F1 第15戦 シンガポール

FORMULA 1 SINGAPORE AIRLINES SINGAPORE GRAND PRIX 2023
Marina Bay Street Cuircuit 4.94km×62Laps=306.143km
winner:Carlos Sainz(Scuderia Ferrari/Ferrari SF-23)


 まだまだ暑い、というか何なら8月の終わりごろより暑い気すらする今日この頃ですが、F1の第15戦は蒸し暑そうなシンガポールです。お馴染みのマリーナ ベイ ストリート サーキットですが今年は1年限定でコースの一部が変更。ターン15の先でコの字に曲がってトンネルの下を通ったりしていた連続90度ターンの区間が新しいイベント会場建設のため今年は使えず、これを避けるためにコの字部分が丸々無くなりました。だいぶブレーキもタイヤも楽になり、何より平均速度が上がってレースが早く終わるので取材が楽になりますw

・レース前の話題

 レッド ブル レーシングの顧問であるヘルムート マルコが前戦イタリアのレース翌日にオーストリアのテレビ局のインタビューでセルヒオ ぺレスについて

「チェコにとって良い週末だった。彼が予選で問題を抱えていることは分かっている。彼は時々調子が崩れることがあるんだよ、南米人だからね。マックスやセバスチャンのような集中力があるわけではない。」
「しかし彼は良いレースをすることがしばしばあり、モンツァでのレースは間違いなく良かった。3人のドライバーを追い抜かなければならなかったが、すべてうまくやってのけた。去年のシンガポールで優勝しているから、今年に関しても期待できるだろう。」

 と、なんかいい感じに激励しているように見えつつ、よく考えたら『南米人はヨーロッパ人と違って集中力がない』という文脈の発言をしました。そもそもメキシコは南米ではないので色々でたらめすぎるわけですが、出自や国籍といったものと個人の能力を結びつけるような考え方は差別的思想に繋がるため御法度です。
 当然ながら批判殺到、レースでは勝てないライバル勢の首脳はこういう機会にせっかくだから批判しておきたいですが、レッドブルの代表・クリスチャン ホーナーもさすがに擁護のしようがなく批判。マルコは謝罪に追い込まれ、ペレス本人にも直接謝罪しました。ペレス自身は、内心どう思っているかは別にして「気にしていない」ということですが、ペレスがよくても対象地域に生まれ暮らす全ての方々に対する侮辱ですから、本質としてはペレスに謝罪すれば良い問題ではありません。
 ちなみにホーナーはこの件に関しての発言で「人生では常に学ぶことがあるものだと思う。たとえ80歳であってもね」とマルコは学習したとし、レッドブルのチームとして特に声明を出さなかったことについては「彼はレッドブル グループの一員だがレッドブルレーシングの従業員ではない」ことが理由だとしました。なんか「既に議員辞職したから」「離党したから」という理由で説明しない政治家と言ってることが似てる気がするのは私だけでしょうか。40過ぎて差別をまき散らす議員を「まだ若いんだから」と擁護した人もいましたねえ・・・

・予選

 Q1最後のアタック、ランス ストロールが最終コーナーで大クラッシュ。強固なはずのティザーが千切れて左前輪が吹っ飛び、ランド ノリスは跳ね返ってきたストロール車に一歩間違えたら直撃するところでした。この後予選を見ていて感じましたが、ノリスはなぜか最終コーナーでコース幅を外まで目いっぱい使わず内回りするラインを使いがちだったので、これが幸いして内側に避けられたように見えました。もし普通のライン取りだったら本当にぶつかっていたかもしれません。

 さらに波乱は続き、レッド ブルは練習走行からなんだか不調でこれがマックス フェルスタッペンの戦い方にモロに影響。Q1ではピット出口で混雑回避のために完全に停止して待ってたので妨害の嫌疑をかけられ、Q2でも角田 裕毅の邪魔になってこれまた嫌疑をかけられました。そして全然フロントのグリップが得られていないような動きでまさかの11位、ぺレスも同じくスピンして13位で2台揃ってQ2で脱落しました。
 角田は1回目のアタックは上記の通り邪魔されたので途中でやめてしまい、気合を入れて臨んだ2回目は失敗。たまたまタイミングの具合があったとはいえQ1では最速だったのに、Q2はタイム無しで脱落しました。そしてこの混乱でリアム ローソンが10位に滑り込んで初のQ3進出です、ということは普通に行ってたら角田はじゅうぶん通ってましたね。

 というわけでレッドブル不在で面白くなった(?)Q3、レッドブルとは逆に練習から好調のフェラーリが引っ張り、カルロス サインツが2戦連続のピレリ ポール ポジションを獲得。ジョージ ラッセルがフェラーリの間に割って入りシャルル ルクレールが3位。Q1で危うく大怪我しかけたノリスが4位、ルイス ハミルトン、ケビン マグヌッセンが続きます。


 フェルスタッペンはさらに降格が待っていると思ったら処分無し。角田への妨害については処分の参考とするために双方からの聞き取りが行われるはずでしたが、アルファタウリ側からは担当者が参加しなかったとのこと。フェルスタッペンを降格させたところで角田の順位は戻らないしレッドブルが損するだけなのであえてそうしたのではないかと考えられますが、レッドブルという全体組織としてはそうでも角田というドライバー個人とするとちょっと面白くないでしょうね。でもそれも口に出せない^^;


・決勝

 ストロールは念のため欠場で19台の決勝。タイヤは多くがミディアムを選択しますが、ルクレールはソフトを選んでサインツと作戦を分割、レッドブルはどうせ前に詰まるので2台ともハード。角田は荒れるレースを想定したか後方なのにあえてソフト選択。これってスタート直後にレッドブルと争うことになるのでは・・・
 スタートで狙い通りルクレールはラッセルの前に出てフェラーリは順位を固め、さらにハミルトンが好スタートでラッセルを外から狙おうとしましたが接触回避でコース外へ。どさくさに紛れてそのまま3位に居座りかけましたが2周目にラッセルに順位を返しました。ただ5位のノリスは「自分にも順位を返すべきだ」と不満を持っており、できたら無視したかったメルセデスですが審議にかけられそうだったので少し時間をおいてから返還しました。ノリスはこの間にラッセルから2秒も離されてしまいそこそこ損しました。

 位置的に斜め後ろからラッセルに並ぼうとしたハミルトン、本来なら引くべき位置にいたのに開き直ってちょうどこのぐらいの位置から完全にアクセルを踏んで自分から"危険回避"でコース外へ進みました。引いていたらノリスと横並び、ターン3で内側を取られてその先のターン5が内外が逆だからどうなったかな~、という感じだと思います。いらんことしてハミルトンも結局損しましたね。

 レッドブル2台はというと嫌な予感が半分当たり、1周目に角田とペレスがターン5で接触。国際映像があんまり取り上げてくれなかったので接触前の流れがあまりよく分かりませんでしたが、ソフトを活かして角田が前に出ていて、なおかつ内側を警戒してある程度閉めていたのにペレスが無理したのか止まれなかったのか内側に入ってしまって接触したようです。角田は1周も完了できずリタイア、ペレスはウイングの左側の翼端板が無くなりました。一方フェルスタッペンの方はじわじわと順位を上げています。

 ソフトを履いたルクレールですがサインツから1秒差で追走。ただタイヤの摩耗を考えるとそんなに近づいてはいけないのでエンジニアから3秒離れるように言われます。いきなりそんなには離れられないし、後ろにラッセルもいるのでルクレールはちょっとずーつ離れますが、ちょっとずつ離れているとまたエンジニアから3秒だと指摘が来ます。まさに板挟み。

 完全に1ストップ狙いでサインツがペースを抑えているので全体が膠着。フェルスタッペンも8位になったところでエステバン オコンを抜けそうもないので2秒差で待機モードに入り、ここからはいつも通りのシンガポール耐久レースに入りました。グランツーリスモでオンライン対戦やってても、誰かが明らかにタイヤの消耗管理に入って「あ、マネージメントやって誰かわざと遅く走ってるな」と感じる時はありますね。私はパッドだし腕も無いのでどうしても途中で脱落するわけですが^^;
 そんな中19周目、ローガン サージェントが単独で壁に刺さってウイングを壊し、壊したウイングを車に引っ掛けたままライン上を走ってピットへ自走。やたら破片を撒いていき、お客さん待望のSC導入です。しかし破片を撒きすぎなのでせめてあと15秒早く出してくれw

 これで上位勢は一斉にピットへ、こっそりルクレールは前と距離を開けてフェラーリは同時ストップの時間を稼ぎましたが、結局後ろの車との交錯を避けて待つ必要が生じ、ラッセルとノリスに抜かれてしまいました。チーム自身が自分たちの力を信用していないのかもしれませんが、サインツとの距離も余裕をあまりにもたせすぎてましたね^^;


 そしてハードでスタートした人はここでタイヤを換えても最後まで走りきれないのでステイ アウト。つまりフェルスタッペンとペレスはピットに入らず、フェルスタッペンのリスタート順位はサインツの後ろの2位となりました。ペレスはできればウイング交換したいはずなんですけど、まあ自分で失敗して壊したんだからしょうがない。

 シンガポールあるあるで、SCがこの周に退出だと発表されながらまだコース上に回収し損ねてる破片がありましたが23周目にリスタート、いつもの超速レッドブルなら中古タイヤでも速いですが今日はそうではないのでここからは後続のカモになってしまいます。
 ここから先はシンガポール耐久レースふたたび。サインツは抜かれない範囲でペースを抑えて後続を引き付けており、一方で追いかける方もハードは寿命が長いのでさっきほど車間距離を気にする必要なし。あまり距離を開けず1秒前後の間隔で付いていきます。サインツ、ラッセル、ノリス、ハミルトン、ルクレールが等間隔。
 サインツは「飛ばしていいタイミングを教えてくれ。1秒は速く走れるから」と余裕を持っていることを伝えますが、この無線を伝え聞いたラッセルは「2秒って言うと思ったよ、ビックリだな」。暗に「なーんだ、あいつはそんな程度しか余力ねえのか、俺もっと速いぜ」と言ってるわけですね。
 
 39周目、カモのペレスがとうとうピットへ。どうやっても最下位になるので壊れたウイングも換えたら良いと思ったんですけどそのまま出ていきました。どうせ最下位だから部品代勿体なかったのかな?翌周にフェルスタッペンも入りました。レッドブル、今日はほぼ詰み。

 43周目、ラッセルに対していよいよサインツを攻めるように指示が出ますが、ほどなく本日誕生日のオコンに車の故障という全然いらないプレゼント到着。ターン1内側に車を止めてしまいました。これでVSCとなります、誕生日おめでとう。
 大半のチームは決勝のタイヤとしてミディアムとハードを各1セットしか持っておらず、ここでピットに入ってもソフトしか在庫がありません。サインツ、ノリス、ルクレールは在庫が無いのでステイアウトしますが、メルセデスはこんな時のためにミディアムを2セット持っていました。待ってましたとばかりにラッセル、ハミルトンの2人はピットへ。45周目の後半でVSCが解除されてラッセルはルクレールから13.5秒遅れという位置関係です。
 普通にピットに入るとロスが25秒もあるシンガポール、VSC下でピットに入ってもなお15秒ロスなのであと17周で取り返せるか、追いつくのは良いけど追い抜けるのか、ちょっと面白くなってきました。

 53周目、8周で追いついたラッセルがルクレールをできるだけ手早く抜いて3位、ハミルトンも翌周に続いてかわしました。もうルクレールは完全にフェラーリの捨て駒になってしまいます。ラッセルはここからノリスまで約5.6秒。

 ノリスの方は追われつつもサインツを狙う立場にいるわけですが、いよいよレースの終わりが見えてきたのでサインツとの距離を詰め、残りが5周となるとサインツからハミルトンまで4台が完全に1つの集団になりました。なおルクレールはタイヤが終わって15秒以上後方に消えました(っ ◠‿:;...,
 サインツは「フロント タイヤが終わった」と自分から弱点を暴露してしまいますが、追いかけたいノリスはラッセルの攻撃に晒されます。ノリスはラッセルへの防御でサインツから離された、と思ったらそれでもすぐ追いつきDRS圏を維持。ラッセルの後ろではハミルトンがずっとちょろちょろしており、抜けるわけがないし抜きにいっちゃいけないんですが、絶対ラッセルは口には出さないけど「ルイスうぜえ」と思っているはずです。

 そしていよいよ最終周、抜きどころはほぼ無いんだけど少しでも何か起きれば大波乱なので一瞬も気が抜けないてんk、あ!ノリス今壁にあt




 ???ラッセル!?!?!?

 見ている時の私の脳内、こんな感じでした。ノリスの後方車載映像で、ターン10入り口のちょびっと出っ張った壁にノリスがぶつけたように見えたんですが、後ろにいたラッセルがぶつけていて、サスペンションが折れてそのまま真っ直ぐバリアにぐさり。シンガポール2時間耐久レース、最後の最後に我慢比べで負けたのはラッセルでした。
 レースはそのままサインツが制し昨年のイギリス以来約1年2か月ぶりの通算2勝目を挙げレッドブルとフェルスタッペンの連勝記録はとうとう止まりました。ノリスは一歩届かず2位、そしてごっつぁんでハミルトンが3位。ルクレールが4位、ルクレールの真後ろまで追いつきましたがフェルスタッペンが5位となりました。ペレスは8位止まり、そしてローソンが9位で、アルファタウリはこれが今季最上位です。


 レース後に分かったことですが、サインツはノリスとの差が開いた際にあえてすこーしペースを落としてノリスをDRS圏に引き戻していたとのこと。単独で勝負したらノリスはラッセルに抜かれてしまい、そうすると自分がラッセルとサシの勝負になって抜かれる危険性があるので、それなら下手に逃げるよりDRSトレインで誰も抜けないよう仕向ける頭脳的戦略でした。
 そして、中継映像でノリスが壁にぶつかったと思ったのは勘違いではなく、ノリスとラッセルが連続して当たっていました。ドライバーって前の車の姿をやはり無意識に追ってしまうところがあるので、ノリスが通常より数cm壁に寄ってしまった姿につられてラッセルも無意識に右に僅かにズレて当ててしまったんじゃないか、と素人ながら思いました。オランダではチームのタイヤ選択が大失敗し「俺たち表彰台を争うはずたったよな?」と無線で愚痴っていましたが、今日は完全に自分の失敗で表彰台を失ったのでかなり落ち込んでいた模様。でも大丈夫、80歳でも学ぶことがあるなら25歳なんてすべてが学びです。
 
 長らくF1ファンのテーマであった『誰がいつレッドブルを止めるのか』。止めたのはフェラーリのサインツでしたが、どちらかというと止めた主役はシンガポールの路面という印象で思い描いたような刺激的な内容ではなく「いやいや、今日はもうね、見ての通りね。予選というか、来た時からもうちょっと厳しかったですね。どうやってもタイム出んかったからね、おーん。まあ、ずっと勝てるわけちゃうから、そらいつかは負けるよ。今日はもうええやろ、フェラーリ取材したって(笑)」みたいな感じ、まあ負けるわな、そらそうよ、というあっさりした結末でした。
 ちょうどこのレースを前に、走行中にたわむウイング、いわゆるフレキシブル ウイングについて取り締まりを強化する技術指令が発行されたので、レッドブルの低迷と関係あるのではないか、むしろいきなりこんなに遅くなったんだからインチキした証拠だろ、と思う方もいると思いますが、元々ここはけっこう特殊なコースであの常勝時代のメルセデスですらなぜか急に遅かったりしたセッティング泣かせといえるコースです。
 低速で90度コーナーばかり、しかも路面の凹凸がわりと大きくて車高をある程度妥協して上げないといけないコースなので、空力効率の優秀さでシーズンを席巻している車はむしろここに来ると床下からのダウンフォースが得られず、それをどう補うかで迷走してしまいます。今回のレッドブルはまさにそれだったという指摘があるので、この1戦だけで評価はできませんね。

 次戦は一転して空力効率が何より重要な鈴鹿サーキットで開催される日本GP、ここでもなんか妙に遅かった場合には、フレキシブルウイングの規制はそこそこ痛手になっていたという解説に信ぴょう性が出てくるでしょう。ここ2戦で実質コーナー4つぐらいしかレースできていない角田ですが、車はアップデートでなんとか戦えるようになってきたみたいですし、ファンが期待するのはアレでしょう。悔いのないレースで、全員でW(笑)おう!!

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