NASCAR 第7戦 リッチモンド

NASCAR Cup Series
Toyota Owners 400
Richmond Raceway 0.75miles×400Laps(70/160/170)=300miles
※NASCAR オーバータイムにより407周に延長
winner:Denny Hamlin(Joe Gibbs Racing/Mavis Tires & Brakes Toyota Camry)

 3月最後のNASCARはリッチモンド、キリスト教にとって重要な日であるイースター当日です。2週間前のブリストルは予想外の事態でタイヤが40周ぐらいしかもちませんでしたが、ここはタイヤがもたないのが通常営業。0.75マイルの小さなトラックに14度という高いバンク角でずっとハンドル切りっぱなしみたいな状態に、タイヤへの攻撃性の高い舗装なのかタイヤが減りまくります。
 ステージ1の70周は我慢して走り、ステージ2以降は約50周刻みの2ストップ戦略が中心。ステージ1ですら1ストップでギャンギャン攻めると案外得することもあり、とにかくタイヤが大事です。でも使用できるのは予選セットを含めて合計9セットなので、温存も考えないと大事な時に新品が無い可能性もあります。ちょびっと使っただけの中古は残しておいてもう1回どこかで使うのも場合によっては大事な作戦。
 現役ドライバーではカイル ブッシュが通算6勝で最多、デニー ハムリンが4勝、マーティン トゥルーエックス ジュニアが3勝となっており、ジョー ギブス レーシングが通算で18勝とカムリが強い印象のトラックです。決勝の平均順位でもカイルは現役最高の7.083、これにクリストファー ベル、ハムリン、ジョーイ ロガーノが続きます。トゥルーエックスは初めてここで勝つまではどちらかというとショート トラックで結果が出ていなかったので平均だと15.343で現役8番目の数字。ポールシッターの勝率はおよそ18%。

・レース前の話題

 複数のドライバーを起用するコウリッグ レーシングのNo.16。既にここまでA.J.アルメンディンガー、ジョッシュ ウイリアムス、デレック クラウス、シェイン バン ギスバーゲンが登場していますが、今週のレースを含めた5戦にタイ ディロンが起用されると新たに発表されました。昨年末あたりの段階では、スポンサー資金不足のコウリッグにとってディロンが有力な選択肢、とさえ報じられていた存在でしたが、やはり数戦は出番が回ってきました。

・Xfinity Series ToyotaCare 250

 20歳のパーカー レツラフが初のポールを獲得したエクスフィニティー、しかし39歳のエリック アルミローラがステージ1・2を連取して好調な走りを見せます。最終ステージに入るとチームメイトのチャンドラー スミスがアルミローラをかわしてリードを奪いますが、173周目に珍事発生。ジョーイ ゲイズがドーソン クラムに追突されてクラッシュ。運悪く後ろから壁に強烈に当たって車が中破しました。すると
ベリベリ

オルァア!

 とりあえず素手は危ないからやめた方が良いと思うんですが、壊れたパネルをクラムの車に投げつけました。こういう時だけニュースとしてNASCARの話題が日本のサイトにも掲載されたりして、この行為について今のところペナルティーが無いことが挙げられていますが、単にNASCARがカップ戦終了の2~3日後に全シリーズ分のペナルティーをまとめて公表する制度なのが理由、別に無罪放免ではありません。ゲイズには5000ドルの罰金処分が言い渡されました。正直2万ドルぐらいかと思ったので予想より安かったですw
 レースはこのコーションでタイヤを換えたかどうかが結果的に分かれ道でした。184周目のリスタートから残り67周はコーションが出ず、ステイ アウトを選択した人はタイヤがボロボロ。きっちりタイヤを換えたC.スミスが最終的にはアルミローラを4秒以上引き離してフェニックスに次ぐ今季2勝目、リッチモンドでは昨年に続き2連勝です。

 2位にアルミローラ、3位は19歳になったばかりでこれがデビュー戦だったテイラー グレイが続き、JGRが1-2-3フィニッシュを達成しました。また、普段は主にレイト モデルのレースで活躍するバッバ ポラードがJRモータースポーツから初めてエクスフィニティーに参戦し、37位スタートでなんと6位を記録しました。

 なお、エクスフィニティーは次戦からがダッシュ フォー キャッシュとなっています。スポット参戦の人は対象にならないので、このレースで対象ドライバーのうち上位4名だったC.スミス、アルミローラ、ジェシー ラブ、パーカー クリガーマンの4名が予選通過となり、このうち来週のマーティンズビルで最上位だった選手に最初の賞金10万ドルが与えられます。
 

・カップ シリーズ
 予選

 ブッシュ ライト ポールはラーソンが獲得。チームメイトのチェイス エリオットを0.002秒差で下しました。3位にロス チャステイン、4位はアレックス ボウマンとここまでシボレー勢で独占。5位はバッバ ウォーレス、6位にちょっとびっくりトッド ギリランド、トゥルーエックス、タイ ギブスと続きました。バイロンは13位からのスタート。

・ステージ1

 レース前に雨が降ったため開始時刻が予定より遅れたものの、雨天用タイヤのおかげでまだ乾ききっていない状況での開始が可能。20分ほど遅れただけで済んで東部時間19時30分ごろにスタートしました。既に他シリーズでは使用実績がありますが、カップシリーズではオールスターで一度使っただけなので、公式戦で雨用タイヤを使用するのはこれが史上初の歴史的出来事でした。


 スタートではエリオットが前に出ましたが、すぐにラーソンが抜き返すとそのまま独走。舗装の亀裂や壁際にはまだ水があるものの、それ以外の部分では早い段階でほとんど乾いてしまいました。NASCARは30周を終えたらコンペティション コーションとし、タイヤをスリックに交換すると発表。ピット内はまだ濡れていて危ないので、レインとスリックの交換は安全のためピット内で順位が変動しない非競争方式。ラーソンが1位、これにウォーレスが続いた状態でコンプ コーションとなります。
 
 タイヤ交換後スリックでも入念にコーション周回を重ねて49周目にリスタート。ラーソンとウォーレスが数周に渡ってドア トゥー ドアの並走を繰り広げ、もうちょっとでウォーレスが前に出れそうだったものをラーソンが耐えました。
ウォーレス惜しい!

 ステージ1は短いのでそのまま終盤となりますが、64周目にダニエル スアレスがジョッシュ ベリーに押されてスピン。ベリーは30位スタートから10位まで上げていたのでイケイケすぎて調子に乗ったのかなと思ったら、スアレスもブレーキングで中途半端にラインを変更してブロックしていたようなので、スアレスにも責任があるように見えました。これでステージ1はコーションのまま終了となり、ラーソンがステージ勝利。ウォーレス、ボウマン、トゥルーエックス、ロガーノと続きました。
 どうも今回のYouTube版は久々にテロップ追加がされていない素体仕様になってしまった模様で、映像を見ていても今何周目なのかがさっぱり分からない面倒な状況です。でも最大の謎は、この状況になった時にはたいていの場合『現地でのコマーシャル中に、コマーシャル明けに使う映像素材が先攻して一度流れる』という状況が発生することですね。あれはいったいどういう仕組みなんだw

・ステージ2

 ピットでの競争が復活しても引き続きラーソンとウォーレスの1列目でリスタート、今回はウォーレスが出足で滑ったのでラーソンがすぐに独走となります。このレースで難しいのは、ウエットから始まって路面が乾いていくのでどんどんグリップ力が上がり、しかも夜なので路面温度も下がってこれもグリップ力の向上に繋がり、でもタイヤの消耗はハゲしいので自分の側はどんどんグリップが落ちて、じゃあどこに合わせるんだ、というのが判断しにくいところだと思います。
 そのあたりは経験がモノを言う部分で、ウォーレスはちょっと車がタイトになってブレーキを使いすぎている様子、ややペースが落ちてきてトゥルーエックスが2位に浮上します。3位には引き続き速さを見せているベリー、こちらドライバーの経験は少な目ですがクルー チーフは経験豊富です。解説してるケビン ハービックが一番よく知っているでしょうw
 
 このあと122周目あたりからピット サイクルとなって大半の車は2ストップ戦略を採りますが、なんと別に無理する必要の無いラーソンが1ストップ戦略を実行、余裕故にあえてのお試し計画でしょうか。同じく1ストップを実行している2位ウォーレスに対しては差を広げているものの、2ストップ組の先頭・トゥルーエックスに対してどこまで耐えられえるのかは不透明です。
 ラーソンはとりあえずリーダーのまま150周目にピットに入り、ここから20周ぐらいは2ストップ組が見た目上の上位、今コーションが出たら1ストップ組は最悪です。とか書いてたら本当に170周目にコーション発生、ラインを外れたカイルがターン1で壁に当たりました。7人いたと思われる1ストップ組はしんどい思いをして順位を下げただけ、ラーソンとウォーレスはリードラップにいましたが、他の数名は周回遅れになったので大損となりました。
 カイルと言えば先週はベルとの接触についてレース後に怖い顔で文句を言いにいっていましたが、その後はベルが月曜日にカイルに電話。この時は電話に出なかったもののカイルはわざわざ折り返して話し合いの機会があったそうです。ベルとすると折り返しがあったことには少々驚いたようで一定の区切りは見えたような話、一方のカイルはというと取材に対して
「彼がトラック上で誤りを認めるまではもう少しの間激しくレースさせてもらうよ、そしたら普通に戻す。」
と、和解したのかしてないのか何とも言い難いカイル流の言い回しでベルへの対応を表現しました。まあ口ほどはたぶんもう怒ってなかったりするんじゃないですかね。なおカイルはこのレース20位でした。

 リード ラップ車両がピットに入り、トゥルーエックスとロガーノの1列目で178周目にリスタート、こうなるとトゥルーエックスの独走パターンです。テレビに映らないほどの独走でそのままステージ2を制しましたが、最後に盛り上がったのが周回遅れになるまいと粘るアレックス ボウマンとの争いでした。
 ボウマンは1ストップで大損し、仕方なくウエイブ アラウンドでリードラップに戻っていましたが、古いタイヤが災いして周回遅れ目前。リードラップ最後尾とフリー パスではリスタート順位が全然違うので耐えきりたいボウマン、でしたが鼻差でトゥルーエックスに抜かれてステージ終了、これでフリーパス扱いで次のリスタートは隊列後方が確定です。まあ周回遅れでリスタートするよりは遥かにマシなわけですが。
 ステージ順位はトゥルーエックス、ベリー、ロガーノ、ラーソン、ハムリン、ベルのトップ6でした。ベリーがむっちゃ頑張ってます。

・ファイナル ステージ

 ラーソンがピットで順位を上げたのでトゥルーエックス/ラーソンの並びでリスタート。普通に行ったら優勝はこのどっちかやろ、というトップ2がそのまま後続を引き離します。トゥルーエックスはまた画面に映らないぐらい逃げていく一方で、ラーソンの後ろには徐々にロガーノが接近。しかしそのロガーノをさらに勢いよくつついていたのがベルでした。予選は後方の29位でしたが、この人やっぱりレースに強いです。
 そんなことを言っている間に285周目あたりから1回目のピットサイクル到来、トゥルーエックスとラーソンは同時ピットで同じ2ストップ作戦を採り、ラーソン陣営は作業が早かったようでピット後は2台の差がほとんどなくなっていました。ベルはステージを限りなく3等分に近づけてタイヤの履歴差で勝負する方向性の作戦でしたが、残念ながらピット速度違反。終盤に追い上げてきて面白くなると思ったのに、楽しみが1つ減りました(´・ω・`)
 その代わり(?)ラーソンがここは頑張りました。さっきと違ってずっとトゥルーエックスの背後に付いたまま周回を重ねてそのまま2回目のピットサイクルへ。336周目に2台同時にピットに入ると、ラーソン陣営はトゥルーエックス陣営より0.8秒ほど速い作業時間でラーソンを送り出し、ピット出口でとうとう逆転します、ちょっと角が接触したけど。
 しかしそのまま負けているわけにはいかないトゥルーエックスは4周後にすぐさまラーソンをかわし実質的なリードを奪い返しました。まだレースは60周ほど残っているので、いきなりタイヤに大きな負荷をかけたことが後々響かないかが気になるところです。

 ところが実際に起きたのは反対の出来事、内圧の設定を見誤りでもしたのかラーソンのペースが全然上がらず、トゥルーエックスは一人で逃げていきました。ラーソンはロガーノに抜かれて3位に後退、クルーチーフから他のドライバーがどうしているかについて助言の情報を貰うものの、自分の車じゃ上手く行かん、ちと黙ってて、な状態。
 これでトゥルーエックス圧勝かと思ったら、こちらは周回遅れの壁に阻まれます。ロス チャステインを皮切りに多くの車が縦一列に繋がった集団が形成されており、クルーチーフからは「勝つためにはこいつらを抜かないといけないぞ」と発破をかけられますが「無理だ、ダウンフォースが無い」と乱気流の影響を受けて思うように走れない様子。その間に2位のロガーノが接近、そしてロガーノの背後には9周もタイヤが新しいハムリンが付いています。ベルが消えたと思ったらベルと同じ作戦で別の人が来ました。
 周回遅れに苦戦するトゥルーエックス、残り5周、でとうとうロガーノとの差は0.5秒となりますが、さすがにトゥルーエックスもここから先は簡単に立ち入らせず残りは2周。あとはロガーノが自爆攻撃をしかけてくるかどうか、というところでしたが

 なんとラーソンがスピンしてコーション発生。カップシリーズでは今年初のオーバータイム確定です。ラーソンはちょっと滑ってスロットルを戻したら後ろにいたウォーレスに引っかけられた感じですね。先週もこのパターンでベルにぶつけられてたような・・・^^;

 さすがにこのタイヤ消耗レースでステイアウトは危険すぎるのでリードラップ車両はピットへ。ここでトゥルーエックスの作業は会心とはいえず、ロガーノもそこそこで、そしてハムリンが会心でした。ハムリンがピットで逆転して先頭となります。ラーソンはスピンしてもうまく立て直して順位を2つ下げただけで済み、ピットで2つ上げたのでなんと元通りの4番手、一方ウォーレスは作業で大失敗して後退し即座にバチが当たってしまいました。
 ハムリンとトゥルーエックスの1列目でリスタートしたオーバータイム、なんかハムリンのリスタート早くね?と見ていて思いました。そんなハムリンを大外刈りしようと狙うトゥルーエックスですが出足で先行している相手を抜くのは難しく、逆にターン4の出口で抜群の立ち上がりを見せたロガーノが内側に並んできたので最終周に入った時点で優勝の芽がほぼ無くなります。
 2位になったロガーノですがさすがに突撃できる距離でも無く、そのままハムリンがチェッカーを受けて2週間前のブリストルに次ぐ今季2勝目、リッチモンドでは5勝目を挙げました。これでハムリンは2019年から6年連続でのシーズン複数勝利です。ロガーノ、ラーソン、トゥルーエックス、エリオットのトップ5。ベリーは11位、ウォーレスは13位でした。
 地元バージニア州出身のハムリン、優勝でさぞかし脚光を浴びるかと思いきや、観客と我々視聴者の注目を浴びたのは明らかに勝者のハムリンではなく敗者となったトゥルーエックスでした。最終周のターン1でラーソンと軽く接触したことに腹が立ったのか、バックストレッチで明らかに自分からぶつけに行くと
トゥルル「このやろ!」
ラーソン「なんで!?」

 喧嘩を売られたラーソンはフィニッシュ付近でお返しして壁にプレス、これでラーソンが3位、トゥルーエックスが4位という結果になります。
ラーソン「何すんねんお前!」

 さらにフィニッシュ後にも追加でぶつけてトゥルーエックスの車はまあまあボロボロになりました。しかしトゥルーエックスはボロボロでもまだ他に仕返ししたい相手がいたようで全力疾走
トゥルル「おい待てこのインチキ野郎!」

 パンクして真っ直ぐ走らない車でハムリンに突撃。どう見ても優勝したチームメイトを祝福、という感じではなく、むしろチームメイトだから手加減して軽めにぶつけてあげた、ぐらいの感じで後ろから3回ぶつけて去っていきました。レース中に放送席から「とてもフェアーなドライバー」と褒めてもらっていたのに、なかなかお目にかかれないレベルのブチ切れでした。おかげでハムリンの存在感はだいぶ小さくなった気がします。


 トゥルーエックスからすると、そもそも自分が勝てるはずが実質のチームメイトのしょうもない接触がきっかけでコーションとなって台無しにされ、ピットで逆転され、挙句ハムリンがリスタートでルールを守らなかった疑いを抱えながら外から抜きにいったら寄せられ、さらにラーソンと接触したので完全に切れてしまったと思われます。トヨタ陣営の『チームメイトが勝ちそうな時にしょうもないコーション出すな案件』って前もありましたよねえw

・リスタートは合法だったのか?

 トゥルーエックスがキレる要因となり、私も映像を見ておや?と思ったハムリンのリスタート。NASCARの競技部門担当上級副社長・エルトン ソイヤーは2日後のラジオ番組で

「バン バン コール(物事が起こって、それに対して瞬時に対応が求められる状況)ですよ。日曜日の夜だけでなく昨日も何度も見る機会がありましたが、何よりもまず、11番がコントロール車両です。彼らはその地位に就く権利を獲得しました。 彼らはピットでの戦いに勝利し、リスタートをコントロールできる立場にありました。 そして昨日何度も見ましたが、彼が早めに飛び出したのは間違いありません。」

と、長い前置きをした後にはっきりとハムリンのリスタートが規則に反した早いものであることを認めました。その上で

「繰り返しますが、レースの終わりにはバンバンコールです。 私たちは生のスポーツ イベントであり、タイムアウトをとってサイドラインに行って確認し、決定を下すということはできません。これが10周目、50周目、あるいは300周目で起こっていたら、判断は違っていたかもしれません。 もし私が競技者だったら、毎週そのゲームをプレイすることはないでしょう。 時には自分に有利な連絡が来ることもありますし、そうでないこともあるでしょう。」

と説明。リスタートに関しては疑義があればNASCARは常に調査し、問題があった場合にはペナルティーを課していますが、オーバータイムではレースが終わるまでの短い時間に調査はできず、それをやるとチェッカー後に順位を変えることになってしまうので現実的にできない、そんなに頻繁に起こることじゃないでしょ、とまあこういうことになります。トゥルーエックスからしたら益々納得いかない話かもしれませんね。

 おそらくオーバータイムのリスタートに関して微妙な早い遅いの話自体は現場では今回が初めてというわけでも無いとは思うんですが、明確に大きな話になったのは私が見てきた範囲では初めてのような気がします。そこに対して運営側が上記のように言ってしまったのは結構大きな出来事で、かつちょっとマズいんじゃないかとも思いました。
 2年前のチャステイン壁走り事件とか、かつてのハービック自爆強制終了事件とか、規則に書かれていない、想定していない事象で起こる出来事をどう処理するかというのはモータースポーツ界ではまあまああることですが、今回の場合は規則でリスタートについてきちんと合法と違法の線引きがされており、線を超えていることが分かっているわけですから事情がちょっと異なる話です。
 結構大きな出来事だと思ったのはNASCAR側も同様だったようで、ロード&トラックというサイトによると、NASCARの広報担当者は同サイトの取材に対し

「1周目から400周目まで同様に審判を行います。それが目標です。しかし、ペナルティーの見直しが必要とある可能性があり、ショートトラックで残り2周でそれを行う場合緊迫感は非常に高く、『10周目や50周目、300周目』よりもはるかに高くなります。レースの早い段階では判断が変わるという意味ではありません。 しかし、複数の角度やSMTデータなどを検証する時間はもっとあるでしょう。
 レース終盤で重要度が高いとき、誰かから勝利を奪うことは明らかにかなりの懲罰です。私たちは勝利を奪うという自分たちの決断に100%の自信を持つ必要があります。 日曜日の夜のレース コントロールでは、私たちはそれが正しい判断であると感じ、それを支持しました。 36時間の検証のおかげで、11番が早く動いたことが明らかになりました。」

と回答したとのこと。つまりソイヤーの言いたかったことは『オーバータイムは見れないから仕方ないじゃん』ではなく『オーバータイムともなるとペナルティー=優勝剥奪になるので、本当にその違反が優勝剥奪に値するほどの問題だったのか、より慎重に見る必要がある』と言いたかったんだ、という釈明になるかなと思います。あくまでこうした記事を読んだだけの印象ですが、ちょっと苦しいですね。

 日欧のレースの尺度で考えると、たとえばチェッカー間際にFCYが出て、1位の車が再開時にちょっとだけ加速が早くて速度違反の疑いがありました、ちょっと調査に時間がかかります、となった時に『まあ違反があってもなくても優勝には変わりないだろうし今回は問題なし』という結論にはならないので、ここは根本的にNASCARなりの運営手法だと思うんですが、それはそれとして個人的な邪推ですが、ここには先週のCoTAでの話も多少影響しているのではないかと思います。
 CoTAではコース外走行に対するペナルティーが3シリーズ全てで多数出されました。Racing Reference.info のデータを参考にすると合計40回も出されています。エクスフィニティーではステージ2勝者と思われたブレンダン ジョーンズがステージ最終周にコース外を走ったとしてステージ勝利取り消し、壮絶な殴り合いの末に2位でチェッカーを受けたシェイン バン ギスバーゲンもタイム加算で2位を没収されました。あまりにペナルティーの数が多かったので、ここでもNASCARは説明を迫られていました。
♪デデーン ジョーンズ、アウト~

 そんな翌週のレースで優勝したと思ったドライバーがリスタート違反で降格になりました、とは後から言うわけにもいかないし前例もない、けど違反していませんと嘘も言えない、という中で上記のソイヤーの説明に繋がってしまい、いざ説明したら『オーバータイムは違反しても良い』と捉えられかねない内容だったので余計に問題が悪化してしまった、そんな流れに私には見えてしまいました。あくまでこれは私の感想です。

 ソイヤーの発言を訂正したところで、広報さんの説明でも『オーバータイムでのリスタート違反に罰則を与えるかはレースコントロールの裁量』だということに変わりはないので、リーダーがしょっぴかれる危険を冒してまでフライングする必要性のある場面がどのぐらいあるか、という問題はさておき今後もドライバーによる駆け引きは残るでしょう。ひょっとしたらペナルティーの出る出ないの話がまた再燃する可能性もあるかもしれません。その場合担当者は『リスタート違反が優勝に影響した(しなかった)理由』をある程度合理的に説明する義務が出てきますので、NASCARは難しい道を選んだと言えます。車両規定違反と同様にレース後にしょっぴいても別に構わないわけですからね。

 リスタート違反の話に尺を割いてしまいましたが、トゥルーエックスは常に良い車で優勝に相応しかったですし、ステージ2で1ピットに挑戦したラーソンも、このレースだけを考えたら正直やる意味はほとんど無いと思うんですが、長いシーズンを考えるとそういう引き出しを用意するのもアリかもしれないので面白い取り組みだったと思います。できたらコーションが出ずに2ストップとどっちが速かったのか結末を見たかったですね。
 ハムリンは本当にクルーの作業の早さに尽きると思いますが、わりとよくやるタイヤの履歴差を作って後半に勝負する作戦できっちりと戦える位置まで持って行った、というのも前段階としてもちろん重要な要素でした。地元バージニア州でもやっぱりちょっとブーイングがある上に、次戦以降は絶対さらにブーイング増量になるだろうなと思うとなんかちょっと笑えてきてしまいます。
 トゥルーエックスがキレたのは、ウォーレスのしょうもないミスとハムリンの反則リスタートまではまあ分かるんですが、ラーソンとの接触はむしろ自分が被せてラーソンには行き場が無かったように思うので、その後に外に多少追いやられていたとしてもちょっと八つ当たりに近かったと思います。どうせやるならかつてのハムリンを真似してレース後にドーナツを阻止しに行く方が好感度高かったと思いますねw
ハムリン「おおっとそうはさせねえぜ」


 レース後に関して言えば、序盤に接触したベリーとスアレスも何かしら言葉を交わしていた模様。またウォーレスもインタビュー中のラーソンのもとへ自分から訪ねて行きましたが、こっちは「すまん、わざとちゃうねんで」ぐらいの軽い会話でお互いに理解し合って解散。ラーソンは結局コーション前より順位を上げて終わることができ、しかもウォーレスは既にタイヤ交換失敗という神の裁きを受けてラーソンから見ると「ザマアw」案件だったので、なんか穏やかでした。

 雨天用タイヤ、バンパー投げ、MTJ暴走とある意味非常に歴史に残るリッチモンドでございました、ごちそうさまでした、お腹いっぱいです。次戦はもういっちょショートトラック、0.5マイルのマーティンズビルです。

コメント

日日不穏日記 さんの投稿…
最初からレインタイヤ装着、最終盤にトゥレックスにロガーノは迫ったものの、ハムリンは届かずという状況が、最後の最後でオーバータイム。ピットの神作業でトップに出たハムリンが逃げ切り。ロガーノはオーバータイムがなければ、特攻?でヒヤヒヤしたんですが、フライングっぽかったのには気づきませんでした。2013年のどこかで、ジミー・ジョンソンがペナルティを食らった覚えはあるんですが。
ま、ラーソンは得をし、トゥレックスは散々でした。単年度契約なので、勝って欲しかったんですが・・・運がないですね。ケセロウスキーとブッシャーは、結構良いところ走ってます。スポンサーに逃げられっぱなしのスチュワートは勝てそうにないので、RFKの2人とペンスキーの2人、<ロガーノ含めて>のフォードの4人に期待したいと思います。カイルに関してはノーコメントです。
SCfromLA さんの投稿…
>日日不穏日記さん

 RFKは終わってみたら2人ともトップ10ですから、特にブッシャーは地味なレースやらせると強い印象ありますね。SHRは今回ベリーががんばったものの、ここ数年の恒例とはいえ体制縮小の噂が出ています。大口スポンサーの抜けっぷりを見ると今回は本当にありそうな予感。。。
 カイルは、というかRCRはどうも組織としてバタついててまた今週末からディロンのクルーチーフが代わったりとか体制を変えているので、去年序盤のあの古豪復活感は一体どこ行ったんだろうと思ってしまいますね。カイルも上手く行ってないけどカイルだけの問題ではどうも無さそうに見えます。
アールグレイ さんの投稿…
ハムリンはいろいろあったとはいえザ クラッシュも入れたら今シーズンのショートトラックはもう3勝目ですか。
自分の中ではポコノーやダーリントンがハムリンの得意としているトラックなイメージがありましたが、調べてみるとブリストル4勝、マーティンズビル4勝、リッチモンド5勝とショートトラックも強いドライバーなんですね。
これで余程のことがない限り早くもプレーオフ進出は確実にしたと思うので、あとは「アレ」だけですね。

そして地味に今回は全車完走しているんですね。
スタードアンドパークがあった10年ちょっとぐらい前までは、まずありえないことだったので、全員真剣に参加しているんだなと。
(Racing-Refernceでスタートアンドパークだと思われるドライバーのリタイヤ理由がブレーキやバイブレーションと書いてあるのを見ると、10周~15周でそんなすぐに本当に壊れるものなのか?といつも思っていましたw)
SCfromLA さんの投稿…
>アールグレイさん

 F1で可夢偉がケータハムにいた時のたしかロシアGPだったと思いますけど、レースの中盤に「プランBで行くぞ」と言われた直後に突然リタイアし、解説の川井ちゃんが「Bはブレーキのせいにしてやろうぜか?」と皮肉ったギャグを放ったことを思い出しましたw
 ハムリンは私の場合、見ている時代のせいもあって「バージニア出身で地元のショートトラックで強い」という印象がけっこう強いですね。ポコノーもダーリントンも全部ブレーキが大事な場所でロードコースもそこそこ速い、となるとたぶんブレーキの技術が共通項かなあと思っています。ちょっとSNSで場外乱闘になったみたいですけど^^;