2024 SUPER GTの変更点

 例年よりも遅めですが、4月14日に2024年のオートバックス スーパー GT シリーズが開幕します。今年も例年通り国内サーキットを転戦する全8戦のシリーズが4月から11月までかけて行われますが、ちょっと大きめの変更点があるために予習をしておこうと思います。まず開催日程ですが、こうなっています。日付は全て決勝日、周回数は例年通りなら、という想像です。

 7月はレースが無くて、それ以外に4・5・6・8月に1戦ずつ。9月だけ2戦で、あとは10月と11月です。間隔が近いのは第1・2戦、第5・6戦、第7・8戦ですから、第2~5戦が特に毎回1か月空いてしまって存在を忘れそうな構成です。
 ここ数年はレース形式を模索しているGTアソシエイション、一昨年から450kmという距離をお試ししていましたが、今年は300km、350km、3時間、という3パターンになりました。時間制レースは2022年の段階で競技規則に盛り込まれていた存在ですが、実際に導入されるのは初めてとなります。過去のレースから概ねどのぐらいの周回数になるのかを勝手に想像してみましたが、円滑にレースが進んだ場合は450kmを超え、かつての500kmレースぐらいになると考えられます。
 なおかつ、酷暑が続く事情を考慮したと思われますが、8月と9月のレースは350kmのレース距離にして観戦側も出場側もあまりに過酷な環境を自分たちからは求めに行かない姿勢と思われます。

・環境/安全両にらみのタイヤ&予選規則

 そして今シーズン最も大きな変更点が、『予選~決勝スタートまでを1セットのタイヤで行う』という新たな規則と、これに伴う持ち込みタイヤ数のさらなる削減です。これは、タイヤをバンバン注ぎ込んで資源を浪費していく形ではなく、できるだけ寿命と性能を両立させたタイヤを開発することで、環境対応への取り組みのアピール、メーカーにとって社会で求められる製品開発へ繋げるための機会を創出するとともに、近年このシリーズで重大事故が続いていることから、車両の旋回速度を自然と下げる目的も果たそうというかなり野心的な取り組みです。


 資源・開発の観点では、昨年限りでGT500クラスからミシュランが撤退しました。理由の1つとして、今や再生可能な原料を配合したタイヤが市場から求められる中で、レースでの競争ではそうした開発競争はできないので会社にとって必要な方向性と合致しなくなった、というものが挙げられています。単一供給であれば『このタイヤは〇〇由来の成分を××%配合しています』といった話ができますが、タイヤ競争があると性能に無駄なものは使えず、素材を規制するような規則は運用が不可能なので誰も導入しないからです。
 シーズン13からフォーミュラEにブリヂストンがタイヤを供給しますが、どちらかと言えば『競争しないシリーズに興味はない』という姿勢だった同社が単一供給契約に手を上げた理由もおそらくは『市販車用タイヤ技術との接点』『持続可能な素材を利用したタイヤ』という点があったと思われます。時代はすっかり変わりました。
 そうした時代背景にあって、競争環境を少しでもメーカーや市場の求める内容と一致させるためにどうすれば良いかを考えると、できることと言えば『長持ちするタイヤ開発がレースでの武器になる環境』を構築することで、かといってさすがに一時期のF1みたいに『一切交換するな』ではやりすぎなので、まずは予選から決勝の第1スティントまでを1まとめにして、長寿命化とともに使用するタイヤの本数も削減しましょう、というわけです。


 安全性の観点からは、GT500クラス、GT300クラスとも年々車が速くなっており、絶対的な旋回速度の高さやクラス間の速度差が重大事故の要因となっている課題があります。速度抑制の最も簡単な方法は出力を下げることですが、GT500でこれをやると直線でGT300を抜けなくなってむしろコーナーで無理をする可能性があります。
 じゃあGT300も下げたら、と思いますが、こちらはグループGT3規格の車両が世界基準の車両なので、例えば世界的に600馬力で競っている車を日本のレースだけ勝手に500馬力まで下げると、GT3車両を販売しているメーカーによっては難色を示す可能性もありますし、エンジン特性もそれぞれなので『じゃあそれぞれどういう下げ方をするのか?』という知見も乏しく、BoPが全く上手く行かない可能性もあって現実的に無理だというのがあります。タイヤを長寿命化する=速さを削ぐことでこの目的も達成してしまおうという狙いです。

 各レースでサーキットに持ち込むことができるタイヤも削減が進められており、2024年は300kmのレースではドライ タイヤは4セットまでとなっています。350kmだと5セット、3時間レースは6セットです。これに加えて前年度に未勝利のメーカーがある場合は勝つまでの期間追加で1セット持ち込めますが、2024年にこの対象となるのはGT500クラスのダンロップのみです。

・タイム合算予選

 これらの考えの下で刷新されるのが予選制度。予選から決勝の第1スティントまでを同じタイヤで走るので、従来の方式だとQ1で脱落して温存した方がお得だと考えて手抜きするチームが出る可能性があります。そこで、予選はノックアウト方式ではなく2人のドライバーがQ1とQ2に分かれて出走し、その合計タイムで予選順位を決めるタイム合算方式が採用されました。
 2人で同じ車を扱うシリーズなので予選も両方に必ず出番があって両方の速さが必要、という仕組みは理にかなっているとも言えますが、タイヤは同じものを使いますのでQ2担当の人は絶対に中古タイヤを使うことになり、またタイムを合算する以上は見せ方を工夫しないと誰が今速いのか分かりにくいのが難点です。

 また、GT500は元々ほぼ一発アタック、場合によっては保険をかけて2回アタックでそれ以上は絶対やらないですが、GT300の場合はけっこうセッション開始からすぐ走って、時間の限り走っているチームもとりわけ中団を争うチームでは多く見られました。しかしこれをQ1でやったらQ2担当さんはめっちゃ苦労するので、GT300のチームは少ない周回数でまとめたり、Q1で8位以内になれるタイム水準をある程度読んでアタックの続行をすべきか決断するような作戦力も必要になるかもしれません。
 実際の予選制度については、GT500とGT300で少し仕組みに違いがあるので分けて理解する必要があります。

〇GT500

 GT500は簡単で、GT300のQ1が終わった後に出番がやってきて、まず10分間のQ1で片方のドライバーが計測。そしてGT300のQ2が終わったらGT500のQ2となり、さっき走っていないもう片方のドライバーがまた10分間の制限時間内に計測を行い、その合計タイムで予選順位を競うだけです。Q2担当は中古タイヤなのでタイヤの最も性能の高い部分は既に使われていますし、一度熱を入れているので今までと同じ感じで温めたら失敗するかもしれません。
 8位以内に入らないと脱落!というのは無いですが、じゃあ全体で速くなるようにQ1担当がQ2さんのためにタイヤを残す、なんてことが可能かと言えばおそらく難しく、とりあえずQ1担当さんはフラット スポットを作ることだけは絶対に避ける、あとはQ2担当さんお願いします、という感じになると予想されます。富士スピードウェイで開催されたテストの時点では、とりあえず予選のテロップはこんな感じで見せるようですね。

〇GT300

 厄介なのがGT300です。台数が多いので昨年までと同様に選手権順位に基づく組分けが行われ、Q1・Q2とも2グループに分かれます。このグループ分け、Q1もQ2も同じ組分けのまま走って合計タイムを最後に合算、とすれば話は簡単なんですが、できるだけ条件を平等にするためにQ1とQ2で組み替えることになっています。えーっと、図を書くのは得意では無いんですが自分なりに書いてみました。


 まずQ1は2組に分けてそれぞれ10分間の走行時間で計測します。従来のノックアウト方式であれば各組で上位8人がQ2へ、9位以下は脱落、という形でしたが、タイム合算方式でも同様に8位以上と9位以下で扱いが変わります。結果をもとに組み替えが行われ、両組の8位以上がQ2のグループ1へ、9位以下はグループ2に回ります。グループ1のことを『Upper 16th』グループ2を『Lower 17th』と名付けているようです。
 Q2はポールを決める戦いを後にとっておきたいのでまずロウアー17の予選から先に行われ、続いてアッパー16が行われます。アッパー16に出場した車両の中で合算タイムが最も速かった車がポール ポジションとなります。


 で、ここからがややこしいんですが、ノックアウト方式ならQ2でどんだけ大失敗しても16位は保証されていました。しかしこれはタイム合算予選なので、Q1さえ速ければ16位以内を確保できる、というのでは安直すぎると考えられたのか、一部に入れ替え制度という謎のオマケが付いてきます。
 具体的には、アッパー16に出場していて合算タイムが1位~12位に入っていれば、その車の予選順位はそのまま1位~12位です。同様に、ロウアー17に出場した中で合算タイムがグループ内の5位以下だった車は、そのまま予選順位21位以下で確定します。
 しかしアッパー16の中で13位~16位と下位に沈んだ人と、逆にロウアー17で1位~4位と頑張った人たちは組分けの垣根を超えて予選順位を競わされます。この8台の車の中で合算タイムを比較し、一番速い車が予選13位、2番目が14位・・・となって、最も遅かった場合は20位となります。つまり、Q1で上位8人となってアッパー16に進んだとしても、結果次第では20位スタートもあり得ることになります。
 特にプロとセミプロの方が組んでいるような場合、従来のノックアウト制度であればとりあえずQ1にプロの人が出て好タイムを出せば16位以内からはスタートできました。しかしこの制度だと、Q2でセミプロの人が頑張らないと20位スタートになってしまう可能性があります。もちろんQ1のプロ選手がかなり速ければ『マージン』がありますが、より総合力を求められることになります。
 逆に、組分けの結果たまたまえらく強豪ぞろいになってQ1で9位になってしまった人たちでも、Q2をきちんとまとめたらなんとか13位までは期待できることになります。ただこうした内容を観戦しながらどこまで理解しつつ見れるのか、と考えるとけっこう難しいだろうなあというのが始まる前の段階での印象。運営側もこれで完成系というわけではなくここから手直ししていく意向があるようなので、とにかくまずはやってみよう、というところかもしれません。

 また、雨が降った場合GT300ではグループ分けのせいで条件に差が出すぎる可能性があるのでタイム合算方式は適用されず、従来のノックアウト制度と同じやり方となります。Q1の結果を受けてアッパー16に進出した車両がQ2のタイムだけで上位16位までの予選順位を、ロウアー17出場車両が17位以下の予選順位を競う形となります。ちょうど富士のテストは雨の中で模擬予選をやったので、アッパー16はQ2だけで争う方式となっています。


 余談ですが、2007年に『ノックダウン方式』という名称で初めてSUPER GTに勝ち抜け方式の予選が採用された際には、なんとQ1からQ3まで3ラウンドもあった上に、これを1セットのタイヤで突っ切っていました。タイヤをもたせないといけないので、アタック後の待ち時間には外したタイヤに水をかけたり、濡れタオルを置いたり、ビニールプールに浮かべて冷やす、なんてことが行われていました。
 果たしてこの制度で夏場にプールを持ってくる人がいるかどうかは分かりませんが、これとは逆に、GT300では『Q1のグループAで走った人とグループBで走った人ではQ2を走るまでに待機する時間が違うので、先に走った人はタイヤが冷えすぎて不利ではないか』という意見もあるそうで、このあたりはシーズンを通して何か統計的に有意差が出てしまったら検討事項かもしれません。フォーミュラEでもこれは言われてますね。


・作戦はどうなる?

 予選から決勝の第1スティントまでを同じタイヤで走る、と言っても昨年までも予選で使ったタイヤをスタートで使用する義務があったので、余分になるのは予選の1アタックぶんで、予選用タイヤがあったわけではありません。いや、タイヤ屋さんに言わせたらこれはものすごく大きい差だとは思いますけど。
 各レースごとにピット作業に関して何かしらの規則による縛りがあるのかどうかはその時々で決められるので見通せませんが、300kmのレースであれば特に昨年までと変わらないでしょう。最初に履いているタイヤがすごく使い古されているので、俗に言うミニマム、レースの1/3を経過したあたりですぐにピットに入りたいと考える人は増えるかもしれません。
 350kmだと、燃料的には1ストップで行ける距離ですがざっくりと150km-200kmか175km-175kmになるのでどっちにしろそこそこ持久戦になります。ピットのロスが長い富士は2ストップ義務が無いなら1ストップで耐えたいですが鈴鹿はけっこう大変ですし、夏場のレースなのでタイヤの選択を誤ると壊滅的にもたないこともあります。2ストップと決め打ちして予選~決勝スタートを予選用タイヤと割り切り、前方スタートから誰にも引っかからず我が道を行く2ストップ、というのが機能することもあるかもしれません。
 3時間レースは2ストップなら要するに1時間ずつを3回、1走行あたり200kmも無いのでこちらも航続距離だけで言えば走ることは一応可能だと思いますが、とりあえず鈴鹿とオートポリスはタイヤがキツイと思います。しかもレース内容によって周回数は変動し、変動する要因となるのはSC/VSCと天候ですから、ほとんどピットに入る周回数に選択肢が無い2ストップは柔軟性が少ないのでまあ3回をベースに考えて、序盤にSCが多すぎたら減らすオプションあり、ぐらいの感じでしょうか。これ全部想像なので大外れでも責任は取りませんw

・その他の変更点

〇予選ポイントの増加

 予選制度の変更に伴い、予選の上位3台に対して3点~1点の選手権ポイントが付与されることになりました。ということは、予選でむっちゃ速いけど決勝はタイヤがダメで入賞できない、というのを1年間繰り返しても全戦ポールなら24点獲得できてまあまあの選手権順位になれるということも・・・w

〇GT500の地上高引き上げ

 タイヤで速度を抑制、と書いてきましたが、GT500クラスでは床下に装着するスキッドブロックの厚みを増やすことによって最低地上高を5mm引き上げました。5mmも変わると結構大きな影響があるので、セッティングもまたリセットに近い感覚かもしれません。

〇GT300は重量増加

 一方GT300クラスも速度抑制策が採られ、こちらは追加の重量が設定されることになりました。元々開幕戦の岡山限定で導入されていた制度を通年化したもので、全車一律に何kgというものではなく、車両特性に応じて考案された重量が追加されます。例えばNSX GT3は51kgで、RC F GT3は39kg、GR86は38kg、などと車種ごとにバラバラです。ですのでGT300の参戦車両は

最低重量+BoP重量+追加重量+サクセスウエイト

とどんだけ重量増えるねん状態な設定になります。そういえばグランツーリスモ7でもいつぞやのアップデートからGr.3車両が妙に全体的に太らされたなあ・・・w

〇GT300のサクセスウエイト変更

 そんなわけでGT300はサクセスウエイト無しの状態でも既に40~50kgぐらいのバラストを先に積んでしまっているので、サクセスウエイト制度が変更になりました。2020年以降は『ポイント×3kg』の3倍掛け規則でしたが、これがGT500と同じポイント×2kgになります。搭載される上限も100kgではなく80kgとなりました。それでも80kg積んだら追加重量を含めると車両によっては130kg近いバラストを積むのでものすごく重くなります。

〇リザーブドライバー制度

 ここ数年、ドライバーが急病などで突然出場できなくなり、しかし第3ドライバーを登録していないので交代する人がいない。仕方ないから1人でレースの2/3を走るだけ走ってリタイアする、というような事象がいくつかありました。これは運営としても不本意なので、今年からこういう緊急事態に備えて控え選手を登録することができるようになりました。同じ人が複数の車両のリザーブを兼務しても良いみたいなので、たとえばGT500ならトヨタ全体でこの人、と決めて全チームで同じ名前を記入しておくこともできるようです。もちろんこれをやって2名病欠が出たら片方のチームは諦めることになりますが^^;

 と、これだけを頭の片隅に入れておけば、なんとなく2024年のレースに付いていくことができるでしょう(個人の感想です)

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