フォーミュラE 第11戦 上海

ABB FIA Formula E World Championship
2024 Shanghai E-Prix
上海国际赛车场 3.051km×29Laps(-0.19km)=88.289km
Race Energy:38.5kWh
winner:Mitch Evans(Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type 6)

 ABB フォーミュラE、シーズン10は残りが3ラウンド/6戦となりました。第11戦・12戦は上海での2連戦。2019年の山亜以来5年ぶりの中国開催です。上海のどんな市街地でやるのか、と思ったら開催地はF1でお馴染みの上海国際サーキットで、本来は1周5km以上ある常設サーキットを半分ぐらい走ったら裏道を通って戻る約3kmの特製コース。
 普段の市街地と違って綺麗な舗装の路面なので車がガタガタしませんが、特徴的なターン1〜2を含めて普段の開催地ではあまりお目にかかることがないターン アングルの大きいコーナーがあるので、ダウンフォースが無くてズルズル滑るこの車ではなかなかドライバーの思ったとおりに車がラインに乗ってくれなさそうです。平均速度が高くて大きな回生場所もありません。
 コースを半分しか使わないので本来このサーキットの特徴の1つである約1.2kmの直線を使わないわけですが、公称300km/h超の最高速が本当に出るのか気になるので、デモ車両で良いから1周走ってもらいたいですねw
 ちなみにフォーミュラE世界選手権は中国語だと『ABB國際汽聯世界电动方程式錦標賽』となるみたいです(Wikipedia調べ)

・レース前の話題

 シーズン13から始まるフォーミュラEのGen4時代において、ポルシェが参戦を継続し少なくとも2030年まで活動を継続することが発表されました。既に日産とジャガーがGen4への継続参入を表明しており、これで3つ目の自動車企業の参戦継続が決まりました。ドイツ企業の立て続けの撤退に加え、ポルシェもF1に参戦していれば今年限りで打ち切りの可能性があっただけに、運営側はホッとしたことでしょう。大きい名前の会社が参加してくれると、他の企業も『あのポルシェが出てる大会ですよ!』と予算を通しやすくなる効果は実際あると思います。

 前戦ベルリンではWECとの日程重複で欠場者が出ましたが、被っているのはベルリンの週末だけなので今回からはニック デ フリース、ニコ ミュラー、セバスチャン ブエミ、ロビン フラインスの4人が復帰して、特別な事情が無い限り最後まで同じ顔ぶれです。これに加えてモナコで骨折したサム バードも帰ってきたので本来の顔ぶれが全員そろいました。

・上海の怪奇現象再び

 F1ではいきなり芝生が燃えるなどおかしなことが多発した上海、フォーミュラEでもまさかの出来事が起こりました。金曜日のFP1が始まって約5分、いきなりパスカル ベアライン、ダン ティクタム、デフリースの車が相次いで止まり、ほどなくアントニオ フェリックス ダ コスタとセルジオ セッテ カマラまで止まってしまうおかしな問題が発生しました。
 なんか呪われてんかと思ったらそうではなく、詳細はこれからの検証ですが、このイベントを前にしてバッテリー関係の管理システムのソフトウェアにアップデートが実施されていたため、これが原因の可能性が高いとみられています。供給元が対処、ロールバックしたのかもしれませんが、その後はきちんと走りました。
WEH「あ、動かへんわ」
TIC「マジ!?奇遇やな~俺もやわ、バグかな?」
WEH「せやから公式戦直前にアプデはやめてほしいわ~」

 ベルリンではアタックモードの時間がそれまでの計8分から6分や4分へ短くされており、このレースも6分の設定なんですが、The Raceによるとこれはレース内容に変化をもたらす目的よりもシーズン最後に向けてバッテリーの性能をきちんと維持させるための劣化抑制目的があったようで、アップデートも同様の目的があったようですがおそらく見つけられていない問題があったと考えられます。
 ここ最近は日常我々が使う自動車でも購入後のソフトウェア更新が行われる機会があり、自動車企業の今後の開発課題となっているというのは最近もニュースになっていましたが、世界で何万台も走ってる車がアプデでバグったら悲惨なので、あんまり他人事でもないなとか思いましたね。


・グループ予選

 なんかだだっ広いところをEVで走るのでいつも以上にひっそりしてるなあと感じるグループ予選、コースと壁が遠いと集音マイクも遠くなるので余計に静かに聞こえるんですかねえ。今回の予選はアウト、アタック、クール、アタックの構成が基本のようですが、A組は2サイクル目の最後のアタックに向けて渋滞が発生。
 これであまり思い通りにタイヤの準備が整っていなかったようにも見えて、最後のアタックでは思ったほど記録が伸びませんでした。最速は1分14秒242を記録したストフェル バンドーン、2位からオリバー ローランド、ノーマン ナトー、ミッチ エバンスのトップ4でしたが、1位から4位までたった0.065秒差です。選手権1位のニック キャシディーはバンドーンから0.074秒しか遅れなかったのに5位でデュエルスへ進めませんでした。

 B組は路面温度が上がっていない状況を踏まえてか、アウトとアタックの間に準備を1周追加するチームが多い様子。こちらは1回目のサイクルで出された記録がA組と比べてやや遅かったので2回目のアタックで大きく変動し、ジェイク ヒューズが1分14秒140と急にすごいタイムを出して最速。0.004秒差の2位にジャン エリック ベルニュ、3位ダコスタ、4位ベアラインとなってポルシェは2人ともデュエルスに残りました。

・デュエルス

 今回は両組のブラケットとも1位通過の人が準々決勝で敗北。A組の準決勝はローランドがエバンスを0.001秒差で破る激戦を見せ、B組はベルニュがベアラインを破ったのでいずれもグループ2位だった2人が決勝に勝ち進みました。なんか走るごとにタイムの水準が切り上がっていきます。
 ベルニュは準決勝のタイムで見るとローランドより0.1秒以上遅いのでやや期待薄かと思いきや、この勝負所で会心の走りを見せていきなり1分13秒322というデュエルス最速タイムを記録。ローランドもほぼ同じ走りでしたが僅か0.038秒及ばず、ベルニュがジュリアス ベア ポール ポジションを獲得しました。ベルニュはターン2の出口でうまく内側に寄って縁石にタイヤを引っ掛けて回ったのが効いたように見えました。あとターン11の内側はがっつり跨ぎましょう。

 スタート順位はベルニュ、ローランド、エバンス、ベアライン、ヒューズ、ダコスタ、ナトー、バンドーンとなりました。キャシディーは10位からのスタート、連覇にはもう後がないジェイク デニスが11位。

・決勝

 誰もがペロトン スタイルのレースを予測する決勝、2位のローランドは明らかにそろ〜〜〜〜〜っと発進しており、なんか5位前後の希望する位置取りを目指して無駄な消費を避けている様子。ポールシッターのベルニュはとりあえず1位を走っています、いや走らされてるのか。
実は高低差が大きい

 そんなわけでいつも通り全員がにらみ合いを始める中、ポルシェは2人で戦略を考えている様子でダコスタが早々に3位辺りまで来てベアラインに近づくと、そのベアラインは3周目に一旦前に出て最初にアタックを使いました。ポルシェってどうも戦略レース下手な印象あるんですけど今日はどうでしょう。
 
 常設コースを使う場合はたいていクソ狭い低速特設シケインを作るのでそこでガッシャガッシャぶつかるわけですが、今回は裏道を使っている以外には特に変な出っ張りもタイヤも置いていないのでペロトンレースでも非常におとなしいレース展開、各車アタックを消化しつつ様子見を続けます。ポルシェは引き続き2人が近くにいる一方で2位スタートのローランドは10位以下まで後退しており、考え方が全然違う様子です。まあ後退と言っても2秒差しかないんですけど。

 8周目に初めてエナジー残量が表示され、上位勢にそんなに差が無いことが判明。見えたことで各陣営とも次の考えに移行するのか、だんだんとコーナーで並びつつの順位変動が増えてきて、比例して細かい接触や危ないライン取りが増え始めました。特にターン10のシケイン入り口に毎回3~4台で突っ込んでくるのでいつやらかしても不思議ではありませんw
ターン11 普段より混んでいます

 
 その後、10周目から11周目にかけて、さっきまで中団にいたはずのデフリースがいきなり1位に出てきて、すぐ6位あたりに引っ込む謎の展開を挟みつつもレースが進んで行き、20周目/残り10周、だんだんとポルシェvsジャガーの図式にまとまり始めます。ベアライン、エバンス、ダコスタのトップ3に、中団を走っていたのでやや残量が多いデニス、キャシディーが続いてきました。ポールシッターのベルニュが7位とちょっと不安を感じる位置で、前にはある意味不気味なデフリースがいます。
 
 23周目、そろそろ目先の順位が欲しくなってくるタイミングでベアラインがターン6のブレーキングに失敗。ブロックしようとしてロックさせてしまい、動きをよく見ていたエバンスが先頭へ。対ベアラインで言えば残量も多少ゆとりがあり、今度はエバンスが防御態勢に入りたいところ。
 しかし25周目、前にさえ出ればどうにかなると考えているのかベアラインは残量が少なくともエバンスを執拗に狙っていくと、ターン11で4輪コース外に出ているように見える走りでシケインを突っ切りリードを取り返しました、いいのかw

 その間に残量でかなり有利になってきたキャシディーが3位となって、ジャガーは2人でベアラインを追い込める位置関係となります。残量に余裕があるのはキャシディー、選手権で前にいるのもキャシディーなので入れ替える手もあるはずですが、チーム側は待てのサイン。キャシディーは「いつまで待てばいいんだ、もう行けるだけのエナジーあるじゃないか。」「誰か何か言ってくれよ。」とやや作戦に不満。ジャガー的にはまずはエバンスを優先させたい雰囲気です。
 当然エバンスもベアラインを抜き返したいわけですが、思ったより抜きにくくて最終周になってしまいました。ターン1~2で外から狙ってエバンスがようやくベアラインを抜いたのでキャシディーも攻めてヨシ!となるわけですが、あと半周しかありません。ターン6で外から狙ったら立ち上がりで厳しく寄せられ、ターン10もがっちり内側を抑えられ、さらに切り返しのターン11でも厳しく閉められました。最後はちょっと無茶したキャシディーがベアラインにウイングを踏まれ、壊れたウイングで最終コーナーを立ち上がりました。

 トップでチェッカーを受けたのはエバンス、2位にベアライン、3位キャシディー、ローランド、ダコスタと続きました。気になるのはベアラインがコース外を使って利益を得たかどうかでしたが、レース審査委員は『エバンスとの接触を避けるためのものだった』としてペナルティーは課されませんでした。確かに最後のベアライン/キャシディーの攻防と同じでエバンスは切り込んでいるので並走する場所が無かったですが、前に出るのまで許されたのはちょっと意外でした。逆から言えば最後のキャシディーはシケイン突っ切ってベアライン抜いても不問になった可能性があるわけですね。ただキャシディーは位置関係がやや後ろだったので『抜いた』って言われる可能性もあるし、選手権1位なのでギャンブルは絶対できませんが。

 一方で5位でチェッカーを受けたダコスタは、最後の最後にベルニュをコース外に押し出したとしてレース後に5秒加算のペナルティーを受けてしまい、正式結果は入賞圏外の18位(!)。これで5位はデニスのものとなり、6位にベルニュ、そして7位にデフリースが入ってようやく今季初入賞となりました。途中でいきなり前に出てきたのは驚きましたが、前方で駆け引きがありすぎてきちんと理論通り効率的に走るレースができていないと、結果としてパワートレインの効率で劣るチームにもつけ入る隙がありましたね。

 ジャガーは優勝したのは良いんですが、チーム内に少し不満の種もできてしまいました。モナコでは完璧な連携でワンツーを達成しましたが、強すぎる2人を揃えると必ずいつかこうなります。ジャガーは予めレースの特定の時点で前にいた人を優先する取り決めというのを作っているそうで、おそらく事前の約束に従えば間違ったことはしていなかったと思われます。しかしシーズンが佳境に向かう中でそろそろ選手権順位に従ったチーム内規則も作っておかないと、今回も危うく2人ともベアラインを抜けずに相手を利するところでした。もし既にそういうのができていたのならそりゃあキャシディーはキレるでしょうけどw
 ベアラインはちょっと長いこと先頭を走りすぎたせいで勝つだけのエナジーが残っておらず、やっぱりダコスタとうまく連携するというのがチームとして機能していなかった気がしますが、結果としてはジャガーのややマズい作戦に助けられてレース前よりも3点だけキャシディーとの差を詰めて13点差となっています。エバンスは優勝してなおキャシディーから33点差なので遠いんですよね。デニスはさらに遠い42点差でだいぶ連覇が厳しくなりました。

 さて、上海の2戦目ではどんな怪現象が起きるんでしょうか、今回は見る前に書いているので全く予想が付きません。

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