50点差を付けてチャンピオンに王手をかけました。
パンクして火花を散らしながら抗議に行くハイム

・Xfinity Series Pennzoil 250

 スタートから3/4周でいきなり多重事故が起きたエクスフィニティー。SHRの2人が好調で、カスターとライリー ハーブストが時にはお互いに助け合いつつ主導権を握りました。残り11周のリスタートからはこの2人と、チーム内の謹慎処分から戻ってきたエリック アルミローラの激しい争いが発生。混戦を抜けたカスターが一時は1.4秒近く差を広げたものの、速さならハーブスト、そしてタイヤの新しさではアルミローラに分があって貯金が消滅。
 199周目のターン4でカスターとハーブストが争った隙にアルミローラが2台を抜いて先頭に立ちましたが、ハーブストはカスターを振り切ってバックストレッチでアルミローラに食い下がりターン4で逆転。再逆転を狙うアルミローラにはカスターがサイド ドラフトをかけて足止めし、結果ハーブストが今季初勝利・通算2勝目。カスターが2位でSHRがワンツーフィニッシュを達成しました。

・カップシリーズ
 予選

 ブッシュライトポールはレディックが獲得、2番手タイムは0.035秒差のチェイスでしたが2人ともラウンド1のB組から上がって来た人だったので、チェイスの予選順位は3位となります。2位からスタートするのはA組出身の中で最速・レディックとは0.12秒差でタイムとしては3番目だったハムリンとなります。ややこしいですねw

 以降のスタート順位は4位バイロン、5位は"コカコーラ600で乗るはずだったスキーム"を持ってきたラーソン、6位ギブス、7位ブレイニー、8位マイケル マクダウルとなりました。一昨年のロードコース優勝者・A.J.アルメンディンガーが15位、先週カイルと絡んでちょっと面倒なことになったラジョーイが19位、報復も辞さない構えを見せているカイルは34位からのスタート。報復どころかまず追いつかないといけない^^;

・ステージ1

 レディックがスタートからも好調、ハムリンに早々に1秒近い差を付けますが、そのハムリンをチェイスがかわすとこっちは追いついてきました。そのまま3人はそれぞれ0.5秒差ほどの状態でステージ1の折り返し・25周目あたりからピットサイクルへ。ハムリンがチェイスをアンダーカットして実質2位となりますが、チェイスはそれ以前の問題としてピット後に走路違反を犯したとしてペナルティーを課せられます。
 ピットを出て走路に合流できるのはターン2を曲がった先のバックストレッチですが、ターン1と2の間にある短い直線(シュート)部分は白線が引いてあるだけで道路は繋がっているので、ちょっとでも速く曲がろうとみんなできるだけ右に振ります。多くのドライバーは引いてある2本の白線の間まで膨らみましたが、チェイスは引いてある2本の白線を超えて走りました。これが違反とされました。

 実はこの問題、金曜日の時点では具体的にどうするかが定まっておらず、NASCARと参加者側で協議が持たれていたようです。その結果NASCARは土曜日の段階でピットを出た後のドライバーの走路に関して『"レーシング サーフェス(競技路面)"には入らないように』という通達を出しました。ただ、この言葉が具体的にどこを指し示すのかが完全に言語化されていたわけではなく、チェイスは『ここはレース中の走行ラインではないのでレーシングサーフェスではない』と考えていたようです。しかしNASCAR側の考えとすれば、レーシングサーフェスとは白線よりも外側の全域を指す言葉という解釈で、これは明確にアウトでした。この後ケゼロウスキーも白線を跨いで走ったことにより同じくペナルティーを受けました。
 チェイスは理不尽な判定に無線で激怒、運営が具体的に場所を指定していれば起きなかった混乱な気はしますが、NASCARの基礎的な競技規則の中で『レーシングサーフェスとは』みたいな条文が存在していたなら、通達はこの文言でもちゃんと意味を成しているのでこのあたりは素人では完全に理解しきれない箇所でもあります。ただ、インディー500にも出たラーソンはレース後に

「インディー500では1本目の白線を跨ぐことはできたけど、左側のタイヤが超えることは許されなかった。それに慣れていたから金曜日はそうしたんだ。」「僕が理解したルールは、右側を遠い方の白線より上に行ってはいけないというものだった。そうするとレースコース上にいるとみなされるからだ。僕はそうした。」

とちゃんと理解していたようで、チェイス以前に露骨にやってる人がいたようにも見えないので大抵の人は同じ解釈だったようです。ちなみにラーソンはこの時チェイスの後ろを走っていたので目の前で白線を超えた姿を見たわけですが、その時は「ああ、これはペナルティーが出るに違いない」と思ったそうです。自身は右側のタイヤを白線に乗せていました。というかヘンドリックもチーム内できちんと問題意識を共有しとけよw


 ピットの走路という地味な問題が取り上げられてしまいましたが、多くのドライバーはピット作業を終えてステージ後半へ。しかしリーダーのレディックはなかなか動きを見せません。タイヤを換えた人が後ろからラップ バックしてくるので決して良いタイムで走り続けられるわけではなく、実際後ろからマクダウルが少しずつ追いついてきています。
 結局レディックがピットに入ったのは37周目で、作戦としてはポコノーと同じパターンの3ストップ作戦が基本と考えられます。ハムリンから10秒遅れの実質5位で戻りました。以降はハムリンをラーソンが僅差で追いかける展開、ステージ残り2周でクリス ブッシャーがパンクしたようで白煙を上げていましたがコーションは出ず、そのままハムリンがステージ1を制しました。ブッシャーはこの少し前にもパンクしており、立て続けの梨汁ブシャーでした。内圧設定ミスってる?

・ステージ2

 ピットに入った人たちは2輪交換と4輪交換で作戦が分かれ、ステージ1終盤でピットに入った人は予想通りステイアウト。56周目・レディックとマクダウルの1列目でステージ2が始まりました、ハムリンはピットに入って6列目からのリスタート。ここからはレディックのターンだと思っていたらなんと意外や意外、ターン1でやや失敗したようで2列目リスタートのネメチェックがリードを奪いました。レディック、これはちょっと計算外かも。3位にはステイアウトしたカイルが来ており、4位は、あ、同じ作戦のラジョーイですねw
 ネメチェックは異様な速さを見せてレディックを2.5秒以上ぶっちぎっていましたが、68周目にコディー ウェアーの左後輪がパンクしピットに帰る前にホイールから外れてコロコロ。ブッシャーと似たような原因かもしれませんが、これでコーションとなってしまいネメチェックのターンは終了。
 あ、ちなみにラジョーイはカイルが真後ろからリスタートするのでシートベルトを全力で締め直したそうですが、無事リスタートを終え、その後に追いついてきた際にはカイルの方が速かったので道を空けてささっと譲ってあげたみたいですw

 残り90周ほどなのでここで給油するとギリギリあと1回の給油で行ける距離、ということはとりあえずここで一度入るのがセオリーで、多くの人がピットを選択しました。レディックは2輪交換で順位を取り返したいところですが、今の状況だとさっきステージ1終了後に給油した人の方が給油量が少ないので、ネメチェックを抜くことはできたんですが、戦略違いの人に抜かれてしまいました。
 このコーションでも逆張りしたのはカイルでした。ランドール バーネットは徹底的に人と違う道を選んで勝機を探しています。一方、ラーソンの方はナットが締まっていない疑いで再ピットし、これで隊列の先頭と最後尾がカイルになって挟まれました。ということはアタック25のルールで走ってる選手は全員カイルとなります(謎)
 カイル以外にも数人ステイアウトして74周目にリスタートしますが、ターン2を立ち上がった先で中団に接触事故。ちょっとした接触からバイロンが他の車やら壁やらにぶつかりまくるけっこう派手なクラッシュとなって連続コーション発生です。アルメンディンガーもバイロンが命中して中破、バートンもサスペンション破損でいずれもガレージ送りです。


 「おーい、バイロンの車がこんな近くで見れるぞ!みんなはやくはやく!」みたいな光景、F1なら機密が多いからめっちゃ怖い顔して追い払われそう。このコーションで逆張りカイルは4輪交換と給油。これならさっき入った人よりいくぶん燃料に余裕をもってあと1ストップですが、トラックポジションを全部捨てているのでどちらかというと裏目に出た気がします。
 もちろん大半はステイアウトしてウォーレスとチェイスの1列目となり79周目にリスタート。チェイスが大外刈りを決めそうでしたがなんとかウォーレスが耐えました。この2人はステージ1終了後に給油したのが最後なので、あと2回の給油が必要な人です。そして3位には他の人の争いを絶妙にすり抜けたハムリンが浮上、こっちは行こうと思えばあと1回の給油で行けます。
 ウォーレスは直線でもスロットルを全開にはしておらず、これと同じ速さということは2位のチェイスも同様、徹底的に燃料を節約しています。そして余力を持っているハムリンも特に抜く素振りが無いので燃料節約モードに入っているとみられ、そのままステージ2を最後まで走り切ったウォーレスがステージ2の勝利で貴重なステージ ポイント10点を獲得、チェイス、ハムリン、ブレイニー、ネメチェック、レディックの順でした。ってレディック結局ネメチェックに負けてるやん^^;

・ファイナル ステージ

 ウォーレスとチェイスは当然ピットへ、ハムリンはクリーンエアーを求めてステイアウトし、以降の選手は状況を見て選択がまちまちです。ステイアウトしてもクリーンエアーが取れないし、それなりの台数が入るのなら燃料とタイヤに余裕を持たせるために入ってもいいかなあという印象です。レディックはピットに入りましたが何か問題があったようで再ピット、これはもうダメだ。
 105周目/残り56周でリスタート。バックストレッチで5位を争うトゥルーエックスとラーソンが軽く接触し、さらにターン3でもまた軽い接触があってトゥルーエックスがクラッシュ。これでコーションとなり、さらに後方でもコーションの減速に起因したとみられる追突事故でベリーがクラッシュしました。続く110周目のリスタートもターン1でロガーノとジミー ジョンソンがクラッシュし連続コーション、先週も見たぞこのパターン。
 原因はカーソン ホースバーが真ん中に突っ込んで3ワイドを作ったことにあるようで、接触されたブレイニーは「3ワイドにしたバカは誰だよ!」とお怒り。ただ、彼とするとリスタートで加速して真っ直ぐ走っていたら、前の人がみんな1台分内側に動いて気づいたら自分だけ真ん中にいた、みたいな感じにも見えました。経験値の差かもしれませんね。ちなみにブレイニーは引っかけられて真横を向いたけどその後の接触で綺麗に立て直しました。さすがチャンピオン、経験値の差でしょうかねw

 レースの残りがあと45周ちょっとなので、ここで満タンにしたらどうにかなりそうだと多くはピットへ。ハムリンをはじめステージ2終了後に給油していない人は給油時間が長くなってしまい、けっこう順位を下げることになります。ステージ2のレディックと同じパターンで、ピット回数を減らして前を抑える作戦が逆に順位を下げる結果を生んでしまったパターンで、表だと思った作戦が突然裏になるなかなか難しいレースになっていますね。
 115周目、ステイアウトしたネメチェックとチャステインの1列目でリスタートしチャステインが前に出ました、久々の会心のリスタートですね。しかしこの2人を含めたステイアウト組はもう一度給油が必要ですから、事実上の1位は今のところ11位を走るブレイニーです。

 残り39周あたりで最も燃料が少ない数名はピットに入り、これで次に上位に来るのはステージ2終了後にピットに入った組。その先頭だったラーソンも残り37周で先に宿題を済ませるためピットに入り、以降の人も続々と最後の給油を済ませに行きますが、その最中にトラック上でトゥルーエックスがクラッシュしてコーション。壊れた車で走り続けてまた事故った形です。でも結局この後も走り続け、トゥルーエックスは27位でレースを終えました。

 これでまだ最後の給油をしていなかった人はみんな給油する、と思ったら開き直ったケゼロウスキーとダニエル ヘムリックがステイアウトを選択し130周目にリスタートしました。ケゼロウスキーがリードを奪いブレイニーが続きます。ブレイニーも走り切るにはそれなりの節約が必要なので抜きには行かず、どうせケゼロウスキーは給油無しに走り切れないので風よけにしている様子です。
 その後もケゼロウスキーを先頭に通常の2秒落ちぐらいの速さでレースは進行。ブレイニー以下も多くは同じ燃料事情なので積極的に飛ばすことができず、デイトナかと思うぐらいの見事な1列となっています。積極的に行けるのは残り40周を切ってからアンダーグリーンで給油した人たちで、11列目あたりからリスタートしたラーソンが10位まで上げてきました。しかしここまで来ると追い抜きがやや難しくなってきます。それにしてもほぼバックストレッチ1本分車が連なってるって面白いですねw

 残り15周、なんとか6位まで上げてきたラーソンの次なる目標はハムリンでしたが、ちょうどここでハムリンに対しても「燃料は行ける」との合図が出た模様。これでハムリンも攻撃に転じたかったんですが、ラーソンはタイヤも新しいのでむしろ防御に力を注ぐことに。結局188周目にラーソンがハムリンを攻略し5位。前を行く4人のうちケゼロウスキーとヘムリックは燃料が足りないので、ラーソンは優勝まであとスミスとブレイニーの実質2人を抜くだけです。
 ラーソンはスミスをさっさと抜いてとうとうブレイニーを捕まえますが、リーダーのケゼロウスキーはまだピットに入りません。ブレイニーにとってはドラフトが貰えて燃料も多少助かります。同じ作戦のヘムリックがピットに入ってもなおケゼロウスキーは給油せず走り続け、気づいたらもう残り4周。まだ入らない。残り3周、まだ入らない。おいおいまさか走り切るつもりなのか、そう思った瞬間でした。

 人とは違う道を行くカイル、全員が完走を目指しているので逆張りでクラッシュ作戦にでました()ハムリンとの5位争いをしていましたが、ターン3にあまりに内側から入ったので外へせり上がって自分から接触、回ってしまいました。これは誰にも文句言えないわなあ。これでレースはオーバータイムとなりますが、ケゼロウスキーはここでもピットに入りません、リスタートする前にガス欠するんじゃないだろうな・・・
 当事者のマット マコールが「燃料はちょっと足りないと思うけど」と言ってるぐらいなので、戦略は『たぶんガス欠だけどうっかり計算がたまたまズレていて完走できたらラッキー作戦』とでもいうような分の悪いギャンブル。1列目はケゼロウスキーとブレイニー、2列目がアンダーグリーンで給油しているので少し燃料に余裕があるラーソンとレディック。考えたらラーソンもレディックもコーション中の再ピットで一旦ビリに落ちた経験のある2人ですね。
ケゼロ「あ、ごめんやっぱ無理やわ。」

 あ、リスタート前にケゼロウスキーが諦めてピットに入りました。いきなりリーダー交代でリスタートされますが、この場合内側の人は1台分前に詰めて良いのか、最初の加速するコントロール カーはブレイニーなのか、珍しい出来事なので見ていて規則の解釈まで追いつかない中でリスタートされました。そしてラーソンが内側からターン1に飛び込んでリードを奪います。
 しかし、内側の各車の加速にちょっとバラツキがあるなと思ったらターン1に入る前に多重事故が発生。無理にブロックに行ったネメチェックとヘムリックが絡んだのでは、と解説されていましたが、前の車が急に詰まったので早めに減速したネメチェックが後ろから突っ込まれた、という風にも見えてちょっと実態がつかみにくい事故でした。

 巻き添えが多くて液体と破片の回収が必要な上に、ピットの壁にけっこうな勢いで車がぶつかったので修復のためレッド フラッグとなります。ブレイニーはリスタートでラーソンに先行された件で激怒。中断している間にネメチェックのインタビューも放送され、やはり彼の目から見ると前方が順に詰まって行って自分も詰まり、後ろから引っかけられたという話でした。リプレイを見るとギリランドのリスタートがえらい遅くてその後ろが戻さざるを得なかった感じですから、ネメチェックが無理に進路を変更してブロックした、というわけではなさそうですね。

 およそ17分のレッドフラッグを経て再始動、ラーソン/ブレイニーの1列目で2度目のオーバータイムへ。ブレイニーはターン1で外に並べることはできたものの、それ以上攻められず逆にレディックに抜かれて後退。すると後方ではライアン プリースがターン2の先でスピンしており、とりあえずコーションは出ませんがタイヤがパンクしていてすぐに動けません。
 プリースが動かなかったらおそらく最終周に入ってターン1あたりでコーションが宣言されてレースは終了。プリースも必死になって車を動かそうとするものの、残念ながらほとんど前に進まずモゴモゴするだけ。結果、ラーソンを先頭に最終周に入って数秒後にコーションが出てしまい、この瞬間にラーソンのブリックヤード400優勝が決まりました。5月にはコカコーラ600を(結果的に)休んでまでインディアナポリス500に出場したラーソン、インディーカーではさすがに勝てませんでしたが、本職でブリックヤードに戻ってきて、しかもあの時は自分では乗れなかったスキームでレースを制しました。終わり方はしょぼいですけどストーリーとしては悪くないですね。あ、今回もイニシャルにKが入ってます!

※土下座ではありません

 ラーソンは今季4勝目に一番乗り、レギュラーシーズンのポイントでもチェイスに10点差の1位に再浮上し、現時点でプレイオフ ポイントも最多の28をかき集めています。プレイオフに向けても視界良好です。

 レディック、ブレイニー、ベル、ウォーレスのトップ5でした。燃費レースは順位に大きな変動をもたらすため、6位以降はギリランド、シンドリック、ダニエル スアレス、グレッグソン、そしてチェイスというトップ10。6~8位の3人は合計してもこのレース前までのトップ10フィニッシュが8回しかない顔ぶれでした。グレッグソンはこれで7回目なのでけっこうがんばってます。チェイスはピットで違反してなければねえ・・・
 プレイオフをポイントで争う17位のウォーレスにとって今回の5位+ステージ勝利は大きいもの。プレイオフ順位で15位のブッシャーが2回のブシャーで22位に終わり、同16位のチャステインも15位で終えていずれもステージポイント獲得なしだったため、この3人は僅か17点差でレギュラーシーズンは残り4戦です。一応お伝えしておくと、カイルはチャステインから112点差です。

 最も後味が悪かったのはブレイニーでした。彼はオーバータイムのリスタート2位で1列目の外側を選びましたが、ブリックヤードは外側があんまり速くないのであえて2列目の内側を選ぶ人も多いトラックです。なぜそうしなかったかというと、リスタート直後にケゼロウスキーがガス欠する可能性が高かったので、詰まって事故るような状況を避けたかったからですが、実際はリスタート直前にピットへ去るという想定の斜め上の行動でした。
 突然自分が先頭になってもいきなりすぎて対ラーソンで加速の駆け引きをする余裕もないし、なんかよく分からんうちにリスタートしてターン1で抜かれてしまいました。

「分からない。何に怒ればいいのか分からない。このレースに負けたことに腹を立てている。完璧な位置にいたと思っていたからね。レースのコントロールを失ったら間違いなく内側を選んでいただろうけど、ケゼロウスキーはリスタート ゾーンでガス欠するか後方に落ちると思っていたんだ…分からない。こんな負け方をするのは最悪だ。」
「ただただ腹が立つ。」
「本当に悲しい。今日は何もかもうまくいった。つまり勝つ絶好の位置にいたのに、うまくいかなかった。ただ運が悪かっただけだ。」

 まあ口にはさすがに出さないですが「ケゼロウスキーふざけんな、無理ならとっととピット入っとけやボケが。」とでも言いたい心境でしょう。結果的にラーソンはリスタートで運よく最高の位置取りになってリードを奪うことができ、しかも最終周のバックストレッチで最後の争いになる前にコーションでレースが終わってしまいました。今年のブリックヤードはラーソンのためにあったみたいです。ちなみに来年もまたダブル デューティーに挑戦する意欲があるようで、あとはお金とか諸々の話次第ですね。

 久々のブリックヤードは結果として作戦の表裏がコロコロと入れ替わって予定通りにはいかないレース展開だったので、コース上での激しい争いとはまた違いますが面白くはなりました。作戦に頭が付いていかないと"なぜこれが起きたのか"が分からない、という場面も多いのでどちらかというとSUPER GT的な展開でしたけど悪いレースではなかったと思います。
 来年以降どうするのか分かりませんが、個人的にはプレイオフのシャーロットとセットで考えて、インディアナポリスがオーバルならシャーロットはローバル、インディアナポリスをロードコースにしたらシャーロットはオーバル、と入れ替えて開催したらそれぞれの新鮮味も保てるし、プレイオフのマンネリも薄れて良いんじゃないかと思っています。
 ちなみに観客数ですが、座席がむちゃくちゃ多いのでなんか空席だらけには見えますが報道によれば約7万人が来場し、約6万人だったロードコースや2019年以前のブリックヤード400を上回ったとのこと(もうお忘れかもしれませんが2020年は無観客です)。運営側は入場者数を公表していませんが、2017年あたりの水準には観客数が回復したそうです。なおブリックヤード400開催初期は24万人とか入ってたようです(;・∀・)

 さて、ここからNASCARはオリンピックに伴って2週間のお休みとなり次戦はリッチモンドから再開されます。史上初めて2種類のタイヤが導入される実験的要素もあるレースですが、猛烈なタイヤ消耗を誰が手懐けるでしょうか。できれば中継映像でもオプションとプライムを見分けやすくする工夫を2週間で構築しておいてほしいですね。まあNBCが対応しても、YouTubeのテロップはNASCAR運営の国際映像側が対応してくれないと我々には恩恵が無いんですが。


コメント

匿名 さんのコメント…
SHRはエクスフィニティーで好調ですね。
先週のカスターの勝利に続き、今度は1-2を決めるなど、カップ戦とは大違いなのがなんか複雑です。
ハーブストもハースファクトリーからエクスフィニティーに継続参戦のオファーをもらっているそうなので、これを受ければプリース以外の全員エクスフィニティーのドライバーも含めてSHR組の去就が決まりますね。

ラーソンはこれでデイトナ500を勝てば、クラウンジュエル達成ですが、インディがオーバルに戻った1年目で王手をかけるのも、流石ですね。
これで来年こそはダブルデューティのリベンジにも期待が持てます。
HMSも初代ブリックヤード400勝者のゴードンから30年経っても優勝者を出すのは
マーティンズビルの時と言い、節目のレースでちゃんと勝ち切るのも強豪チームと言えるところだと思います。

その初回の1994年はエントリーが86台と、半分は予選落ちになるのにも関わらずそれでもこんなに集まったと考えるとやっぱりインディの名前は大きいんだなと感じました。
(現在のARCA西シリーズからのエントリーもあったそうですが、調べてみるとこのレースや1990年代ぐらいまではソノマ戦などで、カップシリーズと混走していたのも知って驚きでした。)
アールグレイ さんの投稿…
失礼いたしました。
ミスで匿名として送信してしまいました。
アールグレイです。
SCfromLA さんの投稿…
>日日不穏日記さん

 農作業お疲れ様ですm(_ _)m ブリックヤード400が初開催されたころはインディーカーとCARTに分裂してたオープンホイール冬の時代でしたよね。インディーカーもどん底からなんとか盛り返して、NASCARも下落をなんとか食い止めて頑張ってるところですから、お互いにうまく話題を提供しあって相互で盛り上がると良いですね。何せ今はF1という共通の大きなライバルがいますから(@_@)
 カイルにとっては2週間の休養の間にメンタル的なものとシミュレーターで一回リセットしてもらえればと思いますが、あまりに不調で凡ミスも多いところを見ると実はどっか怪我してるのかな?とか違う面が心配になってきました。怪我ならそれもまた休みはありがたい話になりますが。
SCfromLA さんの投稿…
>アールグレイさん

 86台もいたのは全然知りませんでした!たしかにカーナンバー99までほとんど全部の数字が使い尽くされる状態のエントリーリストで衝撃的です(笑)
 チェイスも余計なペナルティー貰ってなければ元々ラーソンの前を走っていたから優勝の芽があったわけで、ヘンドリックは必要な持ち込みセットのデータとかちゃんと持ってるんだなと改めて感じます。SHRもエクスフィニティーの車に関してはちゃんと仕上げられるだけの知見を持ってるんでしょうね。来年の候補としてヘイリー ディーガンを起用するんじゃないかという噂もあるみたいですけど。