SUPER GT 最終戦 もてぎ

2023 AUTOBACS SUPER GT Round8 MOTEGI GT 300km RACE GRAND FINAL
モビリティリゾートもてぎ 4.801km×63Laps=302.463km
GT500 class winner:au TOM'S GR Supra 坪井 翔/宮田 莉朋
(TOYOTA GR Supra GT500/TGR TEAM au TOM'S)
GT300 class winner:JLOC ランボルギーニ GT3 小暮 卓史/元嶋 佑弥
(LAMBORGHINI HURACAN GT3/JLOC)


 オートバックスSUPER GT最終戦、全戦に出場していればサクセスウエイトは0になるハンデ無しレースのもてぎです。日本は10月になってもまだ平年より気温が高く、この週末も全国的にかなり気温が高い状態。関東甲信越地方にも高温に関する早期天候情報が出され、11月なのに砂浜で日光浴してる人がいるようです。関係ないですけど『異常天候早期警戒情報』から『早期天候情報』に名称が変わってたの知りませんでした。
 このレースでGT500クラスのNSX-GTは最後となり、同じくGT500へのミシュランのタイヤ供給もこれがとりあえず最後となります。さすがにもうNSXという名称の車がまた復活することは無いでしょうし、もしあったとしたらF1活動と同様にあまりに場当たり的で、ブランド力を育てようという考えが全然ないと感じるのでむしろホンダに私はがっかりするでしょう。良い思い出で置いておくか、そうでなかったらちゃんと名称を通すコンセプトを用意して時代を問わず継続して発売して車名というブランドを育ててください。

 ドライバー選手権の争い、GT500クラスでは

au TOMS' GR Supra 坪井 翔/宮田 莉朋
Niterra MOTUL Z 千代 勝正/高星 明誠
ARTA MUGEN NSX-GT 福住 仁嶺/大津 弘樹

の3組・6人が権利を有していますが、ARTA16号車は16点離されていて優勝が必須。auは二テラに対して7点差を持っているので2位に入れば無条件でチャンピオン獲得、二テラには最低でも4位以上が必要ですが、上位の配点が大きい選手権なのでこのあたりはお互いに点差はあって無いようなものだったりします。一方GT300クラスは

埼玉トヨペット GB GR Supra GT 吉田 広樹/川合 孝汰
muta Racing GR 86 GT 堤 優威/平良 響

の2組・4人だけに権利があり、そうは言っても20点差が付いているため予選でムータレーシングがポール ポジションを獲ってボーナス1点を貰えなければその段階でグリーンブレイブはチャンピオンが確定します。グリーンブレイブは入賞さえすれば良いですが、逆にそう思いすぎて消極的すぎてぶつけられたら元も子も無いですし、それはそれでまた重圧がありそうです。

・レース前の話題

 このレースの前週にスーパーフォーミュラの最終2連戦となる第8戦・9戦が鈴鹿サーキットで行われ、第7戦を終えた段階でドライバー選手権1位だった宮田がそのまま順位を守り、初めてスーパーフォーミュラのチャンピオンを獲得しました。この週末はGTとの2冠を狙う戦いとなります。
 一方この第8戦では4周目の130Rで大津と笹原 右京が接触して大事故が発生、車がフェンスの支柱を破壊する勢いで衝突したため、笹原の車はモノコックと車両後部が分離して後部だけがフェンスを乗り越えて反対側のデグナー側へ転がり落ちるという、40年前だったらたぶんドライバーが即死レベルの危険な事故でした。
 レースはそのままレッド フラッグとなって再開されず終了となり、笹原は脳震盪の症状があり、大津も打撲と診断されていずれも翌日の第9戦には出場できませんでしたが、今週末のGTには予定通り参戦しています。また、これとは別案件で大湯 都史樹も最終ラウンドを急遽欠場していましたが、おそらくは資金不足などの関係とみられこちらもGTには影響なく参戦しています。不祥事ではないです^^;

 ドライバー関係ではもう1つ、前戦の記事の最後の方でaprのドライバーについて触れましたが、邪推が的中したようでapr LC500h GTのドライバーを務めるのは小高 一斗と根本 悠生の2人、嵯峨 宏紀は起用されませんでした。motorsports.comの取材に対して監督の金曽 裕人は
「切ったわけでもなんでもない。」
「今一度考える時。冷静に自分を見つめ直さないといけないし、外からものを見るのは非常に大切なこと。」
「人間なんて、がむしゃらに何かを一生懸命やったところで全く成果が出ない時ってあるんですよ。そういう時は外から教えるのではなく、自分から見出さないといけないし、自分から何かを検知しないといけません。」
「クルマやタイヤの開発方向など、ものすごいスピードで変わっています。“5年ひと昔”ですから。色んなもの、ファクターが落ちているので、それを自分でかき集めて分析する時間が必要です。」

 と"昭和の運転"と指摘した嵯峨について、もう一度見つめ直すようにするための時間だと答えました。個人的には、内々でそういう話をして、それでも結果が出なかったからドライバーを変更して、その上で「ここまでにこれこれこういうことがあって」と説明するのなら実力の世界ですしそういうものだとは思うんですが、ちょっと「昭和の運転だ」「Q1で落ちるわけがない」と対外的に言ってしまうのは手順としてどうだったのかなと感じてしまう部分はありました。逆にそこまで言うならせめて最終戦まではきっちり面倒見てこそ、という風にも思いますし。
 何かあっても曖昧に説明することと、取材対象に厄介者扱いされたくないのでいちいち報じない国内モータースポーツメディアの関係性を考えると、これだけ明快に『遅いから外しました』と発信して伝わっているというのはそれはそれで意義があるとは思うんですが、一番大事な嵯峨選手のためになってるのかな、という部分でちょっと腑に落ちない印象はあります。ともあれ決まったことなので根本選手には実力を存分に発揮していただきたいですし、嵯峨選手も自身なりに勉強も活動も発信もしてみたら良いのかなとは思います。

・予選

 GT300は優勝必須のムータレーシングが練習走行もQ1もQ2も全部最速でポールを獲得、チャンピオンの望みを繋ぎました。平良選手のあの独特の雰囲気が最近なんかお気に入りです。予選2位で対抗する速さを見せたのはJLOC ランボルギーニ GT3。3位からLOEN PYRAMID AMG、SUBARU BRZ R&D SPORT、UPGARAGE NSX GT3と続き、6位にapr LC500h、グリーンブレイブは7位となりました。映像を改めて見ると、タイムを伝え聞いて堤選手は車内で手を叩いて喜んでるっぽいですね。

 GT500でも追いかける立場の二テラZが練習から全部最速、ポールの1点を貰ってauとの点差は6になりました。2位はAstemo NSX-GT、そして3位にauが入りました。談合したかのように3メーカーが綺麗に並び、アステモがいるかいないかでチャンピオンの行方が変わる、という並びになりましたね。

 4位にリアライズコーポレーション ADVAN Z、5位が二テラの事実上のチームメイト・MOTUL AUTECH Z。この2台はおそらくタイヤが発動するまでの時間にだいぶ差があると思うので、決勝のスタート直後の位置関係やどう争うかが選手権にも影響するのではないかと思います。
 ARTA16号車はQ1で落ちて9位、トムスのチームメイトであるDeloitte TOM'S GR Supraは13位なので、ARTAは限りなく可能性が厳しくなり、トムスもチームメイトの援護はちょっと期待できなさそうです。

・決勝

 スタート前のインタビューを見ると千代選手と宮田選手がちょっと緊張気味の表情かなあと感じました。スタート前には立川 祐路の引退セレモニーが行われましたが、よく考えたら試合前に引退セレモニーするって他競技だとあんまりない気がしますね。
強風オールバック

 昨年のこのレースでは作戦的に縛りがありましたが今年は無制限。そこも頭の片隅に置きながら決勝スタート。GT500は想像通りモチュールZ・ロニー クインタレッリがリアライズZ・佐々木 大樹を抜いて4位となりました。ただミシュランによくある圧倒的な目覚めで1周目に順位爆上げ、とまではいきませんでした。一方GT300はわりと静かなスタートです。
 上空はスタート前からえらく黒い雲がコースの一部にかかっているような状況で、開始前の時点で気温23℃・路面温度28℃とはいえここから雲が消えてカンカン照りになるのか、案外気温がごっそり下がってしまうのかが読みにくく、選んだタイヤとの相性に関わるだけに気になる部分。事前情報ではGT300の王者争いはムータが高温予想、グリーンブレイブは低温予想のタイヤだそうで、走る前にちゃんと教えてくれるので観戦者にはちょっとありがたい話です。

 6周目になると少し雨が降り始めたようでワイパーを動かす人も出てきてさらに外的要因が増えてきます。GT500ではリーダーの千代がまずは後続を引き離す一方で、2位のアステモ・松下 信治はau・坪井に追われ気味。4位のロニーは少し距離を置いているので坪井は相手を揺さぶりつつも無理してまで抜かなくて良い雰囲気です。
 一方GT300は平良が最初に逃げそうだったもののJLOCウラカン・元嶋 佑弥が真後ろについて早くもピンチ到来。JLOCは昨年もチャンピオン争いを大きく左右する好走を見せただけにコンテンダーの脅威です。抵抗が少ないしトラクションのかかりも良いのでストップ&ゴーで強いんですよね。
うわあ、えらい降ってきたやん(※想像です)

 9周目に入るころには最終コーナーは晴れてるのにストレートの途中からそこそこの雨、というわけの分からん天気になりますが、全然スリックでは走れない!という状況ではなかったのでそれほど大きくペースが乱れることなくレースは進みます。でもタイヤの温度は下がってしまうはずで、リアライズZは完全にタイヤの作動温度領域から外れて最後尾へ転落、13周目にタイヤ交換のためピットに入ることになりました。
 11周目・本日も代走のSTANLEY NSX-GT・木村 偉織が6位争いをしていたENEOS X PRIME GR Supra・大嶋 和也とS字の入口で接触してスピンさせてしまいました。砂場にハマったらさあ大変でしたが大嶋は舗装路の脇でクルンと回って復帰できたのでノーコーション。偉織選手にはGT500初ペナルティーが与えられました。
 GT300では15周目に元嶋がついに平良を捉えてリード チェンジ。ただウラカンはやや給油時間が長いので、ここで抜かれてもピット後どうなるかまだ分かりません、たぶん2輪交換でしょうけど。同じ周にはグリーンブレイブ・川合もLC500の根本を抜いて6位となりますが、ちょうどこの前の周に大きなタイヤ片が命中してボンネットが一部壊れており気になります。

 GT500・そろそろピット サイクルが近づいてきた23周目にとうとう坪井が粘る松下を攻略して2位に浮上、途中ちょっと道幅を残してもらえていない部分もあったので危なかったですが、この順位なら自力チャンピオンです。
変な方向に跳ねたら終わってたかも


 GT300は22周目にグリーンブレイブがピットに入ってお馴染みのタイヤ無交換。きちんと給油が終わってから壊れたボンネット部品を手で剥ぎ取って、ちょっとエンストもしかけたけど無事にピットを出ました。
 GT500もリーダーの千代が上位では先に25周目にピットへ、千代から高星へ交代。これを見てトムスも動き翌周に坪井からSF王者・宮田に交代しました。3位のアステモも同じ周に入って松下から塚越 広大へ。ピット作業時間ではトムスの方がNDDPより4秒ほど早かったものの、ミシュランの作動の早さの恩恵か高星は実質リーダーを維持。タイヤに熱が入ったころには宮田との差は約10秒になってピット前よりも開いていました。逆に塚越は翌周に入ったモチュールZにオーバーカットされてしまい実質4位へ一歩後退です。
 宮田はこのまま行けば勝たなくてもチャンピオンになれますので、敵は前よりも後ろにいるモチュール・松田 次生という状況。松田もチームメイトを援護するためにもちろん追いつきたいはずですが、こちらも12秒ほど離れているのですぐにどうこうなる話ではありません。auトムス・王手をかけました。

 GT500でこうした展開が繰り広げられる中、GT300もリーダーのJLOCと2位ムータが25周目に同時にピットへ、JLOCは後輪だけを交換して小暮 卓史へ、ムータはやっぱり無交換で堤へ繋ぎました。ここでムータはピット前に8秒ほどあったJLOCとの差を5秒以上詰めることに成功したんですが逆転はできず。さらに、コースに戻った堤の前方には彼らより4周前にピットに入って無交換で出たレオンAMG・篠原 拓郎がいて実質3位に後退していました。グリーンブレイブはこれに次ぐ実質4位、入賞すればチャンピオンなのでこちらも王手です。

 途中また雨が少し降りつつも大きな動きはないままレースは終盤へ、雨かSC待ちという感じでコースにとどまっていたARTA16号車が41周目にとうとうピットに入り給油だけでピットを出ましたが、そもそもペースが速くないので合流地点は8位。1位で戻れるのならまだしも、中団以降ならこの後SCが出た際に有利になるようにむしろタイヤを換えておいた方がよかった気がするし、給油のみなら上げない方が良いはずのジャッキをなぜ上げたのか、ちょっと作戦的にも疑問を感じました。
 
 44周目、RUNUP RIVAUX GT-RとModulo NSX-GTが絡んでクラッシュ。モデューロNSXが動けなくなってコース脇に車を止めてしまいFCYとなります。SC導入となったら大波乱でしたが幸い作業車両で牽引ができたので引っ張ってご退出いただき、46周目には解除されました。この件はモデューロNSX・太田 格之進に非があると判断されたためペナルティーが課せられたものの、リタイアしたので未消化となりました。
 
 GT500のトップ3はほぼ同じペースで推移していましたが、ここからやや3位の松田が無理にアクセルで車を曲げ始めたように見えたのでちょっと厳しいのかなと思っていたら、ピット後はあまり姿が映らなかった塚越が一気に追い上げ、53周目に松田を抜いて3位を取り返しました。そしてこれとほぼ同時にコース上にこれまでで最も強い雨が降り始めて大騒ぎ、こんなところで足を掬われたら悔やんでも悔やみきれません。しかも相変わらず局所的で、コースの北側は降ってるんだけど南側にはほとんど降っていない場所もあります。
 残りが7周あたりになると、もう普通にやってもこれ以上上げ余地のないチームがタイヤ交換を決断してピットに入りますが、GT500のトップ2はそんなことして安易に順位を手放せないので我慢比べ。そうは言っても路面温度が急激に下がるので、もし使っているタイヤの作動温度領域を外れたら、もしミシュランが低温で強かったら、なんてことを考えてモチュールZのタイム差も気になり始めた、その直後でした。

 もてぎ唯一とも言える高速コーナー・S字で高星がスピン、砂場にハマってしまいました。横からの映像しか無いので分かりにくいですが、1つ目の左に切り込んだ段階で後ろが流れてしまい、こうなるともう曲がらない止まらない、で堪えきれずに回ったように見えました。1位は分からないコース状況に最初に飛び込むから不利、なんて言われますがそれを地で行ったような幕切れでした。
 これでFCYとなって2分ほどの小休止、もちろん宮田も明日は我が身の状況ですが、もう二テラZが入賞圏に戻るのは絶望的なので最悪自分が同じ目に遭ってもおそらくチャンピオンは獲れます。FCY中にさらに雨が降っていたら、さすがにタイヤも冷え切ってトムスもタイヤを換えるしかなかったでしょうが、幸いFCY中に少し雨も弱まったので、タイヤを換えた人たちからすると追い上げる時間と、自分たちが有利になる時間帯を奪われた形。
 宮田は最後まで慎重に車を運んでそのままチェッカーを受け、GT500チャンピオンはau TOM'S GR Supra・宮田/坪井組となりました。坪井は2度目のGT500チャンピオン、宮田は初のチャンピオンでなおかつSFと2冠達成です。


 一方GT300の争いはJLOCウラカンが快走、ピット直後のタイヤが冷えている時間帯に篠原から攻勢を受けたのが唯一の危機という感じ。もうこのままでは優勝できないのでレース終盤にはムータレーシングの方がタイヤを換える賭けに出ました。入賞さえすれば良いグリーンブレイブは雨量が強くなってくるとより慎重な走りをしているようで、しかも無交換ってタイヤの厚みが減ってくるので冷えやすくなっていて危ないわけですが、

 同クラスの争い、だけならまだしもGT500に抜かれながら同クラスの周回遅れも植毛しながら、危ないから譲ったはずが目の前でミスられてぶつかりそうになったりしてめちゃくちゃ怖い時間を過ごしていました。私なら怖いからアクセル戻して5秒ぐらい離れつつ「とっとと先行ってくれ~」とか言いそうw
 結局、後半担当の吉田は7位でチェッカーを受けましたが入賞したのでこれでGT300のチャンピオンは埼玉トヨペット GB GR Supra GTの吉田/川合組となりました。両者とももちろん初のチャンピオンです。タイヤを換える賭けに出たムータレーシングは9位止まり、優勝は堅実に逃げ切った様子のJLOCウラカン。小暮さん、特に獲れ高になる珍事も起こっていないようで落ち着いた走りでした、過去何度か雨で異常に速かったんですが今日はそういう意味での珍事もなかったですね。気づいたらこの2人、2019年から組んで今年でもう5年目。新車のウラカンGT3 Evo2とともに待望のGT300初優勝でした。



 2位にレオンAMG、気づいたら3位には13位スタートだったDOBOT Audi R8が入っており、片山 義章/ロベルト メリー組は今季3度目の3位でドライバー選手権でも9位というなかなかの位置に来ました。aprがこれに次ぐ4位で今季最上位でした。メリーはこのままGTで頑張るのか、どっかヨーロッパで引き合いがあったらさっといなくなるのかどっちなんでしょうね。個人的には今年も走っていた時点でけっこうビックリだったんですが、慣れてきてかなり良い走りなので来年も見てみたいんですけど。

 
 いやあ、結果だけ見れば1位でこのレースに入った人がそのままチャンピオンなので数字通りですけど、下手したらゼロになりかねない状況が何度かあっただけに点数以上にハラハラするレースになりましたね、なんやねんあの天気w
 GT500では何度も書いているように宮田がスーパーフォーミュラと両方でチャンピオンになりました。過去にこの2カテゴリーで同年にチャンピオンを獲ったのは

1997年 ペドロ デ ラ ロサ
2003年 本山 哲
2004年 リチャード ライアン
2018年 山本 尚貴
2020年 山本 尚貴

 の4人/5回で、史上5人目の記録です。山本は完全にホンダ系のドライバーでGTでのタイトルはもちろんNSX、本山はもちろん日産バリバリのドライバーでR34型GT-R最終年のチャンピオンでした、よーく覚えてます。2004年のライアンもニスモのフェアレディZでGT500のタイトルを捕りましたが、彼はその2年前までは童夢にいて4年後にはセルモに移籍してますので、まさにプロとしてお声がかかったところで仕事をする、という感じでメーカー系というわけではありませんでした。
 デラロサはトムスのスープラでGT500を制したので唯一トヨタ車を使用しての2冠だったドライバーですが、彼も日本でF3に参戦した時に所属したのがトムスだったので自動車メーカーではなくチームとして契約したということだと思いますし、後年F1へ行くことからも分かる通り彼もプロとして経歴を積んでいく通過点であってトヨタのお抱えドライバーだったわけではありません。そういう点で今回が初めての『トヨタ系ドライバーによる2冠』ということになるかと思います。
 宮田については先月の段階でmotorsports.comは『来季の宮田莉朋はWECに参戦するためSUPER GTには出場しない見込み』と伝えており、これとは別記事で彼が今でもF1への思いを強く持っており、今年は平川 亮がマクラーレンのリザーブとして契約したことからトヨタ系ドライバーであってもF1への道筋がある中で今どう思っているのか、という記事もありました。
 一応規則的には今年申請するとスーパー ライセンス ポイントがF1に必要な40点に届くそうなので道が開けてはいるんですが、免許があっても椅子は無いのでいきなりF1ドライバーにはなれません。申請するための費用むっちゃ高いんですよ。一方で今ならその方向へと向かう話を進められる機会だというのも事実なので、オフの動きにも注目ですね。

 シーズンに話を戻すと、auトムスは最終的に第2戦、7戦、8戦と年間で3勝を挙げました。ハンデ制であるこのシリーズで3勝するのは難しく、GT500の年間3勝は2011年のMOTUL AUTECH GT-R 本山 哲/ブノワ トレルイエ以来。この年は1勝(ただし2位が4回もあった)のS Road MOLA GT-R 柳田 真孝/ロニー クインタレッリがチャンピオンを獲っているので本山/トレルイエ組は3勝してもチャンピオンは獲得できず、3勝してチャンピオンを獲得したのはさらに遡って2008年のXANAVI NISMO GT-R 本山/トレルイエ以来15年ぶりでした。
 雨で翻弄されまくった開幕戦でトムスはナットを締めずにピットを出るというNASCARプレーを披露して無得点に終わる最悪のスタートでしたが、すぐに2戦目で取り返して結局7戦で3勝と2位1回ですからいかに強かったか分かります。前半に坪井選手が我慢もしつつ順位を上げて、必要なら燃料やタイヤをたっぷり残し、作戦の幅を広げてあとは宮田君頼んだよ、そんなレースできっちり結果を残していた印象です。特にオートポリスでのトラック ポジション無視の逆張り均等割り戦略は会心でしたし、どちらのドライバーの技が欠けても成立しなかったでしょう。
 二テラZも抜群に速かったですし、このレースもほとんどできることを全部やり切っていたので、最後のスピンを大失敗と数えたところで相手がとにかく上だった、と思います。オートポリスが天下分け目の阿蘇山でした。

 一方GT300は、終わってみたらそのオートポリスで吉田選手が必死に抑え込んで勝ったことが大きかったですね。あの順位が逆で10点差でこのレースに入っていたら、予選を終えて9点差、なおかつムータレーシングがトップ走ってるぞとなったらグリーンブレイブは3位が必須、ムータが3位でも5位必須なのでかなり際どいところでした。こうなると雨が降った時に落ち着いてもいられませんし、集団でわけわからんことになっても「譲るから早くどっか行って~」なんて言っていられませんw
 12月には40歳になる吉田選手、20歳で運転免許を取得してからレース活動を開始してFJ1600やスーパー耐久等に出ており、GT300では2012年にあのサンダーアジア MT900Mのドライバーだったことに調べていて気付きました。初めてGT300にフル参戦したのが2015年なのでこの時既に31歳、グリーンブレイブには2019年から所属して今年39歳でチャンピオン、ありふれた表現ですが遅咲き、地道な経路での到達でした。
 SUGOでガス欠した時には何が起きたか分からず、駆動を切って空走させたらひょっとしたら抜かれずにゴールできたかもしれないのに・・・と自分の対処を悔やんでいたら相手の車検失格で優勝が返ってきたわけですが、ここ数年の走りは本当にGT500経験者のドライバーと比べてもGT300の場ではそん色ないように見えます。タイヤ無交換も多いチームなので中古タイヤで仕事を引きうけることも多いですが、潰しちゃった場面はあんまり記憶にないですね。

 一方の川合選手は13歳でカートを始めて、2016年からの4年間はFIA-F4に参戦。この頃はオートスポーツ誌でもFIA-F4の話題は頻繁に乗っていたのでよく名前を見ていましたが、年間最高順位は2019年の3位が最高でした。ちなみにこの期間のF4チャンピオンは順に、宮田、宮田、角田 祐毅、佐藤 蓮です。
 その後は昨年にスーパーフォーミュラライツにも参戦したとはいえ基本的にグリーンブレイブ所属でGTとスーパー耐久が主体ですが、いきなり2020年の開幕戦でGR Supra GT300のデビュー戦勝利に新人ながら貢献。F4の結果をそんなに真面目には覚えておらず「なんかシリーズで上位にいた人」ぐらいの記憶だった私は「グリーンブレイブえらい良いドライバー獲ったなあ」と思っていました。
 新人さんでタイヤ無交換をやるチームで前半を担当してちゃんとタイヤを残して帰ってくるんだから、もちろん車両特性とブリヂストンの魔法のタイヤの恩恵もありますがすごく落ち着いて堅実な選手ですね。なんとなく見た目も年齢以上にすごくおじs、ゲフンゲフン、落ち着いて見えます。

 GT500クラスはこのカテゴリーで長年戦うGT500特化職人とメーカー育成の若手がぶつかる舞台と言って良いと思いますが、GT300はメーカーの育成枠の若手と、残念ながらフォーミュラでは途中でステップアップする道が無くなった人や遅くからレースを始めた人、かつてはGT500で頂点を競い後ろから正面衝突されてたり、GT300で何度もチャンピオンを獲って50歳をゆうに超えた人からSIMレーサーまで色んな背景の選手がいるのが面白いところです。アールキューズの2人は61歳ですからね(;・∀・)
 国内カテゴリーで見た時に、スーパーフォーミュラやGT500で戦えるごく一握りの特別な存在を除く大多数の選手にとって、GT300ってスーパー耐久のその上、自分たちが頑張ったらひょっとすると手が届くかもしれないレースで最高峰、という位置づけだとその昔ジェントルマン選手だったかチームのオーナーさんだったかの発言を読んだことがあってなるほどなと思いましたが、今年のグリーンブレイブもまたチームも選手もそういう夢の舞台を追いかけてとうとう辿り着いたんだろうなと思うと感慨深いですね。


 強引に文章をまとめようとしておかしな文体になってる気がしますが、今年もいびつな日程の全8戦、例年通り予想したことがこれっぽっちも当たりもしないシリーズでございました。来年はGT500でシビック タイプ R GT500が登場しますが、車両規定に変更が加わって新しいモノコックが投入されるのは2025年からということでモノコック自体はNSXのガワをはぎ取って流用することになると思われます。だから展示車両になるとしたらNSX-GTのモノコックは展示用レプリカかテストで使用して用済みになった余りものになるのかな?
 GT300ではとりあえずフェラーリ296 GT3が来年どっかしらのチームによって持ち込まれるらしいぞ、という情報が数日前に上がっていますが、GT3とGTA車両の性能調整どうするか問題とか、結局マザーシャシーって新しい枠組み作るんですか問題とか、今年シーズン途中で車両の焼失により撤退した2チームの参戦枠に誰が新規で入ってくるんですか問題とか、気になる点はけっこう色々あります。

 最後に、個人的にJ SPORTSの中継にお願いしたいことが2つ。1つ目は、画面上部の順位表示の帯テロップでGT300の1位のところに300の周回数を書いていただけると状況が分かりやすくてありがたい。これはJスポではなくGTAの方のお仕事かもしれませんけど。
 そして2つ目、やっぱりレース戦略に長けた解説者の方をもう1名入れましょう、長距離レースで誰にどのぐらい燃料があってどういう作戦が可能・進行中なのか、とか放送席でもうちょっと把握できていないと、(自分で言うのもなんですが)オートスポーツを毎回読んで自分でもそこそこ調べて下地になる観戦知識がある私は状況に付いて行けてる方だと思いますが、そうでない方は全然付いて行けてないことがけっこうあると思います。よろしくお願いいたしますm(_ _)m

コメント

アールグレイ さんの投稿…
aprは4位ですが、結果的には金曽監督は正しい選択をしたかもしれませんね。
これで来年どうなってるかがある意味楽しみです。

「嵯峨の父親がトヨタの専務を務めてたから今まで長い期間シートがあった」の様な心無いネットの書き込みもありましたが、流石にコネだけで終わらないドライバーだとは思います。
300のチャンピオン争いに絡んでたシーズンもありますし、ドライバーズアピアランスのパフォーマンスも立場的に最近は大人しい事が多いので、もう一度そういうことも出来るようになるほどの復活を願っています。

チームルマンもドライバーが本山のゴタゴタでメリーになってからGT300での成績が上昇した感じがありますし(こっちもこっちで片山義章の父親が岡山国際サーキットの社長だからと言われていますが、実力さえあればそんなのはどうでもいいと私は思います)、aprの若手二人も嵯峨の出番を減らすまでの結果は残せていると思うと、ドライバーの変更は大きいと感じさせられますね。
SCfromLA さんの投稿…
>アールグレイさん

 もてぎに関しては元々aprのハイブリッド車と相性が良い上に、ストップ&ゴーで高速コーナーが皆無なので『昭和の運転』でも極端にデメリットが無いと思われるので、実際問題嵯峨選手だったらもっと下だったかというとそうでもない可能性もあるんですけど、めぐり合わせとか諸々彼にとっては不利な結果が出てしまいましたね。
 片山選手に関してはそもそもレースを始めたのが遅い、吉田選手と同じような経路のドライバーのようですし、そもそもGT300ってジェントルマンやオーナードライバーでも参加するカテゴリーですから極端な話大金持ちの息子が道楽で参加して父親が監督だったとしても別にそういうものなので私にはそれを批判する意味が分からないですね(明らかにレースの進行に支障をきたす、本来であれば資格が与えられるべきでない選手が運営会社側との私的関係によって参加できている疑いが強い、とかなら話は別ですが)。
 突然いなくなっちゃいましたけど本山選手も在籍中は色々指導していたでしょうし、帝王最後のレースになった去年の開幕戦の段階で片山選手はそこそこ速くなっていたと思うので、これもまためぐり合わせとか色々絡んでる気はしますね~。調べたら片山とメリーはオーストラリアのレースで知り合って彼が自分で声をかけたらしいので意外と人間関係的に相性が良いのかもしれませんし。