フォーミュラE 第2戦 ディリーヤ

ABB FIA Formula E World Championship
2024  Diriyah E-Pprix
Diriyah Street Cuircuit 2.495km×37Laps(+zero Lap)=92.9km
Race Energy:38.5kWh
winner:Jake Dennis(Andretti Formula E/Porsche 99X Electric)

 ABBフォーミュラE、第2戦と3戦はサウジアラビアのディリーヤで2連戦です。ここは市街地には珍しく、コースの前半部分にひらすら左右に切り返すクネクネした中速区間が続いており、1つミスったら全部ダメになってしまいます。しかも微妙な勾配があるのがまた難しい。ここをバランスの良い車で通過すること、そして決勝ではできるだけ無駄な加減速せずに走ることが重要で、そういう点では他の市街地よりも車のコーナリング性能の重要度が相対的に高いかもしれません。
 一方レース設定は昨年が40kWhのエナジーで39周のレース、1周あたり1.025kWhでしたが、今年はエナジーは38.5kWhに減らされていますが周回数が第2戦は37周、第3戦は36周となっており、1周あたりにすると昨年よりも多くのエナジーを使用できます。ここ2年はポールから出た人が風よけにされるレースが主体になっていたのでちょっと節約要素を減らした形ですが、これで展開がどうなるのかが注目点です。


・ポルシェが抜け穴を見つけた?

 開幕戦でスロットル マップに違反の疑いをかけられたポルシェのパワートレイン。スタート時にトラクション コントロールに近いものを使用したのではないかというものでしたが、その後のThe Raceの情報によれば、どうも規則の抜け穴を発見して使用した可能性があるようです。
 事前に承認を受ける必要のあるスロットルマップ、後輪へのトルクについて定義するプライマリー、バッテリーの電力供給に関して定義するセカンダリー、そしてジョーカーという3つを登録することになっているようですが、ポルシェは『スロットルを全閉状態にした際にどう取り扱うかについて言及がない』ことに着目し、3つ目のマップで『スロットルを全閉状態にすると良いトラクションが得られるよう出力する』という設定を組み込んだ可能性があるとのこと。
 普通、グリッド スタートならドライバーは細心の注意を払って空転しないようにスロットルを踏みますが、この方法だと微調整はできないでしょうが例えば50%ぐらいの開度を足を離すことで勝手にやってくれるので、ある意味自動運転で発進ができてしまいます。スロットルを踏んだらその通りになるよう設定しておけば、蹴り出しを自動で、どこかからは自分の足で、その後にターン1までにマップをプライマリーに切り替えたら良い、というようなことが考えられます。
 FIAは公式には認めていませんが、The Raceによればこれを受けて規則で『スロットル開度が0の時は発生トルクを0Nmにしなさい』という文言が追加されたとのことです。フォーミュラEって車両の色んなところにカメラ取り付けてますけど、足が映ったカメラ無いですかねえ、発進時にどうなってたのかめっちゃ気になりますw

 
・グループ予選

 前日と予選前、2回の練習走行を経ても路面が砂で汚れていてひたすら横方向に滑っているような路面状況。昨年はFP2で1分10秒台のタイムが最速でしたが、この日のFP2では最速が13秒台、たぶん滑りすぎてるのと試す意味が薄いせいでしょうが、最速タイムは350kWではなく300kWで走行した車によって記録されました。
 そんな状況で始まったグループ予選、A組は有力どころが集まってしまい、ニック キャシディーが最速で、ジェイク デニス、パスカル ベアライン、ミッチ エバンスと役者がきちんとタイムを出しました。ここにいたもう1人のジャガー勢・エンビジョンのロビン フラインスは組み合わせの運が悪かったのも響いて6位で脱落。
 B組ではなんとしても最後にアタックしたい人たちで大渋滞が発生、そんな状態ではタイヤの温度と内圧が最適ではなく結局みんなあまりタイムが伸びない結果となり、最速はジャン エリック ベルニュ。2位にはセルジオ セッテ カマラが入り、マキシミリアン グンター、ノーマン ナトーがデュエルスへ。サム バードは早めに出て2回アタックする流れにしたことで他の車に引っかかって5位、新人のジェハン ダルバラは渋滞の最後尾、残り1秒で計測に入って失敗し、フォーミュラEの洗礼(?)を受けました。

・デュエルス

 A組はチームメイトとチャンピオンを破ったエバンスが決勝へ。B組ではセッテカマラが弱オーバーの車をうまーく扱って準決勝へ進みましたが、さすがにこの走り方は毎回決まらないようで準決勝はやや滑りすぎてしまった様子、ベルニュに敗れました。
 ベルニュの先攻で始まったデュエルス決勝はお互いに目に見えるような失敗がなく、セクター1ではベルニュが0.01秒速く、セクター2はエバンスが0.052秒速い僅差。最も長いセクター3ではベルニュが0.112秒速かったので、僅差でベルニュが通算16度目のジュリアス ベア ポール ポジションを獲得しました。スタート順位はベルニュ、エバンス、デニス、セッテカマラ、ナトー、ベアライン、キャシディー、グンターのトップ8となります。


 デュエルスでもエバンスが一度11秒台に入った以外はみんな12秒台のタイムで昨年には全然届かない状況でした。デュエルスは出力が50kW増えますが、滑りやすい条件だとそれを路面に伝えられないし、タイヤも1周しか準備する時間が無いのでグループ予選とのタイム差があまり無くなってしまいます。

・決勝

 今年もスタート前はドローンを使った空中ショー、見事なもんです。ここはグリッドからスタート位置まででほぼ1周に近い距離を移動するので、シーズンで最もフォーメーションラップっぽくなります。昨年は低迷していたのであんまり目立ちませんでしたが、DSペンスキーの百式みたいな金ピカが照明で照らされたコースに映えますね。
 スタートでは3位のデニスが蹴り出しで明らかに出遅れ。その前方ではトップ2の争いが起こり、その内側にちょっと無理にセッテカマラが飛び込んで混乱します。狙っていったというよりはブレーキを踏む場所を見誤って追突しかけたから避けたら入ってしまった、という感じに見えました。

 エバンスもよく見ていたし、セッテカマラもなんとかぶつけないよう必死に止めたので事故にはならず。結果的にセッテカマラはスタートで抜いたデニスにこの混乱ですぐ抜き返されたので、1周目は5位までが予選順位通りとなりました。スタートで9位から順位を上げたバードが6位となり、6位スタートのベアラインは逆に9位に転げ落ちてしまいます。

 3周目、先頭をいつまでも走りたくないベルニュが最初のアタック2分を使用、3位で合流しました。これで前が開けたエバンスは飛ばして差を広げベルニュをオーバーカットしようとしましたが、アタックを取った後にベルニュと並走、壁に挟まれて軽く接触しました。
 これでベルニュも少し時間を使ってしまったので、先頭になったデニスが後続を少し離し6周目にアタック2分に入りますが、ベルニュをオーバーカットし損ねたのか、あるいは単独で前にはいたくないのであえてエバンスだけをオーバーカットしたのか、2位で合流しました。
 すると当然ながら7周目にベルニュはもう2回目のアタックに入りますが、ここで壁にぶつけたせいで手負いかもしれないエバンスの後ろで合流。ベルニュが引っかかったせいでデニスは2位に2秒近い大差を築くことになり、こちらも8周目にすぐ2回目のアタック、全く危なげなく先頭のまま合流しました。この後エバンスも2回目を使ったので上位3人はサイクル終了。
 ここからしばらくは膠着するのかと思いましたが、12周目にベルニュのアタックが切れると直後の直線でエバンスが仕掛け、ターン18の飛び込みでギリギリのブレーキングを見せてコース上での追い抜きに成功、アタックを使ったまともな追い抜きって今年初めてかも。ただ、抜いた後に切り返しのターン19でベルニュがものすごく車間距離を詰めたので軽く追突されている雰囲気です。

 エバンスはさらに翌周はデニスにも仕掛けましたが、6分のアタックは丸々5周して戻ってくるのにちょっとだけ足りないので、ちょうど直線に出たところで自分のアタックが終わってしまいます。そのため直線で並ぶところまで行けずやや飛び込みに無理があり、汚れた路面で止まれず失敗。これでデニスは逃げてしまい、自分はベルニュに追い回されることになります。
 上位3人でじゅうぶん面白いレースになっていますが、4位以下は少し離れたところにアタック未使用のナトーがいて、その後ろは2分だけ使ったセッテカマラ。4位以下は16位ぐらいまでずっと車が連なっていて、しかも多くはアタックを全く使っていないにらみ合い。お互いに『今使って順位を下げても抜けないから前が留まったら損するよなあ』と考えていると思われます。

 16周目、さっき行き過ぎたせいでベルニュに追いかけまわされているエバンスがターン18でブロックのラインをとったものの路面が汚れていて止まりきれず、これでベルニュに抜かれた上に軽く接触。今度はターン19でちょっとエバンスが無理に抜きかえそうと意地になった感じです。2位以下が勝手にごちゃごちゃやってくれるのでデニスはかなり楽になり、4位以下の人は表彰台の方から勝手に近づいてくれています。
 その中団は20周を過ぎたあたりからようやくアタックのサイクルが到来、隊列の前方にいるセッテカマラは、たぶんERTのパワートレインそのものの性能が影響しているんだと思いますが明らかにエナジー残量が少なく、逆に集団の真ん中で埋まっているベアラインは逆にむっちゃ残っていてここから大変動が起きそうな状況です。
 そんな中、23周目にはアタックに入ろうとした5位のバードにキャシディーが追突。フロント ウイングの右側上面部分を失いますが、ウイングが無くてもそんなの関係ねえでお馴染みフォーミュラEなので全くペースが落ちることなく前を追っていきます。ここまで節約していたキャシディーはアタックを使わないことで勝手に4位となり、ペースが鈍化してきたエバンスにも追いついて詰まりそうになりました。チームは指示を出して入れ替えます。ちなみにキャシディーはこのレースで無線の調子が悪くて非常に連絡を取るのが難しかったそうです。

 暫定3位になったキャシディーは2位のベルニュにすら迫った28周目にようやく1回目のアタックに入って一旦エバンスの後ろになりますが、すぐにまた詰まるので翌周に再度の入れ替え。こうなるとキャシディーの任務はできるだけ後続を離して2度目のアタックに入ることで、そろそろ時間的に限界の32周目に2回目のアタックに入り、アタック使用前に4位を争っていたバードの前方で合流しました。オーバーカット成功です。

 この間デニスは遥か遠くに行ってしまい、ここからはベルニュ、エバンス、キャシディー、バードの4人で表彰台争い。ベルニュは帳尻を合わせ損ねたのか、ずっと1分13秒台前半で走っていたものが35周目から14秒台にガクンと低下。これで2位争いが激戦となってレースは最終盤へ向かいました。
 デニスはあまりに後ろと差が開いているので、少しペースを落として余力を作ってから攻めることでファステストの1点も獲りに行ったらしく、狙い通り残り2周で1分11秒399のファステストを記録。予選のデュエルスで出されているタイムなんかより遥かに速いのでいかに路面状況がタイムに影響しているかを感じさせられますが、2位を13秒もぶっちぎって今季初勝利を挙げました。昨年のここは2戦連続でベアラインに次ぐ2位でしたね。


 そして2位争いはいよいよエナジーが危ういベルニュに対してターン18でエバンスが仕掛けましたが、ブレーキングに入ったところでベルニュが軽く幅寄せ。避けようと右にステアリングを切ったエバンスは、元々勢いよくベルニュの右に出たところで凹凸に乗ってやや不安定な姿勢になっていたのでもう止まれずにお手上げ。追い抜きに失敗しただけでなく2台に抜かれて5位に転落してしまいました。結果、2位はベルニュ、3位にキャシディー。バード、エバンス、ナトーと続きました。
急に寄せられて滑ったエバンス

 今回のレースはほどほど節約のレースで、レース中に何回かは前の車に仕掛けるためにエナジーを注ぎ込んでも大丈夫な感じだったので、トップ3の争いが激しくなってメキシコシティーより遥かに面白いレースでした。ただ2位争いががちゃがちゃしたのでフォーミュラEとしても珍しい大差になりましたけどw
 中団に埋まった人たちは軒並みエナジーが余ってチェッカーを受け、ベアラインに至っては5%と完全にもう1周走れるぐらい残して8位で終了。逆にジリ貧のセッテカマラでしたが4位スタートが効いたと思われ、貯金を取り崩す形で9位に入賞しました。彼は残量がほぼ0、周囲は数%余っているので、きちんと使い切る理論上速い走り方を周囲がしていたらもっと下位だったと考えられ、睨み合いの恩恵でうまくしのいだと言えそうです。


 エバンスは序盤に壁に挟まれ、さらに最後は危ない寄せ方をされて順位も落としたのでベルニュの走りに怒りが収まらず、無線で「あいつはブレーキングでクソみたいな動きをしやがる!」。ジャガーのチーム代表・ジェイムス バークレイもThe Raceに対して「一線を超えている」と漏らしたとのこと。ただ、ベルニュは「エバンスも同じことをしていた」としています。

 当然ながらこの最後の動きは審議対象にはならず、そしてエバンスは途中チームメイトにうろちょろされてもいたので余計にイライラしていたと思われます。私はエバンスの動きは見れていない、ないしは中継に映っていないのでどうだったか分かりませんが、個人的には最後のベルニュの動きは確かに危ないものなので、せめて事後的でも良いので黒白旗を出し、レース結果に対する効力は無いですが、これが危ない行為であることを示すぐらいはしてほしいなと思いました。エバンスもやってたのならこちらにも出すべきでしょう。
 これはこのレースに限ったことではなくF1でもそうなのでこのレース単体の話ではないんですが、かなり危険なブレーキング中/ブレーキ直前の進路変更に対してちょっとスチュワードは寛大すぎるように感じますし、FIAも『なんでもかんでもすぐペナルティーを出すな』と批判されるのが嫌でほったらかしになっているように思えてしまいます。
 ブレーキング中の進路変更は、とりわけオープン ホイールではタイヤ同士が接触する重大事故に繋がるおそれがありますから、接触も無くいきなりペナルティーとまでは行かなくてもそれが危険行為であることを示しておかないと、クセになって繰り返すドライバーは出てきます。クセになってるドライバーがいるのになお反応が無い状態を続けると、いざ本当に危なくなってきてからでは『今まで何も言わなかったのに!!!』と反発されるので結局何も出せず、なし崩し的に危険行為がまかり通る入り口になります。何か起きてからでは遅いです。
 F1より速度域は低いですが、一方で即座に壁に当たる、その先にすぐ観客がいる競技ですし、素人が走ってるんじゃなくて世界的な有力ドライバーが走ってるわけですから、むしろ厳しいぐらいでちょうど良いのではないかと個人的には思います。よくある『禁止事項だらけだとレースできない』論を聞くと、正直「え、世界のトップ選手ってそんなぐらいでレースできなくなるほど下手なんですか?それぐらい厳しくてもなお戦える腕があるはずでは?」と感じてしまいます。トラック リミットなんかもそうですね。

 次戦は連続でのディリーヤです。まあ既に下書きは終わってるんですけどw

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