フォーミュラE 第13戦 ポートランド

ABB FIA Formula E World Championship
2024 Hankook Portland E-Prix
Portland International Raceway 3.19km×27Laps(+0.031km)=86.161km
Race Energy:38kWh
winner:António Félix da Costa(TAG Heuer Porsche Formula E Team/Porsche 99X Electric Gen3)

 2024年のABB フォーミュラ Eはいよいよ終盤戦、第13戦・14戦はポートランド インターナショナル レースウェイでの2連戦です。アメリカ国内で開催できる市街地が見当たらずに昨年初めて開催されたポートランド、常設サーキットですが元々1周がそんなに長くないためにレイアウトはほぼ他のカテゴリーで使用されているものと同じで、常設=てきとーに端折ったコース、という他のイベントとは異なっています。僅かに違うのは最初のシケインの形状で、回生量を増やすために通常より鋭角になっています。
 かなり長い全開区間があるために、昨年の練習走行ではミッチ エバンスが最速速度 276.6km/h を計測。練習なので参考記録ではありますがフォーミュラE史上初めて275km/hを超えました。ただ、これは裏を返せば非常にエナジーを消耗するレイアウトということになり、昨年の決勝はお先どうぞレースで合計400回以上の追い抜きが発生。SC導入も相まって、レースの終盤にはいきなりペースが5秒も切り上がって激しい争いが起きるなど色んな意味で激戦でした。
 
 で、実は昨年のこの出来事を受けて運営は今年のコースにシケインを1つ追加する予定でした。当初チームに配布されたコース図に記載されていたんですが、なんと設置場所が最終コーナーを抜けた先、ピット入り口付近でした。基本的にピットに入らないレースなので決勝レースでどうなるかはさておき、練習走行と予選ではこれはあまりに危険ではないか、という指摘がされたため、結局運営はこのレイアウトを断念。昨年と同じ形状となりました。

 決勝で使用可能なエナジー量も昨年と同じ38kWhですが、周回数が昨年は28周だったのに対し、今年は第13戦が27周、第14戦はさらに減って26周となっていますのでいくぶん楽にはなりました。去年はSCが2回入って結局32周のレースになってるので、何もなく走り切った場合の実走データには各陣営乏しいものがあります。なお去年の勝者は10位スタートだったニック キャシディー、2位はこの結果がチャンピオンを大きく引き寄せることに繋がったジェイク デニスでした。日産パワートレインは予選だけ好調でした。

 現在ドライバー選手権でニック キャシディーは2位のパスカル ベアラインに25点差を付けており、この週末の結果次第では限りなくチャンピオンに近づいたり、あるいは完全にチャンピオンを確定させることも可能な状況です。一方で、1レースで29点獲れるシリーズなのでまだ計算上チャンピオンの可能性が残っているドライバーも複数いるため、最終のロンドン2連戦に向けて希望をつなぎとめる人が現れるのかも注目の2連戦となります。

・レース前の話題

 6月12日にシーズン11の暫定的な日程が公表されました。開幕戦は2024年内に始まり、F1最終戦の裏側で12月7日にサンパウロで開幕。年が明けたら1月にメキシコシティー、2月にディリーヤ2連戦とお馴染みの流れで、4月には第6戦でマイアミが登場。ただ、市街地ではなく我々NASCARファンにはお馴染みのホームステッド-マイアミ スピードウェイのインフィールドになりそう。過去にはメキシコのレースをプエブラで開催した際にオーバルとインフィールドの組み合わせでレースをしたことがありますね。

 その後はモナコ、東京、上海でいずれも2連戦。日程に戻ってきたジャカルタを挟んで最後はベルリンとロンドンでの各2連戦でシーズンが終わります。ロンドンは現在開催されているエクセル ロンドンでの契約が来年で終了ではないかとされており、新たな開催地を探すか契約を延長するか、運営も頭をひねっている最中のようです。
 今回の開催地であるポートランドは元々アメリカでの次の開催地までの繋ぎ役と言われていたので日程に含まれていません。ただ唯一3月8日の第5戦だけは未定として発表されており、運営はいくつかの開催候補地から契約をとりまとめようとしている最中と見られるためポートランドがここに入る可能性もゼロではない模様です。最悪どことも契約がまとまらなかった場合、比較的準備もしやすくてこの日程に含まれていない今季の開催地・ミザノが飛び込んで穴を埋める保険となっているようです。

 その今年のミザノのレースで些細な車両規定に違反したために優勝が取り消されたアントニオ フェリックス ダ コスタ、チームは裁定を不服として控訴していましたが主張は認められず、当初の結果通りダコスタは失格、優勝はオリバー ローランドとなりました。

・ローランド欠場

 なんとそのローランド、体調不良によりイギリスからアメリカへの飛行機にそもそも搭乗して移動すらしておらずこの週末は欠場となってしまいました。まだ数字上はチャンピオンの可能性があったローランドですがこれでほぼ可能性が無くなり、日産としてもチーム選手権3位争いで痛手です。
 代役として日産は22歳のブラジル人ドライバー・カイオ コレを起用。2018年のフランスF4チャンピオンで、2021年から3年間はFIA F3に参戦し通算3勝。今年から活動場所がアメリカに移り、NTT インディーカー シリーズの下部カテゴリー・インディー NXTに参戦しています。アメリカでレースしてるならポートランドも熟知、と思いきや彼は今年が1年目でポートランドのレースは8月なので、まだ走ったことがなくて全然知らないコースみたいですw
・グループ予選

 A組はマクラーレンのジェイク ヒューズが昨年に続いて予選で快調、1巡目の計測で最速となると、2巡目も最後に最速を記録して1分9秒775でこのグループを1位通過しました
 2位はミッチ エバンスでしたが、なんか記録が伸び悩んでるし飛び出してるし、挙げ句なかなかピットに入らないので作戦もグダグダか?と思ったら、なんとタイヤを換えずにずっと走り続けて記録を伸ばし2位でした。逆にチームメイトのキャシディーは普通にタイヤを換えたら伸び悩んで8位、デュエルスに進めませんでした。路面温度が26度ぐらい、前は入って行かない、後ろはすぐにズルズル、という厄介な状況で継続走行がなんか上手くタイヤの準備にハマったかもしれません。
 3位にセルジオ セッテ カマラ、4位がルーカス ディ グラッシでしたが、セッテカマラは出力超過によってこの後記録が抹消されてしまい、エドアルド モルターラが繰り上がりでデュエルスに進みました。

 続いてB組、今年はまだデュエルスに進めておらず予選番長ぶりが見られていなかったダン ディクタムがえらい好調。1分9秒766でグループ1位通過に成功しました。2位にダコスタ、3位はロビン フラインス、そしてノーマン ナトーが4位でデュエルスへ。
 キャシディーが先にデュエルスを逃しているのでスタート順位に大きな差を付ける機会だったベアラインでしたが、ナトーに0.021秒届かない5位で脱落。コレは7位で、当然これより、コレより?これより?うーんどっちも意味一緒だな、コレより上には行っておきたいサッシャ フェネストラズは8位と新人に敗北。FP2で事故って車を壊したので万全ではないという注釈が付きはしますが、そもそも事故ったことを含めてちょっと立場がない結果でした。来年契約してもらえるんでしょうか。
FP2、ターン10を曲がれず壁に向かっていくサッシャ

・デュエルス

 350kWの出力になるとターン10・11の高速シケインへの進入速度が上がり、より精密な走りが求められて難しそうなデュエルス。A組はタイヤを1周しか温められなくても全然関係なくエバンスが速くて決勝へ。B組は安定走法な感じのナトーが自身初の決勝進出を果たしましたただしナトーは練習走行でFCY中の速度違反があり、これがシーズン3度目の違反だったことで10グリッド降格が事前に決まっていました。ということはこの段階でエバンスの1位スタートは確定です。
 エバンスはグループ予選最初のとっ散らかりっぷりは一体何だったんだという落ち着いた走りをデュエルスを通じて見せ、少し準決勝より遅くなったものの1分8秒820で見事ジュリアス ベア ポール ポジションを獲得。路面温度が30℃まで上がっていたみたいですが、そんなに神経質なんだろうか。

 グリッド降格がナトー以外にも複数いたため予選順位とスタート順位はだいぶ変更となり、エバンス、ヒューズ、フラインス、ダコスタ、ティクタム、モルターラ、ニコ ミュラー、ベアラインのトップ8。キャシディーは去年と同じ10位、ナトーは11位スタートとなりました。

・決勝

 ターン3でヒューズが前に出たところからペロトン スタイルのレースが開幕。3周目になると何か秘策を携えているのかナトーが先頭に飛び出すとそのままアタックを取りに行ってなおもリードを守ります。5周目にダブルアタックへ行って最初に義務を終えました、上海でも同じような走り方してましたね。その5周目にはターン10にヒューズがデニスと並んで進入したものの、ちょっと気になって接触を避けようとしたのかヒューズが姿勢を乱してそのまま芝生へ、ほぼ最後尾に転落してしまいました。

 しかし後にヒューズと"エバンス"に対して接触に関する審議、という情報。実はターン8でエバンスのウイングの左端とヒューズの右後輪が軽く接触しており、これでヒューズはタイヤをパンクさせてしまって曲がれなかったようでした。
 ターン8はターン7を立ち上がった先の事実上の直線ですが、真っ直ぐ立ち上がっただけのエバンスに対して、コースのやや左側からレコード ラインである右へ向かってゆる~っと動いてきたヒューズが接触。状況だけ見たらモナコでのぺレス/マグヌッセンの接触に近いものがありますが、ここを『ターン』と捉えるならエバンスは引く必要がある反面、『直線』と捉えるなら左側にじゅうぶんな場所がある状況で安易に右に動いたヒューズにも過失があると思える接触でした。
この位置から右に来られても、と思いますが・・・

 そして裁定はというと、エバンスに多くの責任があったと判断されたようで5秒加算のペナルティーでした。個人的にはごちゃついた状況下であの接触はレーシング インシデントの部類ではないかと思いました。裁定は起こった内容だけでなくそれによって引き起こされた結果も踏まえて総合的に判断されるべき、と私はよく書いてますが、今回は逆に相手がパンクして実質レースを失った、という結果に対して裁定がやや引きずられているように感じました。
 
 レースに戻りましょう、8周目、デニスが前に出た上で2回目のアタックに入り合流地点はチームメイト・ナトーの近所。ここから2人でうまく戦うよう指示も飛んでいますが、そう簡単にできるものでもないので間に他の人が入ってきてごちゃごちゃしてしまいます。この後アンドレッティーの2人は順位が下がって行って、もうどこまでが作戦でどこからが失敗なのかもわかりませんw
6ワイドなんてNASCARとFEぐらいな気がするw

 ナトーが引っ張っていた際には1分15秒台後半だったペースが、他の人が先頭になると一旦16~17秒台に落ちているのでアンドレッティーは設定ペースが速すぎたんじゃないかという気もしますが、何せ順位の変動がハゲしすぎて誰が本当は優勢なのかフォーミュラE観戦のベテランでも判別不能。そして残り10周となる18周目、前にいたのはなんとキャシディーでした。ダコスタと、5秒ペナを食らってるので実質は入賞圏ギリギリのエバンスが続きます。 
 どうやらここがペースを上げる節目のタイミングだったようで1分13秒台にペースを上げて走るキャシディーですが20周目、「ずっとここで耐えるのは無理だ、ゲームを仕掛けよう。」と無線で訴えました。どうせ5秒加算で入賞すらできないエバンスが3位にいるので、チームとして言葉は悪いですが使い勝手の良い駒があります。キャシディーもはっきりとは言いませんがエバンス上手く使え、と言ってるように思いますね。
 ここからキャシディーとダコスタが抜きつ抜かれつの戦い、ここに23周目になるとエバンスが間に割って入りキャシディーの盾となります。ペースが1分12秒台に切り上がっており、ダコスタが最後まで走るエナジーを確保しながらエバンスを破るのはかなり高い壁になってしまいました。これでキャシディーはこのレースの優勝に加え、ベアラインが中団に沈んでいるのでチャンピオン獲得に向けても王手をかけることにな

キャーーーーーーーー!!!

シディーーーーー・・・・(っ ◠‿:;...,

 なんとキャシディーがターン10でミスってまさかの自滅、スピンしてコース外の遥か彼方へ、信じられません。これで最終となる27周目に最初に入ったのはエバンスですが、5秒加算があるので2位のダコスタは何もする必要がありませんでした。1位でチェッカーを受けたエバンスの0.5秒後ろでダコスタ大喜び、ここ4戦で3勝目、ミザノでの不運な失格を10%ぐらいは取り戻せそうな幸運な通算11勝目を挙げました。ダコスタの年間3勝はチャンピオンを獲ったシーズン6以来です。



 2位は第3戦ディリーヤ以来今季2度目の表彰台となるフラインス、そして3位は一体どこから来たのか、14位スタートだったジャン エリック ベルニュでした。エバンスは5秒を加算してもなんとか8位に滑り込み、ベアラインは10位で1点だけ獲得。結果、ドライバー選手権の上位5人・キャシディー、ベアライン、エバンス、ローランド、デニスは全員合わせても決勝で14点(+エバンスはポールによる3点)しか獲得できず、差が広がりも縮まりもしない痛み分けとなりました。

 そのまま勝っていればベアラインに対して50点差、次戦でベアラインの前にいればほぼチャンピオン確定だったキャシディー、レースを落としたと言っても1点を詰められただけで引き続きほぼ1勝差の優位な状況ではあるんですが、心境としてはちょっと後に響きそうな失敗でした。
 そしてエバンスもペナルティーがもし無かったら、優勝してキャシディーと僅か6点差に迫ることができたはずでした。ジャガーとしてはペナルティーの裁定が残念な一方で、もし本当にそうなっていたらチーム内で優劣を付けるのが極めて難しくなってしまうので、何%かはエバンスも取りこぼしてくれてよかったと思っているかもしれません。みんなが取りこぼしすぎて欠場しているローランドがほぼノーダメージでチャンピオン戦線に残ってしまったのがちょっと笑えますw

 そして、グリッド降格があったものの予選は好調、レース序盤に先頭を走る場面もあったナトーですが、終わってみたらスタートより順位が下がって13位で無得点。チーム代表のロジャー グリフィスは「ちょっと長く前を走らせすぎた」と戦略が失敗したことを認めました。なんかアメリカのチームだからスポンサー向けにただテレビに映りに行っただけ、みたいなレースになってしまいましたね。

 アンドレッティーは完全に失敗しましたが、ジャガーはチームとしての作戦はきちんとハマっており、強さは改めて見せました。中団で前に合わせて走ってエナジーの浪費を抑え、終盤にペースが完全に上がり切る少し手前でその余力を活かして前に出ておいてあとは耐える、という必勝パターンが崩れたわけではないので、取りこぼしは痛いですがそんなに慌てる必要は無いと思います。
 ただ久々にエンビジョンが上位に来て、DSペンスキーもレースではきちんとエナジーを管理して上がってきたところを見ると、ちょっとタイミングを間違えると抜けなくなってしまう危険性があるのでジャガーとポルシェだけで争えるレースではなく、相手を絞りすぎないことが明日も大事かなという印象をぼんやりと受けました。予想外のことが多すぎたポートランド、レースは翌日の第14戦に続きます。

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