F1 第7戦 イタリア(イモラ)

Formula 1 MSC Cruises Gran Premio del Made in Italy e dell'Emilia-Romagna 2024
Autodromo Enzo e Dino Ferrari 4.909km×63Laps=309.049km
winner:Max Verstappen(Oracle Red Bull Racing/Red Bull Racing RB20-Honda RBPT)

 F1はようやくヨーロッパにやってきました、第7戦はエミリア ロマーニャGPと名付けられたイタリア・イモラでの開催。イモラ サーキットことアウトドローモ エンツォ エ ディーノ フェラーリです。1994年、ローランド ラッツェンバーガーとアイルトン セナが相次いで事故死し悪夢のサンマリノと呼ばれた週末から今年で30年になります。決勝前にはセバスチャン ベッテルが自身の所有するマクラーレン MP4/8を使ってのデモ走行を行い、追悼の気持ちを表しました。

 元々はF1の日程から外れていたものが、2020年のCOVID-19により大幅に開催日程が変更される中で急遽開催地となり、そのまま継続開催されているこのイベント。昨年は現地で洪水が発生したために中止となって2年ぶりです。ベテランのニコ ヒュルケンベルグはイモラがF1に戻ってきた時には代走要因の状態でフル参戦をしていなかったため、実は今回ようやく初めてここでのレースに臨みます。入室時のオートメッセージは「初心者です!よろしくお願いします!」で行きましょう。

 そんなイモラ、安全性に配慮してコース外まで舗装している箇所が多かったですが、はみ出してトラック リミット違反をとられる場面がかなり多かったため、今年は砂地へと変更された箇所が複数できました。分かりやすいしはみ出したらリタイアに繋がってそれなりの罰になるので即効性が強く、他にも同様の対応が行われるコースもありそうですが、そもそも安全のために舗装していたわけですから安易に『トラックリミットトラックリミットうるせえな、だったらグラベルにしろ!(怒)』という声を静めるために安全性を損なわないよう、くれぐれも慎重に対応していただきたいです。

・レース前の話題

 前戦マイアミの前にはバルテリ ボッタスのレース エンジニアが突然交代しましたが、前戦終了後に今度はシャルル ルクレールの担当エンジニア・シャビエル マルコス パドロスが交代することになりました。後任はブライアン ボッツィーというエンジニアさんが就任します。
 2019年からルクレールを担当してきたマルコス、実は一時期アメリカに渡ってリチャード チルドレス レーシングでも仕事をしていたNASCAR経験者なんですが、ルクレールとの無線の会話で時々すっとぼけた返答をしたり、「確認するから~」と反応が遅かったりするのでテレビの格好のネタにもなっていました。怒ったルクレールが「ザビー!(怒)」って言ってるのも有名ですね。
 今年はカルロス サインツが、クビになることが決まってるからか開幕から時折スーパーカルロスを発動して活躍する一方、ルクレールはどうもうまく行かないレースが多かったので、ここらでエンジニアの替え時と判断されたのかもしれません。マルコスはどちらかというと優しいタイプの人物で、ボッツィーは厳し目の方だという話もありますが、ドライバーの成長段階によって適した人物が違ってくるというのは当然あるでしょうね。


 そしてドライバー契約の話題も1つ、ウイリアムズがアレクサンダー アルボンと複数年の契約延長で合意したと発表しました。元々2025年まで契約があったと言われており、新規定車両が導入される2026年以降まで続くけっこう長い契約です。2026年に向けたドライバーの確保競争がけっこうな速さで進んでますね。

・練習走行

 高速で高低差もあり、道幅も狭くておまけにスナーバックスも増えたイモラは結構な難所となり、FP1から飛び出したり回ったりする選手が多発。FP3ではフェルナンド アロンソですらターン18で回って壁にぶつけてしまい、セルヒオ ペレスもターン14のシケインで縁石に乗りすぎて壁に突撃。走行時間がきっちり取れないのでセッション終盤は混雑してしまい、速度差のある車両同士の危険な場面も発生。レッド ブルも金曜日にセッティングが今一つだったせいでいつもほどきちんと詰められないまま予選へと向かったようです。

・予選

 車は直ったものの準備不十分なアロンソがQ1で脱落しただけでなく、相棒のランス ストロールも今一つでQ2落ち、そしてペレスもまたなんとなーく遅くてQ2で落ちてしまいます。そんな中で角田 裕毅はQ2を3位通過、余裕があったので1人だけタイヤを温存して2回目のアタックに出ない動きを見せました。
 Q3ではマックス フェルスタッペンがいつも通りQ2からドカーンと0.4秒もタイムを上げて楽々ポールかと思いきや、マクラーレンの2人が追随。惜しくも届かなかったものの、オスカー ピアストリが僅か0.074秒差の2位、ランド ノリスも0.091秒差の3位となりました。1周が短いコースとはいえこれは驚き。ところがピアストリはQ1でケビン マグヌッセンを妨害したとして3グリッド降格のペナルティーを食らい、せっかくの2位が5位スタートになってしまいます。どうでも良いけどピレリ ポール ポジションのこのタイヤ型トロフィー、毎回ちゃんと持って帰ってるんでしょうか、フェルスタッペンの家がタイヤで埋もれる気がするんですがw


 スタート順位は1位がフェルスタッペン、繰り上がってノリスが2位スタートでルクレール、サインツが続きピアストリが5位です。角田はQ3もがんばって予選7位を獲得、Q2よりタイムは落ちましたが、仮に同じタイムでも順位は変わらないのでもうここらが限界です。VCARBはダニエル リカードもQ3進出で9位とチームの地元でまずは良い走りを見せました。初イモラのヒュルケンベルグが10位。

 ちなみにビザ キャッシュアップ RBはフジテレビNEXTの中継で中国GPあたりから急に呼び方が「アールビー」から「ブイカーブ」に変わりましたが、これはチーム側から運営を通じて全メディアに対して「VCARBと呼称してくれ」というお達しがあったからだそうです。スポンサーからするとRBでは自社が全然宣伝されないのでもっと宣伝効果を出すために周知徹底させたと思われます。ビザルビーじゃだめ?

・決勝

 タイヤはだいたいみんなミディアムを選択、ハードへ繋ぐ1ストップ予想。スタートではクラッチを繋いだ瞬間はノリスが良かったように見えましたが、その先で伸びなくてフェルスタッペンが順位を守りました。逆にピアストリは良い発進でしたが、フェラーリ2台が壁になって順位を上げることができませんでしたヒュルケンベルグはスタートでVCARBを2台抜きしてゴキゲン


 ノリスがフェルスタッペンについて行ってくれるかも、という淡い期待はすぐに消え失せてフェルスタッペンが少しずつとはいえ単独の逃げを見せ、ルクレールもノリスから少しずつ離されていきます。ピアストリはサインツを追いかけ回すもこのコース全然抜けません
 8周目には早くも後方でタイヤを換える人が出てきますが、アルボンの車はちゃんとホイールが装着されていなかったようで、すぐに異変を訴えて低速走行。この狭いコースでゆっくり走りつつも上位勢に周回遅れにされていくので交錯しないかちょっと怖かったですが、無事ピットにたどり着きました。アルボンはこれで最も重い10秒停止ペナルティーを受けました。NASCARだったら脱輪せず1周すればセーフですが、もしトラック上で脱輪させたら2周ペナルティー+罰金+クルーが出場停止、NASCARと日欧のレースは状況次第で日欧の方が罰が重い時もあれば、逆にNASCARがものすごく重くなる時もあります、文化の違いですw

 上位勢のピットサイクルは21周目・6位を走っていたジョージ ラッセルから。翌周に2位のノリスもピットに入りましたが、戻った場所はペレスの真後ろでした。ハードでスタートしているペレスはすぐにはピットに入ってくれないので詰まると面倒な相手ですが、ノリスは翌周にスパッと抜くことができて最小限の影響で済ませます。
 ペレスが抜かれたせいもありそうですが、フェルスタッペンも24周を終えてタイヤ交換、ピット前に6.5秒あったノリスとの差は4.7秒になりますが、ここからまた少し広げるのでほぼ差し引きゼロでした。ただ、フェルスタッペンは既にトラックリミット違反3回で警告を受けており、次やったら5秒加算という足かせがあります。

 このサイクルでピアストリはサインツをアンダーカットしルクレールに接近。フェラーリ側はピアストリがピットに入った時点でサインツがアンダーカットされることは避けられないと考えたか、反応せずにコース上に留めてタイヤの履歴差づくりをしていました。確かにこの後ピアストリがルクレールに追いついて、抜けずに争いになって、という展開まで考えると、そこで新しいタイヤのサインツが追いついて攻撃する展開もありだと思いますね。
 一方、なんだか切れ味が今一つのハミルトンはもうちょっとでタイヤを換えるという26周目のターン12で飛び出してしまい、なぜか国際映像のテロップでは『Lewis Hamilton  PIT LANE START』という謎の表示が出ました、新しいペナルティーでしょうかw

 後半戦に入ってしばらくするとルクレールがノリスを上回る速さで追いかけ始めます。ノリスが周回遅れに時々引っかかっているせいもありますが、ピット後は4秒ほどの差があったものが少しずつ縮まっていき、43周目にはとうとうDRS圏内へ、この間ピアストリは置いていかれて長丁場の争いでは先輩ドライバーにまだ及ばないといういつもの印象が続きます。
 しかし追いつくのと抜くのは話が違うわけで、ルクレールはノリスのDRS圏まで入り込んで追い込みをかけたもののなかなか抜けず、そして47周目にシケインを曲がれずに飛び出してしまって一気に2秒以上の差へ逆戻り。すると、ここからルクレールが再びノリスに追いつくことがありませんでした。

 ルクレールのペースが落ちたのかと思ったら逆で、ここまで1分20秒8前後で周回を続けていたノリスに合図が出た様子でいきなり0.4秒ほど水準が切り上がりました。ということはルクレールが追いついてきているのを分かっていながらあえて飛ばしていなかったということですから、相当な根性と自信です。
 一方フェルスタッペンの方は20秒8からなかなか上げられなくなっていました、どうもハードが作動温度領域から外れかけているようで、速く走りたいんだけどタイヤが機能せず、かといって無理に攻めてはみ出したら5秒ペナの刑。でもペナが怖いから抑えて走るとタイヤへの入力が小さいから温度が上がりません、負の連鎖です。さすがに焦っているようで、珍しく周回遅れに対して無線で不満をぶちまけていました。今までは全員に1周ずつ引っかかったって負けようがないぐらいに2位と差がありましたからねえ。

 フェルスタッペンとノリスは残り7周でとうとう2秒差、けっこう危ないぐらいの攻め方でノリスはさらに距離を詰めます。正直ノリスの車載を見るといつすっ飛んでもおかしくないぐらいヤバい運転してるんですが、DRS圏に入れたらマズいのでフェルスタッペンは防御のためにかなり電力を使ってしまい、バッテリーが空っぽに近くなってきます。ノリスが吹っ飛ぶのが先か、フェルスタッペンの電池切れが先か、みたいな状態ですが、フェルスタッペンはうっかりはみ出しても終わりなのでかなりの重圧です。


 最終周、とうとうノリスは計測ライン上で1.017秒差という距離まで接近しましたが、前の周のDRS検知点の段階でも1秒以内ではなく、DRSは使えませんでした。仮に最終周にDRSの権利を取得しても使う前にレースは終わってしまうので、際どいところでノリスをギリギリ近寄らせずここまで来た時点でフェルスタッペンの任務は7割方完了。最後まではみ出しペナの恐怖がありますが、さすがにチャンピオンはそんな程度で自滅するほどの弱メンタルではありませんでした。
 フェルスタッペンがたった0.7秒差でノリスを退け今季5勝目を挙げました。飛ばし始めるのが遅かったなあ、あと2周あったらなあ、という感じのノリスが2位、存在が空気になりましたがルクレールが3位になりました。

 4位ピアストリ、5位にサインツ。メルセデスはラッセルがタイヤの消耗で苦戦して念のため2ストップ作戦に変更したためにチーム内で順位が入れ替わり、6位にハミルトン、7位ラッセルとなりました。躍進するマクラーレンと比べると色んな場所で苦戦して、1つ何か解決しかけると他の何かが壁になる、という雰囲気を感じますね。予選で失敗した上にレース中も単独で飛び出してあまり良いところがなかったペレスが8位で、せっかく開幕直後は好調だったのにこれではまたクビになるならないの話題が再燃しそうです。

 角田はどうなったかというと、スタートで直線の速いヒュルケンベルグに抜かれたせいで作戦が崩壊。仕方ないので12周目に早々とミディアムを諦めてハードへ交換し、タイヤ交換作業も早かったのでヒュルケンベルグをアンダーカット。その後はハードでスタートした人たちが何枚か壁になりましたがこれもできるだけ手短に仕留めることができたため、長い長い50周をずっと1分22秒台の中盤を挟んだペースを維持して走り切りました。
 今回はアストンマーティンが2人とも入賞圏外かと思ったら、SC導入に賭けてミディアムで延々と引っ張ったストロールが、賭けは外れたけど案外タイヤの履歴差が後半の追い抜きを可能にして順位を上げ、9位まで戻って来たのでトップ5チーム以外が入賞できる余地はアロンソがいない1枠分しか残っていませんでした。そのため角田は末席の10位入賞でしたが、この貴重な1枠をヒュルケンベルグに獲られずに終えられたというのはチームとして大きな成果だったと言えそうです。

 それにしても、コース上でフェルスタッペンが追い詰められた状態でレースを終える、なんて出来事が今年のシーズンの、しかも前半戦のうちに起こるとは思いもしませんでした。何かがあって後ろに回って追いつかない、みたいなマイアミのような出来事とは意味合いがずいぶん違います。
 セッティングが決まってなかったから、条件が合わなかったから、と言っても元々の次元が違いすぎるので結果に全く影響しなかったのがこれまでの流れでしたが、レッドブルといえどもちょっと外したら厳しい戦いになる状況へ、1つ大きな流れが変わり始めたのかもしれません。そういう状況までマクラーレンが近づいてきたからこそ、ある程度幅のあるセッティングではなく完璧を求めに行って、それが穴にハマる要因になるというのもあるでしょうから、面白くなってきましたね。そんな面白くなったところで次戦はモナコです、フォーミュラEより面白いレースを期待せずに待っておきますw

コメント

日日不穏日記 さんの投稿…
僕はハイライトでしかレースを観ていませんが、ベッテルもセナのマシンを走らせていたり、色々話してたりして、最近は<人格者>って感じになってます。1993年のMP4/8は、ニール・オートレイだったかな?開発したマシンで、ハイテク自体では、ウィリアムズに見劣りしないマシンで、軽量なフォードV8とフィットしたマシンだった記憶があります。ドニントンとか。セナはレース後に、エンジンストールで、周回遅れになったプロストを貶していたりとか、好きなドライバーだったけど、複雑な気持ちで観てました。まぁ、リアルタイムですけど。ベッテルもウェーバーとの関係で、クーリングしてるところを強引に抜いたりして、かなりヤンチャだった気がしますが、歳を重ねて落ち着いてんでしょうかね。セナが亡くなった年齢をもう超えてますし。
SCfromLA さんの投稿…
>日日不穏日記さん

 無敵状態だったドライバーが、移籍してすんごい苦労して、アストンマーティンで車は決して速くはないけどフェラーリでの緊張感から解放されたレースができて、という一連の流れがベッテルを少しずつ変えたのかなと思いますね。環境問題についても言及しますし、人殺しのロシアで呑気にレースなんてできない、と最初に発言してロシアGP中止の決断を早めたのもたしか彼だったと思います。
 セナは異常な速さと独特の憂いを帯びた人格と、そしてあまりにも悲しい出来事がありましたけど、レースでの容赦のなさとか今でも事故死とは無関係にその行いを認めないと考えているジャーナリストさんがいるのもまた事実なんですよね。でもやっぱり私は今でも思い出しただけで言葉に詰まります。