フォーミュラE 第9戦 ベルリン

ABB FIA Formula E World Championship
2024 SUN MINIMEAL Berlin E-Prix
Tempelhof Airport Street Circuit 2.343km×40Laps=93.72km
Race Energy:38.5kWh
winner:Nick Cassidy(Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type 6)

 ABB フォーミュラE、第9戦・10戦はお馴染みベルリンでの2連戦。ですが今年はテンペルホーフ空港特設コースの形状が新しくなったのでちょっと新しいレースです。従来は空港の外周側にピットとスタート/フィニッシュが設置されていましたが、これが反転するような形で内側にピットストレートが配置されています。昔の飛行機・ダグラス DC-4が置いてある場所がちょうどターン1・2となり、以前は270度回り込む形状だった旧ターン1は多角形の中速コーナーになり、ヘアピンが2つ連続していた箇所もコの字とV字のターンになって、似ているようで違うコーナーになっています。全体としてはかなり高速になりました。


 レース設定はこの日が40周で約94km、日曜日の2戦目はここから2周短くなり、またGen3では初めてアタック モードの設定にも土日で変化が加えられました。土曜日は合計6分、日曜日は4分しかありません。余談ですが、発行されている公式文書によると4月19日に最初に出された設定では各レースは実際より5周短い内容で、1週間後の4月26日に内容が更新されてこの形になりました。少なすぎたんでしょうかね^^;

・レース前の話題

 アンドレッティーがシーズン12までポルシェとのパワートレイン供給契約を延長したと発表しました。昨シーズンからポルシェのカスタマーとなり、なんとワークスを上回ってジェイク デニスがドライバー選手権を制してしまったアンドレッティー、そのせいでワークスポルシェとは時々コース上で軋轢も生んできましたが、Gen3最終年までは現行の体制が維持されることになります。
 元々ポルシェはGen3に参戦する際、F1への参戦計画が平行して存在していたのでシーズン11以降に参戦するかどうかを決めていませんでしたので、アンドレッティーもこれによってシーズン10までしか契約が無かった、というのもあります。ポルシェに撤退されるとまたパワートレインを探す必要がありましたので、ひとまずは安心してレースに出られますが軋轢は続くかもしれませんw

・代役ドライバー4人+1人

 以前からお伝えしてきた通り、この週末はWECのスパ6時間と日程が重複。フォーミュラEには両方に参戦している選手が多いので日程が重なると契約で優先されている側に出ることになり、結果4人はWEC優先のため欠場となりました。2連戦なので今日も明日も欠場です。交代が必要になったのは

アプト
ニコ ミュラー→ケルビン ファン デル リンデ

エンビジョン
ロビン フラインス→ジョエル エリクソン
セバスチャン ブエミ→ポール アーロン

マヒンドラ
ニック デ フリース→ジョーダン キング

と3チームで4選手。このうちフォーミュラEの経験者はファンデルリンデとエリクソン。リンデは昨年フラインスの代役としてアプトから出場しているのでGen3でのレース経験者ですが、エリクソンが出てたのはGen2時代のシーズン7とまあまあ古い話です。これに加えて、前戦で骨折したサム バードも引き続き欠場となるため、今回も19歳のテイラー バーナードが代役出場します。

・グループ予選

 A組は各車が1セット目のタイヤでのアタックを終えた時点でエドアルド モルターラとキング、マヒンドラの2人がまさかのワンツー。まあ2回目でひっくり返るでしょ、と思ったらなんとモルターラは最後のアタックでさらに自己ベストを更新して1位で通過しました。しかも途中で壁にぶつけてちょっとステアリングが曲がっているようです。
 2位からパスカル ベアライン、ジャン エリック ベルニュ、ジェハン ダルバラ、までがデュエルスへ。FP1で最速だったアントニオ フェリックス ダ コスタは5位、ミッチ エバンスも6位で脱落し、キングは2回目で伸ばせず8位、デニスはなんとビリでした。
 続くB組も結果はサプライズ、最速はアプトのルーカス ディ グラッシでした。ということは両組とも最速はマヒンドラのパワートレインです。2位はちょっと壁にぶつけてしまったけどマキシミリアン グンター、3位にストフェル バンドーン、そして4位はERTのセルジオ セッテ カマラでした。ニック キャシディーは5位で脱落し無線で落胆の声、しかしそれ以上に落胆したのはアンドレッティーで、ノーマン ナトーがビリだったので両組ともアンドレッティーが最下位です、何か基本的なセッティング間違えた?

・デュエルス

 両組ともDSが非常に速かったものの、A組では準決勝でモルターラがそれ以上に速くベルニュを破って決勝へ。一方B組ではバンドーンが準々決勝、準決勝のいずれも全体最速で勝ち上がりました。
 決勝、モルターラはターン1からうまくまとめている様子なのに対し、バンドーンは基本的なバランスが後ろを強めにしている車なのかやや頭が入りにくそう、と思ってみていたら完全にターン7で失敗しました。
バンドーン、エイペックスにつけず失敗!

 モルターラは1分1秒741とデュエルス最速タイムをさらに更新し、自身3度目のジュリアス ベア ポール ポジションを獲得。マヒンドラは今シーズン唯一の無得点チームでしたが決勝を待たずして得点しました。これからは『唯一入賞が無いチーム』と呼ぶことになりますが、決勝でこれも終わらせたいところです。
 デュエルス進出者のうちダルバラはギアボックス交換2回による40グリッド降格があるため、スタート順位はモルターラ、バンドーン、ベルニュ、セッテカマラ、グンター、ベアライン、ディグラッシの順となります。9位にキャシディー、10位エバンスとジャガーが5列目。ダルバラは40グリッドも落ちたら空港の外へ出ているでしょうね。代走組ではファンデルリンデの11位が最上位です。

・決勝

 モルターラはスタートで後続に道を譲ることなくブロック、3周目に率先してアタックに入りこれによって順位を明け渡す作戦を採りました。この後1回目のアタックが概ね終了すると、リーダーはベルニュで続くのがバンドーン、DSが並んで色々作戦を使いやすくなります。その後ろにポルシェも2人続いてるんですが、モルターラがこの間に割って入ろうとしているのでなんとなくごちゃごちゃしています。
 基本的にマヒンドラとERTは正面から効率で競争すると負けてしまうのが分かっているため、計算上効率性の高い走り方をしたところでペースが遅くてただ沈んで行って終わってしまう可能性が高くなります。そのため、最後に苦しくなるのを承知で攻めた走りをしておき、何かしら起こって節約の要素が薄れる展開になることを期待して上位スタートならそのまま上位でとどまる、という考え方があります。何も起きなくて入賞圏外に落ちたらしゃあないわ、という考えですね。逆に下位スタートだと一か八かゆっくり走ってSCが入るのを待つ、J SPORTS的に言うと『ターベイ作戦』も時々使われます。

 10周目、エリクソンがクラッシュしてコース上の中途半端なところで止まってしまったので11周目に入るとFCYが宣言されました。右後部のサスペンションが折れているので自走は無理っぽく結局はSCとなり、周回遅れ目前だったダルバラも追いつくことになります。
 しかしこの後思わぬ問題が発生、さっきFCYが出たのがターン2のエイペックス近辺、すごく道幅が広い場所をみんなが広がって走る位置だったので、追い越し禁止の瞬間に誰が前で誰が後ろか判別に時間を要し、車両が排除された後も順位判定のためにSCがしばし継続されました。結果、3箇所で順位の入れ替えが発生し、しかも整理を急ぎすぎてスコット エルキンスの出した当初の指示内容にも誤りがあるバタバタぶりで、ようやくレースが再開できたのは17周目でした。

 FCY/SCの導入時間によってレースが追加されるフォーミュラEですが、基準となる時間は通常のFCY/SC走行で1周にかかる時間よりは長く設定されているため、1周の導入に対して1周が追加される、ということには普通はなりません。この場合、周回数は増えても低速走行中に抑えられた消費量の方が大きいので、エナジー的には多少なりとも楽になります。
 例えば38周のレースを1周で1kWh消費しつつレースしていれば、38周で38kWh消費します、当たり前ですね。ここで、もし3周のSCが出てレースが2周延長されたとします。レース周回数は40周に増えますが、レース状態は37周なので消費量は37kWh、そしてSC先導下でゆっくり走る時はあまり消費しないので、たとえば1周あたり0.25kWhでよければ、0.25×3周で0.75kWh。つまり合計40周で37.5kWhとなりますから距離は増えても消費量は減っています。減ったぶんはペースを上げるのに使えますね。大雑把に言えばこれがSCが出ると楽になる理由です。

 ところが、東京E-Prixのように破片が散らばった場所を隊列がすごくゆっくり走った場合に基準タイムよりも長い時間をかけて1周してしまうことがあり、こうなるとSC周回数と追加の周回数が同じになってしまう、あるいは最悪多くなる可能性すらあります。するとエナジー的には純粋にSC中の電力消費分が余計にのしかかるので、エナジー管理はむしろ厳しくなります。道幅が狭いコース、破片が散らばった事故処理ほどこうなりやすいので、SC中のペースというのも重要なレースの要素ですね。というか作戦を考える人はホント一瞬たりとも気を抜く時間が無いなと改めて思います。

 今回の場合は隊列整理で時間を食っただけなので節約度合いの軽減に寄与し、再開後は先陣争いが少しハゲしくなりました。SC前は1分6秒台だったペースが5秒台に1秒ほど上がり、これで予選の3秒落ちあたり。ベルニュはリフト&コーストしつつも内側を徹底的にブロックし、抜きどころであるターン2、6、9あたりは毎回誰かが誰かの内側に飛び込んで争う展開になります。気づいたらローランドも1位争いに加わっていますがどっから来たんでしょう、逆にディグラッシはぶつけられてリタイア。

 27周目、ここでベアラインがベルニュをかわし、ダコスタも続いてポルシェがワンツー。さらにあまりに不調ゆえ序盤戦にほぼビリで節約走行していたデニスも上位に来ています。各陣営はそんな混戦を進めつつも並行してアタックを終わらせては行きますが、エバンスは道中で一度アタックを取りに行って失敗したので1回残ってしまっており、どうにかしようと急いで1位までよじ登ります。
 しかし29周目、グンターがターン9の出口でクラッシュして車を停めてしまいます。ここでレース コントロール側はすぐにSCとせずにまずは現場を黄旗2本としましたが、翌周のターン9で黄旗がアコーディオン効果を生んでしまいました。追突事故が起きてファンデルリンデがウイングを失います。このあとようやくSCが導入されましたが、どうも運転手さんはFCYやSCという制度があると逆に黄旗を甘く見てしまって平気で突っ込んでいってる気がしますね。

 34周目にリスタート、ターン6の入口で4ワイドの争いが発生してベルニュが抜け出しリーダーへ、これをローランドが追いかけ、まだアタックが残ったままのエバンスもアタック後に集団に埋まりたくないので必死に追随。争いが激しくなる中で36周目にはデニスが、その直前に接触があった影響なのかターン6でおもいっきりブレーキでロックさせてタイヤを傷め、せっかく残量があってチャンスだったのに無念のリタイア。まず生き残るのが難しいレースですね^^;


 続く37周目にエバンスは2位からアタックに入って4位で戻ると、ここからエナジーを使って39周目にはリードを奪還。レースは6周の追加となって41周目からが6周の長い延長戦となりますが、エバンスは前に出たとはいっても逃げられるエナジー残量があるわけではなく、鬼ブロックにも限度があります。エバンスは41周目にリードを失い、その後ベルニュが先頭へ。
 これで決まりかと思ったら、なんとここまでエナジー節約で来ていたキャシディーがいつの間にか急浮上して43周目には先頭に立ち、しかもエナジー残量にやたら余裕があるのでこのレースで初めて後続をぶっちぎり始めました。エナジーの余裕がある人なんて誰もいないので後続は付いて行けません。
 これだけみんな車がボロボロになっているとその中で全然壊れていないことがまず大きな勝因だと思いますが、キャシディーが大逆転で今季2勝目を挙げました、けどどっから来たんだ。最後は鬼ブロックで耐えたベルニュが2位、そしてベルニュに詰まりながら抜きつ抜かれつした3位争いはローランドが制しました。選手権を考えると重要なエバンスとベアラインによる5位争いも起こり、最後はかなりハゲしくやり合いましたがエバンスが必死で5位を守りました。モルターラは8位でマヒンドラ今季初入賞、バーナードが10位となり代走ドライバーで唯一入賞しました。ウイングを壊して緊急ピットしたファンデルリンデがなぜか11位にいますw


 キャシディーってレースの最後になるまで全然名前を書いた記憶も無いのでどっから来たんだと思ったら、気づいていないのも無理はなく35周目の段階でまだ14位にいました。レースの序盤、順位を気にせずに6周目から11周目にかけてダブル アタックして早々に義務を終わらせ、後方で待機してせっせと節約をしていたようです。36周目に9位となって水面に顔を出すと、あとは余っているエナジーで一気に来ました。このあたりキャシディーはメリハリを利かせた運転が本当に上手いのと、今回は自分の目の前で起きた事故を見事に避けてむしろその隙にゴボウ抜きしていたので、レース展開も彼に見方しました。

 ペースから見るとペロトン スタイルというほど極端に遅いレースではなくそこそこ節約レースの部類ではありましたが、モナコほど抜けないわけではないけどミザノほど好き放題もできない道幅が適度な変動をもたらしていて、レース設定としてはなかなか良い線をついていたように思います。全開区間も多いので人の後ろを走って節約したいものの、抜こうとすると競り合いになってしまって無駄が発生するので勝負所を絞って間違えないようにしないといけなかった、というのが後から見た時のこのレースの攻略法だったかもしれません。
 また2回目のSCはレース追加に影響する80%地点=32周目を目前に発生した上、1回目と違って破片の関係で平均速度が大幅に下がり、追加基準タイムより遅いペースで1周していました。チームとするともう周回数をある程度固めていたところにさらに放り込まれる形となったのでいくぶん計算が狂ったかなと思います。実際、2回目のSC後はむしろペースが少し落ちてました。そこも残量を多めにしていたキャシディーにとっては追い風でした。デニスも本来なら勝負できる立場だっただけに惜しかったですね。
 非常にフォーミュラEらしいレースだったなあ、と思いつつベルリンは2日目へと続きます。

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