F1 第2戦 サウジアラビア

Formula 1 STC Saudi Arabian Grand Prix
Jeddah Corniche Circuit 6.174km×50Laps=308.45km
winner:Max Verstappen(Oracle Red Bull Racing/Red Bull Racing RB20-Honda RBPT)

 史上最多の年間24戦と4年に一度のうるう年と中東開催とラマダーンが重なったためにシーズン最初の走行が2月29日とえらく早い今年のF1、第2戦は2週連続開催のサウジアラビア。日本時間的には土曜日の深夜に決勝なので夜更かししても次の日は休み、録画しても日曜日の昼間に見られる、ということでむしろヨーロッパの日曜日昼間よりも楽な気すらしましたねw


・レース前の話題

 昨年の途中にチームと会社での方向性の違いからチーム代表が解任され、ちょっとゴタゴタした状態でチームを再編中のアルピーヌ。そのゴタゴタの余波なのか開幕戦は予選から低迷してへたすると一番遅い車にすらなりかねない状況で、いきなりテクニカル ディレクター、空力開発責任者がチームを離れた模様だとの情報が流れ、さらにエンジニアも1名離脱してアストン マーティンが早速引き抜いたことまで明らかになりました。
 大きな変革の前に低迷や混沌の時期が存在することも当然必要な課程ではあるんですが、ここの場合そもそもお金を注ぎ込んでいない中で結果だけはさっさと出せ、というような根本的な無理が存在するだけに、現場の人も付いて行けずに会社側から降りてきた首脳陣が空回りしている様子が頭に浮かびます。

・サインツ、急遽欠場

 この週末が始まる前から体調が悪かったというサインツ。ハミルトンの加入が発表されて在籍が今季限りなので将来が心配でお腹が痛かった、、、わけもなく、金曜日になって虫垂炎で手術をしないといけない、ということが決まって急遽FP3から不在になってしまい、代役として18歳のオリバー ベアマンが登場。
サインツ様が見てる


 2021年にドイツとイタリアのF4選手権に参戦して両方でチャンピオン、フェラーリの育成ドライバーに選ばれ、2022年はFIA F3で年間3位、昨年はFIA F2で年間6位と結果を出してきました。18歳でのF1デビューはフェルスタッペン、ストロールに次ぐ3番目の年少記録です。でもいくら活躍しても来年このチームには席が無く、ザウバーはアウディーの傘下になるからもう受け皿にならず、あとはハースか、ひょっとしてレッドブルが強引な引き抜きか!?w
 なおFP3では周 冠宇がクラッシュして派手に車を壊してしまい、スタッフさんが大急ぎで修理作業をすることになりました。

・予選

 ジョウ無念、必死の修復作業でなんとかQ1終了間際にコースに送り出してもらえたものの、あと数秒足りなくてアタックに入る前にチェッカーを受けてしまいました。
 Q2ではフェルスタッペン、ルクレール、アロンソの3人が0.1秒以内の大接戦だったのでポール争いに期待が持たれましたが、Q3最初のアタックでフェルスタッペンがセクター1を通過した瞬間にそれは希望的観測であることを悟ります。後続を圧倒的に引き離す1分27秒472を記録すると、2回目のアタックで各車が記録を伸ばしてもなお0.3秒以上の大差が付いていました。
 フェルスタッペンが開幕2連続ポール、2位にルクレール、3位ペレス。かなり良さそうに見えたアロンソが4位で、この2位から4位は0.055秒差だったのでフェルスタッペンがいなかったら大激戦のポール争いでした。正直セクター1のタイムに差がありすぎて、たぶん他のドライバーからすると『好きなだけ車壊してもいいよ』と言われても怖くてそんなに攻められない、そんな領域じゃないかと思いますし、フェルスタッペン自身もたぶんそんなに毎回はできない走りだったのではないかと思います。
映ってるのはペレスの車

 ピアストリ、ノリス、ラッセル、ハミルトンと前戦と似たような顔ぶれが3列目以降に並び、先週はレース後に大暴れだった角田が9位に入りました。代走のベアマンはタイヤをどう準備するかという部分で経験の差が出てなかなかセクター1でまとまらない様子、Q2で脱落して11位でしたがじゅうぶんな走りだったように見えました。FP2を走ってないので夜のこのコースで練習してないですしね^^;

・決勝

 タイヤは上位10人を含む合計18人がミディアムを選択。ベアマンは初めてのレースということもあってかソフトでのスタートです、上位勢は気にならないですが近くの順位の人は下手すると想定している展開に影響するかもしれないので気になる存在かもしれませんね。
 スタートではペレスの蹴り出しがよく、ルクレールは粘ってなんとか2位を守ったもののちょうどフェルスタッペンの露払いになりました。今年から2周目にDRSが使用可能になりますが、このおかげで既に1秒以上の差になっています。ノリスはうっかりスタート前に車が動いてしまってジャンプ スタートの嫌疑をかけられますが、すぐに停止してセンサーの範囲内から改めて発進したのでお咎めなしとなりました。
 後方ではピエール ガスリーがギアボックスの問題を訴え、とりあえずグリッドについてスタートはしたものの1周でリタイア、開幕戦は全員完走したので今年のリタイア第1号です。第1リタイア賞として何か商品あげられませんかね、森下仁丹商品詰め合わせとか。


 4周目にペレスがルクレールを抜いたぐらいで上位はある程度落ち着いてしまい、映像はストロール、角田、ベアマンの9位争いに集中。角田はストロールのDRSを失うと後続からカモにされそうだなあと思っていると6周目のターン22、空撮映像の画面右端でストロールがクラッシュ。内壁にぶつけてサスペンションを折ってしまって曲がれず壁に突っ込みました。エンジニアから「戻れるか?」と聞かれ「無理だ、壁に刺さってるから」というやりとりがなんとも言えませんでしたね、どう見ても無理っぽくてもやっぱり一応確認はするものなんでしょうか^^;
 これでSC導入となったのでピットは大騒ぎ、多くのドライバーがミディアムを捨ててハードへと交換し本日のピット作業は終了です。10周目にステイ アウトしたノリスを先頭にリスタート、フェルスタッペンは2位、ステイアウトのハミルトンが3位。先が長いのでフェルスタッペンは慌てることなく13周目にノリスを抜いて再びリーダーへ。

 
 この後フェルスタッペンは時々ファステストを更新しながら独走、2位のペレスは先程のピットで危険な発進により5秒加算ペナルティーを受けたものの、後ろとの差があるので実質無効化されてルクレールは単独の3位という状況でテレビに映らなくなります。
 そんな時間帯に撮れ高を提供したのはまたもや角田とその周辺でした。12位のマグヌッセンが後続の壁になって角田以降が捕まる状況となり、角田は17周目に一旦前に出たものの、マグヌッセンはターン4で閉めている内側に無理に入り込んで、その先でコース外にはみ出しながらも順位を奪い返します。
 マグヌッセンはリスタート直後にアレクサンダー アルボンを壁に追いやった件で既に10秒加算のペナルティーを受けていましたが、今度はコース外を使って順位を得たのでさらに10秒。しかしマグヌッセンの狙いはもう自分の順位ではなく、10位を走っていてまだタイヤを換えていないチームメイト・ヒュルケンベルグを援護すること。11位のジョウも同じく未交換のため、ヒュルケンベルグとマグヌッセンの差が約20秒になれば事実上順位を下げることなくタイヤを換えることができてしまいます。
 この後25周目に角田は一瞬先攻するも抜き返されると、29周目は直線の間に抜き切ってターン1をブロックしこれでようやく、と思ったらコース外走行上等な感じでマグヌッセンは外へ並びかけ、切り返しのターン2で角田を壁際に追いやって順位を守りました。前の人より秒単位で遅いのでヒュルケンベルグはあっという間にフリー ストップの状況。33周目にピットに入って実質タダでタイヤを換えました。


 逆に角田は押し出し行為の影響で順位を下げてしまい最終的に14位でチェッカー。しかし決勝前のレコノサンスに向かう際に危険な発進をしたことで5秒加算のペナルティーを食らい、正式結果は15位でした。中継が始まってすぐの出来事でしたねえ、これはチームの責任。くれぐれもレース後に車をぶつけに行くのはやめましょう、やるなら車を降りてから素手です☆

 レース終盤は、SC時にタイヤを換えなかったノリスとハミルトンがソフトに交換して7位のベアマンを追いかけるのが見所でしたが、ベアマンは非常に落ち着いて良い走りをしていてノリスも全然追いつかず。
 優勝は本日もフェルスタッペン、最終周はハミルトンがソフトを履いて38周目に記録したファステストを塗り替えに行きましたが届かず。でもまあ大した話ではなく、これで昨年から年を跨いで9連勝、昨年自分が樹立した10連勝の記録にあと1つと迫りました。このまま勝ち続けると新記録の11連勝目になるのは、、、うわ日本GPだw ちなみに開幕2連勝は自身初。2位にペレス、そしてルクレールが最後にファステストを更新し意地の1点を獲りました。


 ピアストリ、アロンソ、ラッセルと続き、7位にベアマンが入賞。デビュー戦で入賞したドライバーはF1史上68人目なのでそんなに珍しくも無いですが、イギリス人ドライバーとしては2011年のポール ディ レスタ以来。滅多に新人を使わないフェラーリ、今回のベアマンでフェラーリからF1デビューを果たしたドライバーは4人連続のデビュー戦入賞を達成。前回は1972年のアルトゥロ メルツァリオで、その前は1970年にクレイ レガッツォーニとイニャツィオ ジュンティーが記録しています。てことは半世紀にわたってフェラーリは完全な新人さんがいなかったんですね( ゚Д゚)


 今回のレース、レッドブルを誰も止められそうにないことが再確認されましたが、それよりもペナルティーのあり方について再確認させられるレースだったと思います。
 ハースがチームとしてマグヌッセンを壁にしてヒュルケンベルグを守ろうとする考え方自体には何の問題もありませんし、確かに規則上は問題ありません。しかし、自身はもはや10秒だろうが200秒だろうが30年だろうが、どんな加算ペナルティーを食らっても関係ない、言うなれば『無敵君』状態のドライバーがコース外を走ってまで前に居座るというのはレース運営上致命的な問題だと思います。
 ちょうど昨年、コース外を走って順位を得て5秒加算を食らい、でもそれだとレース後までに5秒以上離せば問題ないので『逃げ得』になってしまうことが問題視され、今年は罰則が10秒に強化されてはいました。ただ、この罰則は『抜いて逃げる』人には一定の抑止効果があるかもしれませんが『抑えて蓋する』人には効果が薄いというのは目に見えていたと思います。
 「そこまでしてバカなことするやついないだろう」と思ってそこまでいちいち考えなかったのかもしれませんが、今回は失礼な言い方ですが下位チームのたかが1点の出来事でしたが、これがチャンピオンを争うレッドブルとメルセデスの間で行われていたらどう思うか、と考えればその深刻さは分かると思います。
 罰則を与えるに際して『コース外を使って利益を得た』と認定されているわけで、その利益とはこの場合順位であることが明らかなのですから、罰則は即時の順位入れ替えであるべきではないかと思います。ペナルティーに関してあれこれとゴタゴタする中で、この手の問題に関して『順位を返すかどうかはドライバー(チーム)の判断次第、その判断が正しくないと考えた場合にはペナルティーを与える』という方針になっていますが、この方針は悪手だったと思います。
 さらに言えば、マグヌッセンは既にアルボンを壁に挟んでペナルティーを受けている立場であり、10秒加算を2回受けた場合にはそれらが別個の行為であっても2回目には自動的にドライブスルーを適用するような仕組みも考えるべきではないでしょうか。本来そこにいるべきではないドライバーがいる、という状況なわけですから、後から加算すれば良いというのは違うと感じます。

 昨年も書いた気がしますが、そもそもタイム加算のペナルティーは『ドライブスルーを課すまでには至らないけれども無罰にもできない軽微な反則行為』に対して付与するべき『罰則無しとドライブスルーの間』の存在として2014年に始まったはずです。それがいつの間にか、相手がリタイアに至るような接触事案でも5秒や10秒ばかりで、むしろドライブスルーはほとんど目にしなくなりました。
 SNSやyahooコメント的なやつを見ても『ペナルティーは即座に消化させるように変更すべき』というのが時折見られるんですが、最近見始めた人はそもそもドライブスルーという『強制的に3周以内に消化して18秒程度の時間+順位喪失』の罰則があることをもう知らないんじゃないかと感じます。
 ペナルティーを厳しくとると『レースができない』といった批判が増えるので運営的にもこういう方向性になっていったんだと思いますが、個人的にはそうやっていった結果、他人のレースを台無しにしても5秒や10秒で済むというハードルの低さがむしろ安易な違反行為を助長しているのではないかと感じます。極端な話、トラック リミット違反は3回まで許されるし抜いた場合も10秒支払えば済むんだから、もうシケインなんて損得勘定して適度に無視して直進すれば良い、無視して鬼ブロックして身内を助ければ良い、という話にもなりかねません。

 ハースの小松代表はチームとして1点を獲ったこと、そのために力を尽くしたマグヌッセンを称賛。そりゃあチームの代表が「卑怯なことしてすいません」とは言えないですし、代表になったばかりで弱みは見せられないので堂々と振る舞わないといけないわけですが、野球で言えば点差の開いた場面で執拗に内角を攻めた末にぶつけ、相手の主力選手を骨折させて『彼は大差の中でも集中力を切らさずに4イニングを投げて、チームを助ける非常に素晴らしい役割をしました』と言っているようなものだと感じました。確か去年東京ヤクルトスワローズや場内アナウンスの人がこれに近い話で批判されてましたよね・・・
 『違反でない行為を批判するな』という考えの人もいらっしゃるでしょうし、マグヌッセンはチームの指示に従ったんだからドライバー個人を批判してはいけない、という考えの人もいらっしゃるでしょう。
 しかし、違反でなくても批判されることなんて世の中いくらでもありますし、マグヌッセンは過去にも繰り返し危険な防御を繰り返してきたドライバーで、基本的には彼がコース内で勝負していれば起きなかった問題です。チームもさすがに『飛び出そうが何しようが構わん』とまでは言っていないはずですから彼の運転自体に責任が無いというのも違うと思います。(言ってたら組織として違反を推奨しており、故意の接触を指示したのと変わらない問題だと思います)
 基本的には規則を設計する人たちが安易にエンタメ主義に走って課すべき罰則を課さずにダラダラにしてしまったことが主因だとは思いますが、危険な防御常習犯が事故・罰則お構いなしで暴れたら普通の感覚のドライバーなら誰も勝負できないですから、ちょっと大げさに言えばもうこの競技の根本に関わる話です。
 少なくとも運営側は、今回のような件(この話をさらに広げていくとシケイン無視も作戦ということになってしまう件も含め)について組織としてどう考えているのか、という点について見解を表明していただきたいなと思います。NASCARならこういう事案が起きると、ほぼ必ず翌週のレースまでには担当者が見解や今後の対応について説明するんですけどねえ。
 あ、もちろん『そういうダーティーな部分も含めて楽しむものがF1である』という意見はあっても構わないと思いますし、F1自身がこの件に関して『彼らは規則を熟知しその範囲内で見事な仕事をした。F1とはそうした戦いの下に発展してきた競技である』とでも説明するのならそういうものだと思いますが、だからこそきちんと説明はすべきだと思います。これを見ると、よほどの故意接触以外罰則は無いのにちゃんとモラルとマナーとお互いの信頼関係でクリーンにレースしてるNASCARって大したもんだなといつも思うわけです。(←信奉者?)

 抜けなかった角田ですが、あんだけやられても冷静に戦っていた(ように見える)のは良かったですが、どうでしょう、先週のブチ切れ案件があって相当自分の行動が見られているのが分かっているからより慎重になっていて、もしあれが無かったらもう少し抜いた後強烈にブロックするとか、良いか悪いかは別にしてもう少し積極的な走り方をしていた可能性もあるのかな、とは感じました。何にしても怒って良いことってほとんど無いので、もうああいうことは二度としないでください、自分も結局損していると思います。

 次戦は1週間の休みを挟んでオーストラリア、ちなみにフェルスタッペンは2022年のオーストラリアでリタイアして以降の全レースを完走しています。

コメント

Cherry さんのコメント…
HAAS陣営はある意味頭いいことしましたねw僕は好きです笑
こういうことを現実で引き起こさないと対策しようともしないのがF1のイメージなので、これを機にルールを変えて進歩していくのがベストかな?と思いますw
SCfromLA さんの投稿…
>Cherryさん

 F1GPニュースでフジテレビコメンタリー陣も全員「ルール変えなきゃだめ」って言ってましたね。気づいてませんでしたけど結局マグヌッセンはリードラップ最後尾、それ以降が周回遅れになったので20秒加算はさらに無力化されていたようですしw