※6月20日にジーン ハースが単独でチームの体制を一部維持する新たな動きがあったので、併せてこちらもご覧ください。
ジーン ハースとスチュワートは連盟で声明を発表し、
「スチュワートハースレーシングを2024年シーズン限りで閉鎖するという難しい決断を下しました。この決断は容易なものではなく、またすぐに下したものでもありません。」
「レースは労働集約的で謙虚なスポーツです。たゆまぬ努力と莫大なリソースを必要とし、365日、誰よりも優れていることを意識しなければなりません。それが成功をやりがいのあるものにしています。」
「しかし、持続可能性を提供しながら最大限の結果を引き出すために必要な取り組みは信じられないほど要求が厳しく、私たちはそれぞれの個人と仕事の生活において、バトンを渡すべき時期が訪れました。」
「2009年にチームに加わって以来、私たちが獲得してきたすべての勝利とチャンピオンシップを誇りに思っていますが、さらに特別なのは、レースに勝利しトロフィーを獲得するという共通の目的に取り組む中で築き上げた文化と友情です。これは、今年に入ってから当社のスタッフ、パートナー、ファンに対して行ったのと同じ約束であり、その約束はフェニックスでのシーズン最終戦まで続きます。」
「私たちは従業員全員に多大な敬意と感謝の気持ちを抱いており、2024年のシーズン以降も新たな機会を見つけるために、この転機において従業員を支援するため熱心に取り組んでいきます。」
としました。カップシリーズとエクスフィニティーシリーズ、いずれの活動も終了となる予定です。
SHRについて簡単におさらいしておくと、オーナーのハースはハース オートメイションという工作機械大手企業の創業者で、最初はヘンドリック モータースポーツのスポンサーとしてNASCARに関わるようになり、その後2002年に自身のチームを設立。当初はヘンドリックのショップを間借りしており、2004年からフル参戦しましたが成績としてはパッとしないチームでした。
そこに2009年、スチュワートが50%を出資する共同オーナー兼ドライバーとして加入。スチュワートはジョー ギブス レーシングのエースとして2002年、2005年の2度カップシリーズでチャンピオンを獲得した超大物でしたが、JGRが2008年に車両をシボレーからトヨタに変更したことにより、他カテゴリーでのレース活動を含めバリバリのシボレードライバーであるスチュワートはトヨタで走ることを承服できず、シボレー使用チームへ戻る道を選んだとみられます。
スチュワートの加入でスチュワート-ハース レーシングと改名されたこの組織には、速さなら抜群のものがあったライアン ニューマンも加入。スチュワートの存在は資金、人材等でも大きな材料となり、優秀な人材や車体・エンジンの供給を受けるヘンドリックとの連携強化を通じて一気に優勝を争うチームに変貌。2011年にスチュワートはオーナー兼ドライバーという立場で自身3度目のチャンピオンを獲得しました。
さらに2014年にはリチャード チルドレス レーシングからケビン ハービックを獲得し、ハービックは期待に応えて1年目からチャンピオンを獲得。以後は実力、知名度の両面でチームをけん引する存在となります。
スチュワートは2016年を持って選手としては引退、2017年からチームはシボレーを離れてフォードと契約します。NASCARはあくまでチームの争いで自動車メーカーが直接かかわる、いわゆるワークス体制というものはないですが、よりメーカーからの支援体制が厚い『ティア 1』などと称される序列はメーカーとチームとの間で存在するため、SHRとするとより有利な条件で活動できるフォードを選んだと考えられます。これに合わせて2006年を最後にやめていたエクスフィニティーでの活動も再開してNASCARにおける最大勢力の1つとなりました。
フォード転向にともなって、それまではヘンドリックから供給される外部製造体制だった車体を自社製造することにもなりました。所詮外観とエンジンが違うだけで中身はほぼ一緒、というほど簡単ではなく、板金のちょっとした小細工や組み立て精度、もちろん作業のために必要な人員など自分たちで車を作るとかなり苦労も多いですが、ハービックは毎年チャンピオンを争いました。ただ、2度目の栄冠にはなかなか手が届きませんでした。
2020年、世界を一変させたCOVID-19でNASCARも大きな影響を受けましたが、ハービックはこの混沌としたシーズンで最多の9勝、トップ10フィニッシュ27回という異様な速さを見せたものの、プレイオフ制度の厳しい現実が立ちはだかってラウンド オブ 8で脱落、結果的にハービックがチャンピオンに片手をかけたのはこの年が最後となりました。
チームが独自に持っていたと思われる、車検のグレー ゾーンを衝いたギリギリの車体設計が車検手法の見直しで使えなくなる、時々変な車体規則違反を犯す、ハービック以外に有力なドライバーがいない、といった状況が積み重なって2021年から急速に勝てなくなり、2021年以降は全体で僅か4勝。2022年から導入されたGen7車両でも、それまでの中堅チームが躍進する一方でSHRは出足で躓いたようで、新規則導入を反転のきっかけとすることもできませんでした。
2023年をもってハービックとエリック アルミローラ、名のある2人のベテランが引退すると大口スポンサー企業がこれにあわせて複数離脱し、ハービックに匹敵する大物ドライバーもいないために優勝争いに絡むのもはさらに厳しい状況に。体制縮小の噂が流れる中でも4台体制を維持して2024年のカップシリーズに臨み、ここ数戦は光明も見えてはいたものの撤退の決断を迫られました。報道によれば、フォードとの契約は今年が最終年で一旦途切れるタイミングでもあったようで、決断の1つの要素と考えられます。
2人の共同オーナーも、最近は必ずしもこのチームの向上に注力しているとは言えない現実もありました。ハースはF1世界選手権のハース F1 チームのオーナーであり、どちらかというとF1に注力しています。ハースは富豪でもあり、スチュワートの加入に際して彼に協力を惜しむことなくお金を投じたことがおそらく成功の一因ですが、現在はそこまでではないようで、かつ昨年あたりからあまり体調がよろしくないようでNASCARの現場にはあまり来ていなかったとのこと。
スチュワートの方も、自身が所有しているトニー スチュワート レーシングがワールド オブ アウトロウズやUSACといったシリーズに参戦しており、エルドラ スピードウェイのオーナーでもあります。自身も時折選手としてレースに出場しており、今年はNHRA ドラッグ レーシングに出場するなど、むしろ他のレース活動に積極的になっていました。また、スチュワートは現在まだお子さんがいないんですが、子供を欲しがっているという話もあります。
というわけでSHRは名称とは裏腹にスチュワートもハースも毎週現場にいるわけではない状況で、主にNASCARはチームの最高執行責任者・ジョー カスターが取り仕切っていたようです。名前を聞いたら一目瞭然、コール カスターのお父さんですね。正直なところ、真の低迷の原因はどこかの段階でオーナー陣が熱意を失いつつあった、ということかもしれません。
そう思って声明文を改めて読んでみると、365日誰よりも優れていることを意識し続け、最大限の結果が出るように取り組むだけの情熱を私たちはもはや維持できなくなったので、意欲のある他の人たちに任せることにしました、と読むこともできますね。。。
さて、撤退に伴って売却されるであろう4つのチャーター、1つはフロント ロウ モータースポーツが取得したことが明らかになっています。チームは3つ目のチャーターを取得して2025年から3台体制になると発表しました。FRMといえばマイケル マクダウルが今季限りでチームを離脱、スパイアー モータースポーツへ移籍することが既に発表されていますが、SHR閉鎖によって行き先を失う選手が動くことを考えると、水面下でこうした話が進む一連の大きな流れの中で決まった移籍だったのかもしれません。
また、23XIレーシングとトラックハウス レーシングもそれぞれチャーターを欲しがっている、特にトラックハウスはゼイン スミスを乗せるためのチャーターがまだ無い状態なので、この2チームが1つずつ手にする可能性は高いと考えられます。最後の1つはまだ現地メディアでもどうなるか予測が付いていない様子ですね。
ところで、23XIとトラックハウスが手にした時点で既に少なくともフォード系チームの出場台数は今年よりも2台減少することになります。フォードは元々シボレー、トヨタと比べるとやや下部カテゴリーからの若手の育成経路が整備されていない印象があり、実際エクスフィニティーシリーズにフル参戦するフォード系チームはSHRが2台、RSS レーシングが3台、AM レーシングが1台、そしてかなりプライベーターなジョーイ ゲイズ モータースポーツが1台と少なめ。AMレーシングはSHRと提携しているのでSHRがいなくなると困る状態です。
当初報道では、SHRはエクスフィニティーの参戦についてはSHRという組織としての活動は終わっても何らかの形で関わるようにしたい、とする報道もあったので何かしら関与を残すのかもしれませんが、ステップアップする場所が少ない、そしてカップで乗れる昇格先も少ない、となるとこれまた悪循環に陥りかねないので、フォード全体のNASCAR活動としても影響は小さくないように思えます。何かフォードして主導的にテコ入れがあった方がよさそうな気もしますね。
そして当然気になるのは今SHRにいる人たちです。まず、声明文でも触れられている従業員のみなさん、かなり大所帯のSHRは約300人の従業員がいるとされます。体制を拡張するチームはそれに応じて増員が必要でしょうから、彼らのいくらかはチャーターを購入して体制を拡充したチームで雇ってもらえる可能性がありますが、全員が来年もこの競技に携わるというのはさすがに難しい気がします。
ドライバーについては、情報サイトの話によるとライアン プリースは今年が契約最終年。今年加入したばかりのジョッシュ ベリーは単年+オプションという契約だったそうで、オプションを使う機会がありませんでした(´・ω・`)この2人はいずれもハービックのマネージメント会社・KHI マネージメントに所属している選手なので、ハービック親分とすると自身はSHR関係者でないとはいえ、仕事としてどこかに選手を売り込まないといけません。
とはいえ、プリースは一旦カップのシートを失ってSHRに拾われたドライバー、ベリーも昨年にチェイス エリオットの代役としてデビューするまでは移籍市場で特に注目されていなかった存在だと思うので、けっこう頑張らないとカップでのシート獲得は難しく、エクスフィニティーで何とか、という状況になるかもしれませんね。
ノア グレッグソンは複数年契約で加入したばかりなので契約が残った状態でのチーム消滅となってしまいました。ただ、ちょっと問題児タイプではありますが、オールスター戦2年連続ファン投票選出という謎の人気とエクスフィニティー時代の成績、まだ2年目で伸びしろがあることからシートを得られる可能性が上の2人よりは高そうです。
優勝経験があるチェイス ブリスコーもまた、昨年に複数年+オプションという契約で残留したとみられるのでオプション権消滅。とはいえSHRの今の4人の中では最も結果を残している選手なので、お声がかかる可能性のあるドライバーと言えます。
エクスフィニティーで戦う2人については、ライリー ハーブストはモンスター エナジーがスポンサーについているので少なくともエクスフィニティー内での移籍に関してはそこまで苦戦はしないと考えられます、しかも彼もKHIの顧客です。カスターもチームのお偉いさんの息子ではありますが、昨年のチャンピオンで実力はありますから同様に少なくともエクスフィニティーでのシートすら見つからない、ということはさすがにないと思います。お父さんも息子の職探しを頑張るでしょうし、さすがにチャンピオンが2年後にシートが無いのは気の毒すぎます。
そして現地メディアがある意味いちばん注目している様子なのが、現在はベリーのクルー チーフを務めているロドニー チルダース。マイケル ウォルトリップ レーシングではデイビッド リューティマンと組んで2勝、ブライアン ビッカーズと1勝を記録し、2014年にハービックがSHRに加入する際にMWRから移籍。2014年のチャンピオンを含め通算37勝をハービックとともに記録した名クルーチーフです。チャンピオン経験があり、しかもハービックと長年仕事をしたことで勝つための考え方、車づくりなど多くの知見を有するチルダースを求めるチームは多いと思われます。
スポンサー関係の活動でエプロンを着用するカスタード選手、 じゃなかったカスター選手、ちょっとかわいい |
そして現地メディアがある意味いちばん注目している様子なのが、現在はベリーのクルー チーフを務めているロドニー チルダース。マイケル ウォルトリップ レーシングではデイビッド リューティマンと組んで2勝、ブライアン ビッカーズと1勝を記録し、2014年にハービックがSHRに加入する際にMWRから移籍。2014年のチャンピオンを含め通算37勝をハービックとともに記録した名クルーチーフです。チャンピオン経験があり、しかもハービックと長年仕事をしたことで勝つための考え方、車づくりなど多くの知見を有するチルダースを求めるチームは多いと思われます。
物事に新陳代謝は必要ですが、これはさすがに代謝よりも穴が空いたという色あいが強いなと感じるSHRの終幕劇でした。ひょっとすると、未だに妥結に至っていない来年以降の収益分配制度の交渉でチーム側はSHRが撤退した状況を持ち出してさらなる分配を求める、なんてこともあるんじゃないかと思いますが、衰退するような状況だけは招かないように双方とも気を付けてほしいなと思いますね。
まだシーズンは残ってますので、選手も従業員のみなさんも、そして最後なんだからオーナー陣も、ひと踏ん張りして最後までチャンピオンを目指して戦ってほしいなと思います。
コメント
いやあ寂しい限りです
かつてはチームに3人もチャンピオン経験者がいたのにも対して、今の所属ドライバー4人合わせてのカップ戦の通算勝利数がブリスコーの1勝のみなのも寂しく感じます。
ハース自体、F1の方でもよくないことが続いているイメージもあるだけに。
FRMは久しぶりの3台体制復活ですね。マクドウェルの移籍が決まっていることもありますし、このチームもドライバーが大きく入れ替わりそうで楽しみです。
23XIやトラックハウスは既にロードコースで3台目を出している実績がありますし、体制拡大のチャンスですね。(トラックハウスに関してはプロジェクト91やギスバーゲンの扱いをどうするのかも気になります)
エクスフィニティーのフォード勢は既にペンスキーが2021年、ラウシュが2018年を最後にエクスフィニティーの参戦をやめているのを考えたら戦力ダウンはとてつもないでしょうね。
RSSは去年チーム初勝利を挙げたとはいえ、スポット参戦のアルミローラに勝ってもらったものですし。
ペンスキーが抜けた後のダッジの様に、一部の下位チームだけが使う状態もあり得そうですね。(ゾンビダッジと言われましたが、2018年まではMBMやマイクハーモンレーシングが頑張っていました。)
それにしてもカート(フェニックス、FRR、SHR、CGR)とトゥーレックス(DEI、MWR、FRR)は歴代所属チームが閉鎖に見舞われているのが多いですね。
FRRの様に、チャンピオン獲った翌年でも資金難で閉鎖してしまうほど厳しい現実がこの競技なのでしょうが。
熱意はあるのにお金が無かったFRR、発展的解消とでも言うべき事業譲渡だったCGRと比べると、今回のSHRはちょっと違う雰囲気ですけどやっぱり残念ですよね。
たしかにカートが所属したチームがことごとく消滅してますね、まだ潰れてない一番大きなチームはさすがに大丈夫だと思いますけど^^;
フォードの下部カテゴリーがスカスカになってしまうと、人材を他所の陣営に囲われている中でチームが選手を引っ張ってくることになるので自ずとカップシリーズの競争力にも響くでしょうし、衰退方向に向かわないことを願いますね。ゾンビダッジはちょっと懐かしくて笑ってしまいましたけどw
表現として適切かどうかは分かりませんけど、SHRのチャーターを買った他のチームが活躍して、SHRが抜けたことを忘れるぐらいに面白いレースになってくれればいいなと思いますし、欲しい人の手に渡ったんだからこれで良かったんだろう、と思える結果になったらいいですね。
自分が見始めた2017から考えると競合から弱小、たくさんのチームが去っては現れたなと思います。
チーム移籍とかの話題に少し噂を足すとプリースさんはカップのシートを抑えられるだけのスポンサーを持っているとかなんとか…あとはどこかが拾ってくれれば居続ける可能性あるかもしれませんね…
4台から減って行って最後は、ならまだしも、4台体制から消滅ってさすがに急変すぎて驚きましたよね。プリースさんそんな良いスポンサーあったんですか!( ゚Д゚)JTGDも持ち込めるスポンサーが無くてシート無くして浪人した感じなので、一番あかん側だと思ってました。(今はネタバレする期間なので後日ちょっと情報探してみます)