NASCAR 開幕戦 デイトナ 予選

 NASCAR Cup Series、開幕前の余興となるLAコロシアムでのレースは悪天候を回避するため急遽開催が1日前倒しされるという珍しい出来事がありましたが、そんな神回避(?)のイベントからおよそ2週間、シリーズの開幕戦となるデイトナ500がやってきました。
 普段のNASCARの予選方式は、ざっくり言うとA組・B組の2グループに分かれたグループ予選を実施して、各グループの上位5人がラウンド2に進んで1台ずつアタックしブッシュ ライト ポールを競う『2ラウンド制スーパー ポール方式』とでもいうようなやり方になっています。しかし一大イベント、NASCARにおけるスーパーボウルとも言われるデイトナ500だけは方式がやや複雑で、唯一となる予選レースもあります。普段は規定上限の40台に満たない参加者が当たり前のシリーズにあって、ここだけは40台を超える参加希望があって予選落ちも発生するので、予選自体がちょっとしたイベントです。


・スポット参戦組

 予選落ちがあると言っても、チャーターを有する36台の車両はタイムに関わらず決勝進出が保証されています。高い金を払ってでもチャーターを購入してフル参戦を確約するのは、こういう注目度の高い大きなレース=スポンサーがお金を払う価値があるレースで必ず決勝に出られる、というのを示すことでチーム側にも利益があるためですね。
 残る4つの出場枠をチャーターを持たないオープン チーム、いわゆるスポット参戦組で争うことになり、今年は6台が参加します。番号順に並べると

36 カズ グラーラ/フロント ロウ モータースポーツ
44 J.J.イェリー/NY レーシング
60 デイビッド レーガン/RFK レーシング
62 アンソニー アルフレード/ビアード モータースポーツ
78 B.J.マクラウド/リブ ファスト モータースポーツ
84 ジミー ジョンソン/レガシー モーター クラブ

 フロントロウ、RFK、レガシーMCの3チームはいずれも2台がフル参戦しているチームによる3台目のエントリーなのでチームとして力のある陣営、ビアードは基本的にスーパースピードウェイしか出ないチームですが経験は豊富、リブファストは弱小チームですが昨年までフル参戦していたので今のところブランクもないでしょう。
 一番謎の存在だったのがNYレーシングで、たいていデイトナならどんなチームも華々しく事前にスポンサーとドライバーを発表するものですが、彼らはドライバー未定の状態でエントリー。チームが実際に現地入りすると、トラックには2022年に5戦に出場したグレッグ ビッフルの名前があるので、当然ビッフルが乗るのかという話になり本人に質問が届いたんだと思いますが、ビッフルは

「私の名前とサインが側面に刻まれたトラックと車の画像が公開されたことに気づきました。今年はデイトナ500に出場したいと思っていましたが、それは実現しないでしょう。 私自身とチームの2022年からの契約義務が履行されていないため、以前の契約義務が履行されるまではレースに参加しないという苦渋の決断を下しました。チームの幸運を祈っていますし、またレースに出場して、この切望されたレースに勝つ機会が得られることを願っています。」

と声明を出し否定、単に以前のやつをそのまま変えずに使っていたのか、ギリギリまでビッフルと交渉はしていたけど、その契約義務とやらが結局折り合えずに時間切れになったのか、結局はイェリーが乗ることになりました。NYレーシングは車としてはリチャード チルドレス レーシングから供給してもらっているはずで、そこそこちゃんと走る車ではあるはずです。
 オープンチームが決勝に出るための仕組みがやや複雑で、◯◯の場合には××、という注釈が多い制度ですが、基本的にこの中から成績上位4台が決勝へ、2台は決勝に出ることなく一足先に撤収する悲しい結末になります。ジョンソンは7度のチャンピオンでありチームの共同オーナーですから、予選落ちしてしょんぼりとピットで決勝を眺めることは絶対にしたくないですね。
 全くの余談ですが、イェリーの登録名であるJ.J.はファースト ネームとミドル ネームから来ている略称かと思いきや、彼の本名は クリストファー ベルトラム ヘルナンデス イェリー でどこにも J は入っていません。JJというのはお父さんの名前・ジャックと、お父さんの友人・ジミーから来ているあだ名で生まれた時からそう呼ばれていたそうです。お父さんは本当はA.J.フォイトにあやかって『AJ』と呼びたかったそうですがw

・2月14日 予選
 ラウンド1

 まずは2月14日、各車が1台ずつ走行していく予選が行われます。この予選は基本的には翌日の予選レース・デュエルのスタート順位を決めるためのものですが、1位と2位の2人だけはその段階で決勝の最前列スタートが確約されます。レース中に色んなことが起こるので予選順位が決勝の結果には直結しないとはいえ、前からスタートできる恩恵もデイトナでのポールシッターという名誉も大きいのでできれば獲りたいところ。
 スーパー スピードウェイの予選ではラウンド1でまず1台ずつ1周だけ計測する、俗に言うスーパー ラップ方式を採用。1台ずつの走行なので当然グループ分けは無く、単純に全体での上位10人がラウンド2に向かいます。
 ラウンド1で最速だったのはジョーイ ロガーノ、2位のカイル ラーソンを0.089秒引き離しで唯一平均速度が181mphを超えました。たったの0.09秒じゃないか、というとアクセルを踏みっぱなしにするだけのトラックですからそうとも言えず、隣の順位の選手とこんなにタイムが差付いているのは36位~37位の位置まで見当たらず、0.05秒あっても大きい方です。
 3位からオースティン ディロン、ウイリアム バイロン、チェイス エリオット、マイケル マクダウル、オースティン シンドリック、カイル ブッシュ、ロス チャステイン、ハリソン バートンのトップ10。昨年まで6年連続で1列目からスタートしていたアレックス ボウマンは17位でこの段階で記録が途切れました。
 内訳を見るとヘンドリック モータースポーツ/シボレーが3人、リチャード チルドレス レーシング/シボレーが2人、トラックハウス レーシング/シボレーが1人、チーム ペンスキー/フォードが2人、ペンスキーの提携チームであるフロント ロウ モータースポーツとウッド ブラザーズ レーシングから各1人。シボレー勢 vs ペンスキーという構図になっています。
 この後11位~18位の8台中7台がまたフォード勢となっており、カムリが新しくなったトヨタはどこ行ったんだというと、エリック ジョーンズの22位が最上位で単独走行では軒並み伸び悩んだ模様。NASCARと各メーカーできちんと詰めて性能差が出ないよう気を付けつつ市販車のデザインを盛り込んではいるものの、完全に同一ではないために僅かな違いというのはあるので、これは単にセッティング等の問題か、エンジンか、それとも新車の形状に起因しているのか、スーパースピードウェイのレースでは少し注目したいところです。

 そしてポール争いと同じぐらい大事なオープン枠の決勝進出争い、オープン勢最上位は全体で20位に入ったアルフレードでした。続いて27位にレーガンが入り、オープン枠で上位2台になったので彼らは決勝進出が保証されました。以下ジョンソン、マクラウド、イェリーの順となり、グラーラは車に問題があって出走することができませんでした。翌日のデュエルが残る2枠を決める争いとなります。

・ラウンド2

 ポールを賭けた予選・ラウンド2。マクダウルが暫定ポールの座についている状態で最終走者のロガーノが計測へ。しかしロガーノはまたここでも憎たらしい速さを見せ、マクダウルを0.071秒突き放して通算29度目、デイトナ500では初となるポールを獲得しました。デイトナ500のポールは2013年以降10年連続でシボレー車が獲得しており、フォード車によるポールは2012年のカール エドワーズ以来、ペンスキーとしても初のポールでした。

 マクダウルは2位でしたがこれで決勝で外側の先頭からスタートとなります。3位ラーソン、4位にシンドリックでしたが、この2台の間には0.117秒という大差。なお、この後予選トップ2で記念撮影したら、マクダウルの車も黄色いマスタング ダーク ホースなのでなんかそっくりさん2台になってしまいました。


・2月15日
 BlueGreen Vacations Duel 2.5miles×60Laps=150miles


 翌日はデュエル、この結果で決勝のスタート順位が決まります。レースはデイトナを60周/150マイルの短期決戦、燃料的に必ず一度は給油しないと走り切れません。予選の奇数順位の人がデュエル1、偶数の人がデュエル2に出走、スタート順位は予選順位どおりです。デュエルの結果に従ってデュエル1の人が決勝の内側の列に、デュエル2の人が外側の列に順位通り並びます。既に最前列が決まっているロガーノとマクダウルもそれぞれのデュエルをポールシッターとしてスタートしレースに参加しますが、ここで何位であろうと決勝のスタート順位は変わりません。
 ただし車を壊してバックアップ車両に乗り換えるなどするとペナルティーで最後尾スタートになってしまうので、いっそのことスタートしてすぐわざとビリになっても構わないわけですが、決勝で勝とうと思ったら当然この場でレースへ向けた様々な確認をしたいし、プロ選手としてスポンサー的にもマズいので安易にそうもいきません。また、デュエルの上位10人には10点~1点のドライバー選手権ポイントが与えられるというニンジンもあります。
 
 そして決勝進出が懸かるオープン枠ですが、デュエル1と2に3人ずつ割り振られています。デュエルをオープン車両の中で最上位で終えれば、その1台が3枠目/4枠目を獲得することになります。ただし、その車両が予選で既に出場を確定させている2人、アルフレードとレーガンだった場合には次点の人が繰り上がるのではなく、なんと予選の順位で3番目/4番目だった人がタイム順に拾われることになっています。
 例えば予選でオープン勢3位だったジョンソンは、デュエル1でオープン勢最上位になればもちろん決勝進出ですが、もしそうでない場合でもデュエル1でアルフレードが最上位になるか、デュエル2でレーガンが最上位になればタイムで拾ってもらえるので、4位以下の人と比べるといくらか進出の可能性が高くなっています。
 またそこまで関係ないかもしれませんが、デュエルでのオープン勢最上位による進出の場合はデュエルの順位通りに決勝をスタートできる一方、予選タイム枠で進出した場合はいわばワイルド カード扱いで最後列スタートとなります。ですのでアルフレードとレーガンも決勝を良い順位でスタートしたいと思うなら最上位を獲りにいかないといけません。


 Duel 1 

 いよいよデイトナの週末初レースとなるデュエル1、ロガーノがポールですが序盤ラーソンが前に出ると、その後は6列目以降からスタートしたドライバーも代わる代わる先頭に立って予選順位どうした状態。レースは大きな混乱なく残り20周あたりでピット サイクルとなり、トヨタ勢がピットに入ろうとしたところで危うく事故が起こりそうになりましたが、タイラー レディックがスピンせずに堪えてそのままレースは続きます。
 しかし事件はレース終盤に起きました。50周目、前方での軽い減速をきっかけに後方に順番にその波が波及していって中団以降でとうとう接触事故に。そこに本戦出場を目指すジョンソンも巻き込まれてスピンしました。この事故でダニエル ヘムリックは最も大きな損傷を受けてリタイアに。
 

 オープン勢の争いではアルフレードが後方待機で安全運転しているらしく、ジョンソンはとりあえずイェリーよりも前でゴールしないとデュエル2での結果待ち、他力に頼ることになります。幸いにして大きな損傷は無かったジョンソン、残り6周のリスタート後は隊列後方でイェリーと激しく争い、映像的にも優勝争いよりこっちが注目を集めます。ジミージョンソン=JJなのである意味JJ対決。

イェリー、イェげつないブロック
 
 そのまま両者一歩も譲らずにレースは最終周へ、並走状態からジョンソンは前が詰まったので外ラインに変更してイェリーの後ろに付く形となり、このままでは抜けずに終わってしまう、と思った直後のターン3でした。最前列でラーソン、ボウマン、ジョーンズが近接走行しすぎたか、ボウマンがラーソンを押しすぎた模様。これでラーソンがラインを外れ、後続がちょっとびっくりしてスロットルを戻した様子で、結果イェリーは追突を避けようとステアリングを右に切って隊列から外れてしまいました。
 前が開けたジョンソンはこれ幸いとばかりに開いた空間を詰めてドラフトに入って付いていき、最後の最後で奇跡的にオープン勢最上位を確保して決勝進出圏を手にしました。かつて自分が所属したヘンドリックの2人とチームメイトが引き起こした混乱にうまく乗じましたが、まさかそこまで計算して彼らが動いたわけではないでしょうw
 優勝争いの方は、ラーソンの背後に付けて最終周に入っていたレディックがターン3進入直前に内側に降りて早めに仕掛けると、この後に外ラインで上記の混乱があったので誰も付いて来れず、そのままデュエル1を制しました。10列目スタートから最後の半周だけ先頭を走ってオイシイところを持っていき、レディックは決勝で内側の2列目に並ぶことができます。

 Duel 2

 続いてデュエル2、こちらもピットサイクルを無事に乗り越えて終盤戦へと向かいますが、48周目にビッグ ワン発生。

 4位につけていたバイロンが後ろから来たライアン ブレイニーをブロック。これ自体はまだ大したことなかったものの、直後にトライ オーバル部分で後ろからカイルに押されたらバイロンスピン。スピンしたバイロンが見事にブレイニーを引っかけてしまい多重事故になりました。じゃあカイルが悪いのかと言うと彼も後ろからブラッド ケゼロウスキーにガッチリと押されていて引くに引けない状況でした。バックアップ車両で決勝を後方からスタートすることを強いられたブレイニーは

「自分では制御できないけど、連中のひどいプッシュによって引き起こされたものさ。ここで3回続けてひどいプッシュが私を正しい育て方に導いてくれたね。 それは単に奴らが賢くなく、いつ降りるべきかが分かっていないだけさ。コーナーでプッシュすることはできないし、トライオーバルではそれほど激しくプッシュすることはできない。」
「あいつらがいつそれをモノにできるのか分からないけど、そのために下らないプッシュを受けて代償を払うのにはもううんざりさ。」

と辛らつ。状況的に誰が悪いと言い切れないのでそこまでは言及しませんでしたが、予選レースでの大事故にお怒りの様子。この事故で車を壊したカイルとノア グレッグソンも同じくバックアップ車両で決勝を走ることになりました。ジャスティン ヘイリーとライリー ハーブストも巻き込まれましたが、10位でこのレースを終えたヘイリーは修理対応、リタイアしたもののハーブストも修理での対応だそうです。

 そしてレースの方は残り8周でリスタート、デニー ハムリンとクリストファー ベル、こっちもやはり後方スタートのカムリ2台が組んで先頭を走り、ここに最終周になってバートンとシンドリックが組んで挑戦。ベルがラインを変えてブロックに向かったのでハムリンの露払いになるかと思いきや、気づいたら後ろに車がいないハムリンを横目にベルがそのまま先頭へ。
 ベルは鬼ブロックで対応すると、ターン3ではバートンとシンドリックが若干足の引っ張り合いをしてしまい、そのままベルが逃げ切りました。そしてオープン車両の争いはこちらもマクラウドとグラーラが最後の最後まで激戦。しかし最後の最後で抜け出たのはグラーラで、予選タイム無しからの逆転でデイトナ500決勝進出を果たしました。マクラウドは最悪レーガンが勝ってくれたら予選タイムで拾ってもらえる立場でしたが、残念ながらレーガンは自分の後ろにいました。レーガンは序盤に後方待機作戦を採ったのでマクラウド的にはおいしくなかったかもしれません。

 これでデイトナ500のスタート順位が全て出そろい、改めてポールはロガーノ、お隣はマクダウル。2列目がレディックとベルとなり、予選では存在が消えていたトヨタが決勝では2列目に並ぶことになります。3列目はエリオットとシンドリック、4列目にボウマンとハムリン、5列目は新人最上位となるカーソン ホースバーと、2020年以来2度目のデイトナ500参戦・ジョン ハンター ネメチェックが並びます。
 
 デイトナ500は現地時間2月18日 14時30分開始予定。15時11分にグリーン フラッグが振られる予定だそうです。日本時間だと19日の朝4時半ですかね、今年はGAORAで生放送があるので見れる方はぜひ!私はYouTube勢だからネタバレ厳禁!!

コメント

アールグレイ さんの投稿…
ジョンソンとレーガンはデイトナでの勝利経験があるので予選は余裕の通過だろうなと思いましたが、意外にジョンソンは危なかったですね。
もっと驚いたのはオープンチームの中で予選タイムトップとして決勝進出を決めたビアードモータースポーツですが(JGRの全員よりタイムが上なのも凄い)、このチームは調べてみると5回もトップ10フィニッシュの経験があるんですね。
去年はプレートレース以外のイベントにも参加していましたし、スーパースピードウェイ以外での活躍も見てみたくなるチームです。

ドライバーのアルフレッドもカップ戦は2021年にFRMからフル参戦の経験がありましたし、まだ24歳のようなのでまだまだこれからだと思います。
レリックアース さんのコメント…
お久しぶりでございます。
まだマスタングの新しい顔に慣れてないですが、デイトナの週末になるといよいよ開幕するんだなという実感が湧いてきます。
予選ではロガーノさんが幸先よくポールを獲得して私的にはいいシーズンの開幕になりました。決勝については欲張りブロックをした挙げ句回されて終了ってパターンが多々あるのであまり期待しないで観ようと思いますw(とりあえず怪我さえしないでもらえたらOK)
あとは去年から復調してきているケセロウスキーの久しぶりの優勝も見たいなというのが今年の願望なので、得意なプレートレースということもあり今回は特に期待しています。
SCfromLA さんの投稿…
>アールグレイさん

 ジョンソンは単走で遅かった新型カムリに足を引っ張られた感じかなと思いますが、チャンピオンは運も掴んでるなと思いました。
ビアードさんとこは本当に小所帯で頑張ってるので頑張ってほしいなといつも思ってます、実際有能な人がいるのか速いんですよね。奇跡的に勝ってくれないかなあ。
SCfromLA さんの投稿…
>レリックアースさん

 どうもです~、私もまだマスタングに見慣れませんw ロガーノとケゼロウスキーはうまいこと協力して走ることもできるので、束の間のチームメイトが復活したり、そのまま最後まで行って殴り合いになったりするのも面白いでしょうね~(←見方がひねくれている)