フォーミュラE 第8戦 モナコ

ABB FIA Formula E World Championship
2024 Monaco E-Prix
Circuit de Monaco 3.337km×29Laps=96.773km
※規定により31周に延長
Race energy:38.5kWh
winner:Mitch Evans(Jaguar TCS Racing/Jaguar I-Type6)

 フォーミュラEはシーズン10の折り返しに到達、第8戦はモナコです。この先の日程を見ると、空港を走るベルリン、常設サーキットの上海とポートランド、そして展示施設とその外周道路を使うロンドン、と続きますので本当の意味での"市街地"となるのはこのモナコが今シーズン最後と言えるかもしれません。お馴染みのモナコ市街地サーキットを、昨年と同じ29周/38.5kWhの設定で走ります。昨年と違うのはアタックモードの時間が4分ではなく8分であることぐらいでしょうか。
 ちなみに去年のレースはというと、予選ではデュエルスの決勝にサッシャ フェネストラズとジェイク ヒューズが進出。ヒューズはミスってシケイン不通過でタイム無効、対するフェネストラズは出力スパイクが発生して瞬間的に350kW以上出てしまう規則違反で走行自体が無効となり、『タイム無し vs 無効 でタイム無しの勝ち』という謎の結末によりポールが決定。
 決勝は予選の10秒落ちペースのお先どうぞな猛烈節約レースになりましたが、レース終盤に出たSCで節約の必要性が薄れて急に攻撃的なレースになり、ニック キャシディーが優勝しました。ちなみにこういう集団で走るレースの事を自転車競技では『ペロトン スタイル』と呼ぶそうで(ペロトンはフランス語で小隊を意味する)、フォーミュラEでも節約のために集団で相手に風よけを押し付けるようなレースの事を以前からThe Raceは『ペロトンスタイル』と表現しています。国際映像でも使われ始めたので、私も今後多用しようと思いますw

・Gen3 Evo 発表

 来シーズンから使用される通称Gen3 Evoと呼ばれる車両が発表されました。Gen3もモナコでの発表だったので、やっぱりここは宣伝するには注目度的にも時期的にも良いイベントなんでしょうね。現在は減速時の回生用に使用されているフロントのMGUがEvoでは力行にも使用可能となって四輪駆動となり、タイヤも新型となってグリップ力が向上。
 運営側によれば0-60mph加速ではF1を凌ぐ1.82秒という驚異的な加速力になるとしています。四輪駆動は予選のデュエルス、決勝のスタート時、アタックモードで使用可能と発表されています。最高出力は変わらないので、高出力モードの350kWにした際に追加の50kWをフロントから得るってことでしょうかね。今回デイビッド クルサードが早速モナコ市街地での試乗を行って大興奮だったようです。



 主に空気抵抗を減らすことを目的にフロント ウイングの形状が変更され、スパークによると適度に強度を上げて壊れにくくした上で、抵抗を減らすことで過度に相手の後ろに付いてエナジー使用量を削減できないように図られているとのことです。現在のウイングの形状は直線的な部材の組み合わせで、なんと言うか小学生が夏休みの工作で作りやすそうな形状ですが、これがややGen1後期型に似た翼端処理になりましたね。
 なお、未だに実戦投入できていないレース中の急速充電ですが、運営の発表では『現在開発中の新しい技術開発で、レース中に30秒間・出力600kwでの超急速充電』ができる技術も盛り込まれるとのこと。超急速充電の前にまず普通の急速充電してよ、という話ですが、単純計算で30秒間に5kWhの充電が可能ということになり、現行規定では30秒で3.85kWhの充電をする(しなければならない)規定なので3割増しぐらいになります。回生ブレーキの最高出力が600kWなので車両として耐えられる設計がおそらく現状ここまでなんでしょうね。


・FP1

 なんとなく不運なことが多いサム バード、セッション残り10分弱というところでターン1でほとんどブレーキが利かずに直進し、ステアリングを握った状態でちょっと固そうな壁に当たってしまいました。これで手を骨折してしまい、以降のセッションに出場できないので代走でテイラー バーナードが出場することになりました。ちょうどミザノの新人テストに出場したばかりですが、いきなり出番が回ってきました。バードの骨折はシーズン8のロンドンに続いてフォーミュラEで2度目です(T T)

・グループ予選

 A組はまだまだ走っているうちに路面状況が良くなっているようでチェッカーを受けるまで結果が読めないセッションでした。最速はFP1、FP2とも最速だったミッチ エバンス、2位にパスカル ベアライン、3位マキシミリアン グンター、そして4位にアントニオ フェリックス ダ コスタが入りました。FP1、2ともエバンスに次ぐ2位だったロビン フラインスは僅か0.002秒差で5位となりデュエルス進出を逃します。ニコ ミュラーも久々にデュエルスに出られませんでした。

 続くB組、今回いわゆるJPSカラーに似せて黒/金の特別スキームで走るDSペンスキーが快調で、ストフェル バンドーンがさっきのエバンスよりも0.1秒ほど速いタイムで1位通過、ジャン エリック ベルニュも4位でデュエルスへ。そしてジャガーのニック キャシディー、エンビジョンのセバスチャン ブエミが2位・3位だったので、デュエルスの全8人中ジャガー勢とステランティス勢がそれぞれ3人ずつ、そしてポルシェから2人となりました。ほぼぶっつけのバーナードはさすがに勝負にならないタイムで11位でした。
JPSっぽいやつ

・デュエルス

 ジャガーによる1列目独占も視野に入っていたデュエルスでしたが、準決勝でエバンスがヌーベル シケイン、キャシディーもプール横シケインでミスってしまいいずれも敗北。2列目を独占しました。デュエルス決勝はベアラインvsバンドーンとなります。
 しかし多くのドライバーが1分29秒台で勝ち進む中、バンドーンは30秒を切れずにここに来たのでベアラインに対抗するのは難しく、結局ここもバンドーンは1分30秒304、ベアラインは1分29秒861を記録し今季3度目のジュリアス ベア ポール ポジションを獲得しました。

 ちなみに昨年のポールタイム、、、は上記の通り誰も記録してませんが、デュエルスのタイムは概ね29秒前半、フェネストラズは28.773を出していたので今年は昨年比1秒近く遅くなりました。昨年より気温が2~3℃低く路面温度は10℃以上低かったので、タイヤに熱が入りにくかったかもしれません。ただあの晴天で路面温度が気温よりも低い16℃というのはちょっと怪しい数字な気もしましたが。
 スタート順位はベアライン、バンドーン、キャシディー、エバンス、ベルニュ、ブエミ、ダコスタ、グンターとなります。選手権2位につけるジェイク デニスは18位、ミザノで痛恨の電欠に見舞われたオリバー ローランドも15位と予選で苦労しました。

・決勝

 スタートではキャシディーがやや空転してしまい、エバンスが外から抜いてジャガー内で順位に変動。中団でニック デ フリースがウイングを壊した以外そんなに大きな混乱もなく抜けました。

 3周目、リーダーのベアラインがまず自分から動いてアタックモードへ行きますが、ちょっと飛ばして空間を作ったにもかかわらず案外順位を下げてしまって4位に落ちます。いや、4位ぐらいが良い塩梅だという計算の下で動いたかもしれないのでこれだけではまだ分かりません、このレース深読みしていなかいと油断できないw
 しかしペロトンスタイルの恐ろしさはここからでした。今年も予選の10秒以上落ちというめちゃくちゃ遅いペースなので詰まり放題の並び放題。3周目の最終コーナーあたりでノーマン ナトーが接触によりウイングを落とすと、続く4周目のヘアピンではセルジオ セッテ カマラが強引に内側に突っ込んだせいで3ワイドが発生。当然曲がれるはずもなく隣にいたブエミに接触し、これでヘアピンを曲がりきれなくなったブエミに道を塞がれてダコスタが停止するしかなくなりました。

 さらにエドアルド モルターラがプール横シケインでほとんど減速できずにまっすぐテクプロ バリアに突っ込んで大量の破片が散乱し、バリアの位置もちょっと動いてしまったのでSC導入となりました。モルターラは幸い無事でした。そしてSCが宣言された直後のヘアピンでも急な減速に対応できず、ジェイク ヒューズが前方に追突してウイングを自ら破壊、これで緊急ピットとなります。もうSC中ですら油断できんw
 モルターラが壁に刺さってからSCが出るまでには少し間があったので、SC宣言前にリーダーのバンドーンは後続を引き離してアタックを取り1位のままの消化に成功。リスタート順位はバンドーン、エバンス、キャシディー、ベルニュ、ベアラインとなりました。

 9周目にリスタートすると、キャシディーは明らかにエバンスと間隔を開けており、リスタート後すぐエバンスをアタックに入れさせるためのチーム戦略かと思ったらそのまま通過。むしろエバンスはバンドーンに対して猛攻撃をしかけておりコース上で抜こうとする動きを見せますが、残念ながら抜くことができません。その後キャシディーもすぐに間合いを詰めたのでエバンスがタダでアタックを使う空間は無くなりました。
 すると逆に、翌周にバンドーンが早くも2回目のアタックに入りますが、ここでバンドーンはエバンスだけでなくキャシディーにも抜かれてしまいます。これを受けてジャガーは次の任務へと移行、キャシディーがバンドーンを明らかに抑え込んでエバンスを逃がし、11周目にエバンスが1回目のアタック、さらに13周目にダブル アタックを行いました。エバンスは2回のアタックを1つの順位も失うことなく完了させ、キャシディーがめっちゃ仕事しました。


 するとジャガーの戦略は次の段階へ、14周目に入るところで2人を入れ替えて今度はエバンスを蓋役に任命しキャシディーが逃げます。エバンスはさっき速く走った代償に節約が必要ですから後ろを抑えるのは楽ではないんですが、何せアタック中なので最悪抜かれそうになったらエナジー消費と引き換えに350kWの出力で引き離すことが可能、ジャガーさんの戦略は鉄壁です。
 キャシディーも当然ダブルアタックを行い、そして事前に取り決めていた指示通りでしょうが、そのままミラボーでエバンスに順位を譲って2位に戻りました。3位、4位もバンドーンとベルニュがDSの2人で並んで走ってはいるものの、こんだけ自由にジャガーにやられたらなかなか打つ手が無さそうです。

 22周目、気づけば1位からジャガー、DS、ポルシェ、日産がチームごとに綺麗に2台並んで集まりました。キャシディーとすると自分の選手権を考えたら勝ちたいところだと思うんですが、とにかくチームとして動くことに賛同しているようでチーム内での争いは起こらない様子、こうなるとDSの2人も付け入る隙がありません。
 走っている方も当然それは同じ感覚のようで、4位を走るベルニュは「このままでええんか?何かやろうや。」と無線でチームに促しますが、エンジニアは「入れ替えるとリスクがあるから。」とお断り。これにはベルニュも「あーそうですか。」ぐらいの残念そうな反応でした。
 ところがレースは外的要因で変化しました、25周目のラスカスでミュラーが追突を食らってサスペンションを壊し、車がガードレールの方を向いたまま動けなくなったので本日2度目のSCとなります。もうレースの延長には影響しない周回数なので、エナジー的には楽になりました、逆から言うとここから本気レースです。

 27周目にリスタート、通常の周回数で言えば残り3周ですが、ここに2周が追加されて残り5周となりました。20周使ったタイヤでグループ予選の1.5秒落ちぐらいの速さ、リフト&コーストも一部のターンでせいぜい数十メートルという具合でほぼ全力になっており、車の自力がそのまま速さに繋がってジャガーが2人でぶっちぎっていきました。こうなるともうDSは作戦も何もあったもんじゃないですね。
 そのままレースはエバンスがトップでチェッカー、約1秒差で2位にキャシディーが入り、最強の仲良しニュージーランド人コンビがワンツーフィニッシュを果たしました。エバンスはこれが通算11勝目、モナコでは初勝利。昨年のモナコではエンビジョン所属だったキャシディーに敗れましたが、今年はチームメイトとしてやり返しました。


 3位からバンドーン、ベルニュ、ベアライン、そしてローランドがポルシェの一角を崩して6位に入りました。グリッド紹介映像や公式サイトに写真すらないバーナードは14位で完走、デニスはレース序盤に接触でウイングを壊し、19位で何も持ち帰ることができませんでした。
 この結果、ドライバー選手権1位は変わらずベアラインですが、2位には7点差でキャシディーが浮上。3位に13点差でデニス、4位は14点差でローランドとなりました。勝ったエバンスはレース前の7位から5位に浮上しましたが、ベアラインからは25点差です。


 ジャガーのチーム戦が光ったレースでした。事後情報によると、キャシディーはスタートでエバンスに前に出られると冷静にこの位置関係のままチームとして1位・2位になることを自ら考えたとのこと。選手権でチームメイトよりも上位にいて、しかもここ数戦取りこぼしが多くてポイントで追う立場に回った、という経緯を考えると普通なら「俺が前なのに!」となりそうですが、チームメイト間での信頼関係がそういう考えを起こさせなかったようです。
 ジャガーにとっては、まずベアラインがアタックで順位を4位まで下げたことが最初のポイントでした。そのままレースが普通に進んでいたらベアラインのペースで進んだのかもしれませんが、その後のSCとバンドーンの無料アタック消化により、ポルシェは行動が裏目に出てしまって取り返す余地が無くなっていきました。
 そして、これはThe Raceの記事を読んで驚いたことですが、SC後のリスタートからエバンスはバンドーンを狙っていき、しかしバンドーンも全力で阻止したので抜けませんでした。で、10周目のターン1を過ぎたあたりで、エバンスは一転して追いかけるのをやめて少し空間を作りました。バンドーンはここぞとばかりに2回目のアタックを取りにいくわけですが、そこまでの差が付いていなかったのでエバンスだけでなくギリギリでキャシディーもバンドーンの前に出ることに成功し、この瞬間にDSは詰みました。詰んだせいか、YouTubeの公式ダイジェスト映像はこの場面の後にいきなり最終周になっていましたw
 キャシディーは実は無線で少し不具合を抱えていて、チームとの連携に多少の問題が生じていたそうです。ディリーヤでも同様のことがあり、この時は連絡がうまくとれないことでチーム戦略が多少チグハグになってたんですが、今回はニュータイプかと思うぐらいにお互いが走りながら意思疎通できていたようで、車の仕上がりも良いし作戦も良いし足りない部分は選手が自分で考えているし、これ以上ない完璧なレースになっていました。数年に一度と言っても過言ではないと思います。ましてやそれで推しのエバンスがモナコで勝ったんですから私は大満足です。

 やっぱりフォーミュラEでもモナコにはどことなく特別感が漂うなあ、と1戦しかないことに少しの名残惜しさを感じながら、次戦はWECとの重複で複数のレギュラー選手がいないベルリン2連戦へと向かいます。今年はサーキットの形状が変更されるので、また少し新しい印象のレースとなる模様です。

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